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グローバルリサーチ Global Research Institute 鍋島紀美代

グローバルリサーチ Gl o b a l R es ea rc h I n s t i t u t e 鍋島紀美代 · 2019. 1. 27. · 第3条 損害賠償: 甲が本契約の第2条に違反し、乙に損害が生じた場合、甲は乙に対し、違約金が発生する場合がございます

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グローバルリサーチ Global Research Institute 鍋島紀美代

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地方創生:イギリスに見る地域活性化最新事例  

目次

1. 失業や犯罪であえぐ貧困地区でコミュニティー中心の再開発:リバプール

2. 訪問者がぶらぶら歩きを楽しめる街にする:ヨーク

3. 衰退したかつての観光都市をよみがえらせる:サウスポート

4. 近くにある大学を意識した街づくり:オームスカーク

5. 地方経済を生かして衰退地方都市から脱却:プレストン

6. ニッチマーケットを対象にして訪問客をひきつける:ブラックプール

7. 人気マーケットとタウンセンターをつなげる:ベリー

8. 移民の集まるコミュニティーで複数の拠点づくり:マンチェスター

著者:鍋島紀美代 グローバルリサーチ Global Research Institute https://globalpea.com/ ■ 著作権について 本冊子は、著作権法で保護されている著作物です。本冊子の著作権は、発行者(鍋島紀美代)にあります。本冊子の使用に関しま

しては、以下の点 にご注意ください。 ■ 使用許諾契約書 本契約は、本冊子を入手した個人・法人(以下、甲と称す)と発行者(以下、乙と称す)との間で合意した契約です。本冊子を甲が受け

取り開封することにより、甲はこの契約に同意したことになります。 第1条 本契約の目的: 乙が著作権を有する本冊子に含まれる情報を、本契約に基づき甲が非独占的に使用する権利を承諾するもの です。 第2条 禁止事項: 本冊子に含まれる情報は、著作権法によって保護されています。甲は本冊子から得た情報を、乙の書面によ る事前許可を得ずして出版・講演活動および電子メディアによる配信等により一般公開することを禁じま す。特に当ファイルを 第三

者に渡すことは厳しく禁じます。甲は、自らの事業、所属する会社および関連組 織においてのみ本冊子に含まれる情報を使用でき

るものとします。

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第3条 損害賠償: 甲が本契約の第2条に違反し、乙に損害が生じた場合、甲は乙に対し、違約金が発生する場合がございます のでご注意ください。 第4条 契約の解除: 甲が本契約に違反したと乙が判断した場合には、乙は使用許諾契約書を解除することができるものとしま す。 第5条 責任の範囲: 本冊子の情報の使用の一切の責任は甲にあり、この情報を使って損害が生じたとしても一切の責任を負いま せん。

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1. 失業や犯罪であえぐ貧困地区でコミュニティー中心の再開発:リバプール

● 失業や犯罪が蔓延する衰退都市の再開発する ● 失業者増加、貧困、健康、犯罪などの問題をどう解決するか ● 空き家のまま放置された住宅が集まる地区の再開発 ● トップダウンでなく地元住民を中心としたボトムアップアプローチ ● 様々な大小規模のプロジェクトや試みを並行して行う ● 人々が暮らし、働き、訪れたいと思うエリアに

リバプール、トクステスはリバプールの都心から南に向かったところに位置する。19世紀から

アフリカや中国人、アイルランド人、戦後は英国連邦からの黒人移民が多く移り住んだ地域で

ある。 1970年から80年代にかけてイギリスの景気は悪くなったが、北部にあるリバプールの経済衰退

ぶりは特にひどかった。当時リバプールの失業率は50%を超えており、犯罪率も高かった。貧

困、失業、人種差別、異なる人種間の憎悪、警察への不信などの問題が積もり積もって1981年の7月には若い男性を中心とする大規模な暴動がおこった。失業率は40%を超え、犯罪、暴

力、ドラッグ、窃盗などの問題が多発していた。 2003年のリバプールの住宅平均価格は45,929ポンド(約640万円)とイギリス平均160,625ポン

ド(約2,250万円)に比べ相当低いことからも、地方経済の衰退ぶりがうかがえる。その中でも

トクステス地区は不動産価格も低く治安が悪いため誰も住みたがらないエリアとなっていた。 この状況を改善するために、2000年になってから地方自治体が中心となり政府やEUの補助金

を投入して、暴動で破壊された地区の再開発が行われることになった。誰も住むことなく朽ち

るままにまかされていたビクトリア時代のテラスハウス(長屋)を取り壊し、新たに店舗、住

居、商業用の建物を建てるプロジェクトだった。 しかし、計画を知った一部の地元民からこのような再開発に反対する声が起こり、その結果グ

ランビー・トライアングルの4つのストリートは公的機関による再開発プロジェクトから外さ

れ、取り壊しを免れることになった。反対住民が中心となってグランビー・フォー・ストリー

ツ・コミュニティ・トラストがつくられ、1981年の暴動後衰退していた4つの通りからなる地

区内でボトムアップ方式の再開発プロジェクトが始まった。 1993年には住民団体が設立され、「グランビー・トライアングル」 と呼ばれる、ヴィクトリア

朝時代の住宅が連なる地区の住民たちが自らの住宅地を復活させる試みが始まった。

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住民やコミュニティー活動家が中心になり、既存の古い住宅を修理し、通りには樹木が植えら

れ、コミュニティーに息を吹き込んだ。月ごとのストリートマーケットなどのイベントも催

し、住民だけでなく地区外からも客を呼ぶなどして地区に活気を取り戻した。 また、地元のコミュニティーグループは「アセンブル」というプロジェクトを始めた。アー

ツ・カウンシルからの25万ポンド(約3,500万円)の補助金を得て、荒廃した2件の住宅だった

土地をコミュニティーのためのスペースに作り替えたのだ。ここには、インドアガーデン、

アーティスト・スペース、コミュニティー・ミーティングスペースなど、地元の人たちが会

い、集い、共に働くためのスペースがある。 このアート・スペースでは「メイドイン・グランビー」と名付けた家具や家のための部品を

作っている。暖炉のマントルピース、ドアノブ、タイルなどを作り、それをエリア内の建物に

使ってもらうことで、地産地消を目指した。 このアセンブル・プロジェクトはコミュニティー・アート活動のサクセス・ストーリーとして

有名になり、2015年にはイギリスの著名アーティストに贈られる名誉あるターナー賞が与えら

れた。 トクステス地区はかつて無法地帯と呼ばれ足を踏み入れるのを恐れられたほどの荒廃ぶりだっ

たが、今では住民たちが誇りを持って住むことができるコミュニティーとして生まれ変わっ

た。 地区再開発というと、通常は国や地方自治体が中心となって公的資金を使い、民間の大企業に

委託して行わせるトップダウン型の大規模プロジェクトが多い。そういうプロジェクトは荒廃

地域にある既存の建物を取り壊し、すでにあるコミュニティーをばらばらにして1から再開発す

るものになりがちだ。 けれども、そういう再開発プロジェクトに立ち向かって、自分たちの家や地区を守ろうとした

住民たちがボトムアップの形で起こした事例がこのグランビー地区だ。この事例は、コミュニ

ティーに自分たちの地域の将来を担う民主的な権限を与えることで変化を起こせるということ

を証明した。

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2. 訪問者がぶらぶら歩きを楽しめる街にする:ヨーク

● 観光名所だけでなく街全体を散策するのに適したところにする試み ● 老若男女を問わずいろいろな人が徒歩で楽しめる環境を整える ● 車を遮断した徒歩専用エリアやストリート・ファーニチャーの整備 ● 公園や広場などアウトドアスペースを魅力的にする方法 ● 街を囲む城壁や川沿いの散歩道へのアクセスを改善 ● マーケット、ポップアップシアター、エンターテイメントなどのアトラクション

イングランド北西部にあるヨークは歴史に包まれる古都だ。ヨークミンスターをはじめ、

キャッスル博物館、国立鉄道博物館など観光名所がある街である。また、街を囲む古い城壁、

シャンブルスをはじめとする旧市街、アウトドアマーケット、ウーズ川沿いの散歩道などもあ

る。

ヨークには毎年700万人の観光客が訪れるが、その多くはヨークの街をぶらぶら歩きその雰囲

気を楽しむのが目的だという。ヨークには様々な観光名所があるが、700万人の訪問者のうち

いわゆる観光名所に行くのは200万人にしか過ぎない。

ヨークでは、街を訪問者が訪れるのに魅力的な空間にすることが大切であると認識している。

訪問者が訪れることで、街にある店舗やサービスなどの企業も潤うし、それによって地域経済

や雇用も生み出せるからだ。

2012年にヨークでは「Reinvigorate York」(ヨークに活気を)という330万ポンド(約4億6500万円)のプロジェクトを行った。市内の6か所を選び、歩道や電気の整備、公共の場所に

設置するゴミ箱、そして公共スペースの整備、特に徒歩、自転車、公共交通機関で移動する人

のための環境を整えることに重点をおいた。

意識したのは、老若男女を問わずいろいろな人が徒歩で楽しめる環境を整えることだ。そのた

めに、車を遮断した徒歩専用エリアを整備した。歩行者専用エリアの舗道を整備し、景観に配

慮したストリート・ファーニチャー(標識、ゴミ箱、ベンチなど)を置いた。

また、いわゆる観光名所だけでなく、公園や広場、街を囲む城壁や川沿いの散歩道などのパブ

リック・アウトドア・スペースを整備することにも重点を置いた。標識を整備して目的地に迷

わず歩いて行けるようにし、各ポイントごとのアクセスをわかりやすくする試みもなされた。

例えば、ヨークの街をぐるりと囲む城壁のアクセスポイントを明らかにするための標識を整備

し、街灯も増やした。

このほか、ヨークでは街中にある、公園や広場などアウトドアスペースを魅力的にするため、

ストリート・ファーニチャーを改善し、川沿いの散歩道などへのアクセスも整備した。交通拠

点であるバス停、駅、駐車場から観光ポイント、そしてアウトドア・スペースへのリンクに標

識をほどこし、舗道を改善することによって歩くのが快適な街となることを目指した。

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このようなハードな環境改善と共にヨークが手がけたのは、ソフトなアトラクションだ。訪問

者がヨークでの「経験」を楽しむことができるように、マーケット、ポップアップシアター、

エンターテイメントなどのアトラクションを提供することに取り組んだ。

ヨークのこのような取り組みの結果としては、訪問者が増え、街でお金を使ってくれることに

よって地元企業に経済的なベネフィットがあった。それだけでなく、街のイメージを良くする

のに役立ち、国際的にも魅力的な町となった。また街に住む人や働く人、地元の大学などで勉

強する人にもよりよい環境を提供し、地域への投資を促した。ヨークの平均住宅価格は2017~18年の1年で6.3%上がり、301,320ポンドトなっている。

また、ヨークは2018年度、サンデー・タイムス紙で「住みたいイギリスの街」で1位になって

いる。同紙によると「ヨークはクールなカフェ、人気レストラン、創造力にあふれる企業があ

るミニ・メトロポリス」と評価されている。

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3. 衰退したかつての観光都市をよみがえらせる:サウスポート

● 衰退傾向にある海辺の行楽地のリバイバル ● 季節や天候に左右される訪問客数のバランスを改善する方法 ● 従来の観光ポイントに新しい魅力をプラスする ● パートナーシップと資金調達のためのBIDの設立と活用法 ● 外から移住者を呼び込める、魅力的な街にするには ● 計画、実行、検証を重ねて息の長い街づくりを目指す

サウスポートはイギリス北西部にある、ビーチ・リゾートとして栄えた街だ。しかし時代は変

わり、ホリデーというと庶民でも気軽にスペインやイタリアなど海外に出かけるようになり、

かつてにぎわったゲームセンターには閑古鳥がなり、遊園地は閉鎖され、街に連なるおしゃれ

なブティック街も空き店舗が目立つようになった。

街の景気が悪いと企業が地方自治体に払う Business Rate(事業用固定資産税)も少なくな

り、公的財源も圧迫するため街全体の整備やサービスにも支障が出る。

そういう状況を何とかしようと、サウスポートの事業主たちは地方自治体と協力してBID(

Business Improvement District)という制度を利用することに決めた。BIDとは欧米諸国で定着

している地域活性の仕組みで、区域内の不動産所有者や事業主がお金を出し合い、区域の環境

改善やマーケティング活動を行うものだ。サウスポートBIDは、主に店舗が集まる中心商店街

の区域の商業環境の改善・発展を目指すのを目的としている。

サウスポートBIDは2014年に設立され、約950のビジネスが参加している。主な目的はサウス

ポート・タウンセンターの店舗、サービス業、レジャー、ホテルなど商業的な発展を目指し、

参加企業や不動産所有者、地方自治体であるセフトン・カウンシル(Sefton Council)と協力し

て様々な取り組みをしている。

サウスポートBIDは街の歴史的な建築物や環境を維持改善し、サウスポートならではの魅力を

提供するとともに、老若男女誰でもがポジティブな経験ができる活気ある街づくりをする事を

目指す。訪問者を増やすことによって街のビジネスの商業的な成功を目指し、地元の雇用を促

し、街の経済を活性化する。BID参加企業は全員BID運営資金を支払っているので、その分の売

り上げ増加をという願いは大きい。

街の中心地区での新しいイベントも年中を通して行うことにした。また、内外に効果的なマー

ケティングをして、外からサウスポートへの訪問者を惹きつけるとともに、地元民もタウンセ

ンターを訪れたいと思うような街づくりをする事も重要な戦略だ。

BIDが従来の地域再生プロジェクトと大きく異なるのは、自治体など公的機関がトップダウン

で行うのでもなく、民間のボランティアがリーダーとなってボトムアップで行っているのでも

ないことだ。地域内の受益者(不動産所有者やビジネス)全員にBusiness Rate(事業用固定資

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産税)に上乗せする形でBID運営資金を払っているのでBID活動への関心とコミットメントが深

まる。カネを出しているからこそ、元をとらなければという気になるのは当然だ。

この方法だと何も負担しないで利益だけは受け取るフリーライドの問題もないし、強いリー

ダーがいなくてもBID運営チームに任せることでプロジェクトが進んでいく。もちろんプロ

ジェクト立案から実行、その後の振り返りまで一貫して参加企業はパートナーとして協力して

いくし、成功させようという気合も入ってくる。

サウスポートBIDは2019年度で5年のプログラムが終わるが、2018年末までで、BIDの目標の90%は実行しているという。BIDチームは2019年のあと、BID2期目をさらに5年間継続する用意

をしている。

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4. 近くにある大学を意識した街づくり:オームスカーク

● 少子高齢化しつつある、地方の小さな町が地域経済を活発にする試み ● 近郊の大学が拡張に合わせて街のサービスや環境を整える方法 ● 立地やアクセスの悪さを克服して利点とする手法 ● 学生や大学で働く教職員の生活の場となるようにサービスを改善する ● 高等教育機関や働く場が少ない町で若者を引き留めるための政策

オームスカークはイングランド北西部ランカシャーにある人口約24,000人ほどの小さなマー

ケットタウンだ。歴史がある街だが、これといった大きな産業もなく、週に2回開かれるマー

ケットで周辺の農業地帯からの産物を販売してきた。タウンセンターにはスーパーマーケット

や少数のチェーン店、小規模な店舗が並ぶが、街としての規模が小さくて外から買い物客を惹

きつけるには至っていない。条件のいい就職先もあまりない田舎町なので、若者は街を離れて

いき、残されるのは高齢者ばかりになりがちだった。

そんなオームスカークの街が変わってきたのは、郊外にあるエッジヒル大学の拡大によるもの

が大きい。小規模のエッジヒル・カレッジが2006年に大学として生まれ変わってから、学生数

にして約18,000人を抱えるキャンパスに拡大している。

年を追って増加している学生の数と共に大学に雇用される人の数も増え続け、今では4000人が

働いている。大学が地元経済にもたらす恩恵も大きくなってきている。大学は過去5年間に地域

経済に約8億ポンドをもたらしたと推計されている。

このような背景のもと、2015年にオームカークのタウンセンターマネジメントグループが設立

された。地方自治体、地元コミュニティー代表, 地元のビジネス、エッジヒル大学と学生自治会

が参加してできたパートナーシップだ。

このグループはオームスカークの街をより活性化し、環境や地域経済を改善しようと、

2015-20タウンセンター・ストラテジーを作った。このストラテジーではタウンセンターの環

境改善のため、マーケット、タウンセンターの建物やパブリックオープンスペース、駐車場な

どの整備をし、街のマーケティングを行って行くとしている。

中でも注目に値するのが、ナイトタイムエコノミーに言及している点だ。エッジヒル大学の学

生やそこで働く人々がキャンパスにある寮や街にある家などに住むようになり、夜間に遊びに

行ったり買い物をしたりするサービスを求める人が増えている。そのため、街では積極的にパ

ブ、バー、レストランやそのほかのサービスを提供するナイトタイムエコノミ―を支援すると

している。

しかし、これまで静かだった田舎町に短期間で若者の数が増え、若い学生がパブなどで飲み歩

く傾向に苦言を呈する中高年層もいないわけではない。街の治安を心配する人もいる。そのた

め、CCTVや警察のパトロール、コミュニティーサポートオフィサーなどが協力してオームス

カークの街が夜間も魅力的かつ安全に感じられるよう務めるとしている。

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このようなタウンセンターグループに大学が代表として参加している例は少ない。オームス

カークはエッジヒル大学の短期間の拡大によって従来の静かな田舎町から若者が多い活気ある

街に変わろうとしている過渡期にあり、それに付随する問題も出てきていることから、タウン

センターストラテジーを作り実行していく際に大学や学生の代表が大きな役割を果たすことは

意義あることと言える。

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5. 地方経済を生かして衰退地方都市から脱却:プレストン

● 大企業や国際企業の投資に頼る地方都市の問題解決法 ● 地元で使われるお金が大企業を通じて外に出ていくブラックホール化を解消 ● 経営者視点で見直すと地元中小企業を通じて街にお金が残るようになる ● 公的機関が地元企業から調達・購買をする仕組みを築き上げる具体的な手法 ● 公的入札調達の慣例を覆した手法で先例を作り他地区の手本となる

プレストンはイングランド北西部ランカシャーにあるローマ時代からある古い街だ。上位自治

体であるランカシャー州の州都でもある。2002年に市となったが、人口14万人ほどの小規模の

都市といえる。

プレストンは産業革命時は綿工業を中心にして大きく発展したが、製造業の衰退により地域経

済が衰え、1980年の初めには失業者が急激に増えた。地域経済はずっと低迷しているままで、

市の貧困率もイギリスの下位20%となっている。また、イングランドの中で自殺率が一位であ

るという不名誉な記録もある。

2011年以来の緊縮財政で政府のプレストン市への補助金は半分近くに減っており、市の財政は

大幅にカットせざるを得ない状態が続いている。同じような状況にいた他の地方自治体が民営

化しようとする中、プレストンは「ゲリラ・ローカリズム」ともいえる特殊な方針を打ち出し

た。

プレストン地域の民間経済はしぼんだが、市には数々の行政機関や公的機関がある。市だけで

なく、ランカシャー・カウンティーのオフィス、市内にあるハリス博物館、セントラル・ラン

カシャー大学、警察、カレッジ、住宅公団など。

プレストンの公的機関は協力して、地元企業を優先して使う方式を採用した。たとえば、ラン

カシャー州は学校給食用食料を一つの大きい契約にするのではなく、小さいものに分けた。た

とえば、ヨーグルト、卵、チーズ、牛乳といったように細かく9つの異なる契約に分け競争入札

にしたところ、地元の生産物を使う地元の会社がそれぞれの契約を獲得した。その結果、合計

で200万ポンド(約3億9600万円)のお金が地元に残ることになった。

また別の契約では、競争入札基準にコスト以外の条件、例えば品質、スキルやトレーニング、

アプレンティシップへの取り組み、地元の労働者や請負業者の採用、サプライチェーンの長さ

などを導入することにした。

ほかにも、住宅協会で管理する住宅の仕事を外注していたのを自社でやることにしたり、仕事

を発注する際、下請け企業が地元民を雇っているか、彼らにトレーニングを提供しているか、

他の地元企業と連携しているかを聞くようにした。

2013年に6つの公的機関がプレストンで使った予算は3,800万ポンド、ランカシャー州で2億9200万ポンド。2017年までにこの数字はそれぞれ1億1100万ポンド、4億8600万ポンドに増え

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た。プレストン市でいえば、2012-13年予算のうち地元の会社に落ちたのが14%だったのが、

2014-15年には28%に増え、たった2年間で2倍になった。

ほかにも、ランカシャー州の年金基金の資産はプレストンに学生用のアパートメントを建てた

り、ホテルの改修に運用されている。将来的にはランカシャーの地方銀行を設立する予定や、

市がエネルギー供給者となる希望もある。プレストンでは地元のコープも推奨しており、アー

ト・コープ、ITや食べ物に関する、新しい労働者コープを設立している。

プレストンの様々な試みは「プレストン・モデル」として他の自治体が参考にするようにまで

なっている。

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6. ニッチマーケットを対象にして訪問客をひきつける:ブラックプール

● 荒廃化が進んでいたアクセスが悪い行楽地をリバイバルする方法 ● 通常の観光アトラクションでは訪問客を呼び込めない町ならではの試み ● ニッチマーケットに着目して特化したコミュニティーを惹きつける手法 ● 他にないユニーク・ポイントでターゲットを絞ってマーケティング ● ロンドンや海外からもわざわざ足を運ぶ客を獲得した成功例

ブラックプールはイングランド北西部にある、人口約14万ほどの街。かつては人気を博した行

楽地があり、ブラックプール・タワー、社交ダンスホール、遊園地、ゲームセンター、ピア

(桟橋)などを目指してたくさんの訪問者が訪れていたイギリス屈指のシーサイドリゾート。

地域経済は観光とレジャー産業、それに付随するホテルや飲食店などのサービス業に支えられ

ていた。しかし、近年は訪問者が減り往時の活況はすっかりなりをひそめている。訪問客は

1992年に1700万人だったのが2000年には1000万人に減っている。

ブラックプールでは、かつてB&Bだった建物が家賃の安いアパートに改造され、そこに貧困層

や定職を持たない住民が入るようになっている。アルコール、ドラッグ、喫煙などの問題もあ

り平均寿命は短く、イングランドで一番健康的でない街と言う不名誉な名を持っている。

そんなブラックプールに再び観光客が訪れ、住民にとってもより住みやすい街にするためにさ

まざまな取り組みがなされている。従来のシーサイドリゾートや海外の観光地にはないブラッ

クプールならではのユニークな魅力に焦点を当てることにより、ニッチなマーケットでの集客

に成功している。

そのいい例は、かねてからさかんだったダンス・エンターテイメントの充実と国内外へのマー

ケティングだ。ブラックプールは「社交ダンスの聖地」としてダンスファンが集まるところ。

タワー・ボールルーム(舞踏場)は地元の人や滞在客のために毎日開かれるし、ダンス大会や

有名テレビ番組、映画の撮影に使われる。

ウィンターガーデンズは毎年初夏に開催される社交ダンスの国際競技大会ブラックプール・ダ

ンスフェスティバルの会場になる。この大会には世界中かダンサーだけでなく、その関係者や

ファンが詰めかけ、街は活気を取り戻す。

ほかにも、様々なフェスティバル、花火大会、エアショー、クリスマスライトスウィッチオ

ン、ロック・フェスティバルなどのイベントを行い、夏だけでなく年間を通して訪問客が訪れ

るようにしている。

また、ブラックプールは「北のゲイ・キャピタル」と呼ばれている。広くLGBTコミュニ

ティーを対象にしたお店がたくさんあり、レインボー・フラッグを掲げたB&Bが目に入る。ゲ

イ・コミュニティから得られる経済利益は大きいものだ。それに目を付けたブラックプールで

は、LGBTの人達にとって偏見がなく安全な場所であるという印象を与えることに注意をはら

い、2006年からはゲイ・プライドのお祭りも行っている。

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ブラックプールが他に注力しているのはビジネスや学術などのカンファレンス(会議)需要

だ。労働組合や、保守党大会など知名度が高い大会も毎年ここで行われている。

街の印象をよくするために、プロムナードが改修され、ブラックプール・タワーに新しく展望

台がオープンするなど、既存の観光スポットにも投資をしている。けれども、年季の入った遊

技場に古いゲームと最新の物が混じっている様子や、昔ながらの建物や看板などが立ち並ぶ街

に漂うレトロ感を気に入って訪れる人もいる。

1970年以降衰退の一途をたどっていたブラックプールだが、このような取り組みのおかげで、

最近はまた人気が盛り返してきている。2016年の旅行者は前年を上回る1800万人以上にのぼっ

ている。

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7. 人気マーケットとタウンセンターをつなげる:ベリー

● 特に特徴も魅力もない町でもすでにあるリソースを磨いてベネフィットを最大化する例 ● 町のユニークポイントであるタウン・マーケットに設備投資をして改善 ● 自治体と地元の小規模民間業者が協力してパートナーシップを育てる ● 訪問客のアクセスやユーザーエクスペリエンスを改善する方法 ● 街中の訪問ポイントをつなぎ、訪問者が徒歩でスムーズに移動できるような環境づくり

ベリーはマンチェスタ―の北12kmに位置する人口約7万8000人の街である。産業革命の頃から

綿工業で栄えたが、産業の衰退とともに数多くあった工場は閉鎖されている。今では、メトロ

リンクで約30分ほどの位置にあるマンチェスターのベッドタウンとしての役割を増してきてい

る。

ベリーはマーケットタウンとしても有名で、ベリー・マーケットは今でも街の一番の人気ポイ

ントとなっている。「世界的に有名な」と冠されるベリー・マーケットはイギリスのベスト・

マーケットに選ばれたこともあり、近隣エリアだけでなく、長距離バスでやってくる訪問客も

いるほどだ。

ベリーの街には他にも美術館や保存鉄道などの観光ポイントがあるし、映画館などを備えた

ショッピングセンターもあるが、街じたいはよくある地方の小都市で特に特徴もない。それ

で、タウンセンターを活性化するために地元の自治体が力を入れたのはベリーのユニークポイ

ントであるマーケットをより魅力的なものにすると同時に、他の訪問ポイントや駅や駐車場な

どのアクセスポイントへのリンクを改善することだった。

マーケットは、市の予算500万ポンドで改修された。魚・肉ホールを新築し、300以上の売店を

数年かけて改築・改善した。日々の営業活動になるべく影響しないように行った再開発プロ

ジェクトは市や関係者、業者一人一人の協力が必要だったが、そのかいがあってマーケットは

さらなる魅力を増した。

さらにマーケットと駅・バス停・駐車場などのアクセスポイント、また隣接するショッピング

センターや美術館、アート・センター、保存鉄道などへのリンクをスムーズにするための取り

組みを行った。メトロリンクやバスで到着し、またはリングロードの外の駐車場に車を置いた

ら、どこにでも快適に歩いて行ける街としてタウンセンターを機能させることに成功した。

2010年にはタウンセンターに新しく「ザ・ロック」ショッピングセンターがオープンした。こ

の開発のおかげでベリーへの訪問者はさらに増え、訪問客が落とす金額は2009年に2億3800万円だったものが2012年には3億200万円に増えた。

ベリーの成功は、かねてからタウンセンターを重要視するベリー市のマスタープラン、そして

自治体と街のビジネス、市民、ディヴィロパーが作り上げたパートナーシップ関係が大きな要

因となっている。

Page 17: グローバルリサーチ Gl o b a l R es ea rc h I n s t i t u t e 鍋島紀美代 · 2019. 1. 27. · 第3条 損害賠償: 甲が本契約の第2条に違反し、乙に損害が生じた場合、甲は乙に対し、違約金が発生する場合がございます

他の市では郊外型の大型ショッピングセンターが進出するのを許可したが、ベリーはタウンセ

ンターを守るためにそれを退け続けた。ベリーでは観光ポイント、美術館、図書館、市庁舎、

病院などの公的な建物、銀行や郵便局などのサービス、オフィスや職場、マーケット、既存の

ショッピングセンター、新たにできたザ・ロックもすべてタウンセンターの中にあり歩いて行

ける。公共交通機関や駐車場で街にアクセスしたあとは必要な場所に歩いて行って用を済ます

ことができるのだ。

ベリーでは快適な徒歩空間を確保するために、要所要所に屋根をつけたり、ショップモビリ

ティーというサービスで車いすやスクーターの貸し出しも提供している。

タウンセンターをコンパクトにまとめ、誰でも車なしで歩いて移動できる街にすることで、郊

外型ショッピングセンターに客を取られることなく街を活性化した例といえる。

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8. 移民の集まるコミュニティーで複数の拠点づくり:マンチェスター

● それぞれのエリアの特色を生かしたコミュニティーづくりの手法 ● 大きな都市の中や近郊に点在する移民のハブ(拠点)を支援 ● 自然に出来上がった移民街を地元民と自治体が協力して整え改善する ● チャイニーズ街やカレー・マイルなど、それぞれの特徴を生かしてユニークな地区をか

たちづくる ● 各地区の特徴を生かしたマーケティングを行い、異なる層も訪問するエリアに

マンチェスターは北部イングランドを代表する都市でその人口は49万人。産業革命で急速に成

長を遂げたマンチェスター工業や商業で富を築いたが、戦後は地域経済が衰退していった。貧

困や犯罪などの社会問題も深刻だった。しかし、1980年代頃から地方自治体が中心になって

行った都市再生政策が徐々に効果を表し、2000年頃からは地域経済も好転するようになった。

マンチェスターは産業革命で栄えたころから労働力を供給するために積極的に移民を迎え入れ

てきたが、今でも様々な国出身の外国人が多く住む。中でもインド人、中国人、黒人の増加が

目立ち、全住民における非白人の割合は20%近くに達する他民族年の色彩が濃い。

マンチェスターでは街の様々な地区に移民が集まって住んだりビジネスを始めたりするような

エリアが年月をかけて自然に出来上がっている。

チャイナ・タウン

その中でも有名なのはシティ・センターにあるチャイナ・タウンで、多くのチャイニーズレス

トランが集まっているので有名だ。中国だけでなくタイ、日本、ネパール、ベトナムなどアジ

ア諸国のレストラン、中国の食品店、パン屋、中国系の銀行、旅行会社、美容院もある。

このチャイナ・タウンをマンチェスターの自治体も歓迎し、積極的に支援を行っている。1987年にはチャイニーズ・アーチが建てられた。また、毎年2月に行われるチャイニーズ・ニューイ

ヤー・フェスティバルも市が全面的に後援し、マーケティングも行っている。そのほか、中国

系住民のための住宅支援やチャイニーズ・アート・センターを通じて芸術活動の支援も行って

いる。

カレー・マイル

マンチェスターの中心街からオックスフォード・ロードを3キロほど南へ行ったところにあるエ

リアは「カレー・マイル」というニックネームを持つ。ここはイギリスの旧植民地であるイン

ド、パキスタン、バングラデシュやスリランカなどのアジア諸国からの移民が集まっている通

りだ。おもに南アジア諸国のレストラン、テイクアウトの店が1キロ弱の長さに立ち並ぶ。この

カレー・マイルにはマンチェスターだけでなく近郊に住む人たちが「インディアン」を食べる

ために目指すため、夕方から深夜までにぎわいを見せる。

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カレー・マイルがある地区は正式にはラショルムというところで、かつては朽ちかけた建物が

目立つ衰退した地区だった。その裏には不動産価値が低いテラスハウス(長屋)が連なる通り

が広がり、貧困、犯罪、アルコールやドラッグなどの問題も多発するエリアだった。

けれども、ここがインディアンレストラン街として有名になり外からの訪問者が増え商業的に

も成功し始めるようになって街の様子は改善していった。マンチェスター市も、このエリアの

ユニークな特徴を理解し支援する政策を打ち出し、ナイトタイムエコノミーのさらなる発展を

後押ししている。

モスサイド

マンチェスター中心街から3キロ南にあるモスサイドにはカリブ海やアフリカからのブラック移

民が多い。ここはマンチェスターの中でも治安が悪いと言われるエリアだ。1980年代には暴動

が起きたこともあり、様々な問題が山積みしていたのだ。住宅街を改善するためのスラム・ク

リアランスと呼ばれる再開発政策が従来からあったコミュニティをばらばらにし、住民が郊外

に移らざるを得なくしたことが問題を深刻にした。

この反省もこめて、マンチェスター市やコミュニティ・グループを中心として、住民に寄り

添った形での地区再開発運動が行われるようになった。住民の要望を聞き、問題を解決し、共

に改善策を作り実行していくことで住民のローカル・プライドが生まれてきた。

マンチェスターの移民コミュニティ

マンチェスターにはこのほかにも移民が多く住むエリアがある。地元に定着した移民やその2世、3世の家族が長く根付いているため、それぞれのコミュニティーが確立しているようだ。

このような移民街は得てして一定のコミュニティーに属する人たちだけの閉鎖した空間になり

がちだ。マンチェスターではそういったコミュニティーのそれぞれのユニークな特性を維持し

大事にしつつ、部外者も歓迎される雰囲気づくりを作り出すのに成功している。

マンチェスターはかつての衰退都市からイングランド北部の地方都市としてはまれにみる再活

性化に成功しているが、その陰にはこうした移民コミュニティの活躍やそれを支援するマン

チェスター市の政策が功を奏していると言える。