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GYOSEI NO MADO 水産庁施策情報誌 漁政の窓 〒100-8907 東京都千代田区霞が関1-2-1合同庁舎1号館 代表 03-3502-8111(内線6505)URL http://www.jfa.maff.go.jp/ 1 2015.10 124 vol. 通巻541号 「藻場・干潟ビジョン検討会」における中間とりまとめについて .................................... 2 漁港漁場整備部 計画課   ワシントン条約決議に基づくキャビアの輸出制度開始について ...................................... 5 増殖推進部 漁場資源課   回遊魚 ....................................................................................................................................... 7 漁政部 漁政課長 松原明紀   平成27年9月分のプレスリリース .................................................................................... 8 CONTE N T S ホンダワラ類に蝟集するメバル(石川県富来)

水産庁施策情報誌 漁政の窓 124 - maff.go.jp2 0 1 5 . 1 0 v o l . 1 2 4 3 水産庁施策情報誌漁政の窓 活動組織が約3.5万haの藻場・干潟の保全活動を行っています。(3)技術開発と知見の普及

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G Y O S E I N O M A D O水産庁施策情報誌漁 政 の 窓〒100-8907 東京都千代田区霞が関1-2-1合同庁舎1号館 代表 03-3502-8111(内線6505)URL http://www.jfa.maff.go.jp/

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水産庁施策情報誌漁政の窓

2015.10 124vol.通巻541号

「藻場・干潟ビジョン検討会」における中間とりまとめについて .................................... 2漁港漁場整備部 計画課  

ワシントン条約決議に基づくキャビアの輸出制度開始について ...................................... 5増殖推進部 漁場資源課  

回遊魚 ....................................................................................................................................... 7漁政部 漁政課長 松原明紀  

平成27年9月分のプレスリリース .................................................................................... 8

C O N T E N T S

ホンダワラ類に蝟集するメバル(石川県富来)

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「藻場・干潟ビジョン検討会」における中間とりまとめについて� 漁港漁場整備部 計画課

1.はじめに 藻場・干潟は、海域において豊かな生態系を育む機能を有するほか、水産生物の生育にとって非常に重要な役割を有しており、水産資源の回復を図るためにはこの保全・創造を推進することが重要な役割を担っています。しかしながら、高度経済成長期に急激に悪化した藻場・干潟などの沿岸環境は、その後の汚濁負荷量の総量削減の取組などにより水質自体は改善したものの、生物の生育環境は、必ずしも好転したとは言えない状況であり、藻場・干潟の保全・創造といった回復に向けた手段を積極的に講ずる必要があります。 水産庁としても水産基盤整備事業等によりハード整備を支援するほか、水産多面的機能発揮対策事業でもソフト面の取組を支援する対策を講じていますが、依然として藻場・干潟の拡大・機能回復をめぐる課題は根強く残っています。 そこで、水産庁においては、実効性のある効率的な藻場・干潟の保全・創造対策を検討するため、「藻場・干潟ビジョン検討会」を立ち上げ、7月 17 日に第1回検討会を、8月 18 日に第2回検討会をそれぞれ行い、9月 15 日に中間とりまとめを公表しました。

2.藻場・干潟の現状と課題 藻場は、海藻等が水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給するとともに、水産生物の産卵場所や幼稚仔魚等の生息場所や、アワビ・サザエなどの海藻を食べる水産生物や海藻表面や藻体間の餌料生物を捕食する水産動物にとっての餌場となるなど、漁業資源の増殖に大きな役割を果たしています。 また、干潟は、二枚貝等泥中に住む水産生物の生息の場となっており、藻場と同様に幼稚仔魚の生息場所となっているほか、生物多様性を維持する機能や海域の水質を浄化する機能を有しており、陸域から流入する栄養塩濃度の急激な変動を抑える緩衝地帯としても重要な役割を果たしています。 このような藻場・干潟は、かつては全国の沿岸域に広く分布していましたが、埋め立て等により消失が進んだほか、近年では、海水温の上昇に伴う海藻の立ち枯れ、ノトイスズミ、アイゴなどの植食性動物の摂食行動の活発化と分布域の拡大等により藻場面積が減少し、南方系魚類であるナルトビエイの来遊による二枚貝の捕食や貧酸素水塊の発生、陸上からの砂の供給の低下や円滑な物質循環の滞り等により、干潟の生産力が低下している状況です。

3.これまでの藻場・干潟の保全・創造対策(1)公共事業による整備

 公共事業による藻場整備は、主として、海藻の遊走子や幼胚(いずれも母藻から放出される海藻の増殖の基礎となるもの)の着定する基質が乏しい海域における石材やコンクリートブロック等の設置や海草の生育に必要な光量が不足する海域における砂地造成等が行われ、干潟造成は、主として、二枚貝等の浮遊幼生の着底促進や生息環境の改善のため、良質な砂を投入することにより行われます。 このような藻場・干潟の整備は、昭和 51 年度より開始された沿岸漁場整備開発計画に基づき公共事業として本格的に整備が進められてきました。平成 14 年度に開始した漁港漁場整備長期計画においては、計画期間内における藻場・干潟の整備事業量が定量的に定められるとともに、平成 19 年度からは海藻の着定基質の設置や砂地造成とあわせて母藻の播種・移植や食害生物対策等が実施できる「磯焼け対策緊急整備事業」が創設され、より確実性の高い藻場・干潟整備を行っています。 これまで、ほぼ全国的に藻場・干潟の整備が行われており、平成 26 年度までに 2 万 5 千 ha を越える整備が行われています。

(2)ソフト対策による藻場・干潟の保全対策 藻場・干潟の維持管理等の沿岸域の環境・生態系を守るための取組が、水産動植物の生育環境の改善や水産資源の回復に資するとともに、水質の改善や生物多様性の保全を通じて幅広く国民全体にメリットをもたらすものであることを踏まえ、漁業者や地域住民が行う藻場・干潟等の維持・回復に資する保全活動を支援する「環境・生態系保全対策事業」が平成 21 年度より開始されました。その後、環境生態系を含む、水産業・漁村が持つ多面的機能の発揮を支援するため、「水産多面的機能発揮対策事業」として平成 25 年度より開始されました。水産多面的機能発揮対策事業等により藻場・干潟の保全活動を行う活動組織は年々増加しており、平成 27 年度においては、500 を越える

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活動組織が約 3.5 万 ha の藻場・干潟の保全活動を行っています。

(3)技術開発と知見の普及 磯焼け発生機構の解明やその対策についての研究が長年にわたって取り組まれてきましたが、必ずしも現場において適用されていなかったことから、平成 19 年、漁業者自らが主体となって藻場の回復を計画し、実行できる具体的な対応策を系統的にまとめた「磯焼け対策ガイドライン」を策定し、その普及を図るとともに、平成 27 年、植食性魚類の生態に関する知見や駆除技術等をさらに充実させた「改訂版 磯焼け対策ガイドライン」を策定しています。さらに、各地で取り組まれた磯焼け対策に関する知見を共有するため、毎年「磯焼け対策全国協議会」が開催されています。 また、干潟についても、実用的な生産力改善手法をとりまとめた「干潟生産力改善のためのガイドライン」を平成20 年に策定するとともに、アサリの調査研究事例に関する知見を共有するための「アサリ研究会」が毎年開催されています。

4.これからの実効性のある効率的な藻場・干潟の保全・創造に向けて このように海水温上昇の影響等により海藻類の繁茂状況や藻場構成種の変化、食害生物の分布状況などが大きく変わっていますが、多くの都道府県においては漁業者等からの情報により局所的な海域の状況は把握しつつも、海域全体としての状況までは詳細に把握されていません。 また、水産基盤整備事業等によるハード整備や水産多面的機能発揮対策事業等によるソフト対策は全国的に実施されているものの、海藻類の胞子・種子等の生殖細胞や二枚貝の浮遊幼生等が広域的に海域を回遊するという動態を考慮して対策を実施した事例は多くありません。 今後、気候変動等の影響による海域環境の変化に柔軟に対応した実効性のある藻場・干潟の保全・創造対策を推進するにあたって、以下の4つの視点が示されました。

(1)的確な衰退原因の把握 海藻類の生育を制限する要因として、植食性動物による捕食、浮泥の堆積、光量不足等があげられ、干潟の生産力の低下要因として、陸上からの砂の供給の低下や円滑な物質循環の滞り、貧酸素水塊の影響、ナルトビエイなどの有害生物の来遊などが一般的に列挙されるが、個別の海域ごとにその要因は様々である。そのため、昨今の海水温上昇等の影響により、衰退原因が変化する可能性があることを念頭に置きつつ、必要に応じて漁業者等の協力を得ながら現地調査を行い、個別の海域ごとに的確に要因を把握・予測し、その要因に合致した対策を講じるべきである。その際、局所的な調査の実施や要因把握に留まらず、水産多面的機能発揮対策事業等による藻場・干潟の保全活動等から得られる情報や知見も活用しつつ、広域的な海域環境の把握に努めるべきである。

(2)ソフト・ハード施策が一体となった広域的対策の実施 海藻類の胞子・種子等の生殖細胞や干潟域に生息するアサリ等の二枚貝類の浮遊幼生は海流によって広域に移動する。そのため、局所的な視点からの対策実施に留まらず、海域を広域的に俯瞰し、最新の調査結果に基づいて実効性のある効率的な藻場・干潟の保全・創造に向けたハード・ソフト施策を一体的に組み合わせた計画を策定し、対策を推進するべきである。その際、コンクリートブロック等の設置による海藻の着定基質の設置や、良質な砂の投入等によるハード対策は、局所的ではあるが海藻類の胞子・種子等の生殖細胞や二枚貝の浮遊幼生が着定できる場所を新たに創造することができ持続的な効果の発揮が期待できる点、食害生物の駆除や海藻類の播種・移植といったソフト対策は、広い面積をカバーできるが人的労力が大きくなる点を十分に踏まえて計画を策定する必要がある。 また、水産生物の生活史に対応した漁場整備を行う海域において、産卵親魚や幼稚仔魚が多く生息する箇所が判明している場合には、その場所での対策を優先的に行うべきである。 加えて、ハード対策による藻場・干潟の造成後は、効果が継続的に発揮するよう、定期的な調査による現況把握を行うとともに、ウニの密度管理やアイゴ等の植食性動物の除去等の食害生物対策、耕うんや客土等の実施による維持管理を継続的かつ着実に行うべきである。 また、対策を実施した後は、海藻類や二枚貝の生育には数ヶ月から数年の期間を要することを踏まえて、一定の期間、藻場密度や二枚貝生息密度測定等のモニタリングを行うことが重要であり、PDCAサイクルを通じて実効性のある効率的な対策となるよう、それに向けた実施体制を構築し、着実に成果を残していくべきである。

(3)新たな知見の積極的導入 藻場・干潟の衰退要因の発見方法やそれに対する対応策をとりまとめた「磯焼け対策ガイドライン」や「干潟生産

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藻場・⼲潟ビジョン中間とりまとめの概要藻場・⼲潟は、豊かな⽣態系を育む機能を有するとともに、⽔産資源の⽣育にとって⾮常に重要な役割。実効性の

ある藻場・⼲潟の保全・創造を推進するため、以下の現状を認識しつつ、4つの視点を重視して対策を推進。

現状と課題 実効性のある効率的な藻場・⼲潟の保全・創造に向けて

(これまでの対策)・⽔産基盤整備事業等により2万5千haを越える藻場・⼲潟を整備。・また、⽔産多⾯的機能発揮対策により500を越える活動組織が藻場・⼲潟保全活動を実施。

(海域環境の変化)昨今の海⽔温の上昇等により、・植⾷性⿂類の分布域拡⼤等により藻場⾯積が減少。・⼲潟についても、ナルトビエイ等の⾷害⽣物来遊等の影響により、機能が低下傾向。・また、このような海域環境の変化が必ずしも広域的に把握されていない。

(広域的観点からの対策の必要性)・海藻類の⽣殖細胞(胞⼦・種⼦等)や⼆枚⾙の浮遊幼⽣等は、海流等の影響を受けて広域的に回遊するが、その動態を考慮した対策の実施事例は少ない。・局所的観点に留まらず、広域的観点から、衰退要因に的確に対応した対策実施が必要。

1.的確な衰退要因の把握

3.新たな知⾒の積極的導⼊

2.ハード・ソフトが⼀体となった広域的対策の実施

4.対策の実施に当たっての留意事項

広域的に海域環境を調査し、的確に藻場や⼲潟の衰退要因を把握するべき。

より効率的かつ効果的に藻場・⼲潟の保全・創造対策を実施するため、⺠間や研究機関等により開発された技術や、新たな知⾒を積極的に導⼊。

・局所的な視点からの対策に留まらず、最新の調査結果に基づいて、広域的な観点からハード・ソフト施策を⼀体的に組み合わせた計画を策定した上で対策を推進するべき。

・また、海域の中で産卵親⿂や幼稚仔⿂が多く⽣息する箇所が判明している場合にはその箇所への対策の優先的な実施。

・対策実施後は、⼀定期間、藻場密度や⼆枚⾙⽣息密度測定等のモニタリングを⾏い、PDCAサイクルの中で効果的な対策を実施し、着実に成果を残すべき。

・地⽅公共団体が中⼼となって計画策定及び実施体制の構築を⾏うことが適当。その際、漁業者、地域住⺠のみならず、企業等の参画にも配慮。また、関係都道府県が複数に及ぶ場合、国が適切に関与することも必要。

・対策実施後は、地元の漁業者等が⾃主的かつ持続的に藻場・⼲潟の保全を⾏うことが重要。

・⼲潟造成材としての河川内堆積⼟砂活⽤や貧酸素⽔塊発⽣抑制対策等を検討するべき。

中間とりまとめをたたき台として更なる検討を⾏い、最終とりまとめへ

次期漁港漁場整備⻑期計画への反映、対策の実施

力ガイドライン」を引き続き全国に普及する必要がある。また、海底からの湧昇などにより冷海水が局所的に供給される海域においては、植食性魚類による藻場の食害が少なく、海藻類の生長や生残が比較的良好で、藻場造成に適していると考えられるといった知見や、民間企業や研究機関等が開発した海藻類の成長促進に資する技術、干潟についてもアサリ着底を促進する基質など、より効率的・効果的に藻場・干潟の保全・創造を図る手段として、新たな知見や技術を積極的に導入していくべきである。

(4)対策の実施に当たっての留意事項 地方公共団体が中心となって、海域を広域的にとらえた実効性のある効率的な藻場・干潟の保全・創造に向けたハード・ソフトが一体となった計画の作成及び実施体制の構築を行うべきである。その際、漁業者、地域住民、企業などの多様な参画を得ることが重要である点や、地域の漁業者等が自主的かつ持続的に藻場・干潟の保全を行うことができる体制を構築することが重要である点に留意するべきである。また、関係都道府県が複数に及ぶ場合は国が適切に関与して、円滑な調整を図る必要がある。 藻場・干潟の保全には、漁業者の役割が不可欠であり、漁業者が安心して漁業を営むことができるような取組が引き続き必要である。 地域の実情に応じ、関係者等と調整しながら、河川・ダムに堆積した土砂を干潟材料として活用することの可能性について検討するべきである。また、二枚貝等の生息環境の着実な改善を図るため、潮汐や波浪等による土砂の移動状況を考慮しつつ、干潟の保全・創造対策の適地選定を行うことも重要である。さらに、生物の生息に大きな影響を及ぼす貧酸素水塊の発生原因を究明し、その対策を講ずることが海域環境の改善に大きく寄与することを踏まえ、必要に応じ、海水交換の促進等による貧酸素水塊の発生抑制対策についても検討するべきである。また、海藻類や干潟生物の生育環境に必要な物質の供給の低下が懸念される海域においては、その原因を究明するとともに、必要な対策を検討することも重要である。

5.最後に 本中間とりまとめでは、前述の通り、今後実効性のある藻場・干潟の保全・創造対策を実施するに当たっての基本的な考え方が、4つの観点から整理されています。これらの対策は、地方公共団体が中心となって推進する必要があり、今回の中間とりまとめをたたき台として、さらに多くの意見を取り入れて、更なる検討を行うこととしています。

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ワシントン条約決議に基づくキャビアの輸出制度開始について� 増殖推進部 漁場資源課

 近年、日本国内のチョウザメ養殖業が発展し、キャビアの輸出が検討されるようになったことから、水産庁と経済産業省は協力し、平成 27 年9月 18 日、ワシントン条約の締約国会議決議に基づくキャビアの輸出のための制度を導入しました。これにより、同条約により貿易が規制されているキャビアを日本から輸出することが可能になりました。

1.背景 チョウザメ目の種は、全て、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の規制対象となっています。ワシントン条約とは、国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することで、過剰な国際取引が原因となって絶滅のおそれが生じている野生動植物を保護することを目的とした条約で、例えばゾウやサイ、ホッキョクグマなどの個体及び個体の一部の国際取引を規制しています。チョウザメ目の種については、2種が商業的な国際取引が禁止となる附属書Ⅰに掲載されており、その他の種全て(約 30 種)が国際取引の際には輸出許可書等の添付が義務付けられる附属書Ⅱに掲載されています。さらに、このことに加え、未受精卵の加工品であるキャビアについては、野生のチョウザメ由来のキャビアが、養殖したチョウザメ由来のキャビアと偽られて販売されること等を防ぐため、加工工場等の施設の登録制度と、再使用が不可能なラベルを添付するといった国際統一ラベリング制度を実行することが求められています。 これらの施設登録及びラベリングの制度は、平成 14 年に開催されたワシントン条約の締約国会議で決定され、国際的には既に実施されていたものですが、日本ではこれまで、キャビアの養殖が発展しておらず、キャビアの輸出が予測されなかったことから、いずれの制度も導入していませんでした。しかしながら、近年、宮崎県を中心とした日本国内のチョウザメ養殖業の発展に伴い、キャビアの輸出も検討されるようになってきたことから、今般、水産庁と経済産業省は協力して、以下のとおり制度を導入することとしました。

2.制度の内容 今回導入した制度は、具体的には以下の通りです。(図1参照)

【水産庁】 「キャビア輸出・再輸出のための施設(養殖場、加工工場、再包装工場)の登録等取扱要領」を定め、チョウザメ・キャビアの管理体制、再使用不可ラベルの貼付体制等を審査の上、施設を登録する制度を導入

【経済産業省】 (1)登録された施設で再使用不可ラベルが貼付されたか否か、(2)決議に定める再使用不可ラベルの記載事項が輸出許可申請書に記載されているか等を確認した上で、輸出許可書を発行する制度の導入

 なお、今回水産庁が定めた「キャビア輸出・再輸出のための施設(養殖場、加工工場、再包装工場)の登録等取扱要領」による登録手続の概要は、以下のとおりです。(紙面の関係上詳細に記載できませんので、詳細を確認されたい方は、水産庁 HP(http://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/caviar.html)をご確認ください。)①申請 登録を受けようとする方は、以下の書類を揃えて水産庁に申請します。 ・キャビア輸出・再輸出のための施設登録申請書 ・施設の概要が分かる資料 ・事業の概要が分かる資料 ・(加工工場又は再包装工場の申請の場合)ラベリングシステムの執行に関する説明資料

②審査 水産庁は、申請のあった施設が登録要件を満たしているかどうかを、審査要領(図2参照)に基づき審査します。

③登録 水産庁は、施設の登録が適当と認めた場合、登録が完了した旨を申請者に通知するとともに HP に登録者名、施設所在地等を掲載します。なお、施設登録の有効期間は1年間です。

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水産庁施策情報誌漁政の窓

④経済産業省、ワシントン条約事務局への通知 水産庁は、登録を完了した場合、その旨を経済産業省へ通知します。経済産業省は、同旨をワシントン条約事務局へ通知することとなります。

⑤変更の申請 申請事項を変更するときは、原則、当該変更の前に、水産庁の承認を得る必要があります。水産庁は、変更内容が適当と認めた場合、申請者に通知するとともに、同旨を経済産業省へ通知します。経済産業省は、必要に応じてワシントン条約事務局へ通知することとなります。

⑥更新意向の申請 登録の有効期間が切れる日の2か月前から有効期間の切れる日までの間に、水産庁に更新意向を申請します。水産庁は、申請が適当と認めた場合、有効期間が1年間延長された旨を申請者に通知するとともに、経済産業省にもその旨通知します。なお、本期間に申請がない場合、登録は失効することになります。

⑦登録の取消し 登録を受けた施設に登録要件を満たさなくなった疑いがあるとき、又は国際条約の履行のために必要があると認められるときは、水産庁は、申請者の同意の上、当該施設に対し、報告徴収や検査を行い、この結果、登録要件を満たさなくなったことが認められ、かつ是正に応じない場合には、水産庁は登録を取り消すことができます。水産庁は、登録を取り消した場合、登録を受けた者に対して施設登録所の返還を求めるとともに、ホームページの当該者の情報を削除し、登録取消しの旨を経済産業省に通知します。経済産業省は、同旨をワシントン条約事務局へ通知することとなります。

3.担当より一言 今回、経済産業省と協力し上記の制度を整備したことにより、ワシントン条約の決議で求められている規制が遵守され、日本産のキャビアを輸出することができるようになりました。今後、一人でも多くの方に本制度を御活用いただき、そのことにより国内のチョウザメ養殖業がますます発展し、地域の発展につながっていくことを期待しております。チョウザメ養殖業者、キャビア加工業者・再包装業者の皆様からの登録の御申請、お待ちしております。

機密性○機密性○

制度の概要(日本産キャビアの輸出の場合)

・キャビアの加工・包装

・再使用不可ラベル(未開封であることが視覚的に分かるシール)の貼付

水産庁(施設登録制度)

加工工場

・チョウザメを養殖

②’施設登録

施設登録書

経済産業省(外為法に基づく承認等)

④輸出承認申請(CITES掲載種であるため、もともと必要)

・輸出承認申請書・CITES輸出許可申請書(ラベル情報を記載)・施設登録書の写し 等

施設登録書

②施設登録

③販売

①登録申請

①’登録申請

⑤輸出承認証・CITES輸出許可書の発行

CITES

輸出者

養殖場

原料の提供

⑥輸出

TRA/C/JP/2015/xxxx/yyyy

標準種コード

(ラベル情報の例)

原産国加工工場の登録コード

キャビアのロット番号

出所コード(C:飼育繁殖)

抱卵個体の収穫年

図1. 制度の概要

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水産庁施策情報誌漁政の窓

 今年3月に北陸新幹線が開業し、富山県出身者の私は既に2回利用しました。 富山駅に併設された新しい商業施設に、シロエビ料理専門店ができており、いつ見ても長蛇の列です。新幹線開業を契機としてテレビの旅番組で取り上げられることが多くなったことも影響しているのでしょう。 シロエビは富山湾以外でも生息していますが、漁業として成立しているのは富山湾のみであり、体長5センチから8センチで透き通るような姿は「富山湾の宝石」とも呼ばれ、ブリ、ホタルイカと並んで富山の代表的な水産物です。平成25年には「富山湾のシロエビ」として地域団体商標の登録を受けるなど、ブランド化への取組も進められています。 地元では買い求めやすい水産物の代名詞でしたが、実家の母に言わせると、最近は街のスーパーでも欠品することもあり、刺身の価格も上がっているようです。 今回水産庁に異動したことから、改めて関心を持ち、いろいろ調べてみました。 供給面では、1985年から88年にかけて漁獲量が激減したことを契機に、資源管理の必要性が認識されて県、漁協、漁業者間で話し合いが行われ、小型のものは獲らない、漁獲量をモニタリングして減少してきたら休漁日を増やすなどの取組を進めているとのことです(水産白書にも事例として掲載されています)。需要面では、県内のみならず、石川県からも引き合いが増加するとともに、価格も上がっていることが報じられています。また、流通技術の発達で県外にも出荷されるようになっており、東京の寿司屋でも目にすることがあります。 貴重な資源を次代に引き継ぐために漁獲量を一定量に抑える取組が必要なことは言うまでもないことであり、関係者の皆さんの需要喚起も含めた努力もあって浜値が確保されることは持続的な漁業経営のためには不可欠です。加えて、広く世間にシロエビが知られることは富山県出身者として誇らしいことです。少々お高く、手に入りにくくなったとしても、帰省の際の晩酌の肴としてのシロエビの刺身を今後とも楽しむつもりです。

回 遊 魚 北陸新幹線とシロエビ

漁政部 漁政課長

松まつ

原ばら

 明あき

紀のり

キャビア輸出・再輸出のための施設

(養殖場、加工工場、再包装工場)登録等の審査要領

水産庁は、登録の申請を受けた場合以下の項目について、変更又は更新意

向の申請を受けた場合は以下の項目のうち該当するものについて、それぞれ

申請資料又は現地調査により確認する。なお、書類で確認する場合は、必要

に応じて追加の資料を求めることとする。

1.施設の概要

(1)登録事項に「養殖」が選択されている場合

・実際に養殖池が存在しており、チョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種

の養殖が行われていること。

・実際の養殖池の数、配置、面積、必要に応じ深さ等

(2)登録事項に「加工」が選択されている場合

・実際にキャビアの加工ができる施設であること。

・実際にキャビアの包装ができる施設であること。

(3)登録事項に「再包装」が選択されている場合

・実際にキャビアの再包装ができる施設であること。

2.事業の内容

(1)登録事項に「養殖」が選択されている場合

・飼育されているチョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種、年齢、性別、

個体数、出所、原産国等

・チョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種、個体数等について把握できる

養殖管理体制であること。

・未受精卵又は抱卵個体の出荷先(予定)及び年間生産計画

(2)登録事項に「加工」が選択されている場合

・取り扱う未受精卵又は抱卵個体の種、出所、原産国及び仕入先(生産さ

れている養殖場等)

・キャビアの年間生産計画(種、年間生産予定数量、出荷先(予定)等)

・プレストキャビアの場合を除き、2種以上の種のキャビアを混ぜて一次

容器に詰めないこと。

(3)登録事項に「再包装」が選択されている場合

・取り扱うキャビアの種、出所、原産国及び仕入先

・キャビアの年間再包装計画(種、年間再包装予定数量、出荷先(予定)

等)

・プレストキャビアの場合を除き、2種以上の種のキャビアを混ぜて一次

容器に詰めないこと。

3.ラベリングシステムの執行体制

登録事項に「加工」又は「再包装」が選択されている場合、以下の点につ

いて確認する。

(1)一次容器に再使用不可ラベルの貼付を行える設備、人員体制等が整っ

ていること。

(2)ラベルのサンプルが以下の条件を満たしていること。

①破壊せずに剥がすこと又は別の容器に移すことができないこと。

②一次容器を封じていること。

③①、②の条件が満たされていない場合、他の手段により容器の開封が視

覚的に確認できること。

④別添1に示す記載事項が記載されていること。

(3)ロット識別番号の管理体制に関し、以下の条件を満たしていること。

①製品又はロットごとに、キャビアの種が特定できること。

②製品又はロットごとに、キャビアの出所が特定できること。

③製品又はロットごとに、キャビアの原産国が特定できること。

④製品又はロットごとに、収穫年(抱卵個体を収穫した年)が特定できる

こと。

⑤製品又はロットごとに、キャビアの包装又は再包装年月日が特定できる

こと。

⑥(「再包装」が選択されている場合)上記①から⑤までの条件が満たさ

れていない場合、製品又はロットごとに、キャビアのワシントン条約の

輸出許可書番号又は再輸出証明書番号が特定できること。

(4)二次容器上にキャビアの正確な量を示すこと。

キャビア輸出・再輸出のための施設

(養殖場、加工工場、再包装工場)登録等の審査要領

水産庁は、登録の申請を受けた場合以下の項目について、変更又は更新意

向の申請を受けた場合は以下の項目のうち該当するものについて、それぞれ

申請資料又は現地調査により確認する。なお、書類で確認する場合は、必要

に応じて追加の資料を求めることとする。

1.施設の概要

(1)登録事項に「養殖」が選択されている場合

・実際に養殖池が存在しており、チョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種

の養殖が行われていること。

・実際の養殖池の数、配置、面積、必要に応じ深さ等

(2)登録事項に「加工」が選択されている場合

・実際にキャビアの加工ができる施設であること。

・実際にキャビアの包装ができる施設であること。

(3)登録事項に「再包装」が選択されている場合

・実際にキャビアの再包装ができる施設であること。

2.事業の内容

(1)登録事項に「養殖」が選択されている場合

・飼育されているチョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種、年齢、性別、

個体数、出所、原産国等

・チョウザメ類又はヘラチョウザメ類の種、個体数等について把握できる

養殖管理体制であること。

・未受精卵又は抱卵個体の出荷先(予定)及び年間生産計画

(2)登録事項に「加工」が選択されている場合

・取り扱う未受精卵又は抱卵個体の種、出所、原産国及び仕入先(生産さ

れている養殖場等)

・キャビアの年間生産計画(種、年間生産予定数量、出荷先(予定)等)

・プレストキャビアの場合を除き、2種以上の種のキャビアを混ぜて一次

容器に詰めないこと。

(3)登録事項に「再包装」が選択されている場合

・取り扱うキャビアの種、出所、原産国及び仕入先

・キャビアの年間再包装計画(種、年間再包装予定数量、出荷先(予定)

等)

図2. 審査要領

Page 8: 水産庁施策情報誌 漁政の窓 124 - maff.go.jp2 0 1 5 . 1 0 v o l . 1 2 4 3 水産庁施策情報誌漁政の窓 活動組織が約3.5万haの藻場・干潟の保全活動を行っています。(3)技術開発と知見の普及

GYOSEI NO MADO

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水産庁施策情報誌漁政の窓

プ レ ス リ リ ー ス 9月分

編 集 後 記   窓辺のカーテン

ご意見 ご質問はこちらへ   URL http://www.maff.go.jp/j/apply/recp/index.html

本冊子は水産庁ホームページでも掲載しています。 URL http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/mado/index.html 漁政の窓 検 索

発表年月日 発表事項名 担当課

H27.9.2 「2015 年度 第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(秋季沿岸域調査)」の実施について 国際課

H27.9.3 「中西部太平洋まぐろ類(WCPFC)第11回北小委員会」の結果について 国際課

H27.9.3 資源管理・漁業経営安定対策の実施状況(平成27年6月末現在)について漁業保険管理官

企画課 栽培養殖課

H27.9.3 「北太平洋漁業委員会(NPFC)第1回委員会会合」の結果について 漁業調整課

H27.9.4 「第14回 全国漁港漁場整備技術研究発表会」の開催及び参加者の募集について 整備課

H27.9.4 漁協系統金融機関の平成26事業年度末におけるリスク管理債権等の状況について 水産経営課

H27.9.4 佐藤農林水産大臣政務官の国内出張について 漁政課

H27.9.15 「28年漁期 漁獲可能量(TAC)設定に関する意見交換会(まあじ及びまいわし)」の開催について 管理課

H27.9.15 「藻場・干潟ビジョン検討会」における中間とりまとめの公表について 計画課

H27.9.16 「平成27年度 全国資源評価会議」の開催及び一般傍聴について 漁場資源課

H27.9.16 太平洋クロマグロの漁獲に係る太平洋北部ブロックへの注意報発出について 漁業調整課

H27.9.18 ワシントン条約決議に基づくキャビアの輸出制度開始のお知らせ 漁場資源課

H27.9.25 中川農林水産大臣政務官の国内出張について 整備課

H27.9.28 韓国による日本産水産物等の輸入規制に関するWTO協定に基づくパネルの設置について 加工流通課

H27.9.30 中国さんご船の拿捕について 管理課

 今月号の表紙では、ホンダワラ類に蝟集するメバル(石川県富来)を紹介させていただきました。 藻場や干潟は、水生生物の貴重な産卵や生育の場となっておりますが、埋立などの各種の開発や水域環境の変化など様々な要因により、その減少や機能の低下が進行しています。 水産庁では、本年7月に「藻場・干潟ビジョン検討会」を設置し、藻場や干潟の保全・創造に向けた検討を行い、この度「中間とりまとめ」を公表いたしました。 多くの人たちに、藻場や干潟を守る活動の輪が広がっていくことを期待しています。 「漁政の窓」では、皆様に水産庁施策についてわかりやすくお伝えできるよう努めていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ご意見やご質問がありましたら、以下にお願いいたします。

水産庁施策情報誌 漁政の窓

編集・発行 水産庁漁政部漁政課広報班〒100-8907 東京都千代田区霞が関1-2-1 合同庁舎1号館8階代表 03-3502-8111(内線6505)URL http://www.jfa.maff.go.jp/