24
1 難しい… の若者語について 学言語研究所教授 20101124於:獨協学 0. はじめに はじめに はじめに はじめに ただいまご紹介にあずかました学のとします。この 6か間、獨協学の先方、また事務の方々には、あたたかく迎え入てい ただき、この学の素しいにはいつも感激しています。また、 このたびは私にこうした機会お与えいただき、あがとうございました。関係者 の方々にはあためて御礼し上げます。 さて、日は、の若者言葉についてお話したいと思いますが、私の年代 になますと、同じ人でも若い人たちが使う言葉は「、むずかしい」 ものですし、には完全に「いっちゃって」場合もあます。こは日でも同 じかもしませ。 先ずはの若者語考え前に人自身が若者語どのうに受け取って いか見ましう。(Video 1: Umfrage Trier) 1.私たちは たちは たちは たちは何語 何語 何語 何語話していのか していのか していのか していのか? 私は北の市出身で、自分としては、ずっと語の標準語 話していと思っていました。ご存じの方もおと思いますが、の 周辺にはPlattdeutschと言う方言使う人たちがいます。platt- とか nieder- とい った、く方言の呼び名につけ接頭辞は、北部やなどの低地 や平地のこと指しています。では、お手元の配布資料 1 1-1)ご覧ください。 この例でもお分かのうに方言では、発音のほか、語彙も、標準語とはずいぶ 違ってきます。配布資料(1-2,1-3)この他に方言では、文や語の形態が場合もあます。また日の方 言などでは体系や敬語の使い方にも違いがみます。 極端に違う方言ですと、双方が同じ体系の言語使っていにもかかず、お 互いに解できなくな場合さえあます。北と南の方言がそのう な一例です。の語も、一般の人には非常に分かにくいもので 1 講演の配布資料は17頁以下にあます。

JS JapGzDokkyo - kanji.de · Title JS_JapGzDokkyo Author: Genenz Created Date: 12/9/2010 7:06:17 AM Keywords ()

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • 1

    チョー難しい… ドイツの若者語について

    ボン大学東洋言語研究所教授 カイ・ゲーネンツ

    2010年11月24日 於:獨協大学

    0. はじめにはじめにはじめにはじめに ただいまご紹介にあずかりましたボン大学のカイ・ゲーネンツと申します。この

    6か月間、獨協大学の先生方、また事務の方々には、大変あたたかく迎え入れていただき、この大学の素晴らしいホスピタリティにはいつも感激しています。また、

    このたびは私にこうした機会をお与えいただき、ありがとうございました。関係者

    の方々にはあらためて御礼を申し上げます。 さて、本日は、ドイツの若者言葉についてお話をしたいと思いますが、私の年代

    になりますと、同じドイツ人でも若い人たちが使う言葉は「チョー、むずかしい」

    ものですし、時には完全に「いっちゃってる」場合もあります。これは日本でも同

    じかもしれません。

    先ずはドイツの若者語を考える前にドイツ人自身が若者語をどのように受け取って

    いるかを見ましょう。(Video 1: Umfrage Trier) 1....私私私私たちはたちはたちはたちは何語何語何語何語をををを話話話話しているのかしているのかしているのかしているのか???? 私は北ドイツのハンブルグ市出身で、自分としては、ずっとドイツ語の標準語を

    話していると思っていました。ご存じの方もおられると思いますが、ハンブルグの

    周辺にはPlattdeutschと言う方言を使う人たちがいます。platt- とか nieder- といった、よく方言の呼び名につけられる接頭辞は、ドイツ北部やオランダなどの低地

    や平地のことを指しています。では、お手元の配布資料1(1-1)をご覧ください。 この例でもお分かりのように方言では、発音のほか、語彙も、標準語とはずいぶ

    ん違ってきます。配布資料(1-2,1-3)。 この他に方言では、文法や活用語の形態が変わる場合もあります。また日本の方

    言などではアクセント体系や敬語の使い方にも違いがみられます。 極端に違う方言ですと、双方が同じ体系の言語を使っているにもかかわらず、お

    互いに理解できなくなる場合さえあります。北ドイツと南ドイツの方言がそのよう

    な一例です。スイスのドイツ語も、一般のドイツ人には非常に分かりにくいもので

    1 講演の配布資料は17頁以下にあります。

  • 2

    す。一般の日本人も琉球諸島で話されている方言、いわゆる「島の言葉」は全く理

    解できません。 こうなると、これは方言なのか、それとも違う言語なのか、という問題がでてき

    ますが、これは意外と難しい問題です。同じ体系に属する言語だから方言だという

    のであれば、一般には違う言語とされているデンマーク語もスウェーデン語も、本

    来ならゲルマン語の方言だと言うべきでしょう。スペイン語、フランス語、イタリ

    アも同じ言語系に属していて、よく似ているところが多いので異なる言語というよ

    りも、むしろロマン語系の方言といってもよいはずです。このように方言と異種言

    語との境目をどのように決めるべきかということは一見するほど簡単ではありませ

    ん。 でもさて最初に申し上げたとおり、私自身は標準ドイツ語を話しているとずっと

    思っていました。ところが34歳でハンブルグを離れてNordrhein-Westfalen州のボッフム市に引っ越して大学の同僚と話をした時、私が北ドイツ出身であることはす

    ぐに皆にばれてしまいました。 その後ベルリン大学でも、そして今のボン大学でも、同僚たちは私のことをすぐ

    に北ドイツ人だと見分けました。そして先日、なんとこの獨協大学の学生さんにさ

    えも、北ドイツの人だと同定されました。ハンブルグの市名をHamburgではなくHamburchと発音したことで分かったそうです。これを聞いただけで人は私のことを北の人だと特定できます。

    標準語と言うものはあくまでも理念的なもので、実際にはほとんど存在していま

    せん。日本語の標準語として定義された東京の山の手の言葉も、数年もすると、元

    のままのものではなくなっていました。日本語は時間を経て奈良の古語から平安の

    中古語、室町の中世語、徳川の近世語、そして明治以降の現代語へと「ゆく河の流れのようには絶えずして」変遷してきました。ドイツ語もそうです。その各時代の言語は、ある程度の標準語として機能していましたが、それにもかかわらわず、た

    えず大きく変化してきたのです。 私は数年前からよく

    Ich bin gerade am Überlegen Ich bin gerade am eMail schreiben

    などという言い方をするようになりました。これは非常に便利な言い方です。 ich bin gerade dabei zu (tun) で「今しているところだ」という意味になり、英語の進行形のように使えます。 この言い方は標準語ではなく、もともとは現在 私が住んでいるRheinland地方

    で広く使われていた方言に由来しています。ただ、この言い方はHamburchの発音とは違って、皆に便利だと思われていますし、これに代わる適当な表現もありませ

  • 3

    んので、きっとかなり早いスピードで普及して、近い将来には標準になっていくこ

    とでしょう。言語変遷と言うのはこのようなものです。 このように、標準語を話していると思っていた私自身のドイツ語も、じっさいに

    は北部ドイツや西部ドイツの言語的影響を受けています。私も、そして多分、皆さ

    んも、じっさいには標準語ではなくて、日常的にはいわゆるUmgangssprache、つまり普通語を話しているわけです。

    では次に、標準語や方言や普通語の他他他他にどんな言語の変種又は位相があるか考え

    て見ましょう。私のボン大学のドイツ人学生さんは日本語の「容疑者」と言う言葉

    を必ずと言っていいほどVerdächtiger と独訳します。でもそれは一般人の言う言葉です。弁護士とか裁判員であれば、必ずTatverdächtigerと言います。

    法律用語では、一般に同じ意味とされているEigentumとBesitz(所有物)という

    言葉もはっきりと区別されています。ドイツの林務官やハンターはSchwanzをRute、Haut をBalg、OhrをLöffelと言います。技師も医者も皆それぞれの専門の用語を使っています。そう言う仲間同士のための言葉づかいを日本語学では「位相」

    と呼んでいます。

    集団による、そうした位相は、普通語とは乖離か い り

    する場合が多いですが、一つには

    安定性があること、また一つには、そのような言語を使用する人に対して敬意が払

    われることが理由で、これが言葉の乱れとして批判されることは、あまりありませ

    ん。 これについては面白いエピソードがあります。私の同僚の一人が研究室の壁に鏡

    がほしいと思い、そのための予算を大学に請求しました。しかし、鏡は研究室の

    必 需 品ひつじゅひん

    とはみなし得ないという理由で、その予算要望書は却下きゃっか

    されました。そ

    こでこの同僚は要望書の表現を変えて、「鏡」Spiegelという言葉を、「ヒューマン・レフレクター」Human Reflektorつまりは「人間反射装置」と書き直したら、すぐに予算が下りたというのです。配布資料1-5には、言語のいくつかの種類や位相について、その主な特徴と、対象グループが列挙されていますので、ご参照くだ

    さい。 さてそれでは若者語はこの分類のどこに入るのでしょうか。若者言葉は、同じ専

    門や、同じ地域に属するグループの言葉ではなく、同じ年齢のグループの言葉、い

    わば同世代の仲間語です。いうまでもありませんが、若者語は変動が速く、感動を

    表現する要素も多いため、専門語からほど遠いものです。 地域の影響を受けることもありますが、語彙、音声、文法を全体としてみれば、

    方言からも遠いものです。ただし同じ世代であっても改まった場面では あまり使

    われないという点は、方言と共通したところがあります。同じ年齢の若者でも親し

    いインナーグループ同士でないと、なかなか使われません。

  • 4

    逆に親しい仲間同士になると遊び感覚で新しい言葉をどんどん考えたり作ったり

    することがあり、この点が専門用語と一番異なる点です。弁護士さんが法廷で新し

    い言葉遊びなんかをしたら、どんなことになるでしょうか。 若者語は普通語の語彙や形態や文法などを、第一に「部分的」に、第二に「意識

    的」に変更した言語の変種といえます。なぜ部分的かと言いますと、それはほとん

    どの場合、音声や造語法の体系そのものには係らない変更だからです。 またなぜ意思的かと言いますと、一般に気付かれないまま「自然」と進んでいく

    言語の変遷とは異なるものだからです。中でも、とくに人々の注意を引くのは、若

    者が使う「語彙」の変化です。 このように言いますと、若者語は配布資料1-4の一覧で言えば、Stilebene にも

    近いように見えます。たとえば外交官や貴族階級は、一般に上品とされている既存

    の文体の語彙や文法を使用します。 政治家は時と場合によりますが、やはり外交的な場面などではそうでしょう。 これに対して若者は、仲間同士で、むしろ本来の意味を意図的に改変した、とき

    には乱暴で、上品さを逆なでするような語彙を口にしたりします。 この若者の語彙を紹介する前にちょっとだけかんたんにこれまでの研究史に触れ

    ておきます。 (Video 2: Straßeninterviews mit Beispielen aus Göttungen) 2. 若者語若者語若者語若者語のののの歴史歴史歴史歴史

    学生言葉についての最初の辞書が出たのはすでに250年前のことでした。18世

    紀には、ラテン語やギリシャ語を好んで用いる学生風 表現を使うことは、むしろ

    高級なことと思われていて、そうした辞書は(身分にふさわし)学生言葉の正しい

    使用法についてのガイドとして作られました。 過剰な外来語使用のために、ドイツ語が劣化してきたという批判が始まるのは、

    19世紀になってからのことです。こうした連関の中で、たとえば鉄道関係で用いられていたフランス語の語彙が廃止されました(資料2 ②ご参照下さい)。車掌さんは„controlleur“ から„Schaffner“に、プラットホームはPerron からBahnsteigに、車両はWaggonからWagenに、コンパートメントは Coupes から Abteil に、切符は Billet から Fahrkarteに切り替えられました。 ある特定の集団で使用される「特定言語」„Sondersprachen“ が最初に体系的に整理されたのは、1909 年前後のことでした。 その時、学生用語は、「年齢別グループ及び特定身分の言語」というカテゴリーに

    組み込まれました。しかし本来の意味での若者語の研究が始まったのは、1945年以降のことです。それは戦後の英米の影響が強まった結果であると同時に、もう少

  • 5

    し後の60年代になると、大人の価値観や規範から自分たちを区別しようとする独自の若者文化が発達していったことの結果でもあります。 若者語のさまざまな発展段階を図式的に書くと、配布資料の(2-1)のようになるでしょう。そして、この百年の語彙の変遷を表す一覧表を配布資料の(11)になります。 若者語が平成元年前後ごろ盛んになり始めたのはやはり80年代のSzenesprachenが流行したお陰です。この頃からドイツでは若者の語彙を扱っている辞書や一覧表が

    数多く出版されています。一方、若者語の「文法」や「音声」の視点から扱ってい

    る資料がほぼ皆無であることから、文法や音声については標準語とそれほど大きな

    相違点がないことが窺えます。 そこで最初に若者語の使用する語彙について述べることにします。 でも、先ずは若者自身から聞かせていただきましょう

    (Video 3: „Wissenschaftlicher Kommentar“) 3.若者語の語彙的要素 3.1. 語彙 まずは、若者語の特徴の一つであるNeubildung(新生語、新造語)をとりあげて

    みましょう。ちょっと歴史をさかのぼると19世紀の学生言葉には女性についてのいろいろな表現がありました。配布資料の3-1に、いくつかの例が挙げてありますので、ご参照ください。これが現代になりますと、3-2のような表現がみられます。Torte, Sahnetörtchen, Tussi は由来が分からないのですが、Brautは典型的なUmdeutungという意味改変の例です。

    Brautとは本来婚約者の意味で、今はガールフレンドとして使います。Torte,

    Sahnetörtchenはもしかしたら女性を美味しいデザートにたとえたのかもしれません。これらはもうかなりよく知られている言葉で、普通語でも使うようになりまし

    た。 学校関係の言葉になりますと、まずは70年代から知られているものとして、1-3

    の①のような例があります。ここには教育における権威主義を批判した学生運動の

    影響も感じられます。②であげたFlimmerkisteなどはすでに独和辞典にも載っています。そしてこの時代の学生運動にともなって③にあげたような英語から由来する

    外来語も使われるようになりました。 このほか、3-4に掲げたように、60年代に始まった と言われる漫画や幼児語の

    影響を受けた、i や o で切った省略形があります。また3-5に掲げたように、動詞

  • 6

    を名詞化した -e で終わる新語もあります。Fresseなどは、顔や口を表現する俗語として古くから知られています。 日本語の若者言葉にもオタッキーとかゾッキーとかあります。 造語性の強い、ドイツ語独特の分離 前つづりを使って若者の行動を指す動詞も

    かなり流行ってきました。3-6はそうしたものの一例です。また同じように、古くからある後置辞を使って形容詞を作る傾向もあります。3-7はその例です。中にはなかなか創造性を感じさせる新語もあって、3-8のようなものが挙げられます。

    このようなものが遊び感覚で数多くあります。若者以外にも、そういう言葉を考

    え出したりするのを楽しみにしている人がけっこういます。ただし一部を除いて

    は、あまり長持ちしない傾向に有ります。 若者の呼称について説明する前にドイツ人の若者の典型的な挨拶の例を一つ見ま

    しょう (Video 4: „Typisches“ Begrüßungsritual)

    呼称の数は多いです。3-9に一例として挙げたように、よく使われるAlder/AldaやDigger/Diggaの他、親しい相手には„Hallo du [alter] Wichser / Penner / Arschloch / Spasti / Trottel / Sau / Opfer“ などと普通であれば、かなり侮辱的な言葉で呼びかけることも少なくありません。女性に対しても同様です。このような表現は、遊び

    だと言っても、もともと怒りや反発を招くために使用されるわけですが、頻繁に使

    われて慣れてくると効果が薄れます。するとまた、それに変わるものがドンドン作

    られます。そして、若者が使わなくなったものが普通語に移動する場合も少なくあ

    りません。 同じような例は強調をする言葉にもあります。3-10に掲げたように、強調する言

    葉には二つのタイプが見られます。これらは長く使われると、次第に慣れてくるの

    で、また替わりのものが普及します。例えば副詞的に使われていたriesigを見ますと順次にkosmisch � gigantisch � galaktisch へと発展してきました。又、物事を評価する言葉にもそう言う傾向があります。3-12の①と②は60年代に使われ始めた語彙、③から⑤は現在使われれている語彙です。

    その中にあるgeilと言う言葉は80年代にaffengeilとなって、90年代oberaffengeil

    とますます強化された後、今では変形のendgeilが使われています。この言葉は形だけが変わったのではなく、意味の面白い変化も起こりましたのでちょっと詳しく

    述べさせていただきます。 19世紀の辞書ではgeilと言う言葉の意味はfröhlich, lustigとされていて、副次的意

    義として(Nebenbedeutung) 好色な(sexgierig)とも出ていますが、1977年の辞書には「好色な」とか「性的な興奮を起こす」としか出ていません。また1999年の辞典を見ますと100年前と同じように再びschön, gutと意味づけられるようになります。この場合は「よいもの」から「性的興奮を起こすもの」、そうして又「よいも

  • 7

    の」へという意味上の変遷がよく分かります。ただこの場合のように納得のいく変

    遷は少ないものです。

    4. Bricolage さてここまで、語彙を中心にお話をしてきましたが、若者語を構成するものには

    単語の単位を超えたものもよく見られます。これもまた遊び感覚で既存の語句を変

    更して組み立てたり、映画、テレビや広告などで見た表現を、本来の文脈から離れ

    た場面で使ったりするものです。たとえてみれば、もともと布地を とめる安全ピ

    ンをピアスに転用するのと似た現象です。 日本語の若者言葉の いいかげんに白黒テレビ とか してクレオパトラ とかを連想させられます

    そうした例を4-1にいくつか列挙しておきました。これらの例には、いかにも学生さんが発想したような考えすぎのものもありますが、全体に若者語には、その背景

    が分からず、意味が理解ができない例が少なくありません。4-2には、そのほかの例をあげておきましたので、あとでご参照ください。 5. 文法・文の構造 5.1 若者語は標準語を基礎にして、それを逸脱したところは殆んどありません。例えば、eyという助詞を「だよ」のように文末の感嘆詞として目立つほど多く使われていますが、機能的には従来からドイツ語にあるnichtとかnicht wahrやnä?とは余り変わりません。また強調する文末助詞のように使われていることばには、本来

    副詞の働きをするものもあります。これらを4-1に掲げておきました。 5.2 簡略化、曖昧化 引用するときには発言行動を表す動詞を簡略する傾向が見られます。5-2の①はそうした例です。また最後の文章にで出てくるsoは、発言を不確定なものにして和らげるためにも使われます。5-2の②にいくつか例をあげておきました。 これは日本語の食べたりとかして、明日とか暇ですのようなものを連想させます。 5.3. 2格の代用としての3格の用法 文法的な変化としては、2格の代用として3格を使用する例もよく見られます。こ

    れは若者語にとどまらず、すでに普通語にも生じつつある現象です。ただしこの変

    化には歴史的背景がありますので、それも見ておく必要があります。言語史的に見

    ると、2格にはあまりにも多くの機能が付随していました。たとえば目的語の結合

    もその一つです。そこで、5-3に示したように、中高ドイツ語の2格の目的語は、現在では他の格に置き換えられる傾向があります。

  • 8

    一般的に言うと、2格の用法は日本語の助詞「の」であらわされる(Attribut)限定詞の用法に限定されるようになってきています。 5.4. 進行形と格 ドイツ語では現在、「am [tun] sein」という形の表現がかなり急速に広がっているとということは、すでに述べたとおりです。たとえばIch bin noch am Überlegen (ich überlege gerade noch).といった言い方です。これは、他の多くの新造語と同様に、方言に由来するものですが、同時に、ドイツ語には存在しない英語のbe + ing(ビー プラス アイエヌジー)の形のように、現在進行中の出来事を表すの

    に用いられています。つまり、この表現が、ドイツ語の空 白くうはく

    部分を埋め合わせる

    新しい機能を果たすようになったということです。 若者が3格と4格を間違えて、通りで5-1の①のように話しているのが聞こえる

    ことがあります。この間違いも、方言と関係がありそうです。たとえば5-1-②には、いくつかベルリン方言をあげておきましたが、aとbでは本来4格を使用すべきところで3格が、またcでは逆に3格を使用すべきところで4格が使われています。

    6. 外来語外来語外来語外来語 ドイツ語の日常言語には、ここ何十年かの間に、大量の外来語が、とくに英語から

    流れ込んできました。(6.①) 今年の夏のサッカーの世界選手権では、ドイツ人たちが南アフリカから中継された

    試合をドイツのスタジアムに設置された大型画面、つまり「パブリック・ヴューイ

    ング」で観戦することができました。喫茶店では近頃、持ち帰るのできるコーヒ

    ー、つまり「コーフィ・トゥー・ゴー」を利用することができます。ドイツ鉄道が

    販売するのはもはや切符ではなく「チケット」です。そして案内は「サービス・ポ

    イント」で行っています。ドイツ・ポストが民営化されて以来、車を管理するのは

    営業車管理部(フーアパルク)ではなく、ドイツ・ポスト・「フリート」(車両

    隊)です。これにはさすがに各方面から批判の声が上がり、メディアでもくりかえ

    し取り上げられました。 若者語に見られる英語由来の語彙は、じっさいには一般の日常用語で使われてい

    るものと比べて特に多いわけではありませんが、英語由来の古い言葉がどんどん新

    しいものに置き換えられていくため、まるで若者が使用する語彙の大部分が英語で

    あるかのような印象を、多くの人がもってしまいます。 英語の外来語をドイツ語の文法規則に合わせてドイツ語の語彙に取り込むこと

    は、若者たちにとっては朝飯前のことです。というのも外来語もドイツ語ではつね

    に性が与えられ、また規則にあわせて複数形も作られるからです。一例を6-②に挙げておきました。ごくまれに性がはっきりせず、たとえばメールでdie/das、そし

  • 9

    て格助詞の意味のPartikelにはder/die/dasのいづれでも並置されるようなことがあります。 また③にあるように、外来語から来た形容詞もきちんと活用がされますし、動詞

    も④のように-enをつければ大丈夫です。これは日本語の若者言葉のサボるやコンパルとかマックル又はナウイやイマイのようなものとよく似た現象です。 時には、外来語があまりにも日常用語にすんなりとはいりこんでしまったために、

    若者が(そして大人も)それを外来語だと思わなくなることもあります。 この10年前からとくにベルリンとハンブルクで、若者語に大きな影響を与えているのは、移民言語、とくにトルコ語と一部ポーランド語です。これらの地域で

    は、いわゆる「キーツ・ドイツ語」、あるいはまた「カナーケン語」といわれるも

    のも広がっています。ドイツの若者たちはその要素を利用して、そのイスラム風の

    男らしさを表現したりします。また「下手くそなドイツ語」の真似をして面白がる

    という動機もその背後にはいくらか潜んでいるでしょう。 もっとも、こうした言葉を使っている若者たちのグループは14歳から17歳まで

    に限られています。それ以上の年齢になると、こうしたことはめったに見られなく

    なります。 こうしたキーツ語の特徴は、名詞の性の改変、変化語尾の同調、冠詞の脱落、前

    置詞の脱落や誤用、動詞と主語の語順の入れ替えなどです。これは⑤に列挙してお

    きますので、あとでご覧ください。 こうしたことについてはメディアも好んで取り上げ、これがまたきっかけとなっ

    て、若者たちが、ますますわざとそれを使用するようになります。最近ドイツに

    は、笑いをとるためにカナーケンドイツ語を使用するコメディー番組もあり、逸脱

    した言語が脱民族化してドイツ語に流れ込んでいます。言語学者の一部には、キー

    ツドイツ語に由来する新しい言語形式がドイツ語を豊かにしていると評価する人さ

    えいます。 たとえばIch bitte Sie darum, auszusteigen.というかわりに、単にBitte ausstei-gen!という形がすでにドイツ語で定着しているように、⑥にあげたような短縮形が今後、ドイツ語の中で市民権を得ていくかどうか、今度明らかになっていくことで

    しょう。そもそも、格変化など省略しても理解の妨げにならないということは、英

    語をみればあきらかで、実際、英語はそのようにして語尾変化を単純化してきたの

    です。 ただし、今の段階ではまだ違和感を感じる人がかなりいますので、獨協大学の学生

    さんとして特にドイツ語の先生を相手にした場面ではこのような簡略形を使わない

    ほうがいいと思います。 次のskitで配布資料で挙げた例が見られます。 (Video 5: Interview mit zugewandertem Jugendlichen)

  • 10

    7. 文字文字文字文字 手書きの文字は、若者たちの間ではもうほとんど何の役割もはたしていません。し

    かし、若者たちは、メール、ブログ、チャット、SMSなど新しいメディアで多く

    の文章を書いています。この点でも、いくつかの研究で次のことが明らかにされて

    います。 ネティケット(ネット上のエチケット)は正確な文章記述を要求しないのです。そ

    れは大人の書くものについてもあてはまります。今日、インターネットのフォーラ

    ムを見ますと、正書法上の、あるいは表現上の誤りがすぐに見つかります。 大人と同様に若者も、手紙の冒頭のあて名や、終わりのあいさつを書かなくなって

    います。„Sehr geehrter Herr“ とか „Liebe Mutti“ などと書かずに、せいぜい „gu-ten Tag“ とか „hallo“とか書くのです。また手紙の終わりにはもう、Mit freundli-chen Grüßenとは書かずに、省略形で、mfg、l.g.、v.g.、B.G.などと書きます。あるいはeineのかわりにne、habeのかわりにhab、war esのかわりにwars、sehenのかわりにsehn、auf demのかわりにaufmなど、日常用語と同じような省略形をずいぶん前から使っています。 略語は無数にあって、その一部は7-①と12にもあげてありますが、見ての通り英語から来たものもあります。昔の規則があまり意味を持たなくなってしまったことに

    対しては批判はもちろんありますが、教育学者たちは、若者が新しいメディアの登

    場によって、以前よりはまた書くことに向かうようになったことを強調してもいま

    す。 SMSのメッセージが160字に限られていることが、短縮形や省略形(„hab dich auch lieb“, „fands echt cool“) が頻出する理由であるかもしれません。他方、日本語にはこのような制限はないが、にもかかわらず、日本とドイツの携帯メッセージ

    はほぼ同じ長さ(25-30 から 90-95 字、ただし日本語の一文字は、翻訳ではおよそアルファベット3文字に相当)となっています。 テキストの文字性をいくぶん緩和して感情をもりこむために、若者たちはスマイリ

    ー(顔文字)を好んで使います。ドイツで使われているスマイリーが日本のものと

    違うのは、絵が少ないことですが、横から見ないとわかりません。その点では、日

    本人は読み解くために首を横にする必要はありません。(配布資料13を参照) 日本で使われている顔文字、絵文字は、まだドイツの携帯ではほとんど見られませ

    ん。ただし、kotz, ächz, würg, gluckgluck といった擬声語は、漫画と同様、書かれた文章の中でも好んで使われています。たとえばUnd er würg würg am Schluckenなどといった調子です。こうした表現はむしろ、日常会話ではほとんど耳にしない

    ものです。 8. 若者語若者語若者語若者語へのへのへのへの批判批判批判批判

  • 11

    若者語に対しては、特に70年代以降、批判が聞かれるようになりました。教員、企業、政治家、父母たちから発せられた批判の的になったのは、排泄物に関する汚

    い言葉や他者への侮蔑表現、漫画の言葉、文法や綴りの間違い、そこから生じるコ

    ミュニケーション能力の低下などでした。こうしたことから、学校における文法教

    育と古典文学の読解をふたたび強化することが多方面から求められたのです。 言語の劣化に対するこうした批判は同時にメディアにも向けられました。メディア

    は19世紀末からすでにこうした事態に共同責任を負わされていました。じっさい一方では、新聞がインターネットと競合し、財政的に窮地に追いやられ、かつての

    ような編集上の緻密さを新聞から期待できなくなっていることが分かります。 しかし他方、メディアは、商業的利害から、若者たちの言語的な逸脱を好んで取り

    上げています。たしかに一部は批判的に扱っていますが、しかし同時に彼らはそれ

    によって、社会の中にそのような現象が広がるのに貢献もしています。こうして、

    70年代ならばメディアの中で猥雑であると判断され、タブー視されたような品のない、性的な侮辱的表現が、今日では、もう少しはっきりとした文体レベルで、い

    まなお日常言語の一部に受け入れられています。 もっともこれは、80年代、90年代に、生活スタイル全般について見られるようになった世代の接近とも関係しているでしょう。これは大学での教員と学生の服装を

    みてもはっきりわかります。60年代には、イギリスのビートミュージックやロックンロールは「黒人の音楽」と呼ばれたものです。 若者の「言語の劣化」に対するこうした批判は、実のところ、2000年前からずっと続いてきたのです。こうした批判の奇妙なところは、方言の劣化や、かつての言

    語水準の劣化を嘆く人が誰もいないという点です。つまり、言語変遷はつねにあっ

    たにもかかわらず、批判されるのはいつも、現在の時点で、意識的に感じ取られる

    変化だけだということです。 通常は、言語の変遷は無意識のうちに進みます。意識にはっきりとのぼるのは、自分に続く世代が新しいヴァリエーションを持ち込んだとき、つまり私が「gut」とか「toll」とか言っていたのを、若い人が「cool」とか「voll fett」とか言ったときに限られるのです。 しかし、こうした変化は通常、あまり重大なものではありません。そのような変化

    が生じても世代間の相互理解は引き続き可能なのです。なぜならこの変化は突然起

    こるのではなく、従来からあったAという形に並んでBという形が誕生し、そのBが再び消滅していくか、あるいは徐々にAを押しのけていくか、といったふうに進んでいくものだからです。言えばかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなしという言葉を連想させられます。 またしばしば批判される外来語の使用についても、ドイツ語には、長期的に見れば

    それほど急激な外来語の増加があるわけではありません。一方で新しい外来語が入

  • 12

    ってくると、他方では多くの外来語が忘れられていきます。1880年にドゥーデンに掲載されていた外来語の多くは、今日では全く使われていません。さらにいう

    と、英語系の言葉の使用が若者語の重要な指標だというのも当たっていません。こ

    れは③の例を見てもわかるでしょう。 英語の語彙は30~40%がロマン語系から来ています。日本はおよそ50%が漢

    語です。それに比べると、ドイツ語で実際に今日使われている英語はせいぜいで

    1%どまりです。 外来語の使い過ぎとは別の批判は、たとえばすでに述べた„am (tun) sein“のような、形態論上や統語論上の変化に向けられています。もっともこれは若者語にかぎ

    ったことではありません。とくに④に掲げた例などが問題になります。つまり因果

    関係を示す„weil“ や接続詞„obwohl“などの文章における語順などです。 またc やd の文章は、これまでさんざん批判されてきましたが、それでもあいかわらず使い続けられています。それはこれらのヴァリエーションが、独特のコミュニ

    ケーションのための機能を果たしているからです。たとえばある質問や要求を理由

    づけの中にいっしょに入れこんでしまう、といった機能です。 さらに付け加えておかねばならぬことは、これらのヴァリエーションもまた若い世

    代の発明品ではなく、何十年も前から存在し、ヘルダーリン(1770-1843)やブレヒト(1898-1956)といった著名な作家によっても使われているということです。 次の問題は、若者たちが接続法を次第に使わなくなっているという問題です。そこ

    には形態の多様性が減少していく傾向が見られ、これは英語がすでに経験してきた

    ことです。同じような傾向は、命令形の形態についても見られます。 動詞の三基本形については⑥に示したように強変化から弱変化への移行が数十年以

    来続いています。 ここには、競合する形態(強変化と弱変化)が併存しているような場合には、規則

    の最小化に向かう傾向があるという言語におけるひとつの原則が示されています。

    同じことは、たとえば日本語における「ら抜き言葉」などでも観察できます。 時制パラダイムの拡大は、新たに登場した「ウルトラ完了形」に見ることができま

    す。この機能はまだ正確には解明されていませんが、歴史を振り返ってみると、リ

    ルケ (1875-1926)や、ゲーテ (1749-1832) にさえこうした表現を見つけることができます。 若者が起こしたとされる多くの「刷新」がありますが、それらも詳しく見てみる

    と、すでに何世紀も前から言語の中に存在していたことが分かります。これはたと

    えば副詞から形容詞への機能転換などについてもいえます。これなどもゲーテの中

    にあり、同じことは形容詞の語尾変化の欠落などにもあてはまります。

  • 13

    同じような用法は以前の言語段階の残余として古いことわざや定型句の中に残って

    います。ここでも、英語に見られた形態の簡略化を思い出すことができるでしょ

    う。 以上、結論をまとめれば、よく若者言語のせいにされる多くの変化は、実際にはす

    でに普通言語の中に存在しているものであって、しばしば、長く継続している言語

    変化に由来するものだということです。今日われわれの目を引いている多くのこと

    が、じつは、ずっと以前から生じてきたことだったのです。 このような「規則を愚かにする」若者語批判は的はずれであることはわかってもら

    えたと思います。ところが日本では米川氏が記述した若者語に対する別の観点から

    の批判もあります。これはやはり、ドイツの場合にもあてはまります。(配布資料

    14) 若者自身がこのような批判を次のように見ています。 (Video 6: „Ich hasse Jugendsprache“) 9. 若者語若者語若者語若者語のののの広広広広がりがりがりがり 各種メディアは、若者たちのライフスタイルに決定的な影響を与えていますので、

    若者語の表現が広がり、固定化されていく際のもっとも重要な媒体となっていま

    す。こうしたメディアは商業的な思惑(売上目標)から、若者たちの新しいトレン

    ドをいち早く察知し、これをより多くのグループに知らせようとします。 音楽放送や、若者たちとの対談番組に特に力を入れているVIVAやMTVといったテレビ局はとくに重要な役割を果たしています。またテレビ番組の中には、一般にこ

    れまで放送で使用されてきたきちんとした話し方ではなく、若い視聴者に自分たち

    の言葉で自分たちが感じている社会問題を気軽に話をしてもらうことで、若い視聴

    者をゲットしようとしているものもあります。私は日本の番組はあまり知りません

    が、金曜日の夜に、サンマさんが出てきて、若い女性の個人的体験などを語らせる

    という番組があるようですね。皆さん、ほかにはどんな番組があるか、あとで教え

    ていただけますか。 報道番組やニュース解説といったまじめな番組は、使われている言葉が難しすぎ

    て、若者たちはもうほとんど見なくなりました。その一方で、若者向けの番組の普

    及や、人気のあるドイツの音楽グループやバンドが歌うヒット曲の歌詞は、若者語

    の普及に多大な貢献をします。そしてさらに多くの若者たちがこうした言葉遣いを

    真似したり、新しく作り直したりするようになります。 他方、こうした言葉遣いが広く知られるようになると、さらに新しい造語への圧力

    が高まり、若者たちのグループは、こうして生まれた表現を用いることで、他のグ

    ループや大人たちから自分たちを区別しようとします。いろいろな雑誌が若者語の

    問題を取り上げたり、出版社が商品としての若者語を発見して、市場に辞書類を提

    供したりするときにも、同じメカニズムが働いています。

  • 14

    (Video 7: Bushido-Text) 10. 若者語若者語若者語若者語のののの動機動機動機動機とととと機能機能機能機能 若者たちは選択の自由を活用して、自分の好みに合った音楽、服装、そして言葉遣

    いによって自分たちを他のグループから区別し、自分のグループへの帰属性を表現

    しようとします。こうして仲間内でアウトサイダーとして外されないように、集団

    に自分を合わせます。これは思春期に続く成熟期のごく普通のプロセスです。この

    時期になると、社会的活動、集団スタイルへの関心、メディア使用、セクシュアリ

    ティなどに充てることのできる自由の余地が広がります。そうなると当然、両親や

    教師による規制に対抗して、自分の周りに垣根をめぐらそうとします。労働市場に

    参入する時期が近づいてくると、こうした抵抗姿勢はふたたび弱まります(ユーミ

    ンが作詞作曲した『いちご白書をもう一度』という歌には、「僕は無精ヒゲをのば

    して、学生集会へも時々出かけた、就職が決まって髪を切ってきた時、もう若くな

    いさと君に言い訳したね」という一節がありますね)。 70年代と異なり、今日の若者たちの間では、わざと下品な表現を使って、親たち

    などを挑発するといったショック効果的な要素(社会的反抗)はもはや前面には出

    なくなりました。今日の若者語はメディアによって影響されたウィット文化の表現

    で、そこに多くの創造性が潜んでいるのが特徴です。 たしかに大人たちも、たとえばコマーシャルや、皮肉なコメントなどに見られるよ

    うに、言葉とは創造的にかかわっています。しかしながら、多くの場合人まねをも

    とにした若者たちの言葉遊びは、大人たちの場合と違って、なにかの目的に向かう

    ことはなく、そのときどきの思い付きに任せた自発的なもので、とくに深い考えは

    ありません。 若者たちにとって、大人の使う言葉は、多くの場合、あまりにも「フツー」で、

    「マトモ」で、「マジ」で、「退屈」です。友人の間で語り合う時には、大人の言

    葉は使えません。大人のゴタクは、そこでは望まれません。仲間内では、なにより

    すばやく、インスピレーション豊かに自分を表現しなくてはならず、そのときの気

    分と感覚をダイレクトに、かつ柔軟に言葉にできなければならないのです。 言語は集団との同一化のために用いられますが、それはまた同時に、集団と距離を

    とることにも役立ちます。すでにトゥホルスキー (1890-1935) が、こんなふうに書いています。参考資料にのせてありますから、あとで日本語に訳してみてくださ

    い。 „Wer auf andere Leute wirken will, der muss erst einmal in ihrer Sprache mit ihnen reden“ 他の人々に働きかけたいと思うなら、まずその人たちが使っている言葉でその人た

    ちと語り合わなければならない、というわけです。

  • 15

    ここには多くの真理が含まれています(たとえば日本語が話せる韓国人や中国人の

    数と、韓国語や中国語が話せる日本人の数を比べると、やはり日本がアジアの本当

    のメンバーになるためには、もっとアジア言語を学ばなければいけないと思います

    ね)。これは若者たちが、うまくまわりと理解し合うためには、状況に応じてさま

    ざまな言語スタイルを使い分けていくことができなければならないということを意

    味しています。ディスコで話をするときと、公的な場所で議論するときでは、いわ

    ば頭の中で使う辞書が違ってくるのです。だからこそ言語的な適応能力が必要とな

    るのです。 若者自身がスタイルの差異を次のようにからかっています。 (Video 8: Gegenüberstellung Jugendsprache/“Schriftsprache“) 若者語の創造性がとくに発揮されるのは、リラックスした親密さや情緒的一体性

    が確保されているところ、つまり親しい「仲間」や恋人と一緒にいる内輪のグルー

    プ内でのことです。ここでは、相手を馬鹿にしたり、ののしったりする言葉を、何

    の険悪な結果も懸念することなく、自由に使うことができます。この環境が、言語

    との遊び心にみちた交流にむかう勇気を与えるのです。この親密圏では、自分を伝

    えるのに、わざわざ文章にしなくても、個々のキーワードを発するだけで十分で

    す。つまり若者語というのは、すべての若者が共有している言語体系といったもの

    ではないのです。 ですから大人に対して、若者語を使って話しかけるというのは、もしその対話が楽

    しいものになるならば、その大人に対して若者たちが特別に信頼と共感の念を抱い

    ていることを伝える一種の承認のしるしでもあるのです。そうでなければ、彼らは

    大人語を使います。というのも、大人語を使うことによって、若者たちは、自分た

    ちの集団を、望ましからぬ人間の関与や侵入から守ることができるからです。 もし逆に、大人たちが若者語を使用すると、たいていの場合、それはこっけいでぎ

    こちないものに思われます。というのも彼らの語彙はたいていの場合、すでに古臭

    くなっていて、状況から「ズレ」ているからです。しかも、優位性を保つために、

    大人たちは、若者に近づく際に、間投詞のeyや、擬声語、下卑た表現など感情的な要素が入っている若者語の特徴は回避しようとします。 若者語についてさまざまな観点から考察してきましたが、最後にもう一度、若者語

    の特徴を整理することで、私の話を締めくくりたいと思います。

    (1) 若者語には感情的要素が強く入り込んでいます。 若者語には強調のための形容詞が多く使われます。これはあまりに頻繁に使

    用すると力を失い、「使い古されて」しまいます。それによって、素早い更

    新が行われます。 (2) 大人たちも使用する普通言語に組み込まれてしまったものは、若者たちから、もはや自分たちの集団語の一部とはみなされなくなって、別のもの

    で代用されます。

  • 16

    (3) 若者語にはセクシズムや人種差別、個人攻撃を含むものが多いです。しかしそれは集団の中に限定され、むしろ遊び感覚で使われ、とくにそれが

    重大な結果を生むことはありません。 (4) 若者語の使用には、教育レベルに応じた差異があります。「ストリート文化」(社会的に排除された若者たち)とパンカー若者層は、スタンダー

    ドからはずれた表現をもっともよく使うが、たとえばカトリック青年団のよ

    うに組織的に統制されている若者グループでは若者語の使用はあまり目立た

    ないのです。ギムナジウムの生徒たちは、若者語は「大人になるための障

    害」とみなして、拒否することも多いです。 そいうわけで、こんどドイツへ行って若者を見かけたら、“Hey ihr Penner, was geht ab?“と上手に発音しても必ずしも歓迎されないかもしれません。

    つまらない話しが長くなって本当にすみません。ご清聴を有難うございました。

    ・・・ 本原稿の作成に当たって参考になった主な文献 Susanne Augenstein: Funktionen von Jugendsprache. Studien zu verschiedenen Ge-sprächstypen des Dialogs Jugendlicher mit Erwachsenen, Tübingen 1998 Markus Denkler et al. (Hrsg): Frischwärts und unkaputtbar. Sprachverfall oder Sprach-wandel im Deutschen, Münster 2008 Rudi Keller: Sprachwandel. Von der unsichtbaren Hand der Sprache, Tübingen 1994 (2) Eva Neuland: Jugendsprache. Eine Einführung, Tübingen 2008 Eva Neuland (Hrsg.): Variation im heutigen Deutsch: Perspektiven für den Sprachunter-richt, Frankfurt/Main 2006 米川明彦「若者語を科学する」明治書院1998

  • 17

    チョー難しい… ドイツドイツドイツドイツのののの若者語若者語若者語若者語についてについてについてについて (配布資料配布資料配布資料配布資料)

    1. 私は何語を話しているのか? (1) Plattdeutsch(低地ドイツ語方言)の一例 ① mein Mädchen → min deern ② kein → keen ③ Hör mal ein bisschen zu → heer mol n beten toh ④ Komm mal wieder! → kiek mol wedder in ⑤ Guten Morgen, Guten Tag, Guten Abend → moin moin

    (2) 発音の違い ① ich → ick, isch ② wir → mer ③ was → wes, wat

    (3) 語彙の違い ① Brötchen → Semmel, Rundstück, Wecken ② Karotte → Wurzel, Möhre

    (4) さまざまな変種と位相 ① Fachsprache(専門語)

    a. Eigenschaft: differenzierter Lexik- und Syntax-Gebrauch b. Zielgruppe: Fachleute (Berufsgruppe)

    ② Kindersprache(幼児語、児童語) a. Eigenschaft: lückenhafte, fehlerhaft Phonetik, Lexik, Syntax, Weiterentwicklung b. Zielgruppe: Familie, Freundeskreis

    ③ Dialekt(方言) a. Eigenschaft: abweichende Lexik, Syntax. Phonetik b. Zielgruppe: Dialektsprecher (regionale Gruppe)

    ④ Stilebenen(Literatur, Tagebuch, Diplomatie, Rede)(文体レベル) a. Eigenschaft: ausgewählte Lexik, Syntax b. Zielgruppe: Leserschichten, eigene Person, Publikum (verschiedene Gruppen)

    2. 若者語の歴史 (1) 若者語の発展段階 ① historische Studentensprache und Schülersprache ② 50er Jahre: „Halbstarken-Chinesisch“ ③ 60er Jahre: „Teenager-Deutsch“ ④ 70er Jahre: „APO-Sprache“ (politisch aktive Studierende) ⑤ 80er Jahre: Vielfalt der Szene-Sprachen (Skateboarder-, Techno-, Hiphop-, Rapper-,

    Gothic-, Computer-Szene ⑥ 90er Jahre: „Mythos einer eigenständigen Jugendsprache“ ⑦ 2000- Entmythisierung (Gruppensprache, erklärende Ansätze)

    (2) フランス語の廃止 ① controlleur � Schaffner

    Perron � Bahnsteig Waggon � Wagen Coupes � Abteil Billet � Fahrkarte

    3. 若者語の語彙的要素

    (1) 「女性」を表現する19世紀の学生言葉 ① 掃除用具の箒(Besen)にかけたもの

    a. Florbesen b. Cattunbesen c. Waschbesen d. Küchenbesen

    ② 性的な含みを持ったもの a. Schnalle

  • 18

    b. Schnecke (2) 「女性」を表現する現代の若者語 ① Torte ② Sahnetörtchen ③ Tussi ④ Braut

    (3) 70年代の新生語 ① 学校関係の若者語(対応する普通語)

    a. pauken (lernen) b. Pauker (Lehrer、現代語ではKreidekratzerとも) c. spicken, fuschen (abschreiben)

    ② その他 a. alte Säcke (Eltern) → 袋からのUmdeutung b. Flimmerkiste (TV-Gerät) →ちらちら光る箱という意味の新生語

    ③ 英語からの転用 a. Sit in b. hearing c. teach in d. happening

    (4) 60年代以降の漫画や幼児語の影響 ① Promi (Prominenter, VIP タレント) ② Alki (Alkoholabhängiger アル中) ③ Softi, Laschi (弱しい、男らしくない、マッチョな人の反対) ④ Compi (Computerより) ⑤ Schleimi (おべっか使い) ⑥ Studi (Student/in 学生) ⑦ Navi (Navigationsgerät ナビ) ⑧ Depri (depressiven Eindruck machend 鬱のような人) ⑨ Normalo (normaler Mensch 普通の人) ⑩ Öko (ökologisch denkende Person 環境汚染や有機物などを大切にする人) ⑪ Schizo (psychisch gestörte Person 心理的異常の人)

    (5) –e による動詞の名詞化 ① Fresse (ツラfressen, 食う[動物]より) ② Lache (笑い声 lachenより) ③ Anmache (言い寄るanmachenより) ④ Tanke (ガススタンドTankstelle, tankenより)

    (6) 分離前つづりを使った表現 ① ab-checken (要注意: 調べる・調査するではなく、人と寝ること) ② ab-lachen (大きい声して笑う) ③ ab-hängen (時間を過ごす) ④ ab-kacken (壊れる、死ぬほど病気になる、使えなくなる、駄目になる) ⑤ ab-gehen (欠ける、起こる) ⑥ ab-chillen (リラクスする) ⑦ ab-dancen (夢中になってダンスする) ⑧ aus-rasten, aus-klinken, aus-tickern (いずれも「キレル」) ⑨ rum-hängen (何もしないでいる) ⑩ rum-chillen (何もしないでリラクスする) ⑪ rum-motzen (文句ばかり言う)

    (7) 後置辞を使った新形容詞 これまでのfahrplanmäßig (時刻通り)、berufsmäßig (仕事の関係で)、gefühlsmäßig (気持ちでは)と同じように ① sau-mäßig (非常に、非常によい又はひどい) ② geld-mäßig (予算的には、金から言うと) ③ sex-mäßig (セックスに関連して、セックス上)

  • 19

    (8) その他 ① Videot (Video + Idiot の合成語で、ビデオばかり観ている人) ② Türkentasche, Türkenkoffer (トルコなどからの労働者がよく買い物をするディスカウントチェーン店の買い物袋)

    ③ Trethupe/Fußhupe (kleiner Hund: 踏みやすい小犬のこと、踏むと警笛を鳴らすもの) ④ Datenzäpfchen (USB-Stick) ⑤ Pausenbrücke (Schulstunde)

    (9) 呼称 ① Alder/Alda ② Digger/Digga ③ Dude ④ „Hey du [alter] Wichser/Penner/Arschloch/Spasti/Trottel/Sau/Opfer“

    (10) 強調 ① 副詞タイプ

    a. echt b. voll c. irre d. tierisch e. ... gut drauf sein (機嫌が非常にいい)

    ② 接頭辞タイプ a. super- b. hyper- c. mega- d. ultra- e. giga-

    (11) 時間的変化 riesig → kosmisch → gigantisch → galaktisch (12) 評価に関する表現の変化 ① 「良いもの」についての60年代の表現

    a. bombig b. dufte c. toll d. spitze

    ② 「悪いもの」についての60年代の表現 a. trübe b. zickig

    ③ 「良いもの」についての現代の表現 a. klasse b. cool c. irre d. sahne e. fetzend f. konkret g. fett h. geil i. obama j. pornös

    ④ 「悪いもの」についての現代の表現 a. ätzend b. beknackt c. brutal d. gaga

    ⑤ 「良いもの」「悪いもの」の両方に使用できる現代の表現 a. tierisch b. scharf c. stark d. krass

    4. Bricolage

  • 20

    (1) 意味を転用した表現 ① Fit wie ein Turnschuh チョー元気だ ② Mein Hamster bohnert びっくり、驚きを表す ③ Einigkeit und recht viel Freizeit 協議と十分な自由時間 (Einigkeit und Recht und Freiheit ドイツ国歌の統一と権利と自由のもじり)

    ④ Trauring, aber wahr 結婚指輪だが、本当です (Traurig, aber wahr 残念だが真実ですのもじり)

    ⑤ Als Gott den Mann erschuf, übte sie noch (神は男を創造したとき、まだ稽古中でした) ⑥ Es gibt ein Leben vor dem Tod (死前の生涯があります)

    (2) その他 ① Bock haben (Lust/Appetit haben) ② gut drauf sein (guter Stimmung sein) ③ das war die Härte (das war anstrengend) ④ eine Show abziehen (芝居かがったことをする、大袈裟にする),

    (3) das ist voll der Hammer/Oberhammer (祭だってすばらしい事だ) (4) voll der Beschiss (最悪の)

    5. 文法・文構造 (1) 文末の感嘆詞、助詞 ① 感嘆詞ey (nicht, nicht wahr, nä)、文頭間投詞ey

    a. Das is voll cool, ey! b. Ey, haste gesehn? c. Ey, echt fett diese Show

    ② 副詞的表現を用いた文末助詞 a. Ich war genervt, echt. b. Das kriegst Du, logo. c. Das lohnt sich, ohne Scheiß.

    (2) 簡略化、曖昧化 ① 引用時の文末動詞の省略

    a. Und er hat gesagt, dass / er hat gesagt „Was willst Du?“ b. Und er so: „Was willst Du?“

    ② 発言を不確定なものにして和らげるためのso a. So ältere Schüler haben ..(ich weiß es nicht genau) b. Ältere Schüler oder so haben ...(wahrscheinlich ältere Schüler) c. So’n paar Leute (kenne die Zahl nicht)

    (3) 2格の代用 ① 他の格で代用される例

    a. dem Peter sein Handy (Peters Handy) b. wegen den Mädchen (wegen der Mädchen) c. während der Pause (während die Pause)

    ② 目的語としての2格の消滅 a. Diese Sache verlangt einer(中高独語)/eine(現代独語) Revision. b. Dieser Gegenstand ist eines Blickes(中高独語)/einen Blick(現代独語) wert.

    (4) 方言に由来する若者言葉 ① 若者言葉

    a. Laber doch nich so über ihr (rede doch nicht so über sie) ② ベルリン方言

    a. Ich liebe dir. (Ich liebe dich.) b. Ich hab dir da jesehen. (Ich hab dich da gesehen.) c. Dit kann mich nich passiern. (Das kann mir nicht passieren.)

    ③ ベルリンのヴィッツ a. Der kleine Berliner Junge kommt weinend in die Küche zur Mutter: "Mama, de Papa

    hat mir jeschlaagen!" Verbessert ihn die Mutter: "Mich!" Wundert sich der Junge: "Wat denn, dir auch?"

    6. 外来語の影響 ① あふれる英語由来の言葉

    a. Public Viewingパブリック・ヴューイング

  • 21

    b. Coffee togoコーフィ・トゥー・ゴー c. ticketチケット d. service pointサービス・ポイント e. Deutsche Post Fleetドイツ・ポスト・フリート

    ② 性と複数形 a. Der Job, die Jobs b. Der Boss, die Bosse c. Der Surfer, die Surfer d. Die Band, die Bands e. Das Steak, die Steaks f. Das Event, die Events

    ③ 形容詞の活用 a. Eine coole Braut, b. ein cooler Film, c. cooler als zuhause zu sitzen

    ④ 動詞の作り方 a. chillen/gechillt b. dissen/gedissd c. simsen (aus SMS!) / gesimst d. shoppen/geshopt e. youtuben, twittern, googeln …

    ⑤ 移民言語との混合 a. gutes Gewinn, großer Plakat(性の改変) b. Schlechten Gewissen, einer Deutscher(変化語尾の同調) c. Da wird Messer gezogen./Sonst bissu toter Mann.(冠詞の脱落) d. Ich wohne Köln./ War bei gleiche Krankenhaus.(前置詞の脱落、誤用) e. Jetzt ich bin 18.(動詞と主語の位置)

    ⑥ 新しい短縮形 a. Lassma aussteigen (lasst uns jetzt aussteigen) b. Mussu mitkommen (kommt ihr jetzt bitte mit) c. Ich mach dich Messer! (ich werde dich mit meinem Messer verletzen) d. Ich mach dich Krankenhaus (ich verletze dich so, dass du ins Krankenhaus gehen

    musst) e. Ich hab U-Bahn (ich fahre mit der U-Bahn)

    7. 文字 ① ネット上で使われる略語

    a. hdl (hab dich lieb) b. guk (Gruß und Kuss) c. vllt (vielleicht) d. lol (laughing out loud) e. rofl (rolling on the floor laughing) f. afaik (as far as I know)

    8. 若者語への批判 ① 汚い言葉

    a. Scheiße b. Kacke c. Arschloch

    ② 漫画の擬声語 a. ächz b. gluckgluck c. schmatz

    ③ 英語を多用するのは若者だけか? a. 職場で:„ Heute morgen hatten wir das Kick-Off-Meeting zum neuen Workshop zum

    Thema »Baselinening und Benchmarking«. Dabei haben wir festgestellt, dass einige Skills nicht in unser Portfolio passen. Außerdem müssen wir unser Customer Relati-onship Management verbessern, denn unsere Message kommt nicht so recht rüber.“

    b. 日常生活で:„ Eben bekomme ich von Customer Care der Deutschen Telekom AG die Message, daß ich jetzt meine Rechnung Online bekomme. Ich kann sie dann downloaden und auf meine Hard Disc storen. Nachdem ich sie auf meinem Laser-Jet

  • 22

    geprintet habe, kann ich sie dann dort wieder deleten, damit sie mir nicht zuviel Space wegnimmt. Für künftigen Access habe ich mir sicherheitshalber die URL der Web Site gebookmarkt. Bei Unklarheiten darf ich die Hotline contacten.“

    ④ 形態論上、統語論上の変化 a. „ das tut er nicht, weil er hat schon genug Ärger“ (das tut er nicht, weil er schon ge-

    nug Ärger hat) b. „ ich geh mit, weil was soll ich sonst hier tun?“ (ich gehe mit, weil ich nicht weiß, was

    ich sonst tun soll) c. „ so schaffen wir das nicht, weil guck mich doch mal an“ (So schaffen wir das nicht.

    Den Grund siehst du, wenn du mich anschaust) d. „ Ich komm mit, obwohl, den Flim hab ich schon gesehen“ (ich komme mit, obwohl

    ich den Film schon gesehen habe) ⑤ 接続法や命令形の簡略化

    a. „ ich würde mit dir gehen, wenn du auch hingehen würdest“(ich ginge mit dir, kämst du auch mit)

    b. hilf mir bitte / helf mir bitte c. lies dies doch mal / les dies doch mal d. nun iss schon / nun ess schon

    ⑥ 弱変化動詞への移行 a. werden: ward → wurde b. flechten: flocht → flechtete c. melken: molk → melkte d. backen: buk → backte e. schrauben: schrob → schraubte f. bellen: gebollen → gebellt g. schrauben: geschroben → geschraubt

    ⑦ ウルトラ完了形 a. ich habe das vergessen (Perfekt) b. ich hatte das vergessen (Plusquamperfekt) c. ich hatte das vergessen gehabt („Ultra-Perfekt“)

    ⑧ 副詞から形容詞への転換 a. schrittweise verringern → die schrittweise Verringerung b. teilweise revidieren → die teilweise Revision

    ⑨ 形容詞の語尾変化の欠落 a. leckeres Baguette → lecker Baguette b. leckerer Lachs → lecker Lachs c. dann gehen wir mal ein leckeres Pils trinken → ein lecker Pils trinken d. Gut Ding will Weile haben e. Echt kölnisch Wasser f. Unser täglich Brot gib uns heute

    9. 若者語の広がり 10. 若者語の動機と機能

    ① トゥホルスキーの引用 „ Wer auf andere Leute wirken will, der muss erst einmal in ihrer Sprache mit ihnen reden.“

  • 23

    11. 若者語彙の歴史的変遷 Von knorke bis gaga - die Entwicklung der Jugendsp rache Zeit Ausdruck der

    Bewunderung Ausdruck der Missachtung

    Jemanden umwerben Bezeichnung für Frau

    Bezeichnung für Mann

    Vor 1900 famos, deli-cat, splendid

    impertinent, stokmiserabel

    backfischen, poussie-ren

    flotter Besen, Gra-zie, Nymphen

    Camuff, Laffe

    1900-1930 fabelhaft, knor-ke, fein, tadellos

    gemein, mies, scheußlich

    anschwirren, balzen, schwärmen

    Flamme, Schnalle, Maus

    Armleuchter, Dusel

    1960-1970 dufte, wonnig, flott

    abgelaufen, be-scheuert, ver-gammelt

    aufreißen, anbohren Biene, Mieze, stei-ler Zahn

    Heini, Trottel, Macker

    1970-1980 bombastisch, toff, hip

    undufte, urinös, krank

    Süßholz raspeln, mie-zeln, aufreißen

    Puppe, Schnecke, Torte

    Knalltüte, Ober-trottel, Hammer-typ

    1980-1990 astrein, galak-tisch, oberaf-fengeil

    fies, finster, ät-zend

    angraben, anmachen, auf Hasenjagd gehen

    Braut, Sahne-schnitte, Schnalle

    Scheich, Hirni, Spasti

    1990-2000 ultrakrass, ver-schärft, grana-tenmäßig

    abgefuckt, be-knackt, ungeil

    anbaggern, anlabern, sich ranschmeißen

    Feger, Tussi, Perle Nullchecker, Spacko, Lover

    nach 2000 fett, endgeil, verludert

    assig, gaga, pissig

    gruscheln, smirten, scannen

    Chica, Chick, Keu-le

    Loser, Honk, Opfer

    Nach Quelle: Claudia Janetzko / Marc Krones 12. SMSにおける略字

    Quelle: „Duden. Von HDL bis Dubidodo“, Bibl. Institut, Mannheim 2009

  • 24

    13. ドイツのSMS、Emailによく使われるSmileys

    Quelle: „Duden. Von HDL bis Dubidodo“, Bibl. Institut, Mannheim 20091 14. 米川明彦「現代若者ことば考」1996、221p ①若者語は仲間内のことばだということを知らないための誤解 若者語批判によく出てくるのは、「そんなことばを使ってみんなに通じるのか、通じるわけがないではないか」というものであるが、これは全く的はずれの非難である。若者語は仲間内のことばであってうチのことばである。ヨソ者には使わないし、公の場でも使わない。あくまでも仲間内の会話に使用することばである。仲間内のことばは仲間で通じればよいのであって、ヨソ者にはわからなくてよい。 ②仲間内のことばは若者語だけではない 仲間内で通じることばは閉鎖的だという非難もまた間違っている。仲間内で通じることばは若者語に限らず、集団の存在する所ならどこにでも生じるのである。会社の中でも職場語があり、業種ごとに職業語があり、業界用語がある。キャンパスにはキャンパス用語という若者語がある。つまり、それでれの集団の目的に沿って仲間内のことばが使用されているのである。多くはかなり大胆な省略語を使用しており、また意味の転用も多い。これらはヨソ者にはわかってもらう必要がない。若者語の第一の目的は会話を楽しむことである。若者語は楽しい語を仲間内で使用することばであり、ヨソ者がわからなくてもよい。 ③若者は若者語だけをしゃべるのではない 若者は若者語だけをいつでも誰にでもしゃべっているかのように言う人がいるが、これは誤解である。若者語は仲間内の会話であって、ウチのことばである。先生に対することば遣いはウチの会話でのことば遣いとは全く異なる。彼らはちゃんと使い分けているのである。 ④若者語は「語感の悪い変なことば」か 語感には個人差があり、主観的なものもある。それにも関わらず、自分の語感を絶対的なものとし、これを排除しようとするおごりこそ非難されるべきと思う。また若者は会話の「ノリ」を楽しむために、新奇なことばを生み出し使用するのである。既存のことばにおもしろさや新鮮さを感じないからぞある。それを変だと思うかどうかは人によるが、会話の「ノリ」のためには新奇なことは当然要求されるものであります。明治時代前期、女学生の「てよだわことば」は下品でいやらしいことばだと非難されたが、明治後期には上流階級にまぞ普及してしまった。何が「美しい」「正しい」ことばであるのかは時代ととーに変化するのぞある。