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58 4.回転運動 2章では物体が運動する際の基本原理である「ニュートンが提案した3つの運動の法則」を示した.その第2法則である「運動 の法則」において,運動方程式として,運動の様子を記述する方程式が提案された.「回転運動」は運動の1種なので,この運動 方程式でも記述できるが,回転運動に特化した(もう少し見通しのよい)回転運動に関する運動方程式がある.この章では,そ の回転に関する運動方程式を導出するため,「ベクトルの外積」,「角運動量」,「力のモーメント」を学び,その後,「回転運動に関 する運動方程式」を導出する. 4-1. ベクトルの外積 回転運動を調べるには「ベクトルの外積」を用いると便利である.ここでは,最初にベクトルの外積について学ぶ. * ベクトルの外積の定義 2 つの 3 次元のベクトルa b を考える.a b の間の角度 θ (0 ° < = θ< = 180 ° )とすると,a b のベクトルの外積は記号「 a × b 」と表 す.外積してできた量はベクトル量で,その大きさは 2 つのベクトルの大きさとその間の角の正弦の積になり,向きはa b に重ね るように回転させたときに右ネジが進む向き(右ネジの法則)として定義する. 大きさ = | a || b | sin θ a × b = | a || b | sin θe = (4-1-1) 向き = a b に重ねるように回転させたときに 右ネジが進む向き(単位ベクトルe の向き) 右ネジの法則 外積の大きさ | a || b | sin θ は,a b 2 つの辺とした平行四辺形の面積に等しい. (平行四辺形の,底辺の長さが| a |,高さが| b | sin θ となる) * 外積の性質 a θ b a × b e b sin θ a b a b に重なるようにして 回す時,右ネジが進む向き 右ネジ

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4.回転運動

2章では物体が運動する際の基本原理である「ニュートンが提案した3つの運動の法則」を示した.その第2法則である「運動

の法則」において,運動方程式として,運動の様子を記述する方程式が提案された.「回転運動」は運動の1種なので,この運動

方程式でも記述できるが,回転運動に特化した(もう少し見通しのよい)「回転運動に関する運動方程式」がある.この章では,そ

の回転に関する運動方程式を導出するため,「ベクトルの外積」,「角運動量」,「力のモーメント」を学び,その後,「回転運動に関

する運動方程式」を導出する.

4-1. ベクトルの外積

回転運動を調べるには「ベクトルの外積」を用いると便利である.ここでは,最初にベクトルの外積について学ぶ.

* ベクトルの外積の定義

2 つの 3 次元のベクトルa→とb→

を考える.a→とb→

の間の角度 θ (0 ° <= θ <= 180 ° )とすると,a→とb→

のベクトルの外積は記号「 a→× b→

」と表

す.外積してできた量はベクトル量で,その大きさは 2 つのベクトルの大きさとその間の角の正弦の積になり,向きはa→をb→

に重ね

るように回転させたときに右ネジが進む向き(「右ネジの法則」)として定義する.

大きさ = | a→ | | b→

| sin θ

a→ × b→

= | a→ | | b→

| sin θ e→ = (4-1-1)

向き = a→をb→

に重ねるように回転させたときに

右ネジが進む向き(単位ベクトルe→の向き) → 右ネジの法則

外積の大きさ | a→ | | b→

| sin θ は,a→とb→

を 2 つの辺とした平行四辺形の面積に等しい.

(平行四辺形の,底辺の長さが| a→ |,高さが| b→

| sin θ となる)

* 外積の性質

a→θ

b→

a→× b→

e→b sin θ

a→

b→

a→をb→

に重なるようにして

回す時,右ネジが進む向き

右ネジ

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b→

× a→ = – (a→ × b→

) (交換則 (外積はかけ算の順序による)) (4-1-2)

a→ × (b→

+ c→) = a→ × b→

+ a→× c→ (分配則) (4-1-3)

a→ × (m b→

) = (m a→)×b→

= m (a→× b→

) (m はスカラー量) (4-1-4)

a→ × a→ = 0 (同じベクトルの外積) (4-1-5)

* 単位ベクトルどうしの外積

直交座標系(デカルト座標系)の 3 つの単位ベクトル,e→x ,e→y ,e→z は大きさが 1 でそれらの間の角度は各々90 °となり,外積をと

ると,その向きは右ネジの法則から求めることができ,下の式のような関係式(直交性の関係式)を導くことができる.

e→x × e→y = e→z (4-1-6)

e→y × e→z = e→x (4-1-7)

e→z × e→x = e→y (4-1-8)

* 成分で表した外積

上の(4-1-6)式~(4-1-9)式を使い,a→ = ax e→x + ay e→y + az e→z と b→

= bx e→x + by e→y + bz e→z の外積をとると,同じ単位ベクトルどう

しの外積は「0」となるので,下の式のように計算できる.最後の式は行列式を用いて表した.

a→ × b→

= (ax e→x + ay e→y + az e→z)×(bx e→x + by e→y + bz e→z)

= ax by (e→x× e→y) + ax bz (e→x × e→z) + ay bx (e→y × e→x) + ay bz (e→y × e→z) + az bx (e→z × e→x) + az by (e→z × e→y)

e→z –e→y –e→z e→x e→y –e→x

= (ay bz – az by) e→x + (az bx – ax bz) e→y + (ax by – ay bx) e→z

= ( ay bz – az by , az bx – ax bz , ax by – ay bx ) =

ex

→ ey→ ez

ax ay az

bx by bz

(4-1-9)

問題 4-1 2 つのベクトルa→とb→

の外積の大きさ | a→× b→

| を求めよ(a→とb→

の間の角を θ とする).

1) |a→| = 2, |b→

| = 3, θ = 30 ° 2) |a→| = 21/2, |b→

| = 4, θ = 135 °

3) |a→| = 2, |b→

| = 4, θ = 5π/6 4) |a →| = 1, |b →

| = 4, θ = 2π/3

問題 4-2 次のベクトルの外積(a→× b→

)と(b→

× a→)を求め, (b→

× a→) = – (a→× b→

)が成立することを確かめよ.

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1) a→ = (1 , 3 , 0) b→

= (4 , 2 , 0) 2) a→ = (0 , 1 , 2) b→

= (0 , 1 , –3)

3) a→ = (2 , 1 , 3) b→

= (–2 , 0 , –3) 4) a→ = (1 , 2 , 1) b→

= (3 , 1 , 2)

問題 4-3 次のことを確かめよ.

1) a→ = (2 , 0 , 0),b→

= (0 , 3 , 0),c→ = (0 , 0 , 4)のとき,(a→× b→

)と c→・(a→× b→

)を計算し,後者は横2, 縦3, 高さ4 の直方体

の体積Vと同じであることを確かめよ.

2) a→・(a→× b→

) = 0 となることを確かめよ.

4-2. 角運動量(Angular Momentum)

並進運動の激しさを表す量として運動量p→ = m v→があったが,回転運動の激しさを表す量として,「角運動量L→

」を導入する.

原点 O から位置r→の地点に質点があり,質点が運動量p→で運動していたとすると,角運動量L→

は下の式のように,位置r→と運動量p→

の外積で定義する.

L→

= r→ × p→ = r→ × m v→ (4-2-1)

角度 Θ を位置r→と運動量p→の間のなす角度とすると,上の定義式より角運動量L→

の大きさと向きは下の式のように表すことができ

る.

大きさ L = r p sin Θ = m r v sin Θ

L→

= r→ × p→ = r→ × m v→ = (4-2-2)

向き = 位置を運動量に重ねるようにして右ネジが進む向き

もし,質点の運動が原点 O に対し,遠ざかる運動で位置r→と運動量p→が平行(並進運動)となる場合は,2 つのベクトルの間の

角度 Θ が 0,または,π となり,「sin Θ = 0」が成立するので,「角運動量L→

= 0 」が成立する.したがって,運動が「完全な並進運

動」でなく,回転運動を伴う運動の場合は,「角運動量L→

≠ 0 」となる.次に,質点の運動が回転運動となっている場合を想定して

みよう.

回転運動では,質点はある平面上を回転する.ここでは,例として,xy 平面上で質点が回転する運動について角運動量L→

導出してみよう.下の図のように原点 O から xy 平面上の位置r→ = (x , y , 0)にある質点が運動量p→ = (px , py , 0) = (m vx , m vy , 0)で

運動していたとする(速度v→= ( vx , vy , 0)とする).角度 θ は位置r→の+x 軸からの角度で,角度 Θ は位置と運動量p→の間のなす角度

を表す.

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真上(+z 軸)から見た図

この例では,(4-2-2)式によると,角運動量L→

の向きは,位置を運動量に重なるように回転させたときに右ネジが進む向きとなるの

で「+z 方向」となる.xy 平面上で反時計回りの回転運動では,その角運動量L→

の向きは「+z 方向」となる.回転面と直交する向き

のベクトルのことを「軸性ベクトル」と呼ぶ.角運動量や力のモーメントは軸性ベクトルである.原点 O からの距離 r = | r→ | =

x 2 + y 2 ,運動量の大きさ p = | p→ | = px 2 + py 2 を用いると,(4-2-2)式は下の式のように+z 方向の単位ベクトルe→z を用いて表すこ

とができる.

L→

= r→ × p→ = r p sin Θ e→z = r m v sin Θ e→z (4-2-3)

さらに,ベクトルの成分を使った行列式を用いて表すと下の式で表すことができる.

L→

= r→ × p→ = ( 0 , 0 , x py – y px ) =

ex

→ ey→ ez

x y 0

px py 0

=

x y

px pye→z (4-2-4)

* 角運動量の単位

角運動量の単位はその定義式である(4-2-1)式より,下の式で表すことができる.

角運動量の単位 = kg m2/s (4-2-5)

* 円柱座標系における角運動量(xy 平面上を運動する質点の角運動量)

xy 平面上で運動する質点の位置r→について,原点 O から質点までの距離 r,x 軸からの角度 θ とすると,位置r→ = (x , y , 0) =

( r cos θ , r sin θ , 0) と表される.この位置r→に対して,時間で微分し,速度v→を求めると下の式で表すことができる.

v→ = (dr dt cos θ – r

dθdt sin θ ,

dr dt sin θ + r

dθdt cos θ , 0 ) (4-2-6)

位置 r→

z

x

yO

運動量 p→

O

運動量p→

θ

x

Θ

y位置 r→

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したがって,これらの式より,ベクトルの外積を使うと角運動量L→

は下の式のように求めることができる.

L→

= r→ × m v→ = ( 0 , 0 , m r 2 dθdt ) = m r 2 dθ

dt e→z = Lz e→z (4-2-7)

また,この表示方法を用いると,運動量の大きさ p は下の式のように表すことができる.

p = m (drdt)

2+ (r

dθ dt )

2 (4-2-8)

* 慣性モーメント

(4-2-7)式より,角運動量L→

の z 成分 Lz を下の式のように角速度 ω (= dθ/dt)とその前の係数に分離して表すことにしよう.その

前の係数は「慣性モーメント I」と呼ばれる.

Lz = m r 2 ω = I ω (4-2-9)

I = m r 2 (4-2-10)

* 慣性モーメントの単位

上の式より,慣性モーメント I の単位は下の式で表すことができる.

慣性モーメントの単位 = kg m 2 (4-2-11)

問題 4-4 質量の無視できる長さ L = 0.5 m の棒の先端に質量 mA = 2.0 kg と mB = 4.0 kg の物体 A と物体 B をつけ,物体 A か

ら長さ rA = 0.3 m の位置を中心として,反時計周りに 6 秒間で 4 回転の割合で回転させた.このとき,回転の角速度 ω,

物体 A と B の速さ vA と vB,物体 A と B の運動量の大きさ pA と pB,物体 A と B の角運動量の大きさ LA と LB をそれ

ぞれ求めよ.

問題 4-5 質量 m = 2.0 kg の物体が時刻 t [s]における位置r→ = (2 cos(πt), 4 sin(π t), 0 ) [m]として運動している.この物体の角運

動量L→

を求めよ.

問題 4-6 質量 m = 2.0 kg の物体を斜め上方に投射した。時刻 t [s]における物体の位置r→ = (2t, 0, 2t – 4.9t 2 ) [m] で運動してい

るとき,この物体の角運動量L→

を求めよ.

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問題 4-7 質量 m = 400 g の物体が xy 平面上を原点からの距離 r = 2.0 m で円運動している.この物体の慣性モーメント I を求

めよ.

* xy 平面上を運動する質点の運動エネルギー

xy 平面上を運動する質点の時刻 t での速度v→は,原点 O からの距離 r,x 軸からの角度 θ とすると,(4-2-6)式で表すことがで

きた.したがって,質点の質量を m とすると,運動エネルギーK は下の式で表すことができる.

K = 1 2 m v 2 =

1 2 m (dr

dt)2

+1 2 m (r

dθ dt )

2=

1 2 m (dr

dt)2

+1 2 m r 2 ω 2 (4-2-12)

原点からの「距離 r が一定」となる場合は,上の式の右辺の 1項目が「 0 」となり,(4-2-10)式で表された慣性モーメント I を用いて

下の式で表すことができる.この式は純粋な,回転運動の運動エネルギーである.

K = 1 2 m r 2 ω 2 =

1 2 I ω 2 (4-2-13)

4-3. 力のモーメント(Moment of force)

原点 O から位置r→の地点に力F→

を作用させたとする.力のモーメントM→

(または,「トルク」と呼ぶ)は下の式のように,位置r→と

力F→

の外積として定義する,

M→

= r→ × F→

(4-3-1)

角度 Φ を位置r→と力F→

の間のなす角度とすると,上の定義式より.力のモーメントM→

の大きさと向きは下の式のように表すことがで

きる.

大きさ M = r F sin Φ

M→

= r→ × F→

= (4-3-2)

向き = 位置を力に重ねるようにして右ネジが進む向き

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O x

y

+z 方向 = 紙面の奥から紙面の上方向

原点 O

θ糸の長さ ℓ

* 力のモーメントの単位

力のモーメントの単位はその定義式である(4-3-1)式より,下の式で表すことができる.

力のモーメントの単位 = N m = kg m2/s2 (4-3-3)

力のモーメントは物体を回転させるための原因となる物理量で,軸性ベクトルの 1 つである.例えば,力のモーメントが+z 方向を

向く場合,物体を xy 平面上で反時計回りに回転させようとする原因になる.

問題 4-8 下のような位置r→に力F→

が作用している.このとき,力のモーメントM→

を求めよ.

1) r→ = ( 3.0 , 2.0 , 0 ) m,F→

= ( 1.0 , 4.0 , 0) N

2) r→ = ( 1.0 , 2.0 , 3.0 ) m,F→

= ( 3.0 , 4.0 , –2.0) N

3) r→ = ( 2.0 , 4.0 , –2.0 ) m,F→

= ( 1.0 , 2.0 , –1.0) N

問題 4-9 図のように,長さℓの糸の先に質量m のおもりをつけた.おもりには重力mɡ→と張力T→

が働いている.鉛直下向きからの

角度をθ(t)として,物体の位置r→,速度 v→,角運動量 L→

,重力mɡ→による力のモーメントM→

重力,張力T→

による力のモーメ

ントM→

張力について角度θ,または,角速度ωを用いて表せ。ただし,座標系は図のようにとるものとする。

問題 4-10 向心力(中心力)「 F→

= – f e→r 」となる力がる.向心力による力のモーメントM→

は,「M→

= 0」となることを確かめよ.

Φ

力F→

原点 O

位置r→

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4-4. 回転運動に関する運動方程式

この節では,「回転運動に関する運動方程式」を導出しよう.角運動量L→

の定義式である(4-2-1)式について時間微分しよう.

dL→

dt = d

dt (r→ × p→) =dr→

dt × p→ + r→ ×dp→

dt

上式の右辺の 1 項目は,「v→ × m v→ = 0 (平行なベクトルどうしの外積は「 0 」になる)」となる.右辺の 2 項目の「dp→/dt」は,ニュート

ンが発見した運動の第 2 法則を記述している「運動方程式」である(2-4-3)式から,この物体に作用している力F→

となる.まとめると,

角運動量L→

の時間微分は下の運動方程式を得ることができる.下の式で右辺は,位置r→と力F→

の外積なので,力のモーメントM→

なる.

dL→

dt = r→ × F→

(= M→

) (4-4-1)

上の式の左辺は回転運動の激しさを表す角運動量L→

の時間微分(すなわち,角運動量L→

の時間発展)で,それが力のモーメントM→

に等しいという式で,この式が「回転運動に関する運動方程式」である.

特に,xy 平面上での回転運動を扱う場合,角運動量の z 成分 Lz は(4-2-9)式より,角速度 ω と慣性モーメント I を用いて,「Lz

= I ω」と表すことができるので,(4-4-1)式の z 成分をとると,下の運動方程式を得ることができる.

d

dt ( I ω ) = Mz (4-4-2)

さらに,慣性モーメント I が時間変化しないで一定となるとき,下の「回転運動に関する運動方程式」を得ることができる.

Idω dt = Mz (4-4-3)

* 並進運動と回転運動の対比

回転運動について,運動方程式や様々な物理量を表現する際,慣性モーメント I を用いると,並進運動と対応づけて扱うこと

ができる.運動の激しさを表す量として,並進運動では運動量p→で,回転運動では角運動量L→

である.再度,運動方程式を表示す

ると下の式で表すことができる.力F→

は並進運動を引き起こす原因となる要素で,力のモーメントM→

は回転運動を引き起こす原因

となる要素である.

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O x

y

+z 方向 = 紙面の奥から紙面の上方向

dp →

dt = F→

(並進運動の運動方程式)

(4-4-4)

dL

dt = M→

(回転運動の運動方程式)

並進運動する方向と回転運動する方向(xy 平面での回転を扱うので z 方向)のみ考えると 2 つの運動における対応関係は下の表

にまとめることができる.

並進運動 回転運動

位置 x 角度 θ

速度 v (= dx/dt) 角速度 ω (= dθ/dt)

加速度 a (= dv/dt) 角加速度 α (= dω/dt)

質量 m 慣性モーメント I

運動量 m v 角運動量 I ω

運動方程式 m dv/dt = F 運動方程式 I dω/dt = Mz

運動エネルギー m v2/2 運動エネルギー I ω2/2

問題 4-11 鉛直上方向を+y 方向に選び,右の図のような座標系をとる.

質量 m の物体に重力 mɡ→ = (0 , – m ɡ , 0)が作用している 初

期位置r→0 = (x0 , h , 0),初速度 v→0 = ( 0 , v0 , 0 )でこの物体を

投げ上げた.次の問に答えよ.

1) 時刻 t での物体の位置 r→,速度 v→,角運動量 L→

を求めよ.

2) 重力による力のモーメントM→

重力を求めよ.

3) 角運動量の z 成分 Lz を用いて,角運動量に対する運動方程式(z 成分)を書け.

4-5. 角運動量保存の法則

角運動量L→

に対する運動方程式は(4-4-1)式で提示された.この式で右辺,すなわち,力のモーメントM→

(= r→ × F→

)が「 0 」に

なると,角運動量L→

が一定となる.角運動量L→

が一定となる法則を「角運動量保存の法則」と呼ぶ.

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dL→

dt = 0 → L→

= 一定 (4-5-1)

問題 4-12 最初,半径 r = 2.0 m の(質量が無視できる)棒の先に質量 m = 2.0 kg の質点が 2 個ついており,1.0 秒間に 2 回転し

ていた.その後,2 個の質点のうち,1 個が落下し,1 個の質点だけが回転した.終わりの回転数と角運動量の大きさ

を求めよ.

問題 4-13 質量 m の物体が xy 平面上を長径 b,短径 c,角速度 ω で楕円軌道上を運動している.この物体の時刻 t での位置r→

は,r→= (b cos(ω t), c sin(ω t), 0 ) である.この物体の角運動量L→

を求め,それが一定となっていることを確かめよ.

問題 4-14 質量 m の物体が xy 平面上で放物線運動している.この物体の時刻 t での位置r→は(変数 b,c,d を定数とする),r→ =

(b t, c t 2 + d, 0 ) で運動している.この物体の角運動量L→

を求めよ.

問題の答

問題 4-1 1) 2 * 3 * sin 30 ° = 3 2) 21/2 * 4 * sin 135 ° = 2 * 4 * ( 2 /2) = 4

3) 2 * 4 * sin (5π/6) = 4 4) 1 * 4 * sin(2π/3) = 1 * 4 * ( 3 /2) = 2 3

問題 4-2 1) a→× b→

=

ex

→ ey→ ez

1 3 0

4 2 0

= (0 , 0 , –10), b→

× a→ =

ex

→ ey→ ez

4 2 0

1 3 0

= (0 , 0 , 10), 「(b→

× a→) = – (a→× b→

)が成立する」

2) a→× b→

=

ex

→ ey→ ez

0 1 2

0 1 –3

= (–5 , 0 , 0), b→

× a→ =

ex

→ ey→ ez

0 1 –3

0 1 2

= (5 , 0 , 0), 「(b→

× a→) = – (a→× b→

)が成立する」

3) a→× b→

=

ex

→ ey→ ez

2 1 3

–2 0 –3

= (–3 , 0 , 2), b→

× a→ =

ex

→ ey→ ez

–2 0 –3

2 1 3

= (3 , 0 , –2), 「(b→

× a→) = – (a→× b→

)が成立する」

4) a→× b→

=

ex

→ ey→ ez

1 2 1

3 1 2

= (3 , 1 , –5), b→

× a→ =

ex

→ ey→ ez

3 1 2

1 2 1

= (–3 , –1 , 5), 「(b→

× a→) = – (a→× b→

)が成立する」

問題 4-3 1) a→× b→

=

ex

→ ey→ ez

2 0 0

0 3 0

= ( 0 , 0 , 6 ), c→・(a→× b→

) = 4 * 6 =24, 直方体の体積 V = 2 * 3 * 4 = 24 → 確認した

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68

2) a→・(a→× b→

) =

2 0 0

2 0 0

0 3 0

= 0 → 確認した

問題 4-4 角速度 ω = 2πf = 2*3.14*(4/6 s) = 4.187 ~ 4.2 rad/s,

物体 A 速さ vA = rA ω = 0.3 * 4.187 = 1.256 ~ 1.3 m/s , 物体 B の速さ vB = rB ω = 0.2 * 4.187 = 0.8374 ~ 0.84 m/s,

物体 A の運動量の大きさ pA = mA vA = 2.0 * 1.256 = 2.512 ~ 2.5 kg m/s ,物体 B の運動量の大きさ pB = mB vB

= 4.0 * 0.8374 = 3.3496 ~ 3.3 kg m/s, 物体 A の角運動量の大きさ LA = rA pA = 0.7536 ~ 0.75 kg m2/s, 物体 B の

角運動量の大きさ LB = rB pB = 0.6699 ~ 0.67 kg m2/s

問題 4-5 速度 v→ = dr→

dt = ddt (2 cos(πt), 4 sin(π t), 0 ) = (–2π sin(πt), 4π cos(π t), 0 ) [m/s]で,角運動量L

→= r→×m v→ より求める.

L→

= r→×mv→ =

ex

→ ey→ ez

2 cos(πt) 4 sin(π t) 0

–4π sin(πt) 8π cos(π t) 0

= 8π

cos(πt) 2 sin(π t)

– sin(πt) 2 cos(π t)ez→ = 16π (cos2(πt)+ sin2(π t)) ez

= 16π ez→ = ( 0 , 0 , 16π) = ( 0 , 0 , 50.26) ~ ( 0 , 0 , 50) kg m2/s

問題 4-6 速度 v→ = dr→

dt = (2 , 0 , 2 – 9.8 t ) [m/s] より,角運動量L→

を計算する.

L→

= r→×mv→ =

ex

→ ey→ ez

2t 0 2t – 4.9t 2

4 0 4 – 19.6 t

= – ey→ 2

2t 2t – 4.9t 2

2 2 – 9.8 t= – 2 ey

→ (4t –19.6t 2 – (4t –9.8t 2) ) = 19.6 t 2 ey→

= ( 0 , 19.6 t 2 , 0 ) [kg m2/s]

問題 4-7 回転半径 r で円運動している質量 m の物体の慣性モーメント I は下のように求めることができる.

I = m r 2 = 0.4 * 2 2 = 1.6 kg m2

問題 4-8 力のモーメントM→

= r→×F→

をより計算する.

1) M→

=

ex

→ ey→ ez

3 2 0

1 4 0

= 10 ez→ = ( 0, 0 , 10) m N 2) M

→=

ex

→ ey→ ez

1 2 3

3 4 –2

= –14 ex→ +11 ey

→ –2 ez→ = (–14,11,–2) m N

3) M→

=

ex

→ ey→ ez

2 4 –2

1 2 –1

= 0 ex→ + 0 ey

→ +0 ez→ = ( 0 , 0 , 0 ) m N (位置r→と力F

→が平行なので,外積=0 となる)

問題 4-9 図より,物体の位置r→= ( –ℓ sin θ , ℓ – ℓ cos θ , 0), 速度 v→= dr→

dt = ( –ℓ cos θ , ℓ sin θ , 0)dθ/dt, 角運動量 L→

= r→×m v→

Page 12: .回転運動nagasawa/Mechanics_4.pdf58 4.回転運動 2章では物体が運動する際の基本原理である「ニュートンが提案した3つの運動の法則」を示した.その第2法則である「運動

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= m ℓ 2 dθdt

ex

→ ey→ ez

– sin θ 1 – cos θ 0

– cos θ sin θ 0

= m ℓ 2 dθdt (– sin 2 θ – cos 2 θ + cos θ) ez

→ = m ℓ 2 dθdt (– 1 + cos θ) ez

→ ,

重力による力のモーメントM→

重力 = r→×m ɡ→ = ℓ

ex

→ ey→ ez

– sin θ 1 – cos θ 0

0 –m ɡ 0

= ℓ m ɡ sin θ ez→ ,

張力による力のモーメントM→

張力 = r→× T→

= ℓ

ex

→ ey→ ez

– sin θ 1 – cos θ 0

T sin θ T cos θ 0

= – ℓ T sin θ ez→

問題 4-10 位置r→は,「r→= re→r」と表すことができ,向心力による力のモーメントM→

は,「M→

= r→×F→

= re→r ×(– f e→r ) = –r f (e→r ×e→r )

= 0 (同じベクトルどうしの外積 = a→ × a→ = 0 , より)」となる

問題 4-11 1) 時刻 t での物体の速度 v→ = v→0 + ɡ→t = ( 0 , v0 – ɡt , 0 ), 位置r→ = r→0 +

0

tv→(t) dt = (x0 , h + v0 t – ɡt 2/2 , 0),

角運動量 L→

= r→ × m v→ = m

ex

→ ey→ ez

x0 h + v0 t – ɡt 2/2 0

0 v0 – ɡt 0

= x0 m(v0 – ɡt) ez→ = ( 0 , 0 , x0 m(v0 – ɡt))

2) 重力による力のモーメントM→

重力 = r→ × m ɡ→ =

ex

→ ey→ ez

x0 h + v0 t – ɡt 2/2 0

0 – m ɡ 0

= –x0 m ɡ ez→ = ( 0 , 0 , – x0 m ɡ)

3) 回転運動の運動方程式「dL

dt = M→

」より,z 成分は,「dLz

dt = Mz = – x0 m ɡ 」

→ 1)で求めた角運動量を時間微分したものと等しい

問題 4-12 始めの角速度 ω0 =2πf0 = 2π × 2 = 4π rad/s, 始めの角運動量 L0 = r × m0 v0 = r × 2m (r ω0)

終わりの角速度 ω =2πf , 終わりの角運動量 L = r × m v = r × m (r ω), 角運動量保存則より, 「L0 = L」が成立する.

→ ω = 2 ω0 = 8π = 25.132 ~ 25 rad/s, f = 2 f0 = 4.0 Hz

問題 4-13 速度 v→= dr→

dt = ω(– b sin(ω t), c cos(ω t), 0 ), 角運動量L→

= r→ × m v→ = m ω

ex

→ ey→ ez

b cos(ω t) c sin(ω t) 0

– b sin(ω t) c cos(ω t) 0

= m ω b c (cos 2 (ω t) + sin 2 (ω t)) ez→ = m ω b c ez

→ → 一定

問題 4-14 速度 v→= dr→

dt = (b , 2c t , 0 ), 角運動量L→

= r→ × m v→ = m

ex

→ ey→ ez

b t c t 2 + d 0

b 2ct 0

= m(b c t 2 – bd) ez→