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www.pwc.com/jp 第15回 世界CEO意識調査 Delivering results through talent 不安定な時代における人材マネジメントの挑戦

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www.pwc.com/jp

第15回世界CEO意識調査

Delivering results through talent不安定な時代における人材マネジメントの挑戦

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本調査について

 PwC「第15回 世界CEO意識調査」では、2011年9月22日~12月12日に、世界60カ国の主要企業の最高経営責任者(CEO)1,258名のインタビューを実施しました。地域ごとの内訳は、西ヨーロッパ291、アジア太平洋440、中南米150、北米236、中央・東ヨーロッパ88、中東およびアフリカ53となっています。

 2011年の年末にかけて、38名のCEOが広範囲にわたる詳細なインタビューに応じてくれました。そのCEOたちの考えや思いは、本報告書の全体を通じて引用されています。

 本インタビューは、さまざまな業界に対して実施したものです。地域や産業ごとの更なる詳細は、右記ウェブページをご参照ください:www.pwc.com/ceosurvey

2 第15回 世界CEO意識調査

人材マネジメントの挑戦

“私たちの出発点は、経営戦略や事業計画をできる限り先取りして反映するような人材マネジメント戦略を策定することである。”

ASTRO Malaysia Holdings(マレーシア)CEO Rohana Rozhan,

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人材マネジメントの挑戦  タレントクライシスは、もはや将来の問題ではない。それは今現在起こっている問題であり、またビジネスの成長や経済の繁栄を脅かしつつある。

 グローバル規模でビジネス環境が進化し続けるにつれて、人材マネジメントにおいて挑戦すべき課題は依然として多くの国々で企業を悩まし、企業は日々その対応に追われている。私たちは経済力の大きな転換を目の当たりにしており、特にアジアの新興経済が力を増している。そんな中、企業は持続可能な成長を模索しており、その目標達成がこれまで以上に喫緊の課題となっているのも事実である。企業は人材パイプライン(人材開発の体系的な仕組み)および新たな優先事項やリスクに対応できる人事機能のあり方について再考を始めている。

 さらに、技術力が事業におよぼすインパクトとイノベーションの重要性は年々高まり、新たな市場において、全く新しいスキルが強く求められるようになった。優秀な人材がグローバル規模で活躍できるような異動戦略を明確に掲げ、かつ各ローカル市場で優秀な人材を育成できる仕組みを持つことが企業の競争力を左右する決め手となりつつある。新たな世界は、全く新しい規制をもたらし、また報酬やインセンティブに対する考え方を転換し、社員のモチベーションの源泉(エンゲージメント)さえも再定義しようとしている。

 新たな世紀を迎え、若い世代は社会に様々な疑問を抱え、より多くのものをただちに手に入れたいとする欲求を持ち、そうした自分たちの考え方を企業に直接主張するようになっている。変化のスピードは緩むことなく、人口分布の変化や先駆者の地位を脅かす新興競合企業の出現によって、そのスピードはさらに早められている。

 HR部門が期待される成果を発揮するためには、CEOにとっての真のビジネスパートナーにならなければならない。つまり、ビジネスで成功するために優先度の高い施策を見極めて綿密に計画する高度な機能を備えていなければならない。変化のスピードが速い現代においては、HR部門のトップがこれらの課題にどう対処するかによって、企業の成長の成否が決定づけられてしまう。

“私たちの出発点は、経営戦略や事業計画をできる限り先取りして反映するような人材マネジメント戦略を策定することである。”

ASTRO Malaysia Holdings(マレーシア)CEO Rohana Rozhan,

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4 第15回 世界CEO意識調査

“しかし、最近の変化として興味深いのは、欧米企業の間で、新興国市場においてどれだけ優秀な人材を採用・育成しながら長期にリテンションできるかといった組織能力が事業競争力の差別化要因となった点ではないだろうか。”

Bayer 会長 Marijin Dekkers

PwCの見解 • 過去数十年もの間、人材への投資のほとんどは現在成長が停滞している先進国で費やされてきた。CEOは、自社の卓越した優秀な人材を目前にあるビジネスチャンス、つまり成長著しい重要度の高い市場にどのように投入するかを考え直さなければならない。

• ほとんどの企業は、長期にわたって継続的に優秀な人材を輩出できる人材育成の仕組みに関して明確な戦略を持ち合わせていない。モノやカネと同様に、ヒトについても強力なサプライチェーンを維持する必要性がある。企業は各市場で優秀な人材を惹きつけられる魅力ある事業を展開することに専念しなければならない。

• 企業は自社の優秀な人材を特定できていない。どうしたらモチベーションを高められるのか、報酬やインセンティブが機能しているのか、優秀な人材の流出がビジネスに与える本当のインパクトなどに関して、全く注意を払ってこなかった。こうした状況は、優秀な人材を失う一方で、平均的な人材にインセンティブを過度に支払うといった矛盾を企業にもたらしている。

• 重要な役割に対して重点的に投資や施策を割り振ることで企業は今後1年または1年半の競争優位性を手に入れることができる。現地採用の人材と駐在員、あるいは正社員と契約社員など必要な人材のポートフォリオを見極める前に、企業は自社にとって優先度の高いスキルやコンピテンシーおよびポジションを明確化する必要がある。

• 近年ほとんどのCEOが人材マネジメント戦略を見直す必要性を感じながらも、実際には手がつけられてない。本当に先見性のある経営者だけが人材マネジメント戦略の改革に着手し、企業に競争優位をもたらしている。多くの企業は既存の戦術を教科書通りに実行して、これまで通りの代わり映えしない業績を得ている。ただ今後の事業競争においては、それだけでは通用しなくなりつつある。

• CEOは人事機能の将来像に関して真剣に取り組む必要がある。事実、事業成長を見据えた戦略的な人材マネジメントを実現できないHR部門は少なくない。現状の人事機能が果たす役割は多くの企業にとって賞味期限を迎え陳腐化している。いますぐに策を講じて、人事機能の新たなビジョンを描く必要性がある。

「第15回 世界CEO意識調査」のハイライト

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• 過去数十年もの間、人材への投資のほとんどは現在成長が停滞している先進国で費やされてきた。CEOは、自社の卓越した優秀な人材を目前にあるビジネスチャンス、つまり成長著しい重要度の高い市場にどのように投入するかを考え直さなければならない。

• ほとんどの企業は、長期にわたって継続的に優秀な人材を輩出できる人材育成の仕組みに関して明確な戦略を持ち合わせていない。モノやカネと同様に、ヒトについても強力なサプライチェーンを維持する必要性がある。企業は各市場で優秀な人材を惹きつけられる魅力ある事業を展開することに専念しなければならない。

• 企業は自社の優秀な人材を特定できていない。どうしたらモチベーションを高められるのか、報酬やインセンティブが機能しているのか、優秀な人材の流出がビジネスに与える本当のインパクトなどに関して、全く注意を払ってこなかった。こうした状況は、優秀な人材を失う一方で、平均的な人材にインセンティブを過度に支払うといった矛盾を企業にもたらしている。

• 重要な役割に対して重点的に投資や施策を割り振ることで企業は今後1年または1年半の競争優位性を手に入れることができる。現地採用の人材と駐在員、あるいは正社員と契約社員など必要な人材のポートフォリオを見極める前に、企業は自社にとって優先度の高いスキルやコンピテンシーおよびポジションを明確化する必要がある。

• 近年ほとんどのCEOが人材マネジメント戦略を見直す必要性を感じながらも、実際には手がつけられてない。本当に先見性のある経営者だけが人材マネジメント戦略の改革に着手し、企業に競争優位をもたらしている。多くの企業は既存の戦術を教科書通りに実行して、これまで通りの代わり映えしない業績を得ている。ただ今後の事業競争においては、それだけでは通用しなくなりつつある。

• CEOは人事機能の将来像に関して真剣に取り組む必要がある。事実、事業成長を見据えた戦略的な人材マネジメントを実現できないHR部門は少なくない。現状の人事機能が果たす役割は多くの企業にとって賞味期限を迎え陳腐化している。いますぐに策を講じて、人事機能の新たなビジョンを描く必要性がある。

「第15回 世界CEO意識調査」のハイライト グローバルビジネスの成長へ向けた挑戦

• 今後自社のオペレーションの拡大を期待する地域として、東南アジアを選んだCEOは全体の83%、また南アジアが80%、東アジアが73%、南アメリカが77%という結果だった。

• 調査に回答したCEOのうち59%は、自社の将来にとって先進国よりも新興国を重要な市場として認識している。

戦略的な人材育成

• HRと事業計画との統合:CEOの79%はHR部門のトップが自分の直属の部下であると回答している。

• CEOの4分の3以上が優秀な人材の育成管理に向けた自社の戦略を見直していると回答した。これは、来年度の最も重要な変革目標の一つとなっている。

スキル不足は事業成長と利益創出を阻害する最も深刻なリスクである• CEOの53%は、重要なスキルが不足していることを組織の大きな課題として捉えている。今後3年間に自社が必要とする優秀な人材を獲得することについて、“大きな自信を持っている”と回答したCEOは30%にすぎない。

• 優秀な人材の不足はすでに問題を投げかけている。戦略的に重要な施策の遅延あるいは中止、新規ビジネス機会の取りこぼし、イノベーション活動の失敗などは優秀な人材の不足に起因する可能性があると認識するCEOが半数以上を占める。

• 過去に比べると現在の方が自社の業界で従業員を採用することが難しくなったと回答したCEOが43%いる。

• ビジネスリーダーの53%は、将来性のある優秀な中間管理職層の採用とリテンションが最も困難な課題であると指摘している。この人材プールを形成する人材の獲得が最も困難になっている。

暗闇の中でのオペレーション?• 企業にとって重要な施策を計画実行するために必要とされる人材管理に関する包括的なデータ/情報を入手できているCEOはごくわずかにすぎない。

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グローバルビジネスの成長へ向けた挑戦  グローバルビジネスが進展と変化を繰り返す中で、企業は成長を追い求め続けている。しかし、その成長の大部分は、多くのビジネスリーダーたちが状況をよく理解していない市場からもたらされている。4分の3以上のCEOが、来年度にかけて、アジア、アフリカおよびラテンアメリカ地域でビジネスを拡大させようと画策している。実際、CEOの59%が自社の将来のビジネスを考えた時に、新興国市場の方が先進国よりも重要な市場であると考えている。もちろん、そう考えるには理由がある。例えば、BRICsはいまだに成熟市場よりも速いスピードで成長している。新興国は低賃金労働者の調達場所ではなく、高い購買意欲を持った消費者の源泉として認識されている。

 企業はどのように自社が新興市場に参入するか、具体的な成長方法を決めようとしている。企業がジョイントベンチャーやM&Aを通じてビジネスを拡大しようとすることで、人材マネジメントのハードルの高さをますます上げている。次の質問に答えられるだろうか:人材はどこから獲得するのか?必要なスキルをどこから獲得するのか?駐在員と現地採用スタッフの最適なバランスがイメージできるか?企業文化を理解しているチームはどれだけいるのか?どうやって彼らのモチベーションを高めるか?離職を防ぐために打つべき施策は何か?

 ほぼどの業界においても、CEOは人材採用の難しさを指摘している。大量の社員の解雇を伴う人員整理の過去を持つ銀行業界でさえ、適材適所の人材配置がいまだに実現できずに試行錯誤を続けている。約半数のCEOは今後1年以内の社員数の増加を見込んでいる。こうした計画の半数以上では、次年度までに5%以上の増員が計画されている。社員数の削減を計画しているのは、全体のわずか18%である。これらの全体傾向では知ることができないが、求められるスキルや人員数の増減している国や地域は従来より多岐にわたっている。

 要件に見合う経験豊富な人材が足りない南アメリカ、アジア、中東、アフリカといった成長市場では、優秀な人材にかかる負担が大きくなりつつある。こうした市場が今後さらに拡大して業界の成長にとってますます重要な存在になるとすれば、優秀な人材の獲得競争がさらに激化することは容易に予想できる。

“世の中が緩やかな成長と急速な成長との二つの社会に分けられているとすると、同時に双方の成長社会の中で経営をすることが賢明であろう。”Marsh & McLennan Companies Inc. 社長兼CEO Brian Duperreault

“新興国市場の成長が加速し、その他の国々の成長が減退するにつれ、差し迫った緊張を感じる。その理由は、今はすでに時機を逸して賭けに乗り遅れた状態にあるためであり、もう1つは、新興国の考え方や行動様式が変化したことで、新興市場に参入することがこれまで以上に難しくなったためである。新興国は2008年以降、欧米諸国から学ぶべきものはほぼ無いと考えているのである。”

SWIFT(ベルギー) CEO Lázaro Campos

6 第15回 世界CEO意識調査

 急速に変化する市場では、質の高い優秀な人材がいるかどうかが成功の鍵を握る。なぜなら質の高い優秀な人材は、新たな価値の源泉を見つけ出し、そのビジネスチャンスに投資する機会を企業にもたらすことで、人材が枯渇している競合他社には絶対に真似できない競争優位性を生み出す。つまり企業としては、変化の激しい市場特性および移り変わる優先的な戦略などが自社の抱える人材ポートフォリオと一致しているかどうかを常に確認しておく必要がある。最大の課題は、短期的だけにではなく長期的に将来の成長戦略を実現するために、どのようなスキルが世界のどこで求められているのかについて明確なビジョンを持つことにある。

 これは深刻な人材不足を示唆している。複雑で容易に解決できない課題ではあるが、その危機がひしひしと迫りつつある。

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 グローバルビジネスが進展と変化を繰り返す中で、企業は成長を追い求め続けている。しかし、その成長の大部分は、多くのビジネスリーダーたちが状況をよく理解していない市場からもたらされている。4分の3以上のCEOが、来年度にかけて、アジア、アフリカおよびラテンアメリカ地域でビジネスを拡大させようと画策している。実際、CEOの59%が自社の将来のビジネスを考えた時に、新興国市場の方が先進国よりも重要な市場であると考えている。もちろん、そう考えるには理由がある。例えば、BRICsはいまだに成熟市場よりも速いスピードで成長している。新興国は低賃金労働者の調達場所ではなく、高い購買意欲を持った消費者の源泉として認識されている。

 企業はどのように自社が新興市場に参入するか、具体的な成長方法を決めようとしている。企業がジョイントベンチャーやM&Aを通じてビジネスを拡大しようとすることで、人材マネジメントのハードルの高さをますます上げている。次の質問に答えられるだろうか:人材はどこから獲得するのか?必要なスキルをどこから獲得するのか?駐在員と現地採用スタッフの最適なバランスがイメージできるか?企業文化を理解しているチームはどれだけいるのか?どうやって彼らのモチベーションを高めるか?離職を防ぐために打つべき施策は何か?

 ほぼどの業界においても、CEOは人材採用の難しさを指摘している。大量の社員の解雇を伴う人員整理の過去を持つ銀行業界でさえ、適材適所の人材配置がいまだに実現できずに試行錯誤を続けている。約半数のCEOは今後1年以内の社員数の増加を見込んでいる。こうした計画の半数以上では、次年度までに5%以上の増員が計画されている。社員数の削減を計画しているのは、全体のわずか18%である。これらの全体傾向では知ることができないが、求められるスキルや人員数の増減している国や地域は従来より多岐にわたっている。

 要件に見合う経験豊富な人材が足りない南アメリカ、アジア、中東、アフリカといった成長市場では、優秀な人材にかかる負担が大きくなりつつある。こうした市場が今後さらに拡大して業界の成長にとってますます重要な存在になるとすれば、優秀な人材の獲得競争がさらに激化することは容易に予想できる。

59%CEOの59%は、

新興国市場を先進国

よりも重要な市場と

位置づけている。

“新興国市場の成長が加速し、その他の国々の成長が減退するにつれ、差し迫った緊張を感じる。その理由は、今はすでに時機を逸して賭けに乗り遅れた状態にあるためであり、もう1つは、新興国の考え方や行動様式が変化したことで、新興市場に参入することがこれまで以上に難しくなったためである。新興国は2008年以降、欧米諸国から学ぶべきものはほぼ無いと考えているのである。”

SWIFT(ベルギー) CEO Lázaro Campos

 急速に変化する市場では、質の高い優秀な人材がいるかどうかが成功の鍵を握る。なぜなら質の高い優秀な人材は、新たな価値の源泉を見つけ出し、そのビジネスチャンスに投資する機会を企業にもたらすことで、人材が枯渇している競合他社には絶対に真似できない競争優位性を生み出す。つまり企業としては、変化の激しい市場特性および移り変わる優先的な戦略などが自社の抱える人材ポートフォリオと一致しているかどうかを常に確認しておく必要がある。最大の課題は、短期的だけにではなく長期的に将来の成長戦略を実現するために、どのようなスキルが世界のどこで求められているのかについて明確なビジョンを持つことにある。

 これは深刻な人材不足を示唆している。複雑で容易に解決できない課題ではあるが、その危機がひしひしと迫りつつある。

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深刻な人材不足  企業にとって人材の需給ギャップやミスマッチは将来の問題というよりむしろ、目の前にある課題となっている。

 多くの企業では人材を採用・配置転換することは、企業側の希望次第でいつでもできると考えている。しかしながら、複数の企業が優秀な人材を求めるにつれて人材獲得競争は激化し、結果的に、特にアジア、中東、ラテンアメリカおよびアフリカの一部地域の人材の報酬額が高騰している。企業のリーダーの40%以上は、過去1年間で想定以上に人件費が増え、収益性を圧迫する原因となっていることを目の当たりにしている。

 より長期的な心配事として、CEOの4人に1人は優秀な人材を確保できないために、ビジネスチャンスを逃した、あるいは自社の戦略的施策を中止または延期せざるをえなかったと指摘している。また、CEOの3人に1人は、スキル不足が社内で効果的にイノベーションを起こす際の足かせになると考えている。さらに、半数以上の企業は上記3つの問題のうち一つかそれ以上によって打撃を受けたと述べている。

 ここで問い直す必要があるのは、人材マネジメントが戦略的に優先度の高い施策であると位置づけられているにも関わらず、なぜ需給ギャップの問題が未解決の課題として残っているのかである。これは新たな問題ではない。実際、過去10年におよぶ弊社のCEO意識調査において、必要なスキルを獲得できなくなるのは全ての業界において経営上の脅威になると指摘されてきていた。

30%今後3年間に自社が

必要とする優秀な人材を

獲得することについて、

“大きな自信を持っている”

と回答したCEOは30%に

すぎない。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

人材の獲得競争により、グローバル企業のコストは明らかに上昇している

質問:過去1年間に、あなたの企業は人材不足により自社の成長や収益性に影響を受けたか、以下の選択肢よりお答え下さい。

人材に関するコストが予想以上に増加した

効果的なイノベーションを起こすことができなかった

市場の好機を追求することができなかった

社内の重要な戦略的イニシアチブが中止ないしは遅延した

海外市場において当初想定した成長を達成することができなかった

自国市場において当初想定した成長を達成することができなかった

品質の水準が低下した

8 第15回 世界CEO意識調査

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 企業にとって人材の需給ギャップやミスマッチは将来の問題というよりむしろ、目の前にある課題となっている。

 多くの企業では人材を採用・配置転換することは、企業側の希望次第でいつでもできると考えている。しかしながら、複数の企業が優秀な人材を求めるにつれて人材獲得競争は激化し、結果的に、特にアジア、中東、ラテンアメリカおよびアフリカの一部地域の人材の報酬額が高騰している。企業のリーダーの40%以上は、過去1年間で想定以上に人件費が増え、収益性を圧迫する原因となっていることを目の当たりにしている。

 より長期的な心配事として、CEOの4人に1人は優秀な人材を確保できないために、ビジネスチャンスを逃した、あるいは自社の戦略的施策を中止または延期せざるをえなかったと指摘している。また、CEOの3人に1人は、スキル不足が社内で効果的にイノベーションを起こす際の足かせになると考えている。さらに、半数以上の企業は上記3つの問題のうち一つかそれ以上によって打撃を受けたと述べている。

 ここで問い直す必要があるのは、人材マネジメントが戦略的に優先度の高い施策であると位置づけられているにも関わらず、なぜ需給ギャップの問題が未解決の課題として残っているのかである。これは新たな問題ではない。実際、過去10年におよぶ弊社のCEO意識調査において、必要なスキルを獲得できなくなるのは全ての業界において経営上の脅威になると指摘されてきていた。

“私たちはいつくかの分野、特にビジネスインテリジェンスや将来のITスキルといった新たなスキル分野において、望んでいたスピードで成長できていない。その原因は、スピーディーに必要な人材を採用し、惹きつけ、育成できていないためである。”

Andy Green CEO  Logica Plc

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

人材の獲得競争により、グローバル企業のコストは明らかに上昇している

質問:過去1年間に、あなたの企業は人材不足により自社の成長や収益性に影響を受けたか、以下の選択肢よりお答え下さい。

43

31

29

24

24

24

21

機会費用

直接費人材に関するコストが予想以上に増加した

効果的なイノベーションを起こすことができなかった

市場の好機を追求することができなかった

社内の重要な戦略的イニシアチブが中止ないしは遅延した

海外市場において当初想定した成長を達成することができなかった

自国市場において当初想定した成長を達成することができなかった

品質の水準が低下した

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戦略的な人材育成  現在の社員をマネジメントし、また将来のニーズを見据えて先手を打つ方策について、CEOたちはより戦略的な実行を求めている。私たちの調査によれば、CEOの78%が人材マネジメント戦略の変革を望んでいる。3分の2のCEOは、リーダーシップ開発や幹部候補育成の仕組みを構築することに今後より多くの時間を費やす予定でいる。

 先進的な企業は、来年の人材マネジメント予算のさらに向こう側を見据えている。現在の人材の需給ギャップを埋め、人材ニーズが将来どのように移り変わり、その対策をどのように打つかを考えるには、より長期的かつ戦略的な視野が必要になる。企業が成長を続けるには、十分な情報を得て、先を見越した戦略的な要員計画が策定できるか否かにかかっている。その要員計画は、戦略を実現するために必要なスキルセットが明らかとされ、またビジネスニーズを満たす適時の適材適所が可能となるものでなければならない。

“まず最初に私がコミットしたのは、ビジネスにインパクトを与えるために、人事機能を1ランク上の戦略的機能に引き上げることだった。”

米国に拠点を置く DIRECTV 社長兼CEO Michael White

10 第15回 世界CEO意識調査

HR部門は進化しているか? より戦略的な人材育成を行うには、HR部門と事業サイドがさらに協力して計画策定や意思決定に関与する必要がある。良い知らせは、CEOの79%がHR部門のトップを自分の直属の部下に位置付けているということだ。(ほとんどの場合、CEOの直属の部下は10名以下である)

 しかし、事業成長に必要な変革を組織にもたらせられるかどうかは、人事機能が抱える大きな課題として残っている。HR部門が真のビジネスパートナーとして戦略的に機能するには、自社の事業や業界、戦略を十分に理解しておかないと始まらない。HR部門は投資や事業に関する社内の意思決定に積極的に関与し、業績を測定する財務指標を常に意識しておく必要がある。戦略的な人事機能であるならば、社内コンサルタントとして全ての人材に関わる問題に関与し、経営幹部が正しい判断をできる分析結果を提示し、また新規参入する市場の事業戦略立案に一役買うぐらいの心構えが必要である。

 また、企業がグローバル企業としてその事業範囲を変化・拡大させている時だからこそ、人事機能の変革にはさらなるチャレンジが伴う。より多くの企業が本社機能をアジアへ移すのか?集権と分権のどちらがガバナンスのあるべき姿なのか?市場によって成長スピードが異なる現代において、一つの人材管理モデルのみで通用するのか?

 企業価値そのものに直接的なインパクトがある自社の戦略的課題にHR部門がほとんど関与していない企業の将来は危うい。CFOが事業変革や成長といった財務を越えた役割を担うようになってきている時代、HR部門のトップはより戦略的に物事を判断し部門を機能させる必要がある。

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 現在の社員をマネジメントし、また将来のニーズを見据えて先手を打つ方策について、CEOたちはより戦略的な実行を求めている。私たちの調査によれば、CEOの78%が人材マネジメント戦略の変革を望んでいる。3分の2のCEOは、リーダーシップ開発や幹部候補育成の仕組みを構築することに今後より多くの時間を費やす予定でいる。

 先進的な企業は、来年の人材マネジメント予算のさらに向こう側を見据えている。現在の人材の需給ギャップを埋め、人材ニーズが将来どのように移り変わり、その対策をどのように打つかを考えるには、より長期的かつ戦略的な視野が必要になる。企業が成長を続けるには、十分な情報を得て、先を見越した戦略的な要員計画が策定できるか否かにかかっている。その要員計画は、戦略を実現するために必要なスキルセットが明らかとされ、またビジネスニーズを満たす適時の適材適所が可能となるものでなければならない。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人);2011年調査全回答者(1,201人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

人材マネジメント戦略

組織構造(M&Aを含む)

リスクマネジメントのアプローチ

資本投資に関わる意思決定

企業の評判や信頼の再構築への注力度

資本構造

取締役会との関わり

変化なし ある程度変化する 大きく変化する

21 55 23

26 50 22

32 50 17

38 42 19

49 35 15

55 29 14

63 27 8

2012

17 52 31

25 47 27

23 54 23

23 48 28

36 41 22

50 34 15

52 34 12

2011

人材マネジメント戦略はCEOにとって、依然として最優先事項である

質問:以下の分野において、今後1年間にどの程度の変革を予測しているか。

78% CEOの78%は、

人材マネジメント戦略を

見直している。

“まず最初に私がコミットしたのは、ビジネスにインパクトを与えるために、人事機能を1ランク上の戦略的機能に引き上げることだった。”

米国に拠点を置く DIRECTV 社長兼CEO Michael White

HR部門は進化しているか? より戦略的な人材育成を行うには、HR部門と事業サイドがさらに協力して計画策定や意思決定に関与する必要がある。良い知らせは、CEOの79%がHR部門のトップを自分の直属の部下に位置付けているということだ。(ほとんどの場合、CEOの直属の部下は10名以下である)

 しかし、事業成長に必要な変革を組織にもたらせられるかどうかは、人事機能が抱える大きな課題として残っている。HR部門が真のビジネスパートナーとして戦略的に機能するには、自社の事業や業界、戦略を十分に理解しておかないと始まらない。HR部門は投資や事業に関する社内の意思決定に積極的に関与し、業績を測定する財務指標を常に意識しておく必要がある。戦略的な人事機能であるならば、社内コンサルタントとして全ての人材に関わる問題に関与し、経営幹部が正しい判断をできる分析結果を提示し、また新規参入する市場の事業戦略立案に一役買うぐらいの心構えが必要である。

 また、企業がグローバル企業としてその事業範囲を変化・拡大させている時だからこそ、人事機能の変革にはさらなるチャレンジが伴う。より多くの企業が本社機能をアジアへ移すのか?集権と分権のどちらがガバナンスのあるべき姿なのか?市場によって成長スピードが異なる現代において、一つの人材管理モデルのみで通用するのか?

 企業価値そのものに直接的なインパクトがある自社の戦略的課題にHR部門がほとんど関与していない企業の将来は危うい。CFOが事業変革や成長といった財務を越えた役割を担うようになってきている時代、HR部門のトップはより戦略的に物事を判断し部門を機能させる必要がある。

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12 第15回 世界CEO意識調査

暗闇の中でのオペレーション?  企業はどうすればより戦略的な人材マネジメントができるだろうか。まず着手すべきなのは、より良いデータを収集することである。

 社員の離職によってもたらされる費用、社員の生産性、社員の意識やニーズなどを改善するための判断を求められた時に、その意思決定をサポートする十分なデータがないとCEOは感じている。全体の4分の3のCEOが、人材に対する投資効果を見極めるROIデータが非常に重要であると認識している中、現在入手している分析結果やデータが十分に包括的であると回答したCEOは16%にすぎない。これがまさに解決すべき情報ギャップである。

 質の高いデータや情報が不足していると、将来の人材ニーズの予測を戦略的に立案することが非常に難しくなる。つまり、暗闇の中、手探りでビジネスをしているようなものなのだ。

社員エンゲージメントの将来 経営幹部が社員のモチベーションとリテンション策など人事施策との相関を理解するために、社員エンゲージメントに関する分析は効果的である。つまり、業績に直接影響する社員エンゲージメントを引き出せるような組織能力を持つことによって、戦略とエンゲージメントとのつながりを強めることだ。

 CorporateExecutiveBoardが実施した調査によると、エンゲージメントの高い社員は低い社員よりも57%の割合で高い業績を出し、87%の割合で離職の可能性が低かった*1。しかし昨今の景気低迷の影響で、高い業績を出す社員のエンゲージメントレベルが急激に低下していることがPwCの調査によって明らかになっている*2。

 そのため先見性のある企業は成長を謳歌できる。企業価値に多大な影響を与えるほど重要な役割を担う自社のポジションを先進企業は特定できている。またデータ分析や予測モデルをリテンション策の立案や採用、生産性活動に役立てている。以下はその例示である。

• 次年度の社員の離職可能性を定量化した社員ごとのスコア

• エンゲージメントと業績の改善状況および特定の部課での業績創出の阻害要因を特定するための社員エンゲージメントサーベイの利用

• 社員エンゲージメントの状態が直接的に影響を及ぼす顧客満足や製品品質といった業績指標のモニタリング

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)*1出典: Corporate Executive Board, The Role of Employee Engagement in the

Return to Growth, Bloomberg Businessweek, August 2010*2出典:PwC Saratogaによるデータ

適切な情報が重要である、あるいは非常に重要であると考えているCEOの割合

人材マネジメントに関する包括的な報告を受けているCEOは少数に限られる

質問: 意思決定をする際に、人材マネジメントに関する以下項目の情報を入手することはどれほど重要か。

また、重要と認識する情報の報告内容はどの程度妥当か。

情報を得ていない

妥当ではない

妥当だがもっと多くの情報が必要

包括的な情報を得ている

100

80

60

40

20

0

離職にかかるコスト

社員の生産性社員の意識やニーズ

人件費内部昇進の評価

人材のROI

CEOの

割合

情報ギャップ:CEOは、情報は重要であるが包括的な報告を受けていないと考えている

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 企業はどうすればより戦略的な人材マネジメントができるだろうか。まず着手すべきなのは、より良いデータを収集することである。

 社員の離職によってもたらされる費用、社員の生産性、社員の意識やニーズなどを改善するための判断を求められた時に、その意思決定をサポートする十分なデータがないとCEOは感じている。全体の4分の3のCEOが、人材に対する投資効果を見極めるROIデータが非常に重要であると認識している中、現在入手している分析結果やデータが十分に包括的であると回答したCEOは16%にすぎない。これがまさに解決すべき情報ギャップである。

 質の高いデータや情報が不足していると、将来の人材ニーズの予測を戦略的に立案することが非常に難しくなる。つまり、暗闇の中、手探りでビジネスをしているようなものなのだ。

社員エンゲージメントの将来 経営幹部が社員のモチベーションとリテンション策など人事施策との相関を理解するために、社員エンゲージメントに関する分析は効果的である。つまり、業績に直接影響する社員エンゲージメントを引き出せるような組織能力を持つことによって、戦略とエンゲージメントとのつながりを強めることだ。

 CorporateExecutiveBoardが実施した調査によると、エンゲージメントの高い社員は低い社員よりも57%の割合で高い業績を出し、87%の割合で離職の可能性が低かった*1。しかし昨今の景気低迷の影響で、高い業績を出す社員のエンゲージメントレベルが急激に低下していることがPwCの調査によって明らかになっている*2。

 そのため先見性のある企業は成長を謳歌できる。企業価値に多大な影響を与えるほど重要な役割を担う自社のポジションを先進企業は特定できている。またデータ分析や予測モデルをリテンション策の立案や採用、生産性活動に役立てている。以下はその例示である。

• 次年度の社員の離職可能性を定量化した社員ごとのスコア

• エンゲージメントと業績の改善状況および特定の部課での業績創出の阻害要因を特定するための社員エンゲージメントサーベイの利用

• 社員エンゲージメントの状態が直接的に影響を及ぼす顧客満足や製品品質といった業績指標のモニタリング

13

*1出典: Corporate Executive Board, The Role of Employee Engagement in the

Return to Growth, Bloomberg Businessweek, August 2010*2出典:PwC Saratogaによるデータ

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14 第15回 世界CEO意識調査

人材の発掘と獲得

“現実を直視しよう。今後5年~7年の間に、ベビーブーマー世代の8,000万人が退職し、4,000万人のジェネレーションXと交代する。つまり、退職世代を引き継ぐ次世代の割合が2対1になるということだ。もしこの変化に備えるならば、今から次世代にあたる社員層の育成を開始すべきだろう。”

The DIRECTV Group Inc. (米国) 社長兼CEO Michael White

 CEOは、グローバル経済の中で競争していくためにふさわしい人材がいない状態に危機感を持っている。CEOの半数以上は、人材不足が企業の成長の足を引っ張ることを恐れている。一方で、今後3年間に自社が必要とする優秀な人材を獲得することについて、“大きな自信を持っている”と回答したCEOは30%にすぎない。

 多くの企業では、人材を競合他社から採用することや駐在員を派遣することで必要な人材ニーズを満たすことに依存している。企業が直面する人材の需給ギャップの問題に対して、上述の方策だけでは将来的にまかないきれない。

 企業の成長戦略を踏まえると、自社にとって最も価値のある人材に対する集中的な投資や施策を強化する必要がある。新たな市場を開拓していくならば、社員のマインドセットもよりグローバルにならなければならない。また組織階層がフラットになることは、より多くの権限を社員が持つことを意味する。チームワークを促す仕組みや最新のテクノロジーは社内のイノベーションとグローバルな職場環境を支えることになるが、同時に課題を提起する。したがって、バーチャルな環境で世界の同僚と協働し、なおかつリーダーシップを発揮できるような社員が求められてくるのである。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

備考:「変化なし」の回答は掲載していない

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

医薬およびライフサイエンス

保険

テクノロジー

ヘルスケア

工業製品

自動車

消費財

エンターテインメントおよびメディア

グローバル(全体平均)

林業、製紙および包装

銀行および資本市場

建設またはエンジニアリング

輸送および物流

化学

プロフェッショナルサービス

接客業およびレジャー

金属

通信

資産運用

小売

それぞれの業界には固有の人材要件があるが、スキルギャップの課題に変わりはない。

質問:一般的に、業界内で従業員を雇用するのがより困難となったか、より容易となったか、あるいは以前と変わりないか。

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 CEOは、グローバル経済の中で競争していくためにふさわしい人材がいない状態に危機感を持っている。CEOの半数以上は、人材不足が企業の成長の足を引っ張ることを恐れている。一方で、今後3年間に自社が必要とする優秀な人材を獲得することについて、“大きな自信を持っている”と回答したCEOは30%にすぎない。

 多くの企業では、人材を競合他社から採用することや駐在員を派遣することで必要な人材ニーズを満たすことに依存している。企業が直面する人材の需給ギャップの問題に対して、上述の方策だけでは将来的にまかないきれない。

 企業の成長戦略を踏まえると、自社にとって最も価値のある人材に対する集中的な投資や施策を強化する必要がある。新たな市場を開拓していくならば、社員のマインドセットもよりグローバルにならなければならない。また組織階層がフラットになることは、より多くの権限を社員が持つことを意味する。チームワークを促す仕組みや最新のテクノロジーは社内のイノベーションとグローバルな職場環境を支えることになるが、同時に課題を提起する。したがって、バーチャルな環境で世界の同僚と協働し、なおかつリーダーシップを発揮できるような社員が求められてくるのである。

15

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

備考:「変化なし」の回答は掲載していない

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

医薬およびライフサイエンス

保険

テクノロジー

ヘルスケア

工業製品

自動車

消費財

エンターテインメントおよびメディア

グローバル(全体平均)

林業、製紙および包装

銀行および資本市場

建設またはエンジニアリング

輸送および物流

化学

プロフェッショナルサービス

接客業およびレジャー

金属

通信

資産運用

小売

468

3022

4118

3510

3613

3131

4018

4411

4310

4312

4310

479

3417

4714

4910

338

516

2218

4812

4014

それぞれの業界には固有の人材要件があるが、スキルギャップの課題に変わりはない。

質問:一般的に、業界内で従業員を雇用するのがより困難となったか、より容易となったか、あるいは以前と変わりないか。

より容易 より困難

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16 第15回 世界CEO意識調査

 先進的な企業では、人材開発の社内の仕組みを見直し、育成と内部登用によって将来の幹部候補を輩出するオプションを模索し始めている。実際、社内大学の創設が相次いでいる。企業は長期的な視点から人材育成を見つめなおし、また労働力への投資という観点で現地政府や財団と提携している。

 多くのCEOは、会社という範疇を越えてスキルを向上させる使命が企業にはあると考えている。78%のCEOは労働力に対して直接的な投資を行っていると回答しており、約半数以上のCEOは、職業訓練や成人教育プログラムなど正規の学校教育に投資をしていると指摘している。

“VTBBankの企業内大学は6年前に設立された。以来、企業内大学はミドルマネジャーにとっての登竜門となっている。”

VTB Bank OAO CEO Andrey Kostin

CEOは進出先の現地人材を採用し、また社内での育成と内部登用を優先している

質問:今後3年間のグローバル全体の要員計画について、次の文章のうち発生する可能性の高い方はどちらか。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

スキル不足を回避するために本国から新興市場へと

経験者を派遣する計画をしている

社内での人材育成や

内部登用を計画している

人材ニーズがあれば、主に進出先の

現地人材の採用を計画している

人材の需給ギャップを埋める

質問: ここ3年間で、経営戦略を実現するために必要な人材を獲得する自信はどの程度あるか。

通信

銀行および資本市場

建設またはエンジニアリング

資産運用

化学

プロフェッショナルサービス

グローバル(全体平均)

自動車

医薬およびライフサイエンス

接客業およびレジャー

輸送および物流

保険

消費財

エンタテインメントおよびメディア

小売

金属

工業製品

林業、製紙および包装

テクノロジー

ヘルスケア

30

23

27

25

26

24

27

30

29

28

28

33

25

31

39

25

40

22

35

27

0 10 50 60%403020

“私たちは新卒で技術力のありそうな人材の獲得を始めている。人材の需要は増えているのに、鉱山学校や鉱山エンジニアの数は非常に少ない。”

Newmont Mining Corporation 社長兼CEO Richard O’Brien

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17

 先進的な企業では、人材開発の社内の仕組みを見直し、育成と内部登用によって将来の幹部候補を輩出するオプションを模索し始めている。実際、社内大学の創設が相次いでいる。企業は長期的な視点から人材育成を見つめなおし、また労働力への投資という観点で現地政府や財団と提携している。

 多くのCEOは、会社という範疇を越えてスキルを向上させる使命が企業にはあると考えている。78%のCEOは労働力に対して直接的な投資を行っていると回答しており、約半数以上のCEOは、職業訓練や成人教育プログラムなど正規の学校教育に投資をしていると指摘している。

CEOは進出先の現地人材を採用し、また社内での育成と内部登用を優先している

質問:今後3年間のグローバル全体の要員計画について、次の文章のうち発生する可能性の高い方はどちらか。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

53 16

67 24

70 19

■■■■■ ■■■■■

スキル不足を回避するために本国から新興市場へと

経験者を派遣する計画をしている

社内での人材育成や

内部登用を計画している

人材ニーズがあれば、主に進出先の

現地人材の採用を計画している

スキル不足を回避するために新興市場から本国へと

経験者を異動させる計画をしている

社外からの経験者の採用を

計画している

人材ニーズを満たすために、

人材の国際間異動を計画している

わからない

31%

8%

11%

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18 第15回 世界CEO意識調査

 グローバルと比較すると、インドのCEOたちはインド国内で広く認識されているスキルギャップにも関わらず、人材の獲得競争に関してそれほど心配していない。約66%は今後3年間で自社の戦略を実現するために必要な人材を集めるのに“強い自信を持っている”。他方、中国のCEOで強い自信を持っているのは38%であり、グローバル全体では30%であり、インドのCEOほど楽観視していない。

 人材の獲得競争が中国ビジネスに与えている打撃によって、コストが急激に上昇するとともに、戦略そのものも変更を余儀なくされている。一方インドでは、社内の重要な戦略的イニシアチブが中止ないしは遅延に至ったと回答したCEOが多かった。

 明らかなのは、中国でもインドでも優秀な人材の獲得に関連する課題がビジネスに大きなインパクトを持っていることである。両国の人口規模や優秀な人材の供給源になる将来的な見込みといった長所も関係なくなりつつあるのだ。

“企業は独自の問題解決方法を見つけないといけない。弊社は700名~800名の社員をインドで抱えており、約100名のグローバルリーダー候補の人材プールを作ろうと努力している。そのうち60名はインド出身で、残りの40名は世界各国から選抜される。このグローバルリーダー候補は世界各地へ派遣される。この3年以内に、このグローバル人材プールが出来上がることを願っている。”

Bharat Forge Ltd.(インド) マネージングディレクター兼会長 Baba Kalyani

24

41

31

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

人材の獲得競争により、グローバル企業のコストは明らかに上昇している

質問:過去1年間に、あなたの企業は人材不足により自社の成長や収益性に影響を受けたか、以下の選択肢よりお答え下さい。

31

29

26

33

54

45

53

人材に関するコストが予想以上に増加した

効果的なイノベーションを起こすことができなかった

市場の好機を追求することができなかった

社内の重要な戦略的イニシアチブが中止ないしは遅延した

0 10 50% 60%403020

中国 グローバル インド

43

39

中国とインドの比較

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 グローバルと比較すると、インドのCEOたちはインド国内で広く認識されているスキルギャップにも関わらず、人材の獲得競争に関してそれほど心配していない。約66%は今後3年間で自社の戦略を実現するために必要な人材を集めるのに“強い自信を持っている”。他方、中国のCEOで強い自信を持っているのは38%であり、グローバル全体では30%であり、インドのCEOほど楽観視していない。

 人材の獲得競争が中国ビジネスに与えている打撃によって、コストが急激に上昇するとともに、戦略そのものも変更を余儀なくされている。一方インドでは、社内の重要な戦略的イニシアチブが中止ないしは遅延に至ったと回答したCEOが多かった。

 明らかなのは、中国でもインドでも優秀な人材の獲得に関連する課題がビジネスに大きなインパクトを持っていることである。両国の人口規模や優秀な人材の供給源になる将来的な見込みといった長所も関係なくなりつつあるのだ。

“企業は独自の問題解決方法を見つけないといけない。弊社は700名~800名の社員をインドで抱えており、約100名のグローバルリーダー候補の人材プールを作ろうと努力している。そのうち60名はインド出身で、残りの40名は世界各国から選抜される。このグローバルリーダー候補は世界各地へ派遣される。この3年以内に、このグローバル人材プールが出来上がることを願っている。”

Bharat Forge Ltd.(インド) マネージングディレクター兼会長 Baba Kalyani

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20 第15回 世界CEO意識調査

グローバル人材のモビリティ  半数以上のCEOは、スキル不足を解消するために、経験豊富な社員を本国から新興国へ派遣する予定でいる。これが考え抜かれた施策であるならば、そうした国際異動は本人の潜在的なリーダーシップスキルを引き出し、かつ現地人材に対して重要なノウハウやスキルを移転するのに大いに役立つだろう。

 しかしながら、有能なマネジャーを海外へ派遣することは容易でも安価でもない。国際異動には多大なコストが伴い、また一国にとどまらない広範囲の人材戦略が背景にないとうまく機能しない。通常、引越・給与・福利厚生など全てを換算した駐在員派遣コストは、現地人材の人件費に比べて3~4倍のコストとなる。また、企業にとって事業成長が予測される国が、本国社員にとって必ずしも魅力ある職場であるとは限らない。また、海外旅行や海外での仕事が当たり前となっている70年代後半から90年代に生まれたいわゆるミレニアル世代でさえ、派遣先として新興国は想定していない*5。

 また、企業は経営ポジションや専門職ポジションの配置を駐在員派遣に頼りすぎてはいけない。なぜなら、現地人材のキャリア開発機会を奪ってしまう結果、離職の原因となる可能性が高い。29%のCEOは、シニアマネジャークラスを本国から新興国へ異動させていると回答している。ただし、18%のCEOのみが、今後も本国からの駐在員派遣を続けると回答している。“進出先のビジネスを支える優秀な現地人材を採用する必要がある。

駐在員派遣は多大な費用を要するため、多数の駐在員を海外へ派遣することの妥当性は低い。だからこそ、企業は現地人材を発掘・育成しながら引き留める策を講じる必要がある。こうした市場は広範囲に及びさまざまな生活環境にあるが、残念ながら最近のプロフェッショナルのほとんど、特に家族がいる場合には、都会暮らしを好む。だから、労働環境が過酷な市場に投入する人材を見つけることが年々難しくなってきている。”

Rio Tinto(英国) 社長 Tom Albanese

*5Millennials at work:Reshaping the workplace, PwC, December 2011

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 半数以上のCEOは、スキル不足を解消するために、経験豊富な社員を本国から新興国へ派遣する予定でいる。これが考え抜かれた施策であるならば、そうした国際異動は本人の潜在的なリーダーシップスキルを引き出し、かつ現地人材に対して重要なノウハウやスキルを移転するのに大いに役立つだろう。

 しかしながら、有能なマネジャーを海外へ派遣することは容易でも安価でもない。国際異動には多大なコストが伴い、また一国にとどまらない広範囲の人材戦略が背景にないとうまく機能しない。通常、引越・給与・福利厚生など全てを換算した駐在員派遣コストは、現地人材の人件費に比べて3~4倍のコストとなる。また、企業にとって事業成長が予測される国が、本国社員にとって必ずしも魅力ある職場であるとは限らない。また、海外旅行や海外での仕事が当たり前となっている70年代後半から90年代に生まれたいわゆるミレニアル世代でさえ、派遣先として新興国は想定していない*5。

 また、企業は経営ポジションや専門職ポジションの配置を駐在員派遣に頼りすぎてはいけない。なぜなら、現地人材のキャリア開発機会を奪ってしまう結果、離職の原因となる可能性が高い。29%のCEOは、シニアマネジャークラスを本国から新興国へ異動させていると回答している。ただし、18%のCEOのみが、今後も本国からの駐在員派遣を続けると回答している。

 逆の異動、つまり新興国の優秀な人材を先進国に短期間出向させて本社からのお墨付きを現地人材に与えるような施策は、リテンションおよび育成目的としては効果的である。実際、多くの企業は短期出向を優先度の高い市場におけるスキル不足と長期派遣のコスト問題を解決する手段として活用している。同じ地域内での異動のケースにはなるが、中には海外出張や通勤形態の特例を認めることによって、本人の希望に合わせた短期出向を実現する企業もある。先進企業では、出向期間よりもむしろ短期出向に必要なタスクや成果を重視して意思決定を行っている。

 国際的な人材獲得競争の高まりを感じている政府にとっては、また別の問題がある。インドと中国では国民のスキルを向上させるために、教育機会を広く開放し、また海外で活躍する留学生や起業家を本国へ呼び戻す施策を講じている。またシンガポールとマレーシアにおいては、経済成長を支えるために、高いスキルをもつ外国人を長期にわたって優遇する包括的な仕組みを展開している。英国では、自国で活動する革新的な企業に対して研究開発費の税額控除といった改革を行っている。要するに、政治家や官僚は優秀な人材の国際異動が経済競争力に与えるインパクトを認識し、各国政府が優秀な人材の獲得に動き出しているのである*6。こうした政府の政策は、優秀な人材の国際異動をさらに促し、企業が立案する人材戦略にも大きな影響を与えることが予想される。

“私たちはギャップを埋めるためだけに、海外異動人事を行うことは避けようと考えている。しかしながら、それを避けることができない時もある。”

Bayer 会長 Marijn Dekkers

*6Papademtriou et alによると、人材のモビリティを組織ぐるみで促進しようとする国の数は、2001年には数か国だったが

2008年には20数ヵ国にまで増加している。‘Talent in the 21st Century Economy’ Migration Policy Institute 2008年11月

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22 第15回 世界CEO意識調査

43%CEO の 43%は、

人材に関するコストが

予想以上に上昇して

いると述べている。

 規制や公的プレッシャーがあろうとなかろうと、世界の多くの地域において報酬モデルが企業の目的に合致しているように見えない。これはリーマンショック後の金融業界に向けられた批判に限らず、様々な業界で問題が起き始めているのである。

 多くの企業は自社の報酬戦略が高い業績を生む組織文化の源泉になっていると信じている。しかし、そうした企業のほとんどは、本当に自社が必要な優秀な人材を引き留めることができているのか、どんなレベルの人材がどんな理由でどのように離職に至っているのかは全く把握できていない。

 インセンティブスキームの内容が、貴重な優秀な人材のモチベーションを高めることに役立っていないことが少なくない。企業全体で共通の報酬モデルを適用している場合、市場競争環境や新興国での文化的規範などの違いが見過ごされている。人口分布の違いも報酬戦略を再考するきっかけとなるべきである。特にミレニアル世代については、これまでの世代とは異なるニーズやモチベーションで物事を判断するようになっている。

 実のところ、ほとんどの企業は、自社の優秀な人材の定義を持ち合わせていないどころか、彼らのエンゲージメントレベルが高いのか、適切なインセンティブ・報酬モデルが適用されているのか、優秀な人材の離職がビジネスに与えるインパクトの大きさがどれだけあるのか、全く把握していない。つまり、優秀な人材を失う一方で、平均的な人材にインセンティブを過度に支払うといった矛盾を企業にもたらしている。

 欧米では世論によって規制がますます強まっている。欧米の国民は、政治家や官僚が目に見える変化をもたらすことに期待しており、具体的には、金融危機をもたらした過剰なボーナス支給に対する規制を待ち望んでいる。役員報酬と一般社員に対する処遇との間に広がる溝に対する世論の反応は、いまだに株主の記憶に残っている。

53%CEO の 53%は、

重要なスキルが不足

していることを

懸念している。

報酬戦略の再構築

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23

 全てのリスクを予測することなどできない。日本での震災が想定外の出来事をはるかに超えたものであった一方で、二次災害として原子力発電所の危機が起きることを誰が予測できたであろうか。アイスランドの小さな火山の噴火が遠く離れた場所にいた海外出張者たちをあれだけ困らせることを予想できただろうか。「アラブの春」があれだけ急激に熱を帯び、短期間に多くの社員を本国へ帰国させないといけなくなるとは誰も考えなかった。CEOの20%以上は、中東の混乱がビジネスに影響を与えたと述べている。HR部門は、実際に予期せぬ出来事を予測することなどできるのだろうか。

 また、賄賂や汚職に対する対応が変化している。成長の速い地域でビジネスをするということは、インセンティブや意思決定において多様な対応方法があることを意味している。文化的差異を過小評価してはいけない。新興国の社員が国際ビジネスのルールを理解していると言い切れるだろうか?彼らにとって常識となっている行動をどのように変えさせることができるだろうか?

 複雑性や不確実性、変化に対してなすべきことは一体何であろうか?

 金融サービスや石油産業といった規制業界においては、明快な業績管理が求められている。過去から学んだ教訓とそれに対する具体的なアクションを国民は期待している。また取締役会は別の方法でリスクに対応している。実際、HR部門のトップに弁護士が任命されるケースや企業に対する評判をマネジメントする責任者が表れている。

 ただし、根本的なところは変わっていない。リスクへの対応にはシステムとプロセスおよび文書化が必要であるが、それ以上に人々が正しいことを行うことが求められる。求められた時に正しいことをできる人材こそが、企業の求める結果を生み出すことができる。これこそが、HR部門が達成すべきことなのである。

29%29%の企業が、日本の

大震災と原子炉問題に

影響を受けた。

リスクの高いビジネス

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24 第15回 世界CEO意識調査

企業は行動に移れるか?

人材のギャップを埋める

質問:グローバル人材の将来に関する次の文章について、どの程度同意するか、あるいは同意しないか。

母集団:第15回調査全回答者(1,258人)

出典:第15回 世界CEO意識調査(2012)

22

32

38

14

スキル不足を解決するために、

3年以内に、顕著な技術投資を行う

スキル不足を解決するために、

3年以内に、他企業と提携する

スキル不足を解決するために、

3年以内に、他企業を買収する

3 年以内に、優秀な人材を獲得しやすい場所へ

事業を移転する

0 10 50 90807060 100%403020

 CEOたちは人材をマネジメントするために自社の戦略を変更すると述べている。しかし、その戦略はこれからの10年の間に必要とされる革新性と競争力を生み出す戦略となりうるだろうか。例えば、CEOの3分の2以上は優秀な人材を獲得しやすい場所へ事業を移転することは考えていない。少数のCEOだけが、スキル不足を解決するために他企業の買収や提携を計画している。他方、CEOの5分の1はこうした選択肢を考えたことさえないことを示唆している。

 企業が成長を実現するには、人材なくしてその目標を達成することはできない。将来の要員計画を確かなデータをもって戦略的に考えている企業には、決定的な競争優位性を手に入れるチャンスがある。

 適切な人材マネジメントを行うことは、人材に関わるさまざまな問題を未然に防ぎ、より多くの事業機会を手にする可能性を高めてくれる。

人材マネジメントは、どんな意味があるのか? 企業の規模や形態、現在直面している人材に関する問題がどんな内容であれ、人材マネジメントの基本は4つに集約される。

事業計画と人材戦略の整合性 –人材戦略が経営計画および企業の価値創造に直接的に紐付くべきである。整合性のない人材戦略は見直すべきである。

将来を見据える –企業がどこにいるかではなく、どこに向かっているかに焦点を当てること。人材育成の仕組みが必要な時に必要な人材を供給するか否かを考え続けることが大事だ。

重要な役職への配慮 – 企業の価値を高める(もしくは著しく低める)極めて重要なポジションに適切な能力をもった人材を配置すべきだ。

財務指標への意識 –業績の計測、ベンチマーキングおよび分析を活動の一部として取り入れる。つまり、人材へのROIに目を向けるということである。

わからない

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25%

26%

19%

同意するないし強く同意する

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 CEOたちは人材をマネジメントするために自社の戦略を変更すると述べている。しかし、その戦略はこれからの10年の間に必要とされる革新性と競争力を生み出す戦略となりうるだろうか。例えば、CEOの3分の2以上は優秀な人材を獲得しやすい場所へ事業を移転することは考えていない。少数のCEOだけが、スキル不足を解決するために他企業の買収や提携を計画している。他方、CEOの5分の1はこうした選択肢を考えたことさえないことを示唆している。

 企業が成長を実現するには、人材なくしてその目標を達成することはできない。将来の要員計画を確かなデータをもって戦略的に考えている企業には、決定的な競争優位性を手に入れるチャンスがある。

 適切な人材マネジメントを行うことは、人材に関わるさまざまな問題を未然に防ぎ、より多くの事業機会を手にする可能性を高めてくれる。

人材マネジメントは、どんな意味があるのか? 企業の規模や形態、現在直面している人材に関する問題がどんな内容であれ、人材マネジメントの基本は4つに集約される。

事業計画と人材戦略の整合性 –人材戦略が経営計画および企業の価値創造に直接的に紐付くべきである。整合性のない人材戦略は見直すべきである。

将来を見据える –企業がどこにいるかではなく、どこに向かっているかに焦点を当てること。人材育成の仕組みが必要な時に必要な人材を供給するか否かを考え続けることが大事だ。

重要な役職への配慮 – 企業の価値を高める(もしくは著しく低める)極めて重要なポジションに適切な能力をもった人材を配置すべきだ。

財務指標への意識 –業績の計測、ベンチマーキングおよび分析を活動の一部として取り入れる。つまり、人材へのROIに目を向けるということである。

人材マネジメントを再考する必要があるか? 現在の人材マネジメント計画は、目的に合致しているか。以下の質問への回答を考えてみて下さい。

• 企業戦略を迅速かつ効果的に実行する人材がいる• 現在および今後3年~5年の間に、適切なスキル、知識および経験をもった人材を必要なポジションに配置できるか

• 将来の幹部候補を育成する仕組みが誤っていた場合、どれだけコストが発生するか

• どんな機能が企業価値を最も高めるか、そんな機能にどんな人材を配置するか、離職のコストはどれくらいか

• こうした重要な役割を担う人材のモチベーションをどのように高め、業績に報いるか。能力のない人材に過剰な報酬を与えていないか。

• グローバルな人材異動プログラムは本当に戦略的か、それとも異動の個別対応にとどまっているだけか

• どのようにすれば人材の評価基準が業界内の競合他社を上回るのか。人材のROIは十分に優れたものか

• 人事機能はどれほど効果的か• 最後に、人材戦略の一つひとつが事業計画や利益創出に直接的に貢献しているか

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26 第15回 世界CEO意識調査

価値を生む人材マネジメント お問い合わせ

プライスウォーターハウスクーパース株式会社

山本 紳也パートナーTel:080-1116-9054E-mail:[email protected]

佐々木 亮輔ディレクターTel:080-4851-8678E-mail:[email protected]

Implementation

育成開発リーダーシップ開発

コーチングおよびモニタリング

技術および機能ごとの学習

パフォーマンスマネジメント

採用雇用ブランド• 社員の特徴• 人材獲得 • 要員計画• ダイバーシティ•

報酬とリテンション

エンゲージメントおよび組織文化

報酬、年金およびインセンティブの合計

正当な評価•

配置国際異動• サクセッションプラン• キャリアサイクル• リストラ•

人材マネジメントプロセスおよびシステム

人事機能 • 組織設計• コミュニケーション• 人材マネジメント• 人事制度•

経験と専門性

価値を創造する重要な

役割

在的タレント

優秀な人材の獲得と

将来性

Business strategy and plan

Growth• Emerging • marketsInnovation• Regulation, • compliance & riskReduce costs• Operational • efficiencyTransactions•

成果主義 重要な役割

重要

なス キ ルニーズ

高パフォーマンス文化を

醸成する人材

経営戦略および事業計画

• 成長• 新興市場• イノベーション• 規制、コンプライアンスおよびリスク• コスト削減• 生産性• 商取引

人材を通じた価値創造

• 能力ギャップのリスクマネジメント

• 継続的なリーダーシップ

• 人材への集中投資

• 人材獲得競争• 経営者の評判• イノベーションの活用

実行

測定、分析、報告

人材マネジメントの成果• 社員エンゲージメントの向上

• パフォーマンスの向上• ダイバーシティ• リーダーシップの効果• 人材の定着• 優秀な人材の能力向上

• 重要な機能のサクセッションマネジメント

• 重要な役割のマネジメント

• イノベーションの文化• 学習組織の文化• 社内コミュニケーションおよび褒賞

HR 部門の成果

• メリハリある投資、プロセスおよび施策

• 事業計画に直接的に関わる活動

• 人材に関するガバナンスと現状分析

人材戦略

• 社員、優秀な人材および事業変化に対応するビジネスの優先付け

• 社員の経験

戦略的人材計画

• 要員計画の詳細な将来シナリオ分析および事業計画に基づく要員予測

• 事業計画と整合性のある詳細な人員計画

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お問い合わせ

プライスウォーターハウスクーパース株式会社

山本 紳也パートナーTel:080-1116-9054E-mail:[email protected]

佐々木 亮輔ディレクターTel:080-4851-8678E-mail:[email protected]

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PwC は、世界 157 カ国 に及ぶグローバルネットワークに 184,000 人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創造を支援しています。詳細は www.pwc.com/jp をご覧ください。 PwC Japan は、あらた監査法人、京都監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は PwC グローバルネットワークの日本におけるメンバーファーム、またはその指定子会社であり、それぞれ独立した別法人として業務を行っています。本報告書は、PwC メンバーファームが 2012 年 5 月に発行した『Delivering results through talent The HR challenge in a volatile world』を翻訳したものです。オリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。 http://www.pwc.com/gx/en/hr-management-services/delivering-results-through-talent/index.jhtml 管理番号:M201205-3

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