2014年度イギリス文学特殊講義 James JoyceのDublinersを読む

James Joyce (1882-1941)

主要著作

Chamber Music (1907)

Dubliners （1914） A Portrait of the Artist as a Young Man (1916)

Exlies (1918)

Ulysses （1922） Finnegans Wake （1939）

Ireland

Dublin

James Joyceの生涯

1882年Dublin郊外のRathgarで誕生

John Stanislaus JoyceとMary Jane Joyceの長男

Joyce家は経済的に徐々に没落、引っ越しを繰り返す

1888年イエズス会の全寮制学校Clongowes Wood

Collegeに入学

1891年経済的な事情でClongowes Wood Collegeを退学

同年父が支持していた政治家Charles Stewart Parnell

がスキャンダルで失脚

Charles Stewart Parnell (1846-1891)

1893年貧困家庭の子弟を教育するChristian Brothers’

Schoolに一時通ったあと、イエズス会の学校Belvedere Collegeに入学

1898年Belvedere Collegeを卒業、カトリック系の大学University Collegeに入学

1902年医学の勉強のためにParisに留学

極貧生活を送った

1903年母危篤の電報を受け取り、帰国

同年8月に母は死去したが、JoyceはParisには戻らなかった

Nora Joyce (1884-1951)

1904年6月10日将来の妻Nora BarnacleとDublinの路上で出会った

8月から12月にかけてDublinersの収められることになる短編を雑誌に発表した

10月18日Noraとともにアイルランドを去り、ヨーロッパに向かった

手違いによりZurichで職が見つからず、イタリア領だったPolaで英語教師の職に就いた

Trieste and Pula (Pola)

1905年Triesteに移りBerlitzの英語教師となった

長男Giorgio誕生

1906年銀行員の職を得て、Romaに転居した

1907年銀行員をやめ、Triesteに戻り、ふたたび英語教師として働き始めた

長女Lucia Anna誕生

詩集Chamber Music出版

1907年9月20日、Dublinersの最後に収められることになる短編 ‘The Dead’ を完成させた

1910年と1912年一時的にアイルランドに帰国した

Trieste

1914年雑誌The EgoistにA Portrait of the Artist as a

Young Manを連載

同年6月15日Dublinersが出版された

Ulyssesの執筆を開始

1915年第一次世界大戦を避けるために中立国スイスのZurichに移住（Tristan ZaraやLeninも住んでいた） 1916年12月A Portrait of the Artist as a Young Manを出版

1917年眼の手術を受ける

1918年アメリカの雑誌Little ReviewにUlyssesの連載を始めた

戦後の1919年にいったんTriesteに戻るが、1920年にParisに移った

Zurich

1922年2月2日UlyssesがParisで出版された

猥褻裁判を経て、Ulyssesはアメリカで1934年に、イギリスで1936年に出版された

1923年Work in Progressと称される作品の断片を書き始める（1939年Finnegans Wakeという題で出版された） 1931年7月4日ロンドンでNoraと正式に結婚

同年12月29日父が死去

1940年Parisを離れ、ふたたびZurichに移った

1941年Zurichにて十二指腸潰瘍で死去

Fluntern Cemeteryに埋葬された

The grave of James Joyce

Dubliners (1914)について

190４年から1907年にかけて15の短編は執筆された

1905年から出版交渉が重ねられ、紆余曲折を経て1914年にようやく出版された

執筆の動機

構成と文体

epicleti あるいは epiphany という手法

当時のDublinについて

長期的な低落傾向

産業の不振

階級社会

短編小説に対する関心

需要の高まり

Henry Jamesなどによる理論化

Dublinersの独自性

‘The Sisters’ 1904年8月13日Stephen Daedalusという筆名でIrish

Homesteadに掲載

1906年に大幅な加筆修正を行う

一人称で語られる

成長した語り手が少年時代の体験を回想するという形式

A map of Dublin

加筆修正する段階で三つのキーワードが登場する

paralysis（麻痺） gnomon（平行四辺形からその一角を含むそれに相似な平行四辺形を取り去った残りの図形） simony（聖職売買）

短編集全体のテーマを暗示する

なぜ少年は神父の死に気づかなかったのか？

神父と少年の関係

少年の見る夢について

Elizaの言い間違え

Freeman's general generalは将軍という意味→兄に対する勝手な解釈をコントロールしたいという願望

rheumatic wheels pneumatic wheel（空気タイヤ）と言うべきところをrheumatic wheel（リュウマチのタイヤ）と言ってしまう→貧困街を訪れることに対する嫌気

結末の場面について

なぜ ‘The Sisters’ というタイトルなのか？

‘An Encounter’ 9番目に書かれた作品

1905年9月半ばに完成

出版されるまでに細かい修正が重ねられた

Joyce自身の実体験にもとづく

語り手はまたも匿名の少年

→ ‘The Sisters’の語り手との関係は？

The Pigeon House (electricity station)

日常的な規範からの離脱を求める主人公

主人公がいだく ‘spirit of unruliness’ (11)

‘doors of escape’ (11) としての読書

‘chronicles of disorder’ (12) に刺激され ‘real adventures’

(12) を求める

The summer holidays were near at hand when I made up

my mind to break out of the weariness of school-life for

one day at least. (12)

Dillon兄弟が物語内ではたす役割

荒々しいインディアン遊びの意味

Joe Dillonの転身→聖職者への道を進む

Leo Dillonの裏切り

主人公が冒険小説よりも探偵小説を好むことの意味

執拗なまでの観察

見ているだけで観察をしていない？

奇妙な男との出会い

→主人公の観察力の限界が明らかになる

raspberry lemonade

主人公が土手で出会う奇妙な男の倒錯

主人公が規範的な世界の外部に求めたもの

→主人公は恐怖を感じ、冒険は挫折する

主人公の冒険はそもそも規範にしばられていた

綿密な計画

学校で学んだ地理の知識の応用

学校のレヴェルへのこだわり

主人公が考える偽名の意味

アイルランド的なMurphyとイギリス的なSmith

主人公のMahonyに対する優越感を示す

結末の意味

主人公とMahonyの立場の逆転

主人公の自己欺瞞が最後に明らかになる

奇妙な男 と ‘The Sisters’ のFather Flynn

主人公が将来そうなるかもしれない人物として登場

同一化できない存在

→主人公のアイデンティティの不安

アイルランドの子どもがインディアンを演じる皮肉

本から空想をはぐくむ主人公の性質

次の物語 ‘Araby’ につながる

‘Araby’

11番目に書かれた作品

1905年9月に完成

ArabyはArabの詩的な（poetic）な表現

Araby Bazaar

1894年5月実際にダブリンでがダブリンで開催された

Grand Oriental Feteと宣伝された

病院への資金援助を目的としたチャリティ・バザーだった

主人公が住んでいるNorth Richmond Streetについて

通りが ‘blind’ であることの意味

①主人公の「盲目」状態を表す

②主人公の閉塞感を象徴する

主人公兼語り手の少年は叔父夫妻と暮らしている→ ‘The

Sisters’の少年と同一であるとみなせる根拠

かつて司祭が暮らしていた家に住んでいる

裏庭の象徴性→エデンの園？

司祭が死去していることの意味は？

Manganの姉の理想化

語り手は読書を趣味とするロマンティックな少年として設定されている

Manganの姉は騎士道的かつ宗教的な愛の対象→騎士道精神とキリスト教の結合とその欺瞞性を示す（みずからの欲望の理想化、現実における女性の抑圧の隠蔽） 学校の先生からの注意（‘I was not beginning to idle’ ）→idle

はidolを思い起こさせる

男性の視点による女性の偶像視（idolization）→本質化（essentialization） 女性の本質化とは女性を聖母（Madonna）か売春婦（Whore）の両極端としてとらえる思考法

男性の欲望の対象としての女性の理想化→男性によるみずからの欲望の理想化

Manganの姉が名前をあたえられていないことの意味

① 理想化（本質化）された女性→語り手のアイデンティティを支える

② 名づけえぬ不気味な存在→語り手が作りあげた理想像から逸脱し、語り手のアイデンティティを動揺させる

バザーについて

Arabyというバザーの名前について

‘I'll Sing Thee Song of Araby’ という当時の流行歌からバザーの名前はとられた

東洋という他者の神秘化を内容とする歌

女性と東洋との結びつき

西洋の東洋に対する憧れと男性の女性に対する憧れは構造的に類似する

他者のイメージを作りあげることがアイデンティティの確立をもたらす

Arabyという言葉の東洋的な響きとManganの姉の理想化されたイメージが結びつく

Araby Bazaarはプロテスタント系のバザー

アイルランドの状況を象徴的に表す

バザー会場にいる男性客のイギリス風アクセントと彼らの相手をするアイルランド女性

→プロテスタント教徒によるカトリック教徒の経済的な搾取を象徴的に示す

ArabyにはArab horse の意味も含まれる（Cheng） 主人公の叔父は主人公がバザーに出かけるときCaroline

Norton (1808-77) の ‘The Arab's Farewell to His Steed’ を暗誦する

金のために馬を手放す男を描いた詩→バザーのsimony的な性質を暗示する

語り手の苦悩と憤怒

語り手はManganの姉と話をして以来、ほかの子どもたちとは遊ばない→みずからを大人とみなすようになった

バザーにも大人用の入り口を通って入る（Benstock 95） 周囲の人々は語り手をいまだに子ども扱いする

‘The Sisters’ や ‘An Encounter’ と同じく語り手が語ろうとしている物語は挫折する

主人公は最後にみずからの欺瞞に気づく

Manganの姉のことではなく自分自身の欲望の実現を考えていたことを知る

視線の相互性という問題

語り手の「苦悩と憤怒」 自己欺瞞に気づいたことへの反応としては過剰

両親の不在ゆえの孤独感、人間不信、冒険の頓挫、宗教に対する疑問、愛の挫折、騎士道的な理想に対する幻滅、自己不信などがすべて重なったから？

新しいアイデンティティの獲得？

自己演出の可能性もある？

‘Eveline’ 創作順序2番目

1904年9月10日にThe Irish Homesteadに発表された

その後加筆修正

タイトルは ‘little Eve’ という意味

Thomas Moore (1779-1852) の詩 ‘Eveleen’s Bower’ から取られた？

JoyceがNora Barnacleと大陸に旅立つ直前に書かれた

JoyceとNoraの関係とFrankとEvelineの関係との対応

EvelineのモデルはJoyceの妹Margaretと考えられている

Margaretは母の死後、家族の世話を引き受け、独身を貫き、最後はSisters of Mercyの修道女になってNew Zealandに移住した

FrankはEvelineをPoppensと呼ぶが、Margaret Joyceも類似した呼び名Poppieを持っていた

語りの手法について

一人称から三人称への転換

主人公が少年から19歳の少女へ変わる→女性の視点からの物語

内的独白（interior monologue）の使用

Dublinersの中の大きな転換点

Evelineの逃避願望

Evelineの置かれた過酷な状況が逃避願望を生む

植民地支配に加えて父権主義の犠牲者でもある

父親は何をしているのか？

Evelineはデパートの店員

父親と二人の幼い子どもたち（だれの？）の面倒を見ている

父親は酔っぱらいでときどき暴力をふるう

Evelineの部屋に飾ってある司祭の写真と福者となった修道女the Blessed Margaret Mary Alacoqueの絵は何を意味するのか？

司祭はMelbourneに移住、修道女は奇跡によって麻痺状態から回復した

↓

救いは移住か奇跡によってしか実現されない？

どんなに掃除をしても部屋の中にたまるほこり

→与えられた役割を演じることが彼女の内部に生みだす不満

母親はdustになってしまっている（Garry Leonard） dustがたまる＝母親の言葉の絶えざる回帰とそれがEvelineにおよぼす束縛

死ぬ間際の母親の懇願と最後の妄言

母親はEvelineに家族の世話を頼むが、母親自身は家族の犠牲になって狂気に陥った

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Evelineに相反する欲望をあたえる

Frankという存在の曖昧性

典型的な女たらし（bounder）（Hugh Kenner） 船員に対するネガティヴなイメージ

名前の疑わしさ→Frankはfrankではない

Frankのようにアルゼンチンに渡ってある程度成功を収めたアイルランド人がいたことも事実である

peaked cap

Frankについての描写が少なく、読者は彼がどういう人物であるか判断できない

EvelineもFrankについて確実な情報を持っているわけではない→彼の語る言葉しか頼るものはない

Frankは外から来た存在であるがゆえにEvelineにとって魅力的に見える

外部の未知の世界はまた恐怖の対象でもある

Evelineの断念

Evelineの想像力は感傷的かつ空想的→異国や他者は非現実的なイメージとしてしか存在しない

彼女は愛ゆえに盲目になっているとは言えない

Frankへの愛よりも、現在の状況を抜け出し、新しい自己を見いだすことを中心に考えている

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愛は二次的な意味しかない

North Wall Quay

Evelineが埠頭に立ったとき外の世界が空想から現実へと変化する→幻想の現実化に対するEvelineの逡巡

母親と同じ道を歩むことを拒絶しようとしながら最終的には同じ道を歩む運命になる可能性を引き受ける

港から家に戻ったEvelineを待ち受けているのは独身生活、家族の世話、狭い世界での単調な人生→たとえば ‘Clay’ のMariaのような人生

Evelineと読者の立場の類似性（Norris） 不確かな情報や根拠にもとづいて推論を下さなければならない

読者はEvelineのdilemma（移住するか否かの決断のむずかしさ）にみずからも身を置くことになる

移住に対してEvelineが感じるはげしい恐怖や不安

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実際に旅だった人々の勇気の大きさを示す

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Noraの勇気を称える物語としても、また彼女の躊躇を免罪する物語としても読める