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Executive SummaryExecutive Summary 「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、 これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

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Executive Summary

       「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、

これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

人工光、体温、廃熱、人体動作、自然振動等)を、利用しやすい電気エネ

ルギーに変換し、電力として活用する技術である。

        希薄分散エネルギーは一般に微弱且つ不安定であるため、安定した電気

エネルギーへの変換が難しく、また得られた微弱電力で駆動できるような

素子や機器もなかったため、これまではあまり注目されてこなかった。し

かし、最近の半導体デバイスの低消費電力化の進展により、微弱電力でも

駆動できる素子が開発され、希薄分散エネルギーの活用が現実味を帯びて

きた。

        希薄分散エネルギー活用技術は、エネルギー変換技術・変換用材料技術、

エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、低消費

電力回路技術、パッケージング技術等からなる。これらの技術は、現状で

は、希薄分散エネルギーの持つ、微弱且つ 不安定という特徴に充分対応

は出来ておらず、特にエネルギー変換材料技術までを含むエネルギー変換

技術は未確立な分野であり、多くの基礎的技術課題を抱えている。現状は、

大学を中心として個別に研究がなされ、我が国の技術レベルは世界的にも

高いが、希薄分散エネルギー活用技術の基礎技術確立のためには、これら

の研究を継続するだけでは不十分であり、更なる取り組みが必要である。

この基礎技術は、エネルギー変換技術の全てに共通する、エネルギー変換

効率の向上に直結する最重要技術であるとともに、現在 NEDO を中心に

進められている、基幹系電力の補助発電システム(例:太陽光発電、廃熱・

地熱発電等)の効率向上にも貢献できる技術である。

        希薄分散エネルギー活用技術の応用として想定している機器の中に、

RF-ID タグやセンサネットワークがある。国内市場に限っても、RF-ID タ

グでは 2010 年で約 21 億個の出荷量が、センサネットワークでは総務省

による 2010 年の市場として約1兆 2000 億円が予測されている。

        更に、第3期科学技術基本計画情報通信分野 のネットワーク領域での

課題目標にも、「100 億個以上の端末の協調制御」が謳われている。RF-ID

タグやセンサネットワーク用のセンサノード等が、これらの予測の様に大

きな数になると、従来技術を用いた電源では対応が難しく、電源に大きな

技術的ブレークスルーが必要となる。現状のこれら機器への給電は、機器

に内蔵された小型の1次、2次電池や電源コードを通して行われているが、

これらの機器が上記のような莫大な数になると、電池の交換、充電の頻度

Page 4: Executive SummaryExecutive Summary 「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、 これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

の増大、更には電源コード引き回しの煩雑化という、現状の電源がもつ問

題点が顕在化して、これらの普及の大きな阻害要因になる。この阻害要因

を取り除くためには、コードレスで、設置条件の制約がなく、メンテナン

スフリーな新しい電源が必要である。

        希薄分散エネルギー活用技術の基礎技術(エネルギー変換技術を主とし

て、エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、低

消費電力回路技術、パッケージング技術等の共通技術も含む)の確立が、

新しい電源実現の鍵を握っている。

        研究開発課題は大きく分けて以下の二つである。

        ■ 希薄分散エネルギー活用技術を構成する各要素技術(エネルギー変換

技術・変換用材料技術、エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、

システム制御技術、低消費電力回路技術、パッケージング技術等)の

基礎研究。

        ■ 具体的応用を考慮した希薄分散エネルギー変換技術の適用方法、応用

システムの開発

        これら課題は、主に大学と独法研究所の、各種エネルギー変換技術研究

者から構成されるサブチームと、この各サブチーム全体を横断的にカバー

する、共通技術(エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム

制御技術、低消費電力回路技術、パッケージング技術)等の研究者から構

成される共通技術チームにより、基礎研究と具体的応用を考慮した応用研

究に取り組む。

        基礎研究をまず推進する。応用研究を、基礎研究のレベルが応用研究

に供するレベルに達すればスタートし、プロトタイプの評価結果を見つつ

フィードバックを繰り返して推進する。

Page 5: Executive SummaryExecutive Summary 「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、 これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

目  次

1.「希薄分散エネルギー活用技術」とは ………………………………………………… 1

2.希薄分散エネルギー活用技術に投資する意義 ……………………………………… 3

3.具体的研究開発課題 …………………………………………………………………… 5

  3.1  新しい原理に基づくエネルギー変換技術創出、変換効率向上のための   

新材料、新構造の探索 ………………………………………………………… 5

  3.2  具体的応用を考慮した希薄分散エネルギー変換技術の適用方法、応用   

システムの開発 ………………………………………………………………… 6

4.研究開発の推進方法 …………………………………………………………………… 9

5.科学技術上の効果 ……………………………………………………………………… 11

6.社会・経済的効果 ……………………………………………………………………… 13

  6.1  コードレスで、設置条件の制約の無い、メンテナンスフリーな電源による、 

「ユビキタスエレクトロニクス社会」の実現 ……………………………… 13

  6.2 新しい市場の創出 ……………………………………………………………… 14

7.時間軸に関する考察 …………………………………………………………………… 15

8.検討の経緯 ……………………………………………………………………………… 17

付録1 国内外の状況 ……………………………………………………………………… 19

付録2 研究開発課題の詳細 ……………………………………………………………… 23

専門用語説明 ………………………………………………………………………………… 29

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希薄分散エネルギー活用技術―1

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3

具体的研究開発

課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

1.「希薄分散エネルギー活用技術」とは

        「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、

これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

人工光、体温、廃熱、人体動作、自然振動等)を、利用しやすい電気エネ

ルギーに変換し、電力として活用する技術である。

        自然界、生活環境に存在する各種希薄分散エネルギーの例、希薄分散エ

ネルギー活用技術の要素技術、及び予想される応用例を図1に示す。希薄

分散エネルギーは一般に微弱且つ不安定であるため、安定した電気エネル

ギーへの変換が難しく、また得られた微弱電力で駆動できるような素子や

機器もなかったため、これまではあまり注目されていなかった。しかし、

表1に示す様に、最近の半導体デバイスの低消費電力化の進展により、微

弱電力でも駆動できる素子が開発され、希薄分散エネルギーの活用が現実

味を帯びてきた。(コラム参照) 

        希薄分散エネルギー活用技術は、エネルギー変換技術・変換用材料技術、

エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、低消費

電力回路技術、パッケージング技術等からなる。これらの技術は、現状で

は、希薄分散エネルギーの持つ、微弱且つ 不安定という特徴に充分対応

は出来ておらず、特にエネルギー変換材料技術までを含むエネルギー変換

技術は未確立であり、多くの基礎的技術課題を抱えている。

        本プロポーザルは、希薄分散エネルギー活用という観点からの、エネル

ギー変換技術・変換用材料技術の基礎技術の確立と、具体的応用を考慮し

た希薄分散エネルギー変換技術の適用方法、応用システムの研究開発に関

する提案であり、新しいエネルギー変換原理、新材料・新構造の発明や発

見に繋がる。

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2―希薄分散エネルギー活用技術

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

希薄分散エネルギー活用技術― 3

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3

具体的研究開発

課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

図1 希薄分散エネルギー活用技術概念図

表1  現状の希薄分散エネルギーで得られる電力と、素子やシステムの消費電力比較

希薄分散エネルギー活用発電量 応用素子やシステムの消費電力

熱電発電:~10μW(腕時計用)腕時計:~10μW

RF-IDタグ用語*2)    :~150μW(アクティブ型)

センサノード(計測~送受信):数100μW

低消費電力 CPU:~ mW

携帯電話:~50 mW

マイクロエレクトレット用語*1)    振動発電:

~10μW

生体発電:数 mW

小型太陽光発電:小型化した時の最小発電容量:~ nW

歩行時の体重による靴底発電:数 mW

コラム 希薄分散エネルギー活用技術の応用イメージ例

 民生用途とは異なるが、例えば、米国 DARPA用語*3)    による Smart Dust

に搭載された電源があげられる。Smart Dust とは、軍事用情報収集のた

めの自己組織化センサネットワークプロジェクトの名称で、Dust と呼

ばれる超小型のセンサノード用語*4)   を、砂漠地帯に空中から散布して、軍

用トラックの進行方向、速度等をセンシングし、その情報を各センサノー

ド経由で基地局に送信するシステムである。このセンサノードに用いら

れた電源は、希薄分散エネルギーのうち、太陽光、気圧変動、温度差を

活用したものである。

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2―希薄分散エネルギー活用技術

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

希薄分散エネルギー活用技術― 3

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1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3

具体的研究開発

課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

2.希薄分散エネルギー活用技術に投資する意義

       本提案に研究投資を行う意義は以下の3点である。

        第1の意義は、エネルギー変換エレクトロニクス技術及びその応用技術

に関する科学技術フロンティアの拡大である。

        次章 3.1 で述べる基礎研究は、新しいエネルギー変換原理、新材料・新

構造の発明や発見に繋がる。新材料・新構造の研究により、希少元素(例:

熱電素子に使われている、ビスマス、テルル、アンチモン等)の代替材料

の創出や、変換効率の向上に繋がる新構造の創出が期待できる。この基礎

技術は、現在 NEDO を中心に進められている、基幹系統電力の補助発電

システム(例:太陽光発電、廃熱・地熱発電等)の代替材料や効率向上に

も貢献できる技術である。

        第2の意義は、コードレスで設置条件の制約の無いメンテナンスフリー

な電源による「ユビキタスエレクトロニクス社会」の実現である。

        「ユビキタスエレクトロニクス社会」とは、いつでもどこでも IT 技術

の持つ利便性を享受できる社会であり、そこでは、RF-ID タグやセンサネッ

トワーク用のセンサノード等が膨大な数に増大することが予想※1)  されて

いる。現状のこれら機器への給電は、機器に内蔵された小型の1次、2次

電池や電源コードを通して行われている。これらの機器が莫大な数になる

と、電池の交換、充電の頻度の増大、更には電源コード引き回しの煩雑化

という、現状の電源がもつ問題点が顕在化して、これらの普及の大きな阻

害要因になる。この阻害要因を取り除くためには、コードレスで、設置条

件の制約がなく、メンテナンスフリーな新しい電源が必要である。本提案

の成果を活用した、新しい電源で駆動される RF-ID タグやセンサネット

ワーク用のセンサノード等のが実現により、これらのシステムや素子の普

及がを促進され、より安全・安心・快適な「ユビキタスエレクトロニクス

社会」の実現が期待される。携帯情報端末、例えば携帯電話においても、

電池交換作業、充電作業の制約が伴う。携帯電話の消費電力は、希薄分散

エネルギーを活用して得られる電力と比較するとまだ大きいが、希薄分散

エネルギーを活用して得られる電力を常に充電に使用することで、主電源

の電池交換サイクルや充電サイクルの延長が可能となる。また体内埋め込

み機器、例えばペースメーカにもここで培った技術が応用でき、装着者は

電池交換のための定期的な手術から解放される。

        波及効果として環境問題への寄与がある。現在、多くの小型携帯電子機

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4―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術― 5

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1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

器(例:電子体温計、電卓、電子ゲーム、カメラ等)では、小型電池が大

量に使用され、一部を除いて使用後廃棄されている。今後各機器の大幅な

普及により、廃棄される電池の数は増え、環境に悪影響を与えることが懸

念される。環境低負荷材料で構成された希薄分散エネルギーを活用した小

型軽量電源が実現できれば、これらの小型電池を代替し、廃棄されている

電池個数の大幅削減により、環境負荷を低減することができる。

        第3の意義は、新市場の創出である。希薄分散エネルギーを活用した電

源の大きな用途として、センサノードや RF-ID タグ等への応用がある。前

述のように、今後膨大になっていくことが予想されているこれらの応用機

器に、希薄分散エネルギーを活用した電源が搭載されれば、大きな新市場

の創出が期待される。単に電源の市場のみならず、センサネットワーク構

築に必要な、社会インフラ(例:基地局)、情報処理、情報記録の分野に

於いても、大きな市場が創出される。また新しい電源の出現は、新しい用

途の開拓を刺激し、新規な市場創出に繋がる。

             ※1)RF-ID タグやセンサネットワークの市場予測

         国内市場に限っても、RF-IDタグでは 2012 年で約 18 億個1) の出荷量が、

センサネットワークでは総務省による 2010 年で約1兆 2000 億円2) の市場

が予測されている。RF-ID タグの予測値はパッシブ型(内蔵電源なし)とアク

ティブ型(電源内蔵型)の合計である。現在パッシブ型が主流であるが、ア

クティブ型の持つ、送受信距離がパッシブ型に比べて長いという特徴が見直

されてきている。更に、第3期科学技術基本計画情報通信分野 のネットワー

ク領域での課題目標にも、「100 億個以上の端末の協調制御」が謳われている。

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希薄分散エネルギー活用技術― 5

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1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

3.具体的研究開発課題

        希薄分散エネルギー活用技術の研究開発課題は、二つに大別される。一

つは希薄分散エネルギー活用技術の要素技術、特にエネルギー変換材料技

術を含むエネルギー変換技術確立のための基礎研究課題である。もう一つ

は、実際の応用を視野に入れた、希薄分散エネルギー変換技術の適用方法、

周辺回路技術を含むシステム設計に関わる応用研究課題である。

3.1  新しい原理に基づくエネルギー変換技術創出、変換効率向上のための新材料、新構造の探索

        希薄分散エネルギー活用という観点から、生活環境の様々な微小変動を

電気エネルギーに変換できる可能性を見直す。微弱エネルギーでも集める

と、利用できる可能性は十分にあり、新しい変換手法を見出す可能性は残

されている。

        一方、これまでに研究されている各種エネルギー変換技術では、いずれ

も変換効率向上が大きな課題である。特に微弱エネルギーでの高効率化が

重要であり、そのための新材料、新構造の探索が課題である。以下に各希

薄分散エネルギーの具体的な課題を挙げる。

        ・熱エネルギー

         近年、熱電変換素子を微細化すると、薄膜→量子細線→量子ドットの

順に、エネルギー変換効率が大きくなることが理論的に明らかになって

きた。しかしこれらの素子作製プロセスがまだ不十分なため、まだ十分

な実証はなされていない。高効率実現のための、素子作製プロセス、計

算科学を用いた新材料の設計や新構造の研究開発が必要である。また希

少元素に代わる材料の創出も課題である。従って以下のような重要な研

究開発課題が挙げられる。

         - 熱電変換性能指数の高い新材料の研究開発

         - 希少資源を使わない熱電変換用新材料の研究開発

        ・機械振動エネルギー

         MEMS を用いた振動発電の一つである、マイクロエレクトレット発

電では、エレクトレットの電荷密度を如何に上げるかが効率向上に直結

する。そのため新しいエレクトレット膜材料の研究開発が必要である。

         - 環境振動発電用エレクトレット膜新材料の開発(分子設計、計算

科学)

        ・光エネルギー

         重要課題はエネルギー変換効率向上であり、広い波長感度領域実現や、

光量依存性のないエネルギー変換効率実現のための課題がある。

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6―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術― 7

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

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希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

         - 光電変換素子の変換効率向上のための材料・デバイスの研究

         - 微弱光でのエネルギー変換効率向上の研究

        ・生体エネルギー

         このエネルギー変換の鍵を握る、触媒機能を持つ電極の研究開発が必

要である

         - 生体エネルギー変換用触媒電極表面の物理・化学特性制御

        ・電磁波エネルギー

         身の回りには多くの放送・通信用の電磁波があふれている。これらは、

もともと、放送や通信用の目的で人工的に作られたものであるが、希薄

分散エネルギー源としても捉えることができる。

         - 弱電用整流回路の開発(低入力整流に適したダイオードの開発)

         - アンテナの実効面積拡大のための設計技術

        ・室内照明光エネルギー

         室内照明光は電磁波と同様に人工的な希薄分散エネルギーと捉えら

れ、以下のような課題がある。

         - 壁紙状の発電シートの研究開発

         - 塗料による大面積発電素子の研究開発

3.2  具体的応用を考慮した希薄分散エネルギー変換技術の適用方法、応用システムの開発

        希薄分散エネルギーは微弱だけでなく、不安定なエネルギーであること

も大きな特徴である。そのため、得られた電気エネルギーは設置環境の影

響を大きく受ける。実際の応用に際しては、これらの特徴を考慮したシス

テム設計が必要である。例えば、太陽電池一種類でエネルギー変換システ

ムを構成した場合、夜間や曇りの日は利用できない等の制約がでてくる。

実際のシステムを考えると、この制約以外にも小型、軽量、環境低負荷材

料等の検討が必要である。これらに対応するためには、いくつか複数のエ

ネルギー変換方式を用いて、エネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、

システム制御技術、低消費電力回路技術、パッケージング技術等の共通技

術を組み合わせ、集積化する必要がある。

        また、希薄分散エネルギー活用技術に特有の LSI や異種材料接合等の研

究開発も必要である。具体的課題を以下に示す。

        -小型、軽量、環境低負荷材料を用いた SiP 化技術

        -蓄電回路、昇圧・減圧回路、送受信回路、整流回路の超低消費電力化

        -出力波形制御超低消費電力 LSI

        -異種材料接合技術

        -複数エネルギー変換技術統合プロセス技術

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希薄分散エネルギー活用技術― 7

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

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希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

4.研究開発の推進方法

        研究推進方法を図2に示す。具体的な推進体制は、主に大学と独法研究

所の、各種エネルギー変換技術研究者から構成されるサブチームと、この

サブチーム全体を横断的にカバーする共通技術チームからなる。共通技術

チームはエネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、

低消費電力回路技術、パッケージング技術等の研究者から構成される。試

作ラインは、各エネルギー変換素子から小規模のシステム( RF-ID タグ、

センサノード等)までが作製可能であり、各サブチーム横断的な共通の設

備とする。そして組織全体のまとめは研究総括が行う。

        推進方法は、各サブチームが 3.1 で述べた基礎の研究課題に取り組む。

みながら、それと並行して、総括を中心にして決められた応用課題(例:

RF-ID タグ、センサネットワーク用のセンサノード)に各種エネルギー変

換技術サブチームと共通技術チームが連携して取り組む方法である。研究

総括の主な役割は、応用システムの要求仕様の明確化、サブチームの編成、

共通技術チームの編成及び研究の進捗管理である。

        本推進方法の利点を以下に纏める。

         ・ 各サブチーム間の交流を積極的に行うことで、各サブチームに共通

な課題※2)  (例:電極材料、蓄積技術、回路技術、実装技術等)が

明確になり、各サブチームの融合的な取り組みで、その課題の効率

的な研究開発ができる。また、技術や方法論が有効利用できるよう

になり、従来、サブチームによっては認識されていなかったような

技術が身近な物になることもあり、そのサブチームの研究推進に貢

献できる。

         ・ 応用によっては、いくつかのエネルギー変換方式を搭載する必要が

生じる可能性があり、そのようなケースでは複数のエネルギー変換

方式の統合化が容易である。

         ・ サブチーム間の PDCA (Plan、Do、Check、Action)サイクルのルー

プを回すことが容易になる。他のサブチームの最新の技術や方法

論を異なるサブチームが応用して、その結果を元のサブチームに

フィードバックすることで、違った側面からの評価ができる。

         ・ 基盤研究と応用研究を同時並行的に進めることで、基礎技術の研究

者が出口側の情報を共有し易くなり、新しいアイデア創出を刺激す

る。

         ・ エネルギー変換技術サブチームと共通技術チームとが協力すること

で、両者のインターフェイスの問題解決が容易にできる。

         ・ 希薄分散エネルギーの視点から各技術を俯瞰的に見ることでき、各

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8―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術― 9

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ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

技術の位置付けや応用毎にどの基礎技術に注力すべきか等が明確化

し易い。

         ・材料物性等の共通データをデータベース化して共有し易い。

         ・ 現在のエネルギー変換技術毎に別れている、小さな研究者コミュニ

ティーを束ねて、大きなコミュニティーとして、大きな力を発揮で

きる様にすることができる。

図2 希薄分散エネルギー活用技術の研究開発推進方法概念図

        実際の進め方は、まず 3.1 の基礎研究を推進し,応用研究に使えるレベ

ルに達すれば、3.2 の応用研究をスタートし、以下のような手順で取り組

む。

        ① 応用の決定→② 必要なエネルギー変換技術の決定→③ エネルギー変

換技術の仕様の決定→④ 仕様をみたすエネルギー変換技術の研究開発→

⑤ 成果を活用した応用システムの試作→⑥ 評価→⑦ 評価結果の前工程へ

のフィードバックの繰り返し

             ※2)各エネルギー変換技術の共通課題例

         電極材料の他にも、材料の物理的性質によって現れる特性(例:温度特性)は、

異なるエネルギー変換技術においても共通の課題となる。例えば、材料の温

度特性に関係する熱伝導率を検討する場合、熱エネルギー変換技術サブチー

ムや振動エネルギー変換技術サブチームの共通課題となる。

Page 14: Executive SummaryExecutive Summary 「希薄分散エネルギー活用技術」とは、いたるところに分散しているが、 これまで利用されていなかった希薄なエネルギー(例えば:電磁波、室内

8―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術― 9

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

5.科学技術上の効果

        エネルギー変換技術において、いままで殆ど取り組まれていなかった希

薄分散エネルギーという研究対象に焦点を当てることにより、エネルギー

変換エレクトロニクス技術及びその応用技術に関する科学技術フロンティ

アを拡大する。その結果、希薄分散エネルギー活用技術の基礎技術を確立

することで、新しい原理に基づくエネルギー変換技術や、変換効率向上の

ための新材料、新構造の発明や発見に繋げることができる。

        例えば熱エネルギー変換技術では、現在の主要材料である、ビスマス、

テルル、アンチモン等の、希少元素且つ環境負荷の大きい毒性を持った材

料の代替材料が創出される。また新構造の発明により、温度差の確保等が

解決されれば、効率向上を達成できる。

        光エネルギー変換技術では、新材料、新構造の発明・発見により、効率

の向上と、現在、太陽電池材料の主流であるシリコン材料が苦手とする大

面積化や微弱光下(夕暮れ時、曇天時、室内光)での高効率発電が可能と

なる。また、室内光をエネルギー源とする大面積壁紙発電素子では、低コ

ストを志向した新しいプロセス技術が構築される。このプロセスはシリコ

ンプロセスへの応用も可能である。

        振動エネルギー変換技術の一つである、エレクトレット型振動発電機で

は、蓄えられる電荷量を大きくできる新エレクトレット材料の発明・発見

により、エネルギー変換効率が向上される。電磁波エネルギー変換技術で

は、微小入力用ダイオードが開発され、電磁波が微弱な場所、例えば送信

アンテナから離れた場所でも電磁波エネルギーの活用が可能となる。

        バイオ生体エネルギー変換技術では、電極に用いる酵素触媒の安定化や

温度特性の改善により、長寿命化が達成される。将来は、血液中糖分をエ

ネルギー源とした生体発電も可能となる。

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希薄分散エネルギー活用技術―11

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

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ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

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希薄分散エネルギー活用技術―11

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センターCRDS-FY2008-SP-01

1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

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希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

6.社会・経済的効果

6.1  コードレスで、設置条件の制約の無い、メンテナンスフリーな電源による、「ユビキタスエレクトロニクス社会」の実現

        「ユビキタスエレクトロニクス社会」では RF-ID タグ、センサネット

ワーク用のセンサノード、小型携帯情報端末等が膨大な数になると予想さ

れるが、本提案の成果を応用した電源を搭載することで、設置場所の制約

を受けにくくなる。それによって密度の高い且つ大規模な情報、例えば、

気象情報、災害情報、地震情報、食品のトレーサビリティ情報等の収集が

容易になり、安全・安心・快適な生活の実現に貢献する。

        エネルギー変換素子のエネルギー変換効率の向上が実現されれば、新し

い電源の形状が小さくなり、これを搭載する機器の小型化を促進して、設

置面積等の制約を少なくすることができる。

        携帯情報端末、例えば携帯電話は 2008 年4月現在で約 5000 万台が国

内で使用されている。現状の携帯電話では、電池交換作業、充電作業を行

う必要が有る。携帯電話の消費電力は、数10 mW程度であり、希薄分散

エネルギーを活用して得られる電力と比較するとまだ大きいが、希薄分散

エネルギーを活用して得られる電力を常に充電に使用することで、主電源

である小型リチウムイオン電池の交換サイクルや充電サイクルの延長を可

能として、これら機器の利便性を向上できる。

        また将来的には、体内埋め込み機器、例えばペースメーカにもここで培っ

た技術が応用でき、埋め込み機器の電池交換のための定期的な手術から解

放される。

        波及効果として、環境問題と資源問題への寄与がある。現在、多くの小

型携帯電子機器(例:電子体温計、電卓、電子ゲーム、カメラ等)では、

小型電池が大量に使用され、一部を除いて使用後廃棄されている。今後各

機器の大幅な普及により、廃棄される電池の数は増え、環境に悪影響を与

えることが懸念される。環境低負荷材料で構成された希薄分散エネルギー

を活用した小型軽量電源が実現できれば、これらの小型電池を代替し、こ

れら廃棄されている電池個数の大幅削減と、環境負荷を小さくすることが

可能である。

        また熱電素子にはビスマス、テルル、アンチモン等の希少元素が使われ

ているが、殆どが輸入に頼っており、これらを埋蔵量の豊富な材料に置き

換えることができれば、「ユビキタスエレクトロニクス社会」を支える電

子材料の安定供給の実現に繋がる。

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12―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術―13

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ギー活用技術と

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投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

6.2 新しい市場の創出

        前述のように、希薄分散エネルギー活用電源の大きな用途として、セン

サノードや RF-ID タグ等への応用がある。これらに、希薄分散エネルギー

を活用した電源が搭載されれば、大きな新市場の創出ができる。また、電

源インフラが利用出来ない状況では、電源寿命や充電サイクルが長くなる

ことは重要な利点であり、そのような観点での市場拡大もある。希薄分散

エネルギー活用電源の実現は、単に電源やそれを搭載するセンサノードの

市場の創出に止まらず、センサネットワーク実現に必要なネットワーク環

境(例えば、基地局等のインフラ)、情報処理、情報記憶等の市場に於い

ても大きな拡大が考えられる。更には具体的な電源が出現することで、ユー

ザ側の新しい用途開拓を刺激し、新規な応用を創出することになる。

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12―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術―13

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希薄分散エネル

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ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

7.時間軸に関する考察

        研究開発の基礎からプロトタイプによる実証までの広い取り組みを行う

が、特に基礎分野の課題が多く、例えば新材料や新構造の探索では、シミュ

レーション技術が進歩してきたとは言え、まだ簡単でない。その実証まで

には、多くの PDCA サイクルのループを繰り返して行くため、多くの時

間を要する。このため、出来るだけ早くこの取り組みに着手する必要があ

る。

        エネルギーハーベスティング関連研究への欧米のファンディングで

は、米国の NSF が、すでに 2003 年からファンディングを開始しており、

2007 年以後急増している。2008 年にスタートしたプロジェクトは約

20 件にのぼる。また EU でも、前述の IMTEK が GRF(German Research

Foundation)のファンディングと企業の支援を受けて、2007年から Micro

Energy Harvesting への取り組みをスタートさせている。日本もこれらの動

きに遅れること無く、早急にスタートさせる必要がある。

        3.1 に述べた基礎研究をまず推進する。3.2 に述べた応用研究を、基礎

研究のレベルが応用研究に供するレベルに達すればスタートし、プロトタ

イプの評価結果を見つつフィードバックを繰り返す。以上から基礎研究と

応用研究の総合した研究期間は5~10 年程度になることが想定される。

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希薄分散エネルギー活用技術―15

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投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

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研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

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希薄分散エネルギー活用技術―15

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投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

8.検討の経緯

        研究開発戦略センターは各分野の俯瞰を行い、重要な研究課題の抽出を

行なっている。希薄分散エネルギー活用技術の議論は、2004 年1月に開

催した科学技術未来戦略ワークショップ4) のセンサフュージョンセッ

ションでの議論にその端を発する。2006 年3月に開催されたワーク

ショップ5) のエレクトロニクス分野では、具体的な「ユビキタスパワー」

という課題の重要性が指摘された。そしてこれらの議論を更に深めるため

に、2007 年 10 月に「希薄分散エネルギー活用技術」に関するワーク

ショップを基礎から応用までの研究者約 20 名にお集まりいただいて開催

した。ここではエネルギー変換技術研究者7名による、エネルギー変換技

術のシーズ側の現状と問題点の報告、そしてユーザーサイドの研究者3名

による、用途(腕時計、自動車、センサネットワーク)毎の要求等の報告

をしていただき、その後の討論から、希薄分散エネルギー活用技術という、

今までほとんど取り組まれていない研究対象分野に融合的に取り組む、新

しい研究分野創出の重要性が確認され、本プロポーザル刊行に至っている。

参考文献

1)RF-IDタグの国内市場予測:矢野経済研究所(2008年)

   http://www.yano.co.jp/press/press.php/000324

2) センサネットワークの国内市場予測(総務省ユビキタスセン

サーネットワーク技術に関する調査研究会最終報告)

   http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040806_4.html

3)第3期科学技術基本計画の情報通信分野の課題目標:

   http://www8.cao.go.jp/cstp/kihon3/index2.html

4) 「 希薄分散エネルギー活用技術」に関する科学技術未来戦略ワー

クショップ報告書,

    CRDS-FY2007-WR-13(2007),http://crds.jst.go.jp/output/

rp.html

5)第1回科学技術未来戦略ワークショップ報告書:

   CRDS-FY2003-WR-02, http://crds.jst.go.jp/output/rp.html

6)第2回科学技術未来戦略ワークショップ報告書:

   CRDS-FY2005-WR-16, http://crds.jst.go.jp/output/rp.html

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希薄分散エネルギー活用技術―17

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投資する意義

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具体的な研究開

発課題

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研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

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時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

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希薄分散エネルギー活用技術―17

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投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

付録

       付録1 国内外の状況

       A1.1 国内状況

         1998 年から、NEDO により、太陽光発電、太陽熱発電、地熱発電、

風力発電等の研究にファンディングがなされ、基幹系統電力システムの

補完要素技術の研究開発が行われてきている。一部は終了しているが、

2013 年までのファンディングが継続されている。これらは大電力を志

向した取り組みである。一方、希薄分散エネルギー活用技術関連の取り

組みは、エネルギー変換技術ごとに、個別の取り組みが、大学を中心に

行われている状況にある。

         学会レベルの動きとしては、2000 年より東北大学が中心となって、

機械振動を用いた発電、小型燃焼炉を用いたマイクロガスタービン発電

/熱電発電/熱光発電等の研究を中心にした、Power MEMS 国際ワー

クショップ1) が開催されている。また、2008 年には日本機械学会 マ

イクロナノ専門会議で、日本機械学会の中での横断的な Power MEMS

関連のマイクロエネルギー研究会2) が設立され、横断的動きが芽生え

てきているが、まだ各学会にまたがる大きな動きには至っていない。

         産学連携の動きも小規模な取り組みであり、目立つベンチャーの動き

も殆どない状況である。

       A1.2 海外状況

         EUと米国の Energy Harvesting の取り組みを以下に纏めた。これらの

取り組みの応用はすべてセンサネットワークに焦点を当てている。

        A1.2.1 EU

          Energy Harvesting に関する取り組みが活発化している。例えば、

Freiburg 大学の IMTEK(Institute for Microsystem Technology)3)では、

Micro Energy Harvesting プロジェクトが GRF(German Research

Foundation)と民間(SIEMENS、Enocean、SICK、EH、Weidmuller社等)

からの支援をうけてスタートしている。この研究課題は DC-DC Converter、

AC-DC Converter、Electromagnetic Energy Harvester、Multiwire Coils、

Microelectronic Conversion Circuits、Variable Supply、Custom

Microcontrollers が掲げられており、エネルギー変換技術分野や、エ

ネルギー蓄積技術、エネルギー送受信技術、システム制御技術、低消

費電力回路技術、パッケージング技術等の共通技術分野の研究者によ

る分野融合的な取り組みが特徴である。Freiburg 市は、基幹系統電力

へ再生可能エネルギーを活用する取り組みで国際的にも有名であり、

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18―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネルギー活用技術―19

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ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

それを技術面で支える Freiburg 大学が微細な電力への研究にも目を

向け始めたことは注目すべきである。

          またドイツの Fraunhofer 研究所では、同研究所内に太陽電池、燃

料電池の特別な組織を発足させ、2006 年からは Fraunhofer Symposium

Micro Energy Technology 5) をスタートさせている。表A.1 に EU の最

近の Energy Harvesting 研究に関する主な取り組みをまとめた。

表A.1  EU の最近の Energy Harvesting に関する主な取り組み

発電方式 エネルギー源 研究機関

MEMS(電磁式) 自然振動 IMTEK、University of Freiburg

光電変換、燃料電池 太陽光 Fraunhofer Institute

光電変換 太陽光 Imperial College London

MEMS 人体の動き Imperial College London

光電変換、熱電変換太陽光、太陽熱

University of Naples FedericoUniversity of Cambridge

統合化技術 Polytechnic University of Catalonia

MEMS(圧電変換) 自然振動 IMEC

                  IMTEK:The Institute of Microsystem Technoloty                  IMEC:Interuniversity Microelectronics Center

        A1.2.2 米国

          Energy Harvesting は、米国でもその取り組みが活発である。この発

電システムの一つである Power MEMS は、1990 年代後半に MIT で

命名され、MEMS を使った小型の発電システムをさす語として定着

している。現在 MIT の Electrical Engineering and Computer Science 学

部6) では Power MEMS の概念を更に広げて、Materials、Processes、

and Devices for MEMS、Biological and Chemical MEMS、Actuators and

Power MEMS、Sensors、Systems、and Modeling の広範な取り組みを

している。

          政府レベルでは DARPA が軍事用途での電源の重要性を認識して、

いくつかのプロジェクトを実施してきた。例えば MTO(Microsystems

Technology Office)の Smart Dust(コラム参照)では気圧変動、太陽

光、自然振動の3種類のエネルギー変換方式を統合化して、プロトタ

イプまで作製している。現在、DSO(Defense Sciences Office)では

Micro Power Sources プログラムが進行中でマイクロ燃料電池、自立

型バッテリー及び Energy Scavenging Micro Sources、と3次元マイク

ロ電池が課題となっている。

          NSF(National Science Foundation)では、現在 Energy Scaveng Harvesting

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18―希薄分散エネルギー活用技術

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ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

関連のプログラムを大学主体に約 80 件実施している。

          またファンディング機関ごとに SBIR(Small Business Innovation

Research)7) というベンチャー支援を積極的に行っている。

          さらには、Energy Harvesting Forum8) というベンチャー主体の分野

融合的な動きもある。これらベンチャーは、Piezo Electric: 8 社、

Thermal Electric: 8 社、Photo Electric: 5 社、MEMS: 1 社、

Inductive: 3 社、Energy Harvesting Electronics: 3 社、Wireless Sensor

Networks: 9 社、Other Application Sources: 2 社でトータル 38 社に

のぼる。中には EU の Freiburg 大学の IMTEK(Institute for Microsystem

Technology)に参加している Enocean 社も名を連ねている。

          更には州単位でも The Pennsylvania Energy Harvest Grant Program9)

として、Pennsylvania 州の予算と民間からの資金で合計約 $13 Million

をこの分野にファンディングすると 2007 年 10 月に公表している。

          表A.2 に米国の最近の Energy Harvesting 研究に関する取り組みを

まとめた。

表A.2 米国の最近の Energy Harvesting に関する主な取り組み

発電機構 エネルギー源 研究機関

MEMS(圧電式) 自然振動 MIT

MEMS(電磁式) 自然振動 University of Michigan

MEMS(静電式) 自然振動 California Institute of Technology

MEMS(電磁式) 自然振動 MIT

音響発電デバイス 航空機騒音 University of Florida

統合化(太陽電池、振動、圧力)

太陽光、自然振動、気圧変動

University of California, Berkeley(UCB)

人工光合成 太陽光 MIT

放射性同位体振動発電デバイス

放射能 Cornell University

MEMS(圧電式) 自然振動 Simon Fraser University

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20―希薄分散エネルギー活用技術

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ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

       参考文献

        1)Power MEMS国際ワークショップ:http://www.powermems.org/

        2)マイクロエネルギー研究会:

            http://www.memspc.jp/event/event_li24.html

        3)IMTEK(Institute for Microsystem Technology):

            http://www.imtek.de/meh/

        4)Fraunhofer Symposium Micro Energy Technology :

            http://www.energie.fraunhofer.de/german/mikro/sub_3/

            event_2/index.htm

        5)Electrical Engineering and Computer Science学部 :

            http://www.eecs.mit.edu/

        6)SBIR (Small Business Innovation Research):

            http://www.sba.gov/SBIR/

        7)Energy Harvesting Forum:http://www.energyharvesting.net/

        8)The Pennsylvania Energy Harvest Grant Program:

            http://www.depweb.state.pa.us/energy/cwp/

            view.asp?a=1374&q=483024

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20―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

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希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

       付録2 研究開発課題の詳細

        ここでは第3章で述べた研究開発課題のうち、エネルギー変換技術にお

ける課題の具体例を、変換技術毎に示す。なお、更なる詳細については、「希

薄分散エネルギー活用技術」に関する科学技術未来戦略ワークショップ報

告書1) を参照されたい。

       A 2.1 熱電変換

         P、N型半導体を結合して図A.2.1のように一方を加熱、他方を冷却し

て温度差ΔTをつければ、その大きさに比例した起電力Vが生じる(V =

α×ΔT)。この効果を発見者の名にちなんでゼーベック効果といい、

αをゼーベック係数用語*5)   と呼ぶ。

図A.2.1 熱電発電の原理(図面提供:コマツ 井上 誠顧問)

         ゼーベック効果を用いた熱電変換素子の効率最大値ηmaxは次式で与

えられる。

     M-1ηmax=ηc             M+1+ηc (A2-1)

   ΔTηc =       Th (A2-2)

(A2-3)

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22―希薄分散エネルギー活用技術

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

   σeZ =α2       λ (A2-4)

   T h+T cT=    2

(A2-5)

         ここで、ΔT は高温側温度 Th と低温側温度 Tc の差、αはゼーベック

係数6)、σeは電気伝導率、λは熱伝導率である。Z または ZT は性能指

数と呼ばれ、式(A2-1)からわかるように、M が大きい程、すなわち

Z が大きい程、ηmaxは大きくなる。

         式(A2-4)から、Z を大きくするには、ゼーベック係数が大きく、

電気伝導率/熱伝導率の大きい材料を用いればよいことになる。しかし

後者については、例えば金属では一般に電気伝導率が熱伝導率と比例関

係にある(ヴィーデマン・フランツ・ローレンツの法則)ため、電気伝

導率が大きく熱伝導率が小さい材料を見出すことは難しい。低次元構造

(量子細線、量子ドット、ナノ粒子)を用いることで、ZT を増大でき

ることが示されており、計算科学による新材料の創生が期待される。ま

た材料に関しては、現状で性能指数の高い材料がビスマスやアンチモン

等の希少資源を含む材料であり、これら元素含まない、入手し易い材料

の開発も課題である。

         以上から熱電変換素子における研究開発課題として、以下が挙げられ

る。

        ・ 熱電変換性能指数の高い新材料の開発(低次元構造:量子細線、量子

ドット、ナノ粒子、計算科学:新材料の創生)

        ・希少資源を使わない新材料の開発

        ・熱電変換素子でのΔTを大きくするパッケージ材料、実装技術の開発

       A 2.2 環境振動発電

         人体の運動、空気のゆらぎ、建造物の振動などの環境振動から微小電

力を得る方法として、電磁誘導、圧電効果、エレクトレット静電誘導な

どがある。このうち、振動型エレクトレット発電機の概念図を図A.2.2

に示す。

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希薄分散エネルギー活用技術― 23

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1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

図A.2.2 振動型エレクトレット発電機の概念図

(図面提供:東大 鈴木 雄二准教授)

         構造は、電荷が蓄積されたエレクトレットとその上部の、両端をバネ

で支持された基板(下部にエレクトレットと対向して配置された電極)

からなる。基板が図に示すような方向に振動する時、最大発電出力 Pmax

は次式で与えられる。

(A2-6)

         ここで、σはエレクトレット膜の表面電荷密度、d はエレクトレット

膜厚さ、εはエレクトレット膜の誘電率、ε0は真空の誘電率、n は櫛形

電極の組数、gは電極間距離、A は電極面積、f は振動周波数である。

Pmaxはσ2に比例しているので、材料の観点からは、表面電荷密度を向上

できる新しい材料開発が課題である。また電荷トラップメカニズムの解

明、分子設計、計算科学等も必要となる。さらに、可動デバイスである

ことから MEMS デバイスに共通の疲労特性の解析も必要である。エレ

クトレット発電の出力電圧は 100 Vを越える高い電圧のため、電子回

路での、高効率減圧回路の開発も課題である。

         以上より、環境振動発電では、以下の課題がある。

        ・新材料の開発(計算科学)

        ・設計、加工技術の開発

        ・電子回路の研究開発

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希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

       A 2.3 電磁波エネルギー変換

         電磁波を用いた電力伝送方式として、電磁波受信アンテナと整流回路

を組み合わせたレクテナ用語*6)   、電磁誘導方式、電場または磁場の共鳴方

式が検討されている。レクテナの概略図を図A.2.3 に示す。

図A.2.3 レクテナの概略図

(京大 篠原 真毅准教授の図面1) を参考にCRDSが作成)

         レクテナ方式を用いた電源は、変換効率が高く、軽く、小さく、薄い

等の特徴をもっている。しかし、整流用ダイオードに起因する微細入力

時の変換効率が小さいことや、アンテナの実効面積低下による変換効率

の低下等の問題がある。これら問題の改善のため為に、以下の研究開発

が必要である。

        ・低入力整流に適したダイオードの開発

        ・アンテナの実効面積拡大のための設計技術

       A 2.4 光電変換

         太陽光を電力に変換する太陽電池は広く普及しているが、希薄分散エ

ネルギー活用という観点からは、暗所でも使える二次電池機能や、室内

光のような微弱な光でも高効率に電力に変換できる技術が必要である。

シリコン太陽電池は、光量が小さくなると指数関数的に変換効率が低下

するという問題があり、また現状では低コスト化の課題が残されている。

         色素増感太陽電池は、微弱光でも効率が落ちないという特長があり、

また二次電池機能も可能であることから、希薄分散エネルギー活用技術

の一つとして有望である。試作色素増感太陽電池例を図A.2.4 に示す。

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1

希薄分散エネル

ギー活用技術と

2

希薄分散エネル

ギー活用技術に

投資する意義

3 

具体的な研究開

発課題

4 

研究開発の推進

方法

科学技術上の効果

社会・経済的効果

7 

時間軸に関する

考察

検討の経緯

付  

図A.2.4 色素増感太陽電池試作例(写真提供:東大 瀬川 浩司教授)

         研究開発課題としては、以下が挙げられる。

        ・変換効率向上

        ・印刷手法による低コスト化と大面積化

        ・二次電池機能を組み合わせたシステム設計

         一方、自然界で行われている光電変換は植物の光合成である。光合成

では、光エネルギーを電気エネルギー、化学エネルギーに変換し、空気

中の CO 2 と水とからグルコース用語*7

    )を生成する。これと同じように

光から電力を採取し、かつ CO 2 を固定化する人工光合成への取り組み

がある。水を電子源とする人工光合成では、以下のような研究開発課題

がある。

        ・反応効率向上

        ・反応機構解明

        ・反応系のシステム化

       A 2.5 生体エネルギー変換

         上述の光合成と逆の反応で、人間や動物の体内では、グルコースと酸

素から CO 2 と水を生成してエネルギーを得ている。このエネルギーを

電気エネルギーとして取り出すものがバイオ燃料電池である。従来あま

り利用されていなかったエネルギーという視点から、バイオ電池も希薄

分散エネルギー活用技術の一つと捉える。このエネルギー変換の鍵を

握っているのが触媒機能を持つ酵素である。バイオ電池では、酵素触媒

電極、あるいはそれに代わる触媒電極の開発が大きな課題のひとつであ

る。バイオ電池試作例を図A.2.5に示す。

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図A.2.5 バイオ電池試作例(提供:熊本大学 谷口 功教授)

         バイオ電池における研究開発課題として以下が挙げられる。

        ・触媒電極の高機能化(高電流密度、長寿命)

        ・電極材料表面の物理・化学特性制御

        ・電極表面積の増大

       参考文献

       1) 「 希薄分散エネルギー活用技術」に関する科学技術未来戦略ワーク

ショップ報告書,

         CRDS-FY2007-WR-13(2007),http, http://crds.jst.go.jp/output/rp.html

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希薄分散エネルギー活用技術― 27

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専門用語説明

      *1) エレクトレット:通常の絶縁体は、帯電体が近くにあるときだけ誘

電分極を起こし、帯電体が遠ざかるとその分極は消えてしまう。そ

れに対して、半永久的に分極を保持し続ける絶縁体をエレクトレッ

トという。磁気における永久磁石(マグネット)に対応するもので

ある。

      *2) RF-IDタグ:Radio Frequency Identificationタグの略。タグ自身のセン

シング情報や識別情報を埋め込んだタグから、磁界や電波などを用

いた近距離(周波数帯によって数cm~数m)の無線通信によって情

報をやりとりするもの。電源を内蔵しないパッシブ型と、電源を内

蔵するアクティブ型がある。

      *3) DARPA(The Defense Advanced Research Projects Agency:米国国

防高等研究計画局

      *4) センサノード:センサネットワークを構成する個々の端末(センサ、

CPU、送受信回路、電源等から構成される)をさす。

      *5) ゼーベック係数:異なる金属または半導体でループを形成し、各接

点間に温度差を設けて、接点以外の場所でループを切断すると、切

断した各金属間または半導体間に電圧が発生する。ゼーベック係数

とは、この時の、単位温度差で発生する電圧の大きさを示し、この

値がの大きいほど、大きな電圧を発生する。

      *6) レクテナ(Rectenna):Rectifying antennaの略であり、マイクロ波ア

ンテナとマイクロ波を直流に変換する整流回路をアレイ状に配置し

たもの。

      *7) グルコース(glucose):代表的な単糖のひとつ。デキストロース

(dextrose)、ブドウ糖とも呼ばれる。人間をはじめ動物や植物の活

動のエネルギーになる物質の一つである。

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戦略プログラム

希薄分散エネルギー活用技術

CRDS-FY2008-SP-01独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター

平成20年6月

電子情報通信ユニット

〒102-0084 東京都千代田区二番町3番地電話     03-5214-7484ファックス  03-5214-7385http//crds.jst.go.jp平成20年6月

Ⓒ2008 JST/CRDS

許可なく複写・複製することを禁じます。引用を行う際は、必ず出典を記述願います。

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