10
107 Abstract: It is well known that TiO2 with anatase-type crystal structure has photocatalytic property. In this study, Al-TiO2 functionally graded materials (FGMs) have been fabricated by centrifugal mixed-powder method using vacuum centrifugal casting machine. In these Al-TiO2 FGMs, anatase- type TiO2 particles are embedded into Al matrix and these particles are gradually distributed around the outer part of the FGMs ring. Because of this, it can be expected that these FGMs rings have photocatalytic property on its surface, and that its property would be kept for long time using. Therefore, the centrifugal mixed-powder method is useful for the fabrication of photocatalytic FGMs. 1.はじめに 近年,公衆で用いられる多くの工業用部材には抗菌機能が付与されている場合がある。この抗菌 作用は,金属中への銀の添加や部材表面へのニ酸化チタン(TiO2)の分散によって発現させる場合 が多い[1-5]。その中でも,最近ではTiO2 による光触媒作用を用いた抗菌技術が注目されている。 光触媒とは,光を吸収してエネルギーの高い状態となり,そのエネルギーを反応物質に与えて化学 反応を生じさせることである[3]。このような光触媒作用を有する物質には,TiO2 の他に酸化亜鉛 などが存在する。それらの物質の中でもTiO2 は人体に無害かつ安価であるため,近年最も多く利 遠心力混合粉末法による 環境浄化型光触媒傾斜機能材料の創製 佐藤 尚 (名古屋工業大学) Fabrication of photocatalytic functionally graded materials for environmental cleanup by centrifugal mixed-powder method Hisashi Sato (Nagoya Institute of Technology) 〈一般研究課題〉 遠心力混合粉末法による環境浄化型光触媒傾斜機能 材料の創製 助成研究者 名古屋工業大学  佐藤 尚

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- -107

Abstract:

It is well known that TiO2 with anatase-type crystal structure has photocatalytic property. In

this study, Al-TiO2 functionally graded materials (FGMs) have been fabricated by centrifugal

mixed-powder method using vacuum centrifugal casting machine. In these Al-TiO2 FGMs, anatase-

type TiO2 particles are embedded into Al matrix and these particles are gradually distributed

around the outer part of the FGMs ring. Because of this, it can be expected that these FGMs rings

have photocatalytic property on its surface, and that its property would be kept for long time using.

Therefore, the centrifugal mixed-powder method is useful for the fabrication of photocatalytic

FGMs.

1.はじめに

近年,公衆で用いられる多くの工業用部材には抗菌機能が付与されている場合がある。この抗菌

作用は,金属中への銀の添加や部材表面へのニ酸化チタン(TiO2)の分散によって発現させる場合

が多い[1-5]。その中でも,最近ではTiO2による光触媒作用を用いた抗菌技術が注目されている。

光触媒とは,光を吸収してエネルギーの高い状態となり,そのエネルギーを反応物質に与えて化学

反応を生じさせることである[3]。このような光触媒作用を有する物質には,TiO2の他に酸化亜鉛

などが存在する。それらの物質の中でもTiO2は人体に無害かつ安価であるため,近年最も多く利

遠心力混合粉末法による環境浄化型光触媒傾斜機能材料の創製

佐藤 尚(名古屋工業大学)

Fabrication of photocatalytic functionally graded materials for environmental cleanup by centrifugal mixed-powder method

Hisashi Sato(Nagoya Institute of Technology)

〈一般研究課題〉 遠心力混合粉末法による環境浄化型光触媒傾斜機能

材料の創製

助 成 研 究 者 名古屋工業大学  佐藤 尚

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- -108

用されている光触媒物質である。また,

それらの技術を駆使して開発された製品

の市場規模は,年々拡大しており,数年

後に数兆円規模になると予測されている。

環境省が発表した2020年の環境ビジネス

市場規模は58兆円であり,その中でも光

触媒ビジネス市場は3兆9000億円と報告

されている。それゆえ,光触媒ビジネス

は,燃料電池自動車(2兆2000億円)や都

市緑化ビジネス(1兆6000億円)を凌ぐ環境ビジネスとして期待されている。

これまで,TiO2による光触媒作用は,建築用部材などの表面にTiO2をコーティングすることで

利用されていた [1-3, 5]。これは,光触媒作用を発現させるために紫外線と大気中の水分が必要で

あるためである。しかしながら,表面コーティングによってTiO2粒子を部材表面に固定した場合,

このTiO2を有する表面コーティング層は,長期間の使用に伴って部材表面から剥離してしまう問

題がある [3]。これは,TiO2コーティング層と部材との間に明確な界面が存在するためである。そ

のため,TiO2の光触媒技術に存在する大きな課題の一つはTiO2の固定化であるといわれている [3]。

このようなコーティング層の界面剥離を解決する手段の一つとして傾斜機能材料(FGMs)という

材料概念が提案されている [6]。このFGMsは,物質Aから物質Bへ組成や機械的性質などを,位置

の変化に伴って連続的に変化させる材料概念である。図1(a)および(b)は,それぞれコーティング

材料と傾斜機能材料を模式的に描いた図である。図1 (a)に示すコーティング材料は物質Aおよび

物質Bとの間に明確な界面が存在するが,図1(b)のFGMsではコーティング材料のような明確な界

面が存在しない。そのため,FGMsでは界面剥離が生じにくい。このようなFGMsの製造技術の一

つとして遠心鋳造を利用した遠心力法が提案されている [6]。遠心力法とは,硬質粒子を有する金

属溶湯を遠心力が印加された金型に流し込み,その硬質粒子と金属溶湯の密度差に起因した遠心力

の差を利用することで,硬質粒子を遠心力方向に沿って傾斜分散させる技術である。このとき,遠

心力法における金属溶湯中の硬質粒子移動速度は,硬質粒子を球状と仮定した場合,次の式に示す

ストークスの定理で表すことができる [6, 7]。

                . (1)

ここで,dx/dtは硬質粒子の移動速度,ρmおよびρpはそれぞれ溶湯および硬質粒子の密度,Gは

重力倍数,gは重力加速度,ηは溶湯の見かけの粘度,Dpは硬質粒子の直径である。式(1)より,遠

心力法における硬質粒子の移動速度は,硬質粒子と溶湯の密度差のみでなく,硬質粒子の直径にも

大きく依存している。たとえば,硬質粒子と溶湯の密度差が大きくても,硬質粒子の寸法が小さい

場合,硬質粒子の傾斜分散は困難である。そのため,光触媒作用を有するTiO2粒子は,一般的に

平均粒子直径が200nm程度であるため,遠心力法による傾斜分散が困難であるといえる。

そこで,著者らは,母材との濡れ性が悪く微細な硬質粒子を傾斜分散させる技術として遠心力混

合粉末法を提案している [7]。遠心力混合粉末法による微粒子の傾斜分散方法は次の通りである。

まず,微粒子である硬質粒子と母材金属粉末からなる混合粉末を遠心力の印加が可能な金型に投入

れてきた [1-3, 5].これは,光触媒作用を

発現するために紫外線と大気中の水分

が必要であるためである.しかしながら,

表面コーティングによってTiO2粒子を

部材表面に固定した場合,このTiO2を有

する表面コーティング層は,長期間の使

用に伴って部材表面から剥離してしま

う問題がある [3].これは,TiO2コーテ

ィング層と部材との間に明確な界面が

存在するためである.そのため,TiO2の

光触媒技術に存在する大きな課題の一つはTiO2の固定化となっている [3].

このようなコーティング層の界面剥離を解決する手段の一つとして傾斜機能材料(FGMs)という材料概

念が提案されている [6].このFGMsは,物質Aから物質Bへ組成や機械的性質などを,位置の変化に

伴って連続的に変化させる材料概念である.図 1 (a)および(b)は,それぞれコーティング材料と傾斜機能

材料を模式的に描いた図である.図 1 (a)に示すコーティング材料は物質Aおよび物質Bとの間に明確な

界面が存在するが,図 1(b)のFGMsではコーティング材料のような明確な界面が存在しない.そのため,

FGMsでは界面剥離が生じにくい.このようなFGMsの製造技術の一つとして遠心鋳造を利用した遠心

力法が提案されている [6].遠心力法とは,硬質粒子を有する金属溶湯を遠心力が印加された金型に流し

込み,その硬質粒子と金属溶湯の密度差に起因した遠心力の差を利用することで,硬質粒子を遠心力方

向に沿って傾斜分散させる技術である.このとき,遠心力法における金属溶湯中の硬質粒子移動速度は,

硬質粒子を球状と仮定した場合,次の式に示すストークスの定理で表すことができる [6, 7].

, (1)

ここで,dx/dtは硬質粒子の移動速度,mおよびpはそれぞれ溶湯および硬質粒子の密度,Gは重力倍数,

gは重力加速度,は溶湯の見かけの粘度,Dpは硬質粒子の直径である.式(1)より,遠心力法における硬

質粒子の移動速度は,硬質粒子と溶湯の密度差のみでなく,硬質粒子の直径にも大きく依存している.

たとえば,硬質粒子と溶湯の密度差が大きくても,硬質粒子の寸法が小さい場合,硬質粒子の傾斜分散

は困難である.そのため,光触媒作用を有するTiO2粒子は,一般的に平均粒子直径が約200nm程度であ

るため,遠心力法による傾斜分散が困難であるといえる.

そこで,著者らは,母材との濡れ性が悪く微細な硬質粒子を傾斜分散させる技術として遠心力混合粉

末法を提案している [7].遠心力混合粉末法による微粒子の傾斜分散方法は次の通りである.まず,微粒

子である硬質粒子と母材金属粉末からなる混合粉末を遠心力の印加が可能な金型に投入する(図 2 (a)).そ

の後,混合粉末を有する金型に遠心力を印加し,溶解炉にて溶解した母材金属溶湯を金型内部に流し込

む(図 2 (b)).この時,母材溶湯は混合粉末中に含浸すると同時に混合粉末中の母材粉末を溶解する.その

結果,溶湯が凝固した後,微細な硬質粒子は母材中に埋め込まれるように分散する(図 2 (c)).それゆえ,

この遠心力混合粉末法を用いれば,金属母材中への微細なTiO2粒子の傾斜分散が可能である.これまで,

図 1 (a)コーティング材および(b)傾斜機能材料の模式図.

物質A物質B

(a)

物質A物質B

(b)

れてきた [1-3, 5].これは,光触媒作用を

発現するために紫外線と大気中の水分

が必要であるためである.しかしながら,

表面コーティングによってTiO2粒子を

部材表面に固定した場合,このTiO2を有

する表面コーティング層は,長期間の使

用に伴って部材表面から剥離してしま

う問題がある [3].これは,TiO2コーテ

ィング層と部材との間に明確な界面が

存在するためである.そのため,TiO2の

光触媒技術に存在する大きな課題の一つはTiO2の固定化となっている [3].

このようなコーティング層の界面剥離を解決する手段の一つとして傾斜機能材料(FGMs)という材料概

念が提案されている [6].このFGMsは,物質Aから物質Bへ組成や機械的性質などを,位置の変化に

伴って連続的に変化させる材料概念である.図 1 (a)および(b)は,それぞれコーティング材料と傾斜機能

材料を模式的に描いた図である.図 1 (a)に示すコーティング材料は物質Aおよび物質Bとの間に明確な

界面が存在するが,図 1(b)のFGMsではコーティング材料のような明確な界面が存在しない.そのため,

FGMsでは界面剥離が生じにくい.このようなFGMsの製造技術の一つとして遠心鋳造を利用した遠心

力法が提案されている [6].遠心力法とは,硬質粒子を有する金属溶湯を遠心力が印加された金型に流し

込み,その硬質粒子と金属溶湯の密度差に起因した遠心力の差を利用することで,硬質粒子を遠心力方

向に沿って傾斜分散させる技術である.このとき,遠心力法における金属溶湯中の硬質粒子移動速度は,

硬質粒子を球状と仮定した場合,次の式に示すストークスの定理で表すことができる [6, 7].

, (1)

ここで,dx/dtは硬質粒子の移動速度,mおよびpはそれぞれ溶湯および硬質粒子の密度,Gは重力倍数,

gは重力加速度,は溶湯の見かけの粘度,Dpは硬質粒子の直径である.式(1)より,遠心力法における硬

質粒子の移動速度は,硬質粒子と溶湯の密度差のみでなく,硬質粒子の直径にも大きく依存している.

たとえば,硬質粒子と溶湯の密度差が大きくても,硬質粒子の寸法が小さい場合,硬質粒子の傾斜分散

は困難である.そのため,光触媒作用を有するTiO2粒子は,一般的に平均粒子直径が約200nm程度であ

るため,遠心力法による傾斜分散が困難であるといえる.

そこで,著者らは,母材との濡れ性が悪く微細な硬質粒子を傾斜分散させる技術として遠心力混合粉

末法を提案している [7].遠心力混合粉末法による微粒子の傾斜分散方法は次の通りである.まず,微粒

子である硬質粒子と母材金属粉末からなる混合粉末を遠心力の印加が可能な金型に投入する(図 2 (a)).そ

の後,混合粉末を有する金型に遠心力を印加し,溶解炉にて溶解した母材金属溶湯を金型内部に流し込

む(図 2 (b)).この時,母材溶湯は混合粉末中に含浸すると同時に混合粉末中の母材粉末を溶解する.その

結果,溶湯が凝固した後,微細な硬質粒子は母材中に埋め込まれるように分散する(図 2 (c)).それゆえ,

この遠心力混合粉末法を用いれば,金属母材中への微細なTiO2粒子の傾斜分散が可能である.これまで,

図 1 (a)コーティング材および(b)傾斜機能材料の模式図.

物質A物質B

(a)

物質A物質B

(b)

図1 (a)コーティング材および(b)傾斜機能材料の模式図

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する(図2(a))。その後,混合粉末を有する金型に遠心力を印加し,溶解炉にて溶解した母材金属

溶湯を金型内部に流し込む(図2(b))。この時,母材溶湯は混合粉末中に含浸すると同時に混合粉

末中の母材粉末を溶解する。その結果,溶湯が凝固した後,微細な硬質粒子は母材中に埋め込まれ

るように分散する(図2(c))。それゆえ,この遠心力混合粉末法を用いれば,金属母材中への微細

なTiO2粒子の傾斜分散が可能である。これまで,著者らは遠心力混合粉末法にてAl-TiO2 FGMsを

作製した[7]。しかし,大気中で高温にて鋳造を行ったため,TiO2粒子の結晶構造は,光触媒作用

の強いアナターゼ型から光触媒作用の低いルチル型に変化してしまっていた[7]。そのため,真空

中で適切な鋳造温度にて鋳造を行えば,光触媒性能を有するアナターゼ型TiO2粒子が分散したAl-

TiO2 FGMsの製造を期待することができる。

本研究では,真空遠心鋳造装置を用いた遠心力混合粉末法にて,円筒形状鋳造材の外周面にアナ

ターゼ型TiO2粒子が分散したAl-TiO2 FGMsの開発を行った。本研究で開発するAl-TiO2 FGMsは,

コーティング材料のような明確な界面を持たないため,従来材に比べて耐久性に優れることを期待

できる。そこで,本研究では,遠心力混合粉末法にてAl-TiO2 FGMsを作製し,その微細組織およ

び機械的性質を評価した。

2.実験方法

2. 1 Al-TiO2FGMsの作製

純Al粉末(平均粒径:106~180µm)およびア

ナターゼ型TiO2粉末(平均一次粒径:347nm)を

プラスチック容器に投入し,それを振ることに

よってAlとTiO2の混合粉末を作製した。このと

き,作製した混合粉末は,Al-5vol.%TiO2およ

びAl-10vol.%TiO2の2種類である。その後,作

製した混合粉末を図3に示す真空遠心鋳造装置

の金型に投入し,遠心力を印加した。このと

き,金型に投入した混合粉末量は,鋳造にて作

製される円筒形状試料の外周面から厚さ1mmの領域にTiO2粒子が分散するように調整されている。

この混合粉末を金型に投入後, 金型加熱炉,湯口炉および溶解炉を加熱し,純Alインゴットを溶解

炉にて溶解した。純Alインゴットが溶解した後,金型の回転数を既定の回転数まで上昇し,純Al

溶湯を回転中の金型内部に流し込んだ。表1に混合粉末の混合条件および鋳造条件を示す。さら

図2 遠心力混合粉末法のプロセスを示す模式図

著者らは遠心力混合粉末法にてAl-TiO2 FGMsを作製した[7].しかし,大気中で高温にて鋳造を行ったた

め,TiO2粒子の結晶構造が光触媒作用の強いアナターゼ型から光触媒作用の低いルチル型への相変態が

生じてしまっている[7].そのため,真空中で適切な鋳造温度にて鋳造を行えば,光触媒性能を有するア

ナターゼ型TiO2粒子が分散したAl-TiO2 FGMsの製造を期待することができる.

本研究では,真空遠心鋳造装置を用いた遠心力混合粉末法にて,円筒形状鋳造材の外周面にアナター

ゼ型TiO2粒子が分散したAl-TiO2 FGMsの開発を行った.本研究で開発するAl-TiO2 FGMsは,コーティ

ング材料のような明確な界面を持たないため,従来材に比べて耐久性に優れることを期待できる.そこ

で,本研究では,遠心力混合粉末法にてAl-TiO2 FGMsを作製し,その微細組織および機械的性質を評価

した.

2. 実験方法

2. 1 Al-TiO2FGMsの作製

純Al粉末(平均粒径:106~180m)および

アナターゼ型TiO2粉末(平均一次粒径:347nm)

をプラスチック容器に投入し,それを振ること

によってAlとTiO2の混合粉末を作製した.こ

のとき,作製した混合粉末は,Al-5vol.%TiO2お

よびAl-10vol.%TiO2の 2種類である.その後,

作製した混合粉末を図 3に示す真空遠心鋳造装

置の金型に投入し,遠心力を印加した.このと

き,金型に投入した混合粉末量は,鋳造にて作

製される円筒形状試料の外周面から厚さ 1mm

の領域にTiO2粒子が分散するように調整されている.この混合粉末を金型に投入後, 金型加熱炉,湯口

炉および溶解炉を加熱し,純Alインゴットを溶解炉にて溶解した.純Alインゴットが溶解した後,金

型の回転数を既定の回転数まで上昇し,純Al溶湯を回転中の金型内部に流し込んだ.表1に混合粉末の

混合条件および鋳造条件を示す.さらに,本研究では,比較材として純Alの遠心鋳造材も作製した.以

降,Al-5vol.%TiO2混合粉末およびAl-10vol.%TiO2混合粉末を用いて作製したFGMsを,それぞれ

図 2 遠心力混合粉末法のプロセスを示す模式図.

(a)

混合粉末

金型 金型

湯道

微粒子 母材

(b) (c)母材溶湯

図 3 真空遠心鋳造装置の模式図. 図3 真空遠心鋳造装置の模式図

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に,本研究では,比較材として純Alの遠心鋳造材も作製した。以降,Al-5vol.%TiO2混合粉末およ

びAl-10vol.%TiO2混合粉末を用いて作製したFGMsを,それぞれAl-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-

10vol.%TiO2 FGMsと呼ぶ。

2. 2 Al-TiO2 FGMsの組織評価

前項2. 1にて作製したAl-TiO2 FGMsの組織を観察する

ため試験片を切り出し,図4に示すように円筒形状試料に

おける外周部表面および外周部近傍断面を組織観察に供

した。また,組織観察は走査型電子顕微鏡(SEM)を用い

て行った。同時に,観察面におけるTiO2粒子分布を調査

するために,エネルギー分散型X線分析装置(EDX)にて組

成分析も行った。

TiO2の結晶構造には,ルチル型,アナターゼ型およびブルカイト型が存在する。その中でも,

光触媒作用が最も効果的に生じる結晶構造はアナターゼ型である。そのため,本研究で作製する

Al-TiO2 FGMsには,アナターゼ型のTiO2粒子を分散させなければならない。しかしながら,アナ

ターゼ型TiO2は準安定であるため,鋳造時の熱にてルチル型への相変態が生じる可能性がある。

そこで,本研究では,X線回折法(XRD)にてAl-TiO2 FGMsに分散したTiO2の結晶構造を調査した。

2. 3 Al-TiO2 FGMsの機械的性質の評価

遠心力混合粉末法にて作製した円筒形状試料におけるAl母相の硬さ分布をマイクロビッカース

硬さ試験機にて測定した。この硬さ試験における荷重および保持時間は,それぞれ0.49Nおよび

15sとした。また,この硬さ試験により,試料内周部から外周部に向けた硬さ分布を評価した。

さらに,本研究では,作製した円筒形状Al-TiO2 FGMsの外周面における耐摩耗性を評価するた

め,ブロックオンディスク式摩擦摩耗試験機にて摩擦摩耗試験を行った。この摩擦摩耗試験で用い

た相手材はS45Cである。また,摩擦摩耗試験は,すべり距離500m,すべり速度0.5m/sおよび初

期応力0.49MPa~0.98MPaにて行った。

3.結果および考察

3. 1 Al-TiO2 FGMsの微細組織

図5は,Al-TiO2 FGMsおよび比較材である純Al鋳造材の外観写真である。本研究で作製したAl-

TiO2 FGMsの外周面は白色を有しており,TiO2粒子が鋳造材の外周部にて分散していることが分

Al-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsと呼ぶ.

2. 2 Al-TiO2 FGMsの組織評価

前項2. 1にて作製したAl-TiO2 FGMsの組織を観察す

るため試験片を切り出し,図4に示すように円筒形状

試料における外周部表面および外周部近傍断面を組織

観察に供した.また,組織観察は走査型電子顕微鏡

(SEM)を用いて行った.同時に,観察面におけるTiO2

粒子分布を調査するために,エネルギー分散型X線分

析装置(EDX)にて組成分析も行った.

TiO2の結晶構造には,ルチル型,アナターゼ型およびブルカイト型が存在する.その中でも,光触媒

作用が最も効果的に生じる結晶構造はアナターゼ型である.そのため,本研究で作製するAl-TiO2 FGMs

には,アナターゼ型のTiO2粒子を分散させなければならない.しかしながら,アナターゼ型TiO2は準安

定であるため,鋳造時の熱にてルチル型への相変態が生じる可能性がある.そこで,本研究では,X線

回折法(XRD)にてAl-TiO2 FGMsに分散したTiO2の結晶構造を調査した.

2. 3 Al-TiO2 FGMsの機械的性質の評価

遠心力混合粉末法にて作製した円筒形状試料におけるAl母相の硬さ分布をマイクロビッカース硬さ試

験機にて測定した.この硬さ試験における荷重および保持時間は,それぞれ 0.49Nおよび 15sとした.ま

た,この硬さ試験により,試料内周部から外周部に向けて遠心力方向に沿って硬さ分布を測定した.

さらに,本研究では,作製した円筒形状Al-TiO2 FGMsの外周面における耐摩耗性を評価するため,ブ

ロックオンディスク式摩擦摩耗試験機にて摩擦摩耗試験を行った.この摩擦摩耗試験で用いた相手材は

S45Cである.また,摩擦摩耗試験は,すべり距離 500m,すべり速度 0.5m/sおよび初期応力 0.49MPa~

0.98MPaにて行った.

3. 結果および考察

3. 1 Al-TiO2 FGMsの微細組織

図 5 は,Al-TiO2 FGMs および比較材である純 Al 遠心鋳造材の外観写真である.本研究で作製した

表 1 Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における鋳造条件.

試料名 混合粉末 Alインゴット

溶解量 遠心力

Alインゴット

溶解温度 金型加熱温度

Al TiO2

Al-5vol.%TiO2 31.83 g 2.41 g 263 g

1119 G 800℃ 650℃ Al-10vol.%TiO2 30.15 g 4.84 g 263 g

純Al 33.51 g - 263 g

図 4 Al-TiO2 FGMsにおける組織観察箇所.

外周部表面組織観察

断面組織観察

表1 Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における鋳造条件

Al-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsと呼ぶ.

2. 2 Al-TiO2 FGMsの組織評価

前項2. 1にて作製したAl-TiO2 FGMsの組織を観察す

るため試験片を切り出し,図4に示すように円筒形状

試料における外周部表面および外周部近傍断面を組織

観察に供した.また,組織観察は走査型電子顕微鏡

(SEM)を用いて行った.同時に,観察面におけるTiO2

粒子分布を調査するために,エネルギー分散型X線分

析装置(EDX)にて組成分析も行った.

TiO2の結晶構造には,ルチル型,アナターゼ型およびブルカイト型が存在する.その中でも,光触媒

作用が最も効果的に生じる結晶構造はアナターゼ型である.そのため,本研究で作製するAl-TiO2 FGMs

には,アナターゼ型のTiO2粒子を分散させなければならない.しかしながら,アナターゼ型TiO2は準安

定であるため,鋳造時の熱にてルチル型への相変態が生じる可能性がある.そこで,本研究では,X線

回折法(XRD)にてAl-TiO2 FGMsに分散したTiO2の結晶構造を調査した.

2. 3 Al-TiO2 FGMsの機械的性質の評価

遠心力混合粉末法にて作製した円筒形状試料におけるAl母相の硬さ分布をマイクロビッカース硬さ試

験機にて測定した.この硬さ試験における荷重および保持時間は,それぞれ 0.49Nおよび 15sとした.ま

た,この硬さ試験により,試料内周部から外周部に向けて遠心力方向に沿って硬さ分布を測定した.

さらに,本研究では,作製した円筒形状Al-TiO2 FGMsの外周面における耐摩耗性を評価するため,ブ

ロックオンディスク式摩擦摩耗試験機にて摩擦摩耗試験を行った.この摩擦摩耗試験で用いた相手材は

S45Cである.また,摩擦摩耗試験は,すべり距離 500m,すべり速度 0.5m/sおよび初期応力 0.49MPa~

0.98MPaにて行った.

3. 結果および考察

3. 1 Al-TiO2 FGMsの微細組織

図 5 は,Al-TiO2 FGMs および比較材である純 Al 遠心鋳造材の外観写真である.本研究で作製した

表 1 Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における鋳造条件.

試料名 混合粉末 Alインゴット

溶解量 遠心力

Alインゴット

溶解温度 金型加熱温度

Al TiO2

Al-5vol.%TiO2 31.83 g 2.41 g 263 g

1119 G 800℃ 650℃ Al-10vol.%TiO2 30.15 g 4.84 g 263 g

純Al 33.51 g - 263 g

図 4 Al-TiO2 FGMsにおける組織観察箇所.

外周部表面組織観察

断面組織観察

図4 Al-TiO2 FGMsにおける組織観察箇所

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かった。また,Al-10vol.%TiO2 FGMsには一部分に未溶解であった混合粉末が残留していたが,

すべての試料において鋳造が良好に行われていた。図6(a),(b)および(c)は,それぞれAl-

5vol.%TiO2 FGMs,Al-10vol.%TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材の外周面の微細組織を示す反射電子

組成像である。この写真からもAl-TiO2 FGMsには,外周部にTiO2粒子が分散していることが明ら

かである。Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における外周部近傍の断面組織を図7に示す。これら

の組織写真から,Al-TiO2 FGMsにおけるTiO2粒子は不均一に分散しており,かつ円を描くように

分布していた。さらに,これらの鋳造材には多くの空孔が存在している。そこで,このTiO2粒子

の不均一分布の要因を調査するために,混合粉末の組織観察を行った。図8は,Al-10vol.%TiO2混

合粉末の反射電子組成像である。TiO2粒子は,Al粉末を覆うように表面に凝着していた。そのた

め,図7にて観察されたTiO2粒子の分布状態は,混合粉末製造時に生じたTiO2粒子のAl粉末表面へ

の凝着に起因している。また,図5にて観察された未溶融部の領域は,Al粉末がTiO2粒子に覆われ

ていたため,そのAl粉末がAl溶湯の熱で溶融できなかったために生じたと考えられる。それゆえ,

遠心力混合粉末法によってTiO2粒子をAl母相中により強固に固定するためには,TiO2粒子がAl粉

末を囲むように凝着することを防ぐ必要がある。

図9は,Al-TiO2 FGMsのAl母相および純Al鋳造材の硬さ分布である。横軸は,遠心鋳造材の最

内周部からの距離を鋳造材の厚さにて規格化した値であり,0.0が内周部および1.0が外周部を示し

ている。純Al鋳造材の硬さは,鋳造材の厚さ方向に対して比較的均一であった。一方,Al-TiO2

FGMsの硬さ分布は,投入したTiO2粒子の体積分率に関わらず外周部の方が内周部に比べて低い。

Al-TiO2 FGMsの外周面は白色を有しており,TiO2粒子が鋳造材の外周部にて分散していることが分かっ

た.また,Al-10vol.%TiO2 FGMsには一部分に未溶解であった混合粉末が残留していたが,すべての試料

において鋳造が良好に行われていた.図 6 (a),(b)および(c)は,それぞれ Al-5vol.%TiO2 FGMs,

Al-10vol.%TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材のリング外周面の微細組織を示す反射電子組成像である.この

写真からもAl-TiO2 FGMsには,外周部にTiO2粒子が分散していることが明らかである.Al-TiO2 FGMs

および純Al鋳造材におけるリング外周部近傍の断面組織を図 7に示す.これらの組織写真から,Al-TiO2

FGMsにおける TiO2粒子は不均一に分散しており,かつ円を描くように分布していた.さらに,これら

の鋳造材には多くの空孔が存在している.そこで,このTiO2粒子の不均一分布の要因を調査するために,

混合粉末の組織観察を行った.図 8は,Al-10vol.%TiO2混合粉末の反射電子組成像である.TiO2粒子は,

Al粉末を覆うように表面に凝着していた.そのため,図 7にて観察されたTiO2粒子の分布状態は,混合

粉末製造時に生じたTiO2粒子のAl粉末表面への凝着に起因している.また,図 5にて観察された未溶融

部の領域は,Al粉末がTiO2粒子に覆われていたため,そのAl粉末がAl溶湯の熱で溶融できなかったた

めに生じたと考えられる.それゆえ,遠心力混合粉末法によってTiO2粒子をAl母相中により強固に固定

するためには,TiO2粒子がAl粉末を囲むように凝着することを防ぐ必要がある.

図 5 Al-TiO2 FGMsの外観写真: (a) Al-5vol.%TiO2

FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al.

10mm

10mm

10mm

(a)

(b)

(c)

図 6 Al-TiO2 FGMsにおける外周部の微細組織(反

射電子像): (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b)

Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al.

50m

G

50m

G

G

50m

TiO2

TiO2

離型剤

離型剤

離型剤

(a)

(b)

(c)

図5  Al-TiO2 FGMsの外観写真: (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al

図6  Al-TiO2 FGMsにおける外周部の微細組織(反射電子像): (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al

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また,この外周部に向けた硬さの低下は,Al-10vol.%TiO2 FGMsの方がAl-5vol.%TiO2 FGMsに比

べて大きかった。Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における摩擦摩耗試験の結果を図10に示す。図

10は,Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材への摩擦摩耗試験における質量損失と試験における初期応

力との関係を示したグラフである。このとき,質量損失の低下は耐摩耗性が向上することを意味す

る。このグラフから,耐摩耗性はTiO2粒子の体積分率が低下するにつれて向上した。この傾向は,

図9に示す硬さ分布と一致している。また,これはAl-TiO2 FGMsの外周部が内周部に比べて機械

的性質に劣ることも意味する。従来,サブミクロンの硬質粒子を金属母相中に分散させると,オロ

ワン機構により材料強度が向上することが知られている。しかしながら,本研究にて作製したAl-

TiO2 FGMsの硬さや耐摩耗性は,TiO2粒子が多く分布する外周部で低下していた。これは,前述

したAl粉末周囲へのTiO2粒子の凝着による空孔の発生に起因すると考えられる。そこで,本研究

では,これを検証するため,アルキメデス法にて円筒形状Al-TiO2 FGMsの密度分布を測定した。

図11は,縦軸に密度および横軸に投入したTiO2体積分率をプロットしたグラフである。また,こ

のグラフにおいて,実線は測定値であり,かつ破線は各物質の密度(Al: 2.7 Mg/m3, TiO2(アナター

ゼ): 3.90 Mg/m3)から計算した理論値を表している。図11に示すように,作製したAl-TiO2 FGMs

の密度は,TiO2粒子の体積分率が増加するにつれて低下した。これは,TiO2粒子の体積分率が増

加するにつれて,鋳造欠陥が増加するためである。また,この鋳造欠陥は,TiO2粒子がAl粉末表

図 9は,Al-TiO2 FGMsのAl母相および純Al鋳造材の硬さ分布である.横軸は,遠心鋳造材の最内周

部からの距離を鋳造材の厚さにて規格化した値であり,0.0が内周部および 1.0が外周部を示している.

純Al鋳造材の硬さは,鋳造材の厚さ方向に対して比較的均一であった.一方,Al-TiO2 FGMsの硬さ分布

は,投入したTiO2粒子の体積分率に関わらず外周部の方が内周部に比べて低い.また,この外周部に向

けた硬さの低下は,Al-10vol.TiO2 FGMsの方がAl-5vol.%TiO2 FGMsに比べて大きかった.Al-TiO2 FGMs

および純Al鋳造材における摩擦摩耗試験の結果を図 10に示す.図 10は,Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳

造材への摩擦摩耗試験における質量損失と試験における初期応力との関係を示したグラフである.この

とき,質量損失の低下は耐摩耗性が向上することを意味する.このグラフから,耐摩耗性はTiO2粒子の

体積分率が低下するにつれて向上した.この傾向は,図 9に示す硬さ分布と一致している.また,これ

はAl-TiO2 FGMsの外周部が内周部に比べて機械的性質に劣ることを意味する.従来,サブミクロンの硬

質粒子を金属母相中に分散させると,オロワン機構により材料強度が向上することが報告されている.

しかしながら,本研究にて作製したAl-TiO2 FGMsの硬さや耐摩耗性は,TiO2粒子が多く分布する外周部

図7 Al-TiO2 FGMsにおける外周面近傍の断面微

細組織(反射電子像): (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b)

Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al.

(a)

(b)

(c)

50m

G

50m

G

50m

G

TiO2

TiO2

図 8 Al-TiO2混合粉末の微細組織.純Al粉末表

面を覆うようにTiO2粒子が存在している.

50m

純Al粉末表面

TiO2

図 9 Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における

硬さ分布.0.0は最内周部および 1.0は最外周部

を示す.

30

25

20

150.00 0.25 0.50 0.75 1.00

規格化した位置内周部 外周部

ビッカース硬さ

純AlAl-5vol.%TiO2 FGMsAl-10vol.%TiO2 FGMs

図8  Al-TiO2混合粉末の微細組織。純Al粉末表面を覆うようにTiO2粒子が存在している

図9  Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における硬さ分布。0.0は最内周部および1.0は最外周部を示す

図7  Al-TiO2 FGMsにおける外周面近傍の断面微細組織(反射電子像): (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs, (c) 純Al

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面に凝着しているために生じたものであろう。それゆえ,Al-TiO2 FGMsにおける外周面の高強度

化を達成するためには,混合粉末中のTiO2粒子がAl粉末の表面に凝着せずに均一分散するための

方法を見出すことが必要である。

図12(a)および(b)は,それぞれAl-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsの外周面にお

けるX線回折ピークである。Al-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsともに光触媒作用

が高いアナターゼ型TiO2および純Alのピークが存在していた。また,このX線回折結果において光

触媒作用が低いルチル型TiO2のピークは存在していない。そのため,鋳造中にアナターゼ型TiO2

からルチル型TiO2への相変態は生じていない。よって,本鋳造条件にて作製したAl-TiO2 FGMs

は,外周面に光触媒機能を有するAl基傾斜機能材料であることがいえる。

本研究では,真空中での遠心力混合粉末法によって外周面にアナターゼ型TiO2粒子を有するAl-

TiO2 FGMsの製造が可能であることを明らかにした。このようなAl基傾斜機能材料は,耐久性が

高い抗菌手すりやセルフクリーニング機能を有する高層建築物用のアンテナや避雷針などへの適用

を期待することができる。このような光触媒機能を構造物に最大限に付与するためには,鋳造材外

周面に可能な限り多くのTiO2粒子を分散させる必要がある。しかしながら,現時点において,

で低下していた.これは,前述したAl粉末周囲へのTiO2粒子の凝着に起因すると考えられる.そこで,

本研究では,これを検証するため,アルキメデス法にて円筒形状Al-TiO2 FGMsの密度分布を測定した.

図 11は,縦軸に密度および横軸に投入したTiO2体積分率をプロットしたグラフである.また,このグラ

フにおいて,実線は測定値であり,かつ破線は各物質の密度(Al: 2.7 Mg/m3, TiO2(アナターゼ): 3.90 Mg/m3)

から計算した理論値を表している.図 11に示すように,作製したAl-TiO2 FGMsの密度は,TiO2粒子の

体積分率が増加するにつれて低下した.これは,TiO2粒子の体積分率が増加するにつれて,鋳造欠陥が

増加するためである.また,この鋳造欠陥は,TiO2粒子がAl粉末表面に凝着しているために生じたもの

であろう.それゆえ,Al-TiO2 FGMsにおける外周面の高強度化を達成するためには,混合粉末中のTiO2

粒子がAl粉末の表面に凝着せずに均一分散するための方法を見出すことが必要である.

図 12(a)および(b)は,それぞれAl-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsの外周面におけるX

線回折ピークである.Al-5vol.%TiO2 FGMsおよびAl-10vol.%TiO2 FGMsともに光触媒作用が高いアナタ

図 10 Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における

耐摩耗性を示すグラフ.質量損失が小さいほど

耐摩耗性に優れる.

純Al

Al-5vol.%TiO2 FGMs

Al-10vol.%TiO2 FGMs

3.0

2.5

2.0

1.5

摩擦摩耗試験による質量損失

(mg)

1.0

0.50.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0摩擦摩耗試験における初期応力 (MPa)

図 11 アルキメデス法にて測定した Al-TiO2

FGMsおよび純Al鋳造材の密度.

理論値

実測値(アルキメデス)

2.80

2.75

2.70

2.65

2.600 5.0 10.0

密度

(Mg

/ m3 )

混合粉末中のTiO2体積分率 (vol.%)

図12 Al-TiO2 FGMsの外周面におけるX線回折ピーク: (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs.

図10  Al-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材における耐摩耗性を示すグラフ。質量損失が小さいほど耐摩耗性に優れる

図11  アルキメデス法にて測定したAl-TiO2 FGMsおよび純Al鋳造材の密度

図12 Al-TiO2 FGMsの外周面におけるX線回折ピーク: (a) Al-5vol.%TiO2 FGMs, (b) Al-10vol.%TiO2 FGMs

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TiO2粒子体積分率の増加に伴い,外周面の耐摩耗性や硬さが低下している。そのため,材料強度

を低下させずにAl-TiO2 FGMsの光触媒性能を向上させるためには,混合粉末中におけるTiO2粒子

の分散状態を改善することで,混合粉末中のAl粉末がより溶融しやすくすることが重要である。

以上より,遠心力混合粉末法は,光触媒機能を有するAl基傾斜機能材料の作製に有効であり,混

合粉末中のTiO2粒子分散方法を変えることで,光触媒機能と高強度が両立したAl-TiO2 FGMsの製

造が可能であることが分かった。

4.まとめ

本研究では,遠心力混合粉末法にて光触媒作用が強いアナターゼ型TiO2粒子が外周面に分散し

た円筒形状のAl-TiO2 FGMsを作製した。本研究で得られた主な結果は,次の通りである。

(1) Al-5vol.%TiO2混合粉末およびAl-10vol.%TiO2混合粉末を作製した。この2種類の混合粉末

を用いて,それぞれの混合粉末に対するAl-TiO2 FGMsを遠心力混合粉末法にて作製した。

その結果,外周面近傍にTiO2粒子が分散した円筒形状のAl-TiO2 FGMsを製造することに成

功した。

(2) 光触媒作用が強いTiO2の結晶構造はアナターゼ型である。しかし,アナターゼ型TiO2は準

安定であるため,鋳造時の温度にてルチル型TiO2に相変態してしまう可能性があった。そ

こで,Al溶湯温度を800℃にて遠心鋳造を行った結果,外周面にアナターゼ型TiO2粒子が分

散した鋳造材を得ることに成功した。ゆえに本研究で開発したAl-TiO2 FGMsは光触媒作用

を期待できるものである。

(3) Al-TiO2 FGMsの外周面における微細組織を観察した結果,TiO2粒子がAl粉末の周囲に沿っ

て存在している様子が観察された。そこで,混合粉末中におけるTiO2粒子の分散状態を調

べた結果,TiO2粒子はAl粉末の表面に凝着していることが明らかとなった。

(4) 作製したAl-TiO2 FGMsに対し,円筒形状鋳造材の内周部から外周部へ向けた硬さ分布を評

価した。その結果,TiO2粒子が分散している外周面の硬さは,内周面の硬さに比べて低い。

また,その外周面の硬さは投入したTiO2粒子体積分率が高くなるにつれて低下した。さら

に,鋳造材の耐摩耗性も同様の傾向であった。これは,TiO2粒子がAl粉末の表面に凝集す

ることで生じた鋳造欠陥に起因している。よって,TiO2粒子の凝着を防ぐことで,より強

度に優れたAl-TiO2 FGMsの製造が可能となることが分かった。

謝辞

本研究の実験を遂行するにあたり,名古屋工業大学 渡辺義見教授および前田純弥君に多大なご

協力を頂いたことを記し,御礼を申し上げます。

参考文献

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