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466 Mar. 2019 リアルタイムデータによる災害対応の高度化 ― 自律的レジリエント社会実現に向けて ― 上級研究員 上田 遼

466 Mar. 2019 リアルタイムデータによる災害対応の高度化 · 2019. 3. 19. · とりわけ災害国日本においては、国や地域のレジリエンス3の向上に向けて、

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466 Mar. 2019

リアルタイムデータによる災害対応の高度化

― 自律的レジリエント社会実現に向けて ―

上級研究員 上田 遼

リアルタイムデータによる災害対応の高度化

~自律的レジリエント社会実現に向けて~

上級研究員

上田 遼

要旨

災害国日本において、迅速かつ実効性の高い災害対応は重要な課題である。あらゆる社

会データを活用した高効率・最適化社会を実現するにあたり、災害時の情報把握や意思決

定の要となりうるリアルタイムデータの活用は必ずしも進んでいない。

甚大な人的被害が生じた 2018年西日本豪雨災害では避難遅れが指摘された。筆者はリ

アルタイムデータを用いてより実効性の高い避難対策ができると考え、被災当時の真備町

を対象に、人口データをもとに避難状況を分析した。その結果、リアルタイムデータを用

いて、ハザードの高い地域での人口滞留などの危険状態を如実に把握することができるこ

とを示した。現在の一斉の避難勧告に加え、データに基づく特定地域の避難誘導の重点化

など、限られた時間での効果的な災害対応を行うことを防災・地域政策に提言する。

また、さらに実効性の高い対策のため、中京地域の産業の要衝の一つである豊橋明海地

域をフィールドに設定し、データ分析のみならず予測・判断を組み合わせた対策を目指し

実践的に取り組んだ。当該地域の企業等ステークホルダーとの議論より、災害後の道路混

雑等が当地の地域規模の重要課題であることから、被災時刻別の道路混雑予測シミュレー

ションにリアルタイムデータを活用した。データの居住者情報等から、日中、夜間の実際

の人口分布に加え、帰宅方面などを含む実況に即したモデルを構築した。シミュレーショ

ンの結果、時刻別の道路混雑を予測、可視化するとともに、一律の全域通行禁止ではな

く、時刻別や経路別に優先度に配慮した参集・救急通行のルール化が可能であることを示

した。当該結果は、地域連携のための重要な示唆、エビデンスを与えるものとして、ステ

ークホルダーへの訴求に有効であった。

本稿は、上記のモデル的事例を端緒として、同様のデータ活用および取り組みが地域の災

害対応に必要であることを指摘するとともに、そのような目的に向けて、データ保有企業、

ICT 企業および地域のステークホルダーがシステム、実践の両面から協働すべきであるこ

と、そのような社会プラットフォームが必要であることを主張する。

キーワード: リアルタイム 自律分散 防災 ビッグデータ

目次

1. 社会データを活用したレジリエント社会に向けて ........................................................ 1

1.1. 災害における情報活用 ............................................................................................. 1

1.2. リアルタイム情報サービス ...................................................................................... 2

1.2.1. 携帯電話位置情報に基づくリアルタイム人口 ................................................. 2

1.2.2. 都市の位置情報のセンシング ........................................................................... 3

1.3. リアルタイム情報による災害対応の発展 ................................................................ 3

1.4. 本研究の実践を通したモデルケースに向けて ........................................................ 4

2. リアルタイム人口を用いた西日本豪雨時の分析 ............................................................ 5

2.1. 2018年西日本豪雨の概要 ........................................................................................ 5

2.2. リアルタイム人口データの可視化 ........................................................................... 5

2.3. 避難者の動きと浸水ハザード .................................................................................. 7

2.4. 詳細ハザードと組み合わせた情報システムの必要性 ............................................. 8

3. モデルケースの実践:リアルタイムデータの豊橋明海工業地域への応用 .................... 9

3.1. 豊橋明海地域の災害ハザードと取組 ....................................................................... 9

3.2. リアルタイムデータの活用のフレームワーク ...................................................... 10

3.3. 豊橋明海地域の一日の人口動態 ............................................................................ 10

3.4. 基礎データのディスカッションと地域のニーズ ................................................... 12

3.5. 津波避難におけるシミュレーション活用 .............................................................. 12

3.6. 自動車帰宅問題への適用 ....................................................................................... 14

3.6.1. 属性情報に基づく従業員の居住地 ................................................................. 14

3.6.2. 発災時刻別の道路混雑シミュレーションのモデル化 .................................... 15

3.6.3. 道路混雑シミュレーションの実行 ................................................................. 15

3.6.4. 発災時刻別の評価 ........................................................................................... 16

3.7. 発災時刻別の対策に向けて .................................................................................... 18

3.8. 議論と展望 ............................................................................................................. 19

4. リアルタイムデータの活用に関する含意と提言 .......................................................... 20

4.1. リアルタイムデータを活用した地域・自治体政策 ............................................... 20

4.2. 通信キャリア・ICT企業の連携 ............................................................................ 20

4.3. シームレスなリアルタイム情報技術に向けて ...................................................... 21

参考文献 ............................................................................................................................... 22

1

1. 社会データを活用したレジリエント社会に向けて

人・モノ・コト―あらゆる社会データの活用は今後の IoT1をはじめとする社会発展にお

いて重要な課題であることは言をまたない。内閣府は、今後の社会のあるべき姿として、

Society 5.02を掲げ、あらゆる人とモノがつながり、必要な情報やサービスが必要な際に提

供される社会を目指している。

とりわけ災害国日本においては、国や地域のレジリエンス3の向上に向けて、災害対応へ

の情報活用が喫緊の課題と考えるが、その活用が十分とは言い難い。大災害時においては、

想定外の事象に対して社会的な混乱が起こる。これまでの災害対応では、限られた時間の中

で情報収集が初動の第一歩であり、かつ多くの場合、それは大きなボトルネックとなる。よ

り平易に述べれば、いかなる災害が起こり、被害がどれほどで、また避難者はどこにどれだ

けいるのか、そのような「情報収集」に大きな人員と時間が割かれる。これによって、初動

の遅れが発生する。あるいは、情報収集がそもそも不可能であると断念し、限定された情報

下で半ば手探りの災害対応を行う。それにより、避難や救助等の対応に手落ちが発生する。

いずれにしても、必要な災害対応に的確に対応することは難しい。2018年 7月の西日本豪

雨4では多くの犠牲者が発生したが、その多くは避難遅れ等によるものであった。今後予想

される南海トラフ巨大地震5では、関東から九州まで危険に曝される人口や災害対応のため

の情報量は想像を絶する。情報収集の時間費用や未確認の情報による制約を受けない、スム

ーズで自律的な災害対応の実現が求められる。

1.1. 災害における情報活用

これまでの防災において、固定化されたハード情報に対してはある程度活用がなされて

いる。例えば、道路、建築物等の GIS6などの構造物情報は、国土地理院等の政策的な情報

整備も進んでおり、今日あらゆる自治体、企業で活用がなされている。 近年では、比較的

精緻な3次元地理形状のデータ7が公開されるなど、拡充も図られている。

1 社会におけるあらゆるセンサー、端末、機器がネットワークでつながるモノのインター

ネット。Internet of Thingsの略。 2 Society 5.0は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会(各 Society 1.0~4.0)に続

く、社会の在り方。現在の情報社会(4.0)における情報の垣根や情報アクセスの手間、制約

を解消し、あらゆる情報の活用と高効率な社会を目指す。内閣府の第5期科学技術基本計

画において提唱された。 3 想定外事象を含むあらゆる脅威に、迅速かつ適応的に対処するための力。強靭性、対応

力とも訳される。 4 西日本(特に広島県、岡山県等山陽地域)を中心とした未曽有の豪雨災害であり、200

人以上の死者・行方不明者を生じた。 5 内閣府中央防災会議はマグニチュード 9クラスの巨大地震を想定し、その発生確率は今

後 30年以内に 80%としている。 6 地理情報システム(Geographic Information System) 7 例えば、国土地理院は、5mメッシュでの地理標高の詳細な 3次元 DEM(Digital

Elevation Model)を公表している。

2

それに比べて、時々刻々変化する人やモノなどのソフト情報は、本来、即時的な災害対応

のためには非常に重要であるにも関わらず、十分には普及が進んでいない。その要因には、

人やモノの情報を収集する主体やそれを提供するサービスが限定的であったという提供側

の課題、そして、得られた情報を活用するスキームが社会的に確立されていないという活用

側の課題が挙げられる。

1.2. リアルタイム情報サービス

ソフト面での情報活用が不足する社会的状況の中で、今日、リアルタイム情報8を通信キ

ャリアなどが中心となって提供するサービスが徐々に生まれてきている。

1.2.1. 携帯電話位置情報に基づくリアルタイム人口

通信キャリアである株式会社 NTT docomoが提供する「モバイル空間統計9」は、そのよ

うなサービスの一つである。具体的には、携帯電話(あるいはスマートフォン)の GPS情

報をもとに、携帯所有者の位置情報を時間ごとに収集し、統計データとしてストックする。

また位置情報のみならず、所有者の属性10(年齢、性別)などを紐づけ、属性別の統計も作

成可能としている。対象人口の全てが NTT docomo の携帯を所有、位置情報提供を行って

いるわけではないが、属性別の所有率から逆算することで、全体の人口を推計することがで

きる。情報サービス利用者は、必要な日、時間帯、エリアなどを指定することで、ストック

された位置情報の提供11を受け、必要なリアルタイム人口の提供を受け、活用することがで

きる。

図表 1 モバイル空間統計の概要

(出典:NTT docomo https://www.mobaku.jp/)

8 常に時間変化する人やモノに関する位置・状態を把握できるデータ。 9 詳細は、概要紹介 https://www.mobaku.jp/ を参照されたい。 10 国籍も属性として統計することができ、近年では 2020年も視野に外国人旅行者(イン

バウンド)の商圏分析などへの実適用も増えている。 11 情報提供においては個人情報に配慮し、指定エリア内に一定の最低人数がいることなど

を条件とし、個人を特定できないようにフィルタリング等を行っている。

3

1.2.2. 都市の位置情報のセンシング

これまでも、都市における位置情報はさまざまなかたちでセンシングされ、また提供され

てきた。模式的に図表 2に示す。空からのセンシングでは、衛星写真や近年発展しつつある

ドローンなどが挙げられる。カーナビゲーションもその一つである。また、地下や建物内の

使用に特化して、ビーコン12などの開発も行われている。しかしながら、社会における位置

情報を網羅的に把握するためには、携帯電話による位置情報が今日最も有効な手段の一つ

であると考える。

図表 2 都市における位置情報

(出典:富士通総研作成)

1.3. リアルタイム情報による災害対応の発展

このようなリアルタイム位置情報を用いることにより、従前の災害対応は変容、発展して

いくことが期待できる。

まず一つには、冒頭に問題点を挙げた通り、災害対応の初動における情報把握の時間や手

間を大幅に削減することができる点である。リアルタイム人口情報を用いれば、現時点にお

ける技術的な制約はあるものの、ビッグデータに基づき人口の状況を一挙に総監すること

を目指す。

それに加え、最も大きいことは、状況に即した人口をシミュレーション技術と組み合わせ

て用いることで、直近の現象や危険を未然に防ぐことができる点である。これによって、一

律・定性的に行ってきた災害対応を、予測・評価に即した合理的・的確なものに進化させる

ことができる。

12 ビーコンは、bluetooth信号等により位置の発信を行う簡易発信機、またそのサービス

である。小型、低電力等の点で優れている。

人工衛星

携帯GPS

ビーコン

ドローン

衛星写真

空撮

車両内

地下空間

建物内

カーナビ

4

避難誘導を例にとれば、図表3(左)に示すように、これまで、避難を促すに当たっては

対象エリア内に一律一斉に避難勧告を行うことが一般的であった。これに対して、同図右に

示すように、人口集中地域から避難の混雑が予想される経路を警告する、あるいは津波予想

地域に多数が滞留するエリアに重点的に避難勧告を行うことができる。これによって、適切

な状況判断と意思決定を自律的に行うための体制を構築する。

図表3 リアルタイム人口に基づく災害対応の発展

(出典:富士通総研作成)

1.4. 本研究の実践を通したモデルケースに向けて

以上の社会背景および展望から、本研究は具体的な対象地域を定め、リアルタイム位置情

報「モバイル空間統計」活用のモデルケースとしてその有効性を実証的に示すとともに、そ

れを以てリアルタイム位置情報の整備、普及、活用を地域防災政策の観点から訴求すること

を目的とする。

まず、2章では導入として、避難遅れが問題化した 2018年の西日本豪雨を例にとり、リ

アルタイム人口によって発災前後の人口の変化を可視化し、そこから得られる教訓や今後

の自治体等の活用方針を述べる。

次いで、3章では、中京地域の自動車産業の要衝の一つである豊橋市明海工業地域を対象

とし、当地の災害対応にリアルタイム情報を導入することによる効果を実証的に示すとと

もに、それをもとにした地域での議論、アクションを行う。

予測・評価・誘導一斉勧告

5

2. リアルタイム人口を用いた西日本豪雨時の分析

筆者は、避難遅れを防止するために、リアルタイム人口の分析により避難が滞っている危

険地域への重点的な避難勧告が必要であると考えている。近年の災害の最も端的なものの

一つである 2018年西日本豪雨を例に、その点を論じたい。

2.1. 2018年西日本豪雨の概要

2018 年 7 月 5 日前後、台風7号の暴風雨による西日本豪雨災害が発生した。降雨量は、

四国における最大 1800ミリをはじめ、数日間で西日本のほぼ全域に数百~千ミリもの降雨

をもたらした。死者 227 人、行方不明者 10人を出す未曽有の災害となった(図表4)。

多くの地域に最大級の備えを喚起する「大雨特別警報」が発令された。しかし、広島県に

おいては 200 万人もの市民に避難勧告が発令されたにも関わらず、実際に避難したのは 2

万人程度であったことが、事後に分かっている13。深刻な被害を受けた岡山県倉敷市真備(ま

び)町では、多くの人は避難せず自宅で被害を受けた。この災害では、避難勧告が出される

までの行政対応の遅れなども指摘された。

図表4 2018年西日本豪雨で水没した市街地と豪雨警報

(出典:Yahoo Japan14, ANN15)

2.2. リアルタイム人口データの可視化

当時の避難状況を把握、分析するため、避難勧告が出され避難が本格化した 7 月 5 日の

18:00 とその前後4時間の日時について、人口データを可視化した(図表5)。棒の高さが

人口の大きさを示し、赤色の地域は最も人口が多いエリアである。

いずれの時刻においても、市街地(平野部)に多くの人口が滞留していることがわかる。

前述のような避難遅れの状況を如実に表している。逆に、この情報が当時得られていれば、

13 県立広島大学(2018.8) 平成 30年 7月豪雨の避難意識と行動に関する調査 14 Yahoo News https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181214-00000193-kyodonews-

bus_all 15 ANN News(2018.7.6) 報道「午後も局地的に激しい雨 警報解除の地域でも警戒を」

6

追加の避難勧告を出す、あるいは、広報車等の別の伝達手段を加える、等のさまざまな策を

柔軟に講じることができたと考える。

2018年 7月 6日 14:00

2018年 7月 6日 18:00

2018年 7月 6日 22:00

図表5 2018年西日本豪雨当時の真備町のリアルタイム人口分布

(出典:富士通総研作成・データ提供元 NTT docomo Insight Marketing)

300~

200~300

100~200

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300~

200~300

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300~

200~300

100~200

0~100

7

2.3. 避難者の動きと浸水ハザード

さらに、時刻間の人口の動きをより明確に捉えるため、18:00と 22:00の人口の差分を

とり、人口が増大していれば上に凸(赤)、減少していれば下に凸(青)として3次元で

表現した。これにより、避難者等により、人々が向かっている地域、去っている地域など

を区別して表現できる(図表6)。これを用いて、人口が増大している地域に着目して、

実際の浸水域(事後に調査から得られたもの)を照らし合わせた(図表 7)。人口の増大し

ている地域の多くは、浸水ハザードの無い丘陵地または内陸部であり、適切な避難によっ

て人口が増大していたと考えられる。また、浸水域内の多くは、避難により人口が減少し

ていた(図では緑色等で表現)。その一方、真備町を含むいくつかの地域では、津波浸水

域において避難等により人口が増大し、結果的には適切でない避難が行われたことにな

る。

図表6 人口の変化(18:00→22:00の変化を正負で表現)

(出典:富士通総研作成)

図表 7 人口の変化とハザードの重ね合わせ

(出典:富士通総研作成)

8

2.4. 詳細ハザードと組み合わせた情報システムの必要性

今回の豪雨水害では、実際の浸水域は事前のハザードマップに示された浸水域とほぼ重

なることも、事後わかっている16。また、積算降雨量や予測降雨量も気象庁をはじめデー

タとして公開され、またアプリケーションとしても普及している(図表 8)。

このような分析を踏まえると、リアルタイム人口によって避難状況の「変化」を俯瞰す

るとともに、それをハザードマップや詳細豪雨予測などのハザードデータと組み合わせる

ことで、危険に曝され、かつ人口滞留が多い(または人口がむしろ増えている)箇所を分

析することができる。本稿を通し、そのような情報システムが今後のレジリエントな社会

実現に向けて必要かつ有効であることを、実際の災害ケースに基づき実証的に示した。

図表 8 詳細ハザード:降雨量の短期詳細予測の例

(出典:Yahoo! 天気・災害・cnet, https://japan.cnet.com/article/35021837/)

16 具体的な地理空間情報は、国土地理院(2018) 「西日本豪雨に関する情報」ページ

http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30.taihuu7gou.html

9

3. モデルケースの実践:リアルタイムデータの豊橋明海工業地域への応用

前章では、基礎データの分析応用の観点から、リアルタイムデータの有用性を論じた。本

章では、さらに情報の付加価値を高めるため、基礎データ分析から予測(シミュレーション)

へと段階を深めることを目的とする。

3.1. 豊橋明海地域の災害ハザードと取組

中京地域の自動車産業の要衝の一つである豊橋明海工業地域(図表 9)を具体的な対象と

して、リアルタイム情報を活用する。南海トラフ巨大地震・津波が想定される同地域では、

100社程度が一つの半島状の地域に集中して立地し、なおかつ同地域は津波堤防の外側(堤

外地)であることからも、津波の危険性等を共助によって乗り越えるための努力を図ってき

た。そのプロセスにおいて、人、リソース、戦略面での対策は、全国的にも実証的モデル地

域として注目されている17。主としてデンソー社がイニシアチブをとり、工業地域の「事業

継続計画18」の観点から、企業個社の枠組みを超えて、津波避難対策をはじめとする企業間

連携を図ってきた。近年では、さらに工業地域を超えて、陸側の自治体やインフラ企業とも

連携を深め、さらに道路アクセスが限定されていることから、道路の補強、拡充までも自治

政府的に訴求している19。

図表 9 豊橋明海工業地域

(出典:Google Mapをもとに富士通総研作成)

17 例えば、中部経済産業局(2015) 工業集積地における 事業継続力強化に向けて

http://www.chubu.meti.go.jp/b52bousai/press/20141105-bcp/20150115toyohashi.pdf 18 企業等が災害時に備え、事業の復旧や対応、経営管理等の戦略を計画として策定するこ

と。Business Continuity Plan, BCP。 19 ここでは概要を述べたが、豊橋明海地域の事業継続計画に関する詳細は、筆者の研究レ

ポート:上田(2018)も参照されたい。

Copyright 2015 10

豊橋明海工業地域

10

その一方で、地理空間的な現状と予測、すなわち地域規模で人々がいつどのように活動し、

また災害時にいかなる現象を起こしうるかは、当地域、個社にとっても全貌を把握しにくい

課題であると考え、リアルタイム情報の活用が有効であると考える。

すなわち、同地域の基盤的なフレームワークに対して、リアルタイム情報が対策の精細さ

をさらに高めること、さらには、可視化によってステークホルダーの意識やイメージを高め、

地域連携を強める材料とすることも、今回の適用研究の狙いである。

3.2. リアルタイムデータの活用のフレームワーク

研究のフレームワークを図表 10に示す。データ分析とディスカッションを相互に行いな

がら対策につなげていくことが、理論と実践を両立させる上で重要と考えている。

はじめに、対象地域に関する立地、ハザード20等の基礎リサーチを行うとともに、同地域

のリアルタイム人口基礎分析を行う。そして、その分析結果を材料として、デンソー社(豊

橋製作所長)に対してニーズ把握のためのディスカッションを行う。そして、得られたニー

ズに即してシミュレーション評価等を行い、それを再度議論し、連携につなげていく。

図表 10 リアルタイム位置情報の適用における

ニーズ把握と分析・議論フレームワーク

(出典:富士通総研作成)

3.3. 豊橋明海地域の一日の人口動態

豊橋明海地域では、多くの企業が密集することから、勤務・移動にともなう日中の人口の

変化は非常に大きいことが予測される。そこではじめに、基礎的な把握・分析のため、豊橋

明海地域のリアルタイム人口を平日の 24 時間で幾つかの時間を区切り、可視化を行った

(図表 11)。ここでも、同じく人口の大きさを棒の高さと色で表現している。

20 津波、地震等、外部脅威によって災害の起こりうる危険性。危険(リスク)のうち、人

やモノの脆弱性と区別してハザードの語が使われることが多い。ハザードを地理分布的に

描写したものが、自治体等が公表する「ハザードマップ」である。

研究フレームワークの策定基礎リサーチ

リアルタイム人口データ情報の基礎分析

対象地域のステークホルダー(豊橋明海地域)のニーズ把握

モデルによるシミュレーションと結果の評価・議論・連携

11

深夜 0時には、人口は夜勤者が中心でありその数は比較的少なく、内陸部(図の右寄り)

に若干の人口が滞留している。それに対して、朝 6時には徐々に人口が増大しはじめ、朝 9

時には定時出勤によって人口が顕著に増大する。とりわけ、地域の中央から南側(図の手前

側)に人口が集中しているが、これはデンソー社やトヨタ系列の企業の従業員が多くを占め

ている。昼間は人口が集中しているが、18 時には退社する従業員が多く、人口は顕著に減

少する。なお、北側(図の奥側)と南側(図の手前側)では北側の人口が少ないが、これは、

港湾等企業がメーカー等の交代労働に比べて退勤等が規則的であることが考えられる。

このように、地域全体の大きな人口のダイナミクスを捉えることができるとともに、小地

域間、エリア間でも、企業や勤務等の違いによって人口の動きに変化がみられる。

0:00 6:00

9:00 12:00

18:00 21:00

図表 11 豊橋明海地域における人口の一日の変化

(出典:富士通総研作成・データ提供元 NTT docomo Insight Marketing)

300~

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300~

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300~

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12

3.4. 基礎データのディスカッションと地域のニーズ

デンソー社でのディスカッションでは、地域人口の観点について可視化情報をもとに議

論を行い、地域全体の全ての従業員が時間、地域別にいかなる社員がどのように分布するか

を念頭において行動(避難、誘導等)をとることが重要であることが提起された。

それとともに、避難に関しては多くの従業員を抱え、なおかつ従業員の所属企業が多岐に

わたることから、以下の2つの点で、技術的検討が必要である、との意見を得た。

1. 第一避難(津波避難):地震直後の津波に対して、大量の従業員をいかに避難させる

か。

2. 第二避難(帰宅困難等):津波避難が完了し、津波終息後に従業員をいかに帰宅させ

るか。自動車での帰宅は混雑を生むが、そのルールを共有、啓蒙できるか。

特に、2点目については、広域にわたることからも避難訓練等が困難であり、また、ルー

ル化のための材料も必要であることから、シミュレーション等の活用が重要である、との意

見を得た。そのため、2点目の自動車帰宅問題に重点的に取り組むこととした。

3.5. 津波避難におけるシミュレーション活用

準備した基礎データをもとに、1つ目の応用例として、津波避難のマルチエージェント・

シミュレーション21を行った。これは、個々の「人」のモデルであるエージェント一人ひと

りが、自身の行動規則(モデル)に合わせて行動を行い、それを全体として動作させること

で複雑なシステムの動きをシミュレートするものである。

対象地域では避難体制として、図表 12のように複数の避難エリアを定め、各々に避難地

を割り当て、また公開している。そこで、リアルタイム人口の分布をもとに日中の従業員の

位置を設定し、そこから直近の指定避難エリアへの避難を行うものとした。

日中(12:00)を対象とした避難シミュレーションの混雑状況を図表 13に示す。赤色が歩行

避難者エージェントの分布を表す。いずれの避難場所の周辺も混雑が生じている。南側(図

の下側)エリアは避難場所が2か所であり、北側に比べて多いものの、前段で見たように南

側の人口数がそれ以上に多いため、結果的に南側でより多くの混雑が生じている結果とな

っている。このような考察を行うことによって、避難場所の増設等を合理的に検討できると

考える。

21 エージェントは、人間のほか自動車(後述)等さまざまな行動主体をモデル化し、歩行

混雑や回避、コミュニケーションなど、お互いのインタラクションを模擬することができ

るモデルである。

13

図表 12 津波避難エリア体制の例(出典:経済産業省および豊橋明海自治会資料)

全体

混雑に関する部分拡大(例)

図表 13 津波避難シミュレーション(日中 12:00)

(出典:富士通総研作成)

14

3.6. 自動車帰宅問題への適用

次に、より重点的な地域課題として、災害後自動車での帰宅の殺到が引き起こす渋滞等の

課題を、シミュレーションにより評価する。なお、同地では、従業者の9割以上が自家用車

を用いていることから、最も深刻な条件として自家用車での帰宅を誰もが行った場合を想

定する。

3.6.1. 属性情報に基づく従業員の居住地

対象地域は、幾つかの主要道路および限られた橋梁によって内地と接続されている。帰宅

時のシミュレーションによる混雑評価を行うにあたり、帰宅ルートすなわち各々の従業員

が帰宅する地域、方面をできるだけ正確に考慮することは重要である。そしてまた、そのよ

うな細やかな設定を行うことは従前のデータでは困難であった。

前述のように、リアルタイム人口には、携帯電話所有者の属性情報に基づき、年齢、性別、

居住地22などの統計を行うことができる。したがって、帰宅時のシミュレーションを行うに

あたり、現在地とともに居住地を用いることで帰宅ルートを設定することができる。

対象地域の人口(ここでは代表として 12:00時点)に対して、居住地の主要な内訳を図表

14 に示す。豊橋市のほか、豊川市(豊橋市の北方)や田原市(豊橋市の南方)など近隣の

居住地の占める人数、割合も概ね把握できる。滞留人口(合計)は、9000人以上にも達する。

このデータをもとに、各避難者(エージェント)に帰宅地域を設定した。

図表 14 対象地域内人口における「居住地」の主要な内訳(日中 12:00)

(出典:富士通総研作成・データ提供元 NTT docomo Insight Marketing)

22 技術的補足として、携帯電話の属性統計対象は、実態への対応を期するため個人契約電

話に限られている。そのため、法人契約電話による「企業住所」等が統計に混入する恐れ

はない。

豊橋市, 7749

豊川市, 686 田原市, 794

湖西市, 27

豊田市, 110 岡崎市, 23 安城市, 12 新城市, 24

豊橋市 豊川市 田原市 湖西市 豊田市 岡崎市 安城市 新城市

(82%)

(7%)

(8%)

15

3.6.2. 発災時刻別の道路混雑シミュレーションのモデル化

発災時刻別の道路混雑シミュレーションのため、基礎データとして、以上に述べたように、

時間別の人口の位置情報、居住地(すなわち帰宅目的地)、地理空間情報(道路ネットワー

ク、敷地)23を組み合わせてモデルデータ化した。また、自動車1台毎をエージェントとし、

自動車の移動・渋滞の構成則を実装した。これらにより、図表 15に示すように、発災時刻

別のシミュレーションを行った。そして、後述のように、発災時刻別の比較評価のための可

視化も行った。

図表 15 リアルタイム位置情報・居住地属性を組み合わせた

発災時刻別の自動車混雑シミュレーション(出典:富士通総研作成)

3.6.3. 道路混雑シミュレーションの実行

道路混雑シミュレーションの画面の一例を図表 16に示す。ここでは、例として渋滞が深

刻となると考えられる昼間 12:00時点に被災したケースである。

オレンジ色が自動車(エージェント)の分布を表す。シミュレーションの開始直後から、

特に従業員の多い南側の地域において渋滞が発生し始め、その後、時間経過とともに渋滞の

範囲は広がっていく。また、工業地域内の渋滞のみならず、内地への接続部分での渋滞が発

生していることも見て取れた。オレンジが点列している箇所は、ほぼ身動きが取れない程の

渋滞である。シミュレーションでは、限られた橋梁部や道路結節点の渋滞が後続の自動車に

対して次々に渋滞を連鎖させていく様子をシミュレートすることができた。

23 本研究のシミュレーションでは、自動車の分布・移動による道路混雑の評価に重点を置

くため、道路被害による道路閉塞は考慮していない。後述するように時間別の対応方針を

事前に策定するとともに、発災時に得られた被害情報を付加することで、より詳細な災害

誘導が可能となる。

16

開始直後

渋滞発生

混雑に関する部分拡大(例)

図表 16 リアルタイム位置情報・居住地属性を組み合わせた

発災時刻別の自動車混雑シミュレーション

(出典:富士通総研作成)

3.6.4. 発災時刻別の評価

発災時刻(渋滞予測)別の災害対応の検討のため、時刻別のシミュレーション結果を比較

17

する。道路の混雑度を、シミュレーション中の各地点の最大渋滞密度によって色彩による可

視化を行った。図表 17 に示す。それぞれ、発災想定時刻 0:00、12:00、18:00 の結果であ

る。

0:00 12:00

18:00

図表 17 最大道路混雑度の発災時刻別の比較

(出典:富士通総研作成)

0:00 時点においては、地域内の人口が比較的少ないため、混雑は幾つかの主要道にみら

れる程度であり、限定的である。

これに対し、12:00のケースでは、渋滞によりほぼ身動きのできない赤色の範囲が、道路

南側(図の下側)を中心に広がっている。赤色の部分の広がり方は、南側地域の人口集中に

加え、それらの人口が北方・南方それぞれに分かれて移動を目指すことにより生じたと考え

られる。すなわち、発災時の位置情報と帰宅地を組み合わせて、個々の移動の予測評価を行

うことが出来たといえる。南側に比べて、北側の地域では人口が少なく、道路混雑は相対的

300~

200~300

100~200

0~100

Locked High Mid Low

18

に少ない。特に北西地域の交通状態は良好である。

また 18:00での発災ケースでは、道路混雑は生じているものの、12:00に比べて赤色部分

は少ない。

3.7. 発災時刻別の対策に向けて

上述の結果は、発災時刻別の対応等に役立てることができる。これまで、一律に災害後

の道路通行等を制限するなどのルール化が検討されてきたが、データと予測によってこれ

を合理化することができる。それを図表 18に示す。

図表 18 最大道路混雑度の発災時刻別の比較

(出典:富士通総研作成)

例えば、

・0:00等の深夜に被災した際には、道路混雑は比較的少ないことから、企業の参集を優先

する。これにより、早朝からの事業継続対応を早める。

・12:00等日中に被災した際には、地域全体で大きな混乱が生じうることから、全面的に

通行を禁止する。

・18:00等の夕刻に被災した際には、一定の混雑が予想されるものの、北方の比較的混雑が

少ないエリアにおいて、救助支援等緊急車両の通行に限定し、優先する。これにより、

視野や応急作業が滞りやすい夜間の前に救助や処置を進める。

等が考えられる。

19

3.8. 議論と展望

これらのシミュレーション内容について、デンソー社(豊橋製作所長ら)ともディスカッ

ションを行った。地域全体として、本研究の提案のような即時的かつエビデンスのある災害

対応支援のシステムはぜひとも必要である、との意見を得た。また、既存の他の技術、例え

ば道路被害のセンシングなどと組み合わせることによって、さらに的確な状況判断が可能

である、との展望も示された。豊橋市等自治体も、災害時の指示、ルール化などにおいてそ

の根拠や議論材料を求めており、企業・自治体の連携の一助にもなる。

また、今回の可視化技術によって、災害時における自動車等の挙動を分かりやすく示すこ

とができた。比較的企業間連携が進んでいる明海地域であっても、個々の中小企業を連携体

制に巻き込むことは全うできていない。その点において、今回のようなシミュレーションは

道路混雑の課題を図像として示し、危機感や啓発を行う上で重要である、との意見も得られ

た。

他方、さらなる迅速な災害対応のため、リアルタイムデータの即時取得、即時分析の技術

を早期に実現してほしいとの強い要望も示された。今回のシミュレーションでは、事前対策

的アプローチとして事前に得られた人口を分析、解析した。携帯位置情報の集計、推計には、

現時点では一定の時間差が生じるため、リアルな時間進行にできる限りシンクロしたデー

タ取得、分析をデータ提供事業者側の開発とも連携して行っていく必要がある。

20

4. リアルタイムデータの活用に関する含意と提言

本研究では、レジリエント社会実現のための社会データ活用を目標として、人口のリアル

タイムデータを用いた実証的研究を行った。この研究を通じて、豪雨災害等の避難支援への

適用性、地域における渋滞の未然防止等の有用性等を具体的な事例、フィールド、シミュレ

ーションと議論に基づき示すことができた。

今回の事例を端緒として、社会に向けた含意と提言を以下に述べたい。

4.1. リアルタイムデータを活用した地域・自治体政策

西日本豪雨の分析事例において示したように、リアルタイム人口データを活用すること

によって基礎的な情報収集を大幅に省力化するとともに、避難すべき地域の人口の滞留な

どをとらえて、これまでの一斉送信的な避難勧告、あるいは手探りでの広報車による警報と

は異なる、重点的かつ効率的な避難誘導が可能となると考える。さらに、降雨予測等ハザー

ドの近年の詳細予測と技術的に組み合わせることで、より危険な地域の洗い出しも可能と

なる。

さらに、豊橋明海地域での事例において示したように、リアルタイム位置情報とシミュレ

ーション技術を組み合わせることで、純粋な位置情報のみならず、混雑の予測といった評価

に活用でき、この評価は自治体等の意思決定にも大きな示唆を与えると考える。災害時の道

路管理等は、現在自治体に委ねられている。あるいは、臨海地域等では管理が完全に及ばな

いとも考えられる。そのような状況にあって、自治体が情報システムを活用して瞬時に道路

通行の判断を下す、あるいは、自治体の認証を経て自律的に判断を下すような AIシステム

の実現も、要素技術開発の点から可能であることを示した。

中央政策的にもこのような防災面での自治体の活用を面的に後押しすべく、災害対応シ

ステム拡充のための法政策や、リアルタイムデータを活用するためのプラットフォームの

整備等が重要であると考える。

4.2. 通信キャリア・ICT企業の連携

今回の研究を行う一環として、データ提供元である通信キャリア(NTT docomo)とも提

供データ内容のみならず、今後の社会的課題についても密に議論を行ってきた。その中で得

られた一つの課題として、通信キャリア自身もリアルタイムデータの活用方法に関して、さ

まざま思案の途上となっていることである。無論ユースケースとして一定の蓄積はしてい

るが、企業間の社会的連携が必要であると考えている。

通信キャリアは、データを保有するという点では社会的に大きなアドバンテージがある。

その一方「人口がいかに分布するか」という基礎データから、「それが、いかなる危険とな

るか」との工学的評価に至るまでには、通信キャリア単体の知見では一定の限界がある。防

災情報システム等を得意とする ICT 企業や、災害分野の専門家が積極的に連携し、基礎デ

ータから活用までを行っていく必要があると考える。このような連携に当たっては、上記の

21

政策的なプラットフォーム等の場が社会に散在するデータの活用基盤となる。

そして、活用に当たっては、専門家の立場としてはデータ分析にとどまらず、今回のモデ

ルケースにおいて例証したように地域のステークホルダーと対話を行いながら問題解決を

図っていく実践的姿勢が重要であると考える。

4.3. シームレスなリアルタイム情報技術に向けて

今回の検討では、災害時の最も端的な情報の一つとして、人口すなわち、我々「人」の分

布に着目した。その一方、災害対応はデータの連携によってますます的確となる。災害時の

社会的難題として、相互依存問題が挙げられる。すなわち、災害時にはあらゆる機能がお互

いに連関しており、例えば道路が地震被害を受ければ通行ができなくなり、通行ができなく

なれば道路の復旧が滞る、あるいは別の渋滞が発生する等である。この相互依存問題の解決

には、異種間データの連携が欠かせない。

豊橋明海地域での今後の課題とも関連するが、道路被害の即時データ、例えば衛星画像や、

ドローン撮影等とリアルタイム位置情報を組み合わせることで、混雑や被害を避けた最短

経路を分析することができる。また、災害対応のフェーズが避難等の応急対応から復旧へと

移り変わるにつれて、ガソリン燃料の供給地や復旧資材の分布等、別のデータが必要となる。

このようなシームレスなデータ連携を図るためには、データ基盤をプラットフォーム化

するのみならず、災害対応に必要なモノ、コト、およびそのデータを網羅し、なおかつお互

いの関連性をリンクさせるような目的化されたフレームワークが必要と考える。防災のス

テークホルダーの連携24が求められる今日、リアルタイムデータにおいても、マルチ領域で

の連携が重要である。

24 国連が推進する国際フレームワーク「仙台防災枠組 2015-2030」では、災害に関わるあ

らゆるステーホルダー(国、自治体、企業、市民等)が連携し、適切なリスク理解とガバ

ナンスのもので社会のレジリエンス向上を図ることが求められている。

22

参考文献

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る安全避難の共創-, 日本地震工学会論文集

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テム-日本建築学会情報・システム・利用・技術シンポジウム論文集

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の輪 ―輪中(わじゅう)から現代 BCPまで―講演資料

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日経 BP(2018): テクノロジー・ロードマップ 2018-2027 ICT融合新産業編

研究レポート一覧

No. 466

リアルタイムデータによる災害対応の高度化

― 自律的レジリエント社会実現に向けて ―

上 田 遼 (2019年 3月)

No. 465

マイナンバーの検証と今後の展開に関する研究

― 「マイナンバー世帯」についての試論 ―

榎並 利博 (2019年 1月)

No. 464

介護サービスにおける「現場知」の創出

―情報共有データを活用した知識創造―

中島 正人 (2018年 12月)

No. 463

構造改革の一環としての口座維持手数料導入の可能性 岡 宏 (2018年 10月)

No. 462

ネットは社会を分断するのか

-パネルデータからの考察-

浜 屋 敏

田 中 辰 雄

(2018年 8月)

No. 461

デジタル社会に適応困難な貧困者の問題

―貧困者の ITリテラシー問題と世代別対策―

大平 剛史 (2018年 7月)

No. 460

価値創造のための企業価値評価のあり方

―ESG対応から戦略的活用へ―

生田 孝史 (2018年 6月)

No. 459

共生ケアの効果と新たな価値

―変化する自立支援の意味と介護サービス―

森田麻記子 (2018年 6月)

No. 458

地域社会に創発されるレジリエントな組織と知恵 上 田 遼 (2018年 5月)

No. 457

パリ協定離脱を決めた米国の排出削減の行方

―新たな原動力となるビジネス機会の追求―

加 藤 望 (2018年 5月)

No. 456

温室効果ガス削減 80%時代の再生可能エネルギーおよび系

統蓄電の役割:系統を考慮したエネルギー技術モデルでの

分析

濱 崎 博 (2018年 4月)

No. 455

IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か 金 堅 敏 (2018年 4月)

No. 454

地域密着型金融の課題とキャッシュフローレンディング

の可能性

岡 宏 (2018年 4月)

No. 453

サステナブルでレジリエントな企業経営と情報開示 生田 孝史

藤 本 健

(2018年 1月)

No. 452

シビックテックに関する研究

―ITで強化された市民と行政との関係性について―

榎並 利博 (2018年 1月)

No. 451

移住者呼び込みの方策

─自治体による人材の選抜─

米山 秀隆 (2018年 1月)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/

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URL http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/