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23 来訪者との最初の大きな接点である観光案内所で、担当職員を新たに「地域観光コンシェルジュ」と 位置付け、的確な案内業務に加えて滞在交流観光の一翼を担うことも期待するにあたっては、これま でのように職員自身の自主性だけに任せていてはいけません。 以下のような3つの方針に沿って、 自発的かつ組織的に、継続して育成を進めることが重要です。 地域観光コンシェルジュ育成のプロセス 第3章 3-1 地域観光コンシェルジュ育成の3つの方針 地域観光コンシェルジュは、来訪者に対して訪問先での充実した時間の過ごし方を提案する人 材ですから、思い込みや個人的な価値観に基づく一人よがりな案内やアドバイスを行ってはなり ませんし、自らの成長に関しても受け身ではない、前向きな姿勢が求められます。 所属する観光案内所の役割・機能と「観光案内所が掲げる目標」(3-3参照)を理解し、それを達成 するために自発的に成長していこうという職員の意識を組織的に喚起し尊重しながら、人材育成 を進めることが重要です。 1 2 3 職員の成長意欲を満たすため、また人材育成の責任者が案内業務の現場を理解するために、職 員およびその担当者の上司も対象に定期的に研修を実施することが重要です。 また、情報収集・発信のためのパソコンやインターネット接続といったインフラ整備、観光案 内所のハード面の雰囲気づくり等の環境づくりも、モチベーションの維持・向上のためには大切 な要素です。 職員の成長意欲を維持・向上させる環境づくりを行う 地域内および広域の案内業務を充実させ、観光まちづくりについて理解を深めるためには、交流 型の研修や現地視察等、地域内でまたは市町村域を越えて、地域観光コンシェルジュ同士や地域の 施設・店舗関係者、農業等の他産業の従事者、行政担当者といった異なる組織の人材同士がお互い に知り合う場を設けることが重要です。 職員同士や地域の関係者が連携する機会を設ける 自ら成長しようとする職員の自発性を尊重する

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来訪者との最初の大きな接点である観光案内所で、担当職員を新たに「地域観光コンシェルジュ」と位置付け、的確な案内業務に加えて滞在交流観光の一翼を担うことも期待するにあたっては、これまでのように職員自身の自主性だけに任せていてはいけません。以下のような3つの方針に沿って、自発的かつ組織的に、継続して育成を進めることが重要です。

地域観光コンシェルジュ育成のプロセス第3章

3-1 地域観光コンシェルジュ育成の3つの方針

 地域観光コンシェルジュは、来訪者に対して訪問先での充実した時間の過ごし方を提案する人材ですから、思い込みや個人的な価値観に基づく一人よがりな案内やアドバイスを行ってはなりませんし、自らの成長に関しても受け身ではない、前向きな姿勢が求められます。 所属する観光案内所の役割・機能と「観光案内所が掲げる目標」(3-3参照)を理解し、それを達成するために自発的に成長していこうという職員の意識を組織的に喚起し尊重しながら、人材育成を進めることが重要です。

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 職員の成長意欲を満たすため、また人材育成の責任者が案内業務の現場を理解するために、職員およびその担当者の上司も対象に定期的に研修を実施することが重要です。 また、情報収集・発信のためのパソコンやインターネット接続といったインフラ整備、観光案内所のハード面の雰囲気づくり等の環境づくりも、モチベーションの維持・向上のためには大切な要素です。

職員の成長意欲を維持・向上させる環境づくりを行う

 地域内および広域の案内業務を充実させ、観光まちづくりについて理解を深めるためには、交流型の研修や現地視察等、地域内でまたは市町村域を越えて、地域観光コンシェルジュ同士や地域の施設・店舗関係者、農業等の他産業の従事者、行政担当者といった異なる組織の人材同士がお互いに知り合う場を設けることが重要です。

職員同士や地域の関係者が連携する機会を設ける

自ら成長しようとする職員の自発性を尊重する

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3-2 地域観光コンシェルジュ育成の留意点

地域観光コンシェルジュに求められる能力・知識は、観光案内所の特性によって内容も重要度も異なります(例:外国人の来訪が多い地域では語学の優先度が高い、鉄道の乗り換え駅では広域の情報も求められる 等)。また、臨時職員が多い観光案内所では、長期的な人材育成よりも即戦力が求められるかもしれません。このように、地域観光コンシェルジュを育成するプロセスは、各観光案内所の特性や規模、職員の雇用形態(正職員か臨時雇用職員か)、これまでの人材育成の取り組み経緯(研修の充実度)等、実情に合わせて多様な形があり得ます。しかしながら、どのような形であっても、来訪者と直接接する「案内業務担当者」の育成には、来訪者への応対や地元地域の関係者との日頃のコミュニケーションや交渉といった「業務経験」のあり方が大きな影響を与えますので、一連の流れに沿って、日常業務を通じて、観光案内所の組織全体で育成することが重要です。

地域観光コンシェルジュを育成する前提条件(第1段階)としては、案内業務や地元地域に対する信念・愛着を持つこと、そして来訪者の役に立ちたいという想いを持つことが重要です。これは、収益事業ではない案内業務のどこにやりがいや自らの成長へのモチベーション、業績評価の基準を持たせるかを考えた時、それは各職員の「仕事や地域への信念・愛着」「顧客への想い」だと言えるからです。

育成プロセスの第2段階は、人材育成計画づくりです。要員が少なかったり、多忙な職場では、研修などの時間を確保することは難しいものです。しかしながら、地域観光コンシェルジュは、日常業務の中に多くの学びがあります。日々の業務にどのような姿勢で取り組むか、そして外部で開催される研修や、実際に施設や観光プログラムを体験する現場研修等をどのように組み込むかを年間計画として策定し、育成対象の職員を明確にして、自覚を持たせることが重要です。

実際に人材育成を行う場面(第3段階)は、来訪者への応対、職場(観光案内所内)、そして地域内外の関係者とのやり取りの場の主に3つといえます。最も多くの事柄を学ぶ場面は、実際に来訪者へ案内業務を行う場面でしょう。問い合わせに対して正確にわかりやすく応えるだけでなく、今はまだ知られていない地域の情報や隠れた名品などを探し出して、その情報を来訪者へ案内できるようになることも、地域観光コンシェルジュの成長につながります。職場である観光案内所内では、ベテラン職員の仕事ぶりを見て学んだりアドバイスを受けるなど、OJTがきちんと機能していることが重要です。日頃から職員同士が気さくに話し合え、教え合える雰囲気づくりが大切であり、そのベースには信頼関係がなくてはいけません。そうした関係があって初めて、後述するような、組織目標を共有しながら年間で設定された学習目標に沿って学び、行動基準に基づいた案内業務の実践が可能になるのです。地域の関係者からも、多くのことを学びます。来訪者へ提供するのは、地域内外に関する情報であり、常に最新の正確な情報を把握しておくことが必須です。そのためには、地元の多様な人々や近隣の関係者と顔見知りになり、実際に施設を訪れるなど日常的にコミュニケーションを図ることが重要です。こうした関係が築かれていれば、観光案内所から、各施設に対する来訪者の評価やクレームをきちんと伝えることができ、地域全体として魅力向上につなげることができます。

人材育成とは、短期間では完結しない、息の長い取り組みですから、人材育成計画とそのプロセスを定期的に検証し、改善して継続していくことが非常に重要です(第4段階)。具体的には、後述するように、観光案内所ごとに「組織目標」と「学習目標」を設定し、地域観光コンシェルジュの案内業務の成果を評価・検証しながら、人材育成を継続していくことになります。

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地域観光コンシェルジュの育成プロセス

【第1段階】人材育成を

始めるにあたっての準備・前提条件

観光案内所の位置づけ・機能の明確化案内業務を担う信念や地元地域に対する愛着を表す「組織目標」の設定

地域観光コンシェルジュに求められる役割の明確化来訪者のためになりたいという想いの醸成、「学習目標」の設定

1.

2.

【第2段階】人材育成計画づくり

観光案内所の「組織目標」を達成するために取り組むべき業務と体制の決定(育成対象となる職員を明確にする)【日々の業務での実践(OJT)】

外部で開催される研修や地元地域での現場研修等への参加を検討【業務を離れた研修(Off-JT)】

3.

4.

【第4段階】人材育成の継続

目標に対する実践結果の評価(客観的評価、主観的評価)

評価の結果や観光案内所の要員の変更(人数、熟練度)等を踏まえた人材育成計画の見直し 案内業務担当者「地域観光コンシェルジュ」

として成長するための人材育成を継続する

6.

7.

【第3段階】人材育成の実践

【第1段階(目標設定)】の再確認【第2段階(人材育成計画づくり)】の再検討 へ

ベテラン(後輩の指導も行う)

初心者

以下のような主に3つの場面での人材育成の実践5.

<地元地域の中で>

「組織目標」を共有する。「行動基準」に基づいて業務を遂行する。「学習目標」に沿った勉強会を開催したり、職場コミュニケーションを図る(ノウハウや経験談、想いを語る等)。

<観光案内所の中で>

・・・

地域の情報を正確に来訪者へ伝えるために、日頃から現場を訪れたり、関係者とのコミュニケーションを図る。魅力ある観光地域づくりに寄与するために、来訪者の評価要望等を関係者へ伝える(フィードバックする)。

教育機関や広域で開催される集合研修に参加する(Off-JT)。

<地域外で>

問い合わせに応えられる情報・知識、伝えるスキルを習得する。まだ顕在化していないニーズや魅力を発掘する(来訪者の満足度を追求する「顧客志向」)。

<来訪者への対応の中で>

活発なコミュニケーション、信頼感に根差した良質な競争、

教え合い(業務支援)挑戦

やりがい 挫折

内省 再学習

地域観光コンシェルジュ

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収益事業ではない案内業務のどこにやりがいや自らの成長へのモチベーション、業績評価の基準を持たせるかを考えた時、それは各職員の「仕事や地域への信念・愛着」「顧客への想い」だと言えるでしょう。自分の仕事が来訪者の役に立っている、地域に貢献しているという充実感が、より良い案内業務の実践、ひいては観光案内所のレベルアップにつながります。こうしたことから、「信念」や「想い」を観光案内所の組織目標として掲げて職員全体で共有し、実践した結果に対して評価をしながら、観光案内所の事業を継続することが重要です。

3-3 観光案内所の目標設定と評価の考え方

観光案内所の特性(鉄道の乗り換え駅か周遊観光の拠点となる地域か、来訪者のニーズ等)や体制(要員、ネット環境等のインフラの整備状況、予算規模等)に応じて、その地域においてどのような機能を果たすべきかという観光案内所としての目標を設定します。これは、現在作成されている観光案内所の年間事業計画の内容を、日常業務の中に落とし込んでわかりやすくしたものというイメージです。また、地元地域で観光振興計画が策定されている場合は、その内容ともきちんとリンクさせることが重要です。観光案内所の目標は、「組織目標」と「学習目標」の2種類を設定します。「組織目標」としては、主に地元地域や広域観光エリアの中で、その観光案内所が果たすべき機能や位置づけについて掲げます。「学習目標」には、来訪者の役に立ちたいという想いをベースに、地域観光コンシェルジュに求められる役割や学ぶべき事柄を記述します。「組織目標」と「学習目標」は、年度当初に策定しますが、それをあらためて月単位で細分化して示すなど、日々の取り組みにつながり、期間を区切って評価ができるような工夫が必要です。

各地域観光コンシェルジュは、観光案内所の「組織目標」の達成に向けて、「学習目標」と観光案内所毎に設定する「行動基準とその優先順位」に則って案内業務を行います。この考え方の背景には、観光案内所の要員も予算も限られている中で、来訪者からの要望に対して、善意から過剰に手厚く対応してしまう傾向に対する問題意識があります。観光案内所を訪れる来訪者の中には、職員に対して過大な要求をし、それが満たされない場合には過度なクレームを寄せる人物もみられます。こうした不当な扱いや過小評価、そして業務の多忙さに職員が疲弊することを避けながら、地域観光コンシェルジュとしてモチベーションを保ちながら業務にあたるために、こうした「行動基準と優先順位」を設けることが望ましいでしょう。

①目標設定(育成プロセスの第1段階)

 新幹線と在来線間の乗換客(通過客)と当地域を最終目的地とするお客様の双方へ対応するために、広域の観光情報と地域の奥深い情報をともに収集し、提供する(組織目標)。 そうした幅広く、詳細な情報を得るために、近隣エリアの地域観光コンシェルジュとの合同研修と地元地域の関係者との勉強会を、それぞれ年間○回開催する(学習目標)。

■「組織目標」と「学習目標」の例[鉄道の乗り換え駅にある観光案内所の目標設定の例]

 地元地域での滞在時間の延長につながるように、まちなか散策の核である町並み景観の歴史や地元商店についての情報を重点的に提供する。特に、近年増加している外国人旅行者への案内も充実させる(組織目標)。 そのために、歴史研究家や商店関係者などとフィールドワークや勉強会を年間○回開催する。また、英語で詳しい観光案内を行えるように、英会話教室も開催する(学習目標)。

[最終目的地となる観光地にある観光案内所の目標設定の例]

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観光案内所の業務の実践状況が、設定した目標に達しているか、観光案内所としての評価を定期的に行います。これは、各地域観光コンシェルジュが業務に対するモチベーションを維持・向上させ、レベルアップを目指していくためにも必要です。評価方法は、客観的評価(外部評価)としては、地域において「観光実態調査」を実施している場合は、地域に対する来訪者の満足度に観光案内所の活動(案内業務、旅行プランのアドバイス等)がどの程度寄与したかを尋ねる設問を設けるという方法が考えられます。また、観光案内所の利用者を対象にしたアンケートで、観光案内所の立地や機能、提供する情報、職員の態度や専門知識等に対する評価を把握することも有益です。この時、アンケートには書かれていない利用者の評価や不満も、利用者の様子を観察するなどしてできるだけ把握しましょう。旅先での貴重な時間を割いてアンケートに記入するということは、よほど大きな感動や失望があった時であり、そこまでではない小さな不満や満足も少なくないからです。また、観光案内所内の定期的な会議の中で、地域観光コンシェルジュ同士の地域情報の共有や、クレームに対する解決策の共有、案内業務以外の事業部等との情報交換などを行うことが、各地域観光コンシェルジュのモチベーションの維持・向上につながり、観光案内所全体をレベルアップさせることが期待されます。そうした効果を生むためには、日常的な会議の場も人材育成のために積極的に活用するという観点が求められます。このように観光案内所と地域観光コンシェルジュに対する利用者の評価を、多面的に継続的に把握し、評価の結果を踏まえて人材育成計画を見直す、こうした積み重ねが、より良い観光案内所となり、優れた地域観光コンシェルジュを育成するためには必要です。

②評価(育成プロセスの第4段階)

■行動基準の案

■客観的な評価項目の案

必須の基準:「安全」「正確」

「季節」「地域らしさ」「広域」「エンターテインメント(話術・プレゼンテーション方法等)」「迅速さ」「多言語」 等

「私たちの観光案内所では、特に『地域らしさ』『季節』に配慮した情報を、『地域観光コンシェルジュの創意工夫、個性の発揮(エンターテインメント)』により、来訪者に提供します」「私たちの観光案内所では、急増する外国人旅行者に対して、『広域』『地域らしさ』に配慮した情報を、少なくとも『英語』で提供します」

地域性に合わせて取捨選択される基準:

以下の項目について、データを収集したり、利用者アンケート等を実施して把握する。

■行動基準の優先順位の示し方の例・

観光案内所の利用者数(観光入込客数に占める割合)問い合わせ内容と回答内容、課題解決につながったか(受付台帳を設ける)案内所の利用しやすさ(立地・利便性、パンフレットのラックの整理状況・充実度 等)地域観光コンシェルジュの印象・説明のわかりやすさ(みだしなみ、専門知識、話し方 等)

地域観光コンシェルジュ育成ガイド(平成26年3月)

国土交通省 観光庁 観光地域振興課TEL:03-5253-8111