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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 日米のTVドラマを用いた表情識別実験(An Experimental Study on Cognitive Mechanisms of Emotional Expressions in Japanese and Western TV Dramas) 著者 Author(s) 米谷, / 瀧上, 凱令 掲載誌・巻号・ページ Citation 国際文化学研究 : 神戸大学国際文化学部紀要,3:29*-54* 刊行日 Issue date 1994-11 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/81001150 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81001150 PDF issue: 2021-06-22

Kobe University Repository : Kernel29 日米のTVド ラマを用いた表情識別実験 米谷 淳・瀧上凱令 序 外国人、とくに、欧米人が演じるTVド ラマは現代日本人の異文化体験の中

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  • Kobe University Repository : Kernel

    タイトルTit le

    日米のTVドラマを用いた表情識別実験(An Experimental Study onCognit ive Mechanisms of Emotional Expressions in Japanese andWestern TV Dramas)

    著者Author(s) 米谷, 淳 / 瀧上, 凱令

    掲載誌・巻号・ページCitat ion 国際文化学研究 : 神戸大学国際文化学部紀要,3:29*-54*

    刊行日Issue date 1994-11

    資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

    版区分Resource Version publisher

    権利Rights

    DOI

    JaLCDOI 10.24546/81001150

    URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81001150

    PDF issue: 2021-06-22

  • 29

    日米のTVド ラマを用いた表情識別実験

    米谷 淳 ・瀧上凱令

    外 国人 、 と くに、 欧 米 人が 演 じるTVド ラ マ は現 代 日本 人 の異 文 化 体 験 の 中

    で も最 もあ りふ れ た もの の ひ とつ とい え る だ ろ う。 日本 人 は子 供 の 頃 か ら彼 ら

    の大 げ さであ け っぴ ろ げ な 身ぶ りや しぐ さに な れ親 しみ 、 い つ の 間 に か彼 らの

    示す 喜 怒 哀 楽 を理解 し、登 場 人 物 に感情 移入 して ドラマ を楽 しむ よ うに な る。

    しか しなが ら、大 人 に な る とあ ま り感情 を表 に出 さず 、 困惑 や悲 痛 を微 笑 で ご

    ま かす 日本 人 の行 動 は 、 ラ フ カ デ ィオ ・ハ ー ン(小 泉 八 雲1977)が 「日本 人

    の微 笑 」 と して論 考 した 明治 時 代 か ら一 世紀 隔 て た今 日で も相変 わ らず 日本 人

    の大 人 の処 世 と して存 続 してい る。

    感 情 、 なか で も、喜 怒 哀 楽 と も呼 ば れ る激 しい 感 情 で あ る情 動 は全 身 に表 出

    され るが 、顔 にあ らわ に さ れた 情動 を こ こで は特 に表 情 と して扱 う。1970年 代

    前 後 に な され たEkman&Friesen(1971)な どの交 差 文 化 的 研 究 に よ り、 表 情

    の表 出 と認 知 にお け る文 化 的 普 遍性 が 明 らか に な っ た。す な わ ち、幸 福 、驚 き、

    恐 怖 、怒 り、 嫌悪 、悲 しみ の6種 の基 本 感 情 の表 出 には 文化 を こ え た共 通 性 が

    あ り、 ま た、 どの文 化 の人 々 も、 だ い た い にお い て6つ の表 情 を対 応 す る基 本

    感 情 の表 出 と して認 識 で きる こ とが確 か め られ た。 しか しな が ら、彼 らが 述 べ

    てい る よ うに 、表 情 が 表 出 され る状 況 や 、人 前 で の 表 出様 式 彼 らは これ を 「表

    示 規 則 」 と呼 ん で い る一 に は文 化差 が み られ る(Ekman&Friesen1975)。

    ハ ー ン に よ れ ば、 「日本 人 の微 笑 」 は西 洋 人 の謎 で あ り、 西 洋 人 が謹 ん で 哀

    悼 を述 べ た い と きや本 気 で 叱 責 して い る と きに示 され る の で 、西 洋 人 には 非常

    識 で あ り非礼 な行 為 と さえ受 け とめ られ る とい う。 しか しな が ら、ハ ー ンが 理

    解 し、 そ の後 、 柳 田 国 男(1979)や 梅 原 猛(1972)も 論 じて い る よ う に、 「日

    本 人 の微 笑」 とは決 して幸福 や 満足 の表 情 で は な く、 また 、相 手 に対 す る嘲 り

  • 30

    や 侮 蔑 と して の 「ワ ラ ヒ」(柳 田)で もない 。 そ れ は、 自己 の 心 痛 をあ らわ に

    す る こ とに よ り相手 に不 快 感 を与 え る こ とを気 遣 う 「礼 儀 正 しい 」日本 人 の 「身

    の さば きの 一 つ」、 「世 に処 す る 定 め」(ハ ー ン)で あ り、 また 、 け なげ さや い

    とお しさ を もか も しだ して 自分 を責 め る者 の 攻撃 を緩 和 ・抑 制 し、他 者 か ら援

    助 や庇 護 を得 よ う とす る 「弱 者 の 自己 防衛 の 武 器」(梅 原)で あ り、 さ ら に、

    「エ ミ」 をつ くる こ と に よ りわず か な りと も苦悩 を低 減 し、体 を積 極 的 に働 か

    ゆせ よ う とす る生 活 の 知恵(柳 田)な ど と解 釈 され るべ き もの であ ろ う。 そ れ

    故 、 西 洋 人が 「日本 人 の微 笑 」 と よん だ もの は実 は 日本 人 が通 常 、 人 前 で あ ら

    わ にす る普 通 の 「悲 しみ」 の表 情 に他 な らな い とい え るの で は なか ろ うか 。 悲

    しい と き に 「悲 しみ」 の 表情 をす る西 洋 人 と、 「エ ミ」 を浮 か べ る 日本 人 の違

    い はEkman&Friesenに す れ ば表 示 規 則 の違 い とい う こ とに な ろ う。 もっ と

    も、西 洋 人 にお い て も、 悲 しい 場 面 で 、人 前 で 典 型 的 な悲 しみ の表 情 をみせ る

    か とい うとそ うで もな い。 彼 らに よれ ば、 米 国 には 米 国 の悲 しみ につ い て の表

     

    示 規 則 が あ る とい う 。

    この よ うな 日本 人 と欧 米 人 の感 情 表 現 の 違 い はTVド ラマ や 映 画 の深 刻 な場

    面 にお いて も意 識 さ れ る。欧米 の ドラマ で は役 者 は 困 っ た と き、悲 しい と き に、

    肩 をす くませ 、手 を広 げ 、 眉 を よせ 、上 瞼 の 内側 に嫉 をつ くって 、相 手 に 自分

    の気 持 ちが よ く伝 わ る よ うに 、顔 と体 を さ らす。 こ れ に対 して 、伝 統 的 な 日本

    の ドラマ で は 、悲 しい 場 面 で も悲 しみ をあ ま り表 さず 、 こ らえ きれ ない 場 合 は

    顔 全体 あ る い は 口 を手 な どで覆 い、 場 合 に よっ て は、 相手 に背 を向 けて 体 全体

    を隠 し、微 妙 に肩 をふ る わせ 、 頭 を下 げ る な ど してそ れ とな く泣 い てい る様 子

    を伝 え る よう にす る 。 い わ ゆ る 「お 涙頂 戴 物 」 と呼 ば れ る よ うな 日本 的 な ドラ

    マ で は 、 あ け っ ぴろ げ に悲 しい 表 情 を相 手 にみ せ る よ うな こ とは ない 。 また 、

    悲 しみ の場 面 の 用 い られ方 や 、 悲 しみ の理 由 な ど につ い て も相 違 が み られ る。

    この よう な悲 しみ の表 情 の 相 違 は 、欧 米 人 と 日本 人 の両 者 に、 相互 理 解 の上

    で の対 立 を生 む 。 しば しば、 日本 人 は欧 米 人 の感1青表 現 は 「オ ー バ ー」 で あ る

    とい い、 欧 米 人 は 日本 人 を 「ポ ー カ ー フ ェ イス」 と評 す る。 これ は まさ に評 価

    が相 対 的 な もの で あ り、Broznahan(1990)の い う 「相 互性 の 原 則」 が 成 り立

    つ こ と を物 語 っ て い る。 確 か に 、 しば ら く前 か ら 日本 人 も表 情豊 か に な っ た と

  • 31

    ゆいう説 もある 。それでも、今でも日本人が欧米人をしぐさで表すときには欧

    米のTVド ラマにみ られるようなオーバーな感情表現がよく使われる。しか し、

    西洋人の悲しみの表現が日本人にとって不可解な感晴表現であるかというとそ

    うでもない。 日本と欧米のTVド ラマにおいて大 きく異なる感情表現を、日本

    人は、どちらも悲 しみの表現 として理解する。また、日本人は実際の対面場面

    でもそれほど違和感 なく欧米人の表情をうけとめており、西洋人の 「オーバー」

    な悲しみは日本人は謎 とは感 じない。このように、表情理解という点において

    は相互性の原則はあてはまらないように思われる。

    多分これは映画やTVな どのメディアの影響によるものであろう。日本人は

    TVや 映画による幼少期からの異文化体験を通 して、欧米人の感情表出の仕方

    を自然に理解できるようになっているのではないだろうか。異なる悲しみの表

    現を悲 しみの感情表出と認識するためには、表出者が日本人か欧米人かにより、

    別な対応表による表情のカテゴリー判断をしているはずである。この対応表は、

    言い換えれば、表情識別の基盤となる、ものをみる構えである。日本人はメディ

    アによる観察学習により、日本人とは異なる欧米人の表情識別についての見方

    の構え、つまり、異文化理解フィルター、あるいは文化的フィルターとでも呼

    べるようなものを獲得、形成 しているのかもしれない。

    日本人の表情識別を規定する文化的フィルターの検討をする手始めに表情識

    別実験を行った。日米のTVド ラマ(映 画を含む)の 中にみられる感情が表出

    されているとみなされるシーンを日本の大学生に呈示し、それを評価 させ、得

    られたデータを多変量解析して、表情識別の際の認知構造を推測し、それに基

    づいて、TVド ラマが日本のものと欧米のものとでどのような違いがみられる

    かを調べてみた。本稿はその報告である。

    なお、ここで報告する実験は厳密な比較実験 とはなっておらず、予備実験的

    な意味あいの強い実験 といえる。それはコンピュータで合成した表情の評価作

    業の一環 として、映画やTVド ラマから切 り取 られた動的な表情刺激に対する

    日本人大学生の認知特性を調べ る目的で別個 になされた2つ の実験〔4〕か らな

    り、使用 した表情刺激の種類や強度、評定尺度の数には違いがある。それ故、

    それぞれの実験データの主成分分析により試験的に図示された表情認知カテゴ

  • 32

    リー間 の相 互 関係 を比 較 し、 日本 と欧米 のTVド ラマ をみ る際 の認 知 構 造 上 の

    差 異 を論 ず る こ とにす る。 表 情 につ い て の 認 知 モ デ ル の分 析 は、Schlosbergの

    表 情認 知 モ デ ル を も とに進 め る。 実 験 報 告 に はい る 前 に 、 い ま少 し、 そ の 表情

    認 知 モ デ ル と、 コ ン ピ ュー タの合 成 表 情 を用 い た表情 認 識 実 験 か ら得 られ た 日

    本 人 の 表情 認 知 モ デル につ い て説 明す る。

    Schlosbergの 表 情 認 知 モ デ ル とMASCに よ る表 情研 究

    心理 学 にお け る表 情認 識 に 関す る代 表 的 な研 究 と して真 っ先 にあ げ られ る も

    の は1950年 前 後 に な され たSchlosberg(1941,1952,1954)の 一 連 の実 験 的研

    究 で あ ろ う。 彼 は 表 情 判 別 に 関 す るWoodwQrth(1938)の 直 線 的 モ デ ル を改

    良 し、環状 モ デ ル を構 築 した 。そ の モ デ ル に よれ ば、幸 福 、驚 き、恐 怖 、嫌 悪 、

    軽 蔑 の 表 情 の 認 知 カ テ ゴ リー は 「快 一 不 快 」 をX軸 、 「注 意一 拒 否 」 をY軸 と

    す る2次 元 平 面 上 に環状 をなす よ う に配 置 され る 関係 に あ り、 近 い もの ほ ど混

    同 され やす い 。 彼 の モ デ ル は最 終 的 に は、 これ に 「覚 醒 」 の軸 を追 加 した3次

    元 モ デ ル と なる が 、2次 元 モ デ ルの 有 効性 は 多変 量 解 析 な ど を用 い た そ の後 の

    表 情 研 究 で 検証 され て い る(例 え ばAbelson&Sermat,1962)。 一ノ

    と こ ろで 、Schlosbergが 実 験 に用 い た 刺 激 はFrois-Wittmannpicturesと 呼

    ば れ る 顔 写 真 の セ ッ ト で あ り、 表 情 表 出 の 訓 練 を 受 け た 欧 米 人

    (Frois-Wittmann)の 表 情 を撮 影 した も ので あ る 。 従 って 、Schlosbergの 環 状

    モ デ ルが 日本 人 が 日本 人 の表 情 をみ る と きの表 情 認 知 に もあ て は まる とは い え

    くらコ

    な い 。 それ ど こ ろか 、Schlosbergの 実験 を他 の 複 数 の モ デル の妥 当 な表 情 写

    真 を用 いて 何 度 も追 試 す る こ とな しに、Schlosbergの 環状 モ デ ル を 欧米 人が 欧

    米 人 の 表 情 を認 知 す る際 の認 知様 式 と して受 け入 れ る こ と はで きな い。

    Schlosbergの 知 見 を一 般 化 す る た め に は 、FAST(Eknam&Friesen1971)

    の よ う に 個 々 の 顔 面 筋 の 動 き を 写 真 に よ り 視 覚 的 に 定 義 し た 上 で 、

    Frois-Wittmann以 外 の モ デ ル に 同様 な表 情 表 出 を させ て撮 影 した顔 写 真 を用

    い て追 試 ・検 証 しな け れ ば な らな い だ ろ う。 しか し、 た とえFASTに よる 基

    本 表 情 の視 覚 的 ・写 真 的 定 義 を用 い た と して も、 複 数 の モ デ ル か ら同様 の表 情

  • 33

    写真を得ることは容易ではない。とりわけ、表情についての専門的知識や演技

    の指導や訓練を受けたことのない素人のモデルに正 しい表情 をつ くらせること

    は不可能に近い。鏡を見ずに感情移入により顔で特定の感情表出をさせようと

    すれば、顔面の左右のバランスが著しく崩れ、余計な表情筋の動 きが混入し、

    必要な表情筋を十分に変化させることもで きない。このような理由で、複数の

    モデルの表情写真を用いてSchlosbergの 環状モデルの追試をし、日本人の認

    知モデルを精密に検討するにはコンピュータや画像合成技術の飛躍的な進歩を

    待つしかなかった⑦。

    MASC(原 島1992)は それを可能にしたひとつのシステムである。それは、

    心理学のための顔面像処理システム(FIPS)(Yamadaetal .1992)の 下位シス

    テムのひとつであ り、コンピュータ ・グラフィック技法を利用 した表情の合成

    と分析 ・計測のためのシステムである。米谷ら(1991)は 日本人のモデルに

    FACS(Ekman&Friesen1978)に ならって正 しく顔面筋を緊張 ・弛緩 させて

    撮影 した顔写真をもとにMASCを 使用 して6つ の基本表情を合成 し、それら

    を日本人の大学生に呈示して評価 させた(表1)。 その結果を演劇訓練生の表

    情(静 止画像)や 一般の大学生の表情(動 画像)を 用いた実験の結果と比較 し

    たところ、表情の妥当性が確かめられた。また、悲しみの表情は合成画像の方

    が的中率が高かった。

    ここで、表情認知を的中率だけをもとに分析することの問題点を指摘 してお

    く。表情認識訓練を受けていない者に表情識別をさせると、的中率が8割 をこ

    えることはあまりなく、恐れなどは2割 前後である(米 谷ら1991;米谷 ら1994)。

    従って、合成 した表情の妥当性を評価する際には、他にどのような表情 とどの

    程度混同されたかを調べ、人間が自発的あるいは感情移入により表出した表情

    を用いた他の識別実験の結果における混同の傾向と対照することになる。こう

    した作業において多変量解析により認知カテゴリーや個々の刺激に対する認知

    の相対的位置を図示することは役立つ。また、これは実験に際 して被験者が使

    用 していた表情の認知メカニズムを理解する上で大いに参考になる。

    図1はMASCで 合成 した表情写真 を大学生にみせて評価 させた識別実験の

    データ(米 谷ら1991)を 主成分分析 した結果である。これは、横軸に第1因 子

  • 34

    (第1解)、 縦 軸 に第3因 子(第3解)を と って 、 各 変 数 を プ ロ ッ ト した もの

    で あ る。 な お、 縦 軸 の 方 向 はSchlosbergの 表 情 認 知 モ デ ル と対 照 す る ため に

    逆 に してあ る。 図1が 示 す よ うに、 日本 の 大 学生 が厳 密 に統 制 した 表情 刺 激 を

    評 価 す る際 に用 い た と推 測 され る表 情 認 知 カ テ ゴ リーが 幸福 、 驚 き、恐 怖 、 怒

    り、 悲 しみ 、嫌 悪 の順 に 円環 を な し、Schtosbergの 環状 モ デ ル と よ く一 致 して

    い る。 さ ら に、悲 しみの 表 情 は怒 りと嫌 悪 の 問 に あ る こ とが わ か る 。 こ れ を 日

    本 人 が 表 情 を認 識 す る 際 に用 い て い る認 知 構 造 の 一 表 現 と して解 釈 す れ ば 、

    FASTに 従 っ た厳 密 な表情 を呈 示 した場 合 、 日本 人 はFASTに 定 義 され た 「悲

    しみ」 の表 情 を怒 りと嫌 悪 の 中 間 の表 情 と して認 知 す る傾 向が あ る とい える だ

    ろ う。

    表1コ ンピュータで合成 した日本人の表情写真に対するカテゴリー判断

    (3人 のモデルから合成 した3種 類の刺激に対する平均選択率%)

    判断 幸福 驚き 恐怖 怒 り 嫌悪 悲しみ

    表清

    幸福 47.7 3.6 7.2 15.3 14.4 11.7

    驚き 12.6 83.8 1.8 0.0 0.9 0.9

    馨:際關B 1:12.7

    58.67.2

    18.925.219.8

    19.80.0

    34.2

    0.9

    翻 鮒 1:1 1.818.9 9.313.5 57.741.4 11.713.5 21.66.3嫌悪 22.5 18.0 10.8 9.9 24.3 14.4

    轍 謝 0.Ol.8 0.01.8 3.68.1 0.019.8 9.934.2 86.534.2(米 谷 ・津 田 ・千 葉 ・山 田 ・原 島1991p.382よ り引 用)

  • 35

    1

    0.5

    (剤

    )0串

    。っ

    一〇 。5

    L

    1

    1

    幸福

    }

    嫌悪

    ○ ○

    悲しみ 驚き○ ○

    怒 り 恐怖一

    i 1

    一〇.5 0

    第1因 子

    0.5 1

    図1コ ンピュータの合成表情に対する日本の大学生の認知構造

    実験1一 日本のTVド ラマを用いた表情識別実験

    目的

    日本のポピュラーなTVド ラマの感情表現に対する日本人の認知構造を調べ

    るために日本人大学生を対象としてTVド ラマの感情表出シーンを用いて表情

    識別をさせ、得 られたデータを主成分分析 して変数間の関係を図示 した。

    方法

    被験者:大 学生23名(男 子20名 、女子3名)が 実験に参加 した。表情分析に

    ついての専門的な訓練を受けた者はいなかった。

    刺激:実 験実施当時、TVや 映画でポピュラーなドラマとして多 くの日本人

    に鑑賞されていた作品から3つ の作品(VTR版)を 選び、それから幸福、驚 き、

  • 36

    恐 怖 、 怒 り、嫌 悪 、 悲 しみ の6つ の 感 情 が比 較 的 よ く表現 され て い る とみ な さ

    れ る場 面 を計33シ ー ン選 び 出 した(ソ ー スVTRと して使 用 した作 品名 と選 定

    した シ ー ンの概 要 を補 遺 に掲 げ る)。そ れぞ れの シー ンは2--5秒 の 長 さで あ っ

    た。33の シー ン をラ ンダ ム な川頁に並 べ 、 イ ン ター バ ル用 の 白い 画 面 を問 に挿 入

    しなが ら1本 のVTRテ ー プ に編 集 し、 識 別 実験 で 呈 示 す る動 画 像 表 情 刺 激 と

    した。

    評価 尺度:上 記 の6つ の表 情 の そ れ ぞ れ に つ い て、 そ の 表 出 の強 度 を 「1。

    全 くそ う感 じられ な い」 か ら 「7.全 くそ う感 じられ る」 まで の7段 階 の 両極

    リ ッカ ー ト尺 度 を用 い て被 験 者 に評 定 させ た。 さ ら に、 同様 の尺 度 に よ り表 情

    の 自然 さを7段 階 で評 価 した 。

    手 続 き:実 験 は1回 に1名 ず つ 実施 した。 被験 者 はTVモ ニ ター の前 に着 席

    し、 教 示 を受 け た後 、VTRを1シ ー ンず つ み て 、 回答 用 紙 に評 価 を記 入 した 。

    被 験 者 は、 各 シ ー ンの 登 場 人物 に最 もよ く表 出 され て い る と思 わ れ る表 情 を1

    つ 選 ん だ後 、上 記 の7つ の評 定 尺 度 につ い て評 定 した。 実験 者 は被 験 者 の 評 定

    中 はテ ー プ を静 止 させ 、 すべ て の評 定 が 済 ん で か らテー プの再 生 を再 開 した 。

    なお 、VTRの 再 生 に お い て は映像 情 報 のみ を刺 激 とす る ため 、 音 声 は 消 した。

    結 果

    33の 各 表 情 刺激 に対 す る24名 の被 験 者 の カテ ゴ リー判 断 の 頻 度 を表2に ま と

    め る。1つ の項 目が7割 以 上 選択 され た刺 激 を表2か らひ ろい あ げ て み る と、

    2、4、20、21、25、28が 幸福 、6と12が 驚 き、9と10が 怒 り、3、7、13 、

    15、27、31、32が 悲 しみ と して 明確 に識 別 され た こ とが わ か る。 こ れ に対 し、

    恐 怖 と嫌 悪 に つ い て は一 般 に そ れ ら の表 出 と して 明 瞭 に認 知 され た 刺 激 は な

    い 。嫌 悪 は被 験 者 の半 数 近 くが そ の 表 出 と して選 択 した刺 激 が8、11、14の3

    つ あ るが 、 恐怖 に つ い て は刺 激 の33の ひ とつ しか ない 。

    日本 のTVド ラマ に対 す る認 知構 造 を調 べ るた め に表2の デー タ を用 い て主

    成 分 分 析 した結 果 を表3に 示 す 。 な お、 これ は 因子 分 析 で 主 因子 解 を求 め る方

    法 と同 じで あ り、軸 回 転 は して い な い。 表3は 固有 値1以 上 の基 準 で 因子 を抽

    出 し、 各 変数 につ いて 因子 負 荷 を求 め た もの で あ る。 主 成分 分 析 に よ り3つ 因

  • 37

    子 が得 られ たの で2次 元 的 な視 覚 化 は3通 りで き る。 ここ で は、Schlosbergの

    環 状 モ デ ル と対 照 す る ため に、 そ れ に最 も形 状 が 似 て い る組 み合 わせ を図2に

    示 す 。 図2は 第1因 子 を横 軸 に と り、第2因 子 を縦 軸 に とっ て各 変 数 の重 心 を

    プ ロ ッ トした もの であ る。 図2か ら、6変 数 の 位 置 関係 につ いて 、 幸福 を頂 点

    と して 、 右 回 りに、 恐 怖 、 驚 き、嫌 悪 、 怒 り、 悲 しみ の川頁に並 ん で お り、恐 怖

    と驚 き、嫌 悪 と怒 りが そ れ ぞ れ接 近 して い る こ とが わか る。

    表2日 本版表情識別実験におけるカテゴリー判断の結果(選 択頻度N=23)

    刺 激 幸 福 驚 き 恐 怖 怒 り

    101010

    223000

    30000'

    423000

    57405

    602101

    70100

    8!305

    900022

    1000022

    110007

    1202120

    132101

    145033

    150002

    ,1611021

    1701102

    180103

    199018

    2017001

    嫌 悪 悲 し み

    57

    00

    320

    00

    52

    10

    220

    113

    01

    01

    106

    00

    217

    120

    318

    63

    82

    712

    23

    14

  • 38

    *

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    0

    1

    2

    3

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    3

    3

    3

    3

    3

    0

    0

    9

    9

    5

    0

    1

    0

    0

    0

    2

    1

    1

    2

    0

    0

    0

    5

    5

    2

    0

    1

    0

    0

    1

    5

    0

    1

    1

    1

    0

    4

    0

    1

    0

    0

    0

    3

    0

    0

    1

    4

    0

    0

    11

    0

    5

    3

    3

    0

    2

    0

    0

    0

    2

    0

    0

    3

    0

    0

    7

    5

    1

    2

    0

    1

    1

    2

    0

    0

    4

    0

    2

    8

    4

    3

    0

    3

    1

    0

    0

    2

    3

    1

    2

    1

    2

    ワ臼

    (*無 回答1)

    表3

    変数

    幸福

    驚き

    恐怖

    怒 り

    嫌悪

    悲しみ

    日本版表情識別実験データの主成分分析の結果(因 子負荷量)

    第1因 子

    一.480

    .687

    .640

    .213

    .400

    -.531

    第2因 子

    .858

    .038

    .176

    -.113

    -.275

    -.766

    第3因 子

    一.024

    ,520

    ,181

    -.832

    -.373

    .298

    固有値

    寄与率

    1,600

    .267

    1.445

    .241

    1.224

    .204

  • 39

    1

    0.5

    図ON

    一〇.5

    1

    1

    幸福

    恐怖O

    ○ 驚き怒 り

    嫌悪

    悲しみ

    1 1

    一〇。5 0

    第1因 子

    0。5 1

    図2日 本のTVド ラマに表出された表情に対する日本の大学生の認知構造

    考察

    初めにことわったように選定 した作品も少なく、とりだしたシーンも、すべ

    ての表情がきわめて強 く現れているものばかりではない。 しかしながら、刺激

    を検討 し、合成表情を用いた表情識別実験の結果 と比較 してみると、カテゴリー

    判断の結果が刺激 として呈示した表情の種類や性質を示 しているにすぎないと

    いう指摘は受け入れられないことがわかる。表2が 示すように、実験1で 使用

    した刺激 には恐怖の表情 として嫌悪 と明瞭に識別 された刺激が含まれていな

    かった。しか し、合成表情を用いた実験においても、表1の ように、強い恐怖

    の表情 を合成 しても、その的中率は2割 以下と極めて悪 く、怒 りや驚き.と見間

    違われやすい。また、嫌悪の表情も的中率が4割 をこえていない。一方、幸福

    の表情についてはTVド ラマの表情を用いた実験1の 方が合成表情を用いた実

    験 より的中率が高い。コンピュータで合成 した幸福の表情の識別率が悪かった

  • 40

    理由の一つはコンピュータに合成表情には歯がはいっておらず、不自然であっ

    たことがあげられる。 また、実験1で すべての被験者から幸福 と認知 された刺

    激が3つ もあったのは、動 きをともなった実際の役者による幸福の表情がはる

    かにわか りやすかったこともあろうが、それらのシーン(2、4、21)が すべ

    て恋人や好きな異性 との対面場面であり、異性関係に関心のある大学生がそう

    いった文脈に反応 したことも十分に予想 される。

    それでは、この実験結果から日本のTVド ラマを見る際の日本の大学生の表

    情認知についてどのようなことがいえるだろうか。実験1は エクマンらの定義

    に基づいた表情ではなく、日本人の俳優がTVド ラマの中で演 じた登場人物の

    感情の表現 としての表情であ り、ある意味ではごく一般的な、自然な日本人の

    表情といえる。従って、実験1の 表情刺激に対する認知は被験者たちの日本人

    の日常における表情認知とそれほど違いがないであろう。図2か ら日本人の日

    常の表情認知構造を推測すると、日本人は恐怖 と驚 き、嫌悪と怒りを区別せず、

    幸福 と驚 きと怒 りと悲 しみを明確に区別 していること、さらに、悲 しみを怒り

    と幸福の中間に位置する表情 として認知 していることが示唆 される。

    これに対 して、コンピュータの合成表情に使用 している刺激には日本人特有

    の悲 しみの表現などは含まれておらず、それらに対する認知は普遍的な基本表

    情に対する日本人の認知ということができる。前述 したように、合成表情 を用

    いた実験の結果(図1)か ら、 日本の大学生 もSchlosbergが 米国のモデルの

    表情を米国の大学生に呈示 した実験から得た環状モデルとよく似た表情認知構

    造をもってお り、また、悲 しみは怒 りと嫌悪の中間に位置する表情として認知

    していることが示唆 された。これと日本のTVド ラマを用いた実験結果(図2)

    とをつきあわせてみると、とくに悲しみの表情に対する認知カテゴリーと他の

    認知 カテゴリーとの相対的位置関係の違いが注意をひ く。このような、コン

    ピュータの合成表情に対する認知と日本のTVド ラマの表情 に対する認知の差

    異は、日本人の文化的特性の一端 を示すものと考える。すなわち、日本人が悲

    しいときに自分たちが人前でみせる表情が欧米人、あるいは、普遍的な表情と

    は別なものであり、日本人がそのことを知っているのではないか、ということ

    である。これについては、欧米人の表情に対する日本人の認知構造を調べるこ

  • 41

    とに よ り、 さ らに明 らか に な る もの と予 想 され る。

    実験2一 欧米のTVド ラマを用いた表情識別実験

    目的

    欧米のポピュラーなTVド ラマの感情表現に対する日本人の認知構造を調べ

    るために、日本人大学生を対象として欧米のTVド ラマの感情表出シーンを用

    いた評価実験を実験1と 同様の手続きで行った。

    方 法

    被 験 者:大 学 生14名(男 子 の み)が 評 定 者 と な った 。彼 らは実 験1に は参 加

    して い ない し、表 情 分 析 につ い て の専 門的 な訓 練 を受 け た こ と も なか っ た。

    刺 激:実 験 実 施 当 時 、TVや 映 画 で ポ ピ ュ ラー な ドラマ と して 多 くの 日本 人

    に鑑 賞 され て い た欧 米 の 作 品(VTR版)か ら3作 品 を選 ん だ 。そ れ らか ら幸 福 、

    驚 き、 恐怖 、怒 り、 嫌 悪 、悲 しみ の6つ の 感 情 に軽 蔑 、興 味 、 恥 の3つ の表 情

    を加 え た合 計9種 類 の 表情 に つ い て、 そ れ らが比 較 的 よ く表現 され て い る とみ

    な さ れ る場 面 を計30シ ー ン選 び 出 し、 実 験1と 同 様 に ラ ン ダム なJII頁に1本 の

    VTRテ ー プ に 編 集 し、 呈 示 刺 激 と した(使 用 した 作 品 と選 定 した シ ー ンの概

    要 につ い て は補 遺 を参照)。

    評 価 尺 度:上 記 の9つ の表 情 の そ れ ぞ れ につ い て、 そ の表 出 の強 度 を7段 階

    の両 極 リ ッカー ト尺 度 を用 い て 、被 験 者 に評 定 させ た 。

    手 続 き:手 続 きは 、評 定 尺 度 と して い ま述 べ た9つ を用 い た以 外 は 、実 験1

    に準 じた。

    結 果

    30の 各表 情 刺 激 に対 す る14名 の被 験 者 の カテ ゴ リー判 断 の 頻 度 を表3 .にあ げ

    る。選 択 率7割 以 上 を基 準 とす る と、11と21が 幸 福 、2、4、6、15、18、24 、

    26が 驚 き、8が 恐 怖 、1、5、22、23が 怒 り、17が 悲 しみ 、13が 興 味 と して 明

    確 に識 別 され た こ とが わ か る。 これ に対 し、嫌 悪 、軽 蔑 、恥 に つ い ては 明確 に

  • 42

    それ らの 表 出 と して認 知 され た刺 激 は な い。

    表3の デ ー タを用 いて 主成 分 分 析 した結 果 を表4に 示 す。 表4は 固 有 値1以

    上 の 基 準 で 因子 を抽 出 し、 各 変数 につ い て 因子負 荷 を求 め た もの で あ る。 主成

    分 分 析 に よ り4因 子 が 抽 出 さ れた 。 こ こで は 、Schlosbergの 環 状 モ デ ル と対 照

    す る た め に 、 そ れ に最 も形状 が似 て い る組 み 合 わせ を図3に 示 す 。 図3は 第2

    因子 の正 負 を逆 に して横 軸 に と り、第3因 子 の 正負 を逆 に して縦 軸 に と り、各

    変 数 の重 心 を プ ロ ッ トした もの で あ る。 図3が 示 す よ うに、9つ の 変 数 の位 置

    関係 は 、幸 福 を頂 点 と して 、右 回 りに、 驚 き、恐 怖 、悲 しみ 、 嫌 悪 、 怒 り、軽

    蔑 、興 味 の順 に並 ん で お り、恥 は 中心 、 つ ま り、原 点 近 くに位 置 して い る。

    0

    0

    0

    0

    0

    =

    N度

    3

    0

    0

    0

    0

    -

    2

    0

    0

    9

    0

    0

    【リ

    0

    0

    1

    0

    0

    テカ

    11

    0

    1

    0

    14

    け論

    -

    撲謝

    E

    l

    m

    知版

    0

    0

    1

    2

    0

    1

    2

    3

    4

    5

     マ

    0

    0

    ()

    0

    0

    0

    0

    0

    1

    0

    0

    3

    0

    2

    0

    3

    0

    0

    0

    0

    0

    0

    0

    0

    1

    6

    11

    0

    10

    6

    3

    0

    2

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    0

    8

    ρ0

    7

    8

    0」

    0

    0

    0

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    0

    0

    5

    1

    2

    0

    0

    1

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    1

    0

    0

    1

    4

    0

    13

    0

    0

    1

    0

    2

    0

    0

    0

    1

    0

    7

    12

    5

    0

    1

    0

    1

    0

    0

    0

    2

    0

    0

    0

    4

    0

    0

    0

    0

    0

    6

    0

    2

    3

    1

    0

    1

    0

    7

    0

    6

    10

    0

    0

    0

    10

    0

    0

    0

    0

    0

    1

    10

    11

    12

    13

    14

    15

    16

    17

  • 43

    8

    9

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    0

    1

    1

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    3

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    1

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    0

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    0

    rD

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    1

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    0

    0

    0

    1

    4

    1

    1

    1

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    0

    ρ0

    0

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    1

    1

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    0

    0

    Qゾ

    0

    4

    3

    0

    0

    1

    0

    1

    1

    0

    1

    0

    0

    4

    1

    1

    0

    1

    0

    1

    0

    0

    0

    4

    0

    0

    8

    0

    1

    0

    8

    1

    0

    0

    2

    1

    4

    0

    0

    0

    2

    6

    0

    4

    0

    0

    1

    1

    3

    0

    0

    !

    0

    1

    1

    0

    0

    0

    2

    0

    0

    0

    0

    0

    0

    1

    0

    0

    表5

    変数

    幸福

    驚き

    恐怖

    怒 り

    嫌悪

    悲しみ

    興味

    軽蔑

    欧米版表情識別実験データの主成分分析の結果(因 子負荷量)

    第1因 子

    .468

    -.577

    -.362

    -.282

    .226

    .789

    .107

    -.265

    .689

    第2因 子

    一.026

    -。565

    -.552

    .505

    .218

    -.165

    ,557

    .718

    -.231

    第3因 子

    一.596

    -.223

    。224

    .513

    .580

    .297

    -.579

    -.Ol3

    .101

    第4因 子

    .397

    -.303

    .014

    .607

    -.461

    -.241

    -.311

    -.281

    .100

    固有値

    寄与率

    1.988

    .221

    1.833

    .204

    1.488

    .165

    1.074

    。119

  • 44

    1

    0。5

    (剤

    )0串

    。っ

    一〇.5

    1

    1

    ○ ○

    興味 幸福一

    驚き

    0

    軽蔑 ○恥 ○

    恐怖○

    悲 しみ一 ○

    怒 り ○嫌悪

    1 1

    一〇.5 0

    第2因 子(逆)

    0.5 1

    図3欧 米のTVド ラマに表出された表情に対する日本の大学生の認知構造

    考 察

    カ テ ゴ リー判 断 の結 果 につ い て実 験1と 比較 す る と、 実 験2で は 、 明確 に恐

    怖 の 表 情 とみ な さ れた 刺 激(8)が あ る一 方 、嫌 悪 の表 情 と して 明 瞭 に識 別 され

    た もの が な い こ とが 特 徴 的 で あ る。 また 、9割 以上 が興 味 の 表情 と して識 別 し

    た刺 激(13)が あ り、 他 に も興 味 と判 別 され た刺 激 も少 な くな い 。

    まず 、 図3を もと に実験2で 追 加 した興 味 、軽 蔑 、 恥 の 表情 に対 す る認 知 カ

    テ ゴ リー に つ い て 考 察 して み よ う。 軽 蔑 と興 味 はSchlosbergの 環 状 モ デ ル と

    だい た い 同 じ位 置 にあ る。 この こ とか ら、 日本 人 が 欧 米 人 の興 味 や軽 蔑 を欧米

    人 とだ い た い同 じよ うに認 知 して い る と推 測 さ れ る。 また 、恥 は原 点 に最 も近

    い 位 置 にあ る 。Tomkins(1972)の 情 動 理 論 に よれ ば、 恥 らい の 情動 は 、 あ る

    特定 の表 情 の 表 出 を意 図 的 に抑 制 して い る際 の情 動 で あ り、 恥 ず か しい と き人

    は顔 を下 に向 け、 目を伏 せ 、 表 情 筋 の 変化 を抑 え、 時 と して赤 面 す る とい う。

  • 45

    この 理 論 に従 え ば、 恥 の 表情 は無 表 情 に近 い もの で あ り、図3の よ う に認 知 カ

    テ ゴ リー が原 点 近 くに くる こ とは容 易 に予 想 で きる 。

    そ れ で は 欧米 人 に対 す る 日本 人 の表 情 認 知 の構 造 につ いて は どの よ うな こ と

    が い え る だ ろ うか 。 図3をSchlosbergの 環 状 モ デ ル と対 照 す る と、 怒 りと嫌

    悪 の位 置 関係 が 逆 で あ る こ と を除 き、Schlosbergの 環 状 モ デ ル と一 致 し、軽 蔑

    の位 置 も同 じで あ る こ とが わ か る。 また 、悲 しみ は恐 怖 と嫌 悪 の 間 、す な わ ち 、

    Schlosbergの 環 状 モ デ ル でsuffering&fearの カ テ ゴ リー の 位 置 に あ る 。 と く

    に、 そ の位 置 に お か れ た16番 のFrois-Wittmannの 表 情 写 真 はFASTに お け る

    悲 しみ の表 情 とみ な され る。 この こ とか ら、欧 米 のTVド ラマ の表 情 に対 す る

    日本 の大 学 生 の 認知 構 造 は米 国 の 大 学 生 の表 情 認 知 構 造 とあ ま り変 わ りが ない

    と考 え られ る。 さ らに、 図2と 図3を 比 較 す る と、 と くに、悲 しみ の認 知 カテ

    ゴ リ ー の位 置 に 明 らか な違 い が み られ る。 これ は、 日本 人 が 日本 のTVド ラマ

    を見 る と き と欧米 のTVを 見 る と き とで異 な る認 知 カテ ゴ リー を用 いて い る こ

    とを示 唆 して い る。

    討 議

    以 上 の よ うに 、 日本 の 大学 生 が よ く見 て い る ポ ピュ ラ ー なTVド ラマ の感 情

    表 現 の シー ンを切 り出 して 、 そ れ を彼 らに ラ ン ダム呈 示 して識 別 させ た 実験 の

    結 果 か ら、 日本 人 の 表 情 認識 構 造 につ いて 次 の よ うな こ とが わ か った 。

    日本 と欧 米 のTVド ラマ に お け る感 情 表 現 に つ い て 、幸 福 、 驚 き、恐 怖 、怒

    り、嫌 悪 の表 情 の識 別 は概 ね 同様 に な され て い る 。 た だ し、 驚 き と恐怖 、怒 り

    と嫌 悪 につ い て は混 同 されや す く、 幸福 と驚 き と怒 りは混 同 され る こ とが 少 な

    い。 こ の よ うな 、認 知 カ テ ゴ リー 間の 関係 、 す な わ ち、 認 知構 造 は 、 日本 のT

    Vド ラ マ に対 す る怒 り と嫌 悪 の認 知 カ テ ゴ リー の位 置 関係 を除 き、Schlosberg

    の環 状 モ デ ル と よ く似 て い る。 一 方 、 悲 しみ の表 情 の 認 知 につ い て は、 日本 の

    TVド ラマ を用 い た実 験 の結 果 と欧 米 のTVド ラ マ を用 い た実 験 の結 果 とは明

    らか に違 う。

    従 って 、序 で述 べ た、 日本 人 が 日本 のTVド ラマ を見 る と き と欧 米 のTVド

    ラマ を見 る と き とで 悲 しみ の 表 情 に つ い て異 な る認 知 カテ ゴ リー を用 い て い る

  • 46

    の で は ない か とい う仮 説 は実験 結 果 か ら支 持 され た とい え よ う。主 成 分 分 析 の

    結 果 を解釈 す る と、 日本 人 は 日本 のTVド ラマ に お い て怒 りと幸福 の 中 間の 表

    情 、す なわ ち 、欧 米 のTVド ラマ にお ける軽 蔑 の表 情 にあ た る もの を悲 しみ の

    情 動 表 出 と して受 け とめ て お り、 一 方 、 欧 米 のTVド ラマ にお い て は恐 怖 と嫌

    悪 の 中 間 の 表情 、す なわ ち、Schlosbergの 実 験 にお け る苦 悩 の表 情 にあ た る も

    の を悲 しみ の情 動 表 出 と して受 け とめ て い る と推 察 され る 。 これ を次 の よ う に

    解 釈 して み よう。 す な わ ち、 日本 人 は 人前 です る 自分 た ち の悲 しみ の 表 情 を欧

    米 人 とは異 な っ た もの で あ り、 日本 人 が悲 しみ を表 現 す る と欧 米 人 の軽 蔑 と似

    た 表情 とな る こ と を知 っ てい るの で は な い か、 とい う こ とで あ る。 これ は 、 日

    本 人 で あ れ ば、 生 活経 験 か ら うな ず け る こ とで は なか ろ うか。

    コ ン ピュ ー タ に よる合 成 表 情 を用 い た実 験 結 果 は、 日本 の大 学 生 が万 国共 通

    の悲 しみの 典 型 的 な表 情 と認 知 で きる こ と を示 して い る。 日本 人 も欧米 の人 々

    と同様 に、 普 遍 的 な感 情 認 知 の メ カ ニ ズ ム を備 えて い る こ とは 間違 い な い。 し

    か しなが ら、 人前 です る表 情 は 表示 規 則 の違 い か ら普 遍 的 な表 出 形 態 と異 な る

    もの とな り得 る 。 日本 人 が 人前 で悲 しい と き に示 す表 情 は、 ナ イー ブ で普 遍 性

    の高 い悲 しみ の表 情 で は な く、幸 福 と怒 りが 入 り交 じっ た よ う な感 情 表 現 と な

    る。 これ は 欧米 人 に とって は軽 蔑 の表 情 とみ な され る もの で あ る 。 しか し、 日

    本 人 に と って は そ の表 情 こそ 、 一般 的 な 日本 人 の 人前 での 悲 しみ の表 現 、 す な

    わ ち柳 田国 男 の い う 「エ ミ」 に他 な ら ない の で は な いか 。

    微 笑 は好 感 の もたれ る 表情 で あ り、 そ の表 情 を して もまわ りの者 か ら嫌 わ れ

    る こ と はな い。 それ 故 、 悲 しみ の感 情 を微 笑 と して表 現 す る な ら人 前 で はば か

    る こ とは な い。 こ う した偽 装 に よ り、 日本 人 は人 前 で も容 易 に悲 しみ を表 出 で

    き るの で は ない か 。 中 村(1991)が 表 示規 則 につ いて 日米 比 較 調 査 を した と こ

    ろ、公 共場 面 で の 感 情 表 出 の程 度 につ い て は 、幸 福 、 驚 き、嫌 悪 、 恐 れ につ い

    て はア メ リカ人 の 方 が 日本 人 よ り強 く、悲 しみ だ けが 日本 人 の方 が 強 い こ とが

    わ か っ た。 この 結 果 を本研 究 の 知 見 を も とに解 釈 して み る な ら ば、 今 述べ た よ

    う に 日本 人 は悲 しみ を微 笑 と して 表 示す るの で 人 前 で も表 出で きる と思 っ て お

    り、一 方 、 ア メ リカ 人 は悲 しみ を怒 りに変 え、 悲 しみ の ま まで ス トレー トに表

    く タ

    現 しない社会的慣習 のために公衆の面前で表出を忌み嫌う傾向があるためで

  • 47

    はないかと考えられる。

    ところで、日本入の悲 しみの表出は、普遍的、あるいは、欧米人一般の表情

    認知において軽蔑のカテゴリーに含まれるものであるとすれば、それを見る欧

    米人が、日本人に対 し違和感や不快感をもつことは頷けよう。西洋人にとって

    の謎としての 「日本人の微笑」は、普遍的な認知構造から他国の文化や生活様

    式 を評価 しようとする者に違和感をもってうけとめられる日本文化のひとつでゆ

    あるのかもしれない 。

    また、人前であらかさまに直接的な悲 しみの表情をあらわにすることを慎ん

    できた日本人にとって、欧米人の悲しい時にする恐怖 と怒 りの混ざったような

    悲 しみの表情はいささか大げさでみっともない行為と受け取 られるだろう。し

    か しながら、日常、お茶の間のTVド ラマで幾度となく欧米人の感情表現にふ

    れ、親 しんでいる日本人にとってはそれほどおかしなものではないのだろう。

    本稿では、表情識別実験で得 られたデータを手がかりに、日本人の文化特性、

    すなわち、表情認知における文化的フィルターについて論じてみた。おわ りに、

    異文化比較のための表情研究のあり方について、少 し論 じてみよう。

    表情認識については、その厳密な科学的研究は最近ようやく始まったばか り

    といえる。表情についての知覚実験を試みるならば、まず、厳密に統制され、

    再現可能で、しかも妥当な表情刺激を用意する必要がある。もし刺激の計測や

    制御が厳密になしえないならば、刺激と反応の関係すらも明らかにならないで

    あろう。ところが、表情研究においては、Ekmanら の表情研究以前は、一部

    の生理学的研究を除けば顔面表情の記述やその操作的定義 もなく、それどころ

    か、表出される基本感情の同定すら明瞭でなかった。それ故に、これまでの研

    く ラ

    究 が 、 伝 聞 や研 究 者 自身 の直 感 を た よ りと した、 主観 的 で信 頼 性 の低 い もの

    と な った の は や む を え ない 。 しか し、そ の よ うな ア プ ロ ーチ は科 学 的研 究 と は

    ほ ど遠 い とこ ろ にあ る とい え る。 科 学 的 な表情 研 究 は、 表 情 の測 定 や 表 情 刺 激

    の 統 制 の 難 し さか ら これ まで ほ とん ど進 んで い なか った 。 わ れ わ れ は、.MASC

    を利 用 した表 情 デ ー タベ ー スの 作 成 に着手 した と こ ろで あ る 。 コ ンピ ュー タに

    顔 の 様 々 な表 情 を入 力 し、 さ ら に、 い くつ か の 特 徴 点 の 位 置 を計 測 して 、

    FACSのAUに 対 応 す る パ ラ メー タ を 計 算 す る 。 こ う し た 顔 計 測

  • 48

    く 

    (FACIOMETRY)に より、他のモデルの顔画像でその表情を再生 してみるこ

    とができるようになる。このような作業を繰 り返 しながら、さまざまな文化や

    人種の人々の性や年齢に応 じた感情表出の標準化を進め、異文化表情辞典とで

    も呼べるようなものを構築 していくことを計画 している。様々な人々の種々の

    状況での感情表出を動画像データベースとして蓄えることは比較文化のための

    非言語コミュニケーション研究の第一歩 と考える。

    参 考 文 献

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    Prentice-HallInc,:表 情 分 析 入 門(工 藤 力 訳 編)[第1版1987].誠

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    B1)研 究 成 果 報 告 書 。

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    小 泉 八 雲(1977):日 本 人 の 微 笑(平 川 祐 弘 訳)小 泉 八 雲 作 品 集2一 随 筆 と

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    米 谷 淳 ・津 田 兼 六 ・千 葉 浩 彦 ・山 田 寛 ・原 島 博(1991):MASCで 合 成

    し た 表 情 の 評 価HumanInterfaceNews&Report ,6,379-388。

    米 谷 淳 ・山 田 寛 ・千 葉 浩 彦 ・鈴 木 直 人(1993):表1青 の 分 析 ・合 成 シ ス テ

    ム を 用 い た 感 性 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 す る 心 理 学 的 研 究 。 文 部 省 科 学 研 究

    費 補 助 金 重 点 領 域 研 究 平 成4年 度 成 果 報 告 書 「感 性 情 報 処 理 の 情 報 学 ・心 理

    学 的 研 究(代 表 辻 三 郎)」209-212頁 所 収 。

    米 谷 淳 ・山 田 寛 ・千 葉 浩 彦 ・鈴 木 直 人(1994):表 情 の 分 析 ・合 成 シ ス テ

    ム を 用 い た 感 性 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 す る 心 理 学 的 研 究 。 文 部 省 科 学 研 究

    費 補 助 金 重 点 領 域 研 究 平 成5年 度 成 果 報 告 書 「感 性 情 報 処 理 の 情 報 学 ・心 理

    学 的 研 究(代 表 辻 三 郎)」231-234頁 所 収 。

    中 村 真(1991):情 動 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お け る 表 示 ・解 読 規 則 一 概 念

    的 検 討 と 日 米 比 較 調 査 一 大 阪 大 学 人 間 科 学 部 紀 要 第17巻 、115-143頁

    所 収 。

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    頁 所 収 。

    (1)「 だ か ら今 日の 定 義 と して は、 エ ミはむ しろ 人生 の滑 油 、 殊 に女 が この世

    を平 穏 に、送 っ て ゆ け る た め に具 わ っ た 自然 の武 器 と言 っ た 方 が よい 。」

    (柳 田1979、122頁)

    (2)「 男 性 は苦 痛 をあ らわ して はい け ない が 、怒 りの感 情 はあ らわ に して もよ

    い とい う社 会 的慣 習 が あ り、 女 性 の 場 合 は こ の逆 で あ る 。 「女 ら しさ」 に

    関す る ア メ リ カ人 の ス テ レオ タ イ プ化 され た要 求 に従 って い る女 性 は 、他

    人 に対 して 怒 り をあ か らさ ま に示 さな い代 わ りに 、そ れ を 自己 の 内側 に 向

    け るか 、 また は苦 痛 や怒 りに よ る涙 、 あ る い は不 機 嫌 な態 度 を示 す の で あ

    る。」(エ クマ ン&フ リーセ ン 工藤 訳1987、147頁)

    (3)「 日本 人 は 、 実 に よ く笑 う よ う にな っ た。 む か し と くらべ て 、 自由 で屈 託

    が な くな った た め で あ ろ う。

    これ まで の 日本 人 は、 表 情 をか くす こ とが 美 徳 とされ て い た か ら、苦 し

    くと も歯 を くい しば り、 悲 し くと も、涙 を こ らえ た。 大 口 あ い て 笑 う人 は

    は した ないバ カ に た とえ られ 、 婦 人 は笑 うに も、 口 も と手 で か くす習 慣 を

    身 につ け て きた。 それ が い まで は まる で ちが う。

    若 い 女性 までが 、心 の底 か ら笑 う よ うに な っ たの で あ る 。」

    (多湖 ・吉 田1968、148-149頁)

    (4)こ の論文で報告する2つ の実験は米谷が指導 した法事庵勉 と小束徳大が平

    成3年 度奈良大学社会学部卒業研究 として行った。

    (5)な お、表情識別に関しては池田(1987)が 詳細に文献研究をしているので

  • 51

    参 照 され た い。

    (6)「 また 、先 に あ げ た ウ ッ ドワース らの 写 真 を用 い た研 究 は ア メ リ カの大 学

    生 を対 象 と した もの で あ る が 、 こ の写 真 を 日本 の大 学 生 に見 せ て判 断 させ

    た研 究 もあ る。 そ れ に よる と愛 、 幸福 、恐1布、苦 しみ な どの 表 情 で は ア メ

    リカ 人 の判 断 と一 致 を示 す が 、嫌 悪 や 軽 蔑 の表 情 で は不 一 致 が 多 く、 日本

    人 学生 の判 断 に はそ れ らを 「驚 き」 と判 断 す る こ とが 、 非 常 に多 か っ た。

    また一 般 に、 日本 人学 生 の ほ うが 特 定 の表 情 に多 様 な判 断 を示 して い る。」

    (加藤1974、43頁)

    加 藤(1974)が この よ うに紹 介 して い る よ うに、 日本 人 で この実 験 を追

    試 しよ う と した研 究 もない わ けで は な い よ うで あ る。 しか し、 日本 人 が 日

    本 人 の 通常 の感 情 表 現 を撮 った 写真 を分 類 した もの で もな い し、そ もそ も

    「悲 しみ」 の 表 情 はSchlosberg自 身 も扱 っ て い ない の で、 わ れ わ れ の 問

    題 に とっ て 直接 の参 考 に はな らな い。

    (7)Yamada(1993)は コ ン ピュ ー タの デ ィス プ レイ上 に描 い た線 画 の表 情 に

    よ り日本 人 の表 情 認 知構 造 を検 討 し、 顔 の 形 態 的特 徴 に も とつ く認 知 モ デ

    ル を構 築 して い る 。彼 はMASCに よ る表 情研 究 の共 同研 究 者 の ひ と りで

    あ り、彼 の モ デ ル は わ れ われ の 表 情研 究 の ア プ ロー チ の 基礎 とな っ て い る。

    (8)確 か に 、ハ ー ンの 「日本 人 の微 笑 」 の 中 には 、太 田(1994)が 指摘 す る よ

    うに ハ ー ンの 「創作 」 が含 ま れ てい るか も しれ ず 、問 題 は ない とは い え な

    い。 太 田氏 は 、 「この 作 品 は く日本 人 の微 笑〉 とい う何 か ほか の 人 類 の微

    笑 とは ま るで違 う特 別 な微 笑 が あ るか の よ うな 印象 を残 す もの とな っ て い

    る。」(204頁)と 批 判 し、 日本 人 の 微 笑 が 西 洋 人 に もみ られ るか も しれ な

    い と述 べ て い る が 、 どの よ う な状 況 で表 出 され 、 あ るい は 、表 出 され な い

    か とい う点 にお い て は、 日本 だけ で な く、他 の文 化 にみ られ た と して も、

    西 洋 人 が 日本人 をみ て不 可 解 に思 う、 欧米 文 化 と比 較 して の 「日本 人 の 微

    笑 」 の 日本 的特 殊 性 は厳 然 と存在 す る と考 え る。

    (9)例 えば 、質問 紙 法 に よ り、表 情 の 表 出 や認 知 の仕 方 を 回答 させ る方 法 で は 、

    回 答者 が どの よ う な表 情 を 「悲 しみ」 と し、 あ るい は 「怒 り」 と してい る

    の か 、 ま た 、実 際 に どの程 度 の顔 面 上 の変 化 を 「強 い」、 あ るい は 「弱 い」

  • 52

    表 出 と して い るの か に つ い て全 く確 か め て い ない の で 、異 な る文 化 の 回答

    者 群 の結 果 をそ の ま まつ きあ わ せ る こ とが 果 た して妥 当 か疑 問 で あ る。

    (10)FACIOMETRYは 、MASCに よ る表 情 研 究 者(例 え ば千 葉 浩彦)の 間 で提

    唱 され てい る顔 研 究 の ひ とつ の ア プ ロ ーチ で あ るが 、特 徴 点 の 種 類 や位 置

    な ど、 具 体 的 な方 法 につ い て は まだ統 一 した 見解 は得 られ てい ない 。

    補遺

    実 験 に使 用 したVTR作 品

    日本 版:東 京 ラ ブス トー リー 、世 に も奇妙 な物 語 、 イ タ イ話

    欧 米 版:ニ ュ ー シ ネマ ・パ ラ ダ イス 、 バ ッ ク トゥーザ フ ユー チ ャー 、バ ック

    トゥーザ フ ユー チ ャ ー2

    日本 版 実験 に使 用 した 表情 表 出 シー ン

    1.好 きな女 性 に合 う前 に 、深 呼 吸 して気 持 ち を落 ちつ かせ よ う と してい る。

    2.恋 人 との 出 会 い 。

    3.目 に涙 を浮 かべ て 、別 れ話 を恋 人 と して い る。

    4.仕 事 を無 事終 わ らせ て、 同僚 で あ る恋 人 と顔 を合 わせ 喜 んで い る。

    5.好 きな人 が 目の前 に現 れ る 。

    6.突 然 、 恋 人 か ら別 れ話 を切 り出 され る。

    7.そ れ まで好 きだ っ た人 と別 れ る。

    8.自 分 が あ る人 を好 きな こ と を他 人 に言 わ れ て しま っ た。

    9.部 下 の まず い電 話 応 対 の仕 方 に激 し く腹 を立 て て、 注 意 す る 。

    10.自 分 の友 人 を悪 く言 う友 人 の恋 人 に抗 議 して い る。

    ll.相 手 の思 いが け ない言 葉 に腹 を立 て 、 グ ラ ス の酒 を相手 に浴 びせ る。

    12.長 電話 に夢 中 にな り、振 り向 くと大勢 の 人が 並 んで い る 。

    13.相 談 を持 ちか け た相 手 か ら期 待 に反 した答 えが 返 って きた。

    14.相 手 が ま た同 じ失 敗 をす るの が 分 か っ て い るの に、 そ れ を教 えて や れ ず に

    苦 しんで い る。

    15.好 きな人 に 自分 の気 持 ち を話 して い る。

  • 53

    16.少 し戸 惑 い なが ら、 相 手 に提 案 を して い る。

    17.声 をか け た相 手 か ら無 視 され て し まう。

    18.約 束 を守 らな か っ た相 手 を無 言 で見 つ め て い る 。

    19.自 分 を裏 切 っ た友 人 に抗 議 して い る。

    20.旅 行 に出 か け て い る と思 っ て い た人 が 思 い が け ず 目 の前 に現 れ た 。

    21.好 きな 人 と再 会 した 。

    22.思 い が けず 別 れ 話 を切 り出 され た。

    23.相 手 の こ とを思 って つ い た嘘 が ばれ 、 そ れ が裏 目に出 て 恋 人 を傷 つ け て し

    まっ た。

    24.何 度 も受 験 に失 敗 した大 学 の 合 格 発表 を見 に きたが 、 や は り落 ち て い た。

    25.入 院 してい る友 人 の見 舞 い に きた と ころ、友 人 が元 気 な の を見 て 安心 した 。

    26.こ の友 人 を う ま く利 用 す れ ば テス トで100点 が とれ る と考 え てい る。

    27.お 酒 を一 気 に飲 ん で気 持 ちが 悪 くな っ た。

    28.大 学 の 友 人 の恋 人 の とこ ろ にお 見舞 い に来 た。

    29.自 分 以外 の女 性 と親 し く して い る 恋 人が 訪 ねて きた 。

    30.思 わず イ タイ と思 う夢 を見 て 、 目が覚 め た。

    31.お 酒 を一気 に飲 んで 気 持 ちが悪 くな っ た。

    32.失 恋 した相 手 と過 ご した 日々 を思 い出 して い る。

    33.病 院 で傷 の治 療 を受 けて い る 。

    欧 米版 実験 に使 用 した表 情表 出 シ ー ン

    Lわ が子 を危 ない 目 に遭 わせ た男 に対 して 母 親 が抗 議 してい る。

    2.喫 茶 店 に はい りコー ヒー を注 文 した と ころ 、 隣 の男 が 自分 の 父 親 とわ か り

    驚 く。

    3.母 親 に叱 られ た子 供 が母 親 に泣 き なが ら くっ て か か る。

    4.窮 地 を脱 出 す る 方法 が書 いて あ る紙 切 れ を読 み、 興 奮 す る。

    5.男 が 、 い た ず ら を した子 供 に激 怒 し、怒 鳴 っ て い る。

    6.危 機 一 髪 。

    7.自 分 の 目の前 で友 人 が 射 殺 され る 。

  • 54

    8.銃 口 を向 け られ 、打 た れ そ う に なる が 、弾 が きれ て い る の に気 づ く。

    9.憧 れ の女 性 を幸 せ そ うにみ つ め なが ら、 彼 女 の悩 み を 聞 い てい る。

    10.全 く聞い た こ との な い演 奏 を聞 い て 、信 じられ な い とい う顔 をす る 。

    !1.願 いが か な え られ 、喜 ぶ 。

    12。 暴 漢 に襲 わ れ 、抵 抗 す るが か な わず 恐 怖 の 表情 を浮 か べ る。

    13.性 的 魅 力 を感 じて い る相 手 にた い して女 性 が興 味 津 々の 表 情 を浮 かべ る。

    !4.信 条 と反 す る こ とを受 け入 れ ざ る を得 ない状 況 で 、怒 りなが らな げ く。

    15.突 然 、女 性 か らキス を され 、驚 き戸 惑 う。

    16.幼 い 子供 が母 親 に禁 止 され て い た こ と を して 、母 親 にみ つ か る。

    17.妻 が 夫 の死 を悲 しみ 嘆 く。

    18.緊 張 とあせ りの ため ミス を して驚 き、戸 惑 う。

    19.軽 蔑 。

    20.銃 を もつ 男 た ち に追 わ れ、 逃 げ よ う とす るが 車 の エ ン ジ ンが かか ら ない 。

    21.若 い 男が 好 きな女性 の前 で 幸福 感 を味 わ い なが ら、 自己紹 介 をす る。

    22.強 そ うな男 が 逃 げ 回 る憎 ら しい 男 を と う とう捕 まえ た。

    23.未 来 の 自分 の 家 の前 に きて、 今 か ら入 ろ う とす る。待 ち きれ ない様 子 。

    24.自 分 の30年 前 の姿 をみ て、 驚 きな が ら自分 の 顔 や手 を みつ め る。

    25.友 人 に恥 ず か しそ うに 自分 の あ こが れ て い る女 性 に つ い て話 をす る 。

    26.男 が信 じられ な い光 景 に接 し、恐 怖 と驚 きの 表 情 を示 して絶 叫 して い る。

    27.自 分 の悪 事 を詮 索 してい る 弱 そ うな男 を、 侮 蔑 と警 戒 心 を感 じな が ら、 に

    らみ返 す 。

    28.愛 す る恋 人 と別 れ る こ とに な り悲 しんで い る 。

    29.腰 抜 け呼 ば わ りされ た 相手 をに らむ。

    30.待 っ てい た車 が 来 た と思 い 、暗 闇の 中 を走 っ て くる車 を凝視 す る。