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変形性膝関節症に対する理学療法による能力障害の改善に影響する要因 ~痛み関連因子の経時的変化に着目して~ 田中 1,2,3今井 亮太 3西上 智彦 4森岡 3,51) 九州医療スポーツ専門学校 2) 九州医療整形外科・内科 リハビリテーションクリニック 3) 畿央大学大学院 健康科学研究科 4) 甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科 5) 畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター Introduction OAにおける痛みと能力障害の関係 ■膝OAの能力障害には痛みの程度が影響するMcAlindon et al, 1993■膝OAの痛みはQOLの低下や活動範囲の狭小化を招くDore et al, 2010■膝OAの能力障害は社会参加制限のリスクを高めるNakamura, 2011OAの痛みに関与する因子 ■膝OA症例では自己効力感,恐怖,破局化,不安の強さが痛みと 能力障害に関連していたSanna, 2014■膝OA患者の身体知覚能の低下が膝痛と関連するNishigami T, 2017Purpose Materials and methods 【対象】 20169月から20176月までに当院を含めた研究協力医療機関11 施設を受診し,変形性膝関節症と診断された患者で,初期評価時 から5ヵ月時までの経時的変化を追えた44名とした。 (男性:11, 女性:33, 平均年齢:71.5±9.7歳) 【方法】 理学療法開始時,1ヵ月時,3ヵ月時,5ヵ月時に次項の評価を実施 (1) 年齢,性別,膝OA重症度分類 K-L分類) (2) 安静時・運動時の膝痛評価Numerical Rating ScaleNRS(3) 膝関節 関節可動域(膝関節 屈曲・伸展ROM(4) 膝関節疾患特異的尺度Oxford-knee score 日本語版: OKS(5) 身体知覚異常The Fremantle Knee Awareness QuestionnaireFreKAQ(6) 痛みに対する破局的思考Pain Catastrophising ScalePCS(7) 痛みに対する自己効力感Pain Self-Efficacy QuestionnairePSEQ【能力障害の改善群と非改善群を分類】 【統計】 統計学的分析手法は,初期評価時,1ヵ月時,3ヵ月時,5ヵ月時の 各時期に,改善群・非改善群の両群間で,OKS, NRS, ROM, PCS, PSEQ, FreKAQのそれぞれの差の検定を二元配置分散分析およびpost hocとしてBonferroni法を用いて比較した.統計学的有意水準は5% 未満とした.統計学的解析にはIBM SPSS ver.24を使用した. Results 【能力障害の改善群と非改善群の内訳】 【能力障害の改善群と非改善群における各因子の変化】 Discussion 【本研究】 能力障害改善群では,運動時痛が初期値と比較し1M, 3M, 5M破局的思考が初期値と比較し3M, 5Mと早期から改善していた 理学療法開始時に強い自己身体知覚異常があり,それが継続して いると,5ヵ月後に能力障害が十分に改善していなかった 【先行研究】 OAの痛みの強さには痛みの破局化や恐怖感が関連Somers, 2009OA患者では繰り返し刺激によって痛み強度が増大Lars et al, 2015OA患者では運動野における膝関節の表象が変化Shanahan, 2015【本研究の強みと限界】 OAの能力障害に関与する因子を縦断的に調査している点 介入方法が統一されていないため,どの方法が能力障害の改善に 影響したかが不明な点 Conclusion OA保存例の能力障害の改善に影響する因子について検討した 能力障害の改善には,運動時痛や破局的思考,身体知覚異常が 影響することが示唆された 2017.11.18-19 10日本運動器疼痛学会@福島県 利益相反開示 演題内容に関して,開示すき利益相反関係にある企業・組織・団体はありません Diagnosis of Knee OA Initial evaluation (n=114) 1M evaluation (n=84) 3M evaluation (n=59) Excluded (n=30) Excluded (n=25) 5M evaluation (n=44) Excluded (n=15) Initial 5M p value Age 71.5±9.8 - K-L grade1 11 - K-L grade2 11 - K-L grade3 12 - K-L grade4 10 - NRSrest 0.9±1.4 0.6±1.4 n.s. NRSmotion 4.8±1.9 2.6±2.0 p<0.01 ROMFlexion 131.1±16.4 132.4±14.8 n.s. ROMExtension -6.8±7.0 -4.1±4.6 p<0.01 OKS 33.2±7.9 37.1±9.2 p<0.01 PCS 23.4±11.1 16.0±11.3 p<0.01 PSEQ 39.7±13.0 46.1±13.2 p<0.01 FreKAQ 13.7±8.6 7.6±7.4 p<0.01 初期評価時と5ヵ月時の比較(n=44mean±SDMale 14% Female 86% K-L Ⅰ 28% K-L Ⅱ 27% K-L Ⅲ 27% K-L Ⅳ 18% K-L Ⅰ 23% K-L Ⅱ 23% K-LⅢ 27% K-LⅣ 27% 改善群(n=2271.0±10.7非改善群(n=2272.1±8.5* ** 膝痛 能力障害 社会参加制限 機能障害に起因した活動能力の低下 (日常生活動作能力,職業能力など) McAlindon, 1993Nakamura, 2011Dore, 2010非改善 改善 理学療法開始 ? 痛み関連因子 OAの能力障害の改善の程度に影響する痛み関連因子について調査 改善群 非改善群 4ポイント OKS5ヶ月後の値から初診時の値を引 いた値を算出.次に,OKSMCIDMinimal Clinically Important Difference)で ある4ポイント以上を改善群,4ポイント 未満を非改善群と分類した. David et al.2015OKS:能力障害】 NRS:運動時痛】 PCS:破局的思考】 Ext ROM:伸展可動域】 PSEQ:自己効力感】 FreKAQ:身体知覚異常】 mean ± SD*p<0.05 **p<0.01 OA 理学療法介入早期より運動時痛や破局的思考を改善する必要性? 理学療法開始時の身体知覚異常が,その後の能力障害に影響? OAの能力障害の改善には… * * * * 0 20 40 60 OKS0M 1M 3M 5M OAの痛みが多面的であることを示す報告は多いものの,それらの痛みの 要因が能力障害の改善にどのように影響するかは明らかにされていない 5ヵ月後 改善群 非改善群 0 10 20 30 40 50 60 OKS0M 1M 3M 5M * ** ** 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり 0 1 2 3 4 5 6 7 8 1 2 3 4 NRS0M 1M 3M 5M ** ** ** 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり 0 5 10 15 20 25 30 35 40 PCS** ** 0M 1M 3M 5M 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり 0 10 20 30 40 50 60 70 PSEQ* ** 0M 1M 3M 5M 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:なし -10 -8 -6 -4 -2 0 2 Ext ROM0M 1M 3M 5M ** * ** 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:なし FreKAQ0 5 10 15 20 25 30 ** ** ** * 0M 1M 3M 5M 改善群 非改善群 期間の主効果:あり 群間の主効果:あり 交互作用:なし

Introduction Resultskokusaigakuen.sakura.ne.jp/kms-clinic-com/wp-content/uploads/2017/11/... · 改善群(n=22) 71.0±10.7歳 非改善群(n=22) 72.1±8.5歳 膝痛 能力障害

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Page 1: Introduction Resultskokusaigakuen.sakura.ne.jp/kms-clinic-com/wp-content/uploads/2017/11/... · 改善群(n=22) 71.0±10.7歳 非改善群(n=22) 72.1±8.5歳 膝痛 能力障害

変形性膝関節症に対する理学療法による能力障害の改善に影響する要因 ~痛み関連因子の経時的変化に着目して~

田中 創1,2,3) 今井 亮太3) 西上 智彦4) 森岡 周3,5)

1) 九州医療スポーツ専門学校 2) 九州医療整形外科・内科 リハビリテーションクリニック 3) 畿央大学大学院 健康科学研究科

4) 甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科 5) 畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター

Introduction

膝OAにおける痛みと能力障害の関係

■膝OAの能力障害には痛みの程度が影響する(McAlindon et al, 1993)

■膝OAの痛みはQOLの低下や活動範囲の狭小化を招く(Dore et al, 2010)

■膝OAの能力障害は社会参加制限のリスクを高める(Nakamura, 2011)

膝OAの痛みに関与する因子

■膝OA症例では自己効力感,恐怖,破局化,不安の強さが痛みと 能力障害に関連していた(Sanna, 2014)

■膝OA患者の身体知覚能の低下が膝痛と関連する(Nishigami T, 2017)

Purpose

Materials and methods

【対象】

2016年9月から2017年6月までに当院を含めた研究協力医療機関11 施設を受診し,変形性膝関節症と診断された患者で,初期評価時 から5ヵ月時までの経時的変化を追えた44名とした。 (男性:11名, 女性:33名, 平均年齢:71.5±9.7歳)

【方法】

理学療法開始時,1ヵ月時,3ヵ月時,5ヵ月時に次項の評価を実施

(1) 年齢,性別,膝OA重症度分類 (K-L分類)

(2) 安静時・運動時の膝痛評価(Numerical Rating Scale:NRS)

(3) 膝関節 関節可動域(膝関節 屈曲・伸展ROM)

(4) 膝関節疾患特異的尺度(Oxford-knee score 日本語版: OKS)

(5) 身体知覚異常(The Fremantle Knee Awareness Questionnaire:FreKAQ)

(6) 痛みに対する破局的思考(Pain Catastrophising Scale:PCS)

(7) 痛みに対する自己効力感(Pain Self-Efficacy Questionnaire:PSEQ)

【能力障害の改善群と非改善群を分類】

【統計】

統計学的分析手法は,初期評価時,1ヵ月時,3ヵ月時,5ヵ月時の 各時期に,改善群・非改善群の両群間で,OKS, NRS, 膝ROM, PCS, PSEQ, FreKAQのそれぞれの差の検定を二元配置分散分析およびpost hocとしてBonferroni法を用いて比較した.統計学的有意水準は5% 未満とした.統計学的解析にはIBM SPSS ver.24を使用した.

Results

【能力障害の改善群と非改善群の内訳】

【能力障害の改善群と非改善群における各因子の変化】

Discussion

【本研究】

■ 能力障害改善群では,運動時痛が初期値と比較し1M, 3M, 5M, 破局的思考が初期値と比較し3M, 5Mと早期から改善していた

■ 理学療法開始時に強い自己身体知覚異常があり,それが継続して いると,5ヵ月後に能力障害が十分に改善していなかった

【先行研究】

■ 膝OAの痛みの強さには痛みの破局化や恐怖感が関連(Somers, 2009)

■ 膝OA患者では繰り返し刺激によって痛み強度が増大(Lars et al, 2015)

■ 膝OA患者では運動野における膝関節の表象が変化(Shanahan, 2015)

【本研究の強みと限界】

■ 膝OAの能力障害に関与する因子を縦断的に調査している点

■ 介入方法が統一されていないため,どの方法が能力障害の改善に 影響したかが不明な点

Conclusion

■ 膝OA保存例の能力障害の改善に影響する因子について検討した

■ 能力障害の改善には,運動時痛や破局的思考,身体知覚異常が 影響することが示唆された

2017.11.18-19 第10回 日本運動器疼痛学会@福島県

利益相反開示 演題内容に関して,開示すへき利益相反関係にある企業・組織・団体はありません

Diagnosis of Knee OA

Initial evaluation (n=114)

1M evaluation (n=84)

3M evaluation (n=59)

Excluded (n=30)

Excluded (n=25)

5M evaluation (n=44)

Excluded (n=15)

Initial 5M p value Age 71.5±9.8 -

K-L grade1 11 -

K-L grade2 11 -

K-L grade3 12 -

K-L grade4 10 -

NRS:rest 0.9±1.4 0.6±1.4 n.s.

NRS:motion 4.8±1.9 2.6±2.0 p<0.01

ROM:Flexion 131.1±16.4 132.4±14.8 n.s.

ROM:Extension -6.8±7.0 -4.1±4.6 p<0.01

OKS 33.2±7.9 37.1±9.2 p<0.01

PCS 23.4±11.1 16.0±11.3 p<0.01

PSEQ 39.7±13.0 46.1±13.2 p<0.01

FreKAQ 13.7±8.6 7.6±7.4 p<0.01

初期評価時と5ヵ月時の比較(n=44)

(mean±SD)

Male 14%

Female 86%

K-L Ⅰ

28%

K-L Ⅱ

27%

K-L Ⅲ

27%

K-L Ⅳ

18% K-L Ⅰ

23%

K-L Ⅱ

23% K-LⅢ

27%

K-LⅣ

27%

改善群(n=22) 71.0±10.7歳 非改善群(n=22) 72.1±8.5歳

* **

膝痛 能力障害 社会参加制限

機能障害に起因した活動能力の低下 (日常生活動作能力,職業能力など)

(McAlindon, 1993) (Nakamura, 2011)

(Dore, 2010)

非改善

改善

理学療法開始 ? 痛み関連因子

膝OAの能力障害の改善の程度に影響する痛み関連因子について調査

♦改善群

■非改善群

4ポイント

OKSの5ヶ月後の値から初診時の値を引いた値を算出.次に,OKSのMCID(Minimal Clinically Important Difference)である4ポイント以上を改善群,4ポイント未満を非改善群と分類した.

(David et al.2015)

【OKS:能力障害】 【NRS:運動時痛】 【PCS:破局的思考】

【Ext ROM:伸展可動域】 【PSEQ:自己効力感】 【FreKAQ:身体知覚異常】

(mean ± SD) *p<0.05 **p<0.01

膝OA 能力障害

■ 理学療法介入早期より運動時痛や破局的思考を改善する必要性?

■ 理学療法開始時の身体知覚異常が,その後の能力障害に影響?

膝OAの能力障害の改善には…

* *

* *

0

20

40

60

1 2 3 4

(OKS)

0M 1M 3M 5M

膝OAの痛みが多面的であることを示す報告は多いものの,それらの痛みの 要因が能力障害の改善にどのように影響するかは明らかにされていない

5ヵ月後

改善群

非改善群

0

10

20

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1 2 3 4

(OKS)

0M 1M 3M 5M

* **

**

改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり

0

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1 2 3 4

(NRS)

0M 1M 3M 5M

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改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり

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1 2 3 4

(PCS)

** **

0M 1M 3M 5M

改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:あり

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70

1 2 3 4

(PSEQ)

* **

0M 1M 3M 5M

改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:なし

-10

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2

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(Ext ROM)

0M 1M 3M 5M

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*

**

改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:なし 交互作用:なし

(FreKAQ)

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1 2 3 4

** **

** *

0M 1M 3M 5M

改善群

非改善群

期間の主効果:あり 群間の主効果:あり 交互作用:なし