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臨 床 化 学37:308―316,2008 Excelに よる応 答 曲面 法(RSM)の解 析(II) 平野 哲 夫*岩 学** Keywords:応 答 曲面 解 析,LD活 性,至 適条件 は じめ に 医 療 の 分 野 で はEBM(Evidence-Based Medicine)が 叫 ば れ,科 学 的 根 拠 に 基 づ く治 療 が求められている。当然 のことながら「科学 的 根拠 に基づ く」とは医療 に限 らず 自然科学 にお ける共通問題である。ある科学的事象の解明 は 理 論 的 合 理 性 に基 づ い た 適 切 な 実 験 計 画 に よって収 集 したデ ータに対 し統計 的手 法 を用 い 定 量 的 判 断 を客 観 的 に行 うことで達成 され る。 現 代 は 各 分 野 が さらに専 門 化 され て きて は い る が,い ず れ の 分 野 にお い て も実 験 は 欠 か せ な い 研究手段であり分野横断型共通項である。正 しい結論 は適切 な実験 により導かれる。どのよ うな有 能 な コン ピ ュー タを 用 い て デ ー タを 処 理 しても実験 計 画 そ のもの が確 か なもの で な くて は 時 として誤 った結 論 を導 くお それ があ る。現 代 科 学 者 に は,そ の分 野 に お け る専 門 的 知 識 は もちろん,適 切 な実 験計 画 ・数理 統計 理 論 に基 づ い た デ ー タ解 析 技 術 を持 ち 合 わ せ る ことが 要 求される時代 になった。 実験計画法の一つである応答曲面法 (ResponseSurfaceMethodology:RSM)はBox andWilson(1951)1)か ら始 まり数多 くの研 究 が な され 優 れ た 方 法 論 として 認 知 され てい る2-6)。 従来,応答 曲面法の解析 には大規模 なソフト ウェア とコン ピュ ー タが 必 要 で あ っ た7)。 近年日 本 にお い て もRSMが各 分 野 で注 目され つ つ あ り,いくつか の メーカーが 市 販 の ソフトを売 り出 して い るが,一 般 に広 く用 い られ るに は至 って い な い 。このRSMの 複 雑 な演 算 お よび 等 高 線 ・3次元 グ ラフ表 示 に つ い て はMicrosoft Excel(以 下Excelと 略)に付 属 してい る分 析 ツー ルを用いて簡単 に扱 える方法を紹介 した8)。 今 回,乳 酸脱 水 素 酵 素(LD)活性 測 定 勧 告 法 [乳酸(L)→ピ ル ビ ン 酸(P)反応]9)に おける乳 酸 お よびNAD+濃度 の 至 適 条 件 実 験 結 果 を例 に とりRSMの適 用 を 試 み た 。 回 帰 モ デ ル 適 合 検 定 の指 標 として,従 来 か ら用 い られ て い る統 計 量 の ほ か に,残 差 分 析 としてPRESS残差, Studentized残 差(ri),R-student(ti)の 各 残 差, 影響 度 診 断 として効 果 点(hii),Cookの 標準距離 (Di値),な らび に モ デ ル 適 合 の 指 標 として 重 相 関 係 数R,決 定 係 数R2に 加 えCp統 計 量4),予 測 に対 す るR2prediction,調 整R2adjお よび 説 明 変 数 選 択 基 準(Ru)10)を 付け加えた。重回帰分析結 果 を解釈する上で参考 となる基準 として有益 な 情 報 と成 りうる応 答 曲面解 析 の一手 法 として紹 介 したい 。 材料および方法 1.LD活 性 測 定 ・試薬:ジ エ タノールアミン(DEA)は関東化学 (鹿特 級),L(+)-乳酸 リチウムは シグマ社, NAD+(クリスタル)はオ リエ ンタル酵 母 社 を使 用 した 。 そ の 他 の 試 薬 は市 販 の 特 級 品 を 使 用 した 。LD3はヒト赤 血 球 か ら精 製 され た シグマ 社 の標 品 を用 い た 。 ・LD活性 測 定 条 件:LD活 性 はROTOCHEM IIa(AMINCO社)に より測 定 した。測 定 条件 は *東京警 察 病院 臨床検 査 第1部 **成 蹊大学理工学部情報科学科 308

Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

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Page 1: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

技 術 臨 床化 学37:308―316,2008

Excelに よる応答 曲面 法(RSM)の 解 析(II)

平野 哲夫*岩 崎 学**

Keywords:応 答 曲面 解 析,LD活 性,至 適 条 件

は じめに

医療 の分 野 で はEBM(Evidence-Based

Medicine)が 叫ばれ,科 学的根拠 に基づ く治療

が求められている。当然 のことながら「科学 的

根拠 に基づ く」とは医療 に限 らず 自然科学 にお

ける共通 問題 である。ある科学的事象 の解 明

は理論的合理性 に基づい た適切な実験計 画に

よって収集 したデータに対 し統計的手法 を用 い

定量的判断 を客観的に行 うことで達成 され る。

現代は各分野が さらに専 門化 されてきてはいる

が,い ずれの分野 においても実験は欠かせ ない

研 究手段 であり分野横 断型共通項 である。正

しい結論 は適切 な実験 により導かれる。どのよ

うな有 能なコンピュータを用 いてデータを処 理

しても実験 計画そのものが確 かなものでなくて

は時として誤 った結論 を導 くおそれがある。現

代科学者には,そ の分野 における専門的知識は

もちろん,適 切 な実験計画 ・数理統計理論 に基

づいたデータ解析技術 を持 ち合わせることが要

求される時代 になった。

実 験 計 画 法 の 一 つ で あ る 応 答 曲 面 法

(ResponseSurfaceMethodology:RSM)はBox

andWilson(1951)1)か ら始 まり数多くの研究がな

され優れた方法論 として認知 されている2-6)。

従来,応 答 曲面法の解析 には大規模 なソフト

ウェアとコンピュータが必要であった7)。近年日

本 においてもRSMが 各分野 で注 目されつつあ

り,い くつかのメーカーが市販のソフトを売 り出

しているが,一 般 に広 く用いられ るには至 って

い ない 。このRSMの 複 雑 な演 算お よび等 高

線 ・3次元 グ ラフ表示 について はMicrosoft

Excel(以 下Excelと 略)に 付属 している分析 ツー

ルを用いて簡単 に扱 える方法を紹介 した8)。

今 回,乳 酸脱水素酵素(LD)活 性測定勧告法

[乳酸(L)→ ピルビン酸(P)反 応]9)に おける乳

酸お よびNAD+濃 度の至適条件実験結 果 を例

にとりRSMの 適用 を試みた。回帰モデル適合

検定の指標 として,従 来 から用いられている統

計量 の ほかに,残 差 分析 としてPRESS残 差,

Studentized残 差(ri),R-student(ti)の 各残差,

影響度診断として効果点(hii),Cookの 標準距離

(Di値),な らびにモデル適合の指標 として重相

関係 数R,決 定係 数R2に 加 えCp統 計量4),予

測 に対するR2prediction,調整R2adjお よび説明変数

選択基準(Ru)10)を 付 け加 えた。重回帰分析結

果 を解釈する上で参考 となる基準 として有益 な

情報 と成 りうる応答 曲面解析 の一手法 として紹

介 したい。

材料および方法

1.LD活 性測定

・試薬:ジ エ タノールアミン(DEA)は 関東化学

(鹿特 級),L(+)-乳 酸 リチウムは シグマ社,

NAD+(ク リスタル)は オリエ ンタル酵母社 を使

用 した。その他 の試薬 は市販 の特級品 を使用

した。LD3は ヒト赤血球から精製 された シグマ

社 の標 品を用いた。

・LD活 性測定条件:LD活 性 はROTOCHEM

IIa(AMINCO社)に より測定した。測 定条件 は

*東京警察病院臨床検査第1部

**成蹊大学理工学部情報科学科

308

Page 2: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

表1 Factorial Design Used for 13 RSM Experiments

aConcentration(mmol/ l )

Lagtime30sec,samplingintervals10sec(9

ポ イ ン ト),conversionfactorは2412と した 。

2.実 験デザインおよび回帰モデル

・実験デザイン:32-型 要因計画に中心点での実

験 を追加 した2次 の応答 曲面計画 を用いた。32.

型要因計 画は最 も標準 的な応答曲面計 画であ

り,中心点での実験 を付 け加 えることにより,回

転可能性(rotatability)と いう統計的に望 ましい

性質 を持 たせることができる3,4)。また,実 験点

の追加 により当てはまりの悪 さ(lackoffit)の

評価 も可 能 となる。変 数1を 乳 酸,変 数2を

NAD+と し,そ れぞれ3濃 度 について実験 した。

表1に 示すように,実 験点 として9通 りの組合せ

がある。各試薬 の組合せでLD活 性 を測定 した。

中心点(全 ての因子 の水準が0)は 文献的に用い

られている近傍濃度9,11,12)から乳酸55mmol/l,

NAD+10mmol/lと した。

ここ で,cubic2はcubicに お け る 説 明 力 が 弱

い 項 β112x12x2が 除 か れ た もの で,結 果 として本

稿 で 最 もよ い モ デ ル と評 価 され た もの で あ る。

な お,以 下 で は モ デ ル に お け る誤 差 εはE[ε]

=0 .V[ε]=σ2で あ り,互 い に独 立 とす る 。

・コー ド化:本 研 究 で 用 い たX1 ,X2の コ ー ド化

は次の通 りである。

x1=([乳 酸 濃 度]-55)/50

x2=([NAD+濃 度]-10)/9

乳酸濃度 の中央値 は55mmol/l,NAD+濃 度

は10mmol/l,実 験 幅 は それぞ れ50お よび

9mmol/lで ある(表1)。

臨床化学 第37巻第3号2008年7月309

Page 3: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

3.解 析方法

・モデル適合検定の指標:重 相関係数 瓦 決定

係数R2,な らびに回帰式 による予測値,お よび

下 記の(1)~(8)に 示 す指標 を追加 した。

各指標の計算式 とその特徴 を以下に示す4)。応

答 曲面法は回帰モ デルの枠組みで推 定 され る

ので,以 下では回帰分析の用語 を用いる。

総実験 回数 をηとし,回 帰モデル における説

明 変 数 の個 数 をρとす る(上 述 の2要 因 の

Quadraticモ デルでは 、p=5で ある)。n回 の実

験 によって得 られる観測値 からなる π次列ベク

トルをyと し,回 帰式の説明変数からなるn×

(p+1)行 列 をXと する。Xは デザイン行列とも

呼ばれ,図1① がその具体例である。 このとき

回帰 係数 ベ クトル βの最小 二乗 推定 値 はb=

(X'X)-1X'yで 与 えられ(プ ライムは行列の転置を

表す),特 性値 の予測値は y=X(X'X)-1X'y=

Hyと なる。 ここで,H={hij}=X(X'X)-1X'は 観

①行列X

②行列X'

③行列X'X

④ 逆 行 列(X'X)-1

⑤ 行 列H=X(X'X)-1X'

⑥各統計量計算結果

図1Quadraticモ デルの計算例=行 列H=X(X-X)-1X'計 算過程(① ~⑤)お よび各統計量計算結果(⑥)

310

Page 4: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

測値yか ら予測値yを 与 える行列で,yに ハ ッ

トをつけてyと することからハ ット行列 とも呼 ば

れる。 また,残 差 はe=y-y=(I-H)yと 表 わ

される(Iは単位行列)。HもI-Hも 対称行列で

あり,べ き等性H2=H,(I-H)2=I-Hを 満足

する。予測値お よび残差 の分散共分散行 列は

それぞれV[y]=σ2H,V[e]=σ2(I-H)で 与 え

られる。

特性値yお よび予測値yの 偏差平方和 をそ

れぞれSSTお よびSSMと し,残 差平方和 をSSE

とすると,等 式SST=SSM+SSEが 成 り立つ。

また,そ れ らを各自由度で割 った平均平方 をそ

れぞれMST=SST/(n-1),MSM=SSM/p,

MSE=SSE/(n-p-1)と する。これ らの記号 を

用いると,決 定係数(重 相関係数の2乗)はR2

=SSM/SST=1-SSE/SSTと なり,誤 差分散 σ2

の推定値 は通常 σ2=MSEで 与えられる。

I.残 差分析

モデルの当てはまりのよさを評価する最 も有

力 な手法 は残差分析 である。第i番 目の残差

ei=yi-yi(i=1,2,...,n)の 値そのものを評

価するより,そ れを基準化 した残差 を用いるほ

うが有用であることが多い。eiを誤差の標準偏

差(RMSerror)σ=√MSEで 割 ったdi=ei/σ

を標準化残差(standardizedresidual)と いい,

4は 近似 的に分散1と なる。それ以外 に以下の

ような基準化残差が提案 されている。

・Studentized残 差:ri=ei/√

δ2(1-hH),i=1,2,…,n(1)

V[e]=σ2(I-H)よ り,hiiをハット行列Hの 第

i対 角要素 とすると(図1⑤),第i番 目の残差ei

の分散はVar[ei]=σ2(1-hii)で ある。 よって,

eiを その標 準 誤差(の 推定 値)√ σ2(1-hii)で

割ったriは 分散1に 基準化 される。通常,説 明

変数xの 空間の中心から遠い実験点に対応 し

た残差は中央部の実験点 における残差よりも分

散が小 さくなる(下の効果点の項参照)。 モデル

からのずれ は中央部から遠い実験点で起 こりが

ちであるので,そ れを考慮 した残差の基準化が

望 まれる。Studentized残 差 は,そ のような実験

点の位置 に無 関係のバラツキを持 つことか ら,

モデルへ の不適合が検 出しやすいという利点 を

持つ。

・PRESS残 差:e(i)=y(i)―y(i),i=1,2,...,n

第i番 目の 観 測 値yiの 予 測 値 をそ の 観 測 値 を

除 い たn-1組 の 観 測 値 か ら求 め た 回 帰 式 に よ

り得 る とし,そ れ をy(i)と す る。 そ して そ の とき

の 残 差e(i)をPRESS残 差 とい う(下 付 き添 え 字

の 括 弧 は,括 弧 内 の 観 測 値 を 除 くこ とを 意 味 す

る)。PRESSはPredictionErrorSumof

Squaresの 略 で,

PRESS=n∑i=1e(i)2=nΣi=1(ei/1-hii)2(2)

により定義 され4),後 述する(6)式 のようにモデ

ル選択で用いられる。第i観 測値の予測値 をそ

の観測値 を除いた残 りのデータから予測するた

め,第i観 測値が回帰係数の推定 に大 きな影響

を持つ場合,そ れが検 出しやすいという利点 を

持 つ 。 誤 差 分 散 をMPsEに より推 定 す ると

PRESS残 差 はStudentized残 差 に一致すること

が 示 され る が,PRESS残 差 の 定 式 化 は

Studentized残 差のひとつの意味付 けとしても重

要である。

・R-student: ti=ei√

S2(i)(1-hii)

,i=1,2,...,n(3)

により定義 される。ここで

S2(i)=(n-P)MSE-e2i/(1-hii)/n-p-1)

であり,これはStudentized残 差における誤差分

散 σ2の 推定値を,PRESS残 差の場合 と同様の

考 えにより第i番 目の観測値 を除いて求 めたも

のである。 もし第i番 目の観測値が外 れ値 で

あった場合,そ れを除いて求めた分散の推定値

はMSEよ りも小 さくなるので(3)の 分母 は小 さ

くなり,結 果 としてR-studenttiは 大 きな値 とな

ることか ら,Studentized残 差 に比べ外れ値の検

出力が高 まる。

II.影 響度診断

・効 果 点(hii):hiiは ハ ット行 列H=X(X'X)―1X'

臨床化学 第37巻第3号2008年7月311

Page 5: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

の第i対 角要素である(図1⑤)。Var[yi]=σ2

hiiであるので,hiiは 予測値の分散の大 きさを規

定する値である。 また,Var[ei]= σ2(1-hii)よ

り,このときの残差の変動は小 さい。すなわち

hiiが大きい場合,応 答曲面は第i観 測値の影響

を大きく受け,そ れに合わせ ようとする。よって,

hiiの大きな実験 点は応答 曲面 の推定 に大 きな

影響を持つことになる。効果点hiiは 実験領域

における実験 点 の大 まかな位 置 を表 していて,

hiiの 大きな実 験点は実験領域の中心か ら離れ

ていることを示す。実験領域の周辺部にある実

験点は応答曲面の推定に大 きな影響 を持 ち,そ

れがhiiに より示 されるのである。

・Cookの標準距離:

(4)

効果点hiiは 主 として実験点の位置 を表す指

標であるのに対 し,Diは 特性値 の影響 も加味 し

た尺度 であ る。 この ことは,(4)の 第2式 が

Studentized残 差riと 効果点の単調関数hii/(1-h

ii)との積か らなることからも見て取れる。Di

の大 きなデータは応答曲面の推定 に大 きな影響

を持ち,通 常 はDi>1が 影響 を与えやすい点

と考える。

III.モデル選択 の指標

・Cp統計量: (5)

モデル式 の 当 てはまりが よくて残差平 方和

SSEが 誤差分散 の推定値32に 比較 して小 さく,

モデル式が簡単で式中のパラメータ数pが 少な

いほど,Cpは 小 さな値 となる。 よって,単 純 で

しかも当てはまりのよいモデルを選択できると

い う意味で,Cp統 計量は異 なるモデル間の比

較 に用いられ る。モデル選択 では,Cp値 が最

小 となるモデルが望ましいと評価 される。

・予測に対する (6)

決定係数R2=1-SSE/SSTの 残差平方和

SSEを(2)のPRESSに 置 き換えたもので,決 定

係 数 に予 測 の 観 点 を加 え た 指 標 で あ る 。

R2predictionは回帰モデルの予測能力 を表 し,モ デ

ルと新 しい観 測の予測変動 を評価 する指標 で

ある。

・調整R2adj

(7)

説明変数 を追加すると通常の決定係数R2は

常に増加するが,特 性値に与える影響力が小 さ

い説明変数 を加 えると調整R2adjは 逆に減少す

る。調整R2adjの 評価 によりR2の みによる誤 っ

た判断を回避することができる。

・説明変数選択基準(Ru):

(8)

Ruは 説 明変数 をいくつ取 り入れた場合の式

が望ましいのか を判断する基準 であり,(7)の 調

整R2adjにさらにパラメータ数pの 影響 を加味 し

た指標 である。Ru値 が最大 となるモデルを選

択するという方策が考えられる。

一連の解析作業はMicrosoft Office2000が イ

ンス トー ル さ れ た パ ソ コ ン(エ プ ソ ン-

HPCPC500)に より表計算 ソフトExcelを 用いて

行 った8)。等高線 ・3次元 グラフ表示はExcelグ

ラフウィザ ードおよび各モデルの回帰係数計算

はExcel分 析 ツールの重回帰分析 を用いた8)。

4.各 統計量計算手順

式(1)~(8)の 統計量 は以下 に示す計算手順

に従い算 出した。 ここではQuadraticの 回帰式

の計算 を例 にとり説明する。

1.行 列Xお よびX'の 数値 テーブルリストを作

成する(図1① ②)。

2.行 列Xお よびX'の 積X'XはMMULT関 数 と

INDEX関 数 を用い次のように計算する。X'Xは

INDEX(MMULT(X'行 列範囲,X行 列範囲),

1,1)よ り算 出する(図1③)。

3.逆 行列(X'X)-1はINDEX(MINVERSE(行

列X'X範 囲),1,1)よ り算出する(図1④)。

312

Page 6: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

4.効 果 点hiiは 行 列H=X(X'X)-1X'の 対 角 要

素 で あ る 。H=X(X'X)-1X'は 図1の 行 列 ① ×④

に よりX(X'X)-1を 求 め,X(X'X)-1× ② より算

出 され る(図1⑤)。

5.SSEは 実 測 値yiと 回 帰 計 算 値yiの 差 の平 方

和 で 求 まる。

6.σ2は 式 σ2=SSE/(n-p-1)よ り求 め られ る 。

7.SSTは 実 測 値yiと 実 測 値 の 平 均 値,と の 差

の平 方 和 で 求 まる 。

8.式(1)~(8)の 統 計 量 。4~7の 結 果 を式(1)~

(8)に 代 入 しExcelの 表 で 計 算 させ る(図1⑥,

表3)。

結果および考察

応答曲面法は連続 的な値 を取 りうる量的因子

が実験者 によって正確にコントロールできること,

ならびに対象 となる応答が十分 な精度で観測可

能な事象 について主 に適用 される。因子 と応

答の間の関数関係 は数式 として表現 される。重

回帰分析 によりこの式 を求め,得 られた関数の

妥当性 を分散分析表,重 相関係数R,決 定係数

R2,な らびに回帰式 による予測値,残 差 により評

価する方法が一般的である。

今 回,LDのH(心 筋)サ ブユニットとM(骨 格筋)

サブユニットを等量含むLD3を 用いLD活 性測定

勧告法 における乳酸お よびNAD+濃 度 の至 適

条件実験結果 を例にとりRSMの 適用を試みた。

新 しい統計 的手法4,10)を取 り入れモデル適合検

定の指標 として各種統計量を算出した。

表1に は2変 数乳酸 およびNAD+の 各組合 せ

での実験 デザインとLD活 性測定結果を示 した。

表2に はLinear(線 形),Quadratic(2次),

cubic(立 方),cubic2(立 方2)の 各回帰 により

表2Equations for ResPonse Surface Models

表3Summary of Statistics

SS: sum of squares, MS: mean of square. R2:R-Squared.R2adj :Adjusted R-Squared, R2prediction:Predicted R-Squared,

PRESS : prediction error sum of squares. Cp: measure of the total mean squared error for p-term regression model,

Ru:説 明変数選択基準

臨床 化 学 第37巻 第3号2008年7月 313

Page 7: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

A B

図2乳 酸 ・NAD+濃 度 に対 しLD活 性%で 表 したCubic2モ デル の3次 元(A)お よび等高線 グラフ(B)

各模様 の表示活性%:

●:停 留 点 よ り算 出 した至 適 乳 酸 お よ びNAD+濃 度 を示 す.

△:勧 告 法9)で 定 め た 乳酸 濃 度(60mrnol/l)・NAD+濃 度(6mmol/l)

Lactate(mmol/l)

NAD+(mmol/l)

図3乳 酸 ・NAD+濃 度に対 しLD活 性%で 表 した

Cubic2モ デルの シ ミュ レーシ ョングラフ

A:乳 酸-LD活 性 曲線

B:NAD+-LD活 性 曲線

求 め られ た 回 帰 係 数 お よび 標 準 誤 差 を 示 した 。

表3に は モ デ ル 適 合 検 定 の 指 標 を 示 した 。 最 適

モ デ ル の 選 択 基 準 は 最 小 残 差 不 偏 分 散(MS

Residual),最 小PRESS値,最 小 ら 値 お よびR2,

R2adj,R2prediction,Ruが 最 大 を示 す 組 合 せ で あ

る。 ここ で は 表3のCubic2が 最 も適 して い る こ

とを示 して い る。Cubicで はR2adj値 は0.9809か

ら0.9771に 減 少 して い る 。 ま た,R2predictionは

0.9707か ら0.9103と 減 少 して い る 。 これ は 影 響

力 の 小 さい 項(x12x2)が モ デ ル に追 加 さ れ た

た め と判 断 で きる。

表4に は 最 適 モ デ ル と思 わ れ るCubic2の 回 帰

診 断 結 果 を まとめ た 。 各 測 定 点 に つ い て 残 差,

hii,Studentized残 差(ri),RStudent(ti),Di

値 が 示 され て い る 。Studentized残 差(ri)お

よびR-student値(ri)は ともに ハ ズ レ値 の 診 断

に有 効 で あ る。

図2に は 適 合 性 の よ いCubic2モ デ ル の 応 答 曲

面 を3次 元 ・等 高 線 プ ロット,図3に は 乳 酸LD

活 性 曲 線 お よびNAD+.LD活 性 曲 線 の シ ミュ

レー シ ョング ラ フを活 性 パ ー セ ントで 示 した 。 い

ず れ の 回 帰 もLD活 性90%以 上 を得 る 範 囲 は 乳

酸-NAD+濃 度 に 対 し平 坦 で あ る 。 図2の △ は

314

Page 8: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

表4ANOVA for Response Surrace Cubic2Model

勧 告 法9)で定め た乳酸濃度(60mmol/l)・

NAD+濃 度(6mmol/l)で あり,い ず れの回帰

結果 もLD活 性90%以 上 を示 している。至適化

の2次 回帰式 より求められる停留点か ら算出さ

れ る 至 適 乳 酸 ・NAD+濃 度 は そ れ ぞ れ

70.6mmol/l,11.5mmol/l(図2B●)で ある。

LD活 性測定の乳酸 ・NAD+と もに高濃度では活

性 阻害や阻害剤の生成13)等が心配 され るため,

勧告法では乳酸濃度(60mmol/l)・NAD+濃

度(6mmol/l)と されている11)。

応答 曲面法 は合理的計画から得 られる数少

ないデータから因子間相互作用 を含 め多 くの情

報が得 られる。その他応答 曲面モデル適合の

妥 当性 を評価する指標 として得 られる各種統計

量(表2~4)は,結 果 を解釈する上で参考 とな

る基準として用いられる有益な情報 と成 りうる。

当てはめた回帰式 の妥当性 の検証 のために

は,本 論文で用 いたような多 くの統計 量が提案

されている。 これ らの統計量はそれぞ れが固

有 の役割を持つものであるが,ど れが適切 であ

るかの選択 に迷 う恐れがある。実務家 にとって

の選択の指針 として,第 一 に考慮すべ きはR2adj

値であろう。 これはExcelで も標準 的に出力 さ

れるものであり,R2adj値 が大 きなモデルがよい

モデルといえよう。モデル選択 の観点からはCp

値 も手助けとなる。残差の検討はモデルの適合

を評価する上で欠かせ ないプロセスであるが,

特 にモデルに適合 しないハズ レ値 の検出には

Studentized残 差(ri)お よびR-student値(ti)

が有効である。その他の統計量 にも,近 年の統

計解析 ソフトでは標準的に出力 されるものがあ

る。可能で あれば,複 数の統計量 間の整合性

をチェックするという方策も正しい結論を導くた

めには有用である。

今 回,LD活 性測定勧告法 を例 にとりRSMを

適用 し新 しい統計的手法 を取 り入れ解析 した。

これらの指標が適合 モデル妥当性 のより客観的

評価法として有効 であり,測定法 の開発研究 に

利用できることを確認 した。

RSMは 試薬の無駄 を最小限 に留 め,多 変数

の 因子 を同時 に変化 させることにより,効 率の

良い実験で至適条件の領域 を推定することがで

きる。従来は設備 の整 った研 究室 あるい は専

門的施設でのみにデータ処理 は制 限 されてい

臨床 化学 第37巻 第3号2008年7月 315

Page 9: Excelに よる応答曲面法(RSM)の 解析(II) - J-STAGE

たが,現 在ではパ ソコンのアプリケーションソフ

トも充実 し,か なり高度 な演算やグラフ処理が

可能 になり8,10),日常業務 で オンライン処理 ・事

務処理等 に用 いられている表計算 ソフト・グラ

フ処理 ソフトを駆使することで比較的簡単 に扱

えるようになった。

■文 献1) Box GEP and Wilson KB: On the experimental

attainment of optimum conditions. Journal of the

Royal Statistical Society, Series B, 13: 1-45, 1951.

2) Myers RH: Response Surface Methodology, pp.

127-134, Allyn and Bacon, Inc, Boston, MA, 1971.

3) Box GEP and Draper NR: Empirical Model-

Building and Response Surfaces, pp. 502-525, John

Wiley & Sons Inc, New York, 1987.

4) Myers RH and Montgomery DC: Response Surface

Methodology: Process and Product Optimization

Using Designed Experiments, 2nd Ed., pp. 43-51,

Wiley, New York, 2002.

5)山 田 秀:実 験計 画法 方法編 ―基礎 的方法 か ら

応答 曲面 法,タ グチメソッド,最 適化計画 まで.pp.

185-272,日 科技連出版社,東 京,2004.

6)岩 崎 学:統 計 的 デー タ解析 入 門 実 験 計 画法,

pp.91-113,東 京図書,2006.

7) London JW, Shaw LM, Theodorsen L, Stromme

JH: Application of response surface methodology to the assay of gamma-glutamyltransferase. Clin

Chem, 28:1140-1143, 1982.

8)平 野哲夫:Excelに よる応答 曲面法(RSM)の 解析.臨

床化学,36:303-309,2007.

9)ヒ ト血 清中酵 素活性測定 の勧 告法―乳酸 デ ヒドロゲ

ナ ー ゼ ー.臨 床 化 学,19:228-246,1990.

10)上 田 太 一 郎,小 林 真 紀,淵 上 美 紀:Excelで 学 ぶ 回

帰 分 析 入 門.pp.118-121,オ ーム 社,2004.

11)平 野 哲 夫,切 通博 巳,三 浦 雅 一,小 島 恵 理 子,松 崎

廣 子:乳 酸 デ ヒドロゲ ナ ー ゼ 活 性 測 定 法 の 検 討.臨

床 化 学,16:179-187,1987

12) Buhl SN, Jackson KY, Lubinski R, Vanderlined RE:

A search for the best buffer to use in assaying

human lactat dehydrogenase with the lactate-to-

pyruvate reaction. Clin Chem, 22:1872-1875, 1976.13)松 崎 廣子,平 野哲 夫,三 浦雅 一:市 販 β-NAD+標

品 中不 純物 によるLDア イソザイムの サ ブバ ンド形

成.生 物理化学,30:207-214,1986.

受付 日:2007年8月30日

受理 日:2008年6月20日

Analysis of response surface methodology using

Excel (II)

Tetsuo Hirano*, Manabu Iwasaki** *First Division of Clinical Laboratory , Tokyo

Metropolitan Police Hospital **Department of Computer and Information

Science, Faculty of Science and Technology,

Seikei University

*Corresponding author:

Tetsuo Hirano. First Division of Clinical Laboratory,

Tokyo Metropolitan Police Hospital. 2-10-41 Fujimi

Chiyoda-ku, Tokyo 102, Japan

E-mail: [email protected]