3
工場管理 201011 75 図1 製造業における品質 市場顧客 経営基本機能 開 発 設計品質 総合品質 価格納期+アフターサービス→顧客満足度 製造品質 適合品質マーケティング品質 生 産 営 業 企業競争のグローバル進展している客第一品質第一をうたいながら、市場クレーム 対応多大なコストと信頼い、不良流出防 止対策四苦八苦している企業なくない。い わゆる「品質つくりみ」ができていないのであ る。品質つくりみというは、製造企 のみならずビジネスでの常識であり、品質管理 基本である。しかし、実践できている企業は、 まだまだ少数である。一方品質つくりみのみをしっかりとつくり、PPM オーダーの不良率 達成し、卓越した品質レベルを実現しているがあることも厳然たる事実である。 品質とはぞや。品質概念には多様性があり、 時代とともに変化する。製造業では、経営機能である開発生産営業対応した、設計品 製造品質・マーケティング品質つがある。 これらを総合した全体品質が「総合品質」であ る。それに価格納期・アフターサービスがわり、 顧客満足度という市場での競争力す()。 品質つくり込み(QIP)は競争力の基盤 住友金属小倉に 2006 11 ばれた。 品質のレベルをとにかくげたいとの要望し、 社内セミナーで品質つくりみ(QIP:Quality In Process) 能力をいかにげるかを説明した。 なぜ、品質つくりみなのか。それは、競争 強化のためである。その本質もコスト争力ったことでなく、企業事業製品わるというべきである。市場での評価とい っても多面性があり、本当にこのビジネスでっているのか、これからも顧客拡大するのか、 顧客満足度維持できるのか、という視点競争力評価される。そのうえ、競争力本当評価対象が、それを産出した企業そのものやプロ セスであることをえれば、競争力範囲はさら がることになる()。 組織能力とは、企業内部保有している組織 存在すものをいう。これはつのエス・ピイ・エス経営研究所 武田 仁 解説 品質つくり込み(QIP)は組織能力の1つ

075-080 FM2010 11 解説 · 工場管理 2010/11 75 特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡 図1 製造業における品質 市場・顧客 経営の

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 075-080 FM2010 11 解説 · 工場管理 2010/11 75 特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡 図1 製造業における品質 市場・顧客 経営の

工場管理 2010/11 75

特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡

図1 製造業における品質

市場・顧客

経営の基本機能

開 発

設計品質

総合品質 +価格+納期+アフターサービス→顧客満足度

製造品質

(適合品質)

マーケティング品質

生 産 営 業

 企業競争のグローバル化が進展している中、顧客第一・品質第一をうたいながら、市場クレームの対応で多大なコストと信頼を失い、不良流出防止対策で四苦八苦している企業が少なくない。いわゆる「品質つくり込み」ができていないのである。品質つくり込みという考え方は、今や製造企業のみならずビジネスでの常識であり、品質管理の基本である。しかし、実践できている企業は、まだまだ少数である。一方、品質つくり込みの仕組みをしっかりとつくり、PPMオーダーの不良率を達成し、卓越した品質レベルを実現している企業があることも厳然たる事実である。 品質とは何ぞや。品質の概念には多様性があり、時代とともに変化する。製造業では、経営の3大機能である開発・生産・営業に対応した、設計品質・製造品質・マーケティング品質の3つがある。これらを総合した全体の品質が「総合品質」である。それに価格や納期・アフターサービスが加わり、顧客満足度という市場での競争力を表す(図1)。

品質つくり込み(QIP)は競争力の基盤

 私は住友金属小倉に2006年 11月に呼ばれた。品質のレベルをとにかく上げたいとの要望に対し、社内セミナーで品質つくり込み(QIP:Quality In Process)能力をいかに上げるかを説明した。 今なぜ、品質つくり込みなのか。それは、競争力の強化のためである。その本質は何もコスト競争力に限ったことでなく、企業・事業・製品の強化に関わるというべきである。市場での評価といっても多面性があり、本当にこのビジネスで儲かっているのか、これからも顧客は拡大するのか、高い顧客満足度を維持できるのか、という視点で競争力が評価される。そのうえ、競争力の本当の評価対象が、それを産出した企業そのものやプロセスであることを考えれば、競争力の範囲はさらに広がることになる(図2)。 組織能力とは、企業が内部に保有している組織的な力の存在を示すものをいう。これは4つの特

エス・ピイ・エス経営研究所 武田 仁

解説

品質つくり込み(QIP)は組織能力の1つ

Page 2: 075-080 FM2010 11 解説 · 工場管理 2010/11 75 特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡 図1 製造業における品質 市場・顧客 経営の

Vol.56 No.11 工場管理76

図2 競争力の4層構造

②外部対応力

競争力のあるダントツの品質を

目指す

①技術・知識

良品条件設定のノウハウ

④組織風土

品質つくり込みの思想

③内部実行力

日々改善が進む生産システム

第1層企業また製品の儲け具合

(財務的成果)

利益額、売上高利益率フリーキャッシュフローなどの財務指標

売上数量、売上高、マーケットシェア顧客満足度

品質(工程内不良率、直行率)コスト(労働生産性、開発生産性)納期(製造リードタイム、開発リードタイム)

組織固有の技術、ノウハウ、スキル、価値観・モノづくりの思想、行動規範

第2層市場または顧客から

の評価

第3層社内プロセス

・生産システムのアウトプットに対する評価

(Q,C,D)

第4層モノづくりの組織能力品質つくり込みの実践

ジャストインタイムの実践

市場の評価

社内の評価

(市場から見える)

(市場から見えない)

徴を持っている。①事業のもとになる技術・知識、市場対応力、業務プロセス、組織風土などが結束したものである。②企業内部の継続的努力でつくり出され、独自性に富んでいる。③ライバルが容易に模倣したり、追従することが難しい。④結果的に、市場において強い競争力を発揮する。 大変な道程であるが、この姿に同社を持っていくべきと強く思い実践した。

住友金属小倉とのかかわり

 2006年 11月、品質保証やカスタマー技術室の幹部相手に“品質つくり込み能力”セミナーを開催、品質重視こそが真にコスト競争力を生むという、新しい品質コストの考え方に切り替えていくことを提案した。 初年度の取組みとして、品質つくり込みの基礎改善を行うこととし、まず6Sと表(標)準作業、そして目で看

る管理を展開した。当初はとまどいが多くみられ、言い訳がいたるところで出た。とにかくまずやってみよ。やってから考え、工場長・室長が自ら先頭になって突っ走れ、と指導した。しょうがないか、やってみるか、なるほど、と思い行動した工場・室は展開が早い。いや、それは無理・不可能だ、我々鉄鋼メーカーはそんなに甘くない。と思ったりして、ぐずぐずしている工場・室は進まない結果に終わる。このように各部門のトップのSPS(同期生産システム)に対する

意識のバラツキが大きく、不満の1年であった。 2年目、“徹底して遇直に品質を自工程でつくり込む”を実践するため次の3つを意識した。①自らの手でつくり込む。②人の能力は無限である、しかし発揮しなければ意味がない。③良品を生産し続ける条件の確保と整備が、流し方のあるべき姿である。結果、パーフェクト製品条件確保はまだまだの段階であると再確認した。改善スピードも遅かった。 3年目、品質つくり込みの基礎改善パート3を行い、DVDを活用した品質改善道場を各チーム単位で設置推進した。間接部門は初年度として情報の整理・整頓より始めた。しかし、まだまだ現場の自律化と異状がいやでも誰の目にも飛び込んでくる状況にはなっていない、道半ばであった。 3年間の助走は終わった、さあこれからスタートラインに立ち全精力で進化へダッシュすべく、真価が問われる年となる。2010年度は、各部のミッションをベースに達成すべき目標に対し、品質つくり込み改

革•

パート1を行う。その内容は、すべての部門がDVDと表(標)準作業表により、品質教育道場と目で看

る管理を深化させるとともに、愚直にパーフェクト製品の追求と確立を行うことにある。自工程完結・品質つくり込み能力強化、人財教育のさらなる飛躍である。

Page 3: 075-080 FM2010 11 解説 · 工場管理 2010/11 75 特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡 図1 製造業における品質 市場・顧客 経営の

工場管理 2010/11 77

特集 住友金属小倉 現場改革に挑んだ実践の軌跡

図3 QIP4つの基礎改善

(1)6Sの推進

(2)表(標)準作業表の作成 (3)目で看る管理の展開

(4)ラインサイドに      品質教育道場設置

理念追求と無形資産へ投資せよ

 成功している企業や組織は、次の2つのことを愚直に実施・推進している。その1つは、利益追求型ではなく「理念追求型」である。トップはじめ全社員に至るまで目的を共有して、ブレないことである。2つめは、無形の資産への投資である。企業の競争力は無形の資産から生まれ、特に変化の早い時代には重要な役割を担う。 同社では、品質に対して愚直につくり込みの品質にこだわり、良品を常に顧客(後工程)に提供し続け社会に貢献する企業をめざす。そして、自工程で品質をつくり込むためモノづくりの思想・原則を組織的に展開していく。生産マネジメント改革からのアプローチでは、顧客志向をより強めビジネスプロセスのスピードを速め、組織のフレキシブル化と自律化を図る、人財の開発と活用を重視するなどである。 1. 愚直に品質にこだわる 品質へのこだわりには2つの意味が

り重要であることを認識すべきである。 3. 現場の自律化 従来型の考え方と新しいマネジメントの考え方を下図で比較していただきたい。良品条件の確保に最も貢献するのは、現場の自律化と人的能力の活用と開発である。チーム制の導入により現場レベルで表(標)準作業を決め、これをベースに日常的な生産活動を自律的に運営する。一方、管理者やスタッフは、目先の業務に振り回されず、将来あるべき姿を見据えた、戦略的に計画業務に軸足を移すことになる。

仕事とは作業+改善である

 毎日出社して定常作業や日常業務を一生懸命作業しているだけでは、それは仕事にはならない。オペレーターやスタッフからトップ経営者まで常

ある。1つは品質レベルの目標値に対するこだわりであり、あるべき姿より導き出した高い目標値、また業界の常識を超えるダントツのレベルをめざすことである。もう1つは生産プロセスのDQC改善におけるQへのこだわりである。品質つくり込みを実行するということは、生産システムの内部プロセスを質的に変化させ、QだけでなくD+Q+Cのトータルレベルの向上を図ることである。 2. 自工程で品質をつくり込む 工程での品質つくり込みは、経済性や内部効率より、品質を優先させることを明確にしている。品質つくり込み能力は、開発設計部門でのつくりやすさの追求やサプライヤーでの良品確保など、多くの部門との関連でつくり出される。またその能力が、道具やテクニックなどのハード的なものだけで得られるのではなく、考え方や守るべき原則や価値観のような無形でソフト的なものが、よ