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伊 藤 塾

民法 ‐1‐

正誤チェック 正解率 % 〔第1問〕 意思表示に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.AがBから甲土地を買い受けたが,Bの意思表示が心裡留保によるものであり,AがBの真意を知り,又は知ることができた場合には,AB間の売買契約後に事情を知らずにAから甲土地を譲り受けたCは,所有権移転登記を経由していたとしても,Bに対し,甲土地の所有権を主張することができない。 イ.錯誤には,意思表示に対応する意思を欠く場合である表示の錯誤と,表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する場合である動機の錯誤とがあるが,これらの錯誤による意思表示を取り消すためには,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであることが必要であり,動機の錯誤による意思表示の場合には,さらに,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたことが必要である。 ウ.意思表示の相手方が表意者の錯誤を認識していた場合であっても,表意者において錯誤に陥ったことについて重大な過失があったときは,表意者は,錯誤による取消しをすることができない。(司法H24-3-1改題) エ.錯誤による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 オ.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合において,相手方がその事実を知り,又は知ることができたときには,その意思表示を取り消すことができる。(司法H26-2-ア,予備H26-1-ア改題) 1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ

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伊 藤 塾

改正民法演習問題 ‐2‐

第1問 意思表示 正解 1 誤っているものは,ア,ウであり,正解は1となる。 ア 誤 り。 意思表示が心裡留保によるものである場合,その意思表示は有効であるが(民法93条1項本文),相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り,又は知ることができたときは,その意思表示は無効となる(同項ただし書)。本記述においては,Bの意思表示は心裡留保によるものであり,相手方AはBの真意を知り,又はこれを知ることができたのであるから,AB間の甲土地の売買契約は無効となる。ただし,この心裡留保による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない(同93条2項)。本記述において,Cは,AB間の売買契約後に事情を知らずにAから甲土地を譲り受けているから,Bは,AB間の売買契約がBの心裡留保によって無効であることをCに対抗することはできない。したがって,Cは,Bに対し,甲土地の所有権を主張することができる。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前においては,心裡留保による意思表示を信頼した第三者の保護規定はなかったが,判例は,改正前民法93条ただし書が適用される事案において,民法94条2項を類推適用して善意の第三者を保護するとの判断をしていた(最判昭44.11.14 手形小切手百選〔第3版〕8事件)。そこで,同改正により,このような判例の趣旨を踏まえて,心裡留保による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない旨の規定を新設した(同改正民法93条2項)。*佐久間(総則)117~119頁。一問一答(民法(債権関係)改正)18頁。 イ 正しい。 意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤 民法95条1項1号)に基づく意思表示は,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。これに対して,表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤 同項2号)に基づく意思表示を取り消すためには,その錯誤が上記の要件を満たすことに加えて,表意者が法律行為の基礎とした事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたことが要件とされている(同条2項)。動機の錯誤の場合には,表意者は,意思表示の内容自体は正確に理解して表示していること,また,表意者の動機が相手方には明らかではないケースも少なくないと考えられることから,表示の錯誤と同様の要件でその効力を否定することは,取引の安全を著しく害するおそれがあるため,取消しの要件を加重したものである。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前には,上述の表示の錯誤と動機の錯誤を区別して規定していなかったが,同改正によって,両者を区別して規定した上で,判例の趣旨を踏まえて,動機の錯誤に基づく意思表示の効力を否定するためには,錯誤の一般的な要件に加えて,動機となった事情が法律行為の基礎とされていることの表示を要件としたものである(同改正民法95条1項,2項)。*佐久間(総則)149~150頁,154~155頁。一問一答(民法(債権関係)改正)19頁,22頁。 ウ 誤 り。 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合は,意思表示を取り消すことができないのが原則であるが(民法95条3項柱書),相手方が表意者に錯

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民法 ‐3‐

誤があることを知っていたときは,例外的に意思表示を取り消すことができる(同項1号)。したがって,表意者において錯誤に陥ったことについて重大な過失があった場合であっても,意思表示の相手方が表意者の錯誤を認識していたときは,表意者は,錯誤による取消しをすることができる。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前においては,錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合において,相手方が表意者の錯誤を知っていたときや,重大な過失によって知らなかったときについての規定はなかったものの,このような場合には,相手方にも落ち度があることから,相手方を保護する要請は低いとして,表意者の錯誤無効の主張は制限されないと解されていた。同改正民法95条3項1号は,この解釈を明文化したものである。また,相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときについても,同様に解されていたところ,この点についても,同改正により明文化された(同改正民法95条3項2号)。*佐久間(総則)162~163頁。一問一答(民法(債権関係)改正)20頁。 エ 正しい。 錯誤による意思表示の取消し(民法95条1項)は,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない(同条4項)。錯誤に陥って意思表示をしたことについて表意者には責められるべき事情があるから,錯誤による意思表示を信頼した第三者がいる場合には,表意者よりも第三者を保護すべきであるといえることによる。よって,本記述は正しい。 なお,同項は,平成29年民法改正前においては,錯誤による意思表示を信頼した第三者を保護する規定がなかったため,改正法において新設されたものである。*佐久間(総則)164~165頁。一問一答(民法(債権関係)改正)20~21頁。 オ 正しい。 ある人に対する意思表示につき,第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知り,又は知ることができたときに限り,その意思表示を取り消すことができる(民法96条2項)。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前においては,第三者が詐欺を行った場合には,相手方がその事実を知っていたときに限り,相手方に対する意思表示を取り消すことができるとしていたが,第三者が詐欺を行ったことにつき相手方が知らなくても,これを知ることができた場合についても,相手方の信頼は保護に値するとはいい難い。そこで,同改正により,相手方が第三者の詐欺を知ることができたときについても,取消し可能としたものである(同改正民法96条2項)。同条3項についても,同様の改正がされている。*佐久間(総則)170~171頁。平野(総則)207頁。 (試験対策講座の参照頁) 民法総則197~201頁,212~223頁,224~225頁。

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改正民法演習問題 ‐4‐

【MEMO】

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民法 ‐5‐

正誤チェック 正解率 % 〔第2問〕 代理に関する次のアからオまでの各記述のうち誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.任意代理人が本人の許諾を得て復代理人を選任した場合は,その選任及び監督についてのみ本人に対して責任を負う。 イ.Aの代理人であるBは,その代理権の範囲内でAを代理してCから1000万円を借り入れる旨の契約を締結したが,その契約締結の当時,Bは,Cから借り入れた金銭を着服する意図を有しており,実際に1000万円を着服した。この場合において,Cが,その契約締結の当時,Bの意図を知ることができたときは,Aは,Cに対し,その契約の効力が自己に及ばないことを主張することができる。(司法H27-2-3,予備H27-1-3) ウ.自己契約,双方代理以外の代理人と本人との利益が相反する行為については,本人があらかじめ許諾した行為を除いて無権代理行為とみなされる。 エ.Aに代理権を与えたBは,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてAがCとの間で行為をしたとすれば代理権消滅後の表見代理の責任を負うべき場合において,AがCとの間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,Cがその行為についてAの代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。 オ.無権代理行為の相手方は,代理人が代理権を有しないことを過失によって知らなかったときは,民法上の無権代理人の責任を追及することができない。(司法H28-4-ア,予備H28-2-ア) 1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐6‐

第2問 代理 正解 2 誤っているものは,ア,オであり,正解は2となる。 ア 誤 り。 任意代理人は,本人の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復代理人を選任することができない(民法104条)。そして,任意代理人が適法に復代理人を選任した場合において,復代理人の行為により本人に損害が生じた場合には,任意代理人は,本人に対し,債務不履行責任の一般原則に従って責任を負うこととなる。したがって,任意代理人が,本人の許諾を得て復代理人を選任した場合,本人に対し,復代理人の選任及び監督についての責任のみを負うとは限らない。よって,本記述は誤りである。 なお,法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができるが(民法105条前段),やむを得ない事由によって復代理人を選任した場合には,復代理人の行為による法定代理人の責任は,復代理人の選任及び監督についての責任に限定される(同条後段)。平成29年改正前においては,適法に復代理人を選任した任意代理人の責任についても,選任及び監督についての責任に限定する規定(改正前105条)があったが,任意代理人が復代理以外の方法で第三者を用いる場合には,その責任は軽減されないことと均衡を欠くことから,同条は削除された。*佐久間(総則)243~244頁。一問一答(民法(債権関係)改正)27~28頁。 イ 正しい。 民法107条は,代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しない者がした行為とみなすと規定している。したがって,本記述において,Bの代理行為は無権代理人がした行為とみなされるため,Aは,Cに対し,その契約の効力が自己に及ばないことを主張することができる(同113条1項参照)。よって,本記述は正しい。 なお,同107条は,代理権の濫用について,改正前民法93条ただし書の類推適用により処理していた判例(最判昭42.4.20 民法百選Ⅰ〔第3版〕38事件)の趣旨を踏まえて,平成29年改正により新設されたものである。*佐久間(総則)249~250頁。四宮・能見(民法総則)358頁。一問一答(民法(債権関係)改正)32頁。 ウ 正しい。 民法108条2項に規定されている。よって,本記述は正しい。 なお,同項は,平成29年改正によって新設された規定である。*佐久間(総則)248~249頁。一問一答(民法(債権関係)改正)33頁。 エ 正しい。 他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば代理権消滅後の表見代理(民法112条1項)の責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人に代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為の責任を負う(同条2項)。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前において,判例は,代理権消滅後に与えられていた代理権の範囲外の行為について,同112条と同110条の重畳適用により,本人の表見代理責任を認めていた(大連判昭19.12.22 民法百選Ⅰ〔第8版〕33事件,

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民法 ‐7‐

最判昭32.11.29)。同改正においては,これらの判例に従い,民法112条2項が新設され,同110条,112条1項を重畳的に適用して本人が責任を負う旨が明文化された。*佐久間(総則)295~297頁。一問一答(民法(債権関係)改正)28頁。 オ 誤 り。 民法上の無権代理人の責任(民法117条1項)は,他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき(同条2項1号),又は過失によって知らなかったときには,追及することができない(同項2号本文)。これは,相手方が悪意又は有過失の場合にまで,相手方を保護する必要はないと考えられることによる。もっとも,相手方が有過失の場合であっても,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,相手方は民法上の無権代理人の責任を追及することができる(同号ただし書)。これは,無権代理人と取引の相手方との公平を図ったためである。よって,本記述は誤りである。 なお,同号ただし書は,平成29年改正により追加された規定である。*佐久間(総則)298~299頁。一問一答(民法(債権関係)改正)29頁。 (試験対策講座の参照頁) 民法総則285~287頁,289~293頁,310~311頁,338~339頁。

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改正民法演習問題 ‐8‐

【MEMO】

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民法 ‐9‐

正誤チェック 正解率 % 〔第3問〕 消滅時効に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.抵当不動産の第三取得者は,当該抵当権の被担保債権について,その消滅時効を援用することができる。(司法H23-6-2) イ.不確定期限の定めのある債権の10年の消滅時効は,債務者が期限の到来を知った時から進行する。(司法H19-6-イ改題) ウ.AとBが夫婦の場合,Aが自己の単独名義でCと日常の家事に関して契約を締結して債務を負ったとき,CのAに対する債権の裁判上の請求により,CのBに対する債権の消滅時効も完成が猶予される。(司法H24-7-オ改題) エ.雇用契約上の安全配慮義務違反による事故により負傷した者が有する損害賠償請求権の20年の消滅時効は,損害が発生した時から進行する。(司法H26-6-エ改題) オ.民法第724条第2号の規定は,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効を定めたものである。(司法H21-31-1改題) 1.ア イ 2.ア エ 3.イ ウ 4.ウ オ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐10‐

第3問 消滅時効 正解 3 誤っているものは,イ,ウであり,正解は3となる。 ア 正しい。 時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない(民法145条)。そして,第三取得者は,消滅時効を援用することができる(同条括弧書)。よって,本記述は正しい。 なお,同条にいう時効を援用することができる「当事者」に該当するかの判定基準について,判例は,時効によって直接に利益を受ける者に限定されるとする立場を採用し(大判明43.1.25),この基準によりつつ,各場合の法律関係に即して結論を導いており,本記述のような第三取得者については,「民法145条の規定により消滅時効を援用しうる者は,権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されると解すべきであるところ……,抵当権が設定され,かつその登記の存する不動産の譲渡を受けた第三者は,当該抵当権の被担保債権が消滅すれば抵当権の消滅を主張しうる関係にあるから,抵当債権の消滅により直接利益を受ける者にあたると解するのが相当であ」るとしている(最判昭48.12.14 民法百選Ⅰ〔第3版〕44事件)。平成29年改正により,消滅時効にあっては,権利の消滅について正当な利益を有する者を「当事者」に含むことが明文化されているが(同条括弧書),これは前掲大判明43.1.25をはじめとした判例の趣旨を踏まえて,その実質をより適切に表現するように指向したものであり,従前の判例・解釈を否定するものではないとされる。*佐久間(総則)433~434頁。一問一答(民法(債権関係)改正)42~43頁。 イ 誤 り。 債権は,債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(民法166条1項1号),権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(同項2号)に時効によって消滅する。そして,不確定期限の定めのある債権は,期限到来の時が,同号にいう「権利を行使することができる時」であるとされている。したがって,期限到来の時から10年の消滅時効が進行する。よって,本記述は誤りである。 なお,不確定期限の定めのある債権について,債権者が期限到来を知った時から5年の消滅時効(同項1号)が進行する。*佐久間(総則)409~412頁。四宮・能見(民法総則)426~427頁。我妻・有泉コメ328頁。 ウ 誤 り。 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負う(民法761条本文)。もっとも,平成29年改正前は,履行の請求が連帯債務の絶対的効力事由であった(同改正前民法434条参照)が,同改正により,原則として相対的効力事由となった(民法441条)。したがって,本記述において,夫婦ABはCに対して連帯債務を負うが,CのAに対する債権の裁判上の請求をしても,CのBに対する債権の消滅時効は完成が猶予されない。よって,本記述は誤りである。*潮見(プラクティス債総)577頁。 エ 正しい。 イの解説で述べたように,債権は,権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(民法166条1項2号)に時効によって消滅するが,この10年の期間は,人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については,20年となる(同167条,166条1項2号)。そして,判例は,「一般に,安全配慮義

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民法 ‐11‐

務違反による損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべき」であるとしている(最判平6.2.22 民法百選Ⅰ〔第8版〕44事件)。したがって,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の20年の消滅時効は,その権利を行使することが法律上可能となる時,すなわち,その損害が発生した時から進行する。よって,本記述は正しい。*平野(総則)434~435頁。 オ 正しい。 平成29年改正前の判例は,「民法724条後段の規定は,不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたもの」であるとしていた(最判平元.12.21 平元重判民法9事件)。もっとも,除斥期間と解すると,時効の完成猶予等の適用や権利濫用等の主張をすることができないという問題点があった。また,同条後段の法的性質は消滅時効であるという異説が同改正前から有力であり,実際に同条後段を除斥期間とする見解からは説明が難しい判例もあったことから,その有力説の主張は強まっていた。そこで,同改正により,民法724条2号(同改正前民法724条後段)の法的性質を同724条柱書で消滅時効と明記している。よって,本記述は正しい。*一問一答(民法(債権関係)改正)63~64頁。論点体系判例民法⑼546頁。窪田(不法行為法)502~504頁 (試験対策講座の参照頁) 民法総則359~376頁,406~407頁。

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改正民法演習問題 ‐12‐

【MEMO】

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民法 ‐13‐

正誤チェック 正解率 % 〔第4問〕 債権に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.弁済の時期について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。(司法H30-19-エ,予備H30-9-エ) イ.Aは,郊外に所有する別荘をBに売り渡す旨の契約を締結したところ,当該別荘が,売買契約締結前に発生した火災により全焼していた場合,AB間の売買契約は無効であるから,Bは,Aに対して債務不履行に基づく損害賠償をすることはできない。 ウ.特定物の引渡しを目的とする債権の債務者は,債権者に受領遅滞があった場合であっても,善良な管理者の注意をもって,目的物を保存する義務を負う。(司法R元-37-ア) エ.不動産の売買契約において,その財産権移転義務が売主の責めに帰すべき事由により履行不能となった場合には,買主は,契約を解除することなく填補賠償を請求することができる。(司法H22-17-5) オ.履行不能を生じさせたのと同一の原因によって,債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合,債権者は,履行不能により受けた損害を限度として,債務者に対し,その利益の償還を請求することができる。(司法H21-17-5改題) 1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ オ 5.ウ エ

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改正民法演習問題 ‐14‐

第4問 債権 正解 3 誤っているものは,イ,ウであり,正解は3となる。 ア 正しい。 民法412条2項は,「債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。」と規定する。これは,平成29年改正前においては,債務者は不確定期限が到来を知った時から遅滞の責任を負うと規定されるのみであったが,同改正によって,一般的な解釈を明文化したものである。よって,本記述は正しい。*中田(債総)103~104頁。潮見(プラクティス債総)125頁。一問一答(民法(債権関係)改正)68頁。 イ 誤 り。 本記述においては,AB間の売買契約が締結される前に,目的物である別荘が滅失しており,契約の内容とされた債務を履行することが,その契約締結時点において既に不能となっているから,いわゆる原始的不能の場合である。そして,民法412条の2第2項は,契約に基づく債務が原始的不能の場合であっても,債務不履行に基づく損害賠償を請求することは妨げられないとしており,このことは,原始的不能の場合であっても,契約が有効に成立することを前提としている。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前においては,契約に基づく債務が原始的不能の場合には,そもそも契約は無効であると解されていた(最判昭25.10.26)。この結論に従うと,原始的不能の場合には,債務不履行に基づく損害賠償をすることができないことになるが,履行不能となったのが契約の成立の前か後かという単なる偶然やわずかな時間差によって左右される事柄によって,債権者の救済の在り方が大きく変わるのはバランスを欠くと考えられることから,同改正民法412条の2第2項が新設された。*一問一答(民法(債権関係)改正)72頁。潮見(新債権総論Ⅰ)76~77頁,81~82頁。 ウ 誤 り。 債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない(民法400条)。もっとも,債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合(受領遅滞)において,その債務の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,履行の提供をした時からその引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すれば足りる(同413条1項)。これは,受領遅滞後は,債務者は他人の物を無償で保管しているに等しいとの観点から,自己の財産と同様に管理すれば足りるという趣旨である。よって,本記述は誤りである。 なお,同413条1項は,平成29年改正前における一般的な解釈を明文化したものである。*潮見(プラクティス債総)18~19頁,295頁。一問一答(民法(債権関係)改正)73頁。 エ 正しい。 債権者は,民法415条1項により損害賠償の請求ができる場合において,債務の履行が不能であるときは,債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)の請求をすることができる(同条2項1号)。よって,本記述は正しい。

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民法 ‐15‐

なお,同項は,平成29年改正前民法の下でも解釈上認められていた塡補賠償請求(最判昭30.4.19参照)を同改正において明文化したものである。*潮見(プラクティス債総)129~132頁。一問一答(民法(債権関係)改正)76頁。 オ 正しい。 民法422条の2に規定されている。よって,本記述は正しい。 なお,同条は,平成29年改正前の判例(最判昭41.12.23 民法百選Ⅱ〔第8版〕10事件)・通説が当事者間の公平を考慮して認めていた代償請求権を同改正において明文化したものである。*潮見(プラクティス債総)74頁。平野(債総)91~93頁。民法(債権関係)改正法の概要75頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版) 54頁,56~57頁,67~68頁,83~85頁。

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改正民法演習問題 ‐16‐

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民法 ‐17‐

正誤チェック 正解率 % 〔第5問〕 Aが,Bに対する甲債権を保全するために,BがCに対して有する乙債権につき債権者代位権を行使する場合に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。 1.甲債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,Aは,乙債権につき債権者代位権を行使することができない。 2.甲債権が100万円の金銭債権,乙債権が50万円の金銭債権であるときは,Aは,乙債権全額につき債権者代位権を行使することができる。 3.乙債権が動産の引渡しを目的とするものである場合,Aは,Cに対し,その引渡しを自己に対してすることを求めることができ,引き渡された動産から優先弁済を受けることができる。 4.Aが,乙債権について代位権の行使に着手した場合であっても,Bは,乙債権を自ら行使することができる。 5.乙債権につきAがCに対して債権者代位訴訟を提起したときは,Aは,遅滞なく,Bに対し,訴訟告知をしなければならない。

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改正民法演習問題 ‐18‐

第5問 債権者代位権 正解 3 誤っているものは3であり,正解は3となる。 1 正しい。 債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,被代位権利を行使することができない(民法423条3項)。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)184頁。 2 正しい。 債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる(民法423条の2)。本記述のように,被保全債権の額が被代位権利の額を超えているときは,債権者は,被代位権利全額について債権者代位権を行使することができる。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)199頁。 3 誤 り。 債権者は,自己の債権を保全するため必要があるときは,債務者に属する権利を行使することができる(民法423条1項本文)。「債務者に属する権利」が,物の引渡請求権や金銭債権である場合,債権者は,第三債務者に対し,債務者に引き渡し又は支払うよう請求することができることはもちろん,さらに,直接債権者に引き渡し又は支払うよう請求することができる(同423条の3前段)。しかし,債権者自ら被代位権利の目的物である金銭の支払又は動産の引渡しを受けた場合であっても,それが被保全債権の弁済となるわけではなく,目的である金銭や動産から被保全債権の満足を受けるためには,強制執行の手続をとる必要がある。そして,この場合に,他の債権者からの配当加入の申出があれば,平等の割合で弁済を受けることとなる。よって,本記述は誤りである。 なお,代位債権者が第三債務者から受領した目的物が金銭であり,かつ,代位債権者の被保全債権も金銭債権である場合には,代位債権者は,債務者が自己に対して有する不当利得に基づく返還請求権と,自己が債務者に対して有する被保全債権とを対当額で相殺することができ,これによって,事実上優先弁済を受けたのと同一の結果となる。しかし,本記述のように,受領した目的物が動産である場合には,このような事実上の優先弁済は認められない。*潮見(プラクティス債総)203~204頁。 4 正しい。 民法423条の5前段は,債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者は,被代位権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられないとしている。これは,債権者が代位行使に着手した後でも債務者が自ら権利を行使するのであれば,それにより責任財産の保全という制度目的を達成することができることによる。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前においては,判例は,債権者が代位権を行使した後,いつから債務者の処分権限が失われるかにつき,債務者は債権者から代位の通知を受けた時又は債権者が代位権の行使に着手した事実を知った時から被代位債権を処分することができなくなることはもちろん,自らその権利を行使することができなくなるとしていた(大判昭14.5.16 民訴法百選Ⅰ〔新法対応補正版〕47事件)。*潮見(新債権総論Ⅰ)695~696頁。一問一答(民法(債権関係)改正)94頁。

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民法 ‐19‐

5 正しい。 債権者は,被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない(民法423条の6)。債権者代位訴訟を提起する代位債権者は法定訴訟担当の地位にあり,その判決の効力が債務者にも及ぶことから,債務者に対する訴訟告知を代位債権者に義務付けることによって,敗訴判決の効力が当然に債務者に及ぶという事態を回避するため,平成29年改正によって新設された規定である。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)207~208頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)245~262頁。

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改正民法演習問題 ‐20‐

【MEMO】

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民法 ‐21‐

正誤チェック 正解率 % 〔第6問〕 詐害行為取消権に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。 1.詐害行為取消権を行使するためには,取消しの対象となる詐害行為は,必ずしも被保全債権発生の後になされたものである必要はない。 2.債権者は,詐害行為の取消しを請求するに際しては,債務者を被告とする必要はない。 3.詐害行為取消請求を認容する確定判決は,債務者に対してはその効力を有しない。 4.債務者がした債務の消滅に関する行為の全部が取り消された場合,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,原状に復する。 5.受益者が債権者を害すべき事実を知らない場合には,転得者がこれを知っていたとしても,債権者は,転得者に対し詐害行為取消権を行使することはできない。(司法H23-18-3,予備H23-7-3)

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改正民法演習問題 ‐22‐

第6問 詐害行為取消権 正解 3 誤っているものは,3であり,正解は3となる。 1 正しい。 民法424条3項は,債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,詐害行為取消請求をすることができると規定している。したがって,取消しの対象となる詐害行為は,必ずしも被保全債権発生の後になされたものである必要はない。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)229~230頁。中舎(債権法)425~426頁,446頁。中田(債総)210頁。 2 正しい。 詐害行為取消訴訟の被告は,受益者又は転得者である(民法424条の7第1項)。債務者は被告適格を有しない。よって,本記述は正しい。*中舎(債権法)459頁。我妻・有泉コメ 817頁。一問一答(民法(債権関係)改正)108頁。民法(債権関係)改正法の概要95頁。 3 誤 り。 詐害行為取消請求を認容する確定判決は,債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する(民法425条)。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前において,判例は,詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は,財産の返還を請求する相手方である受益者又は転得者には及ぶものの債務者には及ばないことを前提として,詐害行為取消請求に係る訴えにおいては,債務者を被告とする必要はないとしていたが(大判明44.3.24 大連判明44.3.24 民法百選Ⅱ〔第8版〕14事件),このような考え方は,関係者間の統一的な利害調整を困難にするとの批判があったことから,同改正において,確定判決の効力は債務者にも及ぶとしたものである。ただ,債務者を被告とする必要はないとする上記判例の法理は維持されるので(同424条の7第1項),確定判決の効力が及ぶ債務者にも審理に参加する機会を保障するため,債権者は,その訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならないものとしている(同条2項)。*潮見(プラクティス債総)263~264頁。一問一答(民法(債権関係)改正)108頁。 4 正しい。 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(民法424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復する(民法425条の3)。よって,本記述は正しい。 なお,同条は,平成29年改正前において,債務消滅行為である代物弁済が取り消された場合には,代物弁済により消滅した債権も原状に復するとしていた判例(大判昭16.2.10)を踏まえて新設された規定である。潮見(プラクティス債総)269~271頁。*一問一答(民法(債権関係)改正)113頁。 5 正しい。 受益者からの転得者を相手に詐害行為取消請求が認められるためには,①受益者に対する詐害行為取消請求が認められるための要件を満たしていることに加え,②当該転得者が転得の当時に債務者がした行為について債権者を害することを知っていたことを要する(民法424条の5第1号)。これは,受益者が善意の場合に詐害行為取消権を認めると,転得者が善意の受益者から受け取った財産を失うことになり,善意の受益者が転得者から担保責任を追及されて財産の対価として受け取った金員の返還を求められるなど,善意の受益者の取引

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民法 ‐23‐

の安全が害されること,また,このようなおそれがあると,善意の受益者が将来の責任追及を心配して自己の財産の処分をためらうという弊害が生ずることに基づく。よって,本記述は正しい。 なお,①の要件は,平成29年改正前の判例(最判昭49.12.12)を変更するものである。*潮見(プラクティス債総)252頁。一問一答(民法(債権関係)改正)105~106頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)263~299頁。

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改正民法演習問題 ‐24‐

【MEMO】

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民法 ‐25‐

正誤チェック 正解率 % 〔第7問〕 多数当事者の債権関係に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。なお,当事者間に別段の意思表示はないものとする。 ア.金銭債権は,当事者の意思表示によって,不可分債権とすることはできない。(司法H28-17-1,予備H28-8-1) イ.連帯債権者の一人と債務者との間に免除があったときであっても,他の連帯債権者は,債務者に対して,債務の全部の履行を請求することができる。 ウ.不可分債務者の一人と債権者との間に混同があったときは,その不可分債務者は,弁済をしたものとみなされる。 エ.連帯債務者の一人が債務を承認したことによる時効更新の効力は,他の連帯債務者には及ばない。(司法H29-18-エ改題) オ.連帯債務者であるAが債権者Bに対する自己の債権をもってする相殺が可能である場合において,Aが相殺を援用しない間は,他の連帯債務者Cは,Aの負担部分の限度において,Bに対して債務の履行を拒むことができる。 1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐26‐

第7問 多数当事者の債権関係 正解 3 誤っているものは,イ,ウであり,正解は3となる。 ア 正しい。 民法428条は,連帯債権の規定(同433条及び同435条の規定を除く。)は,債権の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債権者があるときについて準用すると規定している。したがって,可分債権である金銭債権を,当事者の意思表示によって,不可分債権とすることはできない。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前民法428条は,当事者の意思表示により不可分債権を成立させることも認めていたが,同改正後は,不可分債権が成立する場合を「債権の目的がその性質上不可分である場合」に限定したものである。*潮見(プラクティス債総)602頁。我妻・有泉コメ 836~837頁。基本法コメ(債総)94頁。民法(債権関係)改正法の概要107頁。民法(債権法)改正のポイント242~244頁。 イ 誤 り。 連帯債権とは,債権の目的がその性質上可分である場合において,法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有する場合をいう(民法432条)。そして,連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは,その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については,他の連帯債権者は,履行を請求することができない(民法433条)。よって,本記述は誤りである。 なお,連帯債権に関する規定(民法432条~435条の2)は,平成29年改正によって新設されたものである。*潮見(プラクティス債総)600頁。民法(債権関係)改正法の概要109頁。 ウ 誤 り。 民法430条は,混同の絶対的効力を定める同440条を除く連帯債務の規定は,債務の目的がその性質上不可分である場合において,数人の債務者があるときについて準用すると規定している。したがって,不可分債務者の一人と債権者との間に混同があっても,他の連帯債務者に対してその効力を生じない(同430条・441条本文)。連帯債務の場合に混同が絶対的効力とされているのは,他の連帯債務者が履行をした上でその履行を受けた者に対して求償するという迂遠な処理を回避するためであるところ,不可分債務においては,履行すべき内容と求償の内容とが異なっており,同一の者に対して履行をした上で求償をすることが迂遠で無意味な処理であるとはいえないことから,混同を相対的効力事由としたものである。よって,本記述は誤りである。*潮見(プラクティス債総)594~595頁。民法(債権関係)改正法の概要111~112頁。 エ 正しい。 民法は,連帯債務について,同438条,439条1項,及び440条に規定する事由に限り,絶対的効力を認め,それ以外の事由については,別段の意思表示がない限り,相対的効力しか認めていない(同441条)。そして,時効の更新事由(例えば,債務の承認による更新(同152条1項))には相対的効力しか認められない。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)576頁。中田(債総)457頁。我妻・有泉コメ853~854頁。 オ 正しい。 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分において,他の連帯

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民法 ‐27‐

債務者は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる(民法439条2項)。よって,本記述は正しい。 なお,同項は,平成29年改正前においては,負担部分の限度で相殺をして連帯債務を消滅させることができる旨の規定になっていたのに対して,負担部分の限度で履行拒絶することができる旨に改めたものであり,同改正前における異論のない解釈を明文化したものである。*潮見(プラクティス債総)575頁。民法(債権関係)改正法の概要113~114頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)312~342頁。

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改正民法演習問題 ‐28‐

【MEMO】

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民法 ‐29‐

正誤チェック 正解率 % 〔第8問〕 次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。なお,本問における債権は,預貯金債権ではないものとする。 ア.債権の譲渡禁止特約の存在を知ってその債権を譲り受けた者は当該債権を取得し得ないから,その者からの債権譲受人も当該債権を取得し得ない。 イ.譲渡質入禁止特約のある債権について,質権者がその特約の存在を知らないときは,質権は有効に成立する。 ウ.債権の譲渡禁止特約の存在を知ってその債権を譲り受けた者だけでなく,同特約の存在を知らないことにつき重大な過失のある譲受人も,譲渡によってその債権を取得し得ない。 エ.譲渡禁止特約のある債権を差し押えて,その転付命令を得た債権者が,差押え前に同特約の存在することを知っていたとしても,転付命令の効力は否定されない。 オ.AのBに対する債権につき譲渡禁止特約が存在することを知って,CがAからその債権を譲り受けた後,Bが承諾をすれば,AC間の債権譲渡は,Bの承諾の時から有効になる。 1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ (司法H19-21改題)

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改正民法演習問題 ‐30‐

第8問 譲渡禁止特約付の債権の譲渡 正解 4 正しいものは,イ,エであり,正解は4となる。 本問では,預貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力の規定(民法466条の5)は,考慮する必要がない。 ア 誤 り。 債権は,譲り渡すことができ(民法466条1項本文),当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示(譲渡制限の意思表示)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない(同条2項)。譲受人が譲渡制限の意思表示につき悪意又は重過失であっても,譲受人は当該債権を取得する。したがって,悪意の譲受人は当該債権を取得し得るため,その者からの債権譲受人も当該債権を取得する。よって,本記述は誤りである。*潮見(プラクティス債総)476頁。平野(債総)312頁。 イ 正しい。 質権の目的は,譲渡可能でなければならない(民法362条2項・343条)。そして,アの解説で述べたように,譲渡制限の意思表示がされた債権であっても,譲渡することができる(同466条2項)から,譲受人の善意・悪意を問わず,質権は有効に成立する。よって,本記述は正しい。*新注釈民法(6)538~539頁。 ウ 誤 り。 アの解説で述べたように,譲渡制限の意思表示がされた債権であっても,譲渡することができ(民法466条2項),譲受人が譲渡制限の意思表示につき悪意・重過失であったとしても,譲受人は債権を取得する。よって,本記述は誤りである。 なお,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる(同条3項)。*潮見(プラクティス債総)476~477頁。平野(債総)312~313頁。民法(債権法)改正のポイント279~281頁。 エ 正しい。 譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては,その者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかったとしても,債務者は,その債務の履行を拒み,また,差押債務者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって対抗することはできない(民法466条の4第1項,466条3項)。したがって,債権者が差押え前に譲渡禁止特約の存在を知っていても,転付命令の効力は否定されない。よって,本記述は正しい。 なお,同466条の4第1項は,譲渡制限特約により差押禁止財産を作り出すことは認められないという平成29年改正前の判例(最判昭45.4.10 執行・保全百選〔初版〕73事件)を実質的に維持した上で,同改正において明文化したものである。*潮見(プラクティス債総)484頁。平野(債総)313~314頁。一問一答(民法(債権関係)改正)170頁。 オ 誤 り。 アの解説で述べたように,当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられないから

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民法 ‐31‐

(民法466条2項),当該譲渡は,譲渡の時から有効となる。したがって,本記述では,承諾の時から有効になるわけではない。よって,本記述は誤りである。*潮見(プラクティス債総)476頁。平野(債総)312頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)96~104頁。

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改正民法演習問題 ‐32‐

【MEMO】

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民法 ‐33‐

正誤チェック 正解率 % 〔第9問〕 債務の引受けに関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。 1.債務の引受けがされた場合には,原債務者及び引受人は分割債務を負う。(司法H25-18-イ) 2.免責的債務引受は,債権者,債務者及び引受人となる者の三者の合意によらなければ,効力を生じない。(司法H22-20-1) 3.主たる債務について免責的債務引受がされた場合には,保証債務は存続する。(司法H22-20-2) 4.債務者と引受人となる者との間の合意により併存的債務引受がされた場合には,債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に,債権者の引受人に対する債権が発生する。(司法H22-20-4改題) 5.併存的債務引受がされた場合には,引受人は,引受けに係る債務の消滅時効期間が債務引受までに満了したとしても,その時効を援用することができない。(司法H22-20-5)

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改正民法演習問題 ‐34‐

第9問 債務の引受け 正解 4 正しいものは,4であり,正解は4となる。 平成29年改正により,従来明文規定がなかった債務の引受けに関する規定が新設された(民法470~472条の4)。 1 誤 り。 債務引受とは,債務の同一性を維持したまま引受人に債務を移転する契約をいい,原債務者も引受人と併存して債務を負担する併存的債務引受(民法470条以下)と,原債務者が債務を免れる免責的債務引受(同472条以下)とがある。そして,併存的債務引受の引受人は,債務者と連帯して,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する(同470条1項)。したがって,併存的債務引受がされた場合,原債務者及び引受人が分割債務を負うわけではない。また,免責的債務引受がされた場合,原債務者は自己の債務を免れるから(同472条1項),原債務者及び引受人が分割債務を負うわけではない。よって,本記述は誤りである。 なお,広義の債務引受には,履行引受(債務者の負担する特定の債務の弁済義務を引受人が債務者に対して負担する。)も含まれる。*潮見(プラクティス債総)536~538頁,544頁。平野(債総)335~336頁,339頁。 2 誤 り。 免責的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に,その効力を生ずる(民法472条2項)。したがって,免責的債務引受は,三者の合意によらなくても効力を生じ得る。よって,本記述は誤りである。 なお,三者の合意によることも可能である。*潮見(プラクティス債総)542頁。潮見(新債権総論Ⅱ)510頁。 3 誤 り。 債務者の債務に付された保証債務を引受人の債務を担保するものとして移すためには,保証人の承諾が必要となる(民法472条の4第3項・1項)。そして,判例は,主たる債務について免責的債務引受がなされた場合には,保証人の同意がない限り,保証債務は消滅するとしている(大判大11.3.1)。その理由として,同判決は,保証人は,債務者を信用して保証債務を負担したのであって,債務者以外の者のために保証債務を負担する意思を有するものではないのが通常だからであるとしている。よって,本記述は誤りである。*中舎(債権法)418頁。民法(債権関係)改正法の概要172頁。民法(債権法)改正のポイント298~299頁。Before/After民法改正286~287頁。 4 正しい。 併存的債務引受は,債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において,併存的債務引受は,債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に,その効力を生ずる(民法470条3項)。そして,この併存的債務引受は,第三者のためにする契約に関する規定に従うとされている(同条4項)。債権者の承諾は,受益の意思表示(同537条3項)に相当するものであり,債務引受の効力発生要件である。よって,本記述は正しい。*潮見(プラクティス債総)538頁。民法(債権関係)改正法の概要166頁。 5 誤 り。 引受人は,併存的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が

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民法 ‐35‐

生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる(民法471条1項)。この抗弁には,債務不発生・無効・消滅に係る抗弁等が含まれ,時効の完成による債務の消滅がこれに当たる。したがって,引受人は,引受けに係る債務の消滅時効期間が債務引受までに満了していれば,その時効を援用することができる。よって,本記述は誤りである。*潮見(プラクティス債総)539~540頁。潮見(新債権総論Ⅱ)504頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)135~145頁。

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改正民法演習問題 ‐36‐

【MEMO】

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民法 ‐37‐

正誤チェック 正解率 % 〔第10問〕 弁済に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.売買契約において,買主が,慣習により定まる取引時間でない時刻に弁済の提供をし,売主が任意に弁済を受領したときは,それが弁済期日内であれば,買主は,遅滞の責任を負わない。(司法H21-21-2改題) イ.受取証書の持参人は,弁済を受領する権限があるものとみなされる。(司法H23-21-4改題) ウ.債務者の意思に反することなく有効に弁済した第三者は,弁済によって当然に債権者に代位する。(司法H28-20-ア) エ.抵当権の被担保債権の一部を弁済した第三者は,その弁済をした価額に応じて抵当権者とともにその抵当権を行使することができ,その抵当権が実行されたときは,当該抵当権者と当該第三者は,当該抵当権者が有する残債権の額と当該第三者が代位によって取得した債権の額に応じ,按分して配当を受ける。(司法H25-21-ア) オ.Aの貸金債務の担保のために,Aが自己所有の甲土地に抵当権を設定し,他方でBがAの貸金債務の保証人となった場合,Bは,当該貸金債務を弁済しても,その後にAから甲土地の所有権を取得したCに対しては,あらかじめ抵当権の登記に代位を付記しなければ,代位して甲土地上の抵当権を行使することができない。 1.ア イ 2.ア ウ 3.イ オ 4.ウ エ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐38‐

第10問 弁済 正解 2 正しいものは,ア,ウであり,正解は2となる。 ア 正しい。 平成30年改正前商法520条は,法令又は慣習により商人の取引時間の定めがあるときは,その取引時間内に限り,債務の履行をし,又はその履行の請求をすることができるとしていた。同改正後民法484条2項は,同改正前商法520条を一般化し,それに伴い,同条は削除された。そして,同改正前の事例であるが,判例は,本記述と同様の事例において,「原判決の引用した第一審判決は,営業時間後にした支払を営業時間内の債務の履行であるとしているのではなく,商法520条にいう取引時間外になされた弁済の提供であっても,債権者が任意に弁済を受領し,それが弁済期日内であれば,債務者は遅滞の責を負うことはないとしているのであり,その判断は正当である」としており(最判昭35.5.6 商法(総則・商行為)百選〔第3版〕47事件),これは,同改正後も妥当すると解されている。よって,本記述は正しい。*潮見(新債権総論Ⅱ)8~9頁。民法(債権関係)改正法の概要182~183頁。 イ 誤 り。 平成29年改正前民法480条によれば,受取証書の持参人は,弁済を受領する権限があるものとみなされるが(同条本文),持参人にその受領権限がないことにつき弁済者が悪意又は有過失の場合には,持参人は受領権限があるものとみなされない(同条ただし書)とされていた。しかし,真正の受取証書の持参人を他の表見受領権者と異なった準則の下で処理することは,弁済者の信頼保護の点で合理性がないことなどの理由により,同改正において同条は削除された。その結果,受取証書の持参人に対する弁済の有効性は,民法478条によって処理されることになった。したがって,弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,弁済は効力を有する。よって,本記述は誤りである。*民法(債権関係)改正法の概要180頁。一問一答(民法(債権関係)改正)187頁。 ウ 正しい。 債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する(民法499条)。したがって,債務者の意思に反することなく有効に弁済した第三者は,弁済によって当然に債権者に代位する。よって,本記述は正しい。 なお,弁済をするにつき正当な利益を有する者でない第三者は,原則として,債務者の意思に反して弁済をすることができないとされているが(同474条2項本文),弁済をするにつき正当な利益を有することは,弁済による代位の要件とされていない(代位後の手続として対抗要件の具備が必要とされるか否かにすぎない)から,債務者のために有効に弁済をした第三者は,弁済をするにつき正当な利益の有無にかかわらず,弁済によって債権者に当然に代位する。*潮見(プラクティス債総)365頁,368~369頁。中田(債総)352頁,355~357頁。中舎(債権法)345頁。平野(債総)385頁。一問一答(民法(債権関係)改正)189頁,194頁。民法(債権関係)改正法の概要176頁,189~190頁。 エ 誤 り。 債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる(民法502条1項)。もっとも,債権者が行使する権利は,その債権の

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民法 ‐39‐

担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する(同条3項)。したがって,本記述において,被担保債権の一部を弁済した第三者は,その弁済をした価額に応じて抵当権者とともにその抵当権を行使することができるが,その抵当権が実行された場合は,その代金の配当について抵当権者が優先することになり,抵当権者と第三者が按分して配当を受けるわけではない。よって,本記述は誤りである。 なお,同項は,平成29年改正前の判例(最判昭60.5.23 民法百選Ⅰ〔第8版〕94事件)を抵当権の実行の場合以外にも一般化した上で同改正において明文化したものである。*潮見 (プラクティス債総 )371~372頁。民法(債権関係)改正法の概要194頁。 オ 誤 り。 民法499条は,「債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。」とするのみであり,付記登記を弁済による代位の要件としていない。抵当権付債権が譲渡された場合は付記登記が担保権取得の第三者対抗要件とされていないことと均衡を失することから,付記登記を要しないことと解されている。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前民法501条1号は,保証人が担保の設定された債務者の不動産の第三取得者に対して代位するには,あらかじめ付記登記(不動産登記法4条2項参照)をすることを要するとしていた。これは,被担保債権が消滅したことについての不動産の第三取得者の信頼を保護する趣旨であった。しかし,抵当権の抹消登記がされていない状態では,不動産の第三取得者はむしろ債権が消滅したとは考えないのが通常であるから,この説明に合理性があるとはいえず,同改正前民法501条1号は同改正によって削除された。もっとも,同改正後民法の下でも,代位の付記登記をし,これをもって担保権の承継を証明する(民事執行法181条参照)ことができると解されている。*一問一答(民法(債権関係)改正)194~196頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権総論(第4版)154頁,169~170頁,180~198頁。

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改正民法演習問題 ‐40‐

【MEMO】

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民法 ‐41‐

正誤チェック 正解率 % 〔第 11 問〕 契約に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.隔地者間の契約は,承諾の意思表示が相手方に到達した時に成立する。 イ.Aが宝石をBに売り,その代金をBがCに支払うとの契約を締結し,Cが受益の意思表示をした場合,Aが宝石をBに引き渡したが,Bが代金をCに支払わないときは,AがBの債務不履行を理由としてBとの売買契約を解除するには,Cの承諾を要しない。 ウ.消費貸借契約は,要物契約であるから,当事者間で,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還することを約したとしても,その合意は無効である。(司法H27-23-イ改題) エ.使用貸借の貸主は,使用貸借の目的である物を,使用貸借の目的として特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定される。 オ.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて,減額される。 1.ア イ 2.ア エ 3.イ ウ 4.ウ オ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐42‐

第11問 契約 正解 3 誤っているものは,イ,ウであり,正解は3となる。 ア 正しい。 契約は,契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して相手方が承諾をしたときに成立する(民法522条1項)。そして,隔地者間の契約の成立時期について発信主義を採っていた平成29年改正前民法526条1項が削除されたため,承諾の意思表示の効力発生に関しては民法97条1項が適用されることとなった結果,契約の成立時期の考え方は,発信主義から到達主義に変更されることとなった。よって,本記述は正しい。*一問一答(民法(債権関係)改正)221頁。 イ 誤 り。 第三者のためにする契約において,受益の意思表示がされて受益者の権利が発生した後に,諾約者(本記述におけるB)が,受益者(本記述におけるC)に対する債務を履行しない場合には,要約者(本記述におけるA)は,Cの承諾を得なければ,契約の解除をすることができない(民法538条2項)。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前には,諾約者に債務不履行があった場合,要約者は契約を解除することができるかについて議論があったが,同改正により,受益の意思表示後は,受益者の承諾を得なければ契約の解除をすることができないとしたものである。*平野(債各Ⅰ)74頁。 ウ 誤 り。 消費貸借契約には,「受け取る」(民法587条)ことによって成立する要物契約と,書面で「約」する(同587条の2)ことによって成立する諾成契約とがある。したがって,当事者間で,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還することを約したとしても,その合意は無効であるとしている点で,本記述は誤りである。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前においては,消費貸借は要物契約とされていたが,同改正により,書面ですることを要件として,諾成契約としての消費貸借も認められることとなった。*中田(契約)345頁,349~350頁,391頁。基本法コメ(債各Ⅰ)130~132頁。我妻・有泉コメ1215頁,1241頁。民法(債権関係)改正法の概要280頁。 エ 正しい。 民法596条は,贈与の規定である「贈与者は,贈与の目的である物又は権利を,贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する。」と規定する同551条1項を使用貸借に準用している。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前においては,贈与の目的物に瑕疵があったとしても,贈与者は,これを知りながら受贈者に告げなかった場合を除いて担保責任を負わず,そのまま引き渡せば足りるとされており(改正前551条1項),これが使用貸借に準用されていた(同596条)。しかし,同改正により,売買の担保責任について,契約責任説の立場から,売主は,種類,品質及び数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うとされたことから,贈与及び使用貸借についても,贈与者,使用貸主が種類,品質及び数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提とした上で,そ

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民法 ‐43‐

の責任を軽減する趣旨で,契約の目的として特定した時の状態で目的物を引き渡すことを合意していたものと推定することとしたものである。*一問一答(民法(債権関係)改正)266頁,304頁。 オ 正しい。 民法611条1項に規定されている。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前においては,改正前民法611条1項は,「賃料の減額を請求することができる」と規定しており,使用収益が一部不能になっても,賃借人が請求しなければ賃料は減額されなかったが,賃料は賃借人が目的物を使用収益することができることの対価であるから,使用収益ができない以上は当然に賃料が減額されるとするのが合理的であるといえるので,同改正により,当然減額されるものと改められた。*一問一答(民法(債権関係)改正)322頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権各論(第4版)24頁,78~79頁,177~178頁,190~191頁,208~209頁。

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改正民法演習問題 ‐44‐

【MEMO】

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民法 ‐45‐

正誤チェック 正解率 % 〔第 12 問〕 売買に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.解約手付の授受された売買契約の買主は,自ら履行に着手した場合でも,売主が履行に着手するまでは,手付を放棄して売買契約の解除をすることができる。 イ.甲土地の売買契約がAを売主,Bを買主として締結され,AからBに甲土地の引渡しがされたが,甲土地がCの所有であった場合において,Aが甲土地の権利をCから取得してBに移転することができないことを理由にBが甲土地の売買契約を解除したときは,Bは,Aに対し,その解除までの間の甲土地の使用利益を返還しなければならない。 ウ.建物とその敷地の賃借権とが売買契約の目的とされた場合には,敷地に欠陥があり,賃貸人がその欠陥について修繕義務を負担するときであっても,買主は,売主に対し,その欠陥が売買の目的物の種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを理由として種類又は品質に関する担保責任を追及することができる。 エ.売主が買主に引き渡した売買契約の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合において,買主がその不適合があることを知った時から1年以内に種類又は品質に関する担保責任による損害賠償の請求をしたときは,その時点で買主が目的物の引渡しを受けた時から10年を経過していたときであっても,その損害賠償請求権につき消滅時効は完成しない。 オ.建物の強制競売の手続が開始され,借地権の存在を前提として建物の売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず,実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかったことにより,建物の買受人がその目的を達することができず,かつ,債務者が無資力であるときは,建物の買受人は,強制競売による建物の売買契約を解除した上,売却代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の返還を請求することができる。 1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ (司法H28-24改題)

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改正民法演習問題 ‐46‐

第12問 売買 正解 4 誤っているものは,ウ,エであり,正解は4となる。 ア 正しい。 民法557条1項は,買主が売主に手付を交付したときは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができるが,その相手方が契約の履行に着手した後は,この限りでないとしている。したがって,解約手付の授受された売買契約の買主は,自ら履行に着手した場合でも,売主が履行に着手するまでは,手付を放棄して売買契約の解除をすることができる。よって,本記述は正しい。 なお,同557条1項は,平成29年改正前における判例(最大判昭40.11.24 民法百選Ⅱ〔第8版〕48事件)の考え方を明文化したものである。*中田(契約)121頁。我妻・有泉コメ 1160~1161頁。一問一答(民法(債権関係)改正)271頁。民法(債権関係)改正法の概要255頁。 イ 正しい。 他人の権利を売買の目的としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負い(民法561条),権利の全部が移転不能の場合には,買主は,債務不履行を理由として,売買契約を解除することができる(同541条,542条1項1号)。解除がされると,同540条以下に規定する解除と同様に原状回復義務を生じる(同545条1項本文)。この原状回復義務は,当事者双方が負うものであるが,他人物売買の場合,売主は目的物について何ら権限を有しないことから,買主が負う原状回復義務について,売主がその履行を求めることができるかが問題となる。この点について,平成29年改正前の判例は,「売買契約が解除された場合に,目的物の引渡を受けていた買主は,原状回復義務の内容として,解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり,この理は,他人の権利の売買契約において,売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず,民法561条の規定により該契約が解除された場合(現:民法541条,542条に相当する。)についても同様である」としている(最判昭51.2.13 民法百選Ⅱ〔第8版〕45事件)。その理由として,同判決は,「解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として,契約当事者に該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには,買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり,売主が,目的物につき使用権限を取得しえず,したがって,買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあったとしても,このことは右の結論を左右するものではない」ことを挙げている。したがって,本記述においても,Bは,Aに対し,その解除までの間の甲土地の使用利益を返還しなければならない。よって,本記述は正しい。*中田(契約)228~229頁,294頁。我妻・有泉コメ1130頁,1170頁。中舎(債権法)143~144頁。 ウ 誤 り。 売買の目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないときは,買主は,売主に対して契約不適合責任を追及することができる(民法562条~564条)。平成29年改正前の判例は,「建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において,右敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が右売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても,

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民法 ‐47‐

右売買の目的物に隠れた瑕疵がある(現:種類又は品質に関して契約の内容に適合しない)ということはできない」としている(最判平3.4.2 民法百選Ⅱ〔第8版〕54事件)。その理由として,同判決は,「右の場合において,建物と共に売買の目的とされたものは,建物の敷地そのものではなく,その賃借権であるところ,……賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については,賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって,右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから,買主が,売買によって取得した賃借人たる地位に基づいて,賃貸人に対して,右修繕義務の履行を請求し,あるいは賃貸借の目的物に隠れた瑕疵があるとして瑕疵担保責任を追求することは格別,売買の目的物に瑕疵があるということはできない」ことを挙げている。そして,同判決は,同改正後の契約不適合責任の下でも妥当すると解されている。よって,本記述は誤りである。*中舎(債権法)186頁。民法百選Ⅱ〔第8版〕111頁。我妻・有泉コメ 1188~1189頁。平野(債各Ⅰ)185~186頁。 エ 誤 り。 民法566条本文は,売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは,買主は,その契約不適合を理由として,履行の追完請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないとしている。そして,同条は,種類又は品質に関する契約不適合の事例において,債権の消滅時効に関する一般準則を排除するものではないとされている。そのため,消滅時効の客観的起算点である「権利を行使することができる時」,すなわち,目的物の引渡し時から10年の消滅時効の規定(同166条1項2号)が適用される。したがって,買主が目的物の引渡しを受けた時から10年を経過している本記述においては,買主の種類又は品質に関する担保責任による損害賠償請求権の消滅時効は完成している。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前の判例は,「瑕疵担保による損害賠償請求権(現:種類又は品質に関する契約不適合責任による損害賠償請求権に相当する。)には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する」としている(最判平13.11.27 民法百選Ⅱ〔第8版〕53事件)。その理由として,同判決は,「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項(現:民法166条1項)にいう「債権」に当たることは明らかであ」って,「この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項)(現:民法566条本文に相当する。),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない」こと,「買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない」ことを挙げている。同判決の考え方は,同改正後の民法においても妥当すると考えられている。*新債権法の論点と解釈343頁。中舎(債権法)185頁。後藤(契

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改正民法演習問題 ‐48‐

約)295~296頁。我妻・有泉コメ1181頁。一問一答(民法(債権関係)改正)284~286頁。民法(債権関係)改正法の概要267~268頁。 オ 正しい。 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売における買受人は,民法541条及び同542条の規定並びに同563条(同565条において準用する場合を含む。)の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる(同568条1項)。この場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる(同条2項)。したがって,本記述においても,建物の買受人は,強制競売による建物の売買契約を同541条又は同542条により解除した上,売却代金の配当を受けた債権者に対し,同568条2項によりその代金の返還を請求することができる。よって,本記述は正しい。*中田(契約)325~326頁。我妻・有泉コメ1183頁。一問一答(民法(債権関係)改正)269頁。Before/After民法改正364~365頁,368~369頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権各論(第4版)131~132頁,136~159頁。

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民法 ‐49‐

正誤チェック 正解率 % 〔第13問〕 賃貸借に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。 1.資材置場とするためにされた建物所有を目的としない土地の賃貸借の存続期間は,20年を超えることができない。(司法R元-25-イ改題) 2.賃借物の修繕が必要である場合において,賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず相当な期間内に必要な修繕をしないときは,賃借人は,賃借物の修繕をすることができる。 3.賃貸借の目的物である家屋の全部が滅失した場合,賃貸借契約は当然に終了する。 4.建物の賃借人は,明確な合意のない限り,通常の使用及び収益によって生じた建物の損耗や建物の経年変化について原状回復義務を負わない。 5.建物賃貸借における敷金は,賃貸借終了後建物明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり,敷金返還請求権は,賃貸借終了後建物明渡完了の時においてそれまでに生じた上記の一切の被担保債権を控除しなお残額がある場合に,その残額につき具体的に発生する。(司法H20-25-2)

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改正民法演習問題 ‐50‐

第13問 賃貸借 正解 1 誤っているものは,1であり,正解は1となる。 1 誤 り。 賃貸借の存続期間は, 50年を超えることができない(民法604条1項前段)。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前民法604条1項前段は,賃貸借の存続期間は,20年を超えることができないとしていたが,現代のニーズに合わないことから,改正法においては,物権である永小作権にならい(民法278条1項参照),50年へと存続期間を延長したものである。*中田(契約)393頁。一問一答(民法(債権関係)改正)315頁。 2 正しい。 賃借物の修繕が必要である場合において,①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し,又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき,②急迫の事情があるときは,賃借人は賃借物の修繕をすることができる(民法607条の2)。目的物の修繕は,目的物に物理的変更を加えることが多いため,通常その所有権を有する賃貸人が行うとするのが合理的であり,かつ,適切であるが,他方で,賃貸人が相当の期間内に修繕をしないときや,修繕の急迫の必要があるときには,例外的に,賃借人も行うことができるとするのが相当であることによる。よって,本記述は正しい。 なお,修繕が賃貸人の義務に属するものであれば(同606条1項本文),賃借人が修繕に要した費用は,「賃貸人の負担に属する必要費」として,直ちにその償還を請求することができる(同608条1項)。*中田(契約)409~410頁。一問一答(民法(債権関係)改正)321頁。 3 正しい。 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合には,賃貸借は,これによって終了する(民法616条の2)。よって,本記述は正しい。*中田(契約)427~428頁。一問一答(民法(債権関係)改正)323頁。 4 正しい。 賃借人は,賃借物を受け取った後にこれによって生じた損傷がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う(民法621条本文)。賃借人が原状回復義務を負う「損傷」は,通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除いたものを指す(同条本文括弧書)。そして,通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化について賃借人に原状回復義務を負担させる要件について,判例は,「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約……が明確に合意されていることが必要である」としている(最判平17.12.16 消費者法百選24①事件,平17重判民法8事件)。よって,本記述は正しい。*中田(契約)396頁,404~405頁。一問

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民法 ‐51‐

一答(民法(債権関係)改正)325頁 5 正しい。 民法622条の2第1項1号に規定されている。よって,本記述は正しい。 なお,同号は,最判昭48.2.2(民法百選Ⅱ〔第7版〕61事件)のを明文化したものである。*潮見(基本講義・債各Ⅰ)219~220頁。平野(債各Ⅰ)300~301頁。一問一答(民法(債権関係)改正)327頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権各論(第4版)198~269頁。

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改正民法演習問題 ‐52‐

【MEMO】

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民法 ‐53‐

正誤チェック 正解率 % 〔第 14 問〕 寄託に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。 1.無償の寄託は受寄者が寄託物を受け取ることによって効力を生ずるが,有償の寄託は当事者間の合意によってその効力を生ずる。(予備H24-11-ア) 2.返還時期の定めがある寄託においても,寄託者は,いつでも目的物の返還を請求することができる。(予備H24-11-イ) 3.受寄者は,寄託者の承諾が得られない限り,寄託物を使用し,又は第三者にこれを保管させることができない。(司法H29-29-ウ改題) 4.返還時期の定めのない消費寄託において,寄託者が返還を請求するには,相当の期間を定めて催告をすることを要する。(予備H24-11-エ) 5.複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には,受寄者は,各寄託者の承諾がなくても,これらを混合して保管することができる。

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改正民法演習問題 ‐54‐

第14問 寄託 正解 2 正しいものは,2であり,正解は2となる。 1 誤 り。 寄託は,当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって,その効力を生ずる(諾成契約 民法657条)。このことは,寄託が有償の場合であるか,無償の場合であるかで変わりはない。よって,本記述は誤りである。 なお,平成29年改正前においては,寄託契約は有償,無償を問わず要物契約とされていた。*潮見(基本講義・債各Ⅰ)273頁。平野(債各Ⅰ)402頁。 2 正しい。 民法662条1項に規定されている。よって,本記述は正しい。*潮見(基本講義・債各Ⅰ)278頁。平野(債各Ⅰ)411~412頁。 3 誤 り。 受寄者は,寄託者の承諾を得なければ,寄託物を使用することができない(民法658条1項)。また,受寄者は,寄託者の承諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,寄託物を第三者に保管させることができない(同条2項)。これは,寄託と同じく人的信頼関係に基礎を置く委任における復委任の扱い(同644条の2)と平仄を合わせ,再寄託についての実務上の要求に適合するようにしたものである。したがって,やむを得ない事由がある場合には寄託者の承諾を得なくても,第三者に寄託物を保管させることができるので,本記述は,寄託者の承諾を得なければ,第三者に保管させることができないとしている点で誤っている。よって,本記述は誤りである。*中田(契約)544頁。潮見(基本講義・債各Ⅰ)275頁。民法(債権関係)改正法の概要327頁。一問一答(民法(債権関係)改正)360頁。我妻・有泉コメ1335頁。 4 誤 り。 寄託者は,寄託物の返還の時期の定めにかかわらず,いつでも返還を請求することができる(民法662条1項)。相当の期間を定めた催告は,返還請求の要件とされていない。そして,消費寄託も寄託の一種であるから,同項が適用される。したがって,返還時期の定めのない消費寄託において,寄託者が返還を請求するには,相当の期間を定めて催告をすることを要しない。よって,本記述は誤りである。 なお,消費貸借の場合には,当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができるとされている(同591条1項)。*一問一答(民法(債権関係)改正)367~368頁。潮見(基本講義・債各Ⅰ)278頁,281頁。 5 誤 り。 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には,受寄者は,各寄託者の承諾を得たときに限り,これらを混合して保管することができる(混合寄託 民法665条の2第1項)。よって,本記述は誤りである。 なお,混合寄託を定める民法665条の2は,混合寄託が実務上は広く行われているにもかかわらず,明文の規定がなかったことから,平成29年改正により新設されたものである。*一問一答(民法(債権関係)改正)366頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権各論(第4版)309~317頁。

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民法 ‐55‐

正誤チェック 正解率 % 〔第 15 問〕 A,B及びCがそれぞれ100万円ずつ出資して,甲組合の名義で共同の事業を営む組合契約を締結した。この場合に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。 ア.甲組合の債権者は,甲組合の財産についてその権利を行使することができ,債権の発生の時にA,B,Cの損失分担の割合を知らなかったときは,その選択に従い,A,B,Cに対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができる。 イ.Cが死亡した場合,その相続人は,A及びBの意思表示があれば,当該相続人の意思にかかわらず甲組合の組合員となる。(司法H25-28-オ改題) ウ.甲組合の債務者が,Aに対して貸金債権を有している場合であっても,その貸金債権と甲組合に対する債務とを対当額で相殺することができない。 エ.Aが甲組合を脱退した場合,Aは,それまでに甲組合が負担していた債務について,弁済する責任を免れる。 オ.Aが自己の出資分100万円の履行をしない場合,出資を履行したBは,Aに対して履行を催告した上,相当期間内に履行されないときは,組合契約を解除することができる。 1.ア イ 2.ア ウ 3.イ オ 4.ウ エ 5.エ オ

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改正民法演習問題 ‐56‐

第15問 組合 正解 2 正しいものは,ア,ウであり,正解は2となる。 ア 正しい。 組合の債権者は,組合財産についてその権利を行使することができる(民法675条1項)。そして,組合の債権者は,その選択に従い,各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合で権利を行使することができる(同条2項本文)。ただし,組合の債権者がその債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは,その割合による(同項ただし書)。したがって,債権発生の時にA,B,Cの損失分担の割合を知らなかった債権者は,その選択に従って,A,B,Cに対して損失分担の割合又は等しい割合で権利を行使することができる。よって,本記述は正しい。*潮見(基本講義・債各Ⅰ)290頁。平野(債各Ⅰ)467~468頁。 イ 誤 り。 組合員の死亡は,組合の脱退事由である(民法679条1号)。そして,組合契約は,個人的信頼関係を基礎として成り立っていることから,組合員の相続人は,当然には組合員の地位を承継しない。組合員全員の同意又は組合契約の定めによって,新たに加入させることになる(同677条の2第1項)。したがって,残存組合員の一方的意思表示によって,相続人が当然に組合員になることはない。よって,本記述は誤りである。 なお,同677条の2第1項は,平成29年改正前においては,組合員の加入に関する規定はなかったところ,一般的な解釈に従い,新たに組合員を加入させることができる旨を明文化したものである。*中田(契約)580~581頁。平野(債各Ⅰ)471頁,473頁。 ウ 正しい。 組合員の債権者は,組合財産についてその権利を行使することができない(民法677条)。同条にいう「組合財産についてその権利を行使することができない」との文言の中には,組合員の債権者がその債権と組合に対する債務とを相殺することができないことも含まれている。これは,組合財産の団体的拘束の現れであり,組合の債権は,各組合員の分割債権(同427条)とはならないことを意味する。よって,本記述は正しい。 なお,平成29年改正前民法677条は,相殺の禁止のみを規定していたが,相殺以外の方法による権利行使もできないと解されていたことから,同改正民法677条は,この解釈を一般化し,相殺以外の権利行使もできないことを明らかにしたものである。*中田(契約)575~576頁。我妻・有泉コメ1360頁。民法(債権関係)改正法の概要339~340頁。一問一答(民法(債権関係)改正)375~376頁。 エ 誤 り。 脱退した組合員は,その脱退前に生じた組合の債務について,従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う(民法680条の2第1項前段)。よって,本記述は誤りである。 なお,同項前段は,平成29年改正前には,脱退した組合員の責任について,明文の規定はなかったものの,組合に加入していた時に組合が債権者に対して負担した債務について責任を負うと解されていたことから,これを明文化したものである。*一問一答(民法(債権関係)改正)377頁。 オ 誤 り。 組合員は,他の組合員が組合契約に基づく債務の履行をしないことを理由と

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民法 ‐57‐

して,組合契約を解除することができない(民法667条の2第2項)。よって,本記述は誤りである。 なお,同項は,平成29年改正前の判例法理(大判昭14.6.20)を明文化したものである。*一問一答(民法(債権関係)改正)371頁。 (試験対策講座の参照頁) 債権各論(第4版)323~333頁。

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伊 藤 塾

改正民法演習問題 ‐58‐

【MEMO】