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147 株式会社コークッキング 株式会社コークッキング(以下、同社)は、社会の「多様性」と「創造性」を促進する会社とし 2015 年に設立され、「食」や「料理」を切り口とした様々な思考と対話のきっかけづくりをし ている。展開している事業の一つ「TABETE」では、閉店時間や予約のキャンセルなどの理由から 飲食店で廃棄の危機に直面している食事を、それらの食事を購入したい消費者ユーザーにマッチ ングする「フードシェアリングサービス」を提供している。「食事をレスキューしよう」をキーワ ードとして、ユーザーよし、お店よし、環境よしの三方よしのメリットを提供しながら、食品ロ スの削減に貢献している。 File 17 シェアリング 「食べて」の思いを「食べ手」に つなぎ、食品ロス削減を目指す

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株式会社コークッキング

株式会社コークッキング(以下、同社)は、社会の「多様性」と「創造性」を促進する会社とし

て 2015 年に設立され、「食」や「料理」を切り口とした様々な思考と対話のきっかけづくりをし

ている。展開している事業の一つ「TABETE」では、閉店時間や予約のキャンセルなどの理由から

飲食店で廃棄の危機に直面している食事を、それらの食事を購入したい消費者ユーザーにマッチ

ングする「フードシェアリングサービス」を提供している。「食事をレスキューしよう」をキーワ

ードとして、ユーザーよし、お店よし、環境よしの三方よしのメリットを提供しながら、食品ロ

スの削減に貢献している。

File 17 シェアリング

「食べて」の思いを「食べ手」に

つなぎ、食品ロス削減を目指す

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ポイント

廃棄の危機に直面している「食べて」の想いがこもった食事と、「食べ手」をマッチング

するフードシェアリングサービス「TABETE」を展開

自らの実体験を通して、飲食業界におけるニーズや経営課題等を把握。ユーザー、お店の

双方にメリットを提供し、食品ロス削減に貢献

東京から展開エリアを拡充、さらにサービス活用方法の拡大を検討

株式会社コークッキング

所在地 東京都港区南麻布 3-3-1 麻布セントラルポイントビル 3F

従業員数 12

設立年 2015 年 12 月

資本金(百万円) 42(資本準備金含む)

売上高(百万円)

2016 年 3 月 -

2017 年 3 月 -

2018 年 3 月 -

① 事業概要

食品ロスを利益に還元して食品ロス削減に貢献するサービス「TABETE」

同社は、2018 年 4 月、フードシェアリングサービス「TABETE」を正式にリリースした。廃棄

の危機に直面している「食べて」の想いがこもった食事を、「食べ手」とマッチングする仕組みで

ある。なお、食品ロスのうち、同社は「仕入れロス(売れ残り)」を対象としたサービスを展開し

ており、「食べ残し」は対象としていない。このサービスを利用する店舗は登録が必要だが、それ

さえ済ませておけば、必要な時にスマートフォン等から簡単な操作をするだけでタイムリーに商

品を出品することができる。そして、消費者側のユーザーは事前登録しておけば、利用したい時

に希望する商品を選びクレジットカードで支払いを済ませた上で、決められた時間に店舗に出向

いて商品を受け取ることができる。

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図 65 フードシェアリングサービス「TEBETE」の仕組み

出所)コークッキング

図 66 ユーザーから見た画面:検索結果画面

出所)TABETE 公式サイト

利用店舗は初期費用・ランニングコストの負担なし

「TABETE」は完全成果報酬型を取っている。利用者である飲食店や中食業者は、初期費用やラ

ンニングコストを負担する必要がなく、商品が売れた場合のみ、一律 150 円を手数料として支払

う仕組みになっている。

店舗はこの仕組みを活用することにより、今まで廃棄していた食事を利益に転換できるという

大きな利点に加えて、来店受け取りによる新規見込み客の獲得、環境に配慮した店舗というイメ

ージの醸成といった効果が期待できる。

「食事をレスキューする」ユーザー心理に訴求

「TABETE」の消費者側ユーザーは、無料の事前登録をして公式サイトや専用アプリにアクセス

する。専用アプリでは、お気に入り登録した店舗からの出品があった際に通知を受け取ることが

できる。気に入った商品があれば、クレジットカードで事前に料金を支払い、注文確認の E メー

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ルを受け取った後、指定された時間に店舗に出向いて商品を引き取る。店舗は、ユーザーが提示

する商品受け取り用の画面で引渡しの確認を行う。ユーザーは、定価よりも低い価格で商品を購

入できる、行ったことのないお店を試すことができるといった利点に加え、「食品ロスの削減に貢

献している」という実感も得ることができる。実際に「食べ物を救っている実感が得られた」と

いったユーザーの声が同社に寄せられているという。

図 67 ユーザーから見た画面:商品・店舗紹介

出所)TABETE 公式サイト

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タイムリーな情報提供を強化して全国展開へ

現在、「TABETE」に掲載されている約 300 の店舗のほとんどは、東京都内に拠点を置いている。

公式サイトや専用アプリによる通知、さらに Twitter による告知によって、タイムリーな情報提供

を実現し、全国展開を進めていく予定だという。

② 事業参入の経緯

「食べて」の想いを最後まで「食べ手」に届けたい

代表取締役の川越氏は、料理人修行、大手飲食チェーンの店舗経営などを経て、2015 年 12 月に

同社を設立した。起業当初は料理を用いたイベントやワークショップの企画・運営をする事業を

中心に行っていたが、2018 年には既存事業に加え、フードシェアリング事業の「TABETE」を新

たに立ち上げた。飲食店・中食店では、想定外の出来事や天気、単なる運によって、食品ロスが

生じてしまう。せっかくの節約や努力が台無しとなり、何よりも「食べて」の想いを込めて用意

した食べ物を棄ててしまうのは心が痛むといった問題意識から、食事を「食べ手」につなぐサー

ビスとして「TABETE」が開発された。

試験運営で 1万 7,000人の事前登録者を獲得

同社は、正式版のリリースに先立ち、2017 年 9 月から 2018 年 4 月にかけて、東京近郊の店舗

のみを対象とした試験運営を実施した。「日本では食品ロスという言葉や概念はまだ浸透していな

い」という当初の予想に反して、約半年間でユーザー1 万 7,000 人の事前登録者を獲得した。現在

では約 8 万 6,000 人のユーザー登録実績がある(2019 年 1 月時点)。

③ 成功・差別化要因

自らの実体験を通して飲食業界におけるニーズや経営課題等を把握

同社代表の川越氏は、学生時代は和食料理店で料理人として 4 年ほど働き、その後新卒採用で

就職した大手飲食チェーンでは経理等の店舗運営に携わった。さらに起業当初はイベント・ワー

クショップ事業の傍ら、山梨県で古民家カフェの立ち上げと運営も行っていた。川越氏は、飲食

に関わる仕事経験を通して飲食店で毎日多くの食べ物が廃棄されているという問題意識を抱えて

いた。そうした時、デンマーク企業による食品ロスマッチングサービスの記事を見て、日本での

必要性と実現可能性を感じたことがフードシェアリング事業(TABETE)発足のきっかけになった

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という。

さらに、自ら飲食業界で働いていた実体験があるからこそ、同社設立後の営業活動やサービス

内容考案の際に活きている部分が大きいと考えている。例えば、飲食店に「TABETE」掲載依頼の

営業に行く際は、ランチ営業をしている飲食店を中心に訪れる。ランチ営業を実施している飲食

店は、短時間に集中して訪れる顧客に対応するため、来店前から仕込みをしている。そのため食

品廃棄が発生しやすく、食品ロスに悩んでいる店が多いという。このように、自らの実体験を通

して飲食業界におけるニーズや経営課題等を肌身で体感していることが、同社の強みとなってい

ると考えている。

特定機能・ニーズに特化したサービス設計

同社の提供する「TABETE」が他のフード系 Web サービスと大きく異なる点は、「TABETE」は

食品ロス削減に特化したサービスであることだと考えている。同社によると、現在、多くのユー

ザーがお店予約の際に何らかのフード系 Web サービスを利用しているが、予約が入る度にお店側

はサービス利用料を支払う必要があり、そうしたモデルに不満を感じている飲食店のオーナーも

いるという。一方、「TABETE」は、今まで処理費を支払って廃棄するしかなかった食品を顧客が

引き取ってくれて売上になる上、それがきっかけとなって新しい顧客獲得を期待できるといった

飲食店を支えることができるというモデルである。このように顧客のコスト削減・売上拡大につ

ながることが顧客から支持されていると考えている。

同社のサービスは、「安売り」ではなく、あくまでも「お得」を打ち出していることが特徴であ

る。その背景として、現在飲食店の予約無断キャンセル問題が深刻化しており、飲食店はユーザ

ーのマナー意識を非常に気にかけていることが挙げられる。「TABETE」は、食品ロス削減を目的

に掲げていることもあり、そもそも食品廃棄に関して意識の高いユーザーが多いことから、マナ

ーの低いユーザーが集まりにくいということも他のフード系Webサービスとの差別化要素となっ

ている。

なお、このように機能を特化し、「ソーシャルビジネス」であることを明確にしていることは、

人材や出資者を集める際に大きな意味を持っているという。2018 年 8 月には、同社は伊藤忠テク

ノソリューションズ株式会社を始めとした 6 社を引き受け手とする第三者割当増資を実現、これ

ら企業の技術やノウハウを活用することで、より良いユーザビリティを実現している。

飲食店、ユーザー双方にとって利用しやすいシンプルなサービス設計

「TABETE」では、飲食店は初期費用やランニングコストを負担する必要がなく、商品が売れた

場合のみ、一律 150 円を手数料として支払うという完全成果報酬型のシンプルな設計にしている。

またユーザーにとっても、気に入った商品があればクレジットカードで事前に料金を支払い、指

定された時間に店舗に出向いて商品を引き取るというモデルで、複雑な設定が必要なく使いやす

い。同社は、飲食店、ユーザー双方にとって利用しやすいシンプルなサービス設計にすることが

重要であると考えている。

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④ 事業ビジョン・展望

東京でのマッチング率強化、将来的には全国にエリアを拡充

「TABETE」は現在、東京都内の約 300 店の飲食店が登録され、約 8 万 6,000 人のユーザー登録

実績がある(2019 年 1 月時点)。今後は、まず東京都内での更なる飲食店登録数、ユーザー数を拡

大し、マッチング率を上げていくことを目指す。さらに、東京都内だけでなく、他の地域にも順

次展開していく。そのために例えば代理店を活用した営業活動や自治体との連携推進等を検討し

ているという。

ユーザーや蓄積情報の活用方法拡大

同社は、「TABETE」の利用シーンの拡大も視野に入れている。また、事業を通して蓄積した食

品ロスに関するデータを活用した事業も計画している。同社は、現在の「TABETE」の食品ロス削

減というコアな目的を維持しつつも、更なるサービスの活用可能性があると考えている。

⑤ 政府への要望

食品ロス削減に向けた規制強化

同社は、より本格的に食品ロスを減らすためには、事業者への食品廃棄量規制等も含めて、行

政による介入も必要だという。例えば、ごみの量に応じて飲食店への課税度合いを変更する等の

取組により、店舗側が食品ロスを減らすモチベーションを創出することが重要であると考えてい

る。

株式会社コークッキング

代表取締役 CEO

川越 一磨さん

2015 年 12 月に㈱コークッキングを

創業し、料理を通じたワークショップ

を法人向けに展開。その後フードシェ

アリングサービス「TABETE」を事業

化。ワークショップ等、料理人兼社会

起業家として活動をひろげている。