1
新ミクサの開発 既存ミクサの解析 野辺山45m電波望遠鏡搭載の100GHz4ビーム両偏波2SB受信機「FOREST」は、受信機雑音温度の測定の 結果、4-12GHzIF帯域のうち高周波数側で特性が大きく悪化することが確認された。(Fig.1) 原因箇所を検 証した結果、 SISミクサ付近の冷却IF系に原因があることが分かった。 我々はIF帯域4-12GHzにおいても低雑音が実現できる100GHzSISミクサの開発を行っている。新SISミクサ の開発では、ミクサブロック、プローブ、信号伝送回路などの、今まで考慮されてこなかった箇所も含めて大き く見直すことで、RF,IFの両帯域で安定した性能を実現する予定である。 Key Words : 電波, FOREST, SISミクサ, 広帯域化,インピーダンス整合 ミクサブロックの解析 100GHzSISミクサには3種類のミクサブロックが存在する。(Tabl.6) 現行 素子と修正素子のボウタイアンテナとチョークフィルタは同じなので、両素子 FeedPointから見たRF信号の入力インピーダンスは同じである。ミクサブ ロックのRF整合について3次元電磁界解析を行った。 Table.6 3種類のミクサブロック Abstract 新素子の目標 RF帯域80-120GHzIF帯域4-12GHzの低雑音なSISミクサの開発 設計方針 SIS安定領域でのインピーダンス整合 超伝導線路の性質の定量化と適当な解析モデルの確立 精度良く製作できるコプレーナ線路の多用 回路シュミレータによる設計を基本として、3次元電磁界解析 による物理長の最適化 RF整合 片側だけの新プローブの採用 新プローブに合わせて、現行マウントを最大限に活かせる マウントの再設計 インピーダンストランスフォーマと同調回路の分離 IF整合 SIS素子から直接にIF信号を取り出す専用線路の設置 RF 信号は遮断されIF信号は通過する平面フィルタの実装 後段の冷却IF系とのインピーダンス整合をとるIF基盤の設計 ミクサ素子の解析 現在用いられている100GHzSISミクサ素子には、以下に挙げる二つの設 計上の問題があることが判明した。 現行チョークフィルタの特性 現在のチョークフィルタについての解析結果から、RF帯とIF帯の両方で良 好な特性が得られる設計が困難であることが分かった。これはIF帯が広帯 域化によってRF帯に接近したために顕著になってきた問題である。 x1 x2 x3 Fig.2 MSL-CPW解析モデル 設計中のチョークフィルタ(x5)の特性 新フィルタの単位構造 設計中の新フィルタ コプレーナ線路とハンマー フィルタを利用して、RF信号と IF信号の分波の実現を目指す。 Beam1 Beam2 Beam3 Beam4 H,U H,L V,U V,L Fig.FORESTTrx測定結果 N N O O N N N N N N O O N N O O N : FOREST-new マウント O : FOREST-old マウント 伝送線路の不連続箇所での電気長伸長の効果が考慮されていなかった。 伝送線路長の設計値から物理長への変換が間違っていた。 Conclusion いずれのミクサブロックでもFeedPointのインピー ダンスは概ね70Ωになっている Type.1 > Type.2&3 > Type.4の順で特性が良い 現在用いられているType.4でもボウタイとチョーク を変更することで特性が改善する可能性がある Type.1 Type.2&3 Type.4 Freq [GHz] ZMSL [ohm] λMSL [mm] ZCPW [ohm] λCPW [mm] dl11 [deg] dl11 [um] dl22 [deg] dl22 [mm] dl21 [deg] 80 9.38 1.469 96.2 2.317 0.593 2.420 1.188 7.646 0.921 100 9.40 1.176 96.2 1.855 0.927 3.028 1.534 7.904 1.263 120 9.40 0.979 96.3 1.544 0.733 1.993 1.622 6.957 1.211 Table.1 MSL-CPW解析結果 MSL-CPW接続箇所 現行素子のMSLCPWが接続する箇所について、超伝導線路のモデル(Fig.2)を利用 して3次元電磁界解析を行った。解析結果(Table.1)から、電気長の伸長が確認できた。 MSL-CPW接続箇所での電気長伸長について、CPW終端部での実効長伸長につい ての近似式を比較対象とした。 Freq [GHz] dl21 [deg] dlshort [deg] dlopen [deg] 80 0.921 0.524 1.049 100 1.263 0.655 1.310 120 1.211 0.787 1.574 1:MSL 2:CPW + + 21 2 + 11 2 + 22 Table.2 電気長伸長の比較 Conclusion MSL,CPWの双方で端部での電気長伸長を確認 電気長伸長量から不連続箇所は実用上open端に近似できる可能性が高い short: +2 8 (= 3.375 ) open: +2 4 (= 6.750 ) Table.1に示した を用いて電気長 , に変換して比較した。(Table.2) Fig.3 100GHz素子の伝送線路 線路種 現行素子 [um] 修正素子 [um] tr1 CPW 61.2 99.8* tr2 MSL 120.9 74.1 tr3 CPW 102.3 166.9* tr4 MSL 43.7 26.9 Table.3 伝送線路の物理長 Z0 [ohm] λ100GHz [mm] MSL 9.37 1.176 CPW 96.2 1.855 tr1 tr2 tr3 tr4 Feed Point Series Junction Table.4 超伝導伝送線路の特性 Fig.4 回路シミュレータでの等価回路 伝送線路長の修正 現行素子では、MSLCPWが交互に並んだインピーダンス トランスフォーマおよび同調回路を通して、アンテナの”Feed Point”からの電力をSIS接合まで伝送している。(Fig.3) 伝送 線路各部の長さについて修正が行われ(Table.3)、この修正 素子の製作と評価が行われている。 超伝導状態の伝送線路は、3次元電磁界解析によって精度良く再現できる(V.Belitsky 2006)ため、その特性を求めた。(Table.4) Table.3,4の結果から両素子のインピーダンス トランスフォーマと同調回路の特性について、回路シュミレータを用いて解析した。 (Fig.4,5) Fig.5 ミクサ素子の特性 Zfeed= 70 [ohm] , Rj = 25 [ohm] , Cj = 70 [fF] ミクサ素子とミクサブロックのマッチング (Table.7) Fig.6 ミクサマウントの電磁界解析 Fig.8 チョークフィルタのモデル Fig.9 RF通過特性 Fig.10 IF通過特性 上月雄人、石田裕之、長谷川豊、黒岩宏一、木村公洋、村岡和幸、前澤裕之、大西利和、小川英 夫(大阪府大)、浅山信 一郎、南谷哲宏、小嶋崇文、藤井泰範、野口卓(国立天文台)、中島拓、 加藤智隼、桑原利尚、藤井由美、山本宏昭(名大) 100GHz4-12GHz広帯域IF SISミクサの開発 全てのミクサ素子とブロックの組み 合わせについて解析し、概ねマッチン グが取れていることを確認した。 Type.1 OriginalType.2 & Type.3 FOREST-oldType.4 (FOREST-new) 現行素子 修正素子 Type.1 Type.2&3 Type.4 x1 x2 x3 ミクサブロック種 Type.1 OriginalType.2 & Type3 FOREST-oldType.4 FOREST-newミクサ素子の置方 Side Back Front 導波管回路部略図 RF SIS RF SIS RF SIS RF RF 分割面 RF RF 分割面 RF RF 分割面 0.45 0.45 2.54 0.675 0.254 2.54 0.46 0.46 0.67 0.316 2.54 0.46 0.46 0.53 0.316 IF反射 IF通過 RF通過 RF反射

100GHz帯4-12GHz IF SISミクサの開発...Beam1 Beam2 Beam3 Beam4 H,U H,L V,U V,L Fig.1FORESTのTrx測定結果 N N O O N N N N O O N N N N O O N : FOREST-new マウント O : FOREST-old

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 100GHz帯4-12GHz IF SISミクサの開発...Beam1 Beam2 Beam3 Beam4 H,U H,L V,U V,L Fig.1FORESTのTrx測定結果 N N O O N N N N O O N N N N O O N : FOREST-new マウント O : FOREST-old

新ミクサの開発

既存ミクサの解析

野辺山45m電波望遠鏡搭載の100GHz帯4ビーム両偏波2SB受信機「FOREST」は、受信機雑音温度の測定の結果、4-12GHzのIF帯域のうち高周波数側で特性が大きく悪化することが確認された。(Fig.1) 原因箇所を検証した結果、 SISミクサ付近の冷却IF系に原因があることが分かった。

我々はIF帯域4-12GHzにおいても低雑音が実現できる100GHz帯SISミクサの開発を行っている。新SISミクサ

の開発では、ミクサブロック、プローブ、信号伝送回路などの、今まで考慮されてこなかった箇所も含めて大きく見直すことで、RF,IFの両帯域で安定した性能を実現する予定である。

Key Words : 電波, FOREST, SISミクサ, 広帯域化,インピーダンス整合

ミクサブロックの解析100GHz帯SISミクサには3種類のミクサブロックが存在する。(Tabl.6) 現行

素子と修正素子のボウタイアンテナとチョークフィルタは同じなので、両素子のFeedPointから見たRF信号の入力インピーダンスは同じである。ミクサブロックのRF整合について3次元電磁界解析を行った。

Table.6 3種類のミクサブロック

Abstract

新素子の目標「RF帯域80-120GHz、IF帯域4-12GHzの低雑音なSISミクサの開発」

設計方針• SIS安定領域でのインピーダンス整合• 超伝導線路の性質の定量化と適当な解析モデルの確立• 精度良く製作できるコプレーナ線路の多用

• 回路シュミレータによる設計を基本として、3次元電磁界解析による物理長の最適化

RF整合• 片側だけの新プローブの採用• 新プローブに合わせて、現行マウントを最大限に活かせるマウントの再設計

• インピーダンストランスフォーマと同調回路の分離

IF整合• SIS素子から直接にIF信号を取り出す専用線路の設置• RF信号は遮断されIF信号は通過する平面フィルタの実装• 後段の冷却IF系とのインピーダンス整合をとるIF基盤の設計

ミクサ素子の解析現在用いられている100GHz帯SISミクサ素子には、以下に挙げる二つの設計上の問題があることが判明した。

現行チョークフィルタの特性現在のチョークフィルタについての解析結果から、RF帯とIF帯の両方で良好な特性が得られる設計が困難であることが分かった。これはIF帯が広帯域化によってRF帯に接近したために顕著になってきた問題である。

x1

x2

x3

Fig.2 MSL-CPW解析モデル

設計中のチョークフィルタ(x5)の特性

新フィルタの単位構造

設計中の新フィルタコプレーナ線路とハンマーフィルタを利用して、RF信号とIF信号の分波の実現を目指す。

Beam1

Beam2

Beam3

Beam4

H,U H,L V,U V,L

Fig.1 FORESTのTrx測定結果

N N O O

N N N N

N NO O

N N O O

N : FOREST-new マウント O : FOREST-old マウント

• 伝送線路の不連続箇所での電気長伸長の効果が考慮されていなかった。

• 伝送線路長の設計値から物理長への変換が間違っていた。

Conclusion• いずれのミクサブロックでもFeedPointのインピーダンスは概ね70Ωになっている

• Type.1 > Type.2&3 > Type.4の順で特性が良い• 現在用いられているType.4でもボウタイとチョークを変更することで特性が改善する可能性がある

Type.1 Type.2&3 Type.4

現行素子

修正素子

Freq[GHz]

ZMSL

[ohm]λMSL

[mm]ZCPW

[ohm]λCPW

[mm]dl11 [deg]

dl11 [um]

dl22 [deg]

dl22 [mm]

dl21 [deg]

80 9.38 1.469 96.2 2.317 0.593 2.420 1.188 7.646 0.921

100 9.40 1.176 96.2 1.855 0.927 3.028 1.534 7.904 1.263

120 9.40 0.979 96.3 1.544 0.733 1.993 1.622 6.957 1.211

Table.1 MSL-CPW解析結果

MSL-CPW接続箇所現行素子のMSLとCPWが接続する箇所について、超伝導線路のモデル(Fig.2)を利用して3次元電磁界解析を行った。解析結果(Table.1)から、電気長の伸長が確認できた。

MSL-CPW接続箇所での電気長伸長について、CPW終端部での実効長伸長についての近似式を比較対象とした。

Freq[GHz]

dl21

[deg]dlshort

[deg]dlopen

[deg]

80 0.921 0.524 1.049

100 1.263 0.655 1.310

120 1.211 0.787 1.574

1:MSL

2:CPW𝑥

𝑦

𝑥 + 𝑦 + 𝑑𝑙21

2𝑥 + 𝑑𝑙11 2𝑦 + 𝑑𝑙22

Table.2 電気長伸長の比較

Conclusion• MSL,CPWの双方で端部での電気長伸長を確認• 電気長伸長量から不連続箇所は実用上open端に近似できる可能性が高い

short: 𝑊+2𝑆

8(= 3.375 𝑢𝑚)

open: 𝑊+2𝑆

4(= 6.750 𝑢𝑚)

Table.1に示した𝜆𝐶𝑃𝑊を用いて電気長𝑑𝑙𝑠ℎ𝑜𝑟𝑡, 𝑑𝑙𝑜𝑝𝑒𝑛に変換して比較した。(Table.2)

Fig.3 100GHz素子の伝送線路

線路種 現行素子 [um] 修正素子 [um]

tr1 CPW 61.2 99.8*

tr2 MSL 120.9 74.1

tr3 CPW 102.3 166.9*

tr4 MSL 43.7 26.9

Table.3 伝送線路の物理長

Z0 [ohm] λ100GHz [mm]

MSL 9.37 1.176

CPW 96.2 1.855

tr1tr2tr3tr4

Feed Point Series Junction

Table.4 超伝導伝送線路の特性

Fig.4 回路シミュレータでの等価回路

伝送線路長の修正現行素子では、MSLとCPWが交互に並んだインピーダンストランスフォーマおよび同調回路を通して、アンテナの”Feed Point”からの電力をSIS接合まで伝送している。(Fig.3) 伝送線路各部の長さについて修正が行われ(Table.3)、この修正素子の製作と評価が行われている。

超伝導状態の伝送線路は、3次元電磁界解析によって精度良く再現できる(V.Belitsky2006)ため、その特性を求めた。(Table.4) Table.3,4の結果から両素子のインピーダンス

トランスフォーマと同調回路の特性について、回路シュミレータを用いて解析した。(Fig.4,5)

Fig.5 ミクサ素子の特性

Zfeed= 70 [ohm] , Rj = 25 [ohm] , Cj = 70 [fF]

ミクサ素子とミクサブロックのマッチング (Table.7)

Fig.6 ミクサマウントの電磁界解析

Fig.8 チョークフィルタのモデル Fig.9 RF通過特性 Fig.10 IF通過特性

上月雄人、石田裕之、長谷川豊、黒岩宏一、木村公洋、村岡和幸、前澤裕之、大西利和、小川英夫(大阪府大)、浅山信一郎、南谷哲宏、小嶋崇文、藤井泰範、野口卓(国立天文台)、中島拓、加藤智隼、桑原利尚、藤井由美、山本宏昭(名大)

100GHz帯4-12GHz広帯域IF SISミクサの開発

全てのミクサ素子とブロックの組み合わせについて解析し、概ねマッチングが取れていることを確認した。

Type.1 (Original) Type.2 & Type.3 (FOREST-old) Type.4 (FOREST-new)

現行素子 修正素子

Type.1

Type.2&3

Type.4

x1

x2

x3

ミクサブロック種 Type.1(Original)

Type.2 & Type3(FOREST-old)

Type.4(FOREST-new)

ミクサ素子の置方Side Back Front

導波管回路部略図

RF SISRF SIS

RF

SIS

RF RF

分割面

RF RF

分割面

RF RF

分割面0.45𝑚𝑚0.45𝑚𝑚

2.54𝑚𝑚

0.675𝑚𝑚

0.254𝑚𝑚 2.54𝑚𝑚

0.46𝑚𝑚0.46𝑚𝑚

0.67𝑚𝑚

0.316𝑚𝑚2.54𝑚𝑚

0.46𝑚𝑚0.46𝑚𝑚

0.53𝑚𝑚

0.316𝑚𝑚

IF反射

IF通過

RF通過

RF反射