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16 第3章 環境ビジネスの現状 I. 全体像 環境産業の市場規模は、 2015 年に全体で 104 2,559 億円と過去最大を記録し、前年比 1.4%の 増加となり、2000 年(57 9,643 億円)の約 1.8 倍となった。2000 年から 2003 年にかけて約 60 兆円で微増の動きにとどまっていたが、2004 年以降徐々に増加傾向が強まり、2006 年には 90 円台に達した。ただし、 2008 年の 95.3 兆円をピークに、 2009 年は世界的な金融危機の影響による 景気減速から 70 兆円台後半にまで落ち込んだ。2010 年は景気の持ち直しもあり、90 兆円近くま で回復し、2013 年には 100 兆円を突破した。分野別では、「B.地球温暖化対策」が増加に寄与し ている。 5 環境産業の市場規模推移 このように環境ビジネス市場全体は拡大傾向にあるが、分野ごとに状況は異なる。 「環境汚染防止」は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動といった公害対策を目 的とした事業を含む。2004 年までは減少傾向を示しており、これは、公共事業が減少に転じたこ とが大きな原因である。一方、2005 年に市場規模は急激な増加に転じているが、これは「その他 の環境汚染防止製品・装置・施設」に含まれる「サルファーフリーガソリン、軽油」が 2007 2008 年の規制導入に先駆けて、2005 1 月に石油業界各社から一斉に供給開始されたことによるもの である。2009 年には全体傾向と同様に、景気悪化の影響を受けて 10 兆円程度まで落ち込むもの の、 2010 年には大きく回復し、その後も 2014 年まで微増傾向が続いている。 2014 年から 2015 にかけては、ほぼ横ばいとなっているが、これは主要項目のデータが 2014 年までしか取得できな 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 市場規模(億円) 自然環境保全 廃棄物処理・資源有効利用 地球温暖化対策 環境汚染防止

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第3章 環境ビジネスの現状

I. 全体像

環境産業の市場規模は、2015 年に全体で 104 兆 2,559 億円と過去最大を記録し、前年比 1.4%の

増加となり、2000 年(57 兆 9,643 億円)の約 1.8 倍となった。2000 年から 2003 年にかけて約 60

兆円で微増の動きにとどまっていたが、2004 年以降徐々に増加傾向が強まり、2006 年には 90 兆

円台に達した。ただし、2008 年の 95.3 兆円をピークに、2009 年は世界的な金融危機の影響による

景気減速から 70 兆円台後半にまで落ち込んだ。2010 年は景気の持ち直しもあり、90 兆円近くま

で回復し、2013 年には 100 兆円を突破した。分野別では、「B.地球温暖化対策」が増加に寄与し

ている。

図 5 環境産業の市場規模推移

このように環境ビジネス市場全体は拡大傾向にあるが、分野ごとに状況は異なる。

「環境汚染防止」は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動といった公害対策を目

的とした事業を含む。2004 年までは減少傾向を示しており、これは、公共事業が減少に転じたこ

とが大きな原因である。一方、2005 年に市場規模は急激な増加に転じているが、これは「その他

の環境汚染防止製品・装置・施設」に含まれる「サルファーフリーガソリン、軽油」が 2007・2008

年の規制導入に先駆けて、2005 年 1 月に石油業界各社から一斉に供給開始されたことによるもの

である。2009 年には全体傾向と同様に、景気悪化の影響を受けて 10 兆円程度まで落ち込むもの

の、2010 年には大きく回復し、その後も 2014 年まで微増傾向が続いている。2014 年から 2015 年

にかけては、ほぼ横ばいとなっているが、これは主要項目のデータが 2014 年までしか取得できな

0

200,000

400,000

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2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

市場規模(億円)

自然環境保全

廃棄物処理・資源有効利用

地球温暖化対策

環境汚染防止

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いため、2015 年度市場規模は 2014 年度値を使用しているためである。

「地球温暖化対策」の特徴として、本来環境以外の主目的を持つ製品・サービスにおいて使用

時の環境負荷を軽減させた環境配慮型製品が多く含まれることや、高い成長を遂げていることが

挙げられる。例えば、自動車、家電、住宅設備等の耐久消費財や企業における製造装置やオフィ

スビル等、既に広く普及している製品・サービスに省エネルギー等の環境配慮の要素が加わるこ

とで、既存の非環境配慮型の製品に単に代替するばかりでなく、早期の更新需要を生みだし、急

速に市場が拡大する傾向がある。環境産業全体での市場規模が大きく落ち込んだ 2009 年には一度

落ち込んだものの、中期的には増加傾向が続いており、今後も引き続き環境産業全体をけん引す

る大きな成長が期待される。中でも 2004 年頃から増加の勢いが増したのは「自動車の低燃費化」

に含まれる「低燃費・低排出認定車」および「ハイブリッド自動車」の市場規模が急成長したこ

とによる。さらに 2012 年には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下「FIT」)が開始さ

れ、「再生可能エネルギー利用」分野が 2012 年から急激に成長している。具体的には、「太陽光発

電システム」や「太陽光発電システム設置工事」など、導入量が大幅に増えた太陽光発電に関す

る市場、再生可能エネルギーを取引する「新エネ売電ビジネス」が拡大している。

「廃棄物処理・資源有効利用」の市場規模は、4 つの大分類の中で最大であり、2008 年までは

緩やかながら増加を続け環境産業の成長をけん引した。2009 年に景気後退の影響を受け落ち込ん

だ後、2013 年まで成長を続けたが、2013 年をピークに減少傾向にある。市場規模の変動要因は「資

源、機器の再利用」であり、2009 年に一度落ち込んだものの、その後微増傾向にあった。近年は、

リース・レンタルが減少傾向にあり、全体を減少させる要因となっている。また、「その他」の大

半を占める「100 年住宅」は景気減速の影響をあまり受けず、成長を続けている。

「自然環境保全」の市場規模は 4 大項目の中で最も小さく、変化も少ない。2000 年以降の市場

規模の推移傾向は、農林水産省が認定促進を行うエコファーマーを含む「持続可能な農林水産業」

が 2010 年にかけて増加した。また 2013 年には上水道の市場規模が 3,000 億円程度増えた。

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II. 分析対象産業

環境産業の動向をより具体的に把握するために、新たな「イノベーション」が生まれている業

種、異業種の企業や伝統的な環境ビジネス企業が、新規事業を立ち上げている例が多い業種など、

特定の業種を取り上げ、業種単位の分析を行う。環境産業には多種多様な業種が含まれているが、

本検討で対象とする企業が活躍する代表的な業種として、以下のものを取り上げる。なお、業種

選定の際は環境産業の 4 大分類(A 環境汚染防止、B 地球温暖化対策、C 廃棄物処理・資源有効

利用、D 自然環境保全)からそれぞれ 2 業種を抽出するよう考慮している。

具体的には表 1 に示した業種を対象とする。

表 1 分析対象産業 環境産業 大分類 業種 選定理由

A) 環境汚染防止

(1) 水・土壌

人口減少に伴い市場そのものは縮小する見通しだが、浜松市コンセッションに見られるように、民間活用が拡大することが見込まれる。こうした中、地場企業が生き残るための新事業開拓や付加価値増大等の取組が分析できる産業である。

(2) 環境マネジメント

ISO 認証取得などの市場は一時の急増後、落ち着きをみせているが、今後、シニア人材の大量退職、企業のノンコア業務切り離し、SRI(社会的責任投資)拡大などの追い風により、市場の拡大が期待される。

B) 地球温暖化 対策

(3) 再生可能エネルギー

FIT 制度の影響により市場が急速に立ち上がり、多くの新興企業が参入し、急速な成長を見せている。一方で、大規模太陽光発電市場のピークアウトを見込んだ新事業展開も期待される市場である。

(4) 省エネ

パリ協定の目標達成を見据え、さらなる省エネが推進され、今後の拡大が期待される市場である。全国各地の全事業所が顧客の対象となり得るため、地場企業や新興企業の成長が期待できる産業である。

C) 廃棄物処理・ 資源有効利用

(5) 廃棄物処理 ・リサイクル

産業廃棄物・一般廃棄物量は減少傾向にあるものの、地場企業が活躍し、発電やリサイクルなど新分野も生まれている。A)環境汚染防止と同様、地場産業の強みを分析するのに適した産業である。

(6) シェアリング

個人の資産(あるいは時間等)を共有するための仲介サービスであり、資産を生み出すために必要であった資源の消費を、共有によって抑制することができる。スマートフォンやそのアプリケーション、ソーシャルメディアといったツールの発達に伴い市場が急拡大している。

D) 自然環境保全

(7) 緑化

工場立地法において特定工場の敷地内に緑地を設けることが義務付けられており、規制の変化に伴い成長をみせる分野である。地球温暖化対策の一環としても注目されている点でも分析に適した分野である。

(8) エコツーリズム

自然環境や歴史文化を体験・学ぶことで、それらを守る意識醸成を促すサービス。「自然環境の保全」「観光振興」「地域振興」「環境教育の場としての活用」などの意味がある。近年の訪日外国人数の急増も追い風となっており、拡大が期待される市場である。

(9) 環境保全型農業

地域特性を活かした農業開発や農作物・特産品のブランディングが行われており、今後の成長が期待される市場である。地方での先進事例を分析するのに適した産業である。