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Kaleidoscope 27 26 が国で集中治療室に専従医が いる施設は、現在のところ多 くはありません。一部の大病院を除 けば、集中治療室においても各科専 門医による主治医制が取られている のが現状であり、医局に入った若手 医師は、きちんとした集中治療のト レーニングを受けたことがない先輩 が実践している診療を、“見よう見ま ね”で受け継いでいるのが現状です。 米国では医療の質を担保する目的 で、集中治療のプログラムを修了して いない医師を対象に、「患者の重症化 をいち早く認知して評価し、集中治療 専門医に引き継ぐ」までの教育コース が考案されています。1994 年に米国 集中治療医学会(Society of Critical 米国における集中治療医学教育 CareMedicine:SCCM)によって開発 された Fundamental Critical Care Support (FCCS)は、集中治療医以外 の医師(非クリティカルケア医)のみな らず看護師などのコメディカルスタッフ をも対象として、米国を中心に 36 カ国 に広まっています。 わが国では、第 36 回日本集中治療 医学会(2009 年 2 月、大阪)に併せて FCCS の第 1 回のコースが開催されま した。以降、2010 年 2 月までに計 5 回 のコースが開催され、プロバイダー資 格を取得した医療従事者は、医師 142 名、看護師 35 名、臨床工学技士 7 名 の合計 184 名にのぼります。 運営に関しては、日本集中治療教育 研究会内の「FCCS Japan運営委員会」 が米国集中治療医学会と連携を取り ながらコース内容のブラッシュ・アップ を図っています。 コースの目的は、 ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support) JATEC TM (Japan Advanced Trauma Evaluation and Care) のように「標準化された診療」を 習得することです。基本的には、テキ ストを元にしたスライドによる講義とス キル・ステーションを 2日間に分けて学 習します()。 まず講義の内容は、「重症患者の見 分け方と評価」、「ショックの診断と治 療」、「血流、酸素化、酸塩基平衡のモ FCCS の内容と特徴 わが国における FCCS ニタリング」、「生命を脅かす電解質異 常 および 代 謝 異 常 の 管 理 」など から 「集中治療における倫理」に至るまで 幅広いものとなっています( 図1)。学 習領域は広範囲なものですが、基礎 となる重要項目は確実に押さえられて おり、重症患者に対する診療アプロー チがしっかりと身に付くように配慮され ています。スキル・ステーションは、「敗 血症性ショック」、「外傷」、「人工呼吸 管理」、「気道確保」などを学びます 図 2、3 )。 FCCS 最大の特徴は、コース修了に 関する条件が非常にフレキシブルと なっていることです。米国集中治療医 学会が指定する条件を満たしてさえい れば、テキストの全項目を必修とする 必要がないのです。つまり、コース運 営にあたって、講義やスキル・ステー ションを自由に組み合わせてアレンジ することができるようになっているの です。コースは 2 日間連続開催である 必要もありませんし、日程は受講生の 背景を考慮して組み直すことさえも許 容されています。これによって、受講 生のニーズに合わせた学習内容のコー ス提供が実現できるようになっている のです。 外科医であろうと内科医であろうと、 重症患者の診療を安全に行うために は“最低限の集中治療の知識と技術” は必須のものです。FCCS による講義 とスキル・ステーションによる知識と技 術の習得は「重症患者の診療の質」を 向 上 さ せるもの で あり、 F C C S はわ が 国 にとって 必要不可欠の教育ツール になると考えています。 集中治療の基礎を学び たい先生方は、ぜひとも 受講を検討してみてはい かがでしょうか。FCCS に 関する情報は右のホーム ページをご覧ください。 FCCS の普及に向けて 児玉貴光 *1 藤谷茂樹 *2 讃井將満 *3 安宅一晃 *4 FCCS Japan 運営委員会 集中治療の基礎を学びたい外科医へ “FCCS”による集中治療の標準化と普及 図1 FCCS の講義風景 図2 FCCS のスキル・ステーション(敗血症性ショック) 図3 FCCS のスキル・ステーション(人工呼吸) * 1 聖マリアンナ医科大学救急医学 * 2 聖マリアンナ医科大学救急医学 講師 * 3 自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科集中治療部 講師 * 4 大阪市立総合医療センター集中治療部 副部長 表 第 2 回 FCCS の日程表 1 日目(6/20) 学習内容 担当 7:30 ~ 8 :00 受付 8:00 ~ 8 :15 プレテスト 8:15 ~ 8 :30 FCCS 概略 安宅 一晃 8:30 ~ 9 :00 重症患者の見分け方と評価 児玉 貴光 9:00 ~ 9 :30 血流、酸素化、酸塩基平衡のモニタリング 天谷 文昌 9:30 ~ 9 :35 休憩 9:35 ~ 10:05 急性呼吸不全の診断と治療 児玉 貴光 10:05 ~ 10:35 人工呼吸 その 1 讃井 將満 10:35 ~ 11:05 人工呼吸 その 2 讃井 將満 11:05 ~ 11:10 休憩 11:10 ~ 11:40 ショックの診断と治療 藤谷 茂樹 11:40 ~ 12:10 致死的感染症:診断と抗菌薬の選択 藤谷 茂樹 12:10 ~ 13:00 昼食 / インストラクター・カリキュラム 安宅 一晃 13:00 ~ 17:00 スキル・ステーション(1~ 4) 1:気道管理 上農 喜朗 2:血管確保 中川 雅史 3:敗血症性ショック 藤谷 茂樹、児玉 貴光 4:人工呼吸 A 天谷 文昌 17:00 ~ 17:30 特殊病態 天谷 文昌 17:30 ~ 18:00 集中治療における倫理 藤谷 茂樹 2 日目(6/21) 7:30 ~ 8 :00 受付 8:00 ~ 8 :15 休憩 8:15 ~ 8 :30 妊娠期の集中治療管理 藤谷 茂樹 8:30 ~ 9 :00 生命を脅かす電解質異常および代謝異常の管理 天谷 文昌 9:00 ~ 9 :30 神経学的サポート 藤谷 茂樹 9:30 ~ 10:00 急性冠症候群 児玉 貴光 10:00 ~ 10:15 休憩 10:15 ~ 12:15 スキル・ステーション(5~ 6) 5:人工呼吸 B 安宅 一晃 6:人工呼吸 C 讃井 將満 12:15 ~ 13:00 昼食 13:00 ~ 15:00 スキル・ステーション(7~ 8) 7:非侵襲的陽圧換気 天谷 文昌 8:外傷 児玉 貴光 15:15 ~ 16:15 ポストテスト 16:15 ~ 16:30 コース評価 安宅 一晃 集中治療の基礎を学ぶための 2 日間のコースの例である。 http://fccs.asia/ FCCS Japan運営委員会のホームページ。 受講生募集の告知などの情報が得られる。 http:www.sccm.org 米国集中治療医学会のホームページ。 左側の FCCS から詳しい情報が得られる。

Kaleidoscope - JSEPTIC2010/10/18  · Kaleidoscope 26 27 わが国で集中治療室に専従医が いる施設は、現在のところ多 くはありません。一部の大病院を除

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Page 1: Kaleidoscope - JSEPTIC2010/10/18  · Kaleidoscope 26 27 わが国で集中治療室に専従医が いる施設は、現在のところ多 くはありません。一部の大病院を除

Kaleidoscope

2726

わが国で集中治療室に専従医が

いる施設は、現在のところ多

くはありません。一部の大病院を除

けば、集中治療室においても各科専

門医による主治医制が取られている

のが現状であり、医局に入った若手

医師は、きちんとした集中治療のト

レーニングを受けたことがない先輩

が実践している診療を、“見よう見ま

ね”で受け継いでいるのが現状です。

米国では医療の質を担保する目的

で、集中治療のプログラムを修了して

いない医師を対象に、「患者の重症化

をいち早く認知して評価し、集中治療

専門医に引き継ぐ」までの教育コース

が考案されています。1994年に米国

集中治療医学会(Society of Critical

米国における集中治療医学教育Care Medicine:SCCM)によって開発

された Fundamental Critical Care

Support(FCCS)は、集中治療医以外

の医師(非クリティカルケア医)のみな

らず看護師などのコメディカルスタッフ

をも対象として、米国を中心に36カ国

に広まっています。

わが国では、第36回日本集中治療

医学会(2009年 2月、大阪)に併せて

FCCSの第1回のコースが開催されま

した。以降、2010年2月までに計5回

のコースが開催され、プロバイダー資

格を取得した医療従事者は、医師142

名、看護師35名、臨床工学技士7名

の合計184名にのぼります。

運営に関しては、日本集中治療教育

研究会内の「FCCS Japan運営委員会」

が米国集中治療医学会と連携を取り

ながらコース内容のブラッシュ・アップ

を図っています。

コースの目的は、ACLS(Advanced

Cardiovascular Life Support)やJATECTM

(Japan Advanced Trauma Evaluation and

Care)のように「標準化された診療」を

習得することです。基本的には、テキ

ストを元にしたスライドによる講義とス

キル・ステーションを2日間に分けて学

習します(表)。

まず講義の内容は、「重症患者の見

分け方と評価」、「ショックの診断と治

療」、「血流、酸素化、酸塩基平衡のモ

FCCSの内容と特徴

わが国におけるFCCS

ニタリング」、「生命を脅かす電解質異

常および代謝異常の管理」などから

「集中治療における倫理」に至るまで

幅広いものとなっています(図1)。学

習領域は広範囲なものですが、基礎

となる重要項目は確実に押さえられて

おり、重症患者に対する診療アプロー

チがしっかりと身に付くように配慮され

ています。スキル・ステーションは、「敗

血症性ショック」、「外傷」、「人工呼吸

管理」、「気道確保」などを学びます

(図2、3)。

FCCS最大の特徴は、コース修了に

関する条件が非常にフレキシブルと

なっていることです。米国集中治療医

学会が指定する条件を満たしてさえい

れば、テキストの全項目を必修とする

必要がないのです。つまり、コース運

営にあたって、講義やスキル・ステー

ションを自由に組み合わせてアレンジ

することができるようになっているの

です。コースは2日間連続開催である

必要もありませんし、日程は受講生の

背景を考慮して組み直すことさえも許

容されています。これによって、受講

生のニーズに合わせた学習内容のコー

ス提供が実現できるようになっている

のです。

外科医であろうと内科医であろうと、

重症患者の診療を安全に行うために

は“最低限の集中治療の知識と技術”

は必須のものです。FCCSによる講義

とスキル・ステーションによる知識と技

術の習得は「重症患者の診療の質」を

向上させるものであり、

FCCSはわが国にとって

必要不可欠の教育ツール

になると考えています。

集中治療の基礎を学び

たい先生方は、ぜひとも

受講を検討してみてはい

かがでしょうか。FCCSに

関する情報は右のホーム

ページをご覧ください。

FCCSの普及に向けて

児玉貴光*1/藤谷茂樹*2/讃井將満*3/安宅一晃*4/ FCCS Japan 運営委員会

集中治療の基礎を学びたい外科医へ―“FCCS”による集中治療の標準化と普及―

■図1 FCCSの講義風景

■図2 FCCSのスキル・ステーション(敗血症性ショック)

■図3 FCCSのスキル・ステーション(人工呼吸)

*1聖マリアンナ医科大学救急医学 *2聖マリアンナ医科大学救急医学講師 *3自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科集中治療部講師*4大阪市立総合医療センター集中治療部副部長

■表 第2回FCCSの日程表

1日目(6/20) 学習内容 担当

7:30~ 8:00 受付8:00~ 8:15 プレテスト8:15~ 8:30 FCCS概略 安宅 一晃8:30~ 9:00 重症患者の見分け方と評価 児玉 貴光9:00~ 9:30 血流、酸素化、酸塩基平衡のモニタリング 天谷 文昌9:30~ 9:35 休憩9:35~10:05 急性呼吸不全の診断と治療 児玉 貴光10:05~10:35 人工呼吸 その1 讃井 將満10:35~11:05 人工呼吸 その2 讃井 將満11:05~11:10 休憩11:10~11:40 ショックの診断と治療 藤谷 茂樹11:40~12:10 致死的感染症:診断と抗菌薬の選択 藤谷 茂樹12:10~13:00 昼食 / インストラクター・カリキュラム 安宅 一晃13:00~17:00 スキル・ステーション(1~4)

1:気道管理 上農 喜朗2:血管確保 中川 雅史3:敗血症性ショック 藤谷 茂樹、児玉 貴光4:人工呼吸A 天谷 文昌

17:00~17:30 特殊病態 天谷 文昌17:30~18:00 集中治療における倫理 藤谷 茂樹

2日目(6/21)

7:30~ 8:00 受付8:00~ 8:15 休憩8:15~ 8:30 妊娠期の集中治療管理 藤谷 茂樹8:30~ 9:00 生命を脅かす電解質異常および代謝異常の管理 天谷 文昌9:00~ 9:30 神経学的サポート 藤谷 茂樹9:30~10:00 急性冠症候群 児玉 貴光10:00~10:15 休憩10:15~12:15 スキル・ステーション(5~6)

5:人工呼吸B 安宅 一晃6:人工呼吸C 讃井 將満

12:15~13:00 昼食13:00~15:00 スキル・ステーション(7~8)

7:非侵襲的陽圧換気 天谷 文昌8:外傷 児玉 貴光

15:15~16:15 ポストテスト16:15~16:30 コース評価 安宅 一晃

集中治療の基礎を学ぶための2日間のコースの例である。

http://fccs.asia/FCCS Japan運営委員会のホームページ。受講生募集の告知などの情報が得られる。

http:www.sccm.org米国集中治療医学会のホームページ。左側のFCCSから詳しい情報が得られる。