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40 (232) DIABETES UPDATE Vol.6 No.4 2017 2型糖尿病の新規治療薬である sodium glucose co-transporter 2 (SGLT2)阻害薬が国内外で関心 を集めている。SGLT2阻害薬は, 腎近位尿細管におけるグルコース再 吸収を抑制し,尿中グルコース排出 を促進することでインスリン非依存 的に血糖改善効果を発揮する。ま た,その作用機序から体重への影響 を期待できる 1) 。特に,SGLT2阻害 薬であるエンパグリフロジンやカナグ リフロジンが,心血管疾患リスクの 高い2型糖尿病患者を対象とした心 血管安全性大規模臨床試験におい て,心血管疾患死・非致死性心筋 梗塞・非致死性脳卒中の複合エン ドポイントを有意に抑制したこと,腎 機能低下を抑制したことを受け 2) -4) 我が国でもSGLT2阻害薬の処方を 受ける患者数が増えている。しかし, はじめに SGLT2阻害薬の上市直後,不適切 な使用によって重篤な副作用(尿路・ 性器感染症や体液量減少症,脳・ 心血管疾患,低血糖症,皮膚症状 など)が散見されたことに今一度留意 する必要がある 5) 。特に,SGLT2阻 害薬に関連した糖尿病ケトアシドーシ ス(diabetes ketoacidosis;DKA) や,血糖値が比較的正常範囲に近 く発見が見逃されやすい正常血糖 DKA(euglycemic DKA;eDKA) は,頻度が少ないながらも進行する と死に至る場合もあると懸念されてい 6)7) 。SGLT2阻害薬の使用に関 連したeDKAの発症機序については いまだ十分に解明されたわけでない が,厳格な炭水化物制限との関連 も一部示唆されている。 本稿では, 2型糖尿病患者におけるSGLT2阻 害薬の安全性を炭水化物摂取の観 点から議論したい。 我が国では2014年4月以降,計 6種類のSGLT2阻害薬(イプラグリ フロジン,ダパグリフロジン,トホグリ フロジン,ルセオグリフロジン,カナグ リフロジン,エンパグリフロジン)が上 市されている。 国内外で実施された 臨床治験からSGLT2阻害薬に関す る一定の有効性や安全性が確認さ れたが 1) ,上市直後,尿路・性器感 染症や低血糖,脱水に伴う脳・心 血管疾患などの重篤な有害事象が 散見された 5) 。これを受け,2014年 6月には,「SGLT2阻 害 薬 の 適 正 使 用に関するRecommendation」 が「SGLT2阻害薬の適正使用に関 する委員会 」によって策定され,そ の後,2014年8月に一部改訂が加 えられた。また65歳以上の高齢者 SGLT2阻害薬に関連した 有害事象と適正使用に関する Recommendation SGLT2阻害薬に関連した eDKAと炭水化物摂取 関西電力医学研究所 糖尿病研究センター 1) 関西電力病院 糖尿病・代謝・内分泌センター 2) 矢部 大介 1) 原口 卓也 1)2) 清野 裕 1)2) Daisuke Yabe Takuya Haraguchi Yutaka Seino SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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40 (232)  DIABETES UPDATE Vol.6 No.4 2017

 2型糖尿病の新規治療薬である

sodium glucose co-transporter 2

(SGLT2)阻害薬が国内外で関心

を集めている。SGLT2阻害薬は,

腎近位尿細管におけるグルコース再

吸収を抑制し,尿中グルコース排出

を促進することでインスリン非依存

的に血糖改善効果を発揮する。ま

た,その作用機序から体重への影響

を期待できる1)。特に,SGLT2阻害

薬であるエンパグリフロジンやカナグ

リフロジンが,心血管疾患リスクの

高い2型糖尿病患者を対象とした心

血管安全性大規模臨床試験におい

て,心血管疾患死・非致死性心筋

梗塞・非致死性脳卒中の複合エン

ドポイントを有意に抑制したこと,腎

機能低下を抑制したことを受け2)-4),

我が国でもSGLT2阻害薬の処方を

受ける患者数が増えている。しかし,

はじめに SGLT2阻害薬の上市直後,不適切

な使用によって重篤な副作用(尿路・

性器感染症や体液量減少症,脳・

心血管疾患,低血糖症,皮膚症状

など)が散見されたことに今一度留意

する必要がある5)。特に,SGLT2阻

害薬に関連した糖尿病ケトアシドーシ

ス(diabetes ketoacidosis;DKA)

や,血糖値が比較的正常範囲に近

く発見が見逃されやすい正常血糖

DKA(euglycemic DKA;eDKA)

は,頻度が少ないながらも進行する

と死に至る場合もあると懸念されてい

る6)7)。SGLT2阻害薬の使用に関

連したeDKAの発症機序については

いまだ十分に解明されたわけでない

が,厳格な炭水化物制限との関連

も一部示唆されている。本稿では,

2型糖尿病患者におけるSGLT2阻

害薬の安全性を炭水化物摂取の観

点から議論したい。

 我が国では2014年4月以降,計

6種類のSGLT2阻害薬(イプラグリ

フロジン,ダパグリフロジン,トホグリ

フロジン,ルセオグリフロジン,カナグ

リフロジン,エンパグリフロジン)が上

市されている。国内外で実施された

臨床治験からSGLT2阻害薬に関す

る一定の有効性や安全性が確認さ

れたが1),上市直後,尿路・性器感

染症や低血糖,脱水に伴う脳・心

血管疾患などの重篤な有害事象が

散見された5)。これを受け,2014年

6月には,「SGLT2阻害薬の適正

使用に関するRecommendation」

が「SGLT2阻害薬の適正使用に関

する委員会」によって策定され,そ

の後,2014年8月に一部改訂が加

えられた。また65歳以上の高齢者

SGLT2阻害薬に関連した有害事象と適正使用に関するRecommendation

SGLT2阻害薬に関連したeDKAと炭水化物摂取

関西電力医学研究所 糖尿病研究センター1)

関西電力病院 糖尿病・代謝・内分泌センター2)

矢部 大介1)原口 卓也1)2) 清野 裕1)2)

Daisuke YabeTakuya Haraguchi Yutaka Seino

SAMPLECopyright(c) Medical Review Co.,Ltd.