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15 15 PDA Journal of GMP and Validation in Japan Vol. 22, No. 2 (2020) ICH Q2(R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説 檜山行雄 ICH Q2(R2)Q14 専門家会議ラポーター,国立医薬品食品衛生研究所薬品部客員研究員 受付日2020 11 14 受理日2020 12 2 日[doi10.11347/pda.22.15] Drafting Process and key Points of ICH Q2(R2) and Q14 Guideline Yukio HIYAMA Rapporteur of ICH Q2Q14 Expert Working Group, Visiting Scientist, Division of Drugs, National Institute of Health Sciences This article describes the drafting process and key points of ICH Q2(R2)(Analytical Validation) and ICH Q14 (Analytical Development). The harmonization eŠort started in 2018 and the two documents are being drafted by one Expert Working Group. The drafts for public consultation will be published in mid 2021. The revised Q2 will include spectroscopic proce- dures, procedures used for biologics, multivariate analysis based procedures, etc. The new Q14 will cover Enhanced (Qual- ity by Design) development approach. Q14 emphasizes that the enhanced knowledge supports robust analytical procedures and their eŠective lifecycle management. Keyword: 医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceu- ticals for Human Use ICH)),分析法(Analyical Procedure),分析法バリデーション(Analytical Valida- tion),分析法開発(Analytical Development),より進んだ分析法の開発(Analytical Quality by Design),分 析法デザインスペース(Method Operable Design Range (MODR)) 1. イントロ 本稿では ICH Q2(R1)の改定,ICHQ14 ガイドラインの 作成の現在までを経緯と関連する論点について解説する。 ガイドラインのテキスト無しで説明をするのは容易ではな いものの,背景を意見公募案の提示前に一通りの理解して いただくのは意義があると思われる。意見公募案は 2021 年半ばには公表される予定であり,ここに紹介する論点が すべて反映されるかどうか,またここで述べること以外の ことも公募案に含まれることも考えられる。 経緯の記載は事実関係を踏襲するものであるが,論点に たいする解釈は筆者個人のもので,所属団体,ICH 専門 家会議を代表するのもではない。 2. Q2(R2),Q14 トピック採用までの経緯(Table 1分析バリデーションガイドライン(Q2)は 1994 年に Q2A「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項 目)が通知され,2 年後に実施方法が書かれている Q2B が発行された。その後 10 年が経過し,Q2A Q2B を, それぞれパート 1,パート 2 とし,合体編集されたものが 現在の Q2(R1)となっている。 PMDA のホームページでは Q2(R1)に対する日本語訳 が掲示されていないためか日本では Q2AQ2B という表 示がそのまま使われているように思う。 Q2(R1)の改定については,2017 年に多変量解析を基礎 におく分析法を追加することを主論点として,当初は米国

ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

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Page 1: ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

1515

PDA Journal of GMP and Validation in Japan Vol. 22, No. 2 (2020)

ICH Q2(R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

檜山行雄

ICH Q2(R2)Q14 専門家会議ラポーター,国立医薬品食品衛生研究所薬品部客員研究員

受付日2020 年 11 月 14 日 受理日2020 年 12 月 2 日[doi10.11347/pda.22.15]

Drafting Process and key Points of ICH Q2(R2) and Q14 Guideline

Yukio HIYAMA

Rapporteur of ICH Q2Q14 Expert Working Group, Visiting Scientist, Division of Drugs, National Institute of Health Sciences

This article describes the drafting process and key points of ICH Q2(R2) (Analytical Validation) and ICH Q14 (Analytical

Development). The harmonization eŠort started in 2018 and the two documents are being drafted by one Expert Working

Group. The drafts for public consultation will be published in mid 2021. The revised Q2 will include spectroscopic proce-

dures, procedures used for biologics, multivariate analysis based procedures, etc. The new Q14 will cover Enhanced (Qual-

ity by Design) development approach. Q14 emphasizes that the enhanced knowledge supports robust analytical procedures

and their eŠective lifecycle management.

Keyword: 医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceu-

ticals for Human Use (ICH)),分析法(Analyical Procedure),分析法バリデーション(Analytical Valida-

tion),分析法開発(Analytical Development),より進んだ分析法の開発(Analytical Quality by Design),分

析法デザインスペース(Method Operable Design Range (MODR))

1. イントロ

本稿では ICH Q2(R1)の改定,ICHQ14 ガイドラインの

作成の現在までを経緯と関連する論点について解説する。

ガイドラインのテキスト無しで説明をするのは容易ではな

いものの,背景を意見公募案の提示前に一通りの理解して

いただくのは意義があると思われる。意見公募案は 2021

年半ばには公表される予定であり,ここに紹介する論点が

すべて反映されるかどうか,またここで述べること以外の

ことも公募案に含まれることも考えられる。

経緯の記載は事実関係を踏襲するものであるが,論点に

たいする解釈は筆者個人のもので,所属団体,ICH 専門

家会議を代表するのもではない。

2. Q2(R2),Q14 トピック採用までの経緯(Table 1)

分析バリデーションガイドライン(Q2)は 1994 年に

Q2A「分析法バリデーションに関するテキスト(実施項

目)が通知され,2 年後に実施方法が書かれている Q2B

が発行された。その後 10 年が経過し,Q2A と Q2B を,

それぞれパート 1,パート 2 とし,合体編集されたものが

現在の Q2(R1)となっている。

PMDA のホームページでは Q2(R1)に対する日本語訳

が掲示されていないためか日本では Q2A,Q2B という表

示がそのまま使われているように思う。

Q2(R1)の改定については,2017 年に多変量解析を基礎

におく分析法を追加することを主論点として,当初は米国

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Table 1 ICHQ2, Q14 の経緯および予定

年次 Q2(R1)分析法バリデーション ガイドライン改定 Q14 分析法開発ガイドライン

1994 Q2A分析法バリデーション実施項目 ―

1996 Q2B分析法バリデーション実施方法 ―

2005 Q2(R1)Q2A および Q2B を合体編集 ―

2014 ― Informal Quality Discussion Workshop で Enhanced Approaches forAnalytical Procedure が 将来テーマにリストされる

2017 Q2(R1)の改定を米国 FDA が提案 分析法開発ガイドラインを厚生労働省が提案

2018.06Q2(R1)改定と分析法開発ガイドラインの同一グループによる作成を厚生労働省と米国 FDA が共同提案し神戸の ICH 対面会合で Q2(R2)/Q14 が新規トピックとして採択

2018.11アメリカ s―米国シャーロット 1 回目対面会合EWG, concept paper/business plan の承認

各ガイドラインのキーメッセージの理解のアラインメント

2019.06欧州―アムステルダム 2 回目対面会合ATP, MODR など Enhanced Approach で用いられる概念について認識すり合わせ,関連ガイドライン(Q12, Q13)との分担確認

2019.11 アジア―シンガポール 3 回目対面会合

2020.05 アメリカ s―バンクーバー 4 回目仮想会合

2020.11 欧州―アテネ 5 回目仮想会合

2021.06 アジア―インチョン 6 回目対面会合専門家会議内合意と意見募集開始予定

Table 2 Q2(R2)および Q14 の概略(ICH ホームページの記載)

Q2(R1)ガイドライン(分析法バリデーション)の改定では,多変量解析を必要とする分光学的分析手法も含めた分析法バリデー

ションの考え方を示す。主に Q6A 及び Q6B の範囲に入る製品に適用される現行のフレームワークは維持される。

Q14 分析法開発では,分析法を開発し,理解を深めるための手法について述べるとともに,分析法開発のプロセスについて提供す

べき記載内容に関する考え方を示す。このガイドラインを適用することで審査側と申請側の相互理解が進み,科学とリスクに基づい

て,分析法のより合理的な承認及び承認後変更管理が可能となる。

*Q2(R2),Q14 ともに CTD の S4, P4, P5(原薬,製剤の管理)へのガイドライン

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PDA Journal of GMP and Validation in Japan

の FDA から提案された。

Q14 ガイドラインは,2014 年の Informal Quality Dis-

cussion Workshop で,「より進んだ分析法の開発」が将来

のテーマ候補の一つとして挙がっていたこととライフサイ

クルマネジメントガイドライン(Q12)が分析法の変更も対

象にしていることを踏まえ,「より進んだ分析法の開発」

だけではなく,一般的な分析法の開発についてのガイドラ

インの必要性を認識した厚生労働省が当初提案した。

その後,人的資源を考慮して,二つの提案を合わせて同

じグループで議論した方が良いとの意見が寄せられた。そ

の結果,厚生労働省と FDA が共同提案し,2018 年 6 月

の神戸会合で Q2(R2)/Q14 トピックとして採用された。

3. Q2(R2),Q14 の概略と背景

3.1. 概略(Table 2)

Q2 ガイドラインは 25 年前に作成されたため適用範囲

の明確な記載はない。しかし,その後 CTD に引用され,

実質的に Q6A(化学薬品の規格),Q6B(バイオテクノロ

ジー製品の規格)対象の製品の規格試験方法を対象にして

きた。このフレームワークは維持される。

Q14(分析法開発)ガイドラインは,分析法開発の経緯

を CTD に記載する内容に関するガイドが主であり,この

ガイドラインを適用することで分析法に関して審査側と申

請側の相互理解がより進むことが期待され,より合理的な

承認及び承認後の変更管理が可能となることが期待され

る。

3.2. ガイドライン作成提案の背景(Table 3)

Q2(R2)提案の背景には,現行の Q2(R1)ガイドライン

では,多変量解析を用いる分析法をカバーしていない。こ

のため企業と規制当局との間で認識のギャップが生まれ,

不十分なバリデーションデータをもとに申請され,無駄が

生じる。場合によっては,承認が遅れ,あるいは当初の申

請内容とは異なった承認になってしまうことが懸念される。

Q14 提案の背景については,現在,分析法の開発に関

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Table 3 Q2(R2)および Q14 提案の背景

Q2(R1)ガイドライン(分析法バリデーション)の改定

◆現在の Q2(R1)ガイドラインでは NIR や Raman など多変量解析を用いる分析法を含む近年の分析法のバリデーションについて

明確にカバーできていないケースがある。

◆このことは企業と規制当局間で認識のギャップを生み,時として不十分なバリデーションデータが申請されたり,そのことによっ

て審査の過程で多くのやり取りが発生したりするため,承認が遅延するなどの懸念がある。

◆Q2(R1)を多変量解析を用いる分析法のバリデーションの情報追加を中心に改訂することで多様な分析法のバリデーションに関

する共通理解を提供し,上述の懸念を解消するとともに,堅牢な試験法開発およびライフサイクルマネジメントを実現するため

のガイドを示す。

Q14 分析法開発

□現在,分析法開発に関する ICH ガイドラインは無いため,多くの場合,分析法バリデーションのデータのみを基礎に分析法の妥

当性が評価されている。

□この限られた情報に基づくと,企業と規制当局間の分析法に関するコミュニケーションは時として不十分なものになる。特に,複

雑な試験方法(リアルタイムリリース試験など)ではその傾向は顕著になる。

□また,科学的な分析法の妥当性を基礎にした,承認後変更の手続きの効率化の機会の喪失にもつながる懸念がある。

Table 4 Q2(R2)キーメッセージ/キーポイントの例(2018 年 11 月米国開催 初めての対面会合)

現行の分析法バリデーションのフレームワークは継続して提供される。

多変量解析を使った測定に対して分析法バリデーションの考え方を追加する。

リアルタイムリリース試験に用いる分析法もカバー

必要な場合,新しいモダリティに用いる分析法に対する考え方も付録として取り込まれる可能性がある。

分析法開発の過程で得られた適切な実験結果を,バリデーションデータに代わるものとして使用できる場合がある。

Q2 と Q14 は,Q8 から Q13 のガイドラインと連携し,補完するガイドラインとなる。

Table 5 Q14 キーメッセージ/キーポイントの例(2018 年 11 月米国開催 初めての対面会合)

分析法の開発は,製品および製造工程の開発と深く関連し,開発段階に応じて分析法も更新される。

分析法開発の目的は,使用目的に適った分析法を構築することである。

分析法は“従来の手法”か“より進んだ手法”を適用することにより開発される。

最低限の要素を明確にするどのように分析性能の基準を設定するか

“より進んだ手法”を適用することで得られた知識を提示する機会が提供される。

Figure 1 製品開発における分析法開発のフローと分析バリ

デーション

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Vol. 22, No. 2 (2020)

するガイドラインが ICH にないため,開発データを考慮

せずに分析法バリデーションのデータだけから分析法の妥

当性を評価している状況がある。この状況では,企業と規

制当局とのコミュニケーションは不十分なものになる恐れ

があり,特に複雑な試験方法,リアルタイムリリース試験

などではその傾向が顕著になっている。

また,開発データの提示がないと,科学的な分析法の妥

当性を基礎にした承認後変更の手続きの効率化の機会が失

われてしまう懸念がある。

4. ガイドラインへの期待

2018 年の初回対面会合で議論されたキーポイントを

Table 4,Table 5 に表明された期待として示す。また,

Figure 1 に製品開発の流れに沿った分析法開発の流れを

示す。分析バリデーションは開発過程における重要な一里

Page 4: ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

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Table 6 現行 Q2(R1)の目次

Part I(旧 Q2A)

分析法バリデーションに関するテキスト(実施項目)

1. はじめに

2. バリデーションを行うべき分析法のタイプ

3. 用語解説

Part II(旧 Q2B)

分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)

1 はじめに

2 特異性(Speciˆcity) 3 直線性(Linearity) 4 範囲(Range) 5 真度(Accuracy) 6 精度(Precision)

7 検出限界(Detection limit) 8 定量限界(Quantitation limit)

9 頑健性(Robustness)頑健性は,分析法を開発する段階において検討しておくべきであり,その評価方法は開発しようとする分

析法のタイプに依存する。頑健性は,分析条件を故意に変動させたときの分析法の信頼性を表す。

10 システム適合性試験(System suitability testing)

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PDA Journal of GMP and Validation in Japan

塚ではあるがそれだけが全てではないことがわかる。また,

Figure 1 に,Q2, Q14 ガイドラインの守備範囲を示す。

5. Q2 ガイドラインの改定論点

分析バリデーションで評価せねばならない分析能パラ

メータ(原文では Validation Characteristics)を整理し,

また典型的な分析法に対するバリデーション項目を『表』

に示し,長年にわたり広く使われ,影響力を示してきた。

1990 年代に作成された時代背景もあり,技術の面ではク

ロマトグラフィーを想定した記述が主となっている。分光

技術をもとにした分析法,多変量解析モデルを組み込んだ

分析法への適用は困難である。また,試験項目の広がり

(例えば粒度分布など相対値測定)のためのガイドも欠落

している。これらに対応するため,現在の『表』はあまり

変更せずに,HPLC,溶出試験,バイオ製品の試験法,定

量 NMR,粒度分布試験,多変量解析モデル NIR など技

術的背景が異なる分析法に対するバリデーションの例示を

示すことになる。

5.1. ガイドラインの構成上の問題(現行 Q2(R1)の目次

は Table 6 を参照)

旧 Q2A は旧 Q2B の 2 年ほど前に発行されている。こ

のためか用語の解説の中にバリデーションの具体的記載が

ちりばめられており,両方を通して読むと統一感が失われ

ている印象が否めない。このため Q2(R2)として技術的内

容改定以前に構成を変更する必要がある。また,1990 年

代前半,すなわち申請資料の項目が整理(CTD)される

10 年近く前であるため,適用範囲の記載はない。現時点

においては,CTD の項目(例えば「製剤の管理」)にもど

り引用されている ICH ガイドライン(Q1, Q2, Q3, Q6 な

ど)を精査して適用範囲を判断することになる。

5.2. 分析能パラメータ(Validation Characteristics)

の再整理

現行は Table 6 のように特異性(Speciˆcity),直線性

(Linearity),範囲(Range),真度(Accuracy),精度(Pre-

cision),検出限界(Detection limit),定量限界(Quantita-

tion limit)の 7 つと整理されている。

まず,直線性(Linearity)の項目はあたかも,すべての

分析法に直線性を求めている印象を与えるため,直線性以

外の応答(Response)も包含するように改められる。その

上で直線性などの応答,検出限界,定量限界も『範囲』の

中に整理される方向である。

特異性(Speciˆcity)については用語そのものが不適切

であるという指摘が化学の分野からされてきた。すなわ

ち,医薬品の分析法で使われている特異性と示されている

例はほとんどの場合,『選択性(Selectivity)』であり,『特

異性』という用語は絶対的に同定できる場合を除いては使

うべきでないという指摘である。化学分野の教育を受けた

方々が医薬品の分析に従事する機会が企業だけでなく行政

にも多い。「クロマトグラフィーの保持時間ではとても特

異性があるとは言えない」という懸念あるいは照会事項に

遭遇することが少なくない。これは,『特異性』という言

葉の解釈に起因する疑義だと考えられる。したがって,現

在の『特異性』の項目で求められることは変更するのでは

ないものの,化学の分野の指摘を受け入れ,『特異性』の

項に『選択性(Selectivity)』を加える方向で議論が進ん

でいる。用語に起因する誤った過剰要求をさけるためにも

筆者はこの方向を支持したい。

5.3. 開発段階とバリデーション段階の整理

「開発段階」という言葉は商用生産段階との対比で想起

することが多いのではないかと思う。これを広い意味での

Page 5: ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

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Table 7 Q14 ガイドラインの想定構成

目的,適用範囲

分析法開発の流れ

―製剤(製品)開発と分析法開発は同時に依存しながら進行

―目標設定,分析手法選択,開発検討(伝統的手法 vs より進んだ手法),管理手法設定(例えばシステム適合性試験),バリデー

ションの実施,性能基準の設定

系統的(より進んだ)開発手法のステップとベネフィット

―広く深く系統だった知識が得られる。管理手法の選択肢の増加。分析法の頑健性の向上。将来の変更への備え。

CTD(申請添付資料)への記載

分析法のライフサイクル(使用開始後に焦点をあてる)

―実施にどのような管理手法を採用するか,日常的確認をどのように進めるか

―変更のカテゴリー分けを,例えば開発のステップと連動させて検討し,変更のための検討・確認事項(e.g. 変更後のバリデー

ションの程度)の切り分けの考え方

多変量解析を用いた分析法についての考慮点

リアルタイムリリース試験の要件・運用

用語

Table 8 より進んだ手法・QbD 製品と分析法の流れの比

較―Q8, Q11 と対になるガイドライン―

Product Analytical Procedure

Quality Target Product Proˆle Analytical Target Proˆle

Risk Assessment Risk Assessment

Critical Quality Attribute Critical Method Attribute

Design Space Method Operable Design Region

Control StrategyAnalytical Procedure

Control Strategy

Ongoing Process Veriˆcation Ongoing Method Veriˆcation

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Vol. 22, No. 2 (2020)

「開発段階」としよう。分析法に当てはめると分析バリデー

ションも「開発段階」に含まれる。

現行 Q2 では Figure 1 の分析法バリデーション・実験

の実施の前までを開発と呼んでいる。頑健性は開発段階で

の活動でバリデーション前に行うという趣旨の記述があ

る。このことと Q2 は申請資料に関する要件を記載してい

るという認識から,頑健性の検討は申請資料に含めなくと

も良いという認識が調和して存在している。頑健性の検討

とシステム適合性はバリデーションではないとう判断を

し,Q14 の方で受け持つことになりそうだ。

5.4. バリデーションアプローチの多様性

試験項目により評価(あるいはバリデーション)すべき

分析能パラメータは同じように決まるが,技術によりその

評価手法は異なる。例えば,HPLC では分析対象物と分

析法の相互作用があるため,当該分析対象物を用いた実証

的評価の必要があるものの,NMR では上記のような相互

作用がない。NMR ではキャリブレーションなど機器の運

転状態評価が当該分析対象物を用いた評価より重要とな

る。また,多変量解析を用いた分析法の分析バリデーショ

ンは分析法全体のバリデーションを意味するのでなく,多

変量解析のモデルのバリデーションを意味する。5. でも

言及した例示ではアプローチの差異が明確になるようにし

たい。

6. 分析法開発ガイドライン(Q14)の作成について

分析法開発の流れ(Figure 1 左の列)に沿い,Q14 は

記載されるのが自然であろうと考えられる。想定される構

成を Table 7 に示す。分析法の流れを概観した上で,開

発のアプローチを製造法開発(ICH Q8, Q11)のように,

「従来の手法」と「より進んだ手法」が記載される。分析

法の「より進んだ手法」を製造法開発における流れと並行

して Table 8 に示す。

6.1. ガイドラインに必要な概念と割り付ける用語

より進んだ分析法の開発(Analytical Quality by Design)

は医薬品分析の分野では 10 年以上にわたり議論されてき

ており,使われた用語は様々異なる。ガイドラインを作成

するために用いる用語を統一しておく必要がある。

用語決定に対するアプローチには,「議論を始める前に

決める」という手法がよく使われる。この事前決定は,議

論の範囲および論点が見透せている場合は使えるが,これ

らが不明確な場合は,用語は議論当初には決定しない方

が,無用な制限をつけることなく建設的な議論が進むと筆

者は考える。そうは言っても,ガイドライン作成過程で言

葉なしには他者に論点・意見を伝えることは無理である。

短い用語はできるだけ使わずに意を尽くすよう努めるか,

Page 6: ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

20

Figure 2 分析法の入力出力関係から分析法の性能基準へのリンク

―関連付けをするための用語選択―

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PDA Journal of GMP and Validation in Japan

発言中に簡単に用語の定義をするようにメンバーに勧め

た。

対面会合開始後 1 年経ったころに,筆者はまとまって

きた論点を元に Figure 2 にあるような用語を使用目的と

ともに提案した。

分析法の入力と出力の関係を示すために石川ダイヤグ

ラムを用いた。製造法の入力と出力にそれぞれ parameter

(process parameter), attribute (quality attribute)が割り

付けられていることも考慮して method parameter, method

attribute とするのが妥当と考えた。

分析法の性能は分析能パラメータで最終的には集計され

記述されるものの分析技術特有の出力(例えば HPLC の

ピーク位置,ピーク面積)で記述されるものの区別が必要

である。このため,分析技術特有の性能基準に対しては

performance criteria を分析技術に非依存の(規格に由来

する)性能基準を Analytical Target Proˆle(ATP)と呼ぶ

ように提案した。

6.2. より進んだ手法(Enhanced approach/Quality by

Design)の要素とそのメリット

より進んだ手法とは,以下の要素が一つ以上含まれるも

のと考えられる。

*分析法の入力出力への系統的解析,理解。

*製品の規格に関連し分析法の使用目的を規定する目標プ

ロファイルの設定。

*既存知識やリスクアセスメントを通じた,分析法性能に

影響を与える分析法パラメータの特定。

*分析法のパラメータ範囲の多変量的実験的評価。また実

験的評価による承認事項の重み付け。

*明確になった承認事項,MODR などを通じた変更マネ

ジメントのライフサイクルを通じた計画。

また,より進んだ手法のメリットとしては例えば,以下

のことがあげられる。

*分析法の入力出力の関係が良く理解できることにより,

何を管理すべきかがより明確になる。結果として,承認

事項の重み付けがより容易になる。

*分析法の目的を元にした評価基準設定(ATP)を導入

することにより,変更評価の基準が明確になる。

*分析法がより頑健になる。また,進んだ知識により,管

理手法の予見性が向上し,継続的改善が推進できる。

6.3. 分析法版のデザインスペース(MODR)の開発と

運営

Method Operable Design Range(MODR)の開発および

バリデーションの流れを製造法のデザインスペースと比較

して説明する(Table 9)。開発は実験計画法などを用い

た多変量の解析,実験が用いられることが想定される。分

析法には製造法にあるようなスケールの問題は存在しない

ため,実験遂行は比較的容易と思われる。バリデーション

は当該手順が使用される前まで終了せねばならないので,

分析法では申請前の安定性試験前には,MODR 内の一部

では必ず行われる。一方,製造法では使用直前,すなわち

Page 7: ICH Q2 R2),Q14 ガイドラインの作成状況と論点解説

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Table 9 MODR (Method Operable Design Region)ATP

を満たす範囲で許容可能な,分析法の入力因子の変動可能領

域(分析法のデザインスペース)の開発と運営

ライフサイクル段階 Design Space MODR

開発 小スケールでの実験計画法などを用い相互作用も検討し設定

実験計画法などを用い相互作用も検討し設定

バリデーション 安定性試験・バッチ試験前に MODR 内少なくとも一部で実行

薬事申請 DS は承認が必要 MODR は承認が必要

バリデーション DS 内の一部で出荷前に実行

変更 DS 内の変更はべリフィケーション。薬事手続きは不要。

MODR 内の変更はベリフィケーション。薬事手続きは不要。

Figure 3 規格,ATP,性能基準,バリデーション,分析法の関連図

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Vol. 22, No. 2 (2020)

最初の出荷までに完了しておくことは必要であるが,申請

前に完了しておくことは一部の例外をのぞき求められな

い。デザインスペース内,MODR 内のバリデーションで

カバーされていない部分を使用する場合は使用前にベリフ

ィケーションが必要となる。

6.4. ATP の解説と潜在的意義

Figure 3 に規格から分析法への関連を示す。ATP とは

端的に言うと「規格項目に必要な分析法の性能基準」であ

る。この基準を満たす分析技術(例えば,HPLC, NMR)

が選択され,技術の一般的な性能を考慮した性能基準が想

定される。さらに,分析法として組み立てられ,特定され

た入力出力(Parameter/Attribute)で記述された評価基

準(バリデーション基準というべきか)をもとに分析バリ

デーションが実施される。

より進んだ手法において ATP を意識し開発すること

が,信頼性の高い分析法開発へつながる。また,ATP を

詳細に規定しておくことで将来の変更が一貫してスムース

に行うことが可能になる。さらに ATP を介在させた柔軟

な薬事手続きの導入の可能性が広がる。

本稿では Q2(R2),Q14 の作成の背景・経緯を説明した

上で検討中の論点を解説した。意見公募案の公開される際

には多変量解析の取り込み,リアルタイムリリース試験に

検討などを解説することとする。