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マラリア再考(再興)
-環境との関わり、日本への影響-
環境健康研究領域
総合影響評価研究室
小野 雅司
(人口千人あたり)
主要な死亡原因
1.栄養不良2.下痢性疾患3.感染症
マラリア結核エイズ
-2003年・男- (WHO)
平均寿命
5歳未満の死亡率
なぜ、今マラリアに注目するのか?
1.現在の流行状況が深刻である
2.改善の兆しがみられない
3.地球温暖化により流行地域が拡大する
恐れがある
4.日本にとっても対岸の火事では済まない
特に高い
高い
中等度
低度
非流行地
マラリア流行状況
1.現在の流行状況が深刻である
●流行地域に属する国:107ヶ国
●流行地域に住む人々:32億人
●毎年の感染者数:3億人~5億人
●毎年の死亡者数:150万人~270万人
世界のマラリア流行状況 -2003年-(WHO)
マラリアとはどんな病気か?
●病原体:マラリア原虫。熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、
四日熱マラリア、卵型マラリアの4種がある。
●感染方法:ハマダラカ属の蚊が媒介。雌の吸血(患者の
血) によって、人から人へ移る。日本では、コガタハマダラカ、
シナハマダラカの2種がマラリアを媒介する。
●症状:高熱、貧血、浮腫→重症の場合死に至る。
●流行地域:熱帯~亜熱帯。一部、温帯地域。
●免疫が出来にくい。ワクチンの開発が困難。
依然として、蚊帳が最も有効な防御方法
コガタハマダラカの成虫
(八重山保健所:マラリア媒介蚊調査事業報告書より転載)
マラリアはどのようにしてヒトからヒトへ移るのか?
吸血
ヒト(マラリア患者)
マラリア原虫
ヒト(健康)
吸血蚊
マラリア原虫
蚊
マラリア原虫
分裂・増殖
(10日~)
吸血
マラリア原虫
2月の平均気温
特に高い
高い
中等度
低度
非流行地
マラリア流行状況
アジアのマラリア流行状況 -2003年-(WHO)
なぜ、今マラリアに注目するのか?
1.現在の流行状況が深刻である
2.改善の兆しがみられない
●一国だけの取り組みでは限界がある
(国際協力が必要)
●薬剤耐性マラリアの拡大
●ワクチン開発の挫折・免疫が出来にくい
3.地球温暖化により流行地域拡大の恐れ
4.日本にとっても対岸の火事では済まない
中国雲南省とその周辺国のマラリア流行状況(1996-1998年)
[Mekong malaria, Southeast Asian J. Trop. Med. (1999) ]
ミャンマー
中国・雲南省
ヴェトナム
ラオス
■1996■1997■1998
報告患者総数46,000
■■ マラリア流行地域
▲ クロロキン耐性
● スルファドキシン・ピリメタミン耐性
★ メフロキン耐性
○ 非流行地域
※殺虫剤耐性の蚊の出現
※環境問題としての殺虫剤(DDT、etc.)
薬剤耐性マラリアの拡大(WHO)
なぜ、今マラリアに注目するのか?
1.現在の流行状況が深刻である
2.改善の兆しがみられない
3.地球温暖化により流行地域拡大の恐れ
●現在、熱帯・亜熱帯に限られている流行地域が、日本など
温帯地域にまで拡大するとの予測がある
4.日本にとっても対岸の火事では済まない
地球温暖化に伴う動物媒介性感染症の将来予測
感染症 罹患率(百万人)地球温暖化による
分布の変化
マラリア 3~5億人 +++
住血吸虫症 2億人 ++
リンパ性フィラリア 1.2億人 +
アフリカトリパノソーマ 25~30万人 +
メジナ虫症 10万人 ?
リーシュマニア 50万人 +
オンコセルカ 1,800万人 ++
アメリカトリパノソーマ 2,000万人 +
デング熱 5,000万人 ++
黄熱 5,000人以下 ++
WHO: Potential health effects of climate change (1990) +++:著しく確度が高い
++:確度が比較的高い
+:確度あり
?:不明
地球温暖化による熱帯熱マラリア流行潜在リスク(Martens et al., 1999)
年間流行状況■ 12ヶ月
■ 7-11ヶ月
■ 4-6ヶ月
■ 1-3ヶ月
■ 非流行地域
現在気候(1961-90)におけるマラリアの年間流行月数
HadCM2モデルによる2080年のマラリアの年間流行月数
温暖化による
マラリア流行地域の拡大
1.非流行地域から流行地域へ
2.季節的な流行から年間を通しての流行へ
3.少数の患者から大量発生へ
Yunnan雲南省
Hainan海南省
Guangdong広東省
Guangxi広西自治区
中国におけるマラリア疫学調査地域
0
100
200
300
10 15 20 25 30
熱帯熱マラリア
那覇
名瀬
鹿児島東京
石垣人
口10
万人
当た
り患
者数
年平均気温(℃)
中国南部における気温とマラリア流行の関係(1984~1993年, 76地区)
0
20
40
60
80
100
120
0
150
300
450
600
750
900
1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993
■ 熱帯熱マラリア患者数
- 月平均気温
- 月間降雨量
平均
気温
(℃
)、マラリア患
者数
(人
)
月間
降雨
量(m
m)
中国南部1流行地区における月別気温とマラリア患者数 の変動(1984~1993年)
なぜ温暖化すると
流行地域が拡大するのか?
●マラリア媒介蚊の生息に適した地域が拡大する
●マラリア媒介蚊の成長速度が速くなる・寿命が
延びる
●マラリア原虫の成長速度が速くなる
主要媒介蚊の分布
■ コガタハマダラカ
■ シナハマダラカ
(World Malaria Report 2005)
琉球列島におけるハマダラカ族蚊の地理的分布(宮城より)
コガタハマダラカ
シナハマダラカ
0
100
200
300
400
500
22℃ 25℃ 28℃ 31℃ 34℃ 36℃
半数蛹化時間
飼育温度によるコガタハマダラカ生育速度の変化
0
100
200
300
400
500
22℃ 25℃ 28℃ 31℃ 34℃ 36℃
半数羽化時間
(蛹化) (羽化)
0
10
20
30
40
50
コガタハマダラカ An. Dirus
生存日数(日)
22℃25℃28℃31℃34℃36℃
マラリア媒介蚊の生存日数
0
5
10
15
20
25
30
35
40
15 20 25 30 35
温度(℃)
発育
日数
(日
)
三日熱マラリア
熱帯熱マラリア
マラリア原虫の世代交代時間 (Macdonaldより)
なぜ、今マラリアに注目するのか?
1.現在の流行状況が深刻である
2.改善の兆しがみられない
3.地球温暖化により流行地域拡大の恐れ
4.日本にとっても対岸の火事では済まない
●海外旅行者の増加に伴って、海外でのマラリア感染が
増加する
●海外の流行地域からマラリア患者流入増加の危険性
温暖化に伴うマラリアの流行拡大と日本への侵入リスク
海外旅行者の増加
温暖化による媒介蚊生息域の拡大、
生存期間の延長、成長速度の加速
海外でのマラリア感染
媒介蚊分布域の拡大
感染者の日本への流入
マラリア病原体の日本への持ち込み
国内での二次感染マラリアの定着・流行の拡大
温暖化による
マラリア流行地域の拡大
出入国者数と流入マラリア患者数の年次推移
0
500
1,000
1,500
2,000
1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005
出入
国者
数(万
人)
0
50
100
150
200
マラリア患
者数
(人
)
マラリア患者数
日本人出国者数
外国人入国者数
0 20 40 60 80 100
1999-2004
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
マラリア患者数(人)
アジア
ヨーロッパ
アメリカ
オセアニア
アフリカ
不明
マラリア患者数の年次推移(罹患場所別)
渡航先別 日本人出国者数(H12)
8,481,472
2,374,845
106,470
5,519,652
68,420
1,267,492
アジア
ヨーロッパ
アフリカ
北米
南米
オセアニア
不詳
(まとめ)
今後、
日本のやるべきこと
私たちが心掛けること
1.マラリア対策・国際協力
国際寄生虫対策(「橋本イニシアティブ」)98年のバーミンガム・サミットにおいて、橋本総理(当時)は、
国際寄生虫対策を効果的に進めるために、アジア(タイ)とア
フリカ(ケニア及びガーナ)に「人造り」と「研究活動」のための
拠点をつくり、WHO及びG8諸国とも協力して、このような拠点
を中心とした国際的ネットワークを構築し、寄生虫対策の人材
育成と情報交換の推進していくべきことを提案。
その他
●製薬会社による殺虫剤塗布蚊帳の途上国への提供
2.海外からの流入患者の確実な把握と迅速な治療
空港検疫
全国の国際空港、国際港湾で各種感染症のチェックが行われてい
ますが、マラリアは潜伏期間が比較的長いため、検疫で発見 さ
れるケースはまれです。
患者の届出(感染症発生動向調査)
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平
成11年4月1日施行)により、マラリアは第四類感染症として、届出
が義務づけられています。 → 100%届け出られているか?
患者の発見、治療
国内で流行が見られなくなって久しいことから、マラリア感染を見
つけ、迅速・的確な治療の出来る医療体制の再確立が必要。
薬剤耐性マラリアに対する治療方法の確立が緊急。
3.国内におけるマラリア媒介蚊のモニタリング
空港検疫
いくつかの国際空港、国際港湾では、施設周辺で媒介蚊を含
む、海外から持ち込まれた生物の調査を行っていますが、十分
とは言えない。
大学・研究機関、自治体等による媒介蚊モニタリング
研究者によるマラリアやデング熱など感染症媒介蚊の実態調
査も行われていますが、極めて少数の地域に限られています。
自治体(保健所、保健センター)による媒介蚊の実態調査は
ほとんど行われていない。
→ モニタリング体制の早急な樹立が必要
→ 殺虫剤の使用をどうするのか?
(まとめ)
今後、私たちが心掛けること
1.海外へ出かける時
→ 海外安全情報(外務省、感染症情報センター、他)
治安情報だけでなく、感染症情報についても注意を
夜間の外出・防虫剤の使用
2.感染が疑われる時
→ 海外渡航歴の重要性・正確な診断
3.恐れず、しかし、十分な備えを
→ 薬剤耐性マラリア、自然環境保全との関係
かつての経験が活かせるか?
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
1922 1925 1928 1931 1934 1937 1940 1943
患者
数(人
)
0
5
10
15
20
25
30
死亡
者数
(人
)
0
5,000
10,000
15,000
20,000
1944 1947 1950 1953 1956 1959 1962
患者
数(人
)
0
1,000
2,000
3,000
4,000
死亡
者数
(人
)
患者数
死亡者数
八重山地域におけるマラリア患者数の推移(八重山保健所)