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Instructions for use Title いわゆる「第三者の執行担当」について(1) : 第三者に帰属する権利を執行債権とする強制執行の許容性 Author(s) 山木戸, 勇一郎 Citation 北大法学論集, 65(5), 137-179 Issue Date 2015-01-30 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/57828 Type bulletin (article) File Information lawreview_vol65no5_4.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Instructions for use - HUSCAP...ZPO二六五条の場面に関する裁判例の立場 (一)ベルリン高等裁判所一九三二年一〇月二二日決定 (二)ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定・連邦通常裁判所一九八三年一一月二三日決定

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    Title いわゆる「第三者の執行担当」について(1) : 第三者に帰属する権利を執行債権とする強制執行の許容性

    Author(s) 山木戸, 勇一郎

    Citation 北大法学論集, 65(5), 137-179

    Issue Date 2015-01-30

    Doc URL http://hdl.handle.net/2115/57828

    Type bulletin (article)

    File Information lawreview_vol65no5_4.pdf

    Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

    https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/about.en.jsp

  • 北法65(5・137)1263

    論   説

         

    目  

    序章 

    はじめに

    第一章 

    ドイツ法

     

    第一節 

    執行担当概念の萌芽

       

    いわゆる「第三者の執行担当」について(一)

              

    ── 第三者に帰属する権利を執行債権とする強制執行の許容性 

    ──

    山木戸 

    勇一郎

  • 論   説

    北法65(5・138)1264

     

    第二節 

    執行担当に関する議論の引き金──連邦通常裁判所民事第五部一九八四年一〇月二六日判決──

     

    第三節 

    学説・裁判例の状況

      

    第一款 

    総説

      

    第二款 

    訴訟担当先行型

       

    一 

    はじめに

        (一)問題の所在

        (二)議論の対象となる場面

       

    二 

    ZPO二六五条の場面に関する裁判例の立場

        (一)ベルリン高等裁判所一九三二年一〇月二二日決定

        (二)ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定・連邦通常裁判所一九八三年一一月二三日決定

       

    三 

    ZPO二六五条の場面の訴訟担当者の執行当事者適格を否定する学説

        (一)専ら判決主文の給付の宛先の記載を基準にする見解

         (ア)ブライ(Erich Bley)の見解(一九三三年)

         (イ)キオン(Hans-Jürgen K

    ion)の見解(一九六五年)

         (ウ)小括

        (二)訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目する見解

        (三)小括

       

    四 

    任意的訴訟担当の場面に関する議論

       

    五 

    ベッカー=エーバーハルト(Ekkehard Becker-Eberhard

    )の反論(一九九一年)

        (一)総論

        (二)判決主文の給付の宛先の記載を基準とする見解に対する批判

         (ア)ブライやキオンが依拠している定式に対する批判

          (あ)ローゼンベルクの定式に対する批判

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・139)1265

    序章 

    はじめに

     

    実体法上の権利義務の帰属主体ではない者を、いかなる場合に正当な当事者として認めることができるか。この問題

    は、わが国の手続法において極めて重要な問題と位置づけられてきている。特に判決手続における当事者の正当性(当

    事者適格)については、わが国の手続法学において極めて長い議論の歴史を有しており、実体法上の権利義務の帰属主

    体ではない者が自己の名において判決手続を追行する場面を指して、「第三者の訴訟担当(Prozeßstandschaft

    )」とい

          (い)シュタインの定式に対する批判

         (イ)主文の給付の宛先の記載を基準とすること自体への批判

         (ウ)小括

        (三)訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目する見解に対する批判

        (四)小括

       

    六 

    現在の学説状況

       

    七 

    小括 

    (以上、本号)

      

    第三款 

    第三者授権型

      

    第四款 

    戻授権型

     

    第四節 

    小括

    第二章 

    日本法

    第三章 

    総括

  • 論   説

    北法65(5・140)1266

    う概念が用いられてきていることは周知のとおりである。

     

    他方、執行手続においても、実体法上の権利義務の帰属主体ではない者が自己の名において手続を追行する可能性は

    否定されない。そして、第三者の訴訟担当とのアナロジーから、実体法上の権利義務の帰属主体ではない者が執行当事

    者として執行手続を追行する場面を指して、「第三者の執行担当(V

    ollstreckungsstandschaft

    )」(以下では「執行担当」

    と略記する)という概念が用いられることがあ

    (1)(2)

    る。執行担当の領域に属する事象としては、一般的に以下の三つの類型

    が挙げられてい(3

    )る。

     

    第一は、訴訟担当者が自己を名宛人とする判決を取得した後に、そのまま執行当事者として強制執行をするという類

    型である。この類型は、訴訟当事者であった者が執行当事者になるという限りでは通常と同じであるが、執行債権は被

    担当者たる第三者に帰属していることから、執行担当の領域に入ることになる。本稿においては、この類型のことを「訴

    訟担当先行型(V

    ollstreckungsstandschaft nach vorangegangener Prozeßstandschaft

    )」と呼ぶことにする。

     

    第二は、判決手続等の債務名義の成立過程に当事者として関与した者が、自己を名宛人とする判決等の債務名義を取

    得した際に、当該判決等の債務名義に基づく強制執行を第三者に委託し、その委託に基づいて当該第三者が執行当事者

    として強制執行をするという類型である。この類型は、債務名義に表示された実体法上の権利の帰属主体ではない第三

    者が、委託に基づいて執行当事者として執行手続を追行しようとするものであるから、執行担当の領域に入ることにな

    る。本稿においては、この類型のことを「第三者授権型(D

    rittermächtigungsfälle

    )」と呼ぶことにする。

     

    第三は、判決手続等の債務名義の成立過程に当事者として関与した者が、自己を名宛人とする判決等の債務名義を取

    得した後に、当該判決等の債務名義に表示された実体法上の権利を第三者に譲渡した上で、当該第三者から委託を受け

    て自ら執行当事者として強制執行をするという類型である。この類型は、判決を例にすると、訴訟当事者であった者が

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・141)1267

    執行当事者になるという限りでは通常と同じであるが、執行債権は譲渡によって譲受人に帰属しているにもかかわらず、

    判決を取得した譲渡人がそのまま執行当事者として執行手続を追行しようとするものであるから、執行担当の領域に入

    ることになる。本稿においては、この類型のことを「戻授権型(Rückerm

    ächtigungsfälle

    )」と呼ぶことにす(4

    )る。

     

    さて、わが国において、過去に執行担当に関して議論の対象となったことがあるのは、訴訟担当先行型である。例えば、

    株主代表訴訟の勝訴原告株主による強制執行の申立ての可否については、一九九五年頃に盛んに議論がなされていたと

    ころであり、また、選定当事者による強制執行の申立ての可否についても議論がなされていたことがある。これらの問

    題については、後述の通り、有力な否定説が主張されていたものの、現在のところ肯定説が通説であるといって差し支

    えのない状況にある。もっとも、現在の学説状況の形成が、理論的な意味で十分な決着を見た結果といえるかどうかに

    ついては、未だ検討の余地があるように思われる。そこで、今一度過去になされてきた議論を詳細に振り返って、特に

    有力な否定説を採用することができない根拠について、理論的な基礎から再度検討をする必要があるように思われる。

     

    また、訴訟担当先行型に対して、戻授権型や第三者授権型のような委託に基づく執行担当については、わが国におい

    てはほとんど議論がなされてきていない。しかし、これらの類型に属する事象は、例えば、前者については債権譲渡担

    保の場合において、後者についてはサービサーによる債権回収の場合において、わが国においても起き得るものである

    と考えられる。そこで、委託に基づく執行担当についても、その可否や理論的な基礎について、一度考察をしておく必

    要があるように思われる。

     

    以上のようなわが国の状況に対して、ドイツにおいては、後に紹介する通り、一九八四年頃を境に執行担当に関する

    議論が本格的に行われるようになってきており、また、理論的な分析が急速に発展してきている状況にある。そこで、

    本稿では、まずドイツにおいてなされていた議論を参照することによって、以上の課題を解決する上での示唆を得るこ

  • 論   説

    北法65(5・142)1268

    とにしたいと思う。その上で、わが国のこれまでの議論の状況を整理しつつ、筆者なりの検討を加えていくこととした

    いと思う。

     

    なお、執行担当の各類型が、執行法のどの次元の問題として位置づけられ、また、それぞれの位置づけにおいて何が

    問題になるのかということについて、わが国では必ずしも十分な整理がなされてきたとはいえないように思われる。そ

    こで、以上に述べたような検討をする上では、これらの点を明確にしながら考察することが必要であると考えている。

     

    また、執行担当の各類型の執行法上の問題の次元はそれぞれ異なるため、これらを当然に統一的な問題領域として把

    握することが可能なわけではなく、また、当然にその必然性があるということができるわけでもない。そこで、本稿で

    は、執行担当という統一的な問題領域を観念することに意味を付与することが可能であるのかという点も、検討の対象

    とすべき事柄であると考えている。

     

    以上のような問題関心から、本稿では、まず執行担当に関するドイツにおける議論を紹介した上で、そこからいかな

    る示唆が得られるかを検討する(第一章)。それを受けて、執行担当に関連するわが国の議論の状況を整理しつつ、わ

    が国における執行担当の各類型の許容性について検討を加えた上で(第二章)、執行担当に関して総括的な検討を加え

    たいと思う(第三章)。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・143)1269

    第一章 

    ドイツ法

    第一節 

    執行担当概念の萌芽

     

    執行担当という概念が最初に用いられたのは、ベッターマン(K

    arl August Betterm

    ann

    )のハビリタツィオンにお

    いてである。その中でこの概念が登場するのは、他人の判決(他人を当事者とする判決)による強制執行においては誰

    のどのような請求権を執行するのか、という問いかけに関する部分である。その詳細は、以下のようなものであ(5

    )る。

     

    まず、ベッターマンは、自己の判決(自己を当事者とする判決)による強制執行においては、執行されるのは判決に

    おいて確認された請求権であることは明らかであるとした上で、「判決において確認され執行される請求権は、必ずし

    も原告に帰属する必要はない」とする。なぜなら、判決手続が訴訟担当の原告によって追行された場合、「勝訴した原

    告はその存在が肯定された請求権の保有者ではないため、勝訴した原告は執行手続的には債権者であっても実体法的に

    は債権者ではないから」であり、「したがって、執行担当は訴訟担当に対応するものである。執行担当は、自己の名に

    おける他人の権利の強制的な徴収である」とする。

     

    以上のベッターマンの論述は、挙げられている事例から明らかなように、訴訟担当先行型を念頭に置いたものである。

    もっとも、後述するように、訴訟担当先行型に相当する事象の存在そのものはこれ以前から意識されていたので(第三

    節第二款「二」(一)及び「三」(一)(ア)参照)、この部分で何か新しいことが指摘されているというわけではない。

    ベッターマンが執行担当という新たな概念を用いたことに意味を求めるとすれば、それは以下のように、他人の判決に

    よる強制執行の場合において、訴訟担当先行型以外の執行担当が存在することを指摘した点にあるように思われる。

  • 論   説

    北法65(5・144)1270

     

    まず、ベッターマンは、他人の判決による強制執行の話題に入るにあたって、上の記述に続けて、「この法解釈によっ

    て構築された概念〔=執行担当〕と、他人の判決を執行すること自体とは関係がない」として、単に判決手続の当事者

    と執行手続の当事者が同一ではないという一事を以って、執行担当という概念を用いることを戒めている。なぜならば、

    他人の判決による強制執行が認められている場合は、一般的にはその判決の権利は自己の権利となっているため、「他

    人の権利の裁判上の訴求である担当(Standschaft

    )の制度」との類似性はないからであるという。すなわち、「他人の

    判決の執行の一般的な場合においては、執行をする第三者はその自己の請求権を行使するものであるから、形式的手続

    的な意味のみならず、実体法的な意味においても、その第三者は債権者である。例えば、権利承継人は彼に譲渡された

    請求権を実行する。権利承継によって、その第三者は判決がなされた請求権の債権者となるから、法は明示的にその第

    三者に強制執行を行う権利を付与し、それによって手続法的な意味での債権者の役割を付与するのである。…この点は、

    判決がなされた者とは別の者に対して執行がなされる場合においても異なるところはない」、と。

     

    これに対して、ベッターマンは、法が認めている他人の判決による強制執行の中には、例外的に他人の権利を強制執

    行するパターンがあるとする。ベッターマンがその例として挙げるのは、ZPO七四二条(訴訟係属後に財産共通制が

    採られた場合において、訴訟当事者となった一方の配偶者が夫婦の合有財産について単独の管理権を持たないこととさ

    れた場合に、配偶者の他方が執行当事者として強制執行する場(6

    )合)やZPO七四九条(遺言執行者が被相続人を当事者

    とする判決に基づいて執行当事者として強制執行する場(7

    )合)である。これらについて、ベッターマンは、「訴訟担当非

    先行型の執行担当(V

    ollstreckungsstandschaft ohne vorausgegangene Prozeßstandschaft

    )」と呼んでい(8

    )る。

     

    このように、ベッターマンが訴訟担当先行型ではない執行担当の存在についての認識を持っていたことは特筆すべき

    である。もっとも、それらは法律上規定されているものにとどまっており、第三者授権型や戻授権型といった委託に基

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・145)1271

    づく類(9

    )型も含めて、執行担当が議論の対象として大きく取り上げられるには、その引き金となった連邦通常裁判所民事

    第五部一九八四年一〇月二六日判決を待たなければならなかった。

    第二節 

    執行担当に関する議論の引き金

            

    ──連邦通常裁判所民事第五部一九八四年一〇月二六日判決──

     

    執行担当が大きな議論の対象となったきっかけは、連邦通常裁判所民事第五部一九八四年一〇月二六日判決(BGH

    , 

    BGHZ 92, 347

    )である。この判決の事案は、以下のようなものである。

     

    原告(執行債務者)は、被告(執行債権者)に対して、執行証書によって原告の土地に証券土地債

    )(1(

    務を設定したが、

    被告は担保の目的で第三者にその証券土地債務の権利を譲渡した。その後、当該第三者が被告に対して、証券土地債務

    の目的となっている土地の強制競売を委託して、その土地債務証券を被告に返還した。そこで、被告が単純執行文の付

    与を受けて、原告の土地の強制競売を申し立てたところ、原告は、被告はもはや証券土地債務の権利者ではないと主張

    して、請求異議の訴えを提起した。

     

    この事案は、被告からの譲渡によって証券土地債務の権利帰属主体となった第三者に代わって、旧権利者である被告

    が執行当事者として執行手続を追行しようとしているものであるから、戻授権型に属する事案である。

     

    連邦通常裁判所民事第五部は、この請求を認容し、強制競売の不許を宣言した。その理由は、被告が当該第三者に対

    して譲渡した証券土地債務の権利を、当該第三者が被告に対してさらに譲渡したとは認められず、被告の当該第三者に

    対する権利の譲渡により、被告は土地債務を強制競売に利用する権限を失うに至ったものであり、このことは当該第三

  • 論   説

    北法65(5・146)1272

    者が被告による証券土地債務の権利の利用を許諾していたとしても左右されない、というものであった。

     

    請求異議の訴えを認容するためには、理由としてはここまでで十分であるが、判旨はその後に付け加えて、以下のよ

    うな一般論を述べている。

     

    ①判決手続において、第三者が本来の債権者による授権(Erm

    ächtigung

    )に基づいて自己の名で裁判上の主張をす

    ること(いわゆる任意的訴訟担当)は、当該第三者が他人の権利の実現につき保護に値する自己の利益を持っているな

    らば許容され、当該第三者が自己の名において判決を取得したならば、当該第三者は有名義債権者として執行文の付与

    を受けて、自己の名で強制執行を行うことができる。

     

    ②これに対して、有名義債権者が第三者に対して有名義請求権を自己〔=当該第三者〕の名で執行することを授権す

    ること(独立的執行担当 isolierte V

    ollstreckungsstandschaft

    )は、これとは異なり許されない。なぜなら、債務名

    )(((

    義に

    おいては、当該第三者が名宛人となっているわけではないため、当該第三者が強制執行を行うにはZPO七二七

    )(1(

    条に基

    づく承継執行文の付与が必要であるが、有名義請求権の譲渡のない純然たる執行授権は、実体適格(Sachlegitim

    ation

    の是正を伴っていないので、ZPO七二七条における意味での権利承継ではないからである。したがって、授権による

    執行文付与は問題になる余地がない。

     

    ③また、有名義債権者が、執行文付与の前後に第三者に対してその債権を譲渡した上で、当該第三者のために自己〔=

    有名義債権者〕の名で執行を行おうとした場合においても、このような新債権者のための旧債権者による執行担当は許

    されない。確かに、債務名義において債権者として証されている者は執行文の付与を受けることができるので、強制執

    行を開始することはできる。しかし、執行債務者は請求異議の訴えにおいて、新債権者への権利の譲渡を主張して、そ

    の強制執行の不許を求めることができる。ZPO二六五

    )(1(

    条は有名義請求権の譲渡には適用がな

    )(1(

    い。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・147)1273

     

    ④少なくとも本件のような執行担当を是認することは、法的安定性や法的明確性を確保するための執行法の形式的厳

    格性に反する。また、債権者が自身で権利を使用するのではなく、譲渡人に権利を残しておきたいのであれば、債権者

    は信託的譲渡をすることができるので、本件のような執行担当は実際上の必要もない。

     

    以上のような一般論のうち、③と④の戻授権型に関する判示部分は、この事案の結論の理由付けの裏付けとなる部分

    であるのに対して、②の第三者授権型に関する判示部分や、これと対比する意味で述べられている①の訴訟担当先行型

    に関する判示部分は、この事案の解決には必要のないものである。

     

    このように、この判決が戻授権型のみならず、執行担当の領域全般を視野に入れて判示したものであったことが、執

    行担当という領域に関する大きな関心を呼ぶ発端となった。特に戻授権型や第三者授権型については、この判決以前に

    はほとんど学説や裁判例がない分野であったため、この判決は議論の引き金として重要な意義を有しているということ

    ができる。第

    三節 

    学説・裁判例の状況

    第一款 

    総説

     

    執行担当論は、第三者に帰属する権利を自己の名で強制執行することが許されるか否かに関する問題であるが、そこ

    には二つの問題のレベルがあることを確認しておかなければならない。

     

    第一のレベルは、第三者に帰属する権利を自己の名で強制執行する場合において、そもそもその者が強制執行の申立

  • 論   説

    北法65(5・148)1274

    てをする資格を有するか、すなわち執行債権者(執行当事者)となることができるか、という問題である。強制執行を

    申し立てるためには執行文が付与された債務名義が必要であるから、執行債権者となることができるか否かは、その者

    に対する執行文の付与が認められるか否かという問題に帰着する。これが否定されれば、当該強制執行は不許容である

    (unzulässig ist)。

     

    第二のレベルは、第三者に帰属する権利を自己の名で強制執行する場合において、執行文の付与が認められて執行債

    権者となることができたとしても、請求異議の訴えによって阻止されることなく強制執行を貫徹することができるか、

    という問題である。これが否定されれば、当該強制執行は不許容となる(unzulässig w

    ird

    )。

     

    前者は手続法的な執行当事者適格の問題であるのに対して、後者は実体法的な適格性──いわゆる「実体適格」──

    の問題であるが、以下に述べるように、執行担当の類型によっていずれが問題となるかが異なっている。

     

    まず、訴訟担当先行型と第三者授権型は、専ら前者の問題として論じられている。後述するように、訴訟担当先行型

    は、判決主文において給付の宛先(給付がなされるべき対象)とされていない訴訟担当者が単純執行文の付与を受ける

    ことができるか、という問題設定で議論がなされており、また、第三者授権型は、判決等の債務名義の成立過程に当事

    者として関与した者から執行委託を受けた者が承継執行文の付与を受けることができるか、という問題設定で議論され

    ているからである。

     

    これに対して、戻授権型は、専ら後者の問題として論じられている。後述する通り、この類型においては、判決等の

    債務名義の成立過程に当事者として関与した者が執行当事者となるため、第一のレベルの問題は特に問題とならず、強

    制執行の許容性との関係で問題となるのは、執行当事者が債務名義に表示された実体法上の権利を譲渡によって失って

    いる点であるからである。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・149)1275

     

    このように、執行担当の類型によって、手続法的な当事者適格が問題となるか、実体適格が問題となるかが異なると

    いう点に留意しつつ、以下ドイツにおける学説・裁判例の状況を紹介していきたい。

    第二款 

    訴訟担当先行型

    一 

    はじめに

    (一)問題の所在

     

    訴訟担当者が原告となって取得した判決が、訴訟担当者に対する給付を命じるものである場合においては、訴訟担当

    者が単純執行文の付与を受けて執行債権者となることができることについて特段の争いはな

    )(1(

    い。

     

    これに対して、比較的古い時代から議論の対象となっていたのは、訴訟担当者が原告となって取得した判決が、実体

    法上の権利者である第三者に対する給付を命じるものである場合において、判決主文において給付の宛先(給付がなさ

    れるべき対象)とされていない訴訟担当者が執行債権者となることができるか、という点である。そして、この問題は、

    ZPO七二四条、七二五

    )(1(

    条に基づいて単純執行文の付与を受けることができるのは、訴訟担当者なのか(肯定説)、そ

    れとも実体法上の権利者である当該第三者なのか(否定説)、という問題設定で議論されている。

    (二)議論の対象となる場面

     

    この問題──訴訟担当者が第三者に対する給付を命じる判決を取得した場合における訴訟担当者の執行当事者適格─

    ─に関して議論の対象となっていたのは、主として権利承継(ZPO二六五条)の場面であった。そこでまず、なぜ権

  • 論   説

    北法65(5・150)1276

    利承継の場面において訴訟担当者が第三者に対する給付を命じる判決を取得するという事態が生じるのか、という点を

    確認しておきたい。

     

    周知の通り、ドイツ法では、訴訟係属中の係争目的物の譲渡や請求権の譲渡は訴訟手続には影響を与えないとする、

    いわゆる当事者恒定主義が採用されている(ZPO二六五条二項)。その結果として、訴訟係属中の係争目的物や請求

    権の譲渡(原告側)の後に当事者として訴訟追行をすることができるのは、新たに権利者となった権利承継人ではなく、

    旧権利者である譲渡人となるため、譲渡人は権利承継人の権利について、法定訴訟担当者として訴訟追行をすることに

    な)(1(

    る。もっとも、訴訟手続に影響を与えないといっても、当事者の変更がないにとどまらず請求の趣旨の変更も必要が

    ないのか否か──訴訟担当者となった譲渡人は自己に対する給付を求め続けることができるのか否か──という点につ

    いては議論があった。請求の趣旨の変更は必要ないとする説(いわゆる無影響説〔Irrelevanztheorie

    〕)を採用すると、

    判決においては譲渡人である訴訟担当者に対する給付が命じられることになるのに対して、請求の趣旨を新権利者に対

    する給付を求めるものに変更することが必要であるとする説(いわゆる影響説〔Relevanztheorie

    〕)を採用すると、判

    決においては新権利者である権利承継人に対する給付が命じられることになる。ZPOの制定後まもなくは無影響説が

    一般的であったが、二〇世紀前半には影響説が一般的になって現在に至っているた

    )(1(

    め、権利承継の場面においては、訴

    訟担当者が第三者に対する給付を命じる判決を取得するという事態が生じることを前提に、議論がなされるのが一般的

    であ

    )(1(

    る。

     

    さて、訴訟担当者が第三者に対する給付を命じる判決を取得するという事態が理論的に生じ得るのは、以上に

    述べたZPO二六五条の場面の他に、任意的訴訟担当(gew

    illkürte Prozeßstandschaft

    )の場面がある。なぜか

    というと、任意的訴訟担当を生じさせる訴訟追行授権には、被授権者自身に対する給付を求める実体法上の権限

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・151)1277

    の付与(取立授権〔Einziehungserm

    ächtigung

    〕)を伴うものと、それを伴わない純粋な訴訟追行の授権(reine 

    Prozeßführungsermächtigung

    )があるとされ、前者の場合は、訴訟担当者は自身に対する給付を求める実体法上の権

    限を有することになるため、自身に対する給付を命じる判決を求めることができるのに対して、後者の場合は、訴訟担

    当者は自身に対する給付を求める実体法上の権限を持たないため、自身に対する給付を命じる判決ではなく、本来の権

    利者に対する給付を命じる判決を求めなければならないことになるからであ

    )11(

    る。このため、後者の任意的訴訟担当の場

    合については、この問題の領域に含まれることにな

    )1((

    る。

     

    以下では、権利承継の場合に関する議論を中心に、任意的訴訟担当の場合に関する議論にも触れつ

    )11(

    つ、肯定説を採用

    する裁判例の立場を確認したうえで、学説上の否定説とそれに対する学説上の反論を紹介していきたい。

    二 

    ZPO二六五条の場面に関する裁判例の立場

     

    ZPO二六五条の場面に関して、裁判例は、訴訟担当者(譲渡人)に対する単純執行文の付与を肯定することで一致

    してい

    )11(

    る。肯定説を採る裁判例の理由付けとの関係で、学説上の反対説が展開されているため、以下では裁判例の内容

    を若干詳細に紹介したい。

    (一)ベルリン高等裁判所一九三二年一〇月二二日決定

     

    この問題について、最初に直接的に判断を示したのは、ベルリン高等裁判所一九三二年一〇月二二日決定(K

    G, JW 

    1933, 1799

    )である。この決定の事案は、権利承継人に対する給付を命じる判決の強制執行の際に、権利承継人がZP

    O七二七条(承継執行文の付与の規定)に基づいてではなく、ZPO七二五条に基づいて執行文の付与を受けることが

  • 論   説

    北法65(5・152)1278

    できると主張して抗告をしたというものであった。これに対して、この決定は、ZPO七二四条、七二五条によって単

    純執行文の付与を受けることができるのは訴訟当事者であり、権利の譲渡後も訴訟当事者には変更がなく、訴訟当事者

    ではなかった抗告人は、自身の資格を以ってZPO七二七条によって承継執行文の付与を受けることができる〔にとど

    まる〕、としている。

    (二)ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定・連邦通常裁判所一九八三年一一月二三日決定

     (ア)条文の文言を根拠とする理由付け

      

    この問題について、ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定(K

    G, JR 1956, 303

    )及び連邦通常裁判所一九

    八三年一一月二三日決定(BGH

    , NJW

     1984, 806

    )は、訴訟担当者が単純執行文の付与を受けることができる根拠と

    して、ZPO七二五条及びZPO七三四条の条文の文言を挙げている。その趣旨は、概ね以下のようなものである。

      

    ZPO七二五条は付与されるべき執行文の文言について、「上の正本は、強制執行のために誰某(当事者の表示)

    に付与する」と規定してお

    )11(

    り、執行文付与の対象者が「当事者」であることを前提とした規定となっている。また、

    ZPO七三四

    )11(

    条は、執行力ある正本(執行文が付与された判決の正本)の交付の際に判決の原本に記載すべき事項と

    して、その正本を付与した当事者及び日時を挙げており、執行力ある正本の交付の対象者が「当事者」であることを

    前提とした規定となっている。これらの規定を勘案すると、ZPO七二四条、七二五条によって単純執行文の付与を

    受けることができるのは、当事者として判決を取得した訴訟担当者である。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・153)1279

     (イ)条文の文言以外の理由付け

      

    まず、ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定は、条文の文言以外の理由付けとして、以下のようなことを

    述べている。

     (ⅰ 

    )職務上の当事者(Partei kraft A

    mtes

    )が執行法上の債権者となることができるように、執行法上の債権者と

    実体法上の債権者は一致する必要がないから、実体法上の権利者であるという理由をもって、ZPO二六五条二

    項の権利承継人を執行法上の債権者とみなす根拠はない。

     (ⅱ 

    )訴訟によって追求される成果は、単なる勝訴判決の取得ではなく、それによって強制執行をすることが許され

    ることになる執行文を具備する勝訴判決の取得である。そうすると、ZPO二六五条二項によって従前の訴訟当

    事者が実体法上の権利の喪失後も引き続き判決手続を追行することを許されるならば、従前の訴訟当事者は強制

    執行も行うことができなければならない。

     (ⅲ 

    )権利承継人が自身で執行を行うか、それとも訴訟担当者に行わせるかについては、その意向に任されている問

    題である。

      

    また、連邦通常裁判所一九八三年一一月二三日決定は、権利承継人に対する給付を命じる判決主文の記載のみに基

    づいて、承継執行文の付与の手続をスキップすることはできないため、権利承継人に対して(承継執行文の付与の手

    続をスキップするという意味で)単純執行文を付与することはできない、という趣旨のことを述べている。すなわち、

    権利承継人はZPO七二七条に従って権利承継の事実を証明すべきであるが、訴訟担当者が取得した権利承継人に対

    する給付を命じる判決は、権利承継の事実について判決効を以って確定していないた

    )11(

    め、この判決はZPO七二七条

    が要求する形式による証明として常にふさわしいものであるとはいえない。そうすると、当該判決によって当然に権

  • 論   説

    北法65(5・154)1280

    利承継が証明されたものとみることはできないから、当該権利承継人に対して単純執行文を付与することはできない、

    と。

    三 

    ZPO二六五条の場面の訴訟担当者の執行当事者適格を否定する学説

    (一)専ら判決主文の給付の宛先の記載を基準にする見解

     (ア)ブライ(Erich Bley

    )の見解(一九三三年)

      

    訴訟担当者(譲渡人)がZPO七二四条、七二五条によって単純執行文の付与を受けることができる、という見解

    に対して、最初に異論を提起したのはブライである。

      

    ブライの異論は、前述のベルリン高等裁判所一九三二年一〇月二二日決定に対するものとして提起されたものであ

    り、ブライは同決定に反対して、権利承継人がZPO七二四条、七二五条によって単純執行文の付与を受けるべきも

    のであるとして、以下のように主張す

    )11(

    る。

      

    まず、ブライは、「この問題は強制執行の目的から出発すべきである」とし、「強制執行は、公的文書において執行

    可能なものとして表示された、義務者(V

    erpflichtete

    )に対する資格者(Berechtigten

    )の実体法上の給付請求権な

    いし損害賠償請求権を実現するものというべきである」というローゼンベルク(Leo Rosenberg

    )の教科書における

    強制執行の目的についての記述を引用した上

    )11(

    で、「このような執行法的意味における資格者とは『債権者』であり、

    義務者とは『債務者』のことである」と主張する。

      

    その上で、コンメンタールや教科書における執行債権者に関する定式を引用して、現在の債権者が専ら執行債権

    者となるという結論を補強する。例えば、シュタイン=ヨナス・コンメンタールにおいて、シュタイン(Friedrich 

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・155)1281

    Stein

    )は、執行債権者とは「その者のために判決がなされた者」であると

    )11(

    し、また、ローゼンベルクは、その教科

    書において、執行債権者とは「債務名義又は執行文によれば、債務名義において確認された請求権の保持者(Inhaber

    である者」であるとしていた

    )11(

    が、ブライは、「これらは、被告から給付がなされるべく判決された権利譲受人のこと

    である」とする。また、バウムバッハ(A

    dolf Baumbach

    )の「債務名義において名宛てられた者」という定式によっ

    て)1((

    も、「権利譲受人はまさに判決主文に提示されているから」、この結論が是認されるとする。

      

    そして、ブライは、「原告は債権者ではないし、原告が他人の権利について判決手続を追行することができるから

    といって、他人の権利を執行できるという論理は成り立たない」、「強制執行上の訴訟担当(Prozeßstandschaft auf 

    die Zwangsvollstreckung

    )は実際上の必要性が欠けているだけではなく、何よりも必要とされる法的根拠を欠いて

    いる」と結論づける。

     (イ)キオン(H

    ans-Jürgen Kion

    )の見解(一九六五年)

      

    ブライの見解が発表されて後、この問題についての議論はしばらくなされていなかったが、前述の通り、ベルリン

    高等裁判所一九五六年五月二三日決定は、訴訟担当者(譲渡人)が単純執行文の付与を受けることができるという結

    論を採用した。

      

    キオンは、この決定に反対して、まず、シュタインやローゼンベルクの定式を引用しつつ、譲渡人には実体権も帰

    属しないし、権利者として債務名義にも表示されないため、譲渡人は執行債権者とはなりえない、というブライとほ

    ぼ同様の議論を展開する。その上で、この決定が執行法上の債権者と実体法上の債権者とは一致する必要はないとし

    ている(「二」(二)(イ)において紹介した理由付け(ⅰ)参照)のに対して、実体法上の債権者が誰なのかが問題

  • 論   説

    北法65(5・156)1282

    なのではなく、債務名義において指し示された債権者が誰であるのかが問題なのである、と反論してい

    )11(

    る。

      

    また、連邦通常裁判所一九八三年一一月二三日決定が、当該権利承継人に対して承継執行文の付与の手続をスキッ

    プして単純執行文を付与することはできない理由として、権利承継人に対する給付を命じる判決は権利承継の事実に

    ついて判決効を以って確定していないと述べている(「二」(二)(イ)参照)のに対して、キオンは、当事者に単純

    執行文を付与する際には、判決の内容である実体法上の権利の存否は問題とはならず、判決から形式的に判断される

    のであるから、権利承継の事実の有無についても、判決〔主文の給付の宛先〕から形式的に判断されるべきである、

    と反論してい

    )11(

    る。これに加えて、キオンは、仮にこの連邦通常裁判所決定の述べる通りであるとすると、判決文から

    は「権利承継…が裁判所に顕著である」とはならないことになり、また、譲渡の際に「公の証書若しくは公の認証の

    ある証書」が作成されることはないであろうから、ZPO七二七条の要件を常に満たさないため、権利承継人は常に

    執行文付与の訴え(ZPO七三一条)によらなければ執行文付与を受けることができなくなっ

    )11(

    て、訴訟関係を変動さ

    せないことによって被告を保護するというZPO二六五条の趣旨や目的に反して、手続を煩雑にすることになるので

    はないか、という疑問を呈す

    )11(

    る。

     (ウ)小括

      

    ブライとキオンの見解は、実体法上の権利者のみに執行債権者適格を認めることを企図して、実体法上の債権者は

    債務名義において給付の宛先として表示されているという認識のもとで、給付の宛先を基準に単純執行文を付与する

    対象を決するべきとするものと理解できる。彼らの問題意識の根底には、譲渡人は訴訟手続の便宜のために訴訟当事

    者になっているに過ぎないため、実体法上の請求権の実現という強制執行の目的からすれば、本来の権利者である権

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・157)1283

    利承継人のみが執行債権者となるべきである、という考慮があったように思われる。

      

    以上の見解とは別のアプローチとして、訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠が執行手続に妥当するかとい

    う観点から、訴訟担当者の執行当事者適格を否定する見解があるため、これを次に見ていきたい。

    (二)訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目する見解

     

    前述の通り、ベルリン高等裁判所一九五六年五月二三日決定は、ZPO二六五条二項によって従前の訴訟当事者が引

    き続き判決手続を追行することを許されるならば、従前の訴訟当事者は強制執行も行うことができなければならない、

    と述べている(「二」(二)(イ)において紹介した理由付け(ⅱ)参照)。これに対して、譲渡人に訴訟追行権が認めら

    れる根拠となっているZPO二六五条二項の規定は執行手続には妥当しない、という観点からの批判がなされている。

     

    まず、キオンは、仮にZPO二六五条が債権者の利益において手続の追行を許容する規定であるのならこのような議

    論は可能であるが、この規定は、被告から既存の訴訟関係を剥奪することによって被告の訴訟上の地位を悪化させるこ

    とを防ぐという専ら被告保護の規定であって、この規定から判決に基づく強制執行の権利までを導くことはできない、

    と主張す

    )11(

    る。

     

    また、グルンスキー(W

    olfgang Grunsky

    )も同様に、ZPO二六五条の規定は、被告にその有利な手続上の途中経

    過を維持することを認めるという被告保護を目的としたものであるから、新たな手続が開始された場合であって、何ら

    の成果を維持することも必要ではない場合には、この規定を適用する根拠がない、と述べている。その上で、判決手続

    と執行手続は権利実現の手続という意味では一体であるとはいえ、ZPO二六五条は何ら執行手続について言及してい

    ないから、執行手続においては権利者のみに自らの権利を行使する権限があるという原則を見出すことが可能となる、

  • 論   説

    北法65(5・158)1284

    と主張する。また、被告には執行手続を新債権者との間で行うという以上のどのような利益もないから、譲渡人は強制

    執行を行うことができず、譲渡人は譲受人(権利承継人)から授権を受けて、任意的執行担

    )11(

    当として強制執行をするこ

    とができるにとどまるとす

    )11(

    る。

    (三)小括

     

    訴訟担当者の執行権限を否定する見解は、以上に述べたように、二種類のアプローチに分類して理解することができる。

     

    第一は、判決主文の給付の宛先の記載を基準に、単純執行文の付与の対象を決定するというアプローチである。すな

    わち、実体法上の権利者のみに執行当事者適格を認めることを企図して、判決の当事者の表示を基準とするのではなく

    (訴訟担当者に執行当事者適格を認めず)、判決主文において給付の宛先とされた者を基準に、単純執行文の付与を受け

    ることができる者を決するべきである(専ら権利承継人に執行当事者適格を認めるべきである)、というものである。

     

    第二は、訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目するアプローチである。すなわち、ZPO二六五条二項

    によって、訴訟係属後の権利の譲渡によっても譲渡人がそのまま訴訟追行することができるのは、判決手続における被

    告の利益の保護のためであるから、この規定は執行手続には妥当しないため、譲渡人がそのまま執行当事者として執行

    手続を追行できるとすることには根拠がない、というものである。

     

    このような二種類の議論の仕方に対して、それぞれベッカー=エーバーハルトによる詳細な反論(後述「五」)があるが、

    これを紹介する前に、任意的訴訟担当の場面に関する議論の状況に簡単に触れておきたい。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・159)1285

    四 

    任意的訴訟担当の場面に関する議論

     

    任意的訴訟担当の場合も権利承継の場面と同じように、訴訟担当者の執行当事者適格を肯定する(訴訟担当者が単純

    執行文の付与を受けることができるとする)方向で裁判例は一致してお

    )11(

    り、連邦通常裁判所民事第五部一九八四年一〇

    月二六日判決(第二節参照)もこの旨を明らかにしている。

     

    これに対して、ヴィーンケ(A

    lbrecht Wienke

    )は、『執行担当』と題する博士論文において、授権者(実体法上の権利者)

    に対する給付を命じる判決の場合について、訴訟担当者の執行当事者適格を否定する主張をしている。すなわち、任意

    的訴訟担当の場合について

    )11(

    は、判決主文の給付の宛先を基準に、ZPO七二四条、七二五条により単純執行文の付与を

    受けることができる者が決せられ、授権者に対する給付を命じる判決の場合は、授権者に単純執行文を付与すべきもの

    とするのである。その根拠としてヴィーンケは、概ね以下のようなことを述べてい

    )1((

    る。

     

    権利者〔=授権者〕に対する給付を命じる判決の場合においても、原告に対して単純執行文を付与するとするならば、

    主文に表示された給付の宛先は何の意味や効果がないものになるから、主文に表示された給付の宛先は、執行文付与の

    際に意味を持つものと考えるべきであ

    )11(

    る。任意的訴訟担当者が債権の取立権限を与えられていない場合は、任意的訴訟

    担当者が強制執行をすることは強制執行の意味や目的に適合せ

    )11(

    ず、また、このような場合の任意的訴訟担当者の権限は、

    単に判決の取得を目的とするものであるため、委任代理権の終了の場合と同じく判決の取得を以って目的達成によって

    終了すると解するべきである

    )11(

    し、また、このような場合においては権利者が強制執行を行うことまで授権したとは解し

    がたい。

     

    以上のヴィーンケの主張は、実体法上の権限のない者に強制執行を行わせることは強制執行の目的に適合しないとし

    ている点や、訴訟追行権限の根拠となっている授権が執行手続に妥当しないことを問題としている点で、ZPO二六五

  • 論   説

    北法65(5・160)1286

    条の場面における否定説とおおよそ同様の構図のものである。

    五 

    ベッカー=エーバーハルト(Ekkehard Becker-Eberhard

    )の反論(一九九一年)

    (一)総論

     

    ベッカー=エーバーハルトは、訴訟担当者に対する単純執行文の付与を否定する学説に対して、常に判決手続の当事

    者に対して単純執行文を付与するという構図を貫徹するために、以上に紹介してきた否定説の論拠について、逐一詳細

    に批判してい

    )11(

    る。以下では、判決主文の給付の宛先を基準とする見解に対する批判と、訴訟担当者に訴訟追行権限が認

    められる根拠に着目する見解に対する批判とに分けて紹介していきたい。

    (二)判決主文の給付の宛先の記載を基準とする見解に対する批判

     (ア)ブライやキオンが依拠している定式に対する批

    )11(

      (あ)ローゼンベルクの定式に対する批判

      

    ベッカー=エーバーハルトは、ブライやキオンが依拠している「債務名義又は執行文によれば、債務名義において

    確認された請求権の保持者である者」という執行債権者に関するローゼンベルクの定式について、以下のような問題

    点を指摘する。

      

    まず、訴訟担当者に対する給付を命じる判決の場合においてすら、ローゼンベルクの定式には重大な問題がある、

    と指摘する。すなわち、判決主文のみから判断できることは、原告が権利者であるか否かという問題とは無関係に、

    単に原告に対して給付をしなければならないということだけである。したがって、請求権の保持者を明らかにするた

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・161)1287

    めには、判決主文を検討するのみでは足りず、判決理由に踏み込まなければならないことになる。しかし、これは強

    制執行の形式性の原則や判決手続と執行手続の役割分担に反するだけではなく、むしろ判決理由は訴訟担当者が権利

    者ではないことを明らかにすることになるた

    )11(

    め、執行権限ないし単純執行文を受ける権限は、訴訟担当者にあるの

    ではなく実体的な権利者にあるということになってしまう。しかし、これによると、例えば職務上の当事者の場合に

    は、破産管財人や遺言執行者ではなく、破産者や相続人に単純執行文を付与することになるが、これは明らかに旧K

    O六

    )11(

    条やBGB二二一一

    )11(

    条以下に違反することになる、と。

      

    また、第三者に対する給付を命じる判決の場合においても、訴訟担当者に対する給付を命じる判決の場合と同様

    に、判決主文のみから判断できることは、権利の帰属の如何とは無関係に、単に第三者に給付しなければならないと

    いうことだけである、と指摘する。すなわち、第三者に対する給付を命じる判決主文は、単に第三者に対する給付を

    命じているだけであって、当該第三者が給付請求権を有するか否かをオープンにしたままである──当該第三者が自

    己の給付請求権を持たず、単に給付受領権のみがあるという可能性も含んでいる──から、当該第三者が給付請求権

    を有しているということを決して意味しない。例えば、第三者のための契約(V

    ertrag zugunsten Dritter

    )の履行を

    求めて要約者が諾約者を訴えた場合、その勝訴判決においては、原告(要約者)が被告(諾約者)に対して受益者に

    対する給付を請求することができることは明らかにされるものの、受益者が自己の給付請求権を有しているか否か─

    ─すなわち第三者のための契約が真正なものであるか不真正なものである

    )11(

    か──についてはオープンにされたままで

    ある。このように、第三者に対する給付を命じる判決主文だけからでは、当該第三者が請求権の保持者であるかどう

    かは明らかにならないか

    )1((

    ら、請求権の保持者であるか否かを判断するためには、やはり判決理由に踏み込むことを要

    求されることになる、と。

  • 論   説

    北法65(5・162)1288

      

    以上のような指摘をした上で、ベッカー=エーバーハルトは、執行債権者に関する厳格な規定や判決手続と執行手

    続の役割分担の観点からは、強制執行や単純執行文の付与にあたっては、債務名義における外見上の給付命令が決定

    的であり、本来の請求権者は誰かといった実体的問題は重要ではないにもかかわらず、ローゼンベルクの定式はこの

    ことを十分留意していないと批判する。

      (い)シュタインの定式に対する批判

      

    ベッカー=エーバーハルトは、「その者のために判決がなされた者」というシュタインの定式につい

    )11(

    て、第三者に

    対する給付を命じる判決の場合においては、誰が執行債権者になるかについて明確な回答を可能にしない、と批判し

    ている。なぜなら、訴訟担当者が判決を求めてそれを取得しているのであるから、訴訟担当者のために判決がなされ

    ているともいえるし、給付の宛先である権利者がその直接の受益者なのであるから、判決は権利者のためになされて

    いるともいえるからである、と。

     (イ)主文の給付の宛先の記載を基準とすること自体への批

    )11(

      

    以上のように、ベッカー=エーバーハルトの批判(特にローゼンベルクの定式に対するもの)の骨子は、執行手続

    の形式性や判決手続と執行手続の役割分担に反するというものである。もっとも、ブライやキオンの主張は、結論的

    には(形式的に)判決主文の給付の宛先の記載を基準とするものと理解できるから、その意味では必ずしもベッカー

    =エーバーハルトの批判に対峙する関係にあるものではないと考えられる。そこで、より問題とすべきであるのは、

    主文の給付の宛先の記載を基準とすること自体の正当性であろう。

      

    この点について、ベッカー=エーバーハルトは、第三者に対する給付を命じる判決主文の文面のみからでは、当該

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・163)1289

    判決がZPO二六五条の事案のものか、任意的訴訟担当の事案のものか、第三者のための契約の事案のものかを判別

    することができないという点を重視して、以下のように述べる。

      

    判決主文の文面からでは、原告(要約者)のみが強制執行をすることができるとされている第三者のための契約の

    場合から、ZPO二六五条の場合や任意的訴訟担当の場合を区別することはできないから、判決主文の給付の宛先を

    基準とするためには、前者から後二者を区別するために、執行文付与手続において判決理由に踏み込まざるを得ない

    ことを意味することになる。しかし、形式化された手続である執行文付与手続は、このような吟味をするについて正

    しい場でもなければ適当な場でもない。

     (ウ)小括

      

    ベッカー=エーバーハルトが、判決主文の給付の宛先を基準とすることを批判しているのは、判決理由に踏み込ん

    で判断せざるを得ないことが、執行手続の形式性や判決手続と執行手続の役割分担に反するという点である。

      

    要約して述べると、ブライやキオンの考え方が、単純執行文を付与する対象を判断する上で、実体法上の請求権の

    所在を基準にするということを意味するとすれば、判決主文の給付の宛先は実体法上の請求権の所在を明らかにする

    ものではないため、これを判断するためには判決理由に踏み込まざるを得ないことになる。また、主文の給付の宛先

    の記載そのものを形式的に基準とするということを意味するとすれば、原告(要約者)にのみ執行権限が認められる

    第三者のための契約の場合と訴訟担当先行型の場合とを区別することは、判決主文の文面からだけでは不可能である

    ため、この区別のためにはやはり判決理由に踏み込まざるを得ないことになる、ということである。

  • 論   説

    北法65(5・164)1290

    (三)訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目する見解に対する批判

     

    執行手続の形式性や判決手続と執行手続の役割分担の観点は、訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に着目す

    るアプローチにも問題を投げかける。ベッカー=エーバーハルトは、訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠が執

    行手続に妥当するか否かという議論の仕方に対して、執行手続において問題となるのは、専ら執行文の付与された債務

    名義であるとして、このような問題設定そのものについて、以下のように批判をす

    )11(

    る。

     

    訴訟追行権限は、自己の名においてその権利についての訴訟を追行し、それが適法に判定されることが許容されるた

    めの、主張された実体権との一定の関係によって基礎づけられる権限である。これに対して、強制執行は、純然たる権

    利の有無の主張や判定をめぐって行われるものではなく、この判決を実現することにのみ関わるものである。権利の有

    無の主張や判定については、すでに執行手続を拘束する判決が前置されており、必要がある場合には、請求異議の訴え

    など執行手続外でなされるのである。このように、判決手続と執行手続の両者には厳格な役割分担があり、この役割分

    担の観点からすると、執行の根拠は、実体的請求権にではなく、専ら執行文の付与された債務名義にあるのであって、

    いわば強制執行は、実体的請求権の基礎から切り離され、新たに独立した根拠である債務名義に立脚しているといえる。

    訴訟担当者の執行権限は執行文の付与された債務名義からもたらされるものであり、訴訟担当者の訴訟追行権限は、そ

    れがあるがために訴訟担当者のために債務名義を与えることができるという形で、間接的に執行権限を導くに過ぎない。

    執行権限という独立の制度化された手続要件を持ち込むことは全く余計なことであり、執行文の付与された債務名義に

    よって執行権限があると証明された者が強制執行を行うことができるという以外にはない。重要なのは執行文の付与さ

    れた債務名義なのであって、訴訟担当の基礎にある権限が判決手続に制限されるか、又は執行手続にも作用を及ぼし続

    けるのかといったことは重要ではない。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・165)1291

    (四)小括

     

    ベッカー=エーバーハルトの主張の骨子となっているのは、執行手続の形式性や判決手続と執行手続の役割分担の観

    点である。

     

    すなわち、ブライやキオンのように、判決主文の給付の宛先を基準とする考え方に対しては、この考え方が実体法上

    の請求権の所在を基準にするということを意味するとしても、判決主文の給付の宛先の記載そのものを形式的に基準と

    するということを意味するとしても、いずれも判決理由に踏み込んだ判断が必要となるため、執行手続の形式性や判決

    手続と執行手続の役割分担の観点に反する、というのが彼の反論である。また、訴訟担当者に訴訟追行権限が認められ

    る根拠が執行手続に妥当するかといった問題設定に対しては、判決手続と執行手続の役割分担の観点からは、執行権限

    は専ら執行文の付与された債務名義から形式的に導かれるにすぎない、というのが彼の反論である。

    六 

    現在の学説状況

     

    現在のドイツにおいては、第三者に対する給付を命じる判決の場合においても、訴訟担当者に対して単純執行文を付

    与する、という結論に争いはない状態であ

    )11(

    る。ブライやキオンが依拠してきた執行債権者に関する定式も、現在は既に

    記述が書き換えられて姿を消している。すなわち、ローゼンベルクの定式については、連邦通常裁判所民事第五部一九

    八四年一〇月二六日判決(第二節参照)が出された後に、ローゼンベルクの教科書の記述を引き継いだガウルにより、

    「〔執行〕債権者とは、──その実体的権限について顧慮するのではなく──債務名義によれば給付の権利を是認された

    ものであり、それゆえに債務名義と執行力ある正本(執行文)において債権者として証明された者である」と、記述が

    改められてい

    )11(

    る。また、シュタインの定式については、シュタイン=ヨナス・コンメンタールのシュタインの記述部分

  • 論   説

    北法65(5・166)1292

    を引き継いでいたミュンツベルクが、ベッカー=エーバーハルトの見解が発表された後に、「〔執行〕債権者とは、債務

    名義並びに執行文の文面上給付を請求することができる者であり、債務名義において第三者に対する給付が企図されて

    いる場合も同様である」とシュタインの記述を改め、その注においてベッカー=エーバーハルトの論文を引用して、シュ

    タインに従った定式は厳密なものではなかったと述べてい

    )11(

    る。

    七 

    小括

     

    訴訟担当先行型の問題点は、主に権利承継(ZPO二六五条)の場面において、実体法上の権利者である第三者に対

    する給付を命じる判決がなされた場合に、給付の宛先とされていない訴訟担当者が執行当事者となることができるか、

    すなわち、単純執行文の付与を受けることができるのは、訴訟担当者か(肯定説)、それとも当該第三者か(否定説)

    という点であった。

     

    この点については、裁判例は一貫して肯定説を採用していたが、一部の学説からは否定説が主張されており、その根

    拠付けとして、判決主文の給付の宛先を基準とするというアプローチや訴訟担当者に訴訟追行権限が認められる根拠に

    着目するアプローチに基づく主張がなされてきた。

     

    これに対して、ベッカー=エーバーハルトからは、訴訟手続と執行手続の役割分担や執行手続の形式性の観点から、

    否定説の両アプローチの難点が指摘されている。また、否定説が依拠していた教科書やコンメンタールの執行債権者に

    関する定式も肯定説を支持する方向に書き改められており、現在は学説上も肯定説を採用することで争いのないところ

    である。

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・167)1293

    (1)「第三者の執行担当」に関するわが国における先行研究としては、中野貞一郎「第三者の訴訟担当と執行担当──代表訴

    訟勝訴株主の地位をめぐって」同『民事訴訟法の論点Ⅱ』(判例タイムズ社、二〇〇一年)二〇四頁以下〔初出:

    判タ九四

    四号(一九九七年)四一頁以下〕、同『民事執行法〔増補新訂六版〕』(青林書院、二〇一〇年)一四四頁、下村眞美「『第

    三者の執行担当』に関する基礎理論の試み」民事訴訟雑誌五一号(二〇〇五年)一六九頁以下がある。

    (2)本文で述べたとおり、実体法上の権利義務の帰属主体以外の者が自己の名において執行手続を追行する場面のことを、「執

    行担当」と呼ぶのが一般的であるが(K

    irsten Schmidt, V

    ollstreckung im eigenen N

    amen durch Rechtsfrem

    de : zur Zulassigkeit einer "V

    ollstreckungsstandschaft", 2001, S.15 f.

    )、これとは異なった理解を提唱する見解もある(Ekkehard 

    Becker-Eberhard, In Prozessstandschaft erstrittene Leistungstitel in der Zwangsvollstreckung, ZZP 104 (1991), S. 420.; 

    Kirsten Schm

    idt, a. a. O, S.93 ff.

    )。本稿では、さしあたり前者に従って論述し、後者に関しては後に紹介する。

    (3)K

    irsten Schmidt, a. a. O

    . (Fn. 2), S.15 f.; Albrecht W

    ienke, Die V

    ollstreckungsstandschaft : Eine folgerichtige Parallele zur Prozeßstandschaft?; D

    iss. Bonn, 1989., S. 24-41; 

    下村・前掲(注1)一七一頁。

    (4)わが国においては、第一の類型(訴訟担当先行型)については「派生的執行担当」、第二と第三の類型(第三者授権型・

    戻授権型)については「接続的執行担当」と呼ばれることがある(中野・前掲(注1)『民事執行法〔増補新訂六版〕』一

    四五頁、同・前掲(注1)「第三者の訴訟担当と執行担当」二〇五頁)。

    (5)Betterm

    ann, Die V

    ollstreckung des Zivilurteils in den Grenzen seiner Rechtskraft, 1948, S. 35 f.

    (6)ZPO七四二条は、配偶者の一方により又は一方に対して追行される訴訟が係属した後に、夫婦財産契約として財産共

    通性(夫婦財産は合有とし、その合有財産の管理について、夫婦共同で行うか夫婦の一方が単独で行うかは合意によると

    いうもの)が採られ、当該配偶者が財産の管理をしない又は単独ではしないこととされている場合に、合有財産に関する

    判決の執行力ある正本を配偶者の他方のために又は他方に対して付与するについては、承継執行文の付与の規定(ZPO

    七二七条等)を準用する、という規定である。なお、これは現行規定の説明であり、ベッターマンがこの著書を執筆した

    のは、ボン基本法の男女同権規定(同法三条二項)に従った男女同権法によるBGBの改正がなされる前であるため、ベッ

    ターマンの記述は、常に夫が管理権を持つことを前提に、「夫は妻が取得した判決について自己に対する承継執行文を得て

    執行ができる」となっている。

  • 論   説

    北法65(5・168)1294

    (7)ZPO七四九条は、被相続人のために又はこれに対してなされた判決の執行力ある正本を、遺言執行者のために又はこ

    れに対して付与するについては、承継執行文の付与の規定(ZPO七二七条等)を準用する、という規定である。

    (8)配偶者の一方ないし被相続人を訴訟当事者とする判決に基づいて、配偶者の他方ないし遺言執行者が強制執行を行うも

    のであるから、他人の判決による強制執行であるものの、当該判決の目的となっている権利は合有財産ないし相続人等の

    財産であって、このような権利に関して配偶者の他方や遺言執行者が執行当事者になるのであるから、執行担当の領域に

    入ることになる。

    (9)戻授権型や第三者授権型については、委託に基づく執行担当という意味で「任意的執行担当(gew

    illkürte Vollstreckungsstandschaft

    )」と呼ばれることがある(Gaul/Schilken/Becker-Eberhard, Zw

    angsvollstreckungsrecht, 12. Aufl. (2010), §

    16 Ⅴ 2. d (Rdnr. 109), M

    üKo(ZPO

    )-G. Lüke, 2. Aufl. (2000), §

    265 Rdnr. 10; MüK

    o (ZPO)-Becker-Eberhard, 3. 

    Aufl. (2008) und 4. A

    ufl. (2013), §265 R

    dnr. 10; Schuschke/Walker-Schuschke, V

    ollstreckung und vorläufiger Rechtsschutz, 5. A

    ufl. (2011), §727 Rdnr. 29

    )。また、訴訟担当から派生したものではないという意味で「独立的執行担当

    (isolierte Vollstreckungsstandschaft

    )」と呼ばれることもある(M

    üKo (ZPO

    )-Wolfsteiner, 3. A

    ufl. (2008), §724 Rdnr. 27; 

    Gaul/Schilken/Becker-Eberhard, a. a. O., §

    23 Ⅱ 7 (Rdnr. 32); Zim

    merm

    ann, ZPO, 9. A

    ufl. (2011), §727 Rdnr. 4; Zöller-

    Vollkom

    mer, ZPO

    , Vor §

    50 Rdnr. 43; Zöller-Stöber, ZPO, §

    727 Rdnr. 13; Thom

    as/Putzo, ZPO, 34. A

    ufl. (2013), §727 

    Rdnr. 3a; Prütting/Gehrlein-Gehrlein, ZPO, 5. A

    ufl. (2013), §50 Rdnr. 38

    )。また、「任意的独立的執行担当」とするものも

    ある(Baur/Stürner/Bruns, Zw

    angsvollstreckungsrecht, 13. Aufl. (2006), Rdnr. 12.12; Stein/Jonas-M

    ünzberg, ZPO, vor §

    704 Rdnr. 38; Zöller-H

    erget, ZPO, §

    767 Rdnr. 8

    )。

    (10)土地債務とは、抵当権に類似する不動産担保権であるが、被担保債権の存在を前提としないという点において抵当権と

    は異なるものであり、被担保債権の存在を前提としないという点を除いては、抵当権に関する規定が準用されている(B

    GB一一九二条)。土地債務には証券土地債務(Briefgrundschuld

    )と登記土地債務(Buchgrundschuld

    )があるが、証券

    の交付を当事者が禁止した場合に後者が成立することとされているので(BGB一一一六条)、前者が原則であるといえる。

    前者は土地債務証券(Grundschuldbrief

    )が発行される土地債務であり、土地債務を譲渡するためには物権的合意および

    土地債務証券の引渡しが必要となる(Baur/Stürner, Sachenrecht, 18. A

    ufl. (2009), §44 Rdnr. 1 ff.; 

    大場浩之「ドイツにお

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・169)1295

    ける登記と土地債務(Grundschuld

    )の関係(一)──公示制度と非占有担保制度の理論的関係の解明を目的として──」

    早稲田法学八〇巻四号(二〇〇五年)一五〇頁以下)。

    (11)ドイツ語の「V

    ollstreckungstitel

    」は、訳語としては「執行名義」が適切であるように思われるが、本稿においては、さ

    しあたり比較的わが国の用語法になじみやすい「債務名義」を用いることにする。

    (12)ZPO七二七条一項:「執行力ある正本は、判決に表示された債権者の承継人のために、並びに、判決に表示された債務

    者の承継人及び係争目的物の占有者であって、三二五条の規定により判決の効力が及ぶ者に対して、付与することができる。

    ただし、権利承継や占有関係が裁判所に顕著であるとき、又は、公の証書若しくは公の認証のある証書による証明がある

    ときに限る。」

    (13)ZPO二六五条一項:「訴訟係属は、一方又は他方の当事者が係争目的物を譲渡する権利又は主張されている請求権を譲

    渡する権利を排除しない。」

       

    同二項一文:「係争目的物の譲渡又は主張されている請求権の譲渡は、訴訟手続に影響を与えない。」

    (14)前注の通り、ZPO二六五条二項は訴訟係属後の譲渡の場合の当事者恒定を定めた規定であるが、この判示部分の意味は、

    有名義請求権の譲渡(確定判決取得後の請求権の譲渡)の場合においては、このような当事者恒定効を用いることはでき

    ないということ、すなわち、有名義請求権の譲渡の場合にも当事者恒定効があるとすれば、譲渡人がそのまま強制執行を

    行うことができるという帰結も成り立ち得るが、このような考え方を否定したということである。なお、後述するように、

    この規定は、訴訟係属中に権利変動があった場合において、相手方たる当事者が既存の判決手続をそのまま継続する利益

    を保護する趣旨のものと理解されている(第三節第二款「三」(二)参照)。

    (15)訴訟担当者に対する給付を命じる判決の場合における訴訟担当者の執行当事者適格に関して、わずかに問題となってい

    たのはBGB一六二九条三項の場面である。もっとも、学説・裁判例ともほぼ肯定説で一致しているので、注で紹介する

    にとどめたい(以下について、Schm

    idt, a. a. O. (Fn. 2), S. 22 ff.; Becker-Eberhard, a. a. O

    . (Fn. 2), S. 431 ff.

    )。

       

    BGB一六二九条三項一文は、婚姻中の両親が別居している場合又は婚姻中の両親の婚姻事件(Ehesache

    〔離婚の訴え、

    婚姻無効・取消の訴え、婚姻関係の存否の確定の訴え、婚姻生活の作出の訴えをいう(ZPO六〇六条一項)〕)の係属中

    に限り、両親の一方は、子が両親の他方に対して有する扶養請求権について、両親の他方に対して自己の名で請求するこ

  • 論   説

    北法65(5・170)1296

    とができる、という規定である。すなわち、両親の一方は、子が両親の他方に対して有する扶養請求権について、法定訴

    訟担当者として訴訟追行をすることになる。この規定の趣旨は、子供が両親の離婚訴訟等に当事者として引き込まれるこ

    とを阻止することにある。子が有する扶養料請求権について、両親の一方が給付受領権を有することは異論がないが、そ

    の根拠は両親の一方が有する実体法上の法定代理権にあるとされており、これは子の成人や保護権の剥奪などにより終了

    することになる。

       

    原告となった両親の一方が勝訴判決を取得した場合において、当該両親の一方が単純執行文の付与を受けることができ

    るかという点については、BGB一六二九条三項の要件(法定訴訟担当の要件)を満たしている間に関しては、これを肯

    定することについて異論はない。問題となるのは、例えば婚姻事件の終了によって、BGB一六二九条三項の要件を満た

    さなくなった後に関してであるが、訴訟当事者であったことを理由として、これを肯定するのが通説である(Gaul/

    Schilken/Becker-Eberhard, Zwangsvollstreckungsrecht, 12. A

    ufl. (2010), §10 Ⅳ

     2. a (Rdnr. 66); Zöller-Stöber, ZPO, 30. 

    Aufl. (2014), §

    724 Rdnr. 3; Lackmann, Zw

    angsvollstreckungsrecht, 9. Aufl. (2010), Rdnr. 735. 

    高裁レベルの裁判例として、

    ベルリン高等裁判所一九八三年七月四日決定(K

    G, FamRZ 1984, 505

    )、ハンブルグ高等裁判所一九八四年五月九日決定

    (OLG H

    amburg, Fam

    RZ 1984, 927)、ケルン高等裁判所一九八五年三月五日決定(O

    LG Köln, Fam

    RZ 1985, 626

    )、シュレー

    スヴィヒ高等裁判所一九八九年九月二五日決定(O

    LG Schleswig, Fam

    RZ 1990, 189

    )、ミュンヘン高等裁判所一九九〇年

    一月二三日決定(O

    LG München, Fam

    RZ 1990, 653

    )、ハム高等裁判所一九九二年一月一七日判決(O

    LG Ham

    m, Fam

    RZ 1992, 843

    ))。なお、フランクフルト高等裁判所一九九三年七月一五日決定(O

    LG Frankfurt, FamRZ 1994, 453

    )は、基本

    的に通説に従うものの、親の法定代理権が消滅したことが債務名義自体から明らかな場合(子の成人等)については、両

    親の一方に対する執行文の付与を否定している。また、ハンブルグ高等裁判所一九八五年三月二〇日決定(O

    LG Ham

    burg, FamRZ 1985, 624

    )は、子供が成人した際に扶養料の徴収方法に関する無用の争いが発生するのを防止する観点

    から、両親の一方は子の法定代理人として子の名で強制執行をすべきであるとしている。

    (16)ZPO七二四条一項:「強制執行は、執行文が付与された判決の正本(執行力ある正本)に基づいてする。」

       

    同条二項:「執行力ある正本は、第一審裁判所の書記課の書記官が付与し、訴訟が上級審裁判所に係属している場合には、

    その裁判所の書記課の書記官が付与する。」

  • いわゆる「第三者の執行担当」について(1)

    北法65(5・171)1297

       

    同七二五条:「『上の正本は、強制執行のために誰某(当事者の表示)に付与する。』という文言による執行文は、判決の

    正本の末尾に付記され、書記課の書記官によって署名がなされ、裁判所の公印が押されなければならない。」

    (17)Rosenberg/Schw

    ab/Gottwald, Zivilprozessrecht, 17. A

    ufl. (2010), §100 Ⅲ

     1 (Rdnr. 16); MüK

    o (ZPO)-Becker-Eberhard, 

    §265 Rdnr. 69.

    (18)W

    olfgang Grunsky, Die V

    eräußerung der streitbefangenen Sache, 1968, S. 99 f. 

    参照。最近までの学説の分布状況の詳

    細については、Paul O

    berhammer, A

    btretung, Informationsrisiko und Zivilprozeß, in: Festschrift für D

    ieter Leipold zum 

    70. Geburtstag, 2009, S. 104, Fn. 14 und 15 

    に詳細に掲げられている。

    (19)なお、ヴィーンケは、『執行担当』と題する博士論文において、任意的訴訟担当の場合は、判決主文の給付の宛先�