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2013年5月 01 はじめに 02 日本市場の将来性 04 日本の資産運用機関の課題 06 マインドセットの変化 08 今後に向けて アウトソーシングの トレンド:日本のケース スタディ 日本における金融サービスのアウトソーシング市場は急 速に進化している。日本の資産運用機関は、金融機関が バックオフィスとミドルオフィスのアウトソーシングを推 進し、グローバルのベスト・プラクティスに即したコスト 管理とビジネスの拡大を図るという動きを受け容れ始めて いる。日本のアウトソーシング市場は、比較的初期段階に あるものの、世界的な経済不振に直面しながらも競争力を 維持するべく、業務をアウトソーシングすることについて のこれまでの抵抗感を克服しつつある。このアウトソーシ ングに対する新たな潮流は、資産運用機関のインフラへの 継続的な投資の削減並びに新規ビジネスの拡大に必要な規 模の投資を可能とすることから、経営の柔軟性の向上に繋 がる。アウトソーシングは、日本の資産運用機関に中枢業 務に注力し自社のパフォーマンスの強化をサポートする。 アウトソーシングは、日本市場における資産運用機関の成 長促進のために、ますます重要な役割を果たす段階に入っ たと言えよう。

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2013年5月

01 はじめに

02 日本市場の将来性

04 日本の資産運用機関の課題

06 マインドセットの変化

08 今後に向けて

アウトソーシングの トレンド:日本のケース スタディ

日本における金融サービスのアウトソーシング市場は急速に進化している。日本の資産運用機関は、金融機関が バックオフィスとミドルオフィスのアウトソーシングを推進し、グローバルのベスト・プラクティスに即したコスト管理とビジネスの拡大を図るという動きを受け容れ始めている。日本のアウトソーシング市場は、比較的初期段階にあるものの、世界的な経済不振に直面しながらも競争力を維持するべく、業務をアウトソーシングすることについてのこれまでの抵抗感を克服しつつある。このアウトソーシングに対する新たな潮流は、資産運用機関のインフラへの継続的な投資の削減並びに新規ビジネスの拡大に必要な規模の投資を可能とすることから、経営の柔軟性の向上に繋がる。アウトソーシングは、日本の資産運用機関に中枢業務に注力し自社のパフォーマンスの強化をサポートする。アウトソーシングは、日本市場における資産運用機関の成長促進のために、ますます重要な役割を果たす段階に入ったと言えよう。

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ステート・ストリートについて

ステート・ストリートは、2012年12月31日現在、カストディ・管理資産24.4兆ドル、 運用資産2.1兆ドル*を有する、機関投資家を対象とした世界有数の金融機関です。ステート・ストリートの広範な一体化したサービスは、投資のあらゆる過程を網羅するもので、その中にはリサーチ、運用、トレーディング・サービス、資産管理業務などが含まれます。ステート・ストリートは、世界29ヵ国、100を超える市場で業務を展開し、お客様の成功に必要なツールとサービスを提供します。こうしたサービスを組み合わせてご利用いただくことによって、ステート・ストリートのお客様が将来への不安を克服し、成長機会を捉え、一層価値を高める一助となることを目指しています。

*本運用資産額には、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの関係会社であるステート・ストリート・ グローバル・マーケッツ・エルエルシーが販売代理会社として提供するSPDR Gold Trustの資産(2012年12月31日現在約722億ドル)を含みます。

ステート・ストリートの「Vision」シリーズは、世界中のお客様を対象に、 当社独自のリサーチ、見解、意見を抜粋して出版物としてお届けしています。

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アウトソーシングのトレンド:日本のケーススタディ • 1

日本のアウトソーシング市場は、国内指向のサービスからグローバルのベスト・プラ

クティスに、より近いものへと進化している。市場は、世界的な経済的課題に直面しな

がらも競争力を維持するべく、バックオフィス機能とミドルオフィス機能のアウトソーシ

ングについてのこれまでの抵抗感を克服しつつある。このアウトソーシングに対する新

しい潮流は、インフラへの継続的な投資の削減、ビジネスの拡大に必要な規模の投資

を可能とすることから、資産運用機関の経営の柔軟性の向上に繋がる。同時に、国内

の資産運用機関は、アウトソーシングを通じてパフォーマンスの強化といった恩恵を

受けることが可能となる。アウトソーシングは、日本市場においてますます重要な役割

を果たす段階に入ったと言え、それがグローバルにビジネスを展開するアウトソーシン

グ機関に大幅な成長機会をもたらしている。

はじめに

日本のアウトソーシング市場は、アジア太平洋地域の他市場と同様、発展の比較的初期の段階にある。日系大手金融機関グループに属する資産運用機関と外資系資産運用機関の日本現地法人は共に従来から、バックオフィス機能とミドルオフィス機能のアウトソーシングに抵抗を示してきた。しかし、このマインドセットは、昨今、企業が競争面と費用面からの圧力に直面する環境下で、サービス・プロバイダーが提供するサービス内容により満足するようになるになっていることで、運用機関の考えも一様に変化しつつある。このような事象は、日本国内だけでなく、中国のように日本と類似した背景を持つ市場も少なくないために、アジア太平洋地域全体に共通するトレンドとなる可能性が高い。

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2 • VISION FOCUS

日本の資産運用業界は、その規模と将来性にもかかわらず、2008年以降の全体的な成長率という点では横ばいで、市場は、やや停滞状態にあると言える。しかしながら長期的見通しは上向きである。日本は、アジア・太平洋地域の中でもずば抜けて 高い運用資産額を有している(日本を除くアジア 全体とオーストラリアを合わせたものと同等の規模)。2012年の残高は日本は推定4.2兆ドルに達すると言われ、これに対し日本を除くアジア全体は2.1兆ドル、オーストラリアは1.5兆ドルであった。(図表1を参照)。日本市場の運用資産額は2016年までに 5兆ドルに成長すると推定されている1。

日本国内の資産運用業界は、投資信託ファンド (以下、投信ファンド)(他市場におけるミュー チュアル・ファンドに相当するユニット型投資信託)におおむね集中している。多くの外資系資産運用機関は、当初は日本国内において年金基金の海外投資のサポートに注力していたが、過去10年間においては投信市場への参入を果たしている。つまり、成長面におけるバランスが、年金市場から投信市場に移行してきていると言える。

日本市場の将来性

1 チェルーリ定量アップデート:2012年グローバル市場(2012年6月)。

図表1:アジア太平洋:資産運用業界の市場別運用資産額

2007 2008 2009 2010 2011 2012E 2013E 2014E 2015E 2016E 4.6 4.1 4.2 4.2 4.1 4.2 4.4 4.5 4.7 5.0 1.7 1.4 2.0 2.1 2.1 2.3 2.6 2.9 3.3 3.7 1.5 1.2 1.5 1.5 1.5 1.6 1.7 1.8 2.0 2.2

5

4

3

2

1

0 2007年 2008年 2009年 2011年 2012年 (予測)

2013年(予測)

2014年 (予測)

2015年 (予測)

2016年 (予測)

2010年

A 日本B アジア(除く日本)C オーストラリア

Chart Styles: Bar Graph Without Data Label

単位:兆米ドル

出典:チェルーリ定量アップデート:2012年グローバル市場(2012年6月)

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アアウトソーシングのトレンド:日本のケーススタディ • 3

2 『日本の資産運用ビジネス2011~2012年』野村総合研究所(2011年12月)。3 ステート・ストリート・ジャパン・クライアント・インタビュー(2012年11月)。4 『欧米運用機関のミドルオフィス業務の変化とBPOサービス活用の拡大』 野村総合研究所(2010年1月)。5 ステート・ストリート・ジャパンによるクライアント・インタビュー(2012年11月)。

グローバルにビジネスを展開する大手外資系運用機関の多くが日本に進出済みではあるが、これらの日本現地法人は、日本市場における支配的存在である日系の大手金融グループ4、5社が所有する資産運用機関に比べると、比較的小規模に留まっている。グローバルなビジネス・モデルの傾向にある外資系運用機関は、一般的に日本をほかの地域とは異なる特殊な地域とみなし、その一方で、国内の運用機関は、従前より海外でのビジネスが限定的か、または皆無かのいずれかであった。

アウトソーシング業務の成長

こうした日本の状況は、外資系運用機関の日本市場へのさらなるコミットメントと相まって変化している。また、野村総合研究所(以下、野村総研)の最近のレポートによると、日系金融機関も、成長の活路として海外に目を向け始めている。すでに海外拠点を構える運用機関の多くは、要員増加を計画している。野村総研によれば、特に大手日系運用機関にとっては、新規顧客を海外に求めることはもはや不可避なトレンドとなっている2。日系・外資系を問わず、ビジネス拡大を実現するうえで、アウトソーシングは、日本でより重要な役割を果たし始めている。ある市場関係者は、「海外投資の量的拡大と分散化に伴う運用業務を背景にしたアウトソーシングが顕著になっている」と指摘している3。

日本市場の特異な点は、日系の運用機関が従来から基準価額算出業務を行い、バックオフィス関連業務のアウトソーシングをまだ活用しきれていないことである4。しかし、グローバルにビジネスを展開するアウトソーシング企業は、国内運用機関が、サービスの質の向上が可能であり、かつ国内の規制要件が満たされる点を条件として、従来社内で行ってきた業務を委託するように変化していることを認めている。

さらに、言語の制約や運用業務経験の欠如など、従前より認識されていた障壁は、システム開発ならびに経験豊富なスタッフで構成され十分に訓練されたチームによって克服されてきている。

ステート・ストリートのインタビューを受けた顧客の一社は、「バックオフィス機能のアウトソーシングにより、コストの削減と季節要因による負担の緩和が実現された」、と指摘している。「これらのサービスは、当社の日本現地法人の業務モデルを根本的に覆した」とある顧客は述べている5。

競争の激化は、日系運用機関に対しても、グローバルのベスト・プラクティスへの歩み寄りを促し、アウトソーシング市場を更に活性化させている。

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日本の資産運用業界は、運用機関が中核業務である「運用」にさらに注力し競争力を維持するため、アウトソーシングを一つのソリューションとして考慮せざるを得ない状況に直面している。課題の多くは、アジア太平洋地域における他の市場のみならず世界中の資産運用業界にも共通するものである。

日本の国内経済は、1990年代から2000年代初頭を通じて景気後退の瀬戸際を推移した後、2005年頃 に一旦は回復の兆しを見せたものの、その後再び、景気後退局面に逆戻りした。その間、人口の高齢化の結果として年金支給額は増大し、年金基金の資産の取り崩しが続いている。その圧力は、2008年の世界金融危機とそれに続く世界経済の混乱によってさらに悪化する結果となった。こうした課題が、日本国内で業務を行う運用機関に対し、業務効率の改善の必要性を痛感させ、その為の一つのソリューションとして、アウトソーシングをより受け入れ易くしたのである。

現在の日系金融グループの多くは、1990年代の業界統合を通じて誕生した。これらの金融グループに属する資産運用機関の業務には、効率化の余地が残されていると言われている。運用機関を複数抱えている日系の金融グループのなかには、お互いが独立して営業しているケースさえ見受けられる。それらの金融グループや運用機関が、いよいよ第三者へのアウトソーシングを有効なソリューションとして認識するようになってきている。

さらに、規制環境の変化も、新たな要件を増やし運用機関にアウトソーシングの検討を促し、国内のアウトソーシング市場に影響を与えている。しかしながら、アウトソーシングに関する規制は一般的にはその記述が曖昧であり、より明確な定義を要すると一部には認識されている。これが理由で一部の資

産運用機関がアウトソーシングを躊躇することにもなっている。

さらに2012年、日本市場は、比較的小規模の運用機関である AIJ 投資顧問株式会社が運用パフォーマンスの不振を隠蔽し、オフショアの機関を通じて虚偽の報告を行っていたというスキャンダルに見舞われた。その後、金融庁の調査の結果、運用機関265社のうち、決算に社外監査法人を用いているのが半数未満であることが明らかとなり、より厳重な規制を検討することとなった6。より厳重な規制とは、国内の運用機関ならびにアウトソーシング・プロバイ ダーに更なる義務が課されることを意味し、した がってアウトソーシング・プロバイダーの選択がますます重要なものとなってきている。

規制環境

前述のとおり、日本におけるアウトソーシング・ サービスの将来性に影響を与える最も重要な要因 の一つは、国内の規制環境である。2000年代初期、金融機関によるアウトソーシングは金融庁により厳重にチェックされ、その結果、文書化、適切な監督、あるいはデュー・ディリジェンスの不足を理由に度重なる行政処分が下された。その後2000年代半ばまでに、アウトソーシングを取り巻く一般的な原則および慣行が確立され、金融庁は2007年に、「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」に預金等受入金融機関に関するアウトソーシング要件を組み入れた。

一方で、アウトソーシングされた業務の責任は運用機関自身に留まると一般的に理解されているものの、アウトソーシングを検討する運用機関にとって、アウトソーシング対象業務、及びそのデュー・ディリジェンスについてどの程度の監督が必要とさ

4 • VISION FOCUS

日本の資産運用業界の課題

6 「Shades of Madoff in pension fund scandal」Nikkei Weekly(日経ウィークリー)(2012年3月26日);「Law enforcers urged to probe misappropriation of AIJ’s pension funds」毎日新聞英語版(2012年6月20日)。

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7 UCITS Notices:「Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities authorized under European Communities (Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities) Regulations 2011」(2011年12月)。

8 APRA「Draft Prudential Practice Guide - SPG 231 – Outsourcing」(2012年12月)。

れるかが、重要な懸念事項となっている。これを理由に、アウトソーシングに馴染みのない一部の運用機関は、バックオフィスとミドルオフィス業務のアウトソーシングを有効ではないと判断してきている。また、アウトソーシングの発展を足踏みさせたと考えられる別の要因は、2008年から2009年の世界金融危機の前には、バックオフィスとミドルオフ ィスの業務分野においてフルサービスを提供するア ウトソーシング企業が日本国内にまったく不在で あったことでもある。過去数年間にわたる世界的な運用機関のビジネスの長期不振に至るまで、海外の競合相手がアウトソーシングの概念を進んで受け容れていたにもかかわらず、国内の運用機関は、現状を維持し、アウトソーシングを率先して行ってこな かった。

金融庁の検査マニュアルの要件は、基本的に海外の主要市場の要件に類似している。そこではアウトソーシングが容認され、かつ規制されたビジネス慣行として、特定の規制と法的枠組みにより管理されている。例えば、アイルランドの集団投資 スキーム(CIS)の譲渡可能証券の集団投資スキー ム(UCITS)に関する規制では、アウトソーシングに伴うリスクを適切に管理する最終責任は、管理会社の経営陣が負うものとなっており、また、アウトソーシングの結果として経営陣の責任を、他へ委譲してはならないと規定されている。企業のリスク戦略、リスク方針の設定、その結果としてリスク許容能力の設定などの根本的な経営機能、ならびに顧客およびアイルランド中央銀行に対する最終責任は、アウトソーシングされてはならない、と規定されている7。

もう一つの例は、オーストラリア健全性規制庁(APRA)である。同庁は、アウトソーシングに関係する老齢者年金または年金基金のサービス・プロバイダーを対象に、アウトソーシングに関する健全性の基準および実務指針案を発表している。アウト ソーシングされる業務には、管理業務、保管業務、運用機能、事業継続計画に関する取決め、ファイナンシャル・プランナーやファンド・プロモーターとのマーケティングおよびその取決め、内部監査機能などが包含されている。同基準は、数多くある考慮すべき点の中でもとりわけ、サービス・プロバイ ダーのリソース、事業継続に関する取決め、および監督の適切性を考慮することを求めている8。

現在、業務のアウトソーシングをより容易なものとすべく日本の規制の見直しが協議されている。業界関係者の一部は、運用機関によるアウトソーシングについて許容される業務の範囲の明確化を要望している。その一方で、金融審議会の投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ(以下、投信ワーキンググループ)での協議において、金融庁は、投信会社によるアウトソーシングは現行の規制の下で許容されることを明確にして いる。

投 信 ワ ー キ ン グ グ ル ー プ は 、 金 融 商 品 取 引 法 (以下、金商法)と投資信託及び投資法人に関する法律(以下、投資信託法)は共に、投信会社が第三者に委託できる運用業務の範囲が規定されている、と指摘している。ところが、投信ワーキンググループは、金商法の下では委託会社による運用業務以外の活動の第三者へのアウトソーシングに関する規制は存在していないことも認めている。したがって、一部の業界関係者は投信会社が当該業務をアウト ソーシングすることが可能であるか否かは依然として不明であると主張している。金融庁によれば、金商法または投資信託法の下に特に規制が存在していないという事実は、投信会社は当該業務のアウト ソーシングが可能であるということを意味している。投信ワーキンググループは、運用以外の業務のアウトソーシングが認められていることを明確にするよう要請している。

それでも日系ならびに外資系の運用機関は、過去10年以上にわたり基準価額の算出など、限られた管理業務のアウトソーシングを委託してきたが、最近になって特に国内でビジネスを展開している外資系運用機関において極めて幅広いアウトソーシングの利用が見受けられるようになってきている。

アウトソーシングのトレンド:日本のケーススタディ • 5

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アウトソーシング・サービス会社は、アウトソースの結果、エンド・ツー・エンドのコントロールの欠如を招き、市場での評判にダメージを与えるという懸念から来る、バックおよびミドルオフィス業務の社内保持という定着した慣習等、日本市場特有の複数の課題に取り組まなければならなかった。

ところが今日では、運用機関側の考え方に変化が見え始めている。昨今の世界的な経済問題へ対応するため、国内の運用機関はアウトソーシングをより柔軟に受け入れるようになっている。一部の運用機関は、引き続き厳しい市場環境の中で前向きに将来を見据え、不況が長引いた場合に自社のビジネスを支えるための一つのソリューションとしてとして、アウトソーシングを検討している。こうした運用機関は、バックオフィスとミドルオフィスの質の向上および統合化に要する大量の人員や多額のシステム投資の代替案を模索している。

更なる統合と規模の拡大を通じて、現在の厳しい市況に対応しようとしている日系大手運用機関は、複数のバックオフィスとミドルオフィスの統合作業に関わる様々な困難とコストに直面している。さらに、多くの日系の独立系運用機関も、競争力を維持するためにはシステムおよび人員への高額投資が必要であると考えているが、現在の環境において投入金額に見合う最大の価値を引き出せるのか疑問を抱いている。前述のとおり、日系の運用機関は海外にビジネス拡大の機会を追求しており、その目的を達成するために、アウトソーシング・プロバイダーの規模および現地における知識からメリットを得ることが可能と考えている。

アウトソーシングは、コスト削減を必ずしも一夜にして実現するわけではないものの、システムおよび人員への継続投資の必要性を排除することが可能となり、その結果長期的に多大な恩恵をもたらすことができる。

変化をサポートする国際企業業界がアウトソーシングの潮流に向かう背景と、

アウトソーシングの検討を促す圧力は、日系大手金融グループに属する運用機関か、外資系運用機関かに関わらず、共通のものである。しかし、アウト ソーシングの成長は、当初、国内外にビジネスを展開する運用機関からもたらされた。厳しい経済状況の中、国内でビジネスを継続するためには、更なるスケールメリットへの圧力を最初に感じ取ったのが、これら運用機関だった。

さらに、これらの会社は、すでに海外市場においてアウトソーシングがもたらす業務効率の向上を経験している。その経験が、国内の運用機関によるアプローチの変化を促すうえでも功を奏している。

市場環境がいかに反応しているかを表す一例として、アウトソーシング・サービス・プロバイダーが、基準価額の算出等のバックオフィス業務に対するニーズを満たし、参入を果たした事が挙げられる。これらのニーズは、従来、日本の信託銀行、またはデータ入力サービスを提供していた一部の国内リサーチ/IT企業により、満たされていた。グローバルにビジネスを展開するアウトソーシング・サービス・プロバイダーは、当初は日本の年金基金を対象に信託受託サービスを提供していたが、次第に投信の基準価額算出や様々なオペレーション、レポーティング関連業務のアウトソーシングの分野に進出し、ビジネス展開をしている。

サービス・プロバイダーは今では、各種報告書やガバナンスに関するパッケージ、さらには日中、日次、月次、および四半期ベースの委託業務の管理報告書を提供するに至っている。また一部の分野においては、従来から市場で利用されてきたサービスを改善し、提供することも可能となっている。日系の大手運用機関は、市場が過去5年間で変容したことを踏まえ、彼らの競合相手である外資系運用機関の一部がバックオフィスとミドルオフィスの業務をアウトソーシングしていることを意識している。

6 • VISION FOCUS

マインドセットの変化

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9 ステート・ストリート・ジャパン・クライアント・インタビュー(2012年11月)。10 『日本のアセット・マネジメント事業2011~2012年』野村総合研究所(2011年12月)。11 ステート・ストリート・ジャパン・クライアント・インタビュー(2012年11月)。12 『日本のアセット・マネジメント事業2011~2012年』野村総合研究所(2011年12月)。

国 内 で ス テ ー ト ・ ス ト リ ー ト の イ ン タ ビ ュ ー を受けた顧客の一社は、外資系アウトソーシング・サービス・プロバイダーの参入は市場に「多大な影響」を与えている、と言及している。日系の運用機関は、「外資系アウトソーシング・サービス・プロバイダーのサービスおよびプロダクトは日本の金融機関、特に運用機関にとって、アウトソーシングに関わるハードルを大幅に引き下げた」と言及して いる。

運用機関は、アウトソーシング・サービス・プロバイダーが、業務効率の大幅改善をより現実的なものにできると認めている。さらに彼らは、日系のアウトソーシング・サービス・プロバイダーもサービス提供範囲を拡張するなど、この分野の競争が激化しつつある、と指摘している。インタビューに回答した一社は、外資系のサービス・プロバイダーは日系のプロバイダーに比べて、よりソリューション志向が強く、そのことが市場に影響を与えている、 と指摘している9。

アウトソーシングのメリット

日系運用機関は、目下の課題に対して3つの選択肢に直面していると考えている。

• 急速な改善または成長の兆しが見えない国内市場においてシェア獲得を目指し続けること。

• 業務効率化の手段を見出し、中枢業務である運用へ改めて注力を図ること。

• 市場および資産クラスを分散化すること。

これらの選択肢はそれぞれ、アウトソーシングによって得られるメリットについて検討するうえで動機づけになりうる。全体のコストを見直すことは、大きな要因の一つである。人件費は、特に従来の終身雇用制度に伴い従業員数が過多となっている環境で、日系運用機関にとって重要な課題となっている。人件費は日系運用機関にとっての最大の経費であり、人件費の抑制は経営陣にとって一大テーマとなっている10。

バックオフィスおよびミドルオフィス機能のアウトソーシングが増加する中で、アウトソーシングは、運用業務に人員を集約し、より効果的な人材活用の機会を生み出している。「これらの機能のアウトソーシングによって、相対的コストの削減、固定費用から変動費用への部分的転換の実現、ならびに人員および システムの変更による業務の質の低下といった影響の排除が可能となる」と、ある運用機関は言及してい る11。最近のある調査において、日系の運用機関は、海外事業部門を除く組織全体で従業員数の減少を予測している12。

したがって、最近の市場における課題から、日系の運用機関は、日本における業務において、バックオフィスとミドルオフィスの両サービスを提供するアウトソーシング・サービス・プロバイダーとますます接触を持つ傾向にある。

業務のアウトソースについて、先鞭を付けたのは外資系運用機関に限られたわけではなく、日系の企業においても早期導入を果した企業も存在する。例えば、日興アセットマネジメント株式会社は、かつてはシティグループに属し、現在は三井住友トラスト・グループに属する国内大手運用機関だが、同社は大規模なアウトソースを選択した先駆者の一社である。

一部の日系運用機関は現在、バックオフィスとミドルオフィスの機能を管理することができ、かつ、人員を中枢業務である運用に注力するべくサービス・プロバイダーを求めている。さらに、日系の運用機関は、新規ビジネスを求めて海外にますます目を向ける中、機会を捉えて海外進出を実現するうえでメリットをもたらしてくれるグローバルなビジネス規模や各国市場における専門知識を備えている サービス・プロバイダーを必要としている。

アウトソーシングのトレンド:日本のケーススタディ • 7

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13 ステート・ストリート・ジャパン・クライアント・インタビュー((2012年11月)。14 『欧米運用機関のミドルオフィス業務の変化とBPOサービス活用の拡大』野村総合研究所(2010年1月)。

8 • VISION FOCUS

日系の資産運用機関は業界における昨今の変化の背景の一つとして、多様化する顧客ニーズおよびスキーム向けにカスタマイズされたオペーレーションによる競争の激化について言及している。また、報告義務や情報開示がいっそう重要となってきていることから、より柔軟性のあるサービス提供が可能な体制の必要性についても指摘している13。

その反面、アウトソーシング・サービス・プロバイダーにとっては、日本の顧客に、対応能力の幅、柔軟性、グローバルなベスト・プラクティスを提供するのみでは十分とはいかなく、正確性、適時性、および品質性に係る国内独自の市場基準を満たすことが重要である。ステート・ストリートでは、十分なアカウンタビリティ、そして顧客に信頼感をもたらすことができる本邦信託銀行として、アウト ソーシング・ビジネスを営んでいる。日本の信託銀行は顧客保護を基盤とした厳格な規制環境の下、業務を行っており、ステート・ストリートは、信託銀行の形態をとることにより、運用機関にさらなるリスクの軽減を図ったサービスの提供を目指したのである。

アウトソーシング・サービスの利用を開始した日系の運用機関は、その利点を数多く報告しており、そのなかには、固定費用の削減、スピードと正確性の向上、システム基盤の継続更新の必要性の削減、人員の中枢部門へのシフトと運用業務への投入、市場の動向に即したビジネスの拡縮に関する柔軟性向上等が含まれている。

日本の資産運用業界は、アウトソーシングのさらなる普及を通じて、運用資産の効率性と競争力を高めるためのグローバルなベスト・プラクティスの活用が可能となる。また、このことは、日系企業の内外における競争力を高めることにつながる。ここでのきわめて重要なポイントは、サービス・パート ナーの選定である。

日本のアウトソーシング市場は、特定の認可を必要とせず、組織形態に係わらずサービスを提供することが可能であり、参入にあたり、障壁がほとんどない。基本的にデータ・サービス、投資リサーチ、およびITサービスを専門としている日系企業の多くは、自社のシステムを普及させるための手段として、限定的な事務プロセスのアウトソーシング・ サービスを提供しており、部分的なソリューションを提供するに留まっている。

資産運用業界は、継続的な多額の投資を必要としている。このため、一部の日系運用機関は、アウトソーシング・サービス・プロバイダーの最適かつ最新のインフラを利用することにより、人材を有効活用し、中枢業務に注力するほうが、有効であるとの見解に至っている14。

今後に向けて

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アウトソーシングのトレンド:日本のケーススタディ • 9

日本のアウトソーシング市場は、国内指向のサービスからグローバルなベスト・プラクティスをより取り入れたものへと進化しており、このトレンドは今後も継続すると予想される。このアウトソーシングに対する新しい動きは、成長を支えるために必要な規模を確保しつつ、不況が長期化した際の固定費用の下振れリスクを回避することにより、柔軟性を高める機会をもたらす。

日系の運用機関は、インフラへの継続投資の削減、新商品開発のための人的資源の確保、および海外市場に進出することにより、成長を促進することができる。アウトソーシングは、運用機関に、よりいっそう複雑化する運用管理、パフォーマンスおよびエクスポージャー管理の強化を可能にする。アウトソーシングは、強い将来性を有する日本の資産運用業界において、ますます重要な役割を果たす段階に入ったと言えよう。

バ ッ ク オ フ ィ ス と ミ ド ル オ フ ィ ス の 機 能 の ア ウ ト ソ ー ス を 検 討 す る 運 用 機 関 は 、 サービス・プロバイダーが以下に対応しているか確認することが重要である。

• 正確性、効率性、および規制の変更や新商品の開発への迅速な対応などを含む、業務資質の高さ。

• モニタリング、監督、およびリスク管理に関する強固な手続き。

• 過去の実績、財務力、実体のあるグローバル・リソース、および顧客重視のパートナーシップ・モデル、適合したカルチャー、優れた業界知識に基づく長期的なリレーションシップ構築へのコミットメント。

• 競争力のある価格設定されたソリューションを特徴とした透明性のあるコスト構造により、コスト予測を容易にし、グローバルのスケールメリットの活用することにより実現できるコスト・メリット。

• 運用機関が競争力のある価格で利用できる、複数システムを用いた業務経験と、拡張性と柔軟性がありリスク感応度の高いプラットフォームにシステム投資を行うコミットメント。

• 幅広い顧客基盤を通じて実証されたテクノロジー、ベスト・プラクティス、および専門知識へのアクセス。

• 先行的でコスト効率の高い問題解決力、明確なアカウンタビリティ、および顧客ニーズを重視した顧客担当チーム。

• 複数の営業所とバーチャル・デスクトップ・インフラを活用した徹底した災害時復旧シ ステム。

アウトソーシング・サービスのベスト・プラクティス

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