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6
1-1
■□ 生命の起源に関する仮説 地球上の生命が,最初どのように生まれたか
は正確にわかっていないが,いくつかの仮説が
提唱されている.この中の一つとして,高温,
高圧,放電などによって無機物から単純な有機
物が生成し,それがより複雑な有機物へと変換
され,さらにコアセルベートといわれる有機物
集合体の液滴に成長し,それが細胞の原型と
なったという仮説がある(オパーリンによる化
学進化説).
■□ RNA ワールド :遺伝物質の進化に関する仮説 原 始 細 胞 で は じ め て 使 わ れ た 遺 伝 物 質 は
RNA と想像されているが(⇨これを RNA ワー
ルド仮説という),これは RNA が反応性に富む
分子で,かつ遺伝情報を含み,あるものはリボ
ザイムとして酵素活性をもつという事実,そし
て補酵素の大部分がヌクレオチドであるという
事実などに基づいている.RNA ワールドはや
がてタンパク質を含んだ RNP ワールドとなり,
さらに現在の DNA ワールドに変わっていった
と推定されている.事実 RNA から DNA を合成
する逆転写酵素も存在しており,この説を信じ
る学者は多い.
■□ 生物を大別する 生物は細胞の形態により,染色体が核膜で包
まれている真核生物と包まれていない原核生物
に分けられる(⇨ 2 ドメイン説という).原核
生物はさらに真正細菌(通常の細菌とシアノバ
クテリア[ラン藻類ともいう]を含むグループ)
と,原始の地球環境に近い場所に生息している
古細菌に二分することができる(⇨結果的に生
物全体が三つに分類されることになるが,これ
を 3 ドメイン説という).真核細胞と原核細胞
は核膜の有無以外にも,遺伝子の数や発現方式,
DNA の存在様式,細胞小器官の有無,細胞分
裂の様式など,多くの点で異なる.真核生物は
さらに原生生物,菌類,植物,そして動物に分
生命の起源と生物進化プロセス 生命誕生のシナリオは化学進化説などの仮説が提唱されているが,正確にはよくはわかっていない.生物は大きく原核生物(真正細菌と古細菌に分けられる)と真核生物の二つに分けられる.真核生物は,細菌類による細胞内共生を経て誕生・進化したと推定される.
核膜
ゲノムDNA
リボソーム
原核生物真核細胞(動物)
■ 図 1 真核生物と原核生物の細胞 ■
7
1-1生命の起源と生物進化プロセス
1生命工学の基礎[
1]
:細胞,代謝,発生,分化,増殖
けられる.ただ古細菌はゲノムの存在様式や,
遺伝子の構造や発現様式(⇨転写制御因子など)
などが真核生物に近い.このため,真正細菌と
古細菌の祖先が共存した時期のあとで細胞内共
生が起こり,後者は古細菌と真核生物に分かれ
て別々に進化したという説も提唱されている.
■□ 細胞内共生説 古細菌の祖先細胞に好気性細菌が入り込んで
ミトコンドリアとなって動物細胞が生まれ,さ
らにそこにラン藻が入り込んで葉緑体となって
植物細胞が生まれたという仮説である.ミト
コンドリアと葉緑体の両方に DNA が含まれて
いること,また植物細胞に別の生物が入って二
次共生という現象が起こったと推定できる生物
が存在するなど,この仮説の信憑性は高い.
■ 図 3 細胞内共生と真核生物の誕生 ■
コラム:パンスペルミア説 地球外生命体(細菌の胞子など)が地球上の生物の起源となったという SF 的な仮説である.「有機物を含む隕石を発見」 という情報(?)や生命誕生までの時間が想像よりも短い(?)などが論拠となっているらしい.もし宇宙のどこか,あるいは地球に落ちた隕石に有機物など生命の痕跡が見つかると,この説はにわかに信憑性を増すことになる,
原核生物
モネラ界
真核生物
3ドメイン説
2ドメイン説
真正細菌ラン藻
古細菌
菌類
動物
#
五界説*
原生生物
植物
#:狭義の原核生物とする場合もある*:真核生物 4 + モネラ 1
現生の真正細菌
現生の真核生物
現生の古細菌
真正細菌の祖先 古細菌の祖先*
原始生命
動物 菌類 原生生物植物
ラン藻
酸素呼吸細菌
点線のように原核生物が入り込んだと考えられている.*:酸素を必要としない嫌気性の生物
■ 図 2 生物の分類 ■
22
2-12-1
■□ 染色体 染色体は真核細胞の核内にある DNA- タンパ
ク質複合体で,物質的にはクロマチンとよばれ
る.細胞分裂(M)期になると複製した染色体
が高度に凝集し,顕微鏡で観察できる.複製し
た染色体は染色分体が中心部(動原体といい,
その領域にある DNA はセントロメアとよばれ
る)で結合している.染色体は相同染色体とい
う対からなり,数と形態は生物種で決まってい
る.染色体末端部分(末端小粒)はテロメアと
いい,単純な繰り返し DNA 配列からなる.染
色体維持に必須な領域は,複製起点,セントロ
メア,そしてテロメアの 3 か所であり,それ
以外の DNA は遺伝子であっても染色体維持自
体には不要である.原核生物ゲノム DNA は環
状でタンパク質がほとんど結合していない裸の
状態だが,慣例的に染色体という.
■□ クロマチンの凝縮 1 本の染色体に含まれる DNA(直径 2nm)
の長さは平均 10cm 程度だが,これが小さな核
に収まるためには高度に凝縮される必要があ
る.クロマチンの基本構造はヒストン(コア
ヒストン)の八量体に DNA が巻き付くヌクレ
オソーム構造で,これがビーズのように連結し
ている.ヌクレオソームはリンカーヒストンに
よって束ねられ 30nm の繊維となり,さらに
折り畳まれて直径数百 nm となって核内に存在
する.染色体は最も凝縮したときには直径約 2
μ m,長さが数〜数十μ m になる.
■□ ゲノム 染色体 1 組分の DNA をゲノムといい(注:
二倍体細胞は 2 組のゲノムをもつ),生存に必
須な遺伝子を含む.ゲノムの大きさは大腸菌で
460 万塩基対(bp),ヒトで 30 億 bp と,真核
染色体,ゲノム,遺伝子
■ 図 1 ヒトゲノムの構成 ■
反復配列の種類反復配列(50%) ユニークな
配列(50%)
遺伝子部分(25%)
非遺伝子部分
タンパク質になる部分(2.5%)
タンパク質にならない部分
反復配列 重複遺伝子
縦列反復配列
リボソームRNA遺伝子
レトロウイルス関連配列
サテライトDNA
(例)
散在性反復配列
細胞の生存と遺伝を担っている真核細胞の染色体は,DNA とヒストンを含む複合体であるクロマチンという形で存在し,何重にも折り畳まれて核の内に収納されている.染色体がもつDNA の 1 セット分をゲノムといい,その中に遺伝子が散りばめられている.
23
2-1染色体,ゲノム,遺伝子
2生命工学の基礎[
2]
:遺伝子と遺伝情報
生物の方が原核生物より大きく,また,一般に
は多細胞生物は単細胞生物より大きい.ただ,
真核生物では必ずしも進化度が高いほどゲノム
が大きいわけではない.これはゲノムの中に多
量に含まれる非遺伝子領域の量,さらには縦列
反復配列や散在性反復配列(レトロトランスポ
ゾンの増殖の結果と考えられる)といった反復
配列の量の違いによるところが大きい.ゲノム
に含まれる典型的遺伝子の数は単細胞生物で約
500 〜 5000 個,真核生物で約 5000 〜 30000
個である.ヒトは約 22000 個の遺伝子をもち,
マウスはそれよりやや少ない.
■□ 遺伝子 遺伝子は狭義にはタンパク質をコード(指
定)する領域の DNA と定義されるが,広義に
は RNA に転写される領域を示す.遺伝子の中
にはタンパク質をコードしないものもある(例:
tRNA 遺伝子).近年,タンパク質をコードしな
い RNA に転写される DNA 配列が,遺伝子間ス
ペーサー領域,あるいは遺伝子の内部などにも
多数あることがわかり,遺伝子の概念が変わり
つつある.
コラム:生物がもつ最少の遺伝子数 人工培養できるマイコプラズマは約 500 個の遺伝子をもっているが,これが自己増殖できる生物の最少遺伝子数のようである.細胞内共生細菌のカルソネラは葉緑体なみの 16 万 bpのゲノム中に 182 個の遺伝子しかない.必須遺伝子の多くをもたないために自己増殖することができず,その増殖は全面的に宿主に依存している.
■ 図 3 ヌクレオソームとクロマチン ■
■ 図 2 染色体各部の名称と機能 ■
一本の染色体に多数存在する
短腕
短い配列の繰り返し末端
微小管
長腕
動原体
複製起点
セントロメア
テロメア
・複製起点(ori)…DNA複製の起点になる. 多数存在する.・テロメア…………染色体の末端を保護し, 染色体を安定化する.・セントロメア……動原体形成部位に 存在する.
染色体の三大要素
(b)クロマチン構造の階層性(a)ヌクレオソーム
ヒストン #
八量体
ヌクレオソーム
DNA
約 200bp
DNA
ヌクレオソーム30nm繊維
凝縮 らせん状染色体
凝縮した染色体
クロマチン
#:コアヒストンという ( ヒストンH2A,H2B,H3, H4を各2個ずつ含む )
700nm
50
3-1
■□ DNA の抽出・精製 DNA を安定な条件で扱う必要があり,pH は
中性〜微アルカリ性に合わせる.高温になると
変性し,100℃近くになるとリン酸ジエステル
結合が部分的に切れて断片化する.生物のか
かわる環境で DNA を分解する主な原因は DNA
分解酵素(DNase)なので,DNA を扱う場合
には必ず DNase 阻害剤を加える.DNase はマ
グネシウムイオンなどの二価金属イオンを活性
発揮に必要とするため,操作を通して金属イ
オンと結合するキレート試薬(例:EDTA,クエン
酸)を加える.
細胞内には大量のタンパク質があり,DNA
にもタンパク質が結合しているので,DNA 抽
出は DNA をタンパク質と分けることがポイン
トとなる.まずフェノールなどのタンパク質変
性剤を加えて細胞を壊し,その後遠心分離する.
フェノールが水より重いため,抽出 DNA は上
部の水層に集まり,変性タンパク質はその下に
くる.抽出したばかりの DNA 溶液にはまだ雑
多な物質が混ざっており,DNA を精製する必
要があるが,一般的な方法はエタノールを加え
て DNA を沈殿させることである(エタノール
沈殿).遠心分離によって DNA を沈殿として
集め,それを溶かすことにより濃い精製 DNA
溶液が得られる.低分子物質や脂質などはこの
操作で除かれる(多糖類が入る場合があるが,
他の方法で除ける).
細胞から DNA を抽出する場合はタンパク質を変性させ,遠心分離によって DNA と分け,エタノール沈殿によって精製・濃縮する.DNA を分離する一般的方法にゲル電気泳動があり,DNA 検出法にはエチジウムブロマイドによる染色法や,各種の標識法がある.
抽出とゲル電気泳動による分離 ・ 検出
細胞や組織
*1:SDS=ドデシル硫酸ナトリウム *2:DNAはガラスに付きやすいため
上清を回収繊維状のDNA沈殿を巻き取る*2
溶解精製DNA
ガラス棒
振とうする細胞を壊す
遠心分離DNA
安定化剤タンパク質変性剤
バッファーエタノールを加える
水層(DNAを含む)
変性タンパク質
フェノール
SDS*1
フェノール
■ 図 1 生物材料から DNA を抽出する方法 ■
51
3-1抽出とゲル電気泳動による分離 ・ 検出
3核酸の性質と基本操作
■□ DNA の分離:ゲル電気泳動 DNA を大きさ(長さ)で分離する一般的な
方法はゲル電気泳動である.DNA は負電荷を
もつので,電圧をかけると陽極に移動するが,
ゲル(⇨ 網目構造をとって内部に多量の水を
含む.ゼリー状物質)中では小さい分子ほど
速く移動するため,DNA を長さで分離できる.
DNA 変性剤を加えれば,一本鎖 DNA としても
分離できる.使用されるゲルはポリアクリルア
ミドか寒天に似たアガロースのいずれかで,後
者は長い DNA の分離に適している.ゲル電気
泳動は DNA シークエンス解析,巨大 DNA の
分離,DNA-タンパク質検出,変異解析などと
応用範囲が広い.
■□ DNA の検出 DNA の存在を知る普通の方法は染色である.
DNA 二本鎖に入り込むエチジウムブロマイド
(臭化エチジウム)溶液に電気泳動したゲルを
浸けて紫外線を当て,DNA をオレンジ色に光
らせる.他のアプローチは,検知しやすい物質
をもつヌクレオチドで合成した DNA を使う方
法である.一つは蛍光色素結合ヌクレオチドを
使うもので,レーザー光を当てて光らせる.他
の方法は放射性リンをもつヌクレオチドを使う
方法で,DNA 位置を写真に記録する(3-7).
■ 図 3 DNA はいろいろな方法で検出できる ■
コラム:遠心分離機による核酸の分離 DNA / RNA は大きいほど速く沈降するので,遠心分離法で分離でき,密度の大きな塩化セシウム溶液を使うと DNA と RNA の分離もできる.エチジウムブロマイドがプラスミドDNA に結合し難く,それが結合した DNA がしないものに比べて塩化セシウム溶液中での比重が線状 DNA より小さくなることを利用して,プラスミドを分離・精製することができる.
- +
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
DNA(負[-]に荷電している) 写真などで記録
ゲル(網目状の分子構造) 紫外線ランプ
エチジウムブロマイド(臭化エチジウム)
X線フィルム
RIを含むDNA
(a)染色法
紫外線
(c)放射性同位元素(RI)を使う(リン32の場合)(b)蛍光色素を使う
エチジウムブロマイド
色素
他にサイバーグリーンなども使われる
レーザー光 実際は見えない
ゲル電気泳動
(ネガ)フィルム
感光現像
オートラジオグラフィー
■ 図 2 DNA はゲル電気泳動で分離できる ■
70
4-1
■□ 遺伝子工学を可能にした酵素の発見 あるファージと,その感染を阻止できる型の
宿主細菌 Y という組合せでも,たまたまそこ
で増えたファージ(⇨ ファージ X)が見つか
る場合があるが,次に X を細菌 Y に接触させ
ると,今後はよく増えるようになるという現象
がみられる.ファージを増やさない現象を「制
限」というが,その原因は細菌の DNA 分解酵
素(DNase)によるファージ DNA の分解である.
細菌自身の DNA は,DNA メチル化酵素(メチ
ラーゼ)によって保護されていて分解されない.
X の DNA はたまたまメチル化が先行し,分解
をまぬがれたものと考えられる.上記 2 種の
酵素は,共通の塩基配列を標的にしている.
■□ 制限酵素は特定の配列を認識する 前述の制限という現象にかかわる DNase を
制限酵素あるいは制限エンドヌクレアーゼとい
い,その発見と応用はノーベル賞(アーバー
ら,1978 年,生理学 ・ 医学賞)の対象となり,
遺伝子工学・遺伝子組換え実験がスタートする
きっかけとなった.制限酵素は三つに分類され
るが,遺伝子工学に使われるものは,メチル化
活性をもたず,使いやすいⅡ型制限酵素であ
る.制限酵素はほとんどの細菌に見つかり,そ
の種類は非常に多く,認識配列や認識部位に対
してどこを切断するかという反応性もまちまち
である.制限酵素の名称の最初の 3 文字は起
源となった細菌名を表す略語になっている(例:
HinfⅠ酵素はヘモフィルス - インフルエンザ菌
由来).同じ認識配列をもつ異なる細菌由来の
酵素はイソシゾマーといわれる.
■□ 制限酵素の特性 制限酵素の認識配列は 4 〜 8 塩基対で,多
くはパリンドローム(回文)構造をとる.当然
細菌はファージの攻撃を防ぐために,自身の DNA をメチル化で保護したうえで,ファージDNA を切断する制限酵素を使う.制限酵素は特定の塩基配列を認識して DNA を切断するが,切断後に一本鎖末端を残す性質があり,これが組換え DNA の作製に利用される.
制限酵素:決まった塩基配列で DNA を切る
■ 図 1 制限酵素の発見につながった,ファージ増殖にかかわる現象 ■
ファージX
Y株の中でファージXに何が起こった?ファージXとX*は何が違っているのか?Y株は通常なぜファージXを増やさないのか?
Z株
疑問
ファージX増殖
ファージXは当然増える
ファージX*はよく増える
ファージは増えないY株は増える
Z株
Y株
Y株
わずかに増えたファージX*
71
4-1制限酵素:決まった塩基配列で DNA を切る
4組換えD
N
Aをつくり,細胞に入れる
のことながら,認識塩基数が多いほど DNA を
まれにしか切断せず,8 塩基認識酵素は,主に
ゲノム解析で用いられる.制限酵素は反応条件
が悪いと塩基認識能が甘くなる現象がみられる
(スター活性).制限酵素は認識部位の塩基配列,
あるいはその近傍の DNA を内部(endo)で切
断する.大部分の酵素は数塩基対ずらして二本
鎖を切断するため,切断後に一本鎖部分(3’ 末
端あるいは 5’ 末端をもつ)を生じるという特
徴をもつ.生じた一本鎖末端は回文構造をもち,
同じ末端をもつ DNA 断片が付着しやすいため
「粘着末端」とよばれる.粘着末端でない平滑
末端を生ずる酵素もある.
■□ 制限酵素メチラーゼ ある配列を認識する制限酵素をもつ細菌の中
には,同じ配列をメチル化する酵素であるメチ
ラーゼが共存している(例:Eco RI 産生大腸菌
は Eco RI メチラーゼをもつ).このようなメチ
ラーゼは認識配列内の特定の塩基にメチル基を
付けることができ,遺伝子工学では制限酵素で
切断されないようにする場合に用いられる.
5′- GGATCC G GATCC3′- CCTAGG CCTAG G
5′- GGTACC GGTAC C3′- CCATGG C CATGG
5′- AGCT AG CT3′- TCGA TC GA
(b)3 種類の切断方式(認識配列を示す)
(1) 5′粘着末端を生じる例:Bam HⅠ
(2) 3′粘着末端を生じる例:Kpn Ⅰ
(3) 粘着末端を生じない(平滑末端を生じる)例:Alu Ⅰ
(a)認識配列
酵素 認識配列*
NotⅠ GC|GGCCGCEco RⅠ G|AATTCHin dⅢ A|AGCTTNcoⅠ C|CATGGSphⅠ GCATG|C
Eco RⅡ CC|ATGG
AluⅠ AG|CTHae Ⅲ GG|CC
*:二本鎖 DNA 片方のみを 5' 側から示した縦線は切断部位
■ 図 5 制限酵素の切断様式 ■
細菌はファージから身を守る手段として制限酵素をもち,ファージDNAを分解する.自身のDNA切断部分は修飾されているため,分解されない.
ファージ
制限酵素認識配列
切断されない
分解されるファージ
DNA
メチル化による保護
ゲノムDNA
細菌制限酵素
DNAメチル化酵素
■ 図 2 細菌の制限酵素はファージ感染から自身の DNA を守る■
制限酵素の型 性質
Ⅰ型 認識部位から離れた部位を切断,Mg2+,ATP,S-アデノシルメチオニンを要求する.メチラーゼ活性をもつ.
Ⅱ型 認識部位か,そのごく近くを切断する.遺伝子工学に一般に使用される.
Ⅲ型 認識部位から約 25bp 離れたところを切断する.ATPと S-アデノシルメチオニンを要求する.メチラーゼ活性をもつ.
■ 図 3 制限酵素の分類 ■
■ 図 4 ゲノム DNA の断片化の様子 ■ ゲノムDNA
4塩基認識制限酵素
細断される あまり細かくは切れない
8塩基認識制限酵素
72
■□ DNA リガーゼ:DNA 連結酵素 DNA 連結酵素(DNA リガーゼ)は,DNA の
リン酸ジエステル結合が切れたり,複製が終
わって隙間(⇨ ニック[切れ目]という)が
3’-OH,5’-リン酸となっている部分に作用して,
リン酸ジエステル結合をつくって DNA 鎖を連
結する.実際には T4DNA リガーゼ(T4 ファー
ジがコードする)に ATP を添加して用い,遺
伝子工学における最重要酵素の一つになってい
る.5’ 端にリン酸基がないと連結できない.
■□ 二つの DNA 断片を一つにする DNA を制限酵素で切断して生じた粘着末端
に注目し,たとえば断片 A の端に一本鎖部分
AGCT-5’ があり,断片 B の端にも一本鎖部分
AGCT-5’ があると両者がアニールする.異なる
酵素で切断しても粘着末端が同じであれば同様
に反応が進む.この状態ではまだ安定な共有結
合になっていないので,DNA リガーゼを効か
せて両鎖にあるニックを結合させる.結合が片
方の鎖にしか起こらなくとも,組換え DNA と
しての安定性は基本的に維持される.この操作
により A と B が末端でつながった一つの DNA
(組換え DNA)ができる.1972 年,この操作
によって最初の組換え DNA がつくられた(P.
バーグ,1980 年,ノーベル化学賞).組換え
DNA は元の DNA の素性にかかわらず(⇨PCR
で 増 や し た DNA や 化 学 合 成 し た DNA で も )
細胞内で通常 DNA と同じ挙動を示す.
■□ 末端を整えてから連結する 上の方法では同じ粘着末端を生ずる DNA し
か連結できない.しかし制限酵素は種類が多く,
切断した DNA の末端構造が多様であるため,
希望する DNA 断片を上のようにいつでも連結
できるとは限らない.平滑末端同士を連結する
のは容易ではないが,そこにリンカーとよばれ
る制限酵素配列をもった短い DNA を連結した
あとで粘着末端をつくれば,リンカー間の結合
で DNA 断片は容易に連結できる.二つの DNA
制限酵素で生じた DNA には末端に回文配列をもつ一本鎖部分があり,同じ末端をもつ DNAと付着させ,DNA リガーゼを作用させて一つの分子にすることができる.末端配列が合わなくとも,適当な酵素とリンカー DNA を使い,どのような DNA も連結可能である.
新しい組合せの DNA をつくる4-2
一つの分子(組換えDNA)
AGCTOH
HOTCGA
粘着末端
P
P
AGCTTCGA
付着させる
ATP
T4 DNAリガーゼ
AGCTTCGA
リン酸基
5′
3′
3′5′
粘着末端
■ 図 1 粘着末端同士で DNA 断片を付着させ,連結する ■