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関連製剤︓アルブミン シリーズ ⾎漿交換療法 アフェレシスのエキスパートに聞く 第1回 ⾎漿交換の基礎と実際 小笠原クリニック (元 東京医科歯科大学医学部附属病院 血液浄化療法部 部長) 岡⼾ 丈和 先⽣ 東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター 副技師長 ⼤久保 先⽣ 1.アフェレシス療法の治療成績と実施までの流れ ― はじめに東京医科⻭科⼤学医学部附属病院 ⾎液浄化療法部/MEセンターの概要についてご紹介ください。 岡⼾先⽣︓ 当施設の⾎液浄化療法部は、現在はベッド数15床で、透析やアフェレシス療法を含む⾎液浄化療法を施⾏しており、実施件数は年 間6,000件以上、2018年には6,431件施⾏しています。 ⾎漿交換療法の治療成績は、2015年︓135件、2016年︓349件、2017年︓202件、2018年︓330件になります。 ⾎漿交換療法を施⾏する患者さんに関しては、神経内科や膠原病リウマチ内科領域が多いです。 ⼤久保先⽣︓ MEセンターは、私が⼊職した当初(2011年)、臨床⼯学技⼠が8名所属していました。現在は28名まで 増加しています。その内、⾎液浄化業務に携わる技⼠は10名ほどで、毎⽇4〜5名で⾎液浄化を担当し ています。 ― ⾎漿交換療法における他の診療科との連携についてお聞かせください。 岡⼾先⽣︓ 神経内科や膠原病リウマチ内科など診療科の先⽣から「⾎漿交換で治療をしたい」という要望があると、⾎液浄化療法部にまず⼀ 報が⼊ります。 ⽇程を組み、モダリティや置換液について「何を⽬的として施⾏するのか」という点をしっかりと主治医と相談し、効率がよく、 かつリスクの少ない⽅法を選んでいきます。 緊急性のある症例であれば、もちろん申し込み当⽇でも施⾏しますが、翌⽇でも対応可能であれば、スタッフが多くいる⽇中で⾏ います。 ― ⼿技の決定はどなたがされるのですか︖ 岡⼾先⽣︓ 医師(⾎液浄化療法部)と臨床⼯学技⼠(CE)、主治医、他の診療科の先⽣とも相談をし、⼿技の⽅ 向性を決定します。最終的にオーダーする際もCEさんと相談をして、スタートするようにしていま す。 緊急以外は週に1回、他の診療科の先⽣⽅も交えたカンファランスを⾏っており、特に緊急性のないも のについては、そのカンファランスにプレゼンテーションという形で症例を提⽰していただき要点を伺 います。 そのカンファランスには複数の医師と臨床⼯学技⼠が参加しているので、ディスカッションを⾏いなが ら⽬的を確認しつつ安全性も考慮し、モダリティの選択や頻度、置換液をどうするかをその場で決定し ています。 2019年6月掲載(審J2007233)

アフェレシスのエキスパートに聞く · 2020. 8. 20. · frozen plasma: FFP)で補充を⾏います 1)(図1)。 PEは、⾎漿内の病因物質を除去できますが、病因物質のみを選択的に除去することは不可能であり、体内に必要な⾎漿蛋⽩も同時

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Page 1: アフェレシスのエキスパートに聞く · 2020. 8. 20. · frozen plasma: FFP)で補充を⾏います 1)(図1)。 PEは、⾎漿内の病因物質を除去できますが、病因物質のみを選択的に除去することは不可能であり、体内に必要な⾎漿蛋⽩も同時

関連製剤︓アルブミン

シリーズ

⾎漿交換療法アフェレシスのエキスパートに聞く

第1回 ⾎漿交換の基礎と実際小笠原クリニック (元 東京医科歯科大学医学部附属病院 血液浄化療法部 部長)

岡⼾ 丈和 先⽣

東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター 副技師長

⼤久保 淳 先⽣

1.アフェレシス療法の治療成績と実施までの流れ

― はじめに東京医科⻭科⼤学医学部附属病院 ⾎液浄化療法部/MEセンターの概要についてご紹介ください。

岡⼾先⽣︓当施設の⾎液浄化療法部は、現在はベッド数15床で、透析やアフェレシス療法を含む⾎液浄化療法を施⾏しており、実施件数は年間6,000件以上、2018年には6,431件施⾏しています。⾎漿交換療法の治療成績は、2015年︓135件、2016年︓349件、2017年︓202件、2018年︓330件になります。⾎漿交換療法を施⾏する患者さんに関しては、神経内科や膠原病リウマチ内科領域が多いです。

⼤久保先⽣︓MEセンターは、私が⼊職した当初(2011年)、臨床⼯学技⼠が8名所属していました。現在は28名まで増加しています。その内、⾎液浄化業務に携わる技⼠は10名ほどで、毎⽇4〜5名で⾎液浄化を担当しています。

― ⾎漿交換療法における他の診療科との連携についてお聞かせください。

岡⼾先⽣︓神経内科や膠原病リウマチ内科など診療科の先⽣から「⾎漿交換で治療をしたい」という要望があると、⾎液浄化療法部にまず⼀報が⼊ります。⽇程を組み、モダリティや置換液について「何を⽬的として施⾏するのか」という点をしっかりと主治医と相談し、効率がよく、かつリスクの少ない⽅法を選んでいきます。緊急性のある症例であれば、もちろん申し込み当⽇でも施⾏しますが、翌⽇でも対応可能であれば、スタッフが多くいる⽇中で⾏います。

― ⼿技の決定はどなたがされるのですか︖

岡⼾先⽣︓医師(⾎液浄化療法部)と臨床⼯学技⼠(CE)、主治医、他の診療科の先⽣とも相談をし、⼿技の⽅向性を決定します。最終的にオーダーする際もCEさんと相談をして、スタートするようにしています。緊急以外は週に1回、他の診療科の先⽣⽅も交えたカンファランスを⾏っており、特に緊急性のないものについては、そのカンファランスにプレゼンテーションという形で症例を提⽰していただき要点を伺います。そのカンファランスには複数の医師と臨床⼯学技⼠が参加しているので、ディスカッションを⾏いながら⽬的を確認しつつ安全性も考慮し、モダリティの選択や頻度、置換液をどうするかをその場で決定しています。

2019年6月掲載(審J2007233)

Page 2: アフェレシスのエキスパートに聞く · 2020. 8. 20. · frozen plasma: FFP)で補充を⾏います 1)(図1)。 PEは、⾎漿内の病因物質を除去できますが、病因物質のみを選択的に除去することは不可能であり、体内に必要な⾎漿蛋⽩も同時

2.⾎漿交換療法の実際

― モダリティの種類と注意点について教えてください

岡⼾先⽣︓アフェレシス療法には、⾎漿交換療法、⾎漿吸着療法(plasma adsorption: PA)、⾎液吸着療法(hemo adsorption: HA)があり、⾎漿交換療法には、単純⾎漿交換療法(plasma exchange: PE)、選択的⾎漿交換療法(selective PE: SePE)、⼆重濾過⾎漿分離交換法(double filtration plasmapheresis: DFPP)があります。

1)単純⾎漿交換法(PE)PEは、⼀般的な膜型⾎漿分離器により分離された⾎漿成分を全て廃棄し、同量のアルブミン溶液または新鮮凍結⾎漿(freshfrozen plasma: FFP)で補充を⾏います1)(図1)。PEは、⾎漿内の病因物質を除去できますが、病因物質のみを選択的に除去することは不可能であり、体内に必要な⾎漿蛋⽩も同時に廃棄されてしまいます。そのため、同量の⾎液製剤もしくは⾎漿の補充が必要になります。

図1 当院におけるPEの回路例

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作図)

2)選択的⾎漿交換法(SePE)SePEは、⾎漿分離膜に選択的膜型⾎漿分離器エバキュアープラスEC-4A10(以下、EC-4A)を⽤いて⾏うPEの⼀⽅法です2)(図2)。EC-4Aの膜孔径は、⼀般的な膜型⾎漿分離器と⽐べ0.03μmと1/10程度に⼩さくなっており、免疫グロブリンG(immunoglobulin G: IgG)は50%程度通過するものの、⼤分⼦領域の凝固第13因⼦(coagulation factor 13: FXⅢ)やフィブリノゲン(fibringen: Fib)は各々17%、0%程度しか通過できません2)。SePEはIgMや免疫複合体などの⼤分⼦領域を除去できないものの、半減期が⻑く、⼀度除去すると回復に時間を要するFXⅢやFibを体内に保ちながら、IgG領域以下の病因物質を除去することが可能です。

図2 当院におけるSePEの回路例

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作図)

2019年6月掲載(審J2007233)

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3)⼆重濾過⾎漿分離交換法(DFPP)DFPPは、⼀般的な⾎漿分離器により分離された⾎漿を、⾎漿成分分離器に導き2段階的に濾過を⾏う⽅法です(図3)。⾎漿成分分離器には、膜孔径が異なる4種類のモジュールがあり、それぞれ病因物質の分⼦サイズの違いを利⽤した分離操作により対象物質を除去します。⾎漿成分分離器では、病因物質を含む中〜⼤分⼦領域の分画(グロブリンや脂質分画など)を濃縮廃棄し、濾過されたアルブミンを含む⼩分⼦領域の分画の⾎漿を体内に回収します。そのため、アルブミン製剤の使⽤量を削減することが可能です。しかしながらPEに⽐べシステムは複雑であり、サイトカインの除去もできません。また、置換液に⾎清アルブミンの3倍弱のアルブミン濃度の溶液を必要とするため、FFPでは濃度が薄いため、使⽤することは難しいです。さらに、FXⅢやFibは、ターゲットとするIgGよりもさらに10〜15%程度多く除去されるため、注意が必要です。

図3 当院におけるDFPPの回路例

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作図)

4)⾎漿吸着法(PA)PAは⾎漿分離器により分離された⾎漿を⾎漿分離器に導き、特異的かつ選択的に病因物質を除去する⽅法です。⾃⼰抗体を吸着除去する免疫吸着法(immunoadsorption plasmapheresis: IAPP)(図4)やlow density lipoprotein(LDL)コレステロールなどを吸着除去するLDL吸着が、代表的な治療⽅法です。PAは吸着除去であるため置換液を必要とせず、理論的には最もよい治療法といえます。しかしながら、本邦で使⽤できる吸着器は陰性荷電しているリガンドを⽤いて物理化学的な静電結合や疎⽔結合などを利⽤しており、10〜30%程度のIgG除去を⾏えるに過ぎません。

図4 当院におけるIAPPの回路例

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作図)

2019年6月掲載(審J2007233)

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― 置換液の選択について教えてください

岡⼾先⽣︓FFPは、アルブミンよりもアレルギー反応や感染症などのリスクが⾼いのが実際です。例えばGBS(ギラン・バレー症候群)においては、FFPとアルブミンの両者どちらを置換液として⽤いても治療効果に差は認められず、合併症の頻度がアルブミン置換で低かったという報告があります3)。また厚⽣労働省から出ている⾎液製剤の使⽤指針においても凝固因⼦の補充を必要としない治療的⾎漿交換療法の置換液としてアルブミン製剤の使⽤が強く推奨されている4)ことから(表1)、当院ではアルブミン置換を第⼀選択としています。TTP(⾎栓性⾎⼩板減少性紫斑病)や出⾎を合併している、もしくは感染を併発している症例では、置換液としてFFPを選択することが多いです。

表1 ⾎液製剤の適正使⽤

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作表)

【FFP置換の問題点】(表2) FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが含まれています。このクエン酸は⾎中のカルシウムイオン(Ca2+)とキレート結合します。この点を考慮しないで施⾏するとクエン酸が体内に⼤量に⼊り、低カルシウム⾎症を引き起こす可能性があります。

【アルブミン置換の問題点】(表2)アルブミン製剤には凝固因⼦やグロブリンが含まれないため、頻回・⼤量置換を⾏う場合は、易出⾎や易感染性に関する注意が必要です。

表2 アフェレシス療法における置換液

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作表)

2019年6月掲載(審J2007233)

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-処理量について教えてください

⼤久保先⽣︓⾎漿交換療法では1回の治療あたりの⾎漿処理量を患者の循環⾎漿量(plasma volume︓PV)を基準として計算を⾏います。置換液量の計算には、当院では下記の式を⽤いています2)。

PV(L)= 体重(kg)/13 ×(1 - ヘマトクリット(%)/100)

また、海外の総説1)では推定PV(estimated PV︓EPV)として

EPV(L)= 体重(kg)× 0.065 ×(1 -ヘマトクリット(%)/100) 

の式を⽤いて計算することが多いです。1.5EPV以上の置換液量を⽤いても除去率は著しく増加せず、治療時間の延⻑や置換液量が⼤量となりコストや副作⽤のリスクが増えることが報告されています6)。 PEの置換液のアルブミン濃度は患者の膠質浸透圧と⼀致するよう設定する必要があります。廃液中のアルブミン濃度は、治療前の⾎清アルブミン濃度と同程度であり、破棄される量を補充するという観点から、治療前⾎清アルブミン濃度と同程度のアルブミン濃度が適正な置換液濃度と考えられます。

― 施⾏間隔について教えてください ―

岡⼾先⽣︓FFP置換で施⾏する場合は連⽇でも施⾏可能ですが、アルブミン置換で頻回にPEやDFPPを施⾏する場合は、凝固因⼦の低下が問題になるため、中2⽇以上空けることが望ましく、特に3⽇以上連続の施⾏は避けたいところです。

⼤久保先⽣︓連⽇施⾏したいということであれば、SePEでは凝固因⼦が除去されないので、当施設でも3⽇連続で施⾏することがあります。しかし、通常の単純⾎漿交換での連⽇施⾏ではFFP置換を⾏わなければならないという条件があり、モダリティと置換液の選択により施⾏間隔は変わってきます。

― ⾎漿交換療法の副作⽤や合併症、およびその対処⽅法について教えてください ―

岡⼾先⽣︓⾎漿交換療法において考えられる主な副作⽤や合併症としては、⾎圧低下、出⾎傾向や凝固因⼦の低下、アレルギー、電解質や酸塩基平衡の異常、そして感染症があげられます。⾎圧低下は合併症として最も多いもののひとつです。重症患者における⼼機能低下、FFPによる希釈や置換液補充量の不⾜による⾎液量の減少、そして穿刺痛や不安などによる迷⾛神経反射や材料・抗凝固薬・置換液によるアレルギーに伴う末梢⾎管抵抗の低下など、様々な原因により起こり得ます。PAで⽤いる吸着器の多くは陰性に荷電しており、ブラジキニンの産⽣を促します。ACE阻害薬内服中の患者ではブラジキニンの代謝も阻害され、ブラジキニン蓄積による⾎圧低下などが起こり得るため、薬剤の半減期を考慮した休薬期間が必要です。

⼼機能低下や末梢⾎管抵抗低下の症例では、昇圧剤などの投与、⾎漿浸透圧の低下が予想されるときには、クリットラインなどを⽤いて⾎液量(Blood Volume︓BV)の変化をモニタリングし、アルブミンなどの補充も考慮します。急激な⾎圧低下時には、意識レベルやバイタルサインの確認、下肢挙上、原因薬剤や療法の中⽌、輸液、酸素投与などのショックと同様に対処します。アナフィラキシーショックを起こしたときは、速やかに⾎漿交換を停⽌し、アドレナリン0.3㎎の筋⾁注射を⾏います。 当施設でもアナフィラキシーショックを疑った時点で注射を打つことが周知されています。万⼀発現した場合に、パニックで早期対応が困難になることがないよう、⽇頃から周知と準備をしておかなければ、医療事故に繋がってしまう可能性があることを忘れてはなりません。

2019年6月掲載(審J2007233)

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出⾎傾向や凝固因⼦の低下は、抗凝固薬の使⽤によるもの、凝固因⼦の除去によるもの、そして原疾患に起因するものがあります。凝固薬の種類や投与量の適宜調整、Fibなどの凝固因⼦のモニタリング、⾎漿交換療法のモダリティの⾒直し、そして凝固因⼦低下時にはFFPによる補充などを⾏うことで予防することが可能です。アレルギーは、FFPに含まれる未知の物質が主な原因であり、そのほか抗凝固薬も原因となります。FFP置換では、アルブミン溶液と⽐較して、合併症の発症頻度が約2倍といわれており5)、アナフィラキシーショックを含む致命的副作⽤があります。例えば、海外の総説においてアフェレシス療法の総死亡率は0.05%と記載されていますが、その最初の項⽬として輸⾎関連急性肺障害(Transfusion-related acute lung injury︓TRALI)が記載されており1)、その致死率は13-18%と⾔われています。⽇本においてもFFP置換PEによるTRALIが報告されており、知っておくべき合併症として重要です。

電解質や酸塩基平衡の異常もFFP使⽤が主な原因です。FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが添加されており、クエン酸によって⾎中Caイオンがキレートされ、Caイオンを低下させます。さらに⼤量のクエン酸が代謝されることで重炭酸イオン(HCO3-)を⽣じ、代謝性アルカローシスも来たします。低Ca⾎症の予防⽅法としてCa製剤(グルコン酸Caなど)の持続投与がありますが、腎機能障害や重症肝不全の合併例では、Ca製剤による補正では限界があり、さらにNaやHCO3-の補正を含む体液コントロールはできないため、⾎液透析(HD)や⾎液濾過透析(HDF)の併⽤が有効です。HDやHDFとの併⽤療法には、置換液のFFPを透析(クエン酸除去や電解質補正など)してから体内へ⼊れることが可能なPEを、透析回路より上流に併⽤する直列法や直並列法が望ましいです。HDやHDFとの併⽤療法時には、低K⾎症や低P⾎症にも注意が必要です。

― アルブミン置換液の調整の実際についてお聞かせください ―

⼤久保先⽣︓当院では、アルブミン置換液を調整する場合、献⾎アルブミン製剤と乳酸リンゲル液と10%塩化ナトリウム注射液を⽤いて、⽬的のアルブミン濃度を作成します。アルブミン製剤を乳酸リンゲル液のみで希釈調整した場合、晶質浸透圧が250mOSm/L程度とやや低くなるため、乳酸リンゲル液1000mLに対して10%塩化ナトリウム注射液10%(希釈液量の1%)を添加して、浸透圧を280mOsm/L程度に調整します7, 8)。その際、置換液作成表を作成しており、患者さんの体重、ヘマトクリット、⾎清アルブミン値、除去率を⼊⼒すれば置換液量と置換液アルブミン濃度が表⽰されます。(表3、表4)

表3 PE置換液作成表

2019年6月掲載(審J2007233)

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表4 SePE置換液作成表

【⾎漿交換療法】アルブミン置換液シミュレータはこちら

(⼤久保先⽣ご提供)

2019年6月掲載(審J2007233)

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― ⾃⼰免疫疾患における治療戦略についてお聞かせください

岡⼾先⽣︓まず、⾎漿交換療法で除去すべき病因物質は何かを主治医に確認します。治療ターゲットとして⼀番多いのはIgG領域の⾃⼰抗体ですが、IgGよりも⼤きいIgM(IgGの5量体)や免疫複合体(イムノコンプレックス)などが治療ターゲットになる場合があります。例えば重症筋無⼒症で、かつ抗アセチルコリンレセプター抗体が陽性であれば、優れた吸着能を有する吸着器があるため我々は最初にIAPPを選択します。しかしながらそれ以外のIgG領域の⾃⼰抗体の場合には、SePEを推奨しています。⾎漿交換で除去される物質には凝固因⼦が含まれており、これらの凝固因⼦には⼤分⼦であるFibとFXⅢが含まれます。これらの半減期は⻑く、⼀度、⾎漿交換療法で除去すると⻑時間回復しません。そして、⼤量に除去されてしまうと出⾎の合併症などを引き起こす可能性があります。特にFXⅢに関しては合併症の報告が数多く上がっており、注意が必要です。SePEであればFibやFXIIIを保持しながらIgGの除去が可能であり、より安全かつ効果のある治療を⾏いたいという観点から、当施設ではSePEを数多く施⾏しています。

しかし、病因となる⾃⼰抗体が不明である場合やIgMや免疫複合体などの⼤分⼦領域が治療ターゲットとなる場合には、最初にPEを⾏います。なお、IgMや免疫複合体は、⾎管内に多く存在し、⼀度除去すると⻑期間治療効果が続くこと、そしてFibやFXⅢのように産⽣に時間の掛かる凝固因⼦のことも考慮して、間隔を開けながらPEを施⾏します。しかし、どうしても間隔を詰めて治療を⾏う必要がある場合は、最初にPEを施⾏し、2回⽬からはSePEを⾏うというコンビネーション治療を⾏えば、⽐較的安全かつ効率よく治療を⾏うことが可能です。(図5)重要な点は、⼀つのモダリティに捉われるのではなく、臨機応変に他のモダリティを組み合わせて施⾏することです。モダリティでも置換液に関しても、どれも⼀⻑⼀短があります。私たちはこれらを組み合わせて施⾏することで少しでもリスクを減らそうと考えています。

図5 当院における⾃⼰免疫疾患に対するアフェレシス療法戦略

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作図)

3.医療コストについて

― ⾎漿交換療法に係る医療コストについて教えてください

岡⼾先⽣︓FFPは⾮常に⾼価であり、取り扱いや保存⽅法など、注意が必要な点も多いです。貴重な⾎漿でもありますので、コスト意識を持ちながらできる限り使⽤を減らしていきたいと考えています。(表5)IAPPが可能な疾患であれば、それが第⼀選択になる可能性があります。そうでなければ、アルブミン置換を第⼀選択として考えています。

2019年6月掲載(審J2007233)

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「⾎漿交換はとりあえずFFP」と考えておられる先⽣もいらっしゃられるかと思います。例えばTTPのような疾患で、連⽇FFPを使って治療しなければ死亡の可能性がある場合は、我々も連⽇FFP置換によるPEを⾏います。しかしFFPにはアナフィラキシーショックを含めたリスクがあり、さらにそれを確実に予測し予防する⽅法はありません。アルブミン置換で施⾏中に凝固因⼦の減少を認めた場合、アルブミンとFFP両⽅の置換液を使⽤することも可能です。

⼤久保先⽣︓従来は⾎漿交換と⾔うとFFP置換というイメージでした。しかし現在では、できるだけアルブミン置換を⾏います。例えばSePEではFFP480ml製剤を加えるとか、単純⾎漿交換であればアルブミンとFFPのハーフ&ハーフで⾏い、本当に不⾜したときだけFFPを補充するという考え⽅に変化してきていると思います。

岡⼾先⽣︓置換液も⼀つにこだわらないようにしています。⼤切なことは原理を学び、それを活かすということです。

⼤久保先⽣︓患者さんは⽇々フェーズが変化しています。その中で、「このフェーズではこの置換液が必要」という考え⽅が必要であると思います。⼀度決めたらそれを貫くという考え⽅には少し懸念が残ります。

表5 アフェレシス療法とお⾦

平成30年度薬価改定にともなう薬価

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作表)

4.専⾨医と臨床⼯学技⼠へのメッセージ

― 最後に⾎漿交換療法に携わる先⽣⽅、臨床⼯学技⼠の⽅へメッセージをお願いします

岡⼾先⽣︓アフェレシス療法を含めた全ての⾎液浄化療法は、病因物質の除去と不⾜物質の補充を⽬的とした対処療法といえます。疾患の病勢コントロールのためには、病因物質の産⽣を抑えるほかの治療法(例︓⾃⼰免疫疾患に対する免疫抑制療法)との併⽤療法が基本となります。そのため原疾患の病態や病因物質の動態はもちろんのこと、各アフェレシス療法や各置換液などの⻑所と短所を⼗分に理解することが必要です。例えば⾃⼰免疫疾患に対する⾎漿交換療法においては、出⾎や感染を合併していなければ、様々な点を考慮して置換液にはまずアルブミンを選択することが望ましいと考えます。頻回のアルブミン置換での治療は、出⾎傾向を助⻑しやすいため治療間隔を空けるか、SePEを選択します。特にSePEは、アルブミン置換でも3⽇連続施⾏などの積極的治療が可能です。⾎漿交換におけるアルブミン置換は、医療経済的にも効率が良い治療であり、FFP使⽤時の副作⽤を軽減することが可能です(表6)。

2019年6月掲載(審J2007233)

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表6 各種アフェレシス療法の⽐較(私⾒)

(岡⼾先⽣・⼤久保先⽣作表)

⼤久保先⽣︓技⼠の⽴場からは、先述のように患者さんのフェーズを⾒ながら、⼀つの治療法、⼀つの置換液に捉われず、そのフェーズに合った治療を提供することが⼤切であると考えています。患者さんの動き、状態を把握した上で、先⽣⽅とディスカッションを⾏い、治療を提供していくことが、我々の⼒を最⼤に発揮する⽅法であると考えます。

※本⽂内に記載の薬剤をご使⽤の際には、製品添付⽂書をご参照ください。

(参考⽂献)

1) Kaplan AA:Am J Kindney Dis 52:1180-1196,2008

2) Ohkubo A,Okado T:Transfus Apher Sci 56:657-660,2017

3) Ann Neurol,22(6),753-761,1987

4) 「⾎液製剤の使⽤指針, Ⅵアルブミン製剤の適正使⽤」厚⽣労働省・⽣活衛⽣局(平成31年3⽉)

5) Mokrzycki M.H:Journal of clinical apheresis,26,243-248,2011

6) Ward D.M.: Journal of clinical apheresis,26,230-238,2011

7) ⼤久保淳:⽇本⾎液浄化技術会誌,20,108-110,2012

8) Miyamoto S et al.:Therapeutic Apheresis and Dialysis,22(3),255-260,2018

2019年6月掲載(審J2007233)

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