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系統分類学 第三回 博幸

系統分類学第三回 - 関西学院大学tohhiro/systematics...点数 (4) 100-90 (3) 89-80 (2) 79-70 (1) 69-60 達成目標 (3)に加え、形質、 形質状態、形質 状態行列と、そ

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系統分類学 第三回

藤 博幸

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点数 (4)100-90 (3)89-80 (2)79-70 (1)69-60

達成目標 (3)に加え、形質、形質状態、形質

状態行列と、そ

れを用いた数量

分類学による分

類の方法、また

数量分類学が

分類学に与え

た影響と数量分

類学の問題点

について説明できる。

(2)に加え、生物学的種概念、生

殖隔離とそれに

基づく種分化

(時に異所的種

分化と同所的

種分化)について説明できる。

(1)に加え、進化分類学が分類

学の革新に失

敗した理由を説明できる。

ダーウィンの進

化論が分類学

に与えた影響

は何かを説明

できる(生物は

不変か、変化す

るか)。分類学

と体系学の違いを説明できる。

2回目講義の達成目標

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(1) 博物学•本草学

(2)リンネ

(3)ダーウィン

(4)分類学から体系学へ進化分類学 vs数量分類学 vs分岐分類学

(5)分子系統学

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ダーウィン:進化論の提唱生物は固定したものではなく変化するtaxonomy から systematics へ

進化分類学 vs 数量分類学 vs 分岐分類学1. 進化分類学分類に進化的関係を導入しかし、現実の適用では環世界センスに基づく分類から脱却できない

エルンスト・マイア生物学的種概念の提唱 (種の定義)種分化の機構 生殖隔離 4つの機構

2.数量分類学ソーカル &スニース分類手続きの客観化、明確化 環世界センスからの乖離同形形質と相同形質を区別してない -à系統分類ではない形質状態行列から表形図を作成 -à 系統樹ではない

3. 分岐分類学ヘニッヒ相同形質と同形形質 (3つの機構)を区別共有派生形質 (相同形質の中の)をつかう

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分岐分類学cladistics

1970年代に出てきた、タクソン間の系統上の分岐のみに着目して分類体系を構築しようとする動き

始まりはEmilHansWilli Hennig (1913– 1976)の著書「系統体系学理論の基本原理 (1950)」ドイツ語で書かれたことと、文体の難解さから20年間、分類学者に注目されていなかった

直感を排し、方法を明示する点ß--数量分類学の方針と一致

特定の類似性のみに着目する点ß--- 進化分類学に類似

Hennigは、ヘニッヒ、ヘンニッヒ、へニックなどと表記されている

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形質と形質状態

形質(trait,character)は、複数の状態(=形質状態 (characterstate))をとる例)

形質:目の色

形質状態:黒、青、緑

形質:髪の色

形質状態:金髪、赤毛、栗毛、黒髪

形質をコード化してまとめたもの形質状態行列

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系統を反映した形質

系統を反映した分類体系を明らかにするためには、

系統を反映した形質を選択する必要がある

相同 (ホモロジー、homology):ある形質や遺伝子が共通の祖先に由来すること

• 系統を構築するには相同な形質を使わなければならない

• 類似する形質は相同な場合が多いが、同形(ホモプラシー、homoplasy)による場合がある。

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同形形質homoplasy

同形形質:共通祖先に由来しない類似形質平行進化 (parallelism)、進化的逆転(evolutionaryreversal)、収斂 (convergence)がある

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

a a+ a+

aa+a+

相同 平行進化 進化的逆転

a+ a+ a a a a+

a+a+a

a

a+a+

a

a

ABCABCABC

相同では、同じ形質(a+)が、姉妹群である種Bと種Cに現れる非相同である平行進化や進化的逆転では、同じ形質(a+またはa)が異なる系統である種Aと種Bに現れる。

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進化的逆転: いわゆる「先祖帰り」

カエルは下顎に歯を持たないが、カエルの祖先は下顎に歯を持っていた。唯一、Amphignathodon属のカエルは下顎に歯を持ち、直系の祖先は歯を持たないことから進化的逆転で歯を獲得したと考えられる。

平行進化と収斂の違い平行進化:共通祖先から受け継いだ共通の遺伝的基盤に根ざす収斂:共通の遺伝的基盤を前提としない平行進化:カイアシ類やアミ類(甲殻類)の顎脚胸部前方の1~3対の付属肢-----à顎脚に変化

カイアシ アミ

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「ある種の軟甲類や顎脚類の甲殻類の系統では、1~3対の胸脚はサイズが小さくなっており食餌用の付属肢(顎脚)として使われる。これらの動物では、Ubx/abd-Aタンパク質の発現の前方境界は一貫して顎脚を有する胸部体節より後ろにある

Caroll SB,Grenier,JK,Weatherbee SD(2001)“FromDNAtoDiversity”,BlackwellPublishing(上野直人、野地澄晴 訳「DNAから解き明かされる形づくりと進化の不思議」(2002)羊土社)より

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収斂祖先の異なる形質から、環境への適応によって似たような形態が独立の系統で生じたもの例1:魚の鱗と爬虫類の鱗魚類の鱗は真皮の内部に発達した骨格(皮骨)であり、ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)を主成分とする。爬虫類の鱗は、魚類の鱗と違い、表皮起源である。基本的には硬質タンパクのケラチンを主体とした角質で構成されているため角鱗と呼ばれる。http://ja.wikipedia.org/wiki/鱗 より

例2:擬態

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

クロテナマコの幼体 ソライボウミウシ (有毒)ソライボウミウシに擬態することで捕食者から逃れる

---------------à 全く独立した起源から類似

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藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

非相同な形質の系統推定への利用-------à 誤った系統を導く

類似する性質が「相同」なのか、「非相同」なのかを区別する必要がある。

形態や機能だけではわからず、最終的には系統がわからないと相同性が確認できないという「いたちごっこ」のような状態も生じる

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分岐分類学の着目する形質

真の系統関係を証明できるのは特定の形質

共有派生形質(共有子孫形質、synapomorphy):最も近い共通祖先で新たに発生した形質で、子孫群で共有されているもの

固有派生形質 (autapomorphy):ある特定の子孫群でのみ進化した形質

共有原始形質 (sympleisiomorphy):複数の子孫群で共有されている形質が共通祖先より遠い関係で生じたものであること

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祖先の形質はa

a+: 種Bと種Cにとっては共有派生形質

a:種Aと種Dをまとめると間違った系統関係を得る種Bと種Cでa+であるからaは共有派生形質ではない

種A種B種C種D

aa+a+a

a

aà a+

a

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 を改変

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (1)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

形質1 形質2 形質3 形質4 形質5

種A a b c d e種B a+ b c d e種C a+ b+ c d e種D a+ b+ c+ d+ e+

4つの種A~Dについて、5つの形質の形質状態行列を作成

例:形質1は目の色。aは黒、a+は青

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (2)

4種の可能な系統関係は15通りまず、「根」のない系統樹を考えると3種類の配置がありうる

種B

種A 種C

種D 種C

種A 種B

種D 種D

種A 種B

種C

それぞれの枝に「根」を導入できる。枝の数は53✖5=15通りの系統樹がありうる。

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (3)

種B

種A 種C

種D

種A種B種C種D

根をここに導入前回の計量分類学の手法で得られた表形図

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (4)

種A種B種C種D

この系統樹の上で形質変化の数を調べる。

祖先の形質は、abcde とする。

abcde

abcde a+ b c d e a+ b+ c d e a+ b+ c+ d+ e+

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (4)

種A種B種C種D

この系統樹の上で形質変化の数を調べる。

祖先の形質は、abcde とする。--------à 8回の形質の変化

abcde

abcde a+ b c d e a+ b+ c d e a+ b+ c+ d+ e+

a+b+

c+d+e+

a+b+

a+

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (5)

種B種C種A種D

この系統樹の上で形質変化の数を調べる。

祖先の形質は、abcde とする。--------à 7回の形質の変化

abcde

a+bcde a+ b+ c d e a b c d e a+ b+ c+ d+ e+

a+b+

c+d+e+

b+

a+

種D

種A 種B

種C根の導入

これも計量分類学で得られた表形図の一つ

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (6)

種C種D種B種A

この系統樹の上で形質変化の数を調べる。

祖先の形質は、abcde とする。--------à 5回の形質の変化

abcde

a+b+cde a+ b+ c+ d+ e+ a+ b c d e a b c de

c+d+

e+

b+a+

種B

種A 種C

種D根の導入

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分岐分類学における最節約的な方法による系統推定 (7)

可能な系統樹の中から、形質変化の数が最小(=最節約,maximumparsimony)の系統樹を選択

今回のケースでは形質変化5回の系統樹a+ 種B,C,Dの共有派生形質b+種C,Dの共有派生形質

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• まったく同じ形質状態行列からでも、数量分類学とは異なる樹形図が得られる。

数量分類学:種AとB(あるいは種CとD)が最も近縁

分岐分類学:種CとDが最も近縁CとDが最も共有派生形質が多い

• 分岐分類学による樹形図 =分岐図 (cladogram)形質変化の歴史を追える例:種DとCの共通の形質状態b+は、それらの仮想的祖先が獲得した共有派生形質である

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祖先形質の推定

(1)一連の化石がある場合:化石の出現順序から祖先の形質を推定できる

実際にはこのような状況は少ない

(2)外群の利用研究対象である群:内群 (ingroup)内群に対して遠い関係であることがわかっているもの:外群(outgroup),内群になるべく近縁で相同な形質を持っているものを使用

外群にも見られる形質状態は原始的

内群のみに見られる形質状態は派生的

分岐図の構築には祖先形質を推定する必要がある。

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ABCD

内群 外群形質 1a a+ a+ a+形質 2b b+ b+ b形質 3c c c c+

共通祖先の形質a+bc

c

ab+

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分岐分類学の問題点 (1)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

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分岐分類学の問題点 (1)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

種A種B種C単系統群 (monophyletic):ある一つの共通祖先から派生した子孫全てを含むグループ。クレード(clade)ともいう。

分岐分類学では、単系統群のみがタクソン(分類の単位)として扱われる。

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分岐分類学の問題点 (2)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

種D種E 種F側系統 (paraphyleitc):一つの単系統群から、一つ以上の子孫を除去したグループ

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分岐分類学の問題点 (3)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

種 G種 H種 I種 J 種 K多系統群(polyphyletic):系統樹上、連続していない子孫を含むグループ

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分岐分類学の問題点 (4)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

両生類 哺乳類 鱗竜類 カメ類 ワニ類 トリ類

羊膜

双弓型側頭窓

羽毛

ヘビ、トカゲ

爬虫類

爬虫類は、鳥類の存在のため側系統となり、分岐分類学では分類群とはみなされない

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分岐分類学の問題点 (5)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

サメ 硬骨魚類シーラ 肺魚両生類 爬虫類哺乳類カンス 鳥類

羽毛

魚類も側系統となり、分岐分類学では分類群とはみなされない

魚類

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分岐分類学の問題点 (6)

鳥類を含めて、恐竜は単系統の分類群を構成

トリは恐竜に属す

非トリ型恐竜は側系統となり分岐分類学上は分類群を構成しない

鳥類

非トリ型恐竜

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分岐分類学の問題点 (7)

分岐分類学は、進化的類縁関係を最優先にするという考えを押し進めることにより、分類学と直感(環世界センス)とのつながりを断ち切った。

キャロル•キサク•ヨーン (2009)「自然を名づける」(CarolKaesuku Yoon(2009)“NamingNature”W.H.Freeman&Company)(三中信宏、野中香方子訳) NTT出版

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分岐分類学の問題点 (8)

藤田俊彦(2010)“動物の系統分類と進化”裳華房 より

グレード (grade):体制の類似するグループ。※ クレードとグレードは一致することも多い。

エルンスト•マイヤは、伝統分類に、数量分類、分岐分類のアイデアを組合わせグレード、すなわち側系統群もタクソンとして扱う進化分類法(evolutionarymethod)を提唱しているが、一義的に答が得られないという伝統分類の欠点を受け継いでいる。

爬虫類も魚類もグレードである。

側系統群の中でも、グレードと認識されるものをどのようにあつかうかが問題

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(1) 博物学•本草学

(2)リンネ

(3)ダーウィン

(4)分類学から体系学へ進化分類学 vs数量分類学 vs分岐分類学

(5)分子分類学

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• タンパク質のアミノ酸配列• 核酸の塩基配列などの分子データを用い、各サイトを形質、各サイトを占めるアミノ酸や塩基を形質状態とする。

化学物質=伝統的分類学者の直感の働かない形質

Zuckerkandle &Pauling(1962)Fitch&Margoliash (1967)によるアミノ酸配列の解析をきっかけとして始まる

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(1) 分子系統樹とは?

(2) 相同配列を集める

(3) アラインメントを構築する

(4) 分子系統樹を作成する

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• タンパク質のアミノ酸配列• 核酸の塩基配列などの分子データを用い、各サイトを形質、各サイトを占めるアミノ酸や塩基を形質状態とする。

化学物質 = 伝統的分類学者の直感の働かない形質

Zuckerkandle &Pauling(1962)Fitch&Margoliash (1967)によるアミノ酸配列の解析をきっかけとして始まる

※ 進化分類、数量分類、分岐分類は方法の戦い分子分類と伝統分類は、分子データと形態データとの戦い

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分子時計の発見 (1)ライナス•ポーリングLinusCarlPauling(1901-1994)量子化学者、生化学者

PaulingandZuckerkandle (1962)

二つの生物のヘモグロビンのアミノ酸配列を比較し、その置換数を、化石から推定される、それら生物の分岐時期に対してプロット

近似的な直性関係が得られた。

化石がない生物でも、配列の比較から分岐年代を推定できる。

宮田隆 (2014)「分子からみた生物進化」 講談社

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>gi|57013850|sp|P69905.2|HBA_HUMANFull=HemoglobinalphachainMVLSPADKTNVKAAWGKVGAHAGEYGAEALERMFLSFPTTKTYFPHFDLSHGSAQVKGHGKKVADALTNAVAHVDDMPNALSALSDLHAHKLRVDPVNFKLLSHCLLVTLAAHLPAEFTPAVHASLDKFLASVSTVLTSKYR

>gi|145301578|ref|NP_032244.2|hemoglobinsubunitalphaMVLSGEDKSNIKAAWGKIGGHGAEYGAEALERMFASFPTTKTYFPHFDVSHGSAQVKGHGKKVADALANAAGHLDDLPGALSALSDLHAHKLRVDPVNFKLLSHCLLVTLASHHPADFTPAVHASLDKFLASVSTVLTSKYR

ヒトのヘモグロビンα (上段)とマウスのヘモグロビンα (下段)アミノ酸は1文字表記で表現

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CLUSTAL format alignment by MAFFT L-INS-i (v7.221)

gi|57013850|sp| MVLSPADKTNVKAAWGKVGAHAGEYGAEALERMFLSFPTTKTYFPHFDLSHGSAQVKGHGgi|145301578|re MVLSGEDKSNIKAAWGKIGGHGAEYGAEALERMFASFPTTKTYFPHFDVSHGSAQVKGHG

**** **:*:******:*.*..*********** *************:***********

gi|57013850|sp| KKVADALTNAVAHVDDMPNALSALSDLHAHKLRVDPVNFKLLSHCLLVTLAAHLPAEFTPgi|145301578|re KKVADALANAAGHLDDLPGALSALSDLHAHKLRVDPVNFKLLSHCLLVTLASHHPADFTP

*******:**..*:**:*.********************************:* **:***

gi|57013850|sp| AVHASLDKFLASVSTVLTSKYRgi|145301578|re AVHASLDKFLASVSTVLTSKYR

**********************

アラインメント(alignment):相同な配列の対応するアミノ酸あるいは塩基を対応する位置に並べる操作、あるいは並べたもの

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CLUSTAL format alignment by MAFFT L-INS-i (v7.221)

gi|57013850|sp| MVLSPADKTNVKAAWGKVGAHAGEYGAEALERMFLSFPTTKTYFPHFDLSHGSAQVKGHGgi|145301578|re MVLSGEDKSNIKAAWGKIGGHGAEYGAEALERMFASFPTTKTYFPHFDVSHGSAQVKGHG

**** **:*:******:*.*..*********** *************:***********

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**********************

19/142=0.1338028

ヒトとマウス 化石から約7500万年前に分岐

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19/142=0.1338028

ヒトとマウス 化石から約7500万年前に分岐

分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

様々な生物のペアについて同様のプロットを作成

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

近似的な直線関係アミノ酸置換数は分岐年代に比例し一定のペースで置換している

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

生物の進化の過程での分子の変化:分子進化(molecularEvolution)分子の変化が一定のペースを刻むこと:分子時計(molecular clock)変化の速度:分子進化速度(molecularevolutionaryrate)

=直線の傾き =単位時間あたりのアミノ酸の置換数

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

分子時計が成立していれば、化石がなくてもアミノ酸配列から分岐年代を推定できる。

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

今、現存の生物Xと生物Yの分岐を示す化石はないが、ヘモグロビンαの置換率が0.3であったとすると、分岐年代を直線関係から推定できる。

0.3

XとYのヘモグロビンαのアミノ酸置換率

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分岐年代(化石から)7500

0.1338

アミノ酸の置換率

ヒト vsマウス

今、現存の生物Xと生物Yの分岐を示す化石はないが、ヘモグロビンαの置換率が0.3であったとすると、分岐年代を直線関係から推定できる。

0.3

推定された分岐年代

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分子時計の発見 (2)

宮田隆 (2014)「分子からみた生物進化」 講談社

Dickerson(1971)

様々はタンパク質で分子時計が成立していること、タンパク質によって分子進化速度が違うことを発見

進化速度の違いは機能的制約の強さを反映している。

生物にとって機能的な重要性の高い分子は進化速度が遅く、それほどでもない分子は速く変化する。

フィブリノペプチドヘモグロビン

チトクロームc

ヒストン

||

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分子時計の発見 (3)

宮田隆 (2014)「分子からみた生物進化」 講談社

今日の分子進化学者は、すべての分子に対して、分子進化速度の一定性が成立するとは考えていない。• 分子によっては変動が激しく、分岐時間にも依存• 綱レベルの比較では近似的な一定性が認められるが、目、科、属、種などのレベルでは一定性が成立しないものも多い。

primatesslowdown,rodentsspeedup霊長類では進化速度は遅くなり、齧歯類では速くなる傾向がある。

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分子系統樹の構築 (1)

FitchandMargoliash (1967)

チトクローム cというタンパク質の配列を比べ、その置換数からほ乳類、鳥類、は虫類、昆虫、菌類を含む系統樹を構築した。これは、それ以前の形質の比較に基づく分類では不可能なものであった。

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分子系統樹の構築 (2)分子系統樹は、これまでの分類を反映しており、これまでの分類と食い違う場合、分子系統樹が正しいことがしばしばあった。

特に”隠蔽種 (crypticspecies)”の発見に力を発揮(見た目には区別がつかないが、DNAレベルでは全く異なるもの)例:ウーズは16Sr RNAを利用して、界レベルでの隠蔽されていた古細菌を発見。

現在、分子系統学的手法は、系統分類の手法として広く受け入れられ、力を発揮している。

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系統樹とは?

最初に描かれた系統樹エルンスト・ヘッケル (1866)

生物の進化を樹になぞらえて書いた。

- 枝の先に各生物群- 高い所ほど複雑な体制の生物近縁な系統は互いに近い枝に配置

このような傾向はあるが,確固たるルールに従っているものではない。

ダーウィンの「種の起源」(1859)に、進化の模式的な図が記載されている。

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点数 (4)100-90 (3)89-80 (2)79-70 (1)69-60

達成目標 (3)に加え、分子進化、分子時計、

分子系統樹に

ついて説明でき

る。また、分子

データによる系

統解析により、

従来の形態な

どの形質に基

づく方法ではで

きなかったどの

ようなことがで

きるようになっ

たかを説明できる。

(2)に加え、単系統、側系統、多

系統について説

明できる。また、

その用語を用い

て分岐分類学の問題点(魚類、爬虫類、恐竜)とグレードについて説明できる。

(1)に加え、分岐分類学での再

節約原理に基

づく系統推定と

祖先配列の推

定について説明できる。

相同と同形の

違い、また同形

形質を生み出す機構(進化的逆転、平行進化、

収斂)について

説明できる。ま

た、分岐分類学

が直目する形

質(共有派生形

質)について説明できる。

3回目講義の達成目標