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‐2011.6.10‐ 9 ペニンシュラホテルズ(香港上海ホテルズ、 以下HSH)は1988年のアメリカ初進出のニュ ーヨークに続いて、91年にロサンゼルスのビ バリーヒルズにザ・ペニンシュラビバリーヒル ズを開業させた。瀟 しょう しゃ な洋館を訪れるような 車寄せから見る威風堂々とした正面ファサード のたたずまいはある種の感動を覚える。ここ は個人用の邸宅を想定して設計された5階建て のホテルで、客室はスタンダードのタイプでも 45㎡以上の余裕のレイアウトだ。 映画「プリティーウーマン」のロケホテル、ビ バリー・ウィルシャーからサンタモニカ方向へ Wilshire BlvdとSanta Monica Blvdの交差す る地点に立地している。交通量の多さと三角 形に近い不利な地形と危惧したが、騒音は気 にならず見事な敷地アレンジで解決している。 味気ない従来のホテル外観構造とは一線を画 し、正面ファサードに屋根を付け両翼を広げ た建築美は現代ホテル建築の最高傑作の一つ と評価したい。もちろんヨーロッパにはこの 手のホテルはあまた存在するが、すべてが古き 良き時代の建物を修復したものであり、90年 代の新築ホテルとしては稀 な存在であろう。 ビバリーヒルズには魅惑的な隠れ家ホテル が多く散在する。ロサンゼルスは広大な市域 を誇る街で、通常われわれが思い浮かべる L.A.は「ロサンゼルス郡」を指し、その域内に ロサンゼルス市、ビバリーヒルズ市などに分 かれている。したがってその市境界ライン沿い のホテルは、行政区画上は微妙な住所表示と なってしまう。例えばペニンシュラやレルミタ ージュはビバリーヒルズ市だが、ベルエアやフ ォーシーズンズ・ビバリーヒルズなどはロサン ゼルス市に含まれるという少々不可解な現実 に直面することになる訳だ。 ザ・ペニンシュラビバリーヒルズは2000年 に大規模改装を済ませ、193の客室・スイート と独立した16の別棟ヴィラを稼働させている。 シェフのJ,オーバーバウ氏が率いるメインダイ ニングのザ・ベルベデーレは多くの受賞歴を誇 る。ここでは、ゆっくりと南カリフォルニア料 理を堪能したい。またラウンジのザ・リビング ルームでは多くの地元ビバリーヒルズのセレブ たちが、まさに自宅でくつろぐようにアフタヌ ーンティーを楽しんでいる。 エントランスには常に数名のドアマン、ベル スタッフが常駐しており、近くのロデオドライ ブまでリムジンでのショッピング送迎サービ スまである。このようなスタッフの高いホスピ タリティー意識と、ビバリーヒルズ在住のセレ ブ顧客層がこのホテルの重要なるアンビアン スを支えている。 キングベッド横からベランダ開口部方向の俯瞰。この構図 を見てダラスにあるローズウッドグループのクレッセントホ テルの客室配置を思い出す。ここの60㎡近い余裕の広さ はバスルームを含めて心地よい ルネサンス様式の豪華なキングベッドと家具。 クラシカルな家具にはアナログではなくデジ タルTVが内蔵され、ターンダウン後にはカウ ンターとグラスが入った引き出しがオープンに なり、すてきなバーコーナーとなる コンシェルジュ・カウンターの前に、このようなアット ホームな暖かみを感じるエレベーターホールがあ る。正面にあるアンティークのロングケース・クロッ クが非常に印象的な効果を醸し出している スイミングプールの奥にあるジャグジーから俯瞰 た屋上の全景。ここカリフォルニアは冬でもかなり 暖かいのだが、この日はあいにく肌寒い日で青空は 望めなかった ラウンジ「The Living Room」の右暖炉の奥には、こ のように静寂に包まれたコーナーがある。外に見え る緑豊かな庭園には独立したヴィラ棟に向かう小径 が続いている この部屋はグランドデラックスルームの客室で約57㎡の充分な広さを誇る。大型のライティングデスクよ りクラシカルなキングベッドとシッティングエリア方向の俯瞰 ‐2011.6.10‐ 8 Y.Oと私のイニシャルが縫い込まれたピロ ーケース。今まで世界各国のリーディング ホテルを宿泊してきたが、このような温かい ホスピタリティーは初めての経験だ メインダイニング「The Belvedere」の奥にあ る個室。地元グループのクリスマスディナー ということで、テーブルセッティングが終わっ たところだ ゆったりした時の流れのメインダイニング「Belvedere」での 朝食の情景。ここではビュフェスタイルの慌ただしさはなく、 アラカルトメニューから優雅に時間をかけて朝食を楽しむ ザ・ペニンシュラビバリーヒルズのエントランス。瀟洒 しょうしゃ な洋館に向かう車寄せという感じの気品に満ちた造りで、こ れからの期待で自然と昂揚感が出てくる。規模は違うがどことなくモンテカルロのメトロポールの雰囲気に近い 威風堂々とした正面ファサードの俯瞰。この見事な建築美は戦前の古 典様式を除いて現代ホテル建築としては最高傑作の一つだと私は評価 する 優雅なラウンジ「The Living Room」。ビバリーヒルズのセレブたちが 話に興じている。左手に見えるハープを奏でる女性や、中央で注文を 聞く女性スタッフの動きが臨場感を出している 別の角度から見た「The Living Room」。午後のゆったりした時が流れ、 地元ビバリーヒルズのセレブたちがアフタヌーンティーを楽しんでいる ザ・ペニンシュラ ビバリーヒルズ 世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコ ーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテ ル」を紹介する。 これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんど が現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマ ンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は 省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年 にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、 自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。 ※本連載は毎月2・4週号掲載 新連載 世界のリーディングホテル VOL1 筆者 小原康裕 ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部 法律学科卒。74年Munich Re入社。85年 築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問 会社原健設立、代表取締役CEO。 ※現在、著者のホームページで「世界のリー ディングホテル」を連載中。多くの美しい写 真と興味深いコメントで、世界中のホテルと それら関連都市を紹介。ホテルだけにとど まらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係 の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさ まざまな情報が得られる。 www.jhrca.com/worldhotel

新連載 世界のリーディングホテル VOL1 ザ・ペニンシュラ ...ohtapub.co.jp/wlh200/WLH001.pdf‐2011.6.10‐ 9 ペニンシュラホテルズ(香港上海ホテルズ、

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‐2011.6.10‐ 9

ペニンシュラホテルズ(香港上海ホテルズ、以下HSH)は1988年のアメリカ初進出のニューヨークに続いて、91年にロサンゼルスのビバリーヒルズにザ・ペニンシュラビバリーヒルズを開業させた。瀟

しょう

洒しゃ

な洋館を訪れるような車寄せから見る威風堂々とした正面ファサードのたたずまいはある種の感動を覚える。ここは個人用の邸宅を想定して設計された5階建てのホテルで、客室はスタンダードのタイプでも45㎡以上の余裕のレイアウトだ。映画「プリティーウーマン」のロケホテル、ビ

バリー・ウィルシャーからサンタモニカ方向へWilshire BlvdとSanta Monica Blvdの交差する地点に立地している。交通量の多さと三角形に近い不利な地形と危惧したが、騒音は気にならず見事な敷地アレンジで解決している。味気ない従来のホテル外観構造とは一線を画し、正面ファサードに屋根を付け両翼を広げた建築美は現代ホテル建築の最高傑作の一つと評価したい。もちろんヨーロッパにはこの手のホテルはあまた存在するが、すべてが古き良き時代の建物を修復したものであり、90年代の新築ホテルとしては稀

有う

な存在であろう。ビバリーヒルズには魅惑的な隠れ家ホテル

が多く散在する。ロサンゼルスは広大な市域を誇る街で、通常われわれが思い浮かべるL.A.は「ロサンゼルス郡」を指し、その域内にロサンゼルス市、ビバリーヒルズ市などに分かれている。したがってその市境界ライン沿いのホテルは、行政区画上は微妙な住所表示となってしまう。例えばペニンシュラやレルミタージュはビバリーヒルズ市だが、ベルエアやフォーシーズンズ・ビバリーヒルズなどはロサンゼルス市に含まれるという少々不可解な現実に直面することになる訳だ。ザ・ペニンシュラビバリーヒルズは2000年

に大規模改装を済ませ、193の客室・スイートと独立した16の別棟ヴィラを稼働させている。シェフのJ,オーバーバウ氏が率いるメインダイニングのザ・ベルベデーレは多くの受賞歴を誇る。ここでは、ゆっくりと南カリフォルニア料理を堪能したい。またラウンジのザ・リビングルームでは多くの地元ビバリーヒルズのセレブたちが、まさに自宅でくつろぐようにアフタヌーンティーを楽しんでいる。エントランスには常に数名のドアマン、ベル

スタッフが常駐しており、近くのロデオドライブまでリムジンでのショッピング送迎サービスまである。このようなスタッフの高いホスピタリティー意識と、ビバリーヒルズ在住のセレブ顧客層がこのホテルの重要なるアンビアンスを支えている。

キングベッド横からベランダ開口部方向の俯瞰。この構図を見てダラスにあるローズウッドグループのクレッセントホテルの客室配置を思い出す。ここの60㎡近い余裕の広さはバスルームを含めて心地よい ルネサンス様式の豪華なキングベッドと家具。

クラシカルな家具にはアナログではなくデジタルTVが内蔵され、ターンダウン後にはカウンターとグラスが入った引き出しがオープンになり、すてきなバーコーナーとなる

コンシェルジュ・カウンターの前に、このようなアットホームな暖かみを感じるエレベーターホールがある。正面にあるアンティークのロングケース・クロックが非常に印象的な効果を醸し出している

スイミングプールの奥にあるジャグジーから俯瞰ふ か ん

した屋上の全景。ここカリフォルニアは冬でもかなり暖かいのだが、この日はあいにく肌寒い日で青空は望めなかった

ラウンジ「The Living Room」の右暖炉の奥には、このように静寂に包まれたコーナーがある。外に見える緑豊かな庭園には独立したヴィラ棟に向かう小径が続いている

この部屋はグランドデラックスルームの客室で約57㎡の充分な広さを誇る。大型のライティングデスクよりクラシカルなキングベッドとシッティングエリア方向の俯瞰

‐2011.6.10‐8

Y.Oと私のイニシャルが縫い込まれたピローケース。今まで世界各国のリーディングホテルを宿泊してきたが、このような温かいホスピタリティーは初めての経験だ

メインダイニング「The Belvedere」の奥にある個室。地元グループのクリスマスディナーということで、テーブルセッティングが終わったところだ

ゆったりした時の流れのメインダイニング「Belvedere」での朝食の情景。ここではビュフェスタイルの慌ただしさはなく、アラカルトメニューから優雅に時間をかけて朝食を楽しむ

ザ・ペニンシュラビバリーヒルズのエントランス。瀟洒しょうしゃ

な洋館に向かう車寄せという感じの気品に満ちた造りで、これからの期待で自然と昂揚感が出てくる。規模は違うがどことなくモンテカルロのメトロポールの雰囲気に近い

威風堂 と々した正面ファサードの俯瞰。この見事な建築美は戦前の古典様式を除いて現代ホテル建築としては最高傑作の一つだと私は評価する

優雅なラウンジ「The Living Room」。ビバリーヒルズのセレブたちが話に興じている。左手に見えるハープを奏でる女性や、中央で注文を聞く女性スタッフの動きが臨場感を出している

別の角度から見た「The Living Room」。午後のゆったりした時が流れ、地元ビバリーヒルズのセレブたちがアフタヌーンティーを楽しんでいる

ザ・ペニンシュラビバリーヒルズ世界にはまだまだ日本人が訪れていないホテルがある。このコーナーではホテリエが知っておくべき「世界のリーディングホテル」を紹介する。これまで多くのホテル紹介本が出版されてきたが、そのほとんどが現地のホテルと事前に取材の連絡を取り合い、プロのカメラマンや通訳、そのほか大勢を連れ立っての大名取材であり、宿泊は省略といったことも多々であった。本連載では、著者自身が長年にわたる個人旅行中に自分の目で感じ取り、コメントを書き込み、自分のカメラで思いのままを撮ってきた写真を掲載する。

※本連載は毎月2・4週号掲載

新連載 世界のリーディングホテル VOL1

筆者 小原康裕ホテルジャーナリスト。慶応義塾大学法学部法律学科卒。74年Munich Re入社。85年築地原健㈱代表取締役。2001年投資顧問会社原健設立、代表取締役CEO。※現在、著者のホームページで「世界のリーディングホテル」を連載中。多くの美しい写真と興味深いコメントで、世界中のホテルとそれら関連都市を紹介。ホテルだけにとどまらず、オリエントエクスプレスなど鉄道関係の掲載、季節刊行で世界遺産の案内などさまざまな情報が得られる。www.jhrca.com/worldhotel