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兼業の禁止の意義や趣旨 兼業の禁止となる行為 「請負」についての裁判例、行政実例等 兼業禁止に抵触した際の流れ等 <参考>参考条文、公職選挙法上の流れ 市会ジャーナル 議員の兼業の禁止とは 兼業禁止の判断基準 禁止される兼業を行った場合の影響 153 平成 28 年度 Vol.4 議員の兼業の禁止について 横浜市会議会局 政策調査課 〈特別編・法制レポート⑭〉 (略) 昭和 31 年6月 12 日 官報(抜粋)

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兼業の禁止の意義や趣旨 兼業の禁止となる行為 「請負」についての裁判例、行政実例等 兼業禁止に抵触した際の流れ等

<参考>参考条文、公職選挙法上の流れ

市会ジャーナル

議員の兼業の禁止とは

兼業禁止の判断基準

禁止される兼業を行った場合の影響

第153 号

平成 28 年度 Vol.4

議員の兼業の禁止について

横浜市会議会局 政策調査課

〈特別編・法制レポート⑭〉

(略)

昭和 31 年6月 12 日 官報(抜粋)

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第Ⅰ章 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥P1

第Ⅱ章 議員の兼業の禁止とは

1 意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P1

2 趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P1

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

1 概説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P2

2 「請負」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3

(1)「請負」の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3

(2)裁判例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P3

(3)行政実例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P4

(4)その他の特殊な関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8

3 「請負人の支配人」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P9

4 「主として同一の行為をする」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P9

(1)「主として同一の行為をする」の意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P9

(2)裁判例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P11

(3)共同企業体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P12

5 「法人」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P13

6 「これらに準ずべき者」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P13

第Ⅳ章 禁止される兼業を行った場合の影響

1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P15

2 失職の時期 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P17

3 過去の請負関係への適用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P17

4 兼業禁止規定に該当する旨の決定の発案権 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P17

5 請負契約への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P17

6 不服申立人 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P18

参考

≪参考条文≫ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P19

≪公職選挙法上の流れ≫ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P21

資料(総務省「地方自治月報第 55~57 号」(P22~))

目 次

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地方自治法は、第 92 条の2で地方公共団体の議会の議員の兼業を禁止する旨を定

めており、この規定に抵触すると、議会の決定により、失職するという重大な結果を

伴うことになります。

そのため、本レポートは、当該条文のどの要件について、どのような判断がなされ

たのか、ということについて、裁判例や行政実例を多用し、全体を俯瞰できるように

編集しました。企業等の役職に就かれる際、判断の一助となれば幸いです。

議員は、地方公共団体の常勤一般職と異なり、自ら営利事業を営むことは認められ

ています。常勤一般職は地方公務員法の適用があり、営利企業等の従事制限(同法第

38 条)の適用がありますが、議員は同法の適用がないことから、議員であると同時

に民間企業等の役員に就任することは可能です。しかし、議員は当該地方公共団体に

対し、直接請負をし、又はそれと同等の関係に立つことは許されません。これを「兼

業禁止」あるいは、「請負禁止」ともいいます(大塚康男、「議会人が知っておきたい

危機管理術 改訂版」、ぎょうせい、69 頁)。

議員の兼業禁止を定めた地方自治法第 92 条の2の趣旨は、議員は議会の審議、議

決を通じて当該地方公共団体の事務や事業に影響力を持つため、議員個人として直接

的利害を持つことを禁止し、一般住民から不信や疑惑を招くことを排除し、議会の公

正運営を確保することにあります(大塚康男、前掲書、69 頁)。

昭和 22 年に地方自治法が制定された当初は、地方公共団体の議員の兼業禁止に関

する規定は設けられていませんでしたが、昭和 31 年の同法改正により議員の請負禁

止の規定が設けられました。この規定を設けることについて、政府は、「地方議会は、

重要な契約や財産の取得等も議決事項としており、その意味で当該団体に対して直接

請負をする行為をやめて、議員としての活動の信用を高め、または執行への疑いを無

くすことにしたもの」との趣旨説明を行っています。その後、文言等の修正にかかる

若干の改正を経て現在に至っています(久世公堯、「地方自治」第 107 号掲載 地

方自治法における―請負禁止について―(1)地方自治制度研究会、34~40 頁)。

なお、兼業禁止に関する規定は議員のみならず、普通地方公共団体の長(地方自治

法第 142 条)、副知事・副市町村長(地方自治法第 166 条第2項)、教育委員会の

教育長及び委員、選挙管理委員会・人事委員会等の委員、監査委員、農業委員会・固

第Ⅰ章 はじめに

第Ⅱ章 議員の兼業の禁止とは

1 意義

2 趣旨

第Ⅰ章 はじめに、第Ⅱ章 議員の兼業の禁止とは

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定資産評価審査委員会の委員等(地方自治法第 180 条の5第6項)においても設け

られています(参考条文掲載)。

これらの規定は条文上近似しており、議員の兼業禁止の参考となると考えられるた

め、本レポートにおいて、これらについての裁判例・行政実例を掲載しています。

地方自治法上、「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対

し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社

員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算

人たることができない」こととされています(地方自治法第 92 条の2)。

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

1 概説

第 92条の2 普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体

に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法

人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに

準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。

主体 普通地方公共団体の議会の議員は、

当該普通地方公共団体に対し請

負をする者及びその支配人

主として同一の行為をする法人

の無限責任社員、取締役、執行

役、若しくは監査役若しくはこ

れらに準ずべき者、支配人及び

清算人

禁止行為 たることが

できない。

※このうち、下線部について、要件を解説していきます。

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この内容によれば、個人経営をしている議員が当該普通地方公共団体に対し「請

負」をする場合には、取引量の多寡に関係なく兼業禁止に該当することになります

が、議員が法人の役員等をしている場合には、当該法人が「主として同一の行為を

する法人」に該当するかどうかで判断されることになります。

次に、要件である「請負」「請負人の支配人」「主として同一の行為をする」「法

人」「これらに準ずべき者」についてみていきます。

(1)「請負」の意義

民法における「請負」とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、

相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約であるとさ

れています(民法第 632 条)。

これに対し、地方自治法第 92 条の2にいう「請負」とは、「必ずしも仕事の完

成に対し報酬が支払われる狭義の請負関係に限らず、広く営利的、経済的な取引契

約を含むものであり、地方公共団体の議員、長に対し、兼業禁止という継続的な身

分的制約を課していることからすれば、それは少なくとも業務としてなされる一定

の時間的継続性又は反復性を有する取引契約であることを要する」と解されていま

す(東京高等裁判所平成 15 年 12 月 25 日判決)。

(2)裁判例

「請負」に該当するか否かが争われた裁判例については、次のようなものがあり

ます。

ア「請負」に該当するとされた事例

事案 裁判所の判断

唐津市長が、当該自治体か

らモーターボート競走の

実施に関する事務の委任

を受けていたモーターボ

ート競走会の会長理事に

就いていたとして、争われ

た事案。

最高裁判所第三小法廷

昭和 32年 12月3日判決

「本件の唐津市と社団法人佐賀県モーターボー

ト競走会との関係は、地方自治法第 142 条に定

める場合に当り、唐津市の長たる市長は右社団法

人の長たる会長理事の地位に就くことは許され

ない」

福岡高等裁判所(差戻審)

昭和 33年9月 29日判決

「唐津市と佐賀県競走会との関係は地方自治法

第 142 条に定める場合に当り、唐津市の長たる

市長は右競走会の理事の地位に就くことは許さ

れない」

2 「請負」

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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綾瀬市議会の議員が、指定

金融機関として当該自治

体より資金貸付及び貯金

又は定期積立金の受入を

していた綾瀬市農業協同

組合の理事に就いていた

として、争われた事案。

東京高等裁判所

昭和 60年 12月 24日判決

「(指定金融機関である)市農協の綾瀬市に対す

る資金の貸付け及び綾瀬市からの貯金又は定期

積金の受入は、いずれも右にいう「請負」に該当

するものというべきである。」

公社が借り上げることを

前提として、市が住宅の建

設費の一部及び借上げの

家賃の一部を補助金とし

て交付している事例にお

ける当該市と住宅供給者

の関係が請負であるか否

かが争われた事案。

東京高等裁判所

平成 14年4月 24日判決

(補助金は、)住宅の供給者に対し当該住宅の建

設費の一部を助成し、また、公社が(略)一括借

上げした住宅の家賃の一部を助成する(略)目的

で交付されるものであるから、全体としてみれ

ば、せたがやの家住宅の供給者と補助金の交付を

する区との間には継続的な経済的取引関係があ

るというべきであり、この関係は、地方自治法

92 条の2にいう請負に当たるというべきであ

る。

イ「請負」に該当しないとされた事例

事案 裁判所の判断

岐阜県知事が、当該自治体

の許可を受け砂利採取事

業を営む株式会社の代表

取締役に就いていたとし

て、争われた事案。

最高裁判所第二小法廷

昭和 35年9月2日判決

「砂利採取許可による行為は、その性質上請負に

よる行為とは解されない」

(3)行政実例

「請負」に該当するか否かが問われた行政実例については、次のようなものがあ

ります。

ア「請負」に該当するとされた行政実例

○一定期間の売買契約

昭和 31年9月 28日自丁行発第 82号 各都道

府県総務部長宛 行政課長通知のうち

問 本条にいう請負の中に物品売買、

物品修理等の契約が含まれるのか、

例えばセメントを需要期毎に区分

納入するが如き契約は、この請負に

答 物品売買又は物品修理等の契約

については、その契約が一定の期

間にわたり一定の物品を納付し又

は修理することを内容とし、また

はその契約の履行にあたり事実上

必要とされる時期に分割して供給

することとする等継続的な供給契

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該当するか。 約と解される場合は本条にいう請

負契約に該当する。従って設例の

場合はお見込のとおり。

○森林組合と本条の関係

昭和 32年5月 20日 自丁行発第 85号 北海

道総務部長宛 行政課長回答

問1 森林を所有する市町村が森林

組合に組合員として加入してい

る場合において当該市町村を代

表して議会議員が組合の理事又

は監事となっているときその組

合が当該市町村に対し請負(例え

ば森林組合の場合には植樹、伐採

等の事業)をする場合にも法第

92 条の2の適用があると解すべ

きか。

3 1の場合市町村の委託を受け

て組合がこれらの事業を実施(代

行)するときは、その行為も請負

に含まれると解すべきか。

答1 お見込のとおり。

3 含まれる。

◎問2については 13 頁参照

イ「請負」に該当しないとされた行政実例

○指定金融機関等業務の取扱いは請

負か

昭和22年12月28日 岩手県総務部長宛 行

政課長回答

問 県指定金融機関等事務を取り扱

う銀行は法第142条に主として県

に対し請負をする法人に該当する

か。

答 県指定金融機関等事務取扱が業

務の主要な部分を占めるものと認

め難いときは、主として府県に対し

請負をする法人に該当しない。

○災害救助物資の購入契約と請負の

関係

昭和 27年6月 21日 地自行発第 241号 鳥

取市監査委員宛 行政課長回答

問 当市において4月 17 日の大火

に際し、災害救助のため市長が救助

物資の購入契約を別紙(略)のとお

り監査委員と締結した。監査委員の

答 (略)設問の契約は、民法上の請

負とは解されず、かつ、単なる一取

引と解されるので、右のいわゆる

「請負」には該当しないと思料され

る。

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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右の行為は、第 142 条(現行法で

は第 180 条の5第6項)の「請負」

に該当するか。

○売買契約と請負の関係

昭和 27年 8月 20日 自行行発第4号 青森

市長宛 行政課長回答

問 監査委員がその兼業している薪

炭小売商業協同組合理事長の名目

で市と薪炭納入契約を締結するこ

とは、第 142 条(現行法では第

180 条の5第 6 項)の請負の範囲

に包含されるか。

答 設問の内容が明らかでないので

確答しかねるが、その実体が単なる

売買契約と解される限り、第 142

条(現行法では第 180 条の5第 6

項)にいう請負には該当しない。

(略)

○国民健康保険医

昭和 31 年9月 28 日自丁行発第 82 号 各都

道府県総務部長宛 行政課長通知のうち

問 議員が国民健康保険医になるこ

とは、本条の規定に該当するもので

あるか。

答 該当しないものと解する。

○売買契約

昭和 31年 10月 22日 自丁行発第 115号 北

海道総務部長宛 行政課長回答

問 本町には土管販売業者が一人し

かなく、しかもその者が町会議員で

あり、近隣町村には同業者がなく他

の地方からの土管購入はかえって

割高となるので、この者と売買契約

を行うことは法第 92 条の2の請

負に該当するか。

答 当該売買契約が一定の期間にわ

たり納入することを内容とし、又は

その契約の履行にあたり事実上必

要とされる時期に、分割して供給す

る等継続的な供給契約ではなく、単

なる一時的な売買契約であれば該

当しないものと解する。

○町有林の処分と本条の関係

昭和 31年 10月 22日 自丁行発第 115号 北

海道総務部長宛 行政課長回答

問 町有林の立木処分の際、競争入札

にあたり町会議員が入札し落札者

となることは、法第 92 条の2の規

定により禁止されるか。

答 地方自治法第 92 条の2の規定

には該当しない。

○中央卸売市場における卸売りと請

負関係

昭和 36 年 12 月 19 日 自治丁行発第 76 号

埼玉県総務部長宛 行政課長回答

答 卸売人が中央市場において卸売

の業務をするというだけの理由で

中央卸売市場を開設する地方公共

団体に対し請負をする者というこ

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問 中央卸売市場法第 10 条(現行法

では卸売市場法第 15 条)の規定に

より農林大臣の許可を受けて中央

卸売市場において卸売の業務をな

す卸売人たる株式会社の代表取締

役及び監査役に市議会の議員が就

職した場合、地方自治法第 92 条の

2の規定(議員の就職制限)に該当

するかどうか。

とはできない。

○議員の請負禁止と保育所の経営責

任者との関係

昭和 39年 12月7日 自治行発第 140号 東

京都総務局長宛 行政局長回答

問 保育所が、児童福祉法第 24 条の

規定に基づく措置により、市町村長

から委託を受けて児童等の保育を

行なっている場合、この保育所の経

営責任者が当該市町村の議会の議

員であっても、次の理由により地方

自治法第 92 条の2に規定する請

負に該当しないと解するがどうか。

(理由)

保育所は、児童福祉法第 24 条の

規定に基づく措置により、市町村長

から児童等の保育の委託を受けた

ときは、正当の事由がないかぎりこ

れを拒み得ないものであり(同法第

46条の2)、保育所の行なう保護

の基準、措置に要する費用について

も法律により規制されているので

(同法第 45 条、第 51 条)、保育

の委託については、契約の成立及び

契約内容が一方的に定られ、当事者

の意思によつてそれが左右される

余地はほとんどないから、本条の規

定の趣旨に照らし本条の請負に該

当しないものと解する。

答 お見込のとおり。

7 第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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(4)その他の特殊な関係

ア 下請負

下請負については裁判例(高松高等裁判所昭和 51 年 12 月 20 日判決)があり

ますが、しかし、事業の全てを下請負することは事実上元請負と異なりませんから

脱法になる場合があります(大塚康男、前掲書、72 頁)。

事案 裁判所の判断

小田町議員が、当該自治体

から小学校のプール新設

工事等を下請負していた

株式会社の代表取締役に

就いていたとして、争われ

た事案。

高松高等裁判所

昭和 51年 12月 20日判決

「(地方自治法第 92 条の2)は、地方公共団体

に対して直接請負をすることを禁止するもので

あつて、当該地方公共団体と直接にはなんらの関

係も生じない下請負を禁止するものではない」

また以下のような行政実例があります。

○下請負

昭和 27年 11月 27日自丙行発第 46号 北海

道総務部長宛 行政課長回答

問1 下請負は請負にはいらないと

の解釈があるが、どの程度のもの

までさしつかえないか。

2 町長が請負業の合資会社の社

長(代表者)として同町の土木工

事を落札した某会社の下請をす

ることの可否

但し、工事の精密な部分は請負

した会社が直営し、その他の工事

は下請負をした町長を社長とす

る組が実施(工事費総額の 8 割

程度)したものである。

答1 第 142 条は、当該地方公共団

体に対して直接請負をすること

を禁止しているものであるから、

これに該当しない。下請負は程度

のいかんを問わず同条の請負に

ははいらないものと解する。

2 1により承知されたいが、形式

上下請負であつても、一括請負そ

の他実質上元請負と異ならず、第

142 条の趣旨に適合せず、適当

でない場合がありうる。設問の場

合は、これに該当するかどうかは

事実によつて解されたい。

イ 公の施設の指定管理者

指定管理者による公の施設の管理は、議会の議決を経た上で地方公共団体に代

わって行うものであり、地方公共団体と指定を受けた指定管理者とが取引関係に

立つものではありませんから「請負」には該当しません(この場合の指定は「行

政処分」の一つであると解されています。)したがって、地方自治法第 92 条の

2の議員の兼業禁止規定は適用されません(大塚康男、前掲書、75 頁)。

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地方自治法第 92 条の2に規定されている「支配人」については、商法第1編第

6章で規定する商業使用人(参考条文掲載)すなわち営業主に代って、その営業に

関する行為をなす権限も有するものをいうと考えられています(全国町村議会議長

会、「議会運営質疑応答集」、第一法規、130 頁)。

なお、具体的にどういったポストに就いた人が「支配人」に当たるかについては、

次のような裁判例があります。

事案 裁判所の判断

支配人として登記されて

いた支店の管理課長の地

位にある者が商法(平成

17 年法律 87 号改正前)

上の支配人であるか争わ

れた事案。

仙台高等裁判所

昭和 59年 12月 28日判決

「支配人とは営業主により本店又は支店の営業

の主任者として選任された商業使用人をいうも

のである。支店の場合は、支店長のみがこれに当

り、支店次長も支店長代理も支配人すなわち営業

の主任者ではない。まして、支店長の下にある課

長は支配人ではありえない。」

(1)「主として同一の行為をする」の意義

「主として同一の行為をする」とは、当該普通地方公共団体に対する請負が、当

該法人の業務の主要部分を占め、当該請負の重要度が議員の職務遂行の公正、適正

を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度に至っている場合をいうものと

されています。

当該法人の業務について、具体的にどれほどの部分を占めれば、主要部分を占め、

当該請負の重要度が議員の職務遂行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと

認められる程度に至っているものと認めることができるかについては、請負金額と

当該法人の通常の場合における全業務分量(金額に換算した分量)との比率等によ

って、個々具体的に判断するほかないとされています(松本英昭、「逐条 地方自

治法 第8次改訂版」、学陽書房、353 頁)。

なお、「主として同一の行為をする法人」に関して、長の事例ではありますが、

最高裁判所は、次のような判断を示しています。

3 「請負人の支配人」

4 「主として同一の行為をする」

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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事案 裁判所の判断

五木村の村長が、造林委託

契約等の契約関係があっ

た五木村森林組合の長に

就いていたとして、争われ

た事案。

最高裁判所

昭和 62年 10月 20日判決

「「主として同一の行為をする法人」とは、当該

普通地方公共団体等に対する請負が当該法人の

業務の主要部分を占め、当該請負の重要度が長の

職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に

高いと認められる程度に至っている場合の当該

法人を指すものと解すべきである。そして、右の

規定の意義に照らせば、当該普通地方公共団体等

に対する請負量が当該法人の全体の業務量の半

分を超える場合は、そのこと自体において、当該

法人は「主として同一の行為をする法人」に当た

るものというべきであるが、右請負量が当該法人

の全体の業務量の半分を超えない場合であって

も、当該請負が当該法人の業務の主要部分を占

め、その重要度が長の職務執行の公正、適正を損

なうおそれが類型的に高いと認められる程度に

まで至っているような事情があるときは、当該法

人は「主として同一の行為をする法人」に当たる

といいうるのである。」

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(2)裁判例

当該請負金額の比率ごとの裁判所の判断は、次のようになります。

請負比率 裁判所の判断

45.61%

ないし

47.30%

東京高等裁判所 平成 15年 12月 25日判決※

「本件協議会の平成 13 年度、14 年度の請負比率は 45.61%ないし 47.30%であり、町に対する請負量は全体の業務量の半分を超えてはいないが、その

割合からして当該請負が本件協議会の業務の主要部分を占めていることは明らかである。」

37.25%

ないし

30.07%

高松高等裁判所 昭和 51年 12月 20日判決※※

「L株式会社の昭和 48 年度における請負総額の小田町に対する請負額との割合は 37.25 パーセント、昭和 49 年度のそれは 30.07 パーセントに過ぎず、

Lの業務の主要部分が小田町に対する請負によつて占められているとはいえない。

従つて、Lは小田町に対し「主として同一の行為をする法人」の関係にあるものではない。」

約 33%

札幌高等裁判所 昭和 58年3月1日判決

「本件組合の本件選挙執行時に最も近い昭和 53 年度における総事業収入は金 185,135 千円で、そのうち下川町に対する請負による収入は金 61,214 千

円となり、後者の前者に占める割合は約 33 パーセントになる。(略)下川町は、本件組合にとってもっとも重要な取引先であったということはできるにし

ても、いまだ同町に対する請負が本件組合の業務の主要部分を占めていたとまではいい難く、そうすると本件組合は、同町に対する関係において兼業禁止法

人には該当しないというべきである。」

23.42%

ないし

28.01%

最高裁判所 昭和 62年 10月 20日判決

「五木村森林組合(略)は、五木村との間で、従来から造林委託契約、苗木等売買契約、集団間伐実施事業委託契約及び山口入会林野整備事業施行委託契約

を締結してきており、その昭和 56 年度から昭和 60 年度までの年度ごとの契約金額は、約 8800 万円ないし約1億 900 万円で、同組合の年間事業収入金

額の 23.42 パーセントないし 28.01 パーセント、平均で 25.21 パーセントを占めているというのであるが、同組合の五木村に対する右の請負関係をみる

と、当該請負が同組合の業務の主要部分を占め、その重要度が五木村村長の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度にまで至

っていると断ずることはできない。」

22.08%

ないし

10.01%

高松高等裁判所 昭和 51年 12月 20日判決※※

「株式会社Kの昭和 48 年度における請負総額の小田町(略)に対する請負額との割合は 22.08 パーセント、昭和 49 年度のそれは 10.01 パーセントに

過ぎず、Kの業務の主要部分が小田町に対する請負によつて占められているとはいえない。

従つて、Kは、小田町に対し「主として同一の行為をする法人」の関係にあるものではない。」

3.35%

ないし

11.87%

東京高等裁判所 昭和 60年 12月 24日判決

「市農協の右各年度における信用事業の取扱業務高の総額に占める綾瀬市に対する取扱業務高の比率を算定すると、(略)その比率は 3.35 パーセントない

し 11.87 パーセント(平均値は 7.55 パーセント)であって、これに市農協の右各年度における信用事業以外の業務量を併せ考慮すれば、市農協の右各年

度における全業務量に占める綾瀬市に対する請負業務量の比率は、さらに低下することとなる。よって、これら諸点を総合考察すると、市農協の(略)綾瀬

市に対する請負業務が、市農協の右各年度における全業務の主要部分を占めるということはできない」

※当該判決については、請負比率だけでなく、当該法人と長、議員との関係にも着目し、本規定に該当するか判断しています。

≪判旨抜粋≫

「本件協議会が実施するデイサービスの利用料の額は厚生労働大臣の定める基準によることとなっており、本件協議会が営利目的で自由に定め得るものではない」。「本件協議会の請負比率は比較的

高いが、これらの事情を考慮すると、未だ、当該請負の重要度が長の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度に至っているとはいえないというべきである。」

※※当該判決については、2名の兼業禁止の判断をしています。

請負比率

(高)

(低)

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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12

(3)共同企業体

共同企業体を組織して請負契約をする場合の兼業との関係については、共同企業

体には法人格がありませんから、契約は構成員の名を連記して、それぞれが契約の

当事者となります。したがって、共同企業体の場合、以下のように業務量を判断す

ることになります。

施行方式 比率の考え方

共同施工方式

全構成員がそれぞれ資金、

人員、資材等を拠出して工

事を施工するもの

当該請負に係る利益又は欠損につ

いては、資金、人員等の拠出割合

つまり出資割合に応じて配分され

ることから、企業が共同企業体に

出資している出資割合を乗じて得

た額と当該役員をしている企業の

全業務量の比較によって判断する

こととなる。

分担施工方式

構成員は工事を適宜分割

し、それぞれ分担工事を施

工するもの

当該請負に係る利益又は欠損につ

いても各々の分担工事によって計

算されることから、当該役員をし

ている企業の分担工事分もそれに

対応する請負金額も確定してお

り、それとその企業の全業務量の

比較によって判断することとな

る。

(地方自治制度研究会、「地方自治法質疑応答集」、第一法規、456 頁)

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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13

「法人」については、営利を目的とする株式会社、合名会社、合資会社、合同会社

をはじめ各種会社や公共的組合や一般社団法人、公益社団法人等、農業協同組合、森

林組合等も含まれるものとされています(大塚康男、前掲書、71 頁)。

そして、自治会や老人会等といった法人格のない社団については、実体から判断し

て、権利能力のない社団としての組織を備え、代表の方法、議会の運営、財産の管理

などの社団としての主要な点が確立しているものであれば、法人に関する規定を適用

するものとされています(議会運営実務研究会、「質疑応答 議会運営実務提要」、ぎ

ょうせい、159 頁)。

○森林組合と本条の関係

昭和 32 年5月 20 日 自丁行発第 85 号 北

海道総務部長宛 行政課長回答

2 法第 92 条の2及び第142条

等の規定を設けられた趣旨が私

的営利企業からの分離にあると

解せられる以上、公共的組合又は

公益法人等は、当該規定の「法人」

に該当しないと解することはで

きないか。

2 該当する。

◎問1、問3については5頁参照

「これらに準ずべき者」とは法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役

と同等程度の執行力と責任とを当該法人に対して有する者であって、これらに準ずべ

き者に該当するかどうかは、その法人の実態に即して判断されるべきものとされてい

ます(議会運営実務研究会、前掲書、159 頁)。

5 「法人」

6 「これらに準ずべき者」

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14

また、次のような行政実例があります。

○会社の発起人

昭和 31 年9月 28 日自丁行発第 82 号 各都

道府県総務部長宛 行政課長通知のうち

問 本条にいう「取締役(現行法では

「執行役」が追加されている。)、監

査役、若しくはこれらに準ずべき

者」に会社の発起人は入るか。

答 設立中の会社が地方公共団体の

請負関係に立つことは通常考えら

れないので、発起人個人として判断

すべきものと解する。

○会社の支店長

昭和 31 年9月 28 日自丁行発第 82 号 各都

道府県総務部長宛 行政課長通知のうち

問 会社の支店長は本条にいう取締

役若しくは監査役又はこれらに準

ずべき者に該当するか。

答 当該会社の支配人である場合或

いは取締役その他の役職員を兼ね

ている場合は該当するものと解す

る。

○自転車振興会の理事等

昭和 31 年9月 28 日自丁行発第 82 号 各都

道府県総務部長宛 行政課長通知のうち

問 競輪法(現行法では自転車競走

法)に基く自転車振興会の常勤理

事、非常勤理事、監事及び顧問、相

談役、評議員等は当該地方公共団体

の議会の議員を兼ねることができ

るか。

答 当該自転車振興会が主として当

該地方公共団体の競輪事業を実施

している場合においては理事及び

監事は議会の議員と兼ねることは

できないが、顧問、相談役、評議員

等については、その職務の内容が実

質的に、理事、監事等に準ずるもの

であるかどうかによつて判断する

外はない。

○「これらに準ずべき者」の意義

昭和 31 年 10 月 22 日自丁行発第 105 号 宮

城県土木部長宛 行政課長回答

問 法第 92 条の2の議員の請負禁

止に関する規定のうち「これらに準

ずべき者」とはいかなるものをいう

か。なお、株式会社の株主(特に多

数株を有するもの)、又有限会社の

社員は、会社の経営に関し相当の支

配力を有すると考えられるが、これ

らの者は含まれないと解してよい

か。

答 前段「これらに準ずべき者」とは

法人の無限責任社員、取締役、若し

くは監査役と同等程度の執行力と

責任とを当該法人に対して有する

者の意であって、果たしてこれらに

準ずべき者に該当するかどうかは

その会社における実態に即して判

断されるべきであると解する。

後段お見込のとおり。

第Ⅲ章 兼業禁止の判断基準

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15

普通地方公共団体の議会の議員である者が地方自治法第 92 条の2の規定に該当

するときには、議会が出席議員の3分の2以上の多数の賛成を得て、これを決定する

ことにより、その職を失うこととなります(地方自治法第 127 条第1項)。

この決定に当たっては、議員は、その会議に出席して自己の資格に関し弁明するこ

とができますが、決定に加わることはできません(地方自治法第 127 条第3項)。

また、議会の決定に不服のある場合は、決定があった日から 21 日以内に都道府県

にあっては総務大臣、市町村にあっては都道府県知事に審査を申立て、その裁決に不

服がある者は裁決のあった日から 21 日以内に裁判所に出訴することができます(地

方自治法第 127 条第 4 項の規定により準用する同法第 118 条第5項)。

第Ⅳ章 禁止される兼業を行った場合の影響

1 概要

当選 兼業禁止のおそれ

兼業禁止に抵触する旨の発案

特別多数決により決定(地方自治法第 127条第 1項)

不服申立て(地方自治法第 127条第4項)

提訴(地方自治法第 127条第4項) 判決

告知から5日以内に辞めた旨、

届出が必要(公職選挙法第 104 条)

争う流れについては

≪(参考)公職選挙法上の流れ≫ 参照

発案権は議員に専属

(行政実例昭和 37 年5月1日)

決定があった日から 21 日以内

裁決があった日から21日以内

決定された時から失職

(行政実例昭和 37 年5月1日)

≪兼業禁止に抵触した際の流れ≫

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○地方自治法

第127条 普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であると

き又は第 92条の2(第 287条の2第7項において準用する場合を含む。

以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。そ

の被選挙権の有無又は第 92条の2の規定に該当するかどうかは、議員が

公職選挙法第 11条 、第 11条の2若しくは第 252条又は政治資金規正法

第 28条 の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会

がこれを決定する。この場合においては、出席議員の3分の2以上の多数

によりこれを決定しなければならない。

3 第1項の場合においては、議員は、第 117条の規定にかかわらず、そ

の会議に出席して自己の資格に関し弁明することはできるが決定に加わ

ることができない。

4 第 118条第5項及び第6項の規定は、第1項の場合にこれを準用する。

第 118条

5 第1項の規定による決定に不服がある者は、決定があつた日から 21日

以内に、都道府県にあつては総務大臣、市町村にあつては都道府県知事に

審査を申し立て、その裁決に不服がある者は、裁決のあつた日から 21 日

以内に裁判所に出訴することができる。

議会

選挙管理委員会

裁判所

議員

①発案

②特別多数決

(地方自治法第 127 条第 1 項)

③決定 → 失職(地方自治法第 127 条第1項)

④不服申立て(地方自治法第 127 条第4項、第 118 条)

⑤裁決

⑥提訴(地方自治法第 127 条第4項、第 118 条)

⑦判決

第Ⅳ章 禁止される兼業を行った場合の影響

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議員が議会において兼業禁止規定に該当すると決定された場合は、当該議員は該当

すると判断された事実の発生した時点(兼業時)からではなく、その決定が行われた

時点でその職を失うこととされています(行政実例昭和 37 年5月1日自丁発第 25

号)(大塚康男、前掲書、73~74 頁)。

過去に請負関係があったことを理由として、失職の決定をなしうるか否かについて

は、その事実関係が確認できればなしうるものであると解されています。しかし、過

去に遡るとしても、その限度は、現在の任期内の事実について適用できるものであっ

て、現在の任期以前の事実については適用できないものと解されています(議会運営

実務研究会、前掲書、182 頁)

地方自治法第 127 条第1項の決定についての発案権は、議員に専属するものとさ

れている行政実例(昭和 37 年5月1日自丁行発第 25 号)があります。

○請負禁止規定に該当するかどうか

の決定に関する発案権

昭和 37年5月1日自丁行発第 25号 新潟県

総務部長宛 行政課長回答

問 地方自治法第127条第1項の決

定についての発案権は、議員に専属

するものと解してよいか。

答 お見込のとおり。

地方自治法第 127 条第1項により、兼業禁止に該当すると決定された場合は、議

員の職が失われることになりますが、兼業禁止に該当すると判断された請負契約の効

力については、影響はないとする旨の行政実例(昭和 32 年2月 11 日自丁行発第

27 号)があります。

2 失職の時期

3 過去の請負関係への適用

4 兼業禁止規定に該当する旨の決定の発案権

5 請負契約への影響

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議会の決定に対し不服申立てができるものは資格決定の対象となった者であり、議

会が資格ありと決定した場合に、兼業禁止規定に該当するとして資格なしという決定

を求めて、資格決定要求書を提出した者が不服申立てすることはできないと解されて

います(最高裁判所第一小法廷 昭和 56 年5月 14 日判決)(本橋謙治、鵜沼信二

「実務必携 地方議会・議員の手引」、新日本法規出版、36 頁)。

事案 裁判所の判断

長崎県福江市議会が、同議

会議員に対し、地方自治法

第 92 条の2に該当しな

い旨の決定をしたことに

ついて、当該議員以外の者

が、不服申立てをすること

が出来るか争われた事案。

最高裁判所

昭和 56年5月 14日判決

「地方自治法127条4項が同条1項の決定につ

き法 118 条5項の規定を準用しているのは、単

に、右決定に対し不服申立が可能なこと、及びそ

の方法、手続は右 118 条5項のそれと同様であ

ることを定めたにとどまり、後者の不服と同様の

民衆争訟的な不服手続をこの場合にも採用した

わけのものではなく、不服申立をすることができ

る者の範囲は、一般の行政処分の場合と同様にそ

の適否を争う個人的な法律上の利益を有する者

に限定されることを当然に予定したもの、すなわ

ち、この場合についていえば、専ら決定によつて

その職を失うこととなつた当該議員に対して前

記の方法による不服申立の権利を付与したもの

にすぎないと解するのが相当である。」

○議員の請負とその効力

昭和 32 年2月 11 日自丁行発第 27 号 関東

一都九県議会事務協議会常任幹事東京都議

会議会局長宛 行政課長回答

問 法第92条の2の規定に反して、

議員が請負契約を結んだとき、当

該請負契約は有効であるか。

答 お見込のとおりと解する。

6 不服申立人

第Ⅳ章 禁止される兼業を行った場合の影響

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≪参考条文≫

○議員の兼業禁止と近似の規定

対象 地方自治法 条文

普通地方公

共団体の議

会の議員

第 92 条の2

普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地

方公共団体に対し請負をする者及びその支配人

又は主として同一の行為をする法人の無限責任

社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこ

れらに準ずべき者、支配人及び清算人たることが

できない

長 第 142 条

普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団

体に対し請負をする者及びその支配人又は主と

して同一の行為をする法人(当該普通地方公共団

体が出資している法人で政令で定めるものを除

く。)の無限責任社員、取締役、執行役若しくは

監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び

清算人たることができない。

副知事

副市町村長

第 166 条

第2項

第 141条、第 142条及び第 159条の規定は、副

知事及び副市町村長にこれを準用する。

普通地方公

共団体の委

員会の委員

又は委員※

第 180 条の5

第6項

普通地方公共団体の委員会の委員(教育委員会

にあつては、教育長及び委員)又は委員は、当該

普通地方公共団体に対しその職務に関し請負を

する者及びその支配人又は主として同一の行為

をする法人(当該普通地方公共団体が出資してい

る法人で政令で定めるものを除く。)の無限責任

社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこ

れらに準ずべき者、支配人及び清算人たることが

できない。

◎ これらの規定は条文上近似しており、議員の兼業禁止の参考となると考えら

れるため、本レポートにおいて、これらについての裁判例・行政実例を掲載し

ています。

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※委員会の委員又は委員についての規定

○商法第1編第6章(抜粋)

○当選後の届出

○商法

(支配人)

第 20 条 商人は、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせ

ることができる。 (支配人の代理権)

第 21 条 支配人は、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判

外の行為をする権限を有する。

○公職選挙法

(請負等をやめない場合の地方公共団体の議会の議員又は長の当選人の失

格)

第 104 条 地方公共団体の議会の議員又は長の選挙における当選人で、当該地

方公共団体に対し、地方自治法第 92条の2又は第 142条に規定する関係を

有する者は、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に対し、第 101

条の3第2項の規定による当選の告知を受けた日から5日以内に同法第 92

条の2又は第142条に規定する関係を有しなくなつた旨の届出をしないとき

は、その当選を失う。

○地方自治法

第 180 条の5 執行機関として法律の定めるところにより普通地方公共団体

に置かなければならない委員会及び委員は、左の通りである。

⑴ 教育委員会

⑵ 選挙管理委員会

⑶ 人事委員会又は人事委員会を置かない普通地方公共団体にあつては公

平委員会

⑷ 監査委員

3 第1項に掲げるものの外、執行機関として法律の定めるところにより市町

村に置かなければならない委員会は、左の通りである

⑴ 農業委員会

⑵ 固定資産評価審査委員会

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21

当選 兼業禁止のおそれ

【異議の申出(公職選挙法第 206条第1項)】

申出人 選挙人及び候補者

市町村議会の議員又は長の選挙 → 市町村選挙管理委員会

都道府県議会の議員又は知事の選挙 → 都道府県選挙管理委員会

当選の告知から5日以内に

関係を有しなくなった旨、

届出が必要 (公職選挙法第 104 条)

申出先

◎当選の告知から5日以内

に届出がなされなかった

当選の告示の日 から 14 日以内

◎市町村選挙管理委員会の 裁決に不服がある場合

◎都道府県選挙管理委員会の

裁決に不服がある場合

異議の申出人

:決定書の交付の日から 21日以内

その他の者

:決定書の要旨の告示の日から 21日以内

【訴訟(同法第 207条第1項)】

原 告 異議の申出人・審査の申立人又は

選挙人及び候補者

出訴先 市町村選挙管理委員会又は被告の所在地を

所管する高等裁判所

【審査の申立て(同条第2項)】

申立人 異議の申出人又は

選挙人及び候補者

申立先 都道府県選挙管理委員会

申出(立)人

:裁決書の交付の日

から 30日以内

その他の者

:裁決書の要旨の告示の日

から 30日以内

≪公職選挙法上の流れ≫

◎都道府県選挙管理委員会の

裁決に不服がある場合

現に請負関係あった者が当選し、公職選挙法第 104 条に定め

る手続をしなかった場合にその当選の効力を争う手続

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3.

議会

関係

(9

)議

員の

兼業

禁止

規定

の該

当事

例に

関す

る調

 (

平成

19

年4

月1

日 

から

 平

成2

1年

3月

31

日 

まで

) 

① 

都道

府県

分<

該当

なし

> 

② 

市町

村分

審査

の申

立て

の結

果出

訴の

結果

山梨

県山

中湖

村○

地方

自治

法第

92

条の

2の

規定

する

「兼

業禁

止」

に該

当す

るた

めH21.3.25

無無

山梨

県山

中湖

村○

地方

自治

法第

92

条の

2の

規定

する

「兼

業禁

止」

に該

当す

るた

めH21.3.25

無無

都道

府県

議会

の決

定の

内容

兼業

禁止

規定

に該

当す

ると

決定

した

もの

兼業

禁止

規定

に該

当し

ない

と決

定し

たも

議会

の決

定の

理由

市町

村名 1団

決定

の年

月日

2件

0件

道府

県知

事に

対す

る審

査の

立て

の有

無裁

判所

への

出訴

の有

0件

0件

seisakuchousa
テキストボックス
資料:総務省「地方自治月報第55号」(抜粋)
seisakuchousa
テキストボックス
22
seisakuchousa
テキストボックス
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seisakuchousa
テキストボックス
資料:総務省「地方自治月報第56号」(抜粋)
seisakuchousa
テキストボックス
23
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3.

議会

関係

(1

4)

議員

の兼

業禁

止規

定の

該当

事例

に関

する

調 

(平

成2

4年

4月

1日

 か

ら 

平成

26

年3

月3

1日

 ま

で)

 ①

 都

道府

県分

  

 <

該当

なし

> 

② 

市町

村分

審査

の申

立て

の結

果出

訴の

結果

北海

道池

田町

○採

決の

結果

、地

方自

治法

第92条

の2

の規

定に

該当

しな

いと

決定

され

たた

めH24.6.29

無無

福島

県喜

多方

市○

○○

会社

の本

市と

の請

負額

は、

8.16%

であ

り、

当該

法人

が「

主と

して

同一

の行

為を

する

法人

」と

まで

は認

めら

れな

いた

めH24.9.21

無無

福島

県浪

江町

○地

方自

治法

第92条

の2の

規定

に該

当し

、議

員資

格を

有し

ない

ため

、H26.3.19

有26.4.2 

審査

申し

立て

26.6.23 

処分

取り

消し

山梨

県北

杜市

○不

適法

であ

るた

め、

却下

。H24.10.26

無無

山梨

県北

杜市

○不

適法

であ

るた

め、

却下

。H25.4.9

無無

決定

の年

月日

1件

4件

道府

県知

事に

対す

る審

査の

立て

の有

無裁

判所

への

出訴

の有

1件

0件

都道

府県

議会

の決

定の

内容

兼業

禁止

規定

に該

当す

ると

決定

した

もの

兼業

禁止

規定

に該

当し

ない

と決

定し

たも

議会

の決

定の

理由

市町

村名 4団

seisakuchousa
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資料:総務省「地方自治月報第57号」(抜粋)
seisakuchousa
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24
Page 27: › shikai › gikaikyoku › ... 市会ジャーナル - Yokohama92 条の2で地方公共団体の議会の議員の兼業を禁止する旨を定 めており、この規定に抵触すると、議会の決定により、失職するという重大な結果を

参考文献

『地方議会実務講座 改訂版 第 1 巻』野村稔、鵜沼信二 著(ぎょうせい)

『議会人が知っておきたい危機管理術 改訂版』大塚康男 著(ぎょうせい)

『逐条 地方自治法 第8次改訂版』松本英昭 著(学陽書房)

『地方自治関係実例判例集 普及版(第 15 次改訂版)』地方自治制度研究会 編(ぎ

ょうせい)

『逐条研究 地方自治法Ⅱ』佐藤英善 著(敬文堂)

『〔最新地方自治講座⑤〕 議会』井上源三 著(ぎょうせい)

『実務必携 地方議会・議員の手引』本橋謙治、鵜沼信二 著(新日本法規出版)

『新基本法コンメンタール 地方自治法』村上順、白藤博行、人見剛 編(日本評論

社)

『注釈地方自治法<全訂>』成田頼明、園部逸夫、金子宏、塩野宏、磯部力、小早川光

郎 著(第一法規)

『地方自治法質疑応答集』地方自治制度研究会 編著(第一法規)

『議会運営質疑応答集』全国町村議会議長会(第一法規)

『質疑応答 議会運営実務提要』議会運営実務研究会 編(ぎょうせい)

『行政紛争処理マニュアル』岩本安昭、越智敏裕 編著(新日本法規出版)

『わかりやすい公職選挙法〔第 14 次改訂版〕』選挙制度研究会 編集(ぎょうせい)

「法制レポート」は、「市会ジャーナル」の特別編として、議会活動を法制

面でも積極的にサポートすることを目的として、議会局政策調査課(法制等

担当)が編集・発行しているものです。