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(575)-79一 社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: 韓国と日本の比較分析※ The Comparison of Welfare-Pluralism between Korea 韓国・梨花女子大学 社会科学研究所 Research InstitUte fbr Social Science, Ewha Womans Abstract Advanced European countries began to debate the‘crisis o of welfare state’eamestly in l 970’s~1980’s due to a world-wide oil shock of 1973. But Japanese govemment declared the‘first stood fbr‘building of welfare state’from 1973. But, Japan als oll of welfare society’from the‘welfare state’since the middl formulate into the distinct form of‘Japanese Welfare Socieげ RINCHO(The Second Limited Administrative Reform Counci Korean welfare policy was underdeveloped until l 997. Korea w nancial crisis, and received a relief fund from IMF in 1997. infbrced the welfare policy as the countermove to the social cr crisis. It is called the‘Productive Welfare’. This paper compares‘Japanese Welfare Society’with t Korea, alld illtends to compare the substances of thes Nevertheless, both of welfare policy models claim that they s but they are rested on the Neo-Liberalism, in fact. From these points of view, this paper examines(1)the differ welfare society, and also compares Welfare Pluralism and Ne and contents of welfare reform in Japan and Korea,(3)Social participation of voluntary sector in social welfare service of 1(砂wo74:welfare pluralism, Neo-liberalism, welfare state, we welfare, Korea, Japan ※本稿は2000年韓国学術振興財団の研究費により研究されたものである。(KRF-2000-037 -CAOO27)

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(575)-79一

社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究:                    韓国と日本の比較分析※

        The Comparison of Welfare-Pluralism between Korea and Japan

                  韓国・梨花女子大学 社会科学研究所 鄭    美  愛

       Research InstitUte fbr Social Science, Ewha Womans Universlty Jung, Miae

Abstract

 Advanced European countries began to debate the‘crisis of welfare state’or the‘end

of welfare state’eamestly in l 970’s~1980’s due to a world-wide depression started from

oil shock of 1973. But Japanese govemment declared the‘first year of welfare state’and

stood fbr‘building of welfare state’from 1973. But, Japan also tumed to the‘realizati

oll of welfare society’from the‘welfare state’since the middle of l970’s, and tried to

formulate into the distinct form of‘Japanese Welfare Socieげwith the start of the 2nd

RINCHO(The Second Limited Administrative Reform Council)in l 981.

  Korean welfare policy was underdeveloped until l 997. Korea was confronted with a fi-

nancial crisis, and received a relief fund from IMF in 1997. The Korean govemment re-

infbrced the welfare policy as the countermove to the social crisis caused by the financial

crisis. It is called the‘Productive Welfare’.

  This paper compares‘Japanese Welfare Society’with the‘Productive Welfare’of

Korea, alld illtends to compare the substances of these welfare policy models.

Nevertheless, both of welfare policy models claim that they stand fbr Welfare Pluralism,

but they are rested on the Neo-Liberalism, in fact.

  From these points of view, this paper examines(1)the differences of welfare state and

welfare society, and also compares Welfare Pluralism and Neo-Liberalism,(2)the process

and contents of welfare reform in Japan and Korea,(3)Social Expenditure Data,(4)the

participation of voluntary sector in social welfare service of two states.

 1(砂wo74:welfare pluralism, Neo-liberalism, welfare state, welfare society, productive

welfare, Korea, Japan

※本稿は2000年韓国学術振興財団の研究費により研究されたものである。(KRF-2000-037

 -CAOO27)

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一80-(576) 東亜経済研究 第62巻 第4号

1.序論

 第2次世界大戦後,西欧先進資本主義国家を中心に展開した福祉国家化の

進展は,第1次石油危機を契機に各国の財政危機が顕在化するに伴い,福祉

国家に対する批判,さらにそれに対する否定にまで進み,反福祉国家の動き

として表れた。西欧で社会福祉政策の飽和による「福祉国家の危機」,ある

いは「福祉国家の終焉」が公論となり始めた頃,福祉後発国である日本は

1973年に政府自ら「福祉元年」を宣言し,福祉国家の建設のための制度化に

乗り出した。ところが,日本の福祉元年は,あいにく第1次石油危機が起こっ

た年であり,そのため,日本の福祉国家建設という政策目標は出発してまも

なく新自由主義者の批判にぶつかることになった。1970年代半ばに入ると,

早くも福祉国家の建設という国家目標の是正を求める声が出始めたのである。

その具体的な表現が「日本型福祉社会論」である。

 一方,福祉後発国ともいえないくらい,福祉の荒蕪地に近かった韓国は,

西欧で福祉国家に対する反動(welfare backlash)により福祉社会への転換

が本格的に制度化し始めた時点でも,福祉国家としての基本的な法制さえ整

備されていない状態にとどまっていた。そのような後進的福祉政策に少し変

化が出始めたのは,(内容の充実や制度の実現は別として)金泳三政権

(1993年2月一一 1998年2月,いわゆる「文民政府」)に入ってからである。金

泳三政権期における福祉政策の特徴は,政府が毎年社会福祉改革案を発表し,

「韓国型社会福祉母型」の開発を追求する政策案を提示したことである。文

民政府は1995年国民福祉企画団を設置し,「暮らしの質の世界化のための国

民福祉基本構i想」を発表した1)。ところが,「国民福祉基本構想」は実質的

な社会福祉政策に繋がらず,ただ宣言だけに終わってしまった。この構想は,

「国民の政府」における「暮らしの質向上企画団」による「生産的福祉」と

1)1995年の「暮らしの質の世界化のための国民福祉基本構想」では,後に金大中政権

 (1998年2月~2003年2月,いわゆる「国民の政府」)の福祉政策を圧縮的に示す「生

 産的福祉」という概念が初めて提示された。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究 (577)-81一

して具体化するようになる。

 GoodmenとPengは,日本,韓国,台湾の社会福祉の比較分析を通じ,韓

国と台湾の福祉体制が日本と類似していると主張した。彼らは日本の福祉を

単純にいって,国家福祉に対する必要性を否定するように考えられる家族福

祉体制,選別的で若干残余的な社会保険中心の制度,核心労働者層に対する

企業福祉制度の三つを特徴としてあげられるとし,東アジア福祉モデルは

「日本型」であると主張した2>。彼らの主張のように,韓国はこれまで日本

の福祉政策を大々的に導入し,それに追随してきた。韓国の福祉政策を立て

る際に,日本はそのモデルになってきており,その傾向は現在でもそうであ

る。本稿は,韓国と日本における福祉政策の現住所を明らかにすることに目

的がある。そのため,本研究では韓国と日本の福祉基調を圧縮的に表してい

る「生産的福祉論3)」と「日本型福祉論」を比較する。両者はともに政府が

表面的には福祉多元主義を掲げているものの,実質的な内容は新自由主義に

他ならないのではないのかというのが本研究の問題意識である4)。

 以下においては,まず,福祉国家と福祉社会の概念的相違を通じて福祉多

元主義について理論的に検討する。ついで,韓国と日本の福祉改革の過程と

その内容を,韓国における「国民の政府」の「生産的福祉論」と,日本の第

2臨調発足以降の「日本型福祉社会論」及び1980年代後半から唱えられてい

2)Goodman, Rodger and Ito Peng.“The East Asian Welfare State:Peripatetic Learning,

 Adaptive Change and Nation Building.”in Esping-Andersen, G. ed. Melfare State in

 Transition:National Adaptations in Global Econo〃2ies, London:Sage,1996, P.216.

3)韓国の「生産的福祉」に対する詳細は,山口大学東亜経済学会『東亜経済研究』第

 62巻第2号(平成15年7月)掲載の拙稿「韓国の金大中政権における新自由主義的経

 済改革と生産的福祉の意味」を参照されたい。また,本稿は上記の論文をもとにそれ

 に日本の事例を加え,補完したものであるため,韓国の「生産的福祉」に関する記述

 は,上記の論文と重なるところが多くあることを予め断っておく。

4)福祉多元主義は新自由主義の変種であり,新自由主義と変わらないと評価する見解も

 あるが,本稿では福祉財源に対する財源調達者としての国家責任と,公私協力におけ

 る民間非営利部門の役割を重視するという点から,福祉多元主義を新自由主義より発

 展したものとして評価する。福祉多元主義と新自由主義の相違については後述する。

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一82-(578) 東亜経済研究 第62巻 第4号

る「参加型福祉社会論」,及び最近の社会保障構造改革を通じて具体的に検

討する。さらに,福祉多元主義と新自由主義の違いを中心に「生産的福祉論」

と「日本型福祉論」を比較することにより,両者の共通点と相違点を明らか

にしようとする。そのため,第…に,社会保障費支出推移及びその内訳を調

べ,財源調達者としての国家の役割を考察する。第二に,福祉領域における

ボランタリー・セクター(voluntary sector)の役割や市民の参加を分析す

る。最後に,こうした研究に基づき,韓国と日本の社会福祉政策が「真」の

「福祉社会」を志向しているか否かに対する評価を行う。

皿.理論的枠組としての福祉多元主義

1.福祉国家と福祉社会

 第2次世界大戦以降,イギリスを中心とした西欧先進資本主義国家では,

ベヴァリッジとケインズの論理に基づいて,「福祉国家」体制を確立していっ

た。ベヴァリッジは,市場での所得不平等を前提に国家が国民の最低限の生

活を保障しなければならないというナショナル・ミニマムの論理を定着させ

ており,さらにケインズは政府の公共投資の拡大によってこそ有効な需要の

創出と完全雇用が実現できるとし,政府の意図的な市場介入を理論的に体系

化した。

 しかし,彼らの理論的枠を超え,イギリスのほか,ほとんどの国において,

公的社会保障支出は経済成長率を上回るほど拡大し,国民経済に占める社会

保障財政の比重は高まった。ケインズとべヴァリッジが当初予測した水準を

はるかに超える福祉国家化が展開されていったのである。その結果,福祉国

家の二大政策である社会保障と完全雇用政策において,財源調達をめぐる行

き詰まりが感じられ始めた。こうした福祉国家化の進展は,第1次石油危機

を契機に,その後の財政危機として顕在化し,「福祉国家」に対する批判ひ

いては否定につながり,「福祉反動」と呼ばれる反福祉国家の動きとして表

出された。このような「福祉国家の危機」,「福祉国家の終焉」がいわれる状

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (579)-83一

況の中で,福祉国家から福祉社会への転換について議論が活発に行われるよ

うになった。

 福祉社会に対しては相反する二つの立場がある。一つは,福祉国家の発展

型としての福祉社会を志向する立場であり,福祉国家における柔軟性の欠け

た官僚制的組織と類型化された社会政策の限界を克服するため,福祉社会に

転換していくことを主張するものである。T. H.マーシャル(T. H.

Marshall)は,早くから市民社会における福祉国家の発展型として「福祉社

会」について語っており,1965年の『社会政策5)』では「福祉社会」という言

葉を用いて,福祉体制がすでに福祉国家から福祉社会に変貌しつつあると指

摘している。マーシャルのいう「福祉社会」とは,主体性の面では国家主導

から市民主体へ,社会保障の内容の面ではナショナル・ミニマムから福祉サー

ビスへと変化することを意味している。また,W. A.ロブソンも同じく,

「福祉国家は議会で定め,政府が実行するものであり,福祉社会は公衆の福祉

にかかわる問題について人々が行ない,感じ,そして考えるものである6)」と,

福祉国家の国家主導性に対し,福祉社会における個人の主体性を強調してい

る。要するに,「福祉社会」は金銭給付からサービスの給付へ,中央集権から

地方分権へ,国家主導から市民参加への変化を求めているのである。

 福祉社会に対するもう一つの立場は,福祉国家への否定として福祉社会を

主張する。福祉国家による国家福祉の拡大が財政悪化の主犯であるという認

識の下,市場主義への回帰を主張しながら反福祉国家論を展開する新自由主

義がそれである。次節では新自由主義と福祉多元主義についてより詳しくみ

ることにする。

5)Marshall, T. H., Social Poli(ッ, Hutchison University Library,1965.

6)Robson, W. A., Melfare State and Melfare Society-llusion and Realiりy, Allen and Unwin,

 1976,日本語版:W.A.ロブソン(辻清明,星野信也訳)「福祉国家と福祉社会一幻

 想と現実』東京大学出版会,1980年,「日本語版への序文」i頁。

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一84-(580) 東亜経済研究 第62巻 第4号

2.新自由主義と福祉多元主義

 福祉国家の危機に当り,その代案は福祉国家擁護論と反福祉国家論に分か

れた。なかでも福祉国家から福祉社会への転換における反福祉国家イデオロ

ギーとして登場したのが新自由主義(新保守主義)である。これに対して福

祉国家改革の必要性は認めながらも,改革の方向性と実践方法においては国

家の財政的責任を強調し,福祉国家を擁i護しているのが福祉多元主義である。

 福祉国家体制では,福祉サービス供給,財源,規制がいずれも政府によっ

てなされる。しかし,福祉社会においては,新自由主義と福祉多元主義は意

見を異にする。新自由主義の場合,民間優位というより個人・市場優位を強

調する。福祉サービスの供給において営利セクターが主体となり,ボランタ

リー・セクターはサービス供給の一部分を担う役割にとどまる。また,財源

は私的な資金で賄い,個々人が消費者として市場において購入することによっ

てサービスの量や質が決められ,規制が形成されることとなる。

 これに対してハッチとモクロフト,N.ジョンション, A.エバース7>に

代表される福祉多元主義は,新自由主義と同様に非国家的福祉供給主体の拡

張を指向し,福祉供給主体の多元化,なかでも民間優位を主張するが,一方

で国家の責任を強調する。福祉多元主義者は,福祉国家が拠って立つ原理に

ついての強い大衆的支持が続いていることが明らかである限り,福祉国家の

危機について語ることは時期尚早であると主張する。さらに,政府が新自由

主義の下で社会支出の削減を正当化する手段として福祉国家危機論を持ち出

してきたのであり,福祉国家への政治的関与をやめること,社会的支出を削

減することが決して現在の諸困難への唯一可能な対応策ではないといってい

7)Hatch, S. and I. Mocroft, Comρonents of rVelfare, Bedfbrd Square Press, London,1983.

 Johnson, Norman, The Melfare State in Transition:The Theory and Practice(ゾ〃幽rθ

 Pluralism, Harvester Wheatsheaf,1987.日本語版:ノーマン・ジョンソン(青木郁夫・

 山本隆訳)「福祉国家のゆくえ一福祉多元主義の諸問題』法律文化社,1995年。

 Evers, A.,“The Welfare Mix Approach;Understanding Pluralism of Welfare Systems,”

 Evers, A. and L Svetlik(eds.), Balancing、Pluralism:New Melfare Mix in Care for El-

 derly, Aldershot,1993.

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (581)-85一

る。

 換言すれば,福祉多元主義は社会福祉における国家役割の縮小とそれに伴

う福祉サービス供給主体の多元化を意味する。このような福祉多元主義の主

張は,新自由主義とも共通しているところがある。しかし,新自由主義の中

核には,国家や官僚制に対する深い疑念があり,個人主義,自助,企業家精

神,そして競争が強調される。したがって,新自由主義において,不平等は

不可避であるし,望ましいことでもある。また,国家は,市場から排除され

た人々の面倒をみる残余的役割にその機能が縮小される。新自由主義のこの

ような主張は,明らかに国家の支配を市場の支配によって代替するというこ

とであって,福祉多元主義とは相容れない。

 福祉多元主義者の論理は,新自由主義者とはいくつかの点でかなり重要な

相違がある。最も基本的な違いは,新自由主義は公共政策に対する供給,財

政,規制を極力抑えることに重点を置いているのに対し,福祉多元主義は必

ずしも政府支出の削減に賛同しないし,むしろ福祉供給主体の多元化を進め

るうえで,政府支出の民間部門への再分配を求めているということである。

福祉多元主義における国家は,主要な福祉サービス供給者ではなく,福祉サー

ビスの主要な財源調達者として機能し,その社会的規制を行なう役割を高め

ることになる。したがって福祉多元主義者は,国家に残余的役割あるいは最

小国家以上のものを求めているのである。

 「国家は福祉の供給主体としては後退しているけれども,まだ積極的に果

たすべき役割がある。この役割には,福祉多元主義が機能する上での枠組の

提示と,その発展に有利に働く条件の設定やその保障が含まれている。国家

は,公正な資源配分を保障できる唯一の機関として,主たる資源の拠りどこ

ろであり,また重要な規制的役割を果たしている8)。」というのが,福祉多

元主義における国家の役割である。すなわち,国家の役割は,①公的部門に

よる直接的福祉供給,②公的資源の調達,③多様な福祉供給主体に対する規

8)ノーマン・ジョンソン,前掲書,P.67。

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一86-(582) 東亜経済研究 第62巻 第4号

制の三つに要約できる。

 さらに,福祉多元主義は,福祉の供給における中核的役割を果たす供給主

体として民間非営利組織(NPOニNon-Profit Organization)をあげる。こ

れは,営利部門とインフォーマル部門の役割を重視する新自由主義との相違

点である。

 民間非営利組織と関連して,福祉多元主義においてキーワードとなるのが

分権化と参加である。福祉多元主義は分権型政府と参加型市民社会のうえに

成り立つが,ここでいう分権化は単に中央政府と地方政府への分権を意味す

るのではなく,政府から民間への分権までをも含む。分権化されたシステム

で初めて住民参加が可能になるのであって,分権化は常に参加と結びついて

いる。要するに,福祉多元主義の意味する参加とは,市民が参加の主体とな

る「社会的参加」である。「社会的参加」は政策形成過程や政策決定過程に

おける参加に重点がおかれている「政治的参加」とは異なり,主に政策実施

過程への参加であることが多い9)。これに対してN.ジョンソンは社会政策

における政治参加を「意思決定過程への参加」とし,もう一つの参加形態を

端的に「サービス提供への参加」と呼んでいる1°)。福祉社会における「社会

的参加」概念は,ノーマライゼーション思想と合致して「参加型地域福祉」

へと発展した。

 ところが,政府としては福祉多元主義を,国家の責任や役割を縮小するこ

とによって政府の負担を軽減しようとする政策的意図から解釈しようとする。

さらに,分権化と参加に基づく地域福祉は,施設ケアより安上がりになるこ

とから,政府にも支持され,1970年代後半になると,福祉多元主義は政府の

福祉予算削減を理論的に支えることになる。

9)武川正吾「社会政策における参加」社会保障研究所編『社会福祉における市民参加』

 東京大学出版会,1996年,参照。

10)Johnson, Norman, Voluntar y Social Services, BlackWell, B.,1981, p.74。 日本語版:ノー

 マン・ジョンソン(田端光美監訳)『イギリスの民間社会福祉活動』全国社会福祉協議

 会,1989年,p.117。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (583)-87一

 しかし,福祉多元主義は本来,公的サービスを中心に据え,行政は公的部

門と民間部門との間にサービスの水準格差が生じないように努めることを主

張する。したがって,地域福祉は,地域に「おける」福祉ではなく,地域に

「よる」福祉でなければならない。要するに,1990年代における福祉社会は

選別主義=残余モデル二反福祉国家ではなく,普遍主義に基づいた新たなる

福祉国家の形態であるといえる。

 以上の福祉国家と福祉社会,新自由主義と福祉多元主義の意味を念頭にお

き,以下では韓国の「生産的福祉」と日本の「日本型福祉社会」が,両国の

政府が言うように,果たして「真」の福祉社会を志向しているかについて検

討する。そのため,新自由主義と福祉多元主義の最も大きな相違点である財

源調達者としての国家役割と,福祉分野におけるボランタリー・セクターの

役割及び市民参加について詳しく見ることにする。

皿.韓国の福祉多元主義 「国民の政府」の福祉政策を中心に

 韓国の社会福祉制度は,西欧に比べ制度の導入が非常に遅れている側面と,

国家福祉制度の歴史的発展過程がいくつかの契機により急激に行われた特徴

をもつ1D。

 まず,社会福祉制度の導入をみると,社会保険制度は1964年に産業災害保

険が実施されて以来,医療保険は1977年,国民年金は1988年,雇用保険は

1995年になって施行された。また,代表的な公的扶助制度である生活保護制

度は1961年に実施され,1980年代にある程度の整備がされたが,1999年に制

定され,2000年10月から施行された国民基礎生活保障法によりようやく近代

的な公的扶助制度としての体裁が整った。高齢者や児童,障害者などのため

の社会福祉サービスにおいては,1980年代初頭に形式的な立法が行われた程

度にとどまり,内容が整えられたのは1980年代末に民主化過程が進行してか

11)・1eg Pt.「含回㌍B団昇ス1:妊号人団且看刈呈到鯛叫遡L『碧号司司叫芒尋・刈  16蓋、  入う{}:・慰号」司亡秤重}」丑吾平}早、  2002年、PP.214216。

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一88-(584) 東亜経済研究 第62巻 第4号

らであるといえる。さらに,社会福祉サービスと関連した諸制度は未だに消

極的な選別主義的政策の枠から離れていない。

 次に,国家福祉制度の歴史的発展過程をみると,福祉制度の導入がいくつ

かの契機によって,国家主導によりいきなり行われたことがわかる。韓国に

おける福祉制度の導入は1960年代初頭の5・16軍事クーデタ以降,1980年代

初頭の第5共和国の樹立,1987年の民主化運動と労働者大闘争以降,それか

ら1997年末の通貨危機到来以降に,福祉に対する国民の要求を受け入れるこ

とにより,政治的危機を乗り越えようとする政治的意図で進められるか,あ

るいは社会的危機状況に対する一時的な対応措置として設けられたのである。

「国民の政府」による「生産的福祉」は,1997年の社会的危機の中でそれに

対する対応策として展開されたといえる。

 「国民の政府」の福祉政策については,大きく二つのレベルで評価が行わ

れる。一つは,「国民の政府」の福祉政策をめぐるこれまでの議論の主軸を

なすものとして,「国民の政府」の福祉政策の性格が新自由主義であるか否

かの問題である。もう一つは,韓国の福祉体制に対する今後の展望とも関連

するものとして,「国民の政府」の福祉政策の拡大が,通貨危機による大量

失業と大量貧困という事態に対する緊急対応という側面から出た一時的な福

祉膨張と考えるべきか,それともこれまで低いレベルにとどまっていた韓国

の福祉体制を福祉国家指向に転換させる重要な契機として作用するかという

点である。以下では,「国民の政府」の福祉政策の内容と展開を考察し,そ

の性格を明らかにしてみたい。

1.「生産的福祉」の社会的背景

 金大中大統領は,就任の前にIMFと締結した基本協定を履行しなければ

ならない制約条件を抱えて出発した。IMFから救済金融を受ける条件とし

て,韓国政府はIMFと次のような7つの事項について合意したのである。

①通貨及び財政緊縮を通じた経常収支改善と物価上昇抑制(1998年経済成長

率3%以内,1998年物価上昇率5%以内,1998・1999年経常収支赤字

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (585)-89一

GDP 1%以内),②金融産業の構造調整と自己資本拡充(不実金融機関の構

造調整及び退出,金融機関の健全性の向上),③金融市場機能及び監督機能

の強化,④企業支配構造の改善(国際基準会計制度導入,資金の相互支給保

証制の改善),⑤資本市場の自由化の持続(外国人株式取得限度の拡大,債

券市場の早期開放など),⑥貿易自由化の促進(輸入先の多角化制度及び貿

易関連補助金の廃止),⑦情報公開(外貨及び金融情報の定期的公開など)

がそれである12)。

 外貨危機を脱出するため,IMFとの合意事項を遵守するための構造調整

の過程で,失業,貧困のような社会問題が一気に爆発的に露出し,そのよう

な状況の中で,国政指標としての「生産的福祉」は政策的に具体化して現れ

るようになった。

 表1の各指数は,構造調整による失業率,貧困率の増加による社会的両極

化現象を明らかにしている。表1は1997年から2000年までの推移を示してお

り,通貨危機以前と以後,それから金大中政権の福祉政策が本格的に実施さ

れはじめた1998年4/4分期以後の動向が比較できる。まず,ここでは生産

的福祉の背景となった当時の社会的両極化と不平等現象の程度を具体的に雇

用と所得平等と関連して考察してみよう。

12)石司碧・相碧号『昇ス1号フト忌』第2版、入1{}:耳甘を丹、2000年、p.438。

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一90-(586) 東亜経済研究 第62巻 第4号

表1 労働力率・失業率・ジニ係数(1997年~2001年)

年度 分期労働力率

  (%)

失業率(%) ジニ係数

1/4 61.1 3.0

2/4 63.1 2.51997

3/4 62.6 2.10,283

4/4 61.9 2.6

1/4 59.5 5.6

19982/4 61.5 6.8

3/4 61.1 7.40,316

4/4 60.5 7.4

1/4 58.6 8.4

2/4 61.0 6.61999

3/4 61.2 5.60,320

4/4 61.2 4.6

1/4 59.5 5.1

20002/4 61.3 3.8

3/4 61.3 3.60,317

4/4 60.8 3.7

1/4 58.9 4.8

2/4 61.7 3.52001

3/4 61.4 3.30,319

4/4 61.2 3.2

注:ジニ係数は都市勤労者世帯(所得基準)

資料:韓国統計庁統計情報システム〈http://kosis. nso. go. kr/〉

 まず,雇用をみると,経済危機の深化により労働力率と失業率が大きく悪

化したことがわかる。景気の沈滞とともに労働力率は1997年2/4分期63.1%

から1998年1/4分期には59.5%に減少し,1999年1/4分期には再び58.6%に

落ちて最低値を記録している。労働力率の減少とともに,失業率の増加も目

立っている。失業率は1997年3/4分期に2.1%であったが,それ以降急激な増

加ぶりを見せ,1998年には5.6%,6.8%,7.4%と急増加しており,1999年1/

4分期には8.4%にも達している。失業率は経済危機以降,従前よりやや高い

とはいえ3%台に回復したが,労働力率は依然高いまま停滞を見せている。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (587)-91一

 一方,所得平等の面をみるため,ジニ係数の推移をみると,1997年0.283

であったのが,1998年から2001年には各年度でそれぞれ0.316,0.320,0.317,

O.319を示しており,経済危機を経ながら社会の両極化現象が深化し,さら

には固定化する傾向まで見せている。

 上記のような状況の中で,社会的危機を克服するための代案として社会保

障制度を拡充することは,当然の選択であったかもしれない。新自由主義的

構造調整の中での初期ケインズ主義的福祉国家方式を同時進行させなければ

ならない理由は,経済危機に伴う構造調整の過程で社会福祉制度の社会統合

機能が不十分であると,社会的不安が増加し,共同体意識が崩れるなど膨大

な社会的コストがかかり,国家競争力を弱めるという悪循環が発生する可能

性が極めて高いからであろう13>。大量失業と社会的両極化を放置することは,

社会的不安を増大させ,社会をより深刻な危機状況に追い込むだろう。

IMF救済金融という経済危機の中で構造調整は長期間にわたる一連の持続

的な改革過程であり,その過程における構造調整の結果により社会的葛藤が

発生するため,葛藤を調整・克服し,集合的な代案を作ることにおいて国家

の社会統合的な役割は極めて重要になる14)。1997年大統領選挙当時の国政指

標として提示された「生産的福祉論」が,金大中政権が出帆して2年目であ

る1999年になって始めて具体化されたことは,表1で示したように社会統合

を妨げる社会的危機がすでに危険水位に達していると認識し,福祉政策の拡

充を通じて社会安全網を構築するためであったことを物語っている。

 西欧における福祉国家の発展の歴史をみても,福祉政策は国家の危機状況

の中で危機克服の方法としてより発展した。それは,国家的危機状況にあたっ

ては国家の介入による解決が不可避であるからである。例えば,1930年代の

経済恐慌におけるアメリカのニューディール政策,第二次世界大戦前後のイ

13)呈菩剤「ヱ盈唱入}司舛入団昇ス1刈呈7牌」音剤重・弁智テ廻『子至呈碧到噌ス1碧刈叫斗

 21矧71を尋石刈』刈暑:署喫、2000年、P.435。

14)碧早ZJ「9uJ ej閣早斜入団碧訓:型スト箔回呈到聾司?入団暑曾皇呈到社碧?」91 di。

 噌.、召閤叫週rAI圃叫斗剋スト脅手到:o帽 週翌 [羽暑』λ1音:耳甘釜魁、2001年、 p.328。

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一92-一(588) 東亜経済研究 第62巻 第4号

ギリスを始めとする先進資本主義国家の福祉国家体制の整備などは社会統合

のための社会安全網の構築という目的のもとで展開されたのである。韓国の

場合にも1997年からの経済危機による大量失業とそれによる貧困層の拡散は,

社会安定という側面からみても,政府がそれ以上国民の福祉問題を放置する

ことはできない状況であったのである。

2.「生産的福祉論」の性格

 「国民の政府」の福祉政策の基本枠を提供する生産的福祉論の論理的基礎

は何であろうか。「生産的福祉」は大きく分けて四つで構成されている。①

市場を通じて公正に行われる一次的な分配,②国家による再分配,③国家と

市場の相互重畳により行われる自活のための社会的投資,④暮らしの質の向

上がそれである。

 「生産的福祉」の概念は,金大中大統領の就任後,1998年に大統領諮問企

画政策委員会で発刊した『第2建国のビジョンと戦略』を通じて具体化した。

『第2建国のビジョンと戦略』では生産的福祉について次のように規定して

いる。

 未来の福祉体制は,傾向的に「生産を妨げる」方向に歪曲した過去の西欧福

祉国家のモデルを倣ってはならない。21世紀の福祉体制は,「生産的」でなけ

ればならない。生産的福祉のためには次の四つの原則を守らなければならない。

第一一,政策福祉の増加速度が経済成長の速度を追い越してはならない。第二,

政策福祉は市場のダイナミック性を制約してはならない。第三,政策福祉は生

産に復帰できる脆弱集団の自活努力に対する支援に努めなければならない。第

四,自活能力のない脆弱集団には人道的救護のレベルで暖かい福祉の恩恵が与

えられるようにする。(中略)「国民福祉」の大原則は市場福祉が基本であり,

政策福祉は市場福祉を補完するものである。「市場福祉」は,最下層集団も高

級財貨を享受できるように最低価格で最高品質の消費財を供給することにより

造成される普遍的消費者福祉を意味する。市場のダイナミック性を制約しない

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (589)-93一

政策福祉は「市場福祉」によって埋められない空白を埋め,全国民が共生共栄

する「国民福祉」を完成する1「’)。

 上記の内容は「先経済,後福祉」を骨子としており,市場対福祉,成長対

分配という二分法的論理をそのまま適用し,社会福祉の拡大が経済成長を妨

げるという論理であり,反福祉国家論としての新自由主義の主張を反映して

いる。上記の引用文からみて,「普遍的消費者福祉」とは結局,福祉需要の

解決は個人の問題であるという市場論理に基づいており,国民福祉に対する

公的責任を否定するものである。さらに,国家福祉の範疇を市場福祉によっ

て埋められない部分に限定し,残余的国家責任を強調している。

 一方,金大中大統領は1999年新年演説で生産的福祉の必要性を語り,再び

同年8.15光復節慶祝演説で,「生産的福祉」を「民主主義と市場経済の並行

発展」とともに新たな国政理念であると同時に,ニュー・ミレニアムを準備

するための時代的課題として設定した。大統領の演説後,大統領秘書室「暮

しの質向上企画団」では『ニュー・ミレニアムに向かう生産的福祉の道一

「国民の政府」社会政策青写真』(以下『生産的福祉の道』と略す)という本

を発刊し,生産的福祉の理念に対して広報した。

 『生産的福祉の道』で示している生産的福祉の要諦は次のようである。ま

ず,変化した経済環境の中で著しく弱化した社会統合を回復するため既存の

社会政策の質的転換が必要であることを前提とし,生産的福祉が社会統合を

目的としていることを明らかにしている。また,生産的福祉は国家福祉規模

の拡大を前提としながら,同時に市場の秩序と機能を最大限担保できる方法

を模索する。

15)閉暑閣ス柱}碧刈71碧♀1斜司『刈2君号到司社斗社群』1998年、pp.52-53。

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一94-(590) 東亜経済研究 第62巻 第4号

N.日本型福祉社会論の登場と展開

 日本の1960年代における経済成長は福祉政策の拡大に大きな影響を与え,

1960年代の経済計画は総じて「福祉国家」を政策目標として掲げ,これに到

達することを目指していた’6)。そして,「福祉元年」といわれた1973年の

『経済基本計画』では,「成長から福祉へ」という政策目標転換が唱えられた。

 しかし,拡大の一途を歩み始めた日本の福祉は「福祉元年」に石油危機を

迎え,その経済的基盤が弱体化したため,以後の福祉政策に大きな影響を及

ぼすことになる。財政状況の悪化により,これまでの福祉のイメージは,先

進国の必要条件としてのプラス・シンボルから財政悪化の主犯というマイナ

ス・シンボルに変わり,早くも「福祉見直し」論が唱えられるようになるの

である。以後「福祉見直し」論は衆論となり,政府が自ら進んで福祉改革を

行うことになる。結局,1970年代前半に見られた「福祉優先」の時代は,日

本政治史の中で特異な一時期として記録されるかもしれない。このような変

化の中で,「福祉社会」という言葉は次第に反福祉国家の響きをともなって

発せられるようになり,福祉国家の対抗概念として使われるようになる。

 1975年になると,長期的な景気後退を憂慮する声が強くなり,福祉見直し

が本格的に論じられるようになる。自民党政務調査会は『生涯福祉計画』を

発表し,その中で自助に則った福祉を強調,福祉予算の膨張を批判した。

1976年に発表された『昭和50年代前期経済政策』では社会保障の充実を図る

としながらも,他方で国民の福祉向上は政府の手によってすべてなされるわ

けではなく,個人,家庭,企業の役割や社会的・地域的連帯感に基づく相互

扶助が必要である点が強調されている。また,1975年に「三木首相への‘私

16)1960年代における「福祉国家」への追求に対し,新藤宗幸は「高度経済成長政策全体

 の文脈からみるならば,西欧福祉先進諸国のキャッチアップが目標であったのではな

  く,西欧経済先進国のキャッチアップこそが目標であって,福祉はそのための政策装

 置であった」と述べており,批判的な見解を示している。(新藤宗幸「福祉行政と官僚

 制』岩波書店,1996年,p.60。)

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (591)-95一

的提言’」というサブタイトルで村上泰亮ほか6人によって刊行された『生

涯設計計画一日本型福祉社会のビジョン17)』では,早くも新自由主義に基づ

いた「日本型福祉社会」という概念が提示された。しかし,ロブソンは

1970年代の日本について次のように語っている。

 日本は福祉国家の初期発展の段階にある。だが,それは経済成長を至高善と

認めたことから暗影に覆われ,発展を阻止されている。このような状況におい

て,福祉増進のための計画的な政策を急速かつ体系的に発達させれば,特別な

ニーズを持った人々にばかりでなく国民全体に膨大な利益をもたらすことにな

ろう。経済成長への努力の集中は既に過度に進行しており,それは社会資本へ

の大きな投資ならびに個人的および環境的な社会的ニーズの充足によって修正

されるべきである18)。

 ところが,「未完成の福祉国家」,「停滞状態にある福祉国家」,「福祉国家

の初期発展段階」であった日本は,福祉国家が十分成熟していない段階で早

くも危機に陥ってしまったため,福祉国家をめぐる議論や福祉社会への転換

は歪んでしまった。とくに新自由主義に基づく80年代前半における日本型福

祉社会論は,福祉国家の否定的側面だけを強調したあまり,福祉社会に対し

福祉国家を否定して取って代わるものという印象を与えてしまった。さらに,

福祉社会への転換は政府支出の軽減を図るため社会政策を抑制する,まさに

反福祉的福祉社会を目指すものであった。財政状況の悪化を経済優先への復

帰のチャンスとして活用し,「福祉国家」から「福祉社会」への移行が政策

的に行われたのである。

 村上泰亮を始めとする新自由主義者による社会政策拡大への見直し要求は,

1981年の第2臨調の発足と1982年に中曽根政権が誕生したことによって,一

17)村上泰亮・蝋山昌一ほか『生涯設計計画一日本型福祉社会のビジョン』日本経済新聞

 社,1975年。

18)W.A.ロブソン,前掲訳書, xix頁。

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一 96-(592) 東亜経済研究 第62巻 第4号

層拍車がかかることとなる。

 「増税なき財政再建」を掲げた第2臨調は,5回にわたる答申を通じ政府

の構…想している今後の福祉社会の未来像を提示し,1980年代以降の社会福祉

政策の流れを方向づけた。

 まず,第1次答申では,行政改革の基本理念として国内的には「活力ある

福祉社会の実現」,対外的には「国際社会に対する貢献の増大」が提示され

た。臨調は,活力ある福祉社会を実現するためには,「自由経済社会の持つ

民間の創造的活力を生かし,適正な経済成長を確保することが大前提」とな

ると同時に,「家庭・地域・企業などが大きな役割を果たしてきた我が国社

会の特性は,今後とも発展させていくことが望ましい。すなわち,個人の自

立・自助の精神に立脚した家庭や近隣,職場や地域社会での連帯を基礎とし

つつ,効率のよい政府が適正な負担の下に福祉の充実を図ることが望まし

い19)」としている。

 さらに,「自由で活力のある福祉社会を実現するために,国民生活と行政

とのかかわり方の見直しを進め,真に救済を必要とする者への福祉水準は堅

持しつつも,国民の自立・自助の活動,自己責任の気風を最大限に尊重し,

関係行政の縮減,効率化を図るz°)」という考え方を打ち出している。

 基本答申では,「活力ある福祉社会とは,自立・互助・民間の活力を基本

とし,適度な経済成長の下で各人が適切な就業の場を確保するとともに,雇

用,健康及び老後の不安等に対する基盤的な保証が確保された社会を意味し

ている。それは,必ずしも ‘小さな政府’を求めるものではないが,西欧型

の高福祉,高負担による‘大きな政府’への道を歩むものであってはならな

い21)」のであって,明らかに臨調の福祉観が新自由主義の路線に立っている

ことを言明している。

19)臨時行政調査会「行政改革に関する第1次答申」(臨調・行革審OB会「臨調・行革審一

 行政改革2000日の記録』財団法人行政管理研究センター,1987年,p.131頁,所収。)

20)「行政改革に関する第1次答申」,前掲書,p.137。

21)「行政改革に関する第3次答申一基本答申」前掲書,p。170。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (593)-97一

 さらに,臨調は,「国民の合意の得られる負担水準との関連に配慮しなが

ら,現行制度における不合理の是正,効率化,体系化を図るとともに,受益

者負担やボランティア活動等民間の力の活用判を提示している。

 つづいて最終答申において,「新しい行政の役割は,国民の福祉のために

真に必要な施策は確保しつつ,同時に民間の自由な活動を十分に保障する最

小限のものでなければならない。活力ある福祉社会は,自立・自助を原則と

する国民の活力と創意を基礎にしてこそ存立し得るものであるからである列

と述べ,再び国家責任の縮小を明らかにしている。

 臨調の行財政改革は,社会福祉施設などの公共施設の民営化・民間委託,

ボランティアの活用,受益者負担原則の導入,国と地方の関係,補助金など

の整理・合理化など社会福祉にとって,広く社会福祉行政の基本的な原則に

かかわる問題を取り上げている。以上の答申から捉えられる臨調の福祉観は,

福祉への国家負担を減らすため個人の自立・自助を強調しながら福祉の対象

を「真に救済を必要とする者」に限定する選別主義や民間活力を活用するこ

とで行政の役割を縮減しようとしていることから,1970年代半ばの新自由主

義に基づく 「日本型福祉社会論」に忠実に従っているといえる。

 「活力ある福祉社会の実現」を目標とした臨調の新自由主義理念は,福祉

予算を削減するための制度改革として具体化した。福祉予算の削減は,とく

に社会福祉に対する自己負担の増加と国庫負担の削減を骨子としている。臨

調の福祉改革は,1982年の老人保健法改正による老人医療無料化制度の廃止

を始め,1983年生活保護法改正,1984年医療保護法改正,1985年児童手当の

改正,1986年年金保険の改正などへと続いた。

 一方,1990年代に入ってからは,1995年社会保障制度審議会の勧告を始め,

以後の村山内閣の規制改革,橋本構造改革,小渕の経済再生戦略,小泉首相

の構造改革にいたる諸改革の具体的内容をみると,これらには新自由主義的

構造改革が一貫していることがわかる。

22)「行政改革に関する第3次答申一基本答申」前掲書,p.177。

23)「行政改革に関する第5次答申一最終答申」前掲書,p.258。

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一98-(594) 東亜経済研究 第62巻 第4号

 1995年の社会保障制度審議会の勧告「社会保障体制の再構築一安心して暮

らせる21世紀の社会を目指して」は,「(社会保障は)みんなのために,みん

なでつくり,みんなで支えていくもの」という「社会連帯」思想を前面に押

し出している。それは社会保障体制の基本方向を国家責任の原則の解体へ当

てていることを意味していると解釈できる。さらに,1999年2月に発表され

た経済戦略会議答申「日本経済再生への戦略」は,社会の再編成論を展開す

る。同答申は,今日までの日本社会を「欠陥社会」と分析し,過度の生活保

障機能が存在しており,そうした状況により「モラル・ハザード」が拡がっ

ていくと警告する24)。

 2001年4月からの小泉内閣は,「聖域なき構造改革」を掲げており,中で

もその核心をなしているのが「社会福祉基礎構造改革」である。「社会福祉

基礎構造改革」は,「自立と自助」を基本とした持続可能な社会保障制度の

再構築を目標としている。その内容を簡単に要約すると以下のようである25)。

 第一,社会福祉供給体制の変化である。これまでの社会福祉供給体制は公

立や社会福祉法人を原則にしてきたが,基礎構造改革の方向は,民間営利企

業を社会福祉分野に参入させようとする。

 第二,社会福祉サービスの提供及び給付制度を措置制度から民法上の契約

制度に変更していくというのが改革の方向である。

 第三,社会福祉利用に伴う費用負担体系の問題である。基礎構造改革及び

介護保険制度では,現行の「応能負担」(利用者の所得水準に応じた負担)

から「応益負担」(社会福祉サービスの内容に応じた負担)の原則に力点を

移しているのである。

 第四,憲法的原則に基づいて社会福祉諸法で規定された社会権的生存権の

「権利保障体系」から,契約制度を合理的に機能させるための手続き的「権

利擁護制度」に限定された方向に転換するということである。

24)浅井春夫「新自由主義と非福祉国家への道』,2001年,p.47。

25)前掲書,pp.68-69。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (595)-99一

 要するに,基礎構造改革は1980年代から続けられてきた福祉改革の延長線

上に立っているのである。

V.韓国と日本の福祉多元主義の比較

1.社会保障費支出の推移及び内容

 一国の福祉政策を評価する指標として最もよく示されるのが社会保障費の

支出比率である。社会保障費の支出比率は社会保障に対する公的責任を最も

端的に示す指標であるからである。とくに,「国民の政府」が福祉基盤の拡

充とともに福祉多元主義を標榜しているだけに,福祉財源の調達者としての

国家責任を確認するためにも福祉予算に対する検討は不可欠であろう。

(1)韓 国

 表2は,1993年から2000年までの政府予算(一般会計)を基準とした社会

保障費及び福祉予算の推移を示している。表2からわかるように,政府予算

に対する社会保障費の支出比率は,「国民の政府」以前には6%未満であっ

たが,「国民の政府」に入り,2001年には10.84%にまで上り,韓国史上最高

を記録した。ところが,政府予算対比社会保障費の支出比率の推移をよくみ

ると,1998年と2002年にはその比率が前年度より低いことがわかる。このよ

うに社会保障費の支出が増減を繰り返すのは,基本的に「国民の政府」の福

祉政策が福祉国家の建設という大枠の中で行われず,社会危機に対する一時

的対応策として用いられているからであろう。通貨危機による社会的危機感

が高まった時期の1999年に大幅に増加した社会保障費が,社会がある程度安

定感を取り戻した2002年に再び増加率が1%も下落したことは,こうした推

論を可能にする。ところが,1980年代以降西欧先進国を中心に福祉国家危機

論が登場し,社会保障制度に対する新自由主義的修正が行われた国家でさえ,

実際に社会保障費の支出は持続的に緩慢な増加を見せている。これは福祉の

不可逆性の命題を証明してくれる。

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一100-(596) 東亜経済研究 第62巻 第4号

表2 韓国の社会保障費及び福祉予算(1995~2002)

                   (単位:億ウォン,96)

1995 1996 1997  1998 1999 2000 2001 2002

政府予算額 518,810 588,228 675,786755,829 836,851 887,363 991,801 1,096,298

社会保障 29,250 35,279 42,07145,761 61,051 80,737 107,460 106,768

公的扶助 5,740 7,130 9,268 11,210 19,451 24,090 32,696 34,034

社会福祉サービス 6,230 8,390 10,13716,621 18,885 25,657 37,632 38,620

社会保障 5.64 6.00 6.23  6.05 7.30 9.10 10.84 9.74

政府予算

対比(%)公的扶助 1.1 1.2 1.4  1.5 2.3 2.7 3.3 3.1

社会福祉サービス 1.2 1.4   1,5  2.2 2.3 2.9 3.8 3.5

社会保障 0.76 0.84  0.93  1.01 1.26 1.55 1.97 1.80

GDP対比

 (%)公的扶助 0.2 0.2   0.2 0.2 0.4 0.5 0.6 0.6

社会福祉サービス 0.3  1 0。2   0.2 0.4 0.4 0.5 0.7 0.6

一資料:韓国保健福祉部企画予算担当官室

出所:韓国保健福祉部ホームページ.一(検索日2003.5.2)

 一方,表3は,1990年から1997年までの韓国における国家,市場,非営利

組織,企業,家族の教育,医療及び社会保障を含めた社会福祉領域での役割

と責任の分担を示すGoughとKimによる韓国の福祉ミックスの推計である。

 表3からわかるように,韓国の福祉供給における国家部門は政府支出とす

べての社会保険基金の支出を合せても40%に至らない反面,市場と企業を含

む民間部門が担っている比重は半分近くを占めている。さらに,非営利組織

と非公式部門としての家族も含めると,その割合は60%を上回る。Goughと

Kimの資料に基づき,シン・ドンミョンは韓国の福祉ミックスを「残余的

国家・成長した市場・微々たる資源部門・保護的家族」として特徴づけてい

る。表3の推計が金大中政権の出帆以前である1997年までのものであるため

もちろん限界はあるが,1997年以降の福祉予算の推移を勘案すると,表3で

示されている傾向からそれほど外れることはないと思われる。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究 (597)-101一

表3 韓国の福祉ミックスの推計:社会保障,教育,医療を含める

                 (上段はGDP対比%,下段は社会福祉総支出対比%)

1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年

6.42 6.51 7.03 7.36 7.17 7.32 8.03 8.77

国家(36.9) (37.4) (39.5) (39.7) (38.6) (39。4) (39.1) (39.1)

5.91 5.74 5.86 5.94 5.88 5.99 6.26 6.52

市場(34.0) (33.0) (33.0) (32.1) (31.6) (32.2) (30.5) (29.1)

0.52 0.51 0.53 0.55 0.56 0.59 0.61 0.63

非営利組織(3.0) (2.9) (3。0) (3.0) (3.0) (3.2) (3.0) (2.8)

2.12 2.01 1.82 2.43 2.56 2.25 3.03 3.86

企業(12.2) (11.6) (10.3) (13.1) (13.8) (12,1) (14.8) (17.2)

2.43 2.62 2.52 2.24 2.44 2.44 2.58 2.63

家族(14.0) (15.1) (14.2) (12.1) (12.1) (13.1) (12.6) (11,7)

17.4 17.4 17.7 18.5 18.6 18.6 20.5 22.4

総計(100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (正00.0)

注:L国家部門は社会保障及びサービス,医療,教育に対する公共部門の支出(政府支出とす

   べての社会保険基金の支出)を含める。

  2。市場部門は統計庁で発刊した都市勤労者世帯支出に関する資料に基づき,労働者世帯が

   市場で教育と医療に対するサービスを購入する時に使った支出を含める。

  3.非営利部門は非営利組織が医療,社会福祉,教育に使った支出を含める。

  4.企業部門は法定企業福祉(退職金)と自発的企業福祉を包括。但し,企業が負担する社

   会保険寄与金は国家部門との二重計算を防ぐため除く。企業福祉の総量は毎年労働部が

   発行した『企業労働費用調査報告書』を基準に作成したものであるため,30人以上を雇

   用した事業所に対する統計資料であるが,30人未満を雇用した事業所の場合にも同一の

   数値を適用。

  5.家族部門は家族内私的移転のみを含める。家族内私的移転は統計庁の都市勤労者世帯の

   所得資料に基づいて計算。これは都市勤労者を対象とした資料であるが,自営業もこれ

   に基づいて計算。

資料:Gough and Kim(2000).忍号q(2001:238)から再引用。

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一102-(598) 東亜経済研究 第62巻 第4号

(2)日 本

 表4は,日本の政府予算(一般会計)に対する社会保障関係費26>の年次推

移を示したものである。表4では,福祉政策の変化に伴う福祉予算の推移が

わかりやすいように,第2臨調が発足した1981年から,政府予算におけるゼ

ロシーリングの原則が適用された1987年までの数値と最近の推移をみるため,

1994年から1998年までの統計資料を再構成し示した。

      表4 日本における社会保障関係費の年次推移(1981~1998)

                           (単位:億円,%)

年度一般会計 社会保障関係費

予算額(A) 増加率 予算額(B) 増加率 B/A

1981 467,881 9.9 88,369 7.6 18.9

1982 496,808 6.2 90,848 2.8 18.3

1983 503,796 1.4 91,398 0.6 18.1

1984 506,272 0.5 93,210 2.0 18.4

1985 524,996 3.7 95,736 2.7 18.2

1986 540,886 3.0 98,346 2.7 18.2

1987 541,010 0.0 100,896 2.6 18.7

中略

1994 730,817 1.0 134,816 2.6 18.4

1995 709,871 △2.9 139,244 3.3 19.6

1996 751,049 5.8 142,879 2.6 19.0

1997 773,900 3.0 145,501 1.8 18.8

1998 776,692 0.3 148,431 2.0 19.1

資料:1981年から1987年までの数値は『厚生省五十年史資料編』

  1994年から1998年までの数値は『財政統計』各年度版。

 社会保障関係費の増加率は,1981年以降2%台にとどまっていることがわ

かる。しかし,新自由主義的行財政改革の一環として展開した福祉予算削減

のための制度改革にもかかわらず,政府の一般予算で社会保障関係費が占め

ている比率は一定の水準を維持している。さらに政府予算がゼロシーリング

26)社会保障関係費には生活保護費,社会福祉費,保健衛生対策費,失業対策費が含まれ

  る。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (599)-103一

を記録した1987年,さらに予算が減少した1995年にもそれぞれ2.6%と3.3%

の増加を見せている。これは福祉の不可逆性を立証することであると同時に,

福祉の積極的な拡充を掲げながらも,わずか1~2%の増加率を見せている

韓国の「生産的福祉」がどれほど内実のないものであるかを反証していると

言ってよいだろう。

 また,財源調達者としての国家の役割を検討するため,表5では「活力

ある福祉社会論」が本格的に唱えられ,社会福祉に対する国庫補助率が削減

された1984年から,現在の国庫補助率が定着した1989年までの政府の国庫補

助率の変化を示している。

表5 日本の社会福祉に対する国庫補助率の変化

1984年度 1985年度 1986~88年度 1989年度以降

生活保護関係 8/10 7/10 7/10 3/4

児童・身障・精薄・老人施設 8/10 7/10 1/2 1/2

婦人保護施設 8/10 7/10 1/2 1/2

在宅福祉サービス 1/3 1/3 1/2 1/2

世帯更生資金 2/3 6/10 1/2 1/2

資料:『全国社会福祉協議会小史』121頁。

 社会福祉に対する国庫補助率は1985年度予算では2分の1を超えた高額補

助金が一部削減され,それの地方自治体への肩代わりがなされると同時に,

同年5月には「国の補助金等の整備及び合理化ならびに臨時特例等に関する

法律」が成立した。ここでは臨時的な措置として,地方自治体に対する社会

福祉関係国庫補助金が生活保護費など国の負担率が2分の1を超える部門を

対象に一律に10%削減されたほか,生活保護法など59の法律が含まれた。

1986年には,さらに3年間の臨時的な措置として福祉サービス分野の国庫補

助率が一挙に2分の1に引き下げられた。その後,1989年度以降,生活保護

については国庫が4分の3を負担する負担率に引き上げられたが,福祉サー

ビス部門の負担率はそのまま2分の1として恒久化されることになり,在宅

福祉サービスを除くほとんどで補助率が低下した。

 表6は日本の社会保障財源の項目別推移を示している。表6から明らかな

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一104-(600) 東亜経済研究 第62巻 第4号

ことは,社会保障財源の中で国庫負担の占める割合が持続的に減少している

ということである。他方,被保険者拠出,事業主拠出,資産収入,その他,

そして公費負担の中での地方自治体の負担は増加している。すなわち,表6

は,1980年代初頭の臨調による福祉改革以来,福祉に対する国家責任の個人,

企業,地方への転嫁が展開されていることを示唆しているのである。要す

るに,政府が出している「福祉社会」への転換というのは,…言でいうと国

家責任の後退を図ることであるといえる。

 以上で社会保障費に対する韓国と日本の支出推移及びその内訳をみた結果,

両国は社会保障費においてわずかな増加を示してはいるものの,具体的な内

容の面では国家部門の縮小と営利部門の増加を特徴としていることがわかっ

た。それは福祉財源に対する国家責任と非営利部門の役割を強調する福祉多

元主義に反することであり,社会保障費に対する検討からは,日韓の福祉政

策は「新自由主義的」であるといえる。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究 (601)-105一

表6 日本の社会保障財源の項目別推移

(単位:96)

公費負担年度 被保険者拠出 事業主拠出

国庫負担 他の公費 計資産収入 その他

1981 26.8 29.4 28.3 3.5 31.8 10.4 1.6

1982 26.8 29.4 27.9 3.4 31.3 11.1 1.5

1983 26.9 29.7 26.5 3.5 29.9 11.9 1.6

1984 26.7 29.7 25.9 3.5 29.4 12.5 1.7

1985 27.1 29.7 24.3 4.2 28.4 12.8 2.0

1986 26.7 30.3 23.4 4.5 27.9 13.4 1.7

1987 26.9 30.2 22.8 4.5 27.2 13.5 2.2

1988 26.4 30.0 24.0 4.4 28.4 13.0 2.3

1989 27.0 31.2 21.1 4.3 25.4 12.8 3.6

1990 27.9 31.7 20.3 4.1 24.4 12.6 3.5

1991 28.3 31.7 19.9 4.1 24.1 12.6 3.3

1992 28.2 31.8 19.9 4.5 24.5 12.3 3.3

1993 28.2 31.6 20.0 4.5 24.5 12.4 3.3

1994 28.3 31.4 19.7 4.8 24.5 11.8 4.1

1995 28.7 31.5 19.5 5.0 24.4 11.5 3.9

1996 29.0 31.5 19.3 5.2 24.5 11.1 3.9

1997 29.1 31.7 19.0 5.2 24.1 11.6 3.5

1998 29.5 32.1 19.2 5.4 24.6 10.1 3.7

1999 26.9 29.3 20.1 5.3 25.4 14.9 3.6

2000 29.6 31.4 21.9 6.1 28.0 7.2 3.8

注:公費負担とは「国庫負担」と「他の公費負担」の合計である。また,「他の公費」とは地

 方自治体の負担を示す。

資料:日本国立社会保障・人口問題研究所ホームページ

  ww l ss. o./aanese/k uhuhi-h12/4/d10 htm1(検索日2003.10.4)

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一106-(602) 東亜経済研究 第62巻 第4号

2.福祉におけるボランタリー・セクターの役割と市民参加 参加型福祉体制か?

 福祉多元主義は,ボランタリー・セクターの役割増大と市民の参加による

参加型福祉体制を志向する。ところが,公的福祉におけるボランティア活動

の導入は,政府の財政と関連性をもつ。西欧では1980年代以降,市民の多様

な福祉ニーズの増加と福祉費用の増加による財政赤字や予算削減に対する代

案として社会福祉サービスの提供にボランティアを「活用」しはじめた。政

府は,ボランティアとボランティア組織の活用を通じて有給職員に対する依

存度を減らしながら,公的福祉を補完する一石二鳥の効果を収められるから

である。しかし,政府とボランタリー・セクターとのこのような関係は,冒

頭で指摘したように,市民参加が単なるサービス提供という「活動」にとど

まり,ボランタリー・セクターが政府の下請機関になってしまうような危険

性を内包している。それでは,韓国と日本の社会福祉における政府とボラン

タリー・セクターの関係はどのようであろうか。

(1)韓 国

 韓国の場合,社会福祉事業法第9条で社会福祉ボランティア活動の支援・

育成を明文化している27)。国民の政府は,『生産的福祉の道』において福祉

体制の構成及び運営方式について,国家・市場・市民社会における全ての主

体が参加する「社会連帯に基づいた参加型福祉体制」を通じて具現されると

記述している。具体的に,政府はNGOなど民間団体に財政支援を行い,医

27)社会福祉事業法第9条(社会福祉ボランティア活動の支援・育成)(韓国)

 ① 国家及び地方自治体は社会福祉ボランティア活動を支援・育成するため,次の各

  号の事項を実施しなければならない。

   1.ボランティア活動の広報及び教育

   2.ボランティア活動プログラムの開発・普及

   3.ボランティア活動中の災害に備えた施策の開発

   4,その他のボランティア活動の支援に必要な事項

 ②国家及び地方自治体は第1項各号の事項を効率的に遂行するために社会福祉法人,

  その他の非営利法人・団体にそれを委託し得る。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (603)-107一

療・託児・貧困層の保護など公共サービスの一部を担うようにするパートナー

シップ制度を構築し,企業も非営利団体を支援するパートナーシップの形成

を促進するように提案している。さらに,民間セクターによる仕事場の創出

と社会的連帯の制度化を新しい代案の核心として提示している。

 一方,『生産的福祉の道』は,包括的福祉事業としての自活を強調する。

自活支援事業は脆弱階層の要求に応じた住民密着型福祉事業であり,公共福

祉以外にも共同体資源を活用する民間セクター型アプローチであると説明し

ている。また,自活支援事業は地域社会,宗教機関,市民団体,企業,労働

組合が参加する積極的勤労連携プログラムであり,参加型福祉伝達体系とし

ての意味を持つ。このような民間セクターの活性化と自活事業の実質的な執

行において,民間部門はそのすべてに責任を負っているといっても過言では

ないと率直に認めている。したがって,生産的福祉の推進主体としての民間

の役割を強調しており,生産的福祉の主要な「財源負担者」として,企業と

労働組合は福祉政策が合理的に行われるように主要な政策決定過程に積極的

に参加しなければならないと指摘している。

 国民の政府は,社会福祉分野におけるボランティアとボランティア組織の

制度的活用のため,2001年12月から「ボランティア活動認証制28>」を施行し

た。しかし,韓国ボランティア活動団体協議会,ボランティア21,韓国ボラ

ンティア活動フォーラムなどボランタリー・セクターの中心団体は,「政府

が国民のボランティア活動を管理,認証するボランティア活動認証制は,や

やもすれば,国家がボランティア活動を理由に全国民を統制,管理する全体

28)ボランティア活動認証制とは,ボランティアの活動時間をデーターベース化し,一定

 の基準を超えた人に金バッジ(活動時間1,000時間以上),銀バッジ(500時間),緑バッ

  ジ(200時間)などを支給する。また,50時間以上の活動実績のあるボランティアには

 実績時間以内で他人の奉仕がもらえるようになっている制度である。保健福祉部は活

 動実績認証を韓国社会福祉協議会に委任し,協議会が社会福祉館,社会福祉施設,企

 業の社会貢献チームなどを対象に全国に650ヶ所の「ボランティア活動認証センター」

  を指定し担当するようにした。

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一一 108-(604) 東亜経済研究 第62巻 第4号

主義社会をつくる危険性がある29)」と警告した。また,「ボランティァ活動

認証制はボランティア活動が対価を望まないでしなければならない活動であ

るという信念をもって実践する大多数のボランティアの名誉を汚すことであ

り,……認証書をもらった人に就職や進学の際,加算点を与えるとしたら,

それはさらに間違いである3⑪)」と主張した。しかし,保健福祉部はボランティ

ア認証制は認証分野が社会福祉分野に限られているし,社会福祉事業法に従っ

て施行するので問題にならないという立場である。これが「国民の政府」が

言う,いわゆる「社会連帯に基づいた参加型福祉体制」である。

(2>日 本

 1990年代には,財政的危機や政治的意図により断行された1980年代の福祉

改革とは異なる次元で,少子高齢化社会にふさわしい新たな社会福祉システ

ムが求められており,その発展方向として向っているのが「福祉多元主義化」

である。このような状況の中で示されたのが「参加型福祉社会論」である。

日本政府によると,参加型福祉社会は地域社会(community)とボランティ

アリズム(volunteerism)に基づいて,成熟した市民社会の達成を目標とし

た福祉多元主義的福祉社会を志向している。

 平成3年版の『厚生白書』の副題は,「活発化する民間サービスと社会参

加活動」であり,平成4年版では「皆が参加する‘ぬくもりのある福祉社会’

の創造」となっている。また,実定法上では,社会福祉事業法3条の基本理

念の項目と同法70条の2の基本指針の中に「参加」の語が用いられている。

 さらに,1993年2月の社会保障制度審議会社会保障将来像委員会「第1次

報告」では,「社会保障をめぐる公私の役割における社会保障をめぐる公的

責任については,その費用負担の責任,サービスの供給や質の確保について

の責任,制度を維持・運営する責任などいくつかの側面から検討していく必

29)「韓国ボランティア活動団体協議会」ジョ・ヘニョン会長の発言(中央日報2001年12月

  2日)

30)「ボランティア21」イ・カンヒョン事務総長の発言(中央日報2001年12月2日)

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (605)一一109一

要がある」とし,「ボランティア活動が活発に行われるためには,福祉の心

を育む福祉教育や地域におけるネットワークづくりなど各種の基盤整備が必

要であり,これもまた公的部門の責任である」とし,福祉多元主義で強調し

ている国家責任,すなわち公的資源の調達,社会福祉サービス供給における

規制的役割,非営利組織の育成などについて明確にしている。

 また,「(4)政府事業と民間事業」では,「不採算により民間が参入しない場

合,民間のモデルとなり得るような先端的な事業を行うなど国や地方公共団

体が直接サービスを提供しなければならない場合があることはいうまでもな

い。サービスの提供は国や地方公共団体が直接行わなくとも,必要な助成を

行い,また,民間のサービスの質が確保されるよう規制を行う必要がある場

合がある。… 基本的には,規制は民間の創意工夫をできるだけ尊重する観

点から国民の健康や生命の安全など利用者の保護に必要なものにとどめ,助

成は民間の活力が国民生活を豊かで安定したものにし得るかどうかという観

点から行うべきである」と述べている。

 1993年7月,中央社会福祉審議会地域福祉専門分科会「ボランティア活動

の中長期的な振興方策について」という意見具申では,福祉コミュニティと

そこでの民間非営利組織の重要性について語っており,「今後のボランティ

ア活動の振興においては,民間のエネルギーを活用し,民間非営利組織を積

極的に強化していくことが必要であり,民間団体が地域に積極的にかかわり

参加することによって,より分権的かつ多元的な参加型福祉社会を形成する

ことが可能となると述べている。これらの論調は,1995年7月に出された社

会保障審議会の勧告「社会保障体制の再構築一安心して暮らせる21世紀の社

会を目指して」に継承されている。

 民間非営利団体に対する政府の認識を最も表わしている施策が,1998年3

月通常国会で成立した「特定非営利活動促進法」(以下,「NPO法」と略す)

である。これは日本社会におけるNPOの役割の重要性が法的にも認知され

たことを意味する。なお,ボランティア活動やNPO活動に対する支援事業

を行う自治体が増えてきており,NPO法の成立後,その数はさらに多くなっ

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一110-(606) 東亜経済研究 第62巻 第4号

てきている。このような自治体の支援条例や指針,サポートセンター,基金

などの制定・設置件数は,今後ますます増えていくことが予想される。自治

省でも,自治体がNPO支援活動を行うことを様々な方法で支援している3’)。

 以上の展開をみる限り,日本の福祉政策の方向が「参加型福祉社会」へと

向けられているようにみえる。果たしてそうだろうか。

 日本政府が政策的にボランティアを取り上げはじめたのは,1980年代後半

以降,保健・医療・福祉の人材確保が深刻な問題になったことからであり,

政府関係文書にはボランティアが保健・医療・福祉のマンパワー対策として

扱われている。例えば,1991年厚生省保健・医療・福祉マンパワー対策本部

の「中間報告」では,検討課題の一つとして「国民皆参加」をあげ,ボラン

ティア活動の推進を示した。また,1993年中央社会福祉審議会地域福祉専門

分科会の意見具申「ボランティア活動の中長期的な振興方策について」では,

政策としてのボランティアづくりの議論が本格化した。さらに,ボランティ

ア振興のため,ボランティア休暇・休学制度,ボランティア保険,有償制,

研修,都道府県・市町村のボランティア・センターの設置,社会的評価・表

彰制度,ボランティア月間,業務教育段階からの福祉教育などが提起され

た32)。1995年2月には18関係省庁による「ボランティア問題に関する関係省

庁連絡会議」を設置し,ボランティア支援立法に対する本格的な検討に乗り

出した。NPO法はその結果であろう。

 表7は,2003年9月までNPO法により認証を受けた13,250法人の定款に

記載された活動分野を集計したものである。表7からもわかるように,認証

NPO法人の活動分野は「保健,医療又は福祉」が58,53%で,他の分野に比

べ非常に高い割合を占めている。これら第1号に当たる福祉NPOのほとん

どは,介護保険の指定事業者として活動しており,結局,政府が認証を通じ

て条件を備えているNPOを選別し, NPO法人を行政のパートナーとして活

31)詳細はシーズホームページ〈http://npoweb.gr.jp>参照。

32)真田是『民間社会福祉論一社会福祉における公と民』かもがわ出版,1998年,22頁,

 140-151頁。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究 (607)-111一

用しているといえる33)。

表7 NPO法の定款に記載された特定非営利活動の種類(複数回答)

                            (2003/09/30現在)

号数 活動分野 法人数 割合(%)

第1号 保健,医療又は福祉の増進を図る活動 7,755 58.53

第2号 社会教育の推進を図る活動 6,306 47.59

第3号 まちづくりの推進を図る活動 5,154 38.9

第4号 学術,文化,芸術又はスポーツの振興を図る活動 4,027 30.39

第5号 環境の保全を図る活動 3,835 28.94  一

第6号 災害救援活動 954 7.2

第7号 地域安全活動 1,119 8.54

第8号 人権の擁護又は平和の推進を図る活動 2,111 15.93

第9号 国際協力の活動 3,131 23.63

第10号 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動 1,275 9.62

第11号 子どもの健全育成を図る活動 5,102 38.51

第12号 情報化社会の発展を図る活動 126 0.95

第13号 科学技術の振興を図る活動 58 0.44

第14号 経済活動の活性化を図る活動 159 1.2

第15号 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動 163 1.23

第16号 消費者の保護を図る活動 68 0.51

第17号前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡,助言又は援

助の活動

5,400 40.75

注:一つの法人が複数の活動分野の活動を行う場合があるため,合計は100%にならない。

  第12号から第16号までは,改正NPO法施行日(平成15年5月1日)以降に申請して認証

  された分のみが対象。

資料:htt)://ww5. ca。. o. ir)/seikatsu/n o/data/b㈱1・a.・htinl(検索日2003.11.3)

 市民参加による民間非営利団体が,福祉サービス供給において中核的役割

を担うようにするだけでは福祉多元主義化とはいえない。民間非営利部門の

役割の増大は,国家福祉の後退や国家責任の転嫁による結果であるからであ

る。本当に国家が福祉多元主義に基づいた「参加型福祉社会」を目指してい

るのなら,国家は市民に対して参加を保障する環境づくりに努めなければな

33) 碧ロ10肩、 2002、  「望ゼー9等 入}亘!入}-e司≦91-NPO: 胡79叫 NPO≦9} Pl ∫斗1三L→屑9 号・S且里.」 亨}う干≦司

  苛司m叫」191号叫秀曾q子紐司、 『号刈ス1明姐子』2002kid1晋重。

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一112-(608) 東亜経済研究 第62巻 第4号

らない。ところが,現在「参加型福祉社会」論で述べられている「参加」と

は,あくまでも地域住民による福祉サービス供給活動への参加であり,利用

者側からの福祉サービス決定過程や供給過程への参加という視点が欠けてい

るという問題点が残されている34)。

V[.結 び

 本稿では,生産的福祉論と日本型福祉社会論を通じて日韓両国の福祉多元

主義化に関して検討してみた。これまでの検討を踏まえ,生産的福祉論と日

本型福祉社会論の類似点を整理してみると次のようである。

 第一,生産的福祉論と日本型福祉社会論は福祉国家から福祉社会への志向

を主張している。両者は共に表面的には福祉国家の発展型として福祉社会を

提示しているものの,実際には反福祉国家論の立場に立っている。ところが,

日韓両国(とくに韓国)は福祉国家の段階を経ていないと評価されており,

国家福祉の膨張により福祉国家の再編が議論された西欧先進国とは異なる状

況であることに注意しなければならない。

 第二,生産的福祉論と日本型福祉論は国家的財政危機に対して唱えられた

福祉論として,福祉多元主義を表面に出しているが,実質的には福祉多元主

義が焦点を当てている福祉に対する財源調達者としての国家責任は軽視し,

むしろ「経済発展に寄与する福祉」,「社会連帯に基づいた参加型福祉社会」

といって,市場経済,自己責任と自活,民間部門の役割分担を強調している。

すなわち,新自由主義に他ならない。

 第三, 生産的福祉論と日本型福祉論はボランタリー・セクターの役割拡

大の市民の参加という観点から参加型福祉体制を主張しているが,両国はボ

ランティア活動を福祉サービス供給のためのマンパワーの拡充として活用し

ており,福祉多元主義が強調している市民が主体となる分権化や市民社会の

34)伊藤周平「社会福祉における利用者参加一日本の福祉政策と参加の理念」社会保障研

 究所編『社会福祉における市民参加』東京大学出版会,1996年,参照。

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社会福祉政策の福祉多元主義化に関する研究: (609)-113一

発展とは程遠い。

 要するに,韓国と日本は,福祉における国家責任を隠蔽する論理として福

祉多元主義を利用しているといえるだろう。福祉多元主義は次のような論理

により支えられている35)。第一,福祉サービスを供給する生産者に行政が委

託方式を通じて福祉サービスを代行させることにより,国家が直接的に供給

するより低いコストで解決できる。第二,福祉多元主義は,政府による多元

的福祉サービス供給主体に対する規制と統制を強調するという点で政府責任

の中央集中化政策に符合する。第三,福祉サービス需要者の立場からみると,

供給者に対する選択の幅と機会が多くなるだけではなく,供給者間の競争に

より需要者中心の供給体制に発展する。第四,福祉多元主義は一般市民のニー

ズに応じながら,市民が単なる受動的な福祉需要者ではなく,「参加」を通

じて福祉の共同生産者として機能するという意味で市民の主体性を強調する。

 ところが,国家責任が担保されない状態での福祉サービスの供給主体の多

元化と,伝達体系と関連した分権化は,福祉サービスの分節化を招き得る36)。

したがって,福祉多元主義は社会福祉サービスの供給には効率的であるかも

しれないが,福祉の本質的機能である所得と富の再分配による社会的不平等

の除去は達成できないという点で,福祉国家体制が確立していない状態で福

祉多元主義的供給方式を採るということは,国家責任の回避あるいは転嫁で

あるという非難を免れない。

 全世界的な経済沈滞とともに,1970年代後半から新自由主義に基づいた福

祉国家危機論が本格的にいわれる中で,西欧の福祉国家を中心に福祉国家の

危機は議論の水準を超え,実際に福祉国家の再編として展開された。しかし,

西欧福祉国家においては,福祉政策の拡大が飽和状態に至っていると思われ

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一114-(610) 東亜経済研究 第62巻 第4号

る水準で福祉社会論が登場したのに比べて,日本が福祉見直し,日本型福祉

社会論などを唱えた時期は,W. A.ロブソンが彼の著作『福祉国家と福祉

社会』の「日本語版への序文」において,「日本は未完成もしくは停滞状態

にある福祉国家と見ることができる。それは,資源を経済成長から社会開発

に転換するとともに,その福祉サービスを規模,量ともに大幅に増進する必

要に迫られている37)」と指摘した1978年であることはあまりにも皮肉な話で

ある。このような皮肉は,今日の韓国により当てはまる。さらに,韓国は積

極的な福祉の拡充を掲げながらも,内容においては新自由主義的な改革を推

進したことでより問題が深刻である。「生産を妨げない福祉」,「市場福祉を

基本とする国民福祉」を強調する前に,まずやらなければならないのは福祉

政策の拡充であり,福祉国家の建設であろう。

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