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ドクターズアテンション懇話会 (P2~P4) コーディネーター 奈良県立医科大学 理事長・学長 吉岡 章 奈良県医療政策部 部長 高城 亮 奈良県大淀町 町長 (南和広域医療組合 副管理者) 岡下 守正 奈良県立医科大学 地域医療学講座 教授 松村 雅彦 奈良県立五條病院 院長 (南和広域医療組合 副管理者) 松本 昌美 撮影/加茂 千明(中野写真事務所) “南和の医療は南和で守る” 奈良県、南和医療圏における課題とその解決策 2013 8 ドクターズアテンション 検索 ドクターズアテンションが ネットで読めます。

2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

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ドクターズアテンション懇話会

(P2~P4)

コーディネーター奈良県立医科大学理事長・学長

吉岡 章

奈良県医療政策部部長

高城 亮

奈良県大淀町 町長(南和広域医療組合

副管理者)

岡下 守正

奈良県立医科大学地域医療学講座

教授

松村 雅彦

奈良県立五條病院 院長(南和広域医療組合

副管理者)

松本 昌美

撮影/加茂 千明(中野写真事務所)

“南和の医療は南和で守る”奈良県、南和医療圏における課題とその解決策

20138 ドクターズアテンション 検索 ドクターズアテンションが ネットで読めます。

Page 2: 2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

ドクターズアテンション懇話会

 

南和医療圏では、公立3病院

(県立五條病院、大淀町立大淀病

院、吉野町国民健康保険吉野病

院)の医療機能が低下している現

状から、1病院を救急病院とし

て新築し、他2院は地域医療セン

ターとして再構築するという目

標を掲げ、奈良県、および五條

市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝

村、天川村、野迫川村、十津川村、

下北山村、上北山村、川上村、東

吉野村の13地方公共団体が、南

和広域医療組合を設立して、新

医療体制の構築を進めています。

またそのためには、高度医療拠点

病院である奈良県立医科大学と

の連携も欠かすことはできませ

ん。南和医療圏の医療を建て直

すために尽力されている方々に

お集まりいただき、お話を伺いま

した。

― 吉岡学長、よろしくお願いい

たします。

吉岡 

初めに、奈良県南和地域にお

(順不同)

奈良県医療政策部

部長

奈良県大淀町

町長

(南和広域医療組合

副管理者)

奈良県立医科大学

地域医療学講座

教授

奈良県立五條病院

院長

(南和広域医療組合

副管理者)

コーディネーター 

奈良県立医科大学

理事長・学長

高城 

岡下 

守正

松村 

雅彦

松本 

昌美

吉岡 

ける医療の課題という辺りから進め

ていきたいと思いますが、まず奈良

県側から見た南和医療の課題、そし

て実際に南和におられる大淀町長や

県立五條病院長から見た南和医療

の現状からお話しいただきたいと思

います。

高城 

皆さんよくご承知だと思いま

すが、南和の医療圏では人口の減少

がどんどん進んでいる一方で、高齢

化が進んでおり現在24%になりま

す。そのような状況下で、地域の住民

が南和の医療圏の中で入院できる体

制は4割程度です。さらには医師は

約25%減少、看護師は約10%減少、

今まで南和地域の、主だった公立病

院が行ってきた救急搬送の件数が約

20%減っています。医療機関として

収益が約25%減少し、運営が厳しく

なってきている現実があり、今のまま

南和の医療提供体制を維持していく

のはなかなか厳しいのではないかと

いう話も出てきました。そこで、行政

と医大と地元自治体と関係医療機

関の先生方との話し合いを重ねなが

ら、南和医療圏の県立五條病院、国

保吉野病院、町立大淀病院の3病院

を再編して、1つの救急病院と2つの

一般療養型の医療施設に再編してい

く取組を進めているところです。

吉岡 

奈良県は高齢化の速度が非

常に早く、全国でも2位か3位です。

対応できる医療・福祉を構築してい

かなくてはなりません。南和の医療

行政の課題はどのようなところにあ

るのでしょう。

岡下 

私が町長になろうと思った

一番の動機が、町立大淀病院を含む

「南和の医療の立て直し」でした。昭

和30年にできた大淀町立大淀病院

は、昭和62、3年から平成2、3

年にかけてが最盛期で、今は約30

年が経ち建物も老朽化していま

す。また町は高齢化率も進み、大淀

町は奈良県と同じ24%、人口の減

少も大きな問題です。町立の病院で

すが、周りの下市町、黒滝村、天川

村も含めた近隣の中核の病院です

ので、人口の減少から患者さんが減

り赤字が続いていましたが、何とか

単独で建て変えようと考えていた

そうです。しかし荒井奈良県知事

が「3つの病院を1つにして新しい

病院を」と提案、同じ頃に国の

2100億円の地域医療再編計画

が出され、再編成するところには補

助金が出るということでしたし、知

事も特に奈良県南部を元気にしな

くてはいけないと考えておられた

ので、話はまとまり、2次医療を行

う救急病院と療養型の2施設とい

う案で始まりました。同じころ前

大淀町長が病気で退任されたの

で、私の使命だと思い町長にならせ

ていただきました。本来平成26年に

は新病院が完成する予定でした

が、大震災が起きたので予定が変

わりました。しかし知事や前の医

療政策部部長と共に東京にも行

き、やっと最近実施設計の段階に

入ってきました。遅れてはいます

が、高城部長がおっしゃったように

救急搬送が受けてもらえない状況

が一番の問題でした。大淀に新病院

は出来ますが、大淀病院は廃院に

なります。新病院は県と1市3町

8村が広域医療組合として運営す

る南和の救急病院です。しかし2次

救急なので、大淀町にとっては1次

救急をどうするかが一番の課題と

考えています。

吉岡 

岡下町長は歯科医師で、私た

ちと同じ医療人です。そして義理の

お父さんは、長い間南和の地方行政

の責任者の一人として頑張ってこら

れた3代前の大淀町長、故喜多猛さ

んです。

 

さて、これからの話はできるだけ

「南和」というくくりでしていきたい

のですが、問題点、課題と同時に期待

が高まっていますが、県立五條病院

の院長をされていて、南和広域医療

組合の副管理者を務めておられる松

本先生は、南和地域についてどうお

考えでしょうか。

 

高齢化が進んだ地域に

 

発生する医療の問題点

松本 

病院側から南和の医療をみ

ますと、高齢化が特に進んでいる地

域ですから、基礎疾患を抱えた高齢

者が多く、そのためその合併症対策

が必要です。特に高齢化に伴い、ま

た、急性の合併症として発生する脳

卒中、心不全、肺炎、骨折などのいわ

ゆる救急疾患です。しかし南和地域

の公立病院ではそういった高齢者を

半分程度しか受け入れることが出来

なくなっているのが現状です。主な原

因は医師不足ですが、新臨床研修医

制度などによる医師の大学への引き

上げや、偏在があり、五條病院でも、

元々34人いた医師が現在は20人で

す。医師は日常診療、入院診療に忙

殺され、救急受け入れは非常に難し

くなっています。断るというより、受

け入れたくても受け入れられないの

です。このように南和地域の病院では

高齢者の急性期疾患に十分対応で

きていない点がまず問題です。

 

また、高齢者の基礎疾患では、が

ん、糖尿病、運動器疾患など専門性が

求められる疾患が非常に多く、その

対応も重要になってきます。消化器、

肺などのがんになって、高齢だからも

ういいだろうというわけにはいきませ

ん。普段は皆さんお元気ですから、き

ちんと診断して治療する標準的な医

療が必要で、元気に長生きしていただ

きたいのです。

 

このように今後の新体制では、内

科系、外科系を問わず救急搬送を

しっかり受け入れられる体制を構築

し、専門性が求められる疾患につい

てもマネジメントできるようにした

いと思っています。

 

次に、入院された患者さんのほと

んどは元気に自宅に帰ることを望ん

でおられます。そのためにも急性期

から亜急性期にかけてリハビリが必

要です。特に高齢者では骨折、肺炎、

心不全などでADLが低下します

から、救急病院でも回復期リハが必

要となります。

 

また、がんなど医療ニーズの高い

患者さんは、看取りも含めて在宅医

療を望んでいる方が結構おられます

が、地域の在宅医や訪問看護、介護、

福祉の受け入れ体制の整備が十分で

はなく、自宅に帰ることができませ

ん。新体制では、訪問診療を含めて

在宅医療支援として地域の医療・介

護関係者としっかりと協力して地域

密着型医療を目指していきたいと考

えています。

 

さらに、慢性期で家や施設に帰れ

ない患者さんには療養型病床が必要

ですが、南和地域には少なく、医療圏

外の病院に転院せざるを得ないのが

現状です。高城部長がおっしゃったよ

吉岡 章

ドクターズアテンション懇話会

南和の医療は南和で守る”

南和の医療は南和で守る”

南和医療圏では、公立3病院

ける医療の課題という辺りから進め

常に早く、全国でも2位か3位です。

で、私の

奈良県、南和医療圏における課題と

奈良県、南和医療圏における課題と

その解決策

その解決策

奈良県、南和医療圏における課題と

その解決策

奈良県

南和

平成25年8月1日 (2)

Page 3: 2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

うに、急性期と慢性期を合わせて4

割しかこの地域内では入院できてい

ないのです。今後新体制で機能分担

して慢性期にも対応することで、南

和の医療は南和で守ることに繋がる

と思います。

吉岡 

おおよその課題、方向性につ

いてご説明いただきました。南和の

医療、特に病院医療、急性期から亜

急性期、慢性期まで、さらに在宅の問

題点もありましたが、これは南和だ

けの問題ではありません。すべてが

同時に解決すれば素晴らしいことで

すが、一つ一つの問題がなかなか大変

です。個々に少し解析しながらどう

していったらいいのでしょうか。

 

南和では広域医療組合を作り

 

新病院を中心にした医療体制を

高城 

望ましい体制はどうあるべき

かという検討を行い、南和の医療提供

体制を周辺地域全体で支えるという

思想が出てきました。こうしたことか

ら、組織体制を明確化するべく、南和

では県と1市3町8村の南和広域医

療組合を作ることとしました。この中

で、どういう医療体制にするか検討

を重ねてきており、南和の医療再生の

重点ポイントとして、救急医療の強

化、療養型入院医療の充実、生活習慣

病対策、在宅医療の強化、災害対策医

療の強化が挙げられているのです。

岡下 

南和の新病院は組織的に画

期的なものです。一番最初に大淀病

院の建て替えの話から始まり、3つの

病院を同時に再編成しようという話

になり、それであれば1市2町で新

病院を作ればよいということになり

そうですが、下市町、黒滝村、天川

村、野迫川村、十津川村、下北山村、

上北山村、川上村、東吉野村には病

院がありません。それにもかかわら

ず広域医療組合に参加してコスト面

で負担しましょうと一致してくれた

ことが画期的です。今まで病院を

持っていなかったところが、一部事務

組合に入って一緒にやろうというの

は全国で初めての試みです。知事の

熱意も非常に大きかったと思いま

す。知事が管理者として指導力を発

揮して引っ張ってくれたからこそで

きたことだと思います。

高城 

複数の自治体が呼びかけに

対して皆が同じ方向に乗ってくると

いうのは、なかなか無いことです。医

療の問題はそれだけ重要な共通した

課題であったということも言えるか

もしれません。

 へき地医療における

 

総合医の役割

松本 

へき地医療ということで言え

ば、南和地域を中心に山間部では公

立のへき地診療所があり、従来から

自治医大の卒業生が県立奈良病院

で初期研修した後、県立五條病院で

1年間研修して、卒後4年目から診

療所の所長として赴任してきまし

た。へき地の方々にとっては、診療所

に来てくれる先生の存在から、五條

病院や奈良医大などから医師派遣

をしてもらい、医療を守っていただい

ていると十分に感じておられたと思

います。しかし診療所で日常診療を

うけていても、急病で入院となって、

へき地医療拠点病院である五條病院

で受け入れられなければ、辛いこと

です。今回救急病院が一つにまとまっ

て入院診療が確保されることになれ

ば、費用面の負担もご理解いただけ

ると思っています。

高城 

へき地の診療所の話が出まし

たが、これからはへき地で総合的に何

でも診れる総合医への適性が重要に

なってきますね。

吉岡 

総合内科医については松本先

生が構想をお持ちだと思います。一

方松村先生からは総合内科医や総

合診療医といったことが出てくるの

ではないかと思います。先生ご自身

が総合診療部に長い間おられまし

た。

 

松本先生が新病院に対して考えて

おられることは、ある意味盛りだく

さんだと思うのですが、松村先生が

奈良県の地域医療連携について検討

されてきた中で、また、3病院のこと

も見ておられて、新病院ではすべて

が必要だと思われるのでしょうか。

松村 

松本院長のお話は実は南和

地域に限ったことではありません。地

域医療学講座では奈良県の最適な

医療体制を考えるというのが一番の

命題ですが、では南和地域ではどの

ような医療体制が良いのかと考えた

時に、先ほど大淀町長が言われたよ

うにいろいろなところが集まって出

来た医療組合の体制が活かされる医

療態勢に持っていくことが大事で

しょう。今まで各病院に医師が居て

看護師が居るという体系であったの

を、流動的にできる医療体系が南和

で可能になってくるのではないかと

思っています。これも画期的なことで

す。松本院長が役割分担そして連携

が今後の医療には重要であると言っ

ておられますので、そういった中で、

1カ所に勤務しているのではなくて、

ローテートしていくような、あるいは

研修という形で出ていくというよう

なことで、総合診療医や、総合内科

医を育てる非常に良い母体になる医

療機関になると思います。魅力ある

研修ができるような体制作りができ

るのではないかと思います。あとは、

南和の人口過疎、高齢者の増加、そし

て山間部という地域特性と住民の特

性、生活の特性がありますから、必

要な医療はそれによって決まってき

ます。都会で必要な医療と南和の山

間部で必要な医療は異なります。さ

らに現状を把握していく必要がある

でしょう。その中での体制作りという

ことになると思います。

吉岡 

今までは良く似たような機

能を持つ3つの病院が行政も異な

り、医師派遣母体(診療科)も異なる

中で連携を取ってきたわけですが、

今後は急性期を中心とする1つの新

病院に人材がプールされるようにな

れば、そこから流動的に医師、看護

師、他の医療専門職が行ったり来た

りできます。そういう形であれば、奈

良医大や奈良医大の関連病院から

も人が動きやすくなるでしょう。

高城 

松村先生には地域医療学講

座を通じて、奈良県全体の医師の需

要と供給をチェックしていただいてい

ます。さらに、地域で医師がやりがい

を持って医療を継続していけるため

にキャリアパスなどプラスαが必要

であろうと考えています。また、今後

南和に救急病院を1つ作り、療養型

は2つに再編してやっていくという

施設整備だけでいいのかというとそ

うではなく、医師をしっかりと確保

していく必要があります。総合医を

はじめとした医師をどう確保してい

くのか。県としては、「県費の奨学金

制度」、一定の診療科、産科、小児科、

麻酔科、救急、総合診療、へき地診療

等に進む人に学費を援助し、実際に

特定の診療科に規定年従事した時に

は奨学金の返還の必要がない制度、

を作りました。さらに、しっかりとや

りがいを持って残ってもらうためには

診療科に応じたキャリアパスが必要

ではないかという発想から、地域医

療学講座の松村先生に作っていただ

きました。細かいところは地域の状

況に合わせて調整していく必要があ

ると思っています。

吉岡 

奈良医大の学生はいろいろな

形で入学してきます。奈良県の出身

者や、奈良県の高等学校に在籍して

いた学生が受験する制度が地域枠で

す。これは奨学金も出ませんし義務

もありません。しかし実績から見て、

卒後もその80%近くは奈良県の医療

に貢献してくれています。これとは別

にどの都道府県の出身者でもよいの

ですが県費の奨学生となって、一定の

期間(通常は9年間)奈良県の公的

医療機関で、一定の診療科に勤務す

るという契約の学生(緊急医師確保

枠)が毎年、13人ずつ入っています。そ

れ以外に近畿大学に2名います。さ

らに在学生や研修医の時に県費奨学

金(医師確保奨学資金)を受ければ

義務を果たしますという人が各学年

に4〜5人います。

松村 

すでに入学者としては奈良医

大、近畿大学を合わせて合計67名、

あとから奨学金をもらっている人が

38名います。

吉岡 

しかしその9年の義務をイヤ

だと言ってしまえば、そしてお金を

返せば、強制はできないということに

なります。それをいかに防ぐかという

ことを、県と医大は考えなくてはい

けません。そこで設定されたのが地

域医療学講座です。加えて、医大の教

育開発センターの協力を得て、学生

時代に奈良県民の医療はどういう状

況であるかということを肌で感じな

がら、医師になったら奈良県のため

に働くぞという気持ちになるように

教育しています。そこで強く刷込み

をしておく必要があると大学として

は考えています。幸いにして、医師確

保奨学資金枠はすでに8名の若手医

師が、松村先生の地域医療学講座に

籍を置いた形で、県や関連する診療

科教授や公的医療機関と連携して、

県立奈良病院を中心に配置していま

す。今のところは大枠でうまくいって

います。

松本 

受け入れ、教育する立場から

言いますと、元々五條病院が目指し

ていた総合医は、へき地診療所へ派

遣させるために何でもまず診れる医

師を養成しようというコンセプトで

した。ところが最近、医療の進歩に

伴って総合医の診療領域は、幅が広

く、また深くなっていますので、実際

に指導する側としてはそれぞれ専門

性の高い医師が必要になってきま

す。しかし現在の五條病院では指導

医が不足しています。新体制となっ

て医療機能が集約すれば、各分野の

松村 雅彦

岡下 守正

平成25年8月1日(3)

Page 4: 2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

専門医が集まりますから、南和地域

でも一定の指導体制は確保できると

思います。総合診療の教育の場とい

う点では、大学病院と地域の病院で

は対象患者や在宅、慢性期を含めた

診療内容の違いも大きいため、大学

のみで勉強していて、地域医療がで

きるかと言えば、そうではないと思

います。ですから、総合医養成のため

南和にも指導医が揃っておれば、さ

らに充実した教育体制になり、魅力

を感じてもらえるのではないかと

思っています。

 

総合医、総合診療のあり方

 

どう育てていくか

吉岡 

総合医の育成には、日本プラ

イマリ・ケア学会、日本家庭医療学

会、日本総合診療医学会という3つ

のルートがありました。しかし互いに

オーバーラップするので、統合されて

日本プライマリ・ケア連合学会になっ

たのです。その必要性は皆が思うとこ

ろでした。奈良医大でも10数年前に

血液内科専門の教授を中心に各内科

から集まっていただいて総合診療科

を開始しました。その時点では、真の

総合診療を専門とする医師はいな

かったわけですが、それぞれの専門を

持ちながら少しずつ勉強していけば

最終的には皆で総合医療を行えるの

ではないかという考えでした。一部は

成功しましたがトータルとしては成

功しませんでした。つまりどんどん若

手の総合医が育つという状況にはな

りませんでした。いろいろな訴えを持

つ患者さんが来院された時、臨床推

論を進める中で、真実に近い診断を

できるだけ少ない検査で、できるだけ

早い時期にきちんと立てられるとい

うのが、総合医であろうと思っていま

す。医大では、ここ数年で3名の指導

医の下に、4〜5人の総合診療医が

育っています。一方で国レベルで総合

診療医に関する議論があり、18の基

本診療科専門医に加えて総合診療専

門医を19番目の専門医にするという

ことが決まっています。また内科の中

に総合内科医を育てるという計画が

動いています。初期臨床研修2年プ

ラス3年の内科研修で内科専門医と

なるというものです。今までの内科専

門医は内科指導医に格上げとなりま

す。この総合内科医のプログラムは今

作りつつあるところです。

松本 

私のところでスタートした総

合内科は、あくまでも内科で総合的

に診れるということです。外科的な診

療は外科にサポートしていただいて

います。次の段階では外科診療も加

わって総合診療になれば理想的です

が、なかなか難しいかもしれません。

現時点では総合内科には指導医クラ

スが3人、レジデントが4人いますか

ら、救急搬送の受け入れ率が少し伸

びています。

吉岡 

総合診療と総合内科について

は奈良医大でもいろいろ考えていま

す。南和の新病院と奈良医大が一番最

初に連携すれば総合診療医を養成す

る非常に良いモデルとなれるのでは

ないかと思っています。

岡下 

新病院の概要は決まり、これ

からは中身の医療機器や医師・ス

タッフについて論議されていくのだと

思いますが、医師が行きたい病院と

はどんな病院でしょうか。器が良いだ

けではなく、やりがいのある病院でな

くてはいけません。私は長年、病院を

どうするかということばかりを考え

てきました。病院がいくら立派でも

医師次第です。患者さんは医師に付

いていくものです。

松本 

確かに医師は必要です。カリ

スマ的な専門医であったりすれば患

者さんも医師も集まります。しかし

病院で展開する医療は医師だけでは

やっぱりダメで、医師はある程度マネ

ジメントしますが、やはり看護師を

含めたメディカルスタッフがしっかり

協働するチーム医療をできることが

一番重要ではないかと思っています。

 

新病院ができても不安が残る

 

1次救急の確保

高城 

大淀町では医療部分に関して

は、行政と奈良医大と地域の現場の

先生方で頑張っていきたいというこ

とですが、医療以外の部分で町の活

性化というようなことは考えられて

いるのでしょうか。

岡下 

地域の活性化ということです

が、病院建設予定地が近鉄吉野線の

福神駅前になります。もともと近鉄

が開発した土地で、100m行くと

五條市になるような大淀町の端にな

る場所です。新病院ができるのは嬉

しいことですが、周りもにぎやかにな

るとは思います。しかし、大淀病院は

なくなるわけですし、1次救急をど

う確保するのか、地元の医師会との

関連もこれから考えていかなくては

なりません。これからの大淀町の課

題です。負担金も一番多いです。当町

だけが過疎債がもらえない地域で

す。いろいろ大変です。

松本 

1次救急は自治体が主体と

なるとおっしゃっていただけるのは、

非常にありがたいことです。新病院

は、地域医療支援病院として病診連

携しながら、救急医療、入院診療に

特化していきたいと考えています。外

来診療が忙しすぎて、2次救急や入

院が疎かになるのは一番避けたいこ

とです。

高城 

1次救急を確保していくと町

長がおっしゃいましたが、救急医療は

誰がどこまで責任を持って行うべき

なのか。行政的な視点からは、3次救

急の認定機関は県、1次救急は市町

村が行う整理となっていますが、市

町村単位で1次救急をコントロール

するのは難しいことです。1次救急で

あっても、広域的に連携体制を確立

しているものに関しては、県としても

支援しています。その実例の1つとし

て橿原地区における夜間救急体制に

対する支援があります。南和でも1

次救急について広域的体制で実施し

ていこうという気運がでてくれば検

討していきたいと思います。非常に大

事なコンセプトです。

 “南和の医療は南和で守る”

岡下 “南和の医療は南和で守る”と

いうスローガンのもとに計画を進め

ていますが、県は最後まで見守ってい

ただきたいと思っています。大淀町に

できる県立病院くらいの気持ちでい

てほしいです。ランニングコストはこ

ちらで負担していかなくてはいけな

いと言われていますので、経営も考え

ていかなくてはなりません。患者さん

の「あの病院へ行ったらいい」という評

判が立つと、病院は伸びます。医師の

行きたい病院は患者さんも行きたい

病院です。もちろんチーム医療も大

事です。五條病院はメディカルスタッ

フが充実していますね。地域の住民

は新病院にとても期待しています。

 

地域医療、へき地医療、

 

総合診療を目指す学生の確保

松村 

大学では何ができるかという

ところがありますが、県費奨学生を

いかに活かすか、五條病院に既に1

人行っていますし、これからも毎年1

人はへき地に行ってもらえるように

していきたいと思っています。最近

は、総合診療医を目指す学生が増え

てきましたので、南和地域で活躍す

る医師も増えることが期待されま

す。

高城 

卒後3年目以降の人たちで、

地域医療学講座といったコースがあ

るのならやってみたいと思っているよ

うな人たちもいるようですが、なか

なか情報にたどり着けないと言われ

ます。情報発信が大事ではないかと

思います。また、地域枠の学生に対し

ても、もう少し学生に対して何か

あってもいいのではないですか?

松本 

奈良医大では、地域基盤型教

育の一環として、医学部の1年生か

ら地域医療の現場で実習させ、私た

ちも教育に関わっています。そんな中

で地域やへき地医療を目指したいと

いう学生もいます。一方で県費奨学

高城 亮

松本 昌美

南和地域公立新病院(仮) 大淀町福神地区に新設救急病院(急性期) 病気やケガで入院が必要になった患者さんに、専門的な治療を行います。

地域医療センター(療養期) 症状の比較的安定した患者さんに、必要な入院医療を提供します。●病床規模/2施設(五條、吉野)で各90床程度(療養病床)、合計180床程度 ●地域ニーズの高い療養のための入院機能 ●在宅への連携を見据えた高齢者医療 ●地域の身近な外来機能(内科・整形外科)

●病床規模/232床(一般病床188床、HCU8床、回復期リハビリ36床) ●診療科/内科(総合、循環器、呼吸器、消化器、糖尿病代謝、感染症)、神経内科、小児科、精神科(外来)、外科(消化器・総合)、脳神経外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科(分娩は当分休止)、歯科口腔外科、リハビリテーション科、麻酔科、放射線科、病理診断科 ●センター機能/消化器病センター、糖尿病センター、救急センター、リウマチ・運動器疾患センター、腎・尿路疾患センター、在宅医療支援センター、健診センター

生制度を知らなかったりすることも

あります。

高城 

奈良での就業に関心を持つ全

国の医師・医学生が、容易に辿り着け

る情報をホームページ等を通じて発

信していく必要がありますね。

―― 

ありがとうございました。

平成25年8月1日 (4)

Page 5: 2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

30

編集メモ

 

皆さんの協力のお陰で本紙編集は質の高い内容

を維持しています。新たにナースインタビュー掲載

を始めました。皆さん女傑で手ごわい相手です。

 

多くの病院長からの強い要請で今年5月号から

本紙全頁をホームページに掲載しています。(「ドク

ターズアテンション」で検索を)より多くの医療ス

タッフに。同時にこの機会に患者、一般の人々にも病

院の現状と展望を知っていただくことが大変重要

であると思います。STEPBYSTEPで流布

して行きます。本紙媒体としてのミッションです。

最近の取材の中での呟き。

※患者を患者さんと呼ぶのはごく自然ですが。

あえて患者さまと呼ぶのならば相手である側

をお医者さま、看護師さま、スタッフさまとよ

ぶことが患者の義務ではなかろうか。

※マス媒体、ITの進化で医療情報が多く提供

されています。それは良いことですが、氾濫す

ると(手段が目的になり)医療が絶対安心、安

全であると思い込むようになります。前提と

なる医療は不確実でリスクがあることを忘れ

てはいけません。あとは人間の治癒力です。

 

モンスターペイシェントさんに聞かせたいものです。

医療法人 

行岡医学研究会

行岡病院

理事長

〒530‒

0021

大阪市北区浮田2‒2‒3

電話 (06)6371‒9921

行岡 

正雄

医療法人 

千徳会

理事長

〒649‒

0304

和歌山県有田市箕島1265

電話 (0737)83‒

1000

成川 

守彦

暑中お見舞い申し上げます

〒540‒

0012

大阪市中央区谷町1‒

3‒

12

天満橋リーフビル4F

電話 (06)6946‒

3454

院 

前久保クリニック

前久保 

邦昭

社会医療法人 

ペガサス

馬場記念病院

理事長

〒592‒

8555

堺市西区浜寺船尾町東4‒

244

電話 (072)265‒

5558

馬場 

武彦

医療法人社団 

英明会

大西脳神経外科病院

理事長・院長

〒674‒

0064

明石市大久保町江井島1661番地1号

電話 (078)938‒

0867

 

大西 

英之

社会医療法人 

協和会

加納総合病院

理事長

〒531‒

0041

大阪市北区天神橋7‒

5‒

15

電話 (06)6351‒

5381

加納 

繁照

関西医科大学附属

滝井病院

病院長

〒570‒

0074

守口市文園町10‒

15

電話 (06)6992‒

1001

岩坂 

壽二

社会医療法人 

弘道会

守口生野記念病院

理事長

〒570‒

0002

守口市佐太中町6‒

17‒

33

電話 (06)6906‒

1100

生野 

弘道

理事長

〒535‒

0022

大阪市旭区新森4丁目13‒

17

電話 (06)6952‒

4771

 

木野 

社会医療法人 

真美会

中野こども病院

医療法人社団 

慈恵会

新須磨病院

院 

〒654‒

0047

神戸市須磨区磯馴町4丁目1‒

電話 (078)735‒

0001

澤田 

勝寛

医療法人 

協和会

会 

〒666‒

0016

川西市中央町16‒

5

電話 (0727)58‒

7223

木曽 

賢造

社会医療法人 

きつこう会

理事長

〒550‒

0025

大阪市西区九条南1丁目12番21号

電話 (06)6581‒

1071

小川 

嘉誉

医療法人

三幸会

理事長

〒606‒

0017

京都市左京区岩倉上蔵町158

電話 (075)721‒

1551

城守 

国斗

社会医療法人 

信愛会

畷生会脳神経外科病院

理事長

〒575‒

8511

四條畷市中野本町28‒

電話 (072)877‒

6639(代)

𠮷川 

幸弘

医療法人 

清水会

京都伏見しみず病院

理事長

〒612‒

8321

京都市伏見区越前町609

電話 (075)611‒

2256

清水 

鴻一郎

朗源会 

ウェルフェアグループ

大隈病院・おおくまセントラル病院

理事長

〒660‒

0814

尼崎市杭瀬本町2丁目17‒

13

電話 (06)6481‒

1667

大隈 

義彦

医療法人 

仙養会

北摂総合病院

院 

〒569‒

8585

高槻市北柳川町6‒

24

電話 (072)696‒

2121

木野 

昌也

医療法人 

回生会 

宝塚病院

理事長

〒665‒

0022

宝塚市野上2丁目1

電話 (0797)71‒

8583

馬殿 

芳郎

社会医療法人

岡本病院(財団)

理事長

第一岡本病院

 

京都府京都市伏見区京町九丁目50番地

 

TEL  

075(611)1114

第二岡本総合病院

 

京都府宇治市神明石塚54番地の14

 

TEL  

0774(44)4511

岡本 

豊洋

http://www.okamoto-hp.or.jp

(順不同)

虎宝庵

一般財団法人 

仁風会

嵯峨野病院・京都南西病院

理事長

清水 

嵯峨野病院  

京都市右京区鳴滝宇多野谷9番地

       

TEL  

075(464)0321

京都南西病院 京都市伏見区久我東町8番地の22

       

TEL  

075(922)0321

武田病院グループ

会 

〒600‒

8558

京都市下京区塩小路通西洞院東入

東塩小路町841‒

電話 (075)361‒

1351

武田 

隆男

Children who getgood sleep will grow and develop well.

暑中お見舞い申し上げます

夕暮れや

満身浴びて

蝉しぐれ

縁側で

お目目キラキラ

孫花火子

平成25年8月1日(5)

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平成25年8月1日 (6)

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昭和49年4月に、19床の譜久山

外科として西明石に開院して以

来、39年にわたり地域の医療を支

えてきた譜久山病院。平成9年に

当時の理事長院長である父上の

譜久山當悦先生が脳出血で倒れ、

現院長の譜久山先生は、平成13年

に大学院から譜久山病院に戻って

こられました。約10余年、地域と

共に医療に取り組んでこられた譜

久山剛院長にお話を伺いました。

― 地域社会における譜久山

病院のあり方、現状と将来などに

ついてお話しいただけますか。

譜久山 

もともと私の父は奈良県

立医科大学大学院で学位取得ま

で、母方の祖父が院長をしていた神

戸市灘区の西病院で副院長をして

おりました。その後、独立して昭和

49年に譜久山外科を開業しまし

た。私が27歳で済生会中津病院に

いた時に、父が脳出血で倒れまし

た。医局の先生方が病院を支えて

くれていたのですが、運営・経営上

の決断やトラブルシューティングは

お願い出来ないため、父が倒れた直

後から院長の代行を務めてきまし

た。実際に院長職に就いたのは平成

16年になってから、開業30周年、私

が34歳の時でした。来年は40周年、

ドクターズアテンションインタビュー

医療から在宅ケアまでを

地域全体で取り組む地域完結型医療

医療法人社団

医仁会 

譜久山病院(明石市)

院長 

譜久山 

やま

院長になって10年になります。

― 病棟区分はどのように

なっていますか。

譜久山 

3分の2が急性期病棟で

すが、3分の1が平成30年度に

廃止が決まっている介護療養病棟

です。今後どうするのか決めていか

なくてはなりません。 

 

病院の建物は40年経っています

ので、そろそろ建て替えも検討し

なくてはならず、現在は土地を探

している段階です。

 

緩和ケアを基幹病院だけでは

 

なく、病病診連携で受ける

 

明石には、明石市民病院、兵庫

県立がんセンター、明石医療セン

ターがありますが、この基幹病院

と同じことをしようとしても仕方

がありません。

 

基幹病院としては手が回らない

領域の医療を、私たちが行なってい

く方がいいだろうと考えました。

元々、済生会中津病院の頃から興

味を持っていた緩和ケアの患者さ

んを受け入れることにしました。

また、緩和ケアの前段階の化学療

法についても、基幹病院で対応しき

れない患者さんを受けています。そ

のために、検査内容やメニューを共

有する「がんのクリティカルパス」の

作成、運用にも明石市医師会理事

として協力致しました。基幹病院

ではギリギリまで患者さんを抱

え、結果的には見放したような形

になりがちです。例えば月1回は

がんセンター、月3回は譜久山病

院で治療を行っていけば、がんセン

ターでの積極的な治療が終わって、

転院して緩和ケアを受けることに

なっても患者さんにとってそれほど

見放された感が少なくて済むので

はないでしょうか。

 

リハビリの連携等は全国あちこ

ちで行われていますが、緩和ケアの

連携はまだあまりありません。明石

市内の緩和ケアを行っている病院5

つと兵庫県立がんセンターとで緩

和ケアの基本的な知識を共有する

ための「明石病病診連携緩和勉強

会」を年に3、4回のペースで8年

前から行ってきました。患者さんを

紹介する時も、お互いに先生を知っ

ているのでスムーズに行えます。

 

在宅医療を進めるために

 

必要な開業医との連携

 

しかし、その患者さんを在宅に

戻す時になりますと、私たち中小

病院では在宅医療があまりうまく

できていません。基幹病院から帰っ

てきた在宅患者さんが、外来に通え

ていられれば問題ないのですが、「外

来に通うのは辛いので往診してくだ

さい」と言われることがあります。

中小の病院では日中の手術や検査

が多く往診が出来ているところは

少ないのです。しかし開業医の先生

のかなりの方は往診をされています

から、こういった先生方とどう連絡

を取り合うのか検討致しました。

 

近隣の開業医の先生方を対象に

「西明石在宅医療研究会」を6年

前から年に3回くらい開催してい

ますが、テーマは、がん、緩和医療

だけではなく医療施策や高齢者の

院内肺炎対策や認知症など様々で

す。開業医の先生方も各々の事情

によって往診に行ける範囲も違い

ますから、直接会ってお話しすると

個々の医療機関の状況が良く分か

ります。看取りに関しても、大体の

状況を開業医の先生方から聞いて

いれば、終末期に入院してもらうこ

ともできますし、在宅で看取るこ

ともできます。その選択は患者さ

んとご家族が決めることです。

― 緩和ケア病棟は今後作っ

ていかれるのですか。

譜久山 

今のままの病院で緩和ケ

ア病棟を作ろうとするとかなり

ベッド数にも制約がありますし、

ハード自体が不完全なものになり

ます。新しい病院の建て替えの計画

に盛り込みたいと思います。緩和ケ

アに関して、近畿圏では兵庫県は

大阪に続く病床数がありますから

他府県に比べれば恵まれています

が、それでもまだ足りません。

 

当院でできることは、一般のかか

りつけ医で行っていることの延長で

す。私たちは外科出身なので手術は

しますが、がんを早く見つけて患者

さんのご希望をお聞きして基幹病

院に加療をお願いしています。そし

て、その患者さんが退院されてから

地域に戻るお手伝いをする事が私

たちに求められる役割と考えます。

 

地域に必要なのは、

 

昔の開業医にプラスαの医師

― 総合内科についてはどう

お考えですか。

譜久山 

細分化、専門化しすぎた

医療への反省から医療にはスペシャ

リストばかりではダメだという揺り

戻しの意見が出てきています。ジェ

ネラリストを養成していくというの

は、いい話だと思います。地域に必要

なのは、昔の開業医にプラスαした

ようなエビデンス、ナラティブのベー

スを併せもった医師と思います。細

分化された医療だけでは地域医療

は成り立たないと思っています。

 

話は変わりますが、医療のコス

トを下げる試みは、現場から行わ

なければいけないと思います。例え

ば投薬にしても開業医さんで出し

てもらっているのなら、クリニック

の先生にまとめて出してもらうよ

う、そして対処できない事態が起

こった時は当院でバックアップする

とお話ししています。重なって処方

しても時間や医療費の無駄です

し、健康被害にもなりかねません。

私の病院は、当院でこそ診れる方、

悪くなった時に来られる方を診て

いくべきと思います。

 

この明石地域の人口はそれほど

減らないそうですが、高齢化してい

くことは確実です。開業医の先生

方と一人の患者さんを取り合うよ

りも、仲良く連携する関係を作っ

ていく方がいいのではないかと思っ

ています。

 

日本の医療費も医療資源も限ら

れています。限られた財源をどれだ

け皆で分かち合っていけるのか考

えます。やらなくていい検査をする

ことはありませんし、出さなくても

済む薬を出す必要もありません。

減らせるものは減らすようにして

いかなくては日本の将来も医療の

未来もありません。

― ありがとうございました。

平成25年8月1日(7)

Page 8: 2013 ネットで読めます。doctors-attention.com/introduction/data/pdf/(改訂2...ドクターズアテンション懇話会 南和医療圏では、公立3病院 吉野村の下北山村、上北山村、川上村、東村、天川村、野迫川村、十津川村、市、吉野町、大淀町、下市町、黒滝標を掲げ、奈良県、および五條ターとして再構築するという目て新築し、他2院は地域医療セン状から、1病院を救急病院

 

今年で創立56年になる、医療、

介護、保健、福祉のトータルヘル

スケアをめざす愛仁会。現在は

千船病院、高槻病院、愛仁会リハ

ビリテーション病院、明石医療セ

ンター、医療法人蒼龍会、おかじ

ま病院など、介護老人保健施設

ユーアイ、ケーアイ、愛仁会看護

助産専門学校、杏和総合医学研

究所、社会福祉法人愛和会、社会

福祉法人豊中愛和会と、大阪市、

高槻市、豊中市、西宮市、宝塚市、

明石市の地域に広く発展し、職

員数は4千人を数えます。筒泉

理事長にお話を伺いました。

― 最近の動きについてお話し

いただけますか。

筒泉 

千船病院、高槻病院、高槻の

リハビリテーション病院が建ってから

約30年が経ちました。ちょうど建て

替えの時期に当っています。リハビリ

テーション病院が一昨年に移築、高槻

病院の工事が少し遅れていて、来年

に一番メインのところが建ちますが、

順々に建替えていって4、5年後に竣

工する予定です。千船病院は阪神電

車の福駅の近くに新築する予定で

す。環境庁の基準がきびしくなり、調

査に時間がかかっているので遅れてい

ます。 ド

クターズアテンションインタビュー

貢献・創意・協調をモットーに

総合的地域医療を積極的に展開

社会医療法人

愛仁会(大阪市)

理事長 

筒泉 

正春

 

来春からは厚労省による病床機能

の報告制度が始まります。しかし具

体的なカテゴリーや亜急性期病棟の

こと等、分類に関することがまだあ

ちこちで論議されている段階です。長

い目で見ると、今団塊の世代の65歳の

人は15年経つと80歳です。団塊の世

代の医療・介護・福祉のケアを考える

と非常に需要がありますが、それが

終わったあとのことも考えておかな

くてはいけません。この15年から20年

の間にしっかりトレーニングしておい

て、現在20歳30歳の職員が働き盛り

になるということも考えていかなけ

ればなりません。人口が減っている国

では、医療・介護・福祉が過当競争に

なるのは目に見えていますから、世界

を見渡して考えた時に日本の医療・

介護・福祉のノウハウやスキルを持っ

ている人材は世界で通用するので

しょうか。やはり医療をしていかなく

てはいけないと思っています。

― 安倍総理は医療機器など

最新式のものを輸出していこう

と言っていますが、人的な問題な

どがありますし、介護・福祉のシ

ステムの問題もありますね。

筒泉 

世界で通用するのかどうか

ということですね。放射線の治療器

具や消化器内視鏡などはかつては日

本のお家芸でしたが、今のわが国の

医療・介護は、世界から殺到して見

学に来るという状況ではありませ

ん。もうひと踏ん張りしなくてはい

けないと思うのです。相対的にアジア

の他の国の医学水準が急激に上がり

ました。私は昭和49年の卒業ですが、

卒業して10年から15年くらいまで

は、医学の国際学会と言えばアジア

では日本だけでした。しかし今や、ど

んどん中国などに圧倒されていま

す。メイドインジャパンの医療・福祉

が今のままで輸出することが出来る

のか、無理なような気がします。とは

いえ、国民皆保険制度で殆どの国民

が医療や介護を受けることができて

います。国民はあまり満足していない

ようですが、世界水準から見たら素

晴らしいものです。こういう体験をし

たというだけでも、他の国にはない貴

重なことです。この辺の経験から得ら

れた教訓を「輸出」するという発想が

なくてはいけないと思います。

 

中国やフィリピン、アメリカの看護

師さんなどが来られて交流していま

すが、一番感心されるのが、介護・福

祉の施設です。そこで行われているこ

とが、例えば高齢者の慢性透析など

が、これほどの規模で実現している国

は他にはありません。もちろん他の

国もそこまでするかどうか、その国

の判断です。世界がいまだかつて体験

していない分野で、先進的に体験し

たということが、一番のポイントだと

思います。

― アメリカの先進医療は、

フィリピンやタイなどで進んでい

るわけですね。

筒泉 

フィリピン大学では完全に英

語でアメリカ式の教育が行われてい

ます。看護師さんは卒業したら7割

くらいがアメリカに行きます。しかし

それに疑問を持つ人たちも出てきて

います。

 

日本で医療ツーリズムで成功して

いるところはあるのでしょうか?中

国からの健康診断を年間何百人と

受けているようなところはあるよう

ですが。

 

アメリカのJCI(国際医療施設

認定合同機構)=アメリカ水準の病

院機能評価、の認定病院は韓国、台

湾、中国、インドなどにはかなりあり

ますが、日本では聖路加国際病院や

相澤病院など数施設に過ぎません。

関西にはありません。アメリカの民

間保険を持っている患者さんが、受

診しに来ることができます。医療界

で、アメリカは薬や技術のイノベー

ションに関しては一番です。しかし国

民の医療費は非常に高く日本の2倍

くらい。今回TPPでどうなるかと

いうところです。こちらが弱いと席巻

されて、最終的には国民にしわ寄せ

が行きます。今の日本で肝心要の国

民があまり満足していない医療を続

けていくのも難しいですね。国民には

もっとご理解をいただいて真ん中く

らいに落ち着けばいいのかもしれま

せん。海外に住んでいる人も病気に

なると日本に帰ってきます。医療に株

式会社が参入するという話も目的が

違います。日本は医療に関しては国

民皆保険で社会主義国のようです。

いきなりアメリカのシステムが入って

きても慣れていません。最終的には

医療費が高くつくことになるので

しょう。国民が決断しなくてはなり

ません。団塊の後の世代がどうする

のか決めなくてはいけないでしょう。

― 介護・福祉の訪問看護な

どに、力を入れていらっしゃいま

すね。

筒泉 

愛仁会のスローガンはトータ

ルヘルスケアです。医療・介護・福祉

をトータルで行うということです。高

槻地区では急性期の高槻病院があ

り、回復期のリハビリテーション病院

があり、老人施設があり、在宅があ

り、豊中には障害の施設もあります。

進化の結果としてトータルに診てい

くことができるようになっています。

初めから計画していたわけではな

く、偶然も作用してこうなりました。

昭和30年代、ようやく高度成長が始

まるという時に作られた理念です。

医学・医療の発展と、現場に提供す

る時に軋轢が生じるので、患者さん

のために時代に応じて、合理的な方

法を探りながらやってきた結果です。

社会医療法人として4年目

公的な病院と同等の意識に

 

民間の医療法人ですから、存在感

を示さなくてはいけないと強く思っ

ています。社会医療法人発足と同時

に社会医療法人になり、4年目にな

ります。財務的には医療に関する課

税率が下がりましたが、万が一、解散

する時は、国または大阪府に財産を

全部渡すということになっています。

ですから今までは何となく民間と公

的病院の違いを感じていましたが、

それが無くなりました。公的のカテ

ゴリーに入ったという意識です。ス

タッフの意識改革にもなりました。も

ともとは、公的病院が十分に機能し

なくなり医療崩壊等が起きたという

反省の上に立ち、民間の医療法人の

活力と経営に対するシビアさを公的

病院と一致させようというアイデア

であったと思います。県立病院などの

地方公共団体の病院の受け皿になる

ようにという目的も明記されていま

す。医療法人として説明がしやすく

なりました。今まで民間医療法人は

営利を求めてはいけないと言われな

がら、課税に関しては営利企業並み

でした。今までの矛盾が社会医療法

人になったことで、少し解消されたよ

うに受け止めています。

― ありがとうございました。

平成25年8月1日 (8)