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信州読書会 第 159 回 ツイキャス読書会 シェイクスピア 『ハムレット』 ※無断転載禁止 1 信州読書会 ツイキャス読書会 課題図書 シェイクスピア 『ハムレット』 信州読書会では、毎週、ツイキャスをつかった視聴者参加型の読書会を開催しています。 信州読書会のメルマガ登録者は、課題図書の読書感想文を 800 字で書いていただければ、放送中に紹介します。 (募集要項はメルマガでお伝えします) また作品に関する質問・感想などは、どなた様も、放送中ツイートいただければ、とりあげます 信州読書会 ツイキャス http://twitcasting.tv/skypebookclub 『信州読書会』 メルマガ登録はこちらから http://bookclub.tokyo/?page_id=714 今後のツイキャス読書会の予定です。 http://bookclub.tokyo/?page_id=2343 『ツイキャス読書会』 音声のバックナンバーです。 https://www.youtube.com/playlist?list=PLVj9jYKvinCsgP7jtFgzqxea6cgqd7mrf (各回の感想文は動画の下の説明欄に PDF へのリンクを張ってあります。) 159 回のツイキャス読書会の課題図書は、シェイクスピアの 『ハムレット』です。 読書感想文を提出して下さった皆さんありがとうございます。 英語版 PDF https://www.w3.org/People/maxf/XSLideMaker/hamlet.pdf

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信州読書会 第 159 回 ツイキャス読書会 シェイクスピア 『ハムレット』 ※無断転載禁止 1

信州読書会 ツイキャス読書会

課題図書 シェイクスピア 『ハムレット』

信州読書会では、毎週、ツイキャスをつかった視聴者参加型の読書会を開催しています。

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また作品に関する質問・感想などは、どなた様も、放送中ツイートいただければ、とりあげます

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(各回の感想文は動画の下の説明欄に PDF へのリンクを張ってあります。)

第 159 回のツイキャス読書会の課題図書は、シェイクスピアの 『ハムレット』です。

読書感想文を提出して下さった皆さんありがとうございます。

英語版 PDF https://www.w3.org/People/maxf/XSLideMaker/hamlet.pdf

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メルマガ読者 さくらさん

「ハムレット 世界の名作にふれて」

今回初めて、手に取りました。内容は知らなくても題名は誰でも知っている有名な作品で読む機会が持てると思わな

かったので、楽しみにしていました。

でも、というかやはり難しいなと思いました。

とても読んだというのはおこがましい。少し開いて見てみましたという感じです。

劇の所の言葉の言い回しが難しいというか、ほんとはソコが面白い所だと思いますが、よく分からなかったです。

唯一、読みやすかったのは亡霊が出てくる所です。

でも、よく分からないのは、亡霊になってまで息子にかたき討ちを望むのは、どうなんだろう? と思いました。もしかし

たら、そういうのが普通なのかもしれないけれど、ハムレットが気の毒に思いました。

そんな事がなければ、次の王様になれたかもしれない。

私には、ハムレットの人生が亡霊によって邪魔されたように感じました。

しかも、その亡霊の父は、母である妃には見えないという不思議。

それには何か意味がるのだろうか? と思いました。

見張りの人にも見えていた亡霊は、見える人と見えない人の違いは何なのか? 分からないまま読み終わりました。

難しいですが、昔から読まれている名作なので、また読み直して理解を深めたいと思いますので、よろしくお願いしま

す。

(おわり)

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メルマガ読者 エヴァタさん

わたすが変なおじさんです

世間の皆様は私の子供がまだ小さい女の子だと知ると「あらあ、かわいいけどお父さん心配事たくさんねえ」と言ってく

れる。

私は決まって「昔は怖い人や変な人は見た目でわかりましたけどね、いまは普通の人だと思った人が何をするかわか

らない世の中ですからね」と答えている。

相模原の重症心身障害児・者施設の入居殺傷事件を元に辺見庸氏が書いた「月」ではないけれど、正常・まともな人

が異常で頭のおかしい人を装うのと、異常でイカレタ人がまともな・正常なふりを装うのとではどちらが危険だろうか?

そもそも正常と異常は何が違うのか?

アルコールの耐性が低いのに、合コンでモテたくて強い酒を平気なふりをして飲む男と、本当は酒が強いのにかわい

い女を演じる為に酔ったふりをする女とでは、どちらが罪深いか?

本当は元気なのに風邪をひいたと嘘をつき学校を休もうとする子供と、インフルエンザによる高熱があり立っているの

もままならないのに会社に行くサラリーマンは、どちらも死に至る病にかかっているのでしょうか?

変なおじさんやバカ殿様を演じる志村けんさんは、いつか本当に変なバカな人になってしまうでしょうか?

私もハムレット王子と同じく。亡霊のようなしがらみに取り憑かれている人間です。

デンマークのようにどこかが腐ったこの国、いやこの肉体と精神がいつか発狂する日がくるかもしれません。

ダッフンダ!

(おわり)

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メルマガ読者 hoyo さん

墓穴の中の悲劇

「ハムレット」は周囲の人々を巻き込む復讐の悲劇だ。

ほとんどの登場人物に悲惨な結末が待っている。

ハムレットどころか、シェイクスピアを

読むのも始めてだったが、思っていたよりも

凄惨な悲劇っぷりに少し驚いた。

私が一番印象に残ったシーンは、

墓堀りの道化にハムレットが質問をしたシーンだ。

ハムレットは道化に「誰の墓を掘っている?」と

質問をする。

道化は間髪入れず「あっしのでさ」と墓穴の中から答える。

実は誰しも自分の墓穴をそれと気付かず掘っているのだと

シェイクスピアが言っているように思える。

一連の死も、ネズミ(間者)と間違えられて

刺されたり、毒入り酒をそれとは知らず煽ったりすることや

狂った末の入水自殺など、運命に弄ばれ、

自ら死地に赴いたように思える。

人間はどう思っていようといまいと、

(To be, or not to be: that is the question:)

自分の墓穴を掘り、その中に自分で入っていくものだ、

そしてそれこそが悲劇なのだ、とそう感じた。

演劇を見たりするわけではないので、

正直、読むのに骨が折れた。

宗教や哲学の知識がもっとあれば、

もっと深い読み方ができるように思う。

年月が経ち、また読んで見た時の、

新たな発見が楽しみだ。

(おわり)

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メルマガ読者 玉井さん

丸大ハム

この物語の前半と中盤には亡霊が現れる。

娑翁は、亡霊を用いてハムレットが狂気に至る推移を、以下の通り表現したのではないだろうか。

物語前半「第一幕 第四場」に現れた亡霊について、

この亡霊はハムレットだけでなく、ホレイショー達もその姿を目にしている。

この出会いにより、ハムレットは叔父クローディアスに疑惑を持ち始めるが、

ここでは疑惑に過ぎず、亡霊に父親殺害の真相を吹き込まれたところで

クローディアスへの復讐を即座に実行できない、でも許すことができないといった迷いに落ち込んでしまう。

ハムレットは元来、冷静で理智的な性格をしており彼にとって、この復讐の実行は尋常の精神では耐えられない。

そのため、狂気という理性から逸脱した状態で無意識に実行したいと考えたのではないかと思われ、

だからこそ狂気を希望したのであり、それは他を欺くための狂気ではなく、

ただただ理性の無い状態で復讐したかっただけなのではないだろうか。

この場面においてハムレットの人格は、ホレイショーと同様、常識の地平に停滞しており、

オフィーリアに対し「尼寺へ行け」と別れを告げても決心に至らないまま物語は緩やかに進んでいく。

物語中盤「第三幕 第四場」に現れた亡霊について、

ここでの亡霊はハムレットだけにしか見えておらず、母親ガートルードはその姿に気付くことができない。

となると、これはハムレットの見た幻覚だと捉えることができ、

ポローニアスを誤って殺害してしまったことでとうとう念願していた狂気へと陥ることに成功し、

ここへ来てハムレットは、ガートルードという俗物から離れた観念の境地に立つことができたのである。

以降、物語が激しく展開しながら復讐へと進行していくのはそのためではないかと私は思う。

といった事を考えながら、私は芥川賞の受賞連絡を待っているのだがいっこうにその知らせは無く、

もはや芥川賞選考委員の本物を見極める眼力、芥川賞の権威は失墜したかと疑わざるを得ず、

私は小説なるものの通念に捉われぬ言葉の力を初志貫徹し書きあげた我が魂の結晶、

長編小説「色ボケ母ちゃん細腕忍法帖」に微塵の落ち度も無いと言いたい。

(おわり)

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メルマガ読者 ToTo さん

『ハムレット』 感想文

この復讐劇の発端は、やはり母の不貞が許せない事と、実の叔父の卑劣さ、それが本当の父の弟であることの悲しさ

が一番深い部分であると思った。

しかし最後まで決して母を憎み切っていない、このジレンマがハムレットを苦しめている。

複雑な個々の信仰の在り方を見ながら、ハムレットにとっての正義の行方、真実が明らかにになって行く中に様々な

人間模様が絡みついて悲しい結末を生んでいく。

信仰の在り方がなかなかむずかしい。

亡霊の言葉の中に、

(引用はじめ)

「王位も妃もともども奪い去られ、聖礼もすませず、臨終の油も塗られず、懺悔のいとまもなく、生きてある罪のさなか

に身も汚れたまま、さばきの庭に追いやられたのだ。何という恐ろしさ!」

(引用おわり)

キリスト教徒にとって、身も汚れ、罪に対して懺悔なしに命の終わりが来る事がどれほど恐ろしいことなのかが書かれ

ていて、悔い改める事の重要性がわかる。裁きの場があるのだ。

罪を悔い改める事で、キリストが全て罪を背負ってくれると言う感覚が私には今ひとつわからない。この作品はハムレ

ットにとっての正義の解明であるが、それぞれに皆罪深い。ハムレット自身さえ。

ハムレットの言葉に、もし亡霊の言っていることが正しくなければ、それは悪霊であるとも言っている。

キリスト教にとっての悪霊とはどう言うものなのか。人間界の解釈の仕方で見ているようでおもしろい所である。

理解しにくい。聖霊と悪霊の見分け方があるのだろうか。以前クリスチャンの人が悪霊は人を惹きつけるために、正し

い事を言うと聞いたことがある。

やがて真実は劇中の芝居を観る王の反応で明らかになって行く。

兄の耳に毒薬を入れ、妃を奪い取り、ハムレットをイギリスに送る為に「国書」まで偽造する。そんな王でさえも、

(引用はじめ)

「人はなんのために祈るのだ、罪に落ちぬように祈り、落ちたものは救われるように祈るのだ。犯した罪は過去のもの

ではないか。ああどう祈ったらいのだ。・・・」

(引用終わり)

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と、その後も、死のように黒ずんだ、わが胸のうちと、救いを求めている。

ハムレットは、「やつが祈りのうちに心の汚れを洗いおとし、そんな時に殺しても意味がない」と、「救いのない悪業に耽

っている時に、すかさず切って捨てる」と、意味はわかるが、その二面性を持っているのが王なのだ。汚れを洗い落とせ

るのか、また悪行をしている時とどう違うのか、印象に残るセリフだった。

どの人間も人を殺している、大罪がある。最後の審判は神のみぞ知るのか。

あまり意思を持たない従順で純粋なオフィーリアは、王妃の不埒さと対象的に書かれている。悲劇によって更に美しさ

が強調されていると思った。

王妃は最後に盃を取って命を落とす。ハムレットを守る母性を感じる姿で、感動する場面であった。もしそれが神が決

めた事であっても。

ラストシーンは、全ての決着を見る躍動感の中に全うする何か大きなものを感じ感動する場面で、悲劇の極みではあ

るが舞台での迫力を観てみたかった。

それぞれの正義から起こる残虐さ、復讐心、殺人、祈ることでどこまで罪が許されるのだろう。信仰を理解するのはと

てもむずかしい。

(おわり)

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メルマガ読者 らふさん

『独りよがりな正義感』

西洋古典劇の価値観は読んでいてなかなかしっくりきませんでした。そんな中でも感じたことを書きたいと思います。

最終局面で、フォーティンブラスが「時を得れば、世に並びなき英主ともなられた王子」と感傷的にハムレットのことを

賛辞して弔いました(新潮文庫 p220)。しかし、例え時を得たとしてもハムレットのような正義感で生きている人物では国を

背負うことはできないだろうということを、皮肉にもハムレット自身がこの戯曲の中で身をもって示してくれたような気がし

ます。

ハムレットは理想に現実が追いつかず戯曲中にあるように狂人として振る舞うか、弁舌豊かな坊さんになるしか道は

なかったように思いました。過去にも世界中にハムレットのような正義感に燃える若者はたくさんいたのでしょう。しかし、

権力や権威を維持するには影で法や道徳すれすれのことを首尾よくこなすくらいの神経の図太さや欲を身につけざるを

得ない現実に直面するのではないでしょうか。その段階でハムレットは振るいにかけられてしまったのだと思います。

そういった観点からみてみると、ハムレットが死に際にフォーティングラスを国王に推薦したのは的を射ていたのでは

ないかと思いました。目的のためなら手段を選ばない彼ぐらいの泥臭さや力がなければ、堕落しきった末世では最高権

力を維持して国をまとめあげることはできない。そういったことをハムレットは最期の決闘の舞台におけるドミノ倒しのよう

な死の渦中で悟ったのではないかと思います。

しかし、ハムレットの執念が生んだような王クローディアスや妃ガートルードを一掃する復讐は、結果的に、倫理を踏み

はずしすぎた者達への制裁としての神の代理執行という見せしめの役割を担うことができたのだと思いました。

今日の政治スキャンダルを見ていると、以上のような説教くさいことを考えずにはいられなかったです。

(おわり)

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メルマガ読者 belouga さん

『亡霊の見えない糸』

尊敬する偉大な亡き国王であった父を裏切った叔父。母を奪った叔父。あらたに国王となった叔父に忠心を誓う周り

の嘘つきたち。ハムレットは人を信じる気持ちを失った。

とりわけ、母への想いは複雑だ。

ハムレットの母は父が亡くなってひと月で父の弟と結婚した。母の変わり身の早さに身もだえするような苦痛を味わう

ハムレット。そこに現れた亡き父の亡霊はハムレットに真実を告げたうえでこう命じる。「いたずらにことをあせり、卑劣な

ふるまいに心をけがすなよ。母に危害を加えてはならぬ―天の裁きにゆだね、心のとげに身をさいなませるがいい。頼

んだぞ」

亡き父の亡霊の思いに反して、母はハムレットから責めを受けたときは懸命に許しを請うたものの、新国王である叔父

に従いこれまでと何ら変わりのない生活を送る。小説を読んでいて、私は母が心から亡き夫の喪に服し自分の気持ちに

向き合う様子が読み取れなかった。むしろ、亡き夫の時と同様に叔父をわが夫として慕い、わが身を委ねているような印

象だ。私はこの母はとても打算的な人に思えた。自分を守り、恵まれた生活や地位を与えてくれる存在に対して愛情を

抱くことは別に珍しいことではないかもしれないが、たとえそれで母が幸せでも、わが子ハムレットがそれを許さなかっ

た。

亡き国王と母の愛の結晶である息子ハムレットの苦しみを思うと、読んでいてつらくなった。苦しみのうちにいっそ死を

選びたくても、ひと思いに叔父の心臓に剣を刺したくても、「天の裁きにゆだねる」ことを父の亡霊に命じられたことに忠実

になろうとしたばかりに、絶望と狂気のはざまで必死に理性を保とうとするハムレット。彼が抱く母への憎しみは、オフィー

リアやその身内をさらなる悲しみに巻き込んでしまう。そのハムレットを愛したオフィーリアもまた川に落ち、絶望の渦に

巻かれてしまった。そして、母が真に良心の呵責にさいなまれることはなく、ハムレットは命を失ってしまった。

亡き国王の亡霊の見えない糸で、最後はみんな死んでしまった。これ以上生きていても誰も幸せではなかったように

私には思えた。

母は息子の気持ちがもう少しくみ取れなかったのか? という思いと、ハムレットの哀れな結末に胸が締め付けられそ

うだったのと、最終的に国王の亡霊が望んでいた結末とは全く違ってしまったなあという感想と、いろいろなごちゃまぜの

思いが整理できないまま複雑な読後感となってしまった。

(おわり)

belouga さんのブログです。過去のコラムなども掲載されています。ぜひご覧ください。

『belouga のつれづれ』 http://ameblo.jp/clearmandarin/

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岡山読書会 主宰 yuuki 先生

『 人間を見ても楽しくはない 』

タイトルは、ハムレットが学友のローゼンクランツとギルデンスターンに言い放った台詞だ。(新潮文庫 P.76)

父王亡き後、王位を継いだ叔父と母親が再婚したことを納得できないでいたところに、父の形をした亡霊から、父の死

の真相を聞かされ、復讐を誓わされた後のことだ。

さらに、何かを感じ取った叔父王に、友人を差し向けられ、周囲の人間に疑心暗鬼を抱きながら心が揺れて、冒頭の

台詞となったのだろう。

人間が「感情」の動物である限り、人間には必ずウラオモテがある。

「この世の関節がはずれてしまったのだ。なんの因果か、それを直す役目を押しつけられるとは!」(P.51)とは、ハム

レット自身知らずにいれた裏側を知ってしまったということだ。

オモテの部分だけで、人間関係が成り立っているときは関節ははずれていない。

だが、相手のウラだけでなく、自らの本心にまで気がついてしまったハムレットは、はずれた関節をそのままにできな

かった。

私なら……関節がはずれていることを知りながら、直そうとしなかったかもしれない。

結局、私は臆病で人間のウラを知ることに怯え、ハムレットほどの行動力もない。

「人間を見ても楽しくはない」気持ちがわかってしまうことを指摘されたようで、読んでいて逆にドキッとしてしまうだけの

弱い人間が……私だった。

高校生の時に「ハムレット」の舞台を観たが、当時はただの復讐劇としか思わなかった。

人間は、経験を積むごとに弱くなっていくのかもしれない。

この物語では最初から、登場人物が本心とは違う言動をするさまを読者は見せられる。

ハムレットは気が触れたように振る舞い、友人はクローディアスの命を受け、恋人のオフィーリアは父の思惑どおりに

動こうとする。

俯瞰で、このさまを眺めているうちに、私は胸が苦しくなる。

復讐劇でもあり、サスペンス要素が必要なことは理解できる。

だが、家族や恋人、友人といった基本の人間関係がこんなにも思惑にまみれていると「真実」という言葉が薄っぺらく

て、まさにペラッペラだ。

人間には、本当の意味での「真実」は存在せず、ウラかオモテだけかもしれない。

ただ、ガードルードがハムレットに対して、時折見せる母親らしさは信じたかった。

義弟と結婚した思惑は別として……。

結局、ハムレットの復讐によって、デンマーク王族は死に絶え、国をノールウェイに渡すことになる。

ガラガラポンで刷新されて、はずれた関節は見事に直った……のだろう。

だが、父の亡霊に吹き込まれたハムレット目線を外すと、事実はもっとシンプルだったような気もした。

父王を殺したのが実は弟ではなく、甥っ子への繋ぎとして王位に座った可能性もある。

次の王は、ハムレットだという言葉が真実なら。

母もハムレットの地位を考えて、現王と結婚した方がいいとの苦渋の決断で、オフィーリアはただの親に従順な娘だっ

たかもしれない。

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王位についていた父王は、普段から弟や妻の仲を疑い、家臣を信用していなかったために、自らの死に納得できない

気持ちを息子のハムレットに押し付けた……というのは考えすぎだろうか?

きっと、ハムレットの父王の生前は「人間を見ても楽しくない」人生だったに違いなかったと思う。

(おわり)

岡山読書会のブログです。過去のコラムなども掲載されています。ぜひご覧ください。http://ameblo.jp/kaoru8913/

ツイキャスのチャンネルはこちら https://twitcasting.tv/yuuki27144

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信州読書会 主宰 宮澤さん

「因果応報のにがよもぎ」

父王の幽霊が現れるネタ振りが、全編に渡ってよく効いている。残された遺恨を、正義の名のもとにハムレットが、あ

の手この手で、さらには、狂気をも味方にして、晴らしていくという筋書きである。

読み直して、細かい台詞のやり取りがシュールで面白かった。

日本語に翻訳しても、である。たとえば、

劇中劇において、妃が、王に愛を誓う台詞の間に、ハムレットが

『苦いぞ、苦いぞ、にがよもぎ。(P.112)』(Wormwood, wormwood.) “wormwood=ワームウッド“は、『ニガヨモギ』

第一の道化 :Why, because he was mad: he shall recover his wits there; or, if he do not, it's no great matter there.

(どうしてといって、それ、気がちがったからでさあ。あそこ(イギリス)なら正気になる。もっとも癒らなくたって、あそこじゃ

平気だがね。)

ハムレット :Why? (どうして)

第一の道化 :Twill, a not be seen in him there; there the men are as mad as he. (あそこなら人目はひかない、あたり

がみんな気ちがいだからね。)※ twill は it will (新潮文庫 P.187)

などなど。ハムレットと他の登場人物の掛け合いには、即興的なリリックとバイブスとパンチラインが、溢れていて、

HIPHOP のフリースタイルダンジョンみたいな盛り上がりを、個人的には感じてしまい、興奮しながら再読した。

クローディアスは、自分の手にした権力を維持するために、王殺しを暴いたハムレットを暗殺しようと目論む。ギルデン

スターンとローゼンクランツにイギリス行きを命令したり、レイアティーズを言いくるめたり、と謀略だらけである。姑息な手

段で統治しようと必死だ。宰相ポローニアスも息子のレイアティーズの留学先での素行を探るために家来であるレナルド

ーに諜報活動を指南しているシーンがあった。(p.54)王が王なら、廷臣も延臣で、似たような諜報活動と謀略で統治して

いる。権力の維持がこそが、政治の目的に成っている証左だ。

クローディアスの王としての権威に正統性がなくても、彼の政治力によって権力構造がガチガチになれば、誰も手の施

しようがない。正義の人ハムレットは狂人扱いされて、蚊帳の外に追いやられていくだけだ。だから、彼は、カウンターと

して佯狂をもって、自らが道化の華となり、弁舌と機知(ウィット)と皮肉を持って権力構造の不当を暴いていく戦略に打っ

て出た。

ハムレットが、卓越したウィットによって周囲を混ぜ返して、混ぜか返して、全てが崩壊し、大団円を迎える。ふと、感じ

たことは、イギリスの議会制民主主義というのも、大半は弁舌に混ざるウィットの機微で成り立っているのではないか。そ

ういうのが政治的成熟なのでは? ということだ。自分たちで自分たちを気ちがいだと自称できる強さだ。

それでも、先王が幽霊となってまでハムレットに囁いた遺恨と、妃が、最終シーンで自ら毒杯を煽って、ハムレットをか

ばったという母の愛にあふれる行為が、一対をなしていて、この家族、親族の因果応報の中に、ハムレットの正義が成就

されたことが、せめてもの読後の救いであった。

政治体制は滅んだが、ハムレットの正義は、彼の死と引き換えに、苦い名誉となって報われた。

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『苦いぞ苦いぞ、にがよもぎ。』 このセリフのウィットは、やっぱり、苦い。

(おわり)

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今後のツイキャス読書会の予定です。 http://bookclub.tokyo/?page_id=2343