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2018 vol. 72 http://www.nikkuei.or.jp/ 特 集 蒸気・還水配管 空 衛 空衛:第72巻第10号 平成30年10月10日発行 毎月1回10日発行 昭和38年1月8日 第3種郵便物認可 一般社団法人 日本空調衛生工事業協会 10

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  • 2018 vol.72http://www.nikkuei.or.jp/

    特 集

    蒸気・還水配管

    空 衛

    空衛:第72巻第10号 平成30年10月10日発行 毎月1回10日発行 昭和38年1月8日 第3種郵便物認可

    一般社団法人 日本空調衛生工事業協会

    「空衛」平成30年10月10日発行・第72巻第10号  昭和38年1月8日 第3種郵便物認可  コード番号 5784 ISSN 0285-5941

    2018 vol.72http://www.nikkuei.or.jp/

    特 集

    蒸気・還水配管

    空 衛

    空衛:第72巻第10号 平成30年10月10日発行 毎月1回10日発行 昭和38年1月8日 第3種郵便物認可

    一般社団法人 日本空調衛生工事業協会

    くう       えい

    「空衛」平成30年10月10日発行・第72巻第10号  昭和38年1月8日 第3種郵便物認可  コード番号 5784 ISSN 0285-5941

    一般社団法人

     日本空調衛生工事業協会

    特集

     蒸気・還水配管

    10

      衛

    3.3mmファイル名:フォルダ名:拡大縮小率:(なし =100%)更新日:アプリ:

  • 機関誌委員会

    空 衛第72巻 10月号

    目 次

    発行:一般社団法人 日本空調衛生工事業協会〒104-0041 東京都中央区新富2-2-7 空衛会館3階TEL. 03-3553-6431   FAX. 03-3553-6786URL http://www.nikkuei.or.jp/印刷:日本印刷(株)

    「空 衛」第72巻・第10月号(無断転載を禁ず)平成30年10月10日発行頒布価格 500円(消費税込み)●会員、賛助員の方は、会費をもって購読料に充当します。

    シリーズ安全衛生保護具(2)保護帽に関する正しい知識(下)……………………………… 44

    TOPICS【団体での取り組み】第10回配管技能コンテストの開催(大阪空衛協会)… …… 51

    行政情報平成29年度「技能検定」の実施状況と「配管」職種の概要について…………………………………… 54

    協会情報(一社)日本空調衛生工事業協会「第23回 全国事務局代表者会議」 開催…………………… 57平成30年度…独立行政法人等への直接発注陳情活動………… 59平成30年度「登録ダクト基幹技能者講習」のご案内……… 60

    情  報講習会・研修会・セミナー・イベント情報………………… 64

    統計情報管工事受注高調査結果………………………………………… 66

    《空衛日誌》 68《空衛俳壇》 『水遊』『空蝉』『夏霧』『烏瓜の花』 69《読者アンケート》 70

    特 集

    蒸気・還水配管特集にあたって… 21.はじめに… 32.蒸気とは… 33.蒸気・還水配管システム… 54.配管口径の選定… 65.管材・付属品… 96.配管施工上のポイント… 227.おわりに… 42

    委 員 長主 査委  員

    〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

    加賀美   猛 (新菱冷熱工業(株))千 田 公 男 (新菱冷熱工業(株))井 上 雅 博 (三機工業(株))上 野 孝 之 ((株)朝日工業社)加 藤 健一郎 (斎久工業(株))鹿 又 一 秀 (ダイダン(株))坂 本 修 一 ((株)大気社)竹 島 規 夫 (新菱冷熱工業(株))田 中 隆 之 (高砂熱学工業(株))土 肥 英 晴 (須賀工業(株))中 野   昭 (大成温調(株))松 本   潤 (川崎設備工業(株))三 舟 敏 夫 (三建設備工業(株))宮 崎   敦 (川本工業(株))

    空衛_1810_P01_目次_初.indd 1 18/09/27 14:00

  • 特集にあたって

    最近の空調設備は、マルチパッケージによる空調システムの採用

    が圧倒的で、冷温水を使用した空調システムでさえ減少傾向にあり

    ます。更に、蒸気の採用は大変少なくなっていますが、工場・病院・

    ホテルといった用途では、現在でもプロセス系や滅菌・厨房用に蒸気

    を採用する事例が多く、大規模コージェネレーションや二重効用吸

    収冷凍機・タービン駆動冷凍機などでも蒸気の需要が見込まれます。

    蒸気は、冷温水、冷却水などと異なり、気相・液相と状態変化し、

    蒸気・還水と異なった性状を示します。また、高温高圧といった特殊

    性もあり、システム、管材・付属品、溶接、伸縮・支持対策、通気・

    フラッシング要領に対する適切な対応が求められます。これらの対

    応を誤って設計・施工すると、スチームハンマや支持架台の損傷・逸

    脱、配管の腐食などの諸問題が発生し兼ねません。

    そこで、今回特集では、蒸気及び還水配管にスポットを当て、基

    礎から施工上のポイント、注意点に至るまでを紹介します。本特集

    が蒸気・還水配管設計・施工時の一助となれば幸いです。

    機関誌委員会

    蒸気・還水配管

    ― 2 ― 「空衛」2018年  10月号

    蒸気・還水配管特集

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  • 1.はじめに蒸気・還水配管は一般に扱う冷温水・冷却水配管と異なる要素が多いため、本稿では、始めに蒸気・還水の特徴を概説します。その特徴を理解した上で、設計及び施工を行うにあたり、必要と思われるシステムの概要、配管口径の選定方法、管材・付属品の仕様・特徴、施工上のポイントを紹介します。

    2.蒸気とは水は温度、圧力によって液相、気相及び固相に状態変化するが、一般には『水』、『蒸気』、『氷』として身近に使用されている。その内、水・蒸気について、温度と圧力の関係を示したものが図-1である。通常、大気圧0.1MPaの場合、100℃で沸

    騰し、蒸気と水が同時に存在する状態になる。この状態を飽和状態といい、その蒸気を飽和蒸気という。その際の温度が沸点で、高地で大気圧が0.1MPaより低く場合、沸点が低下することは、良く知られている。逆に圧力が増加すると沸点は高くなる。この圧力の変化に伴う飽和蒸気の沸点を表したものが飽和蒸気曲線である。飽和蒸気曲線より温度が低いエリアは液相の水で、飽和曲線より温度が高いエリアは気相の過熱蒸気を表す。飽和蒸気は、圧力と温度が一義的に決まり圧力制御が簡易であり、潜熱の利用が可能で伝熱面積を小さくできることから、空調・衛生設備を含め、各分野で幅広く採用されている。過熱蒸気は飽和蒸気を更に加熱した沸点を超える高温蒸気で、蒸気タービンを駆動源とする大型ターボ冷凍機や発電機に使用されることが多い。蒸気タービンは凝縮水による機械的侵食作用(エロージョン)を嫌うため、過熱蒸気の乾き部分(顕分)のみを利用するためで、使用した蒸気は減温減圧し、更に吸収冷凍機や温水・給湯の昇温、その他プロセス系として飽和蒸気の潜熱分まで利用し、エネルギーの有効利用が図られることが多い。表-1に示す飽和蒸気表は、飽和蒸気の温度、圧力、比体積、密度、比エンタル図-1 飽和蒸気曲線

    「空衛」2018年  10月号 ― 3 ―

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  • ピ、比エントロピの物性値を表す。なお、表-1は0℃〜200℃の範囲(温度基準)で10℃毎の値を記載したもので、詳細は蒸気表1999(日本機械学会編)⒜を参照されたい。蒸気表は絶対圧力を基準としているが、一般的に圧力計は大気圧をゼロとした大気基準の圧力計を使用するため、ゲージ圧力を併記している(本稿ではゲージ圧力を(G)と表記する)。図-2に示すように、飽和水はボイラで加熱し、潜熱量rを取得して気化し、飽和蒸気になる。逆に飽和蒸気は熱交換器で潜熱量rを放出して凝縮し、飽和水(還水)に戻る。潜熱量rは、飽和蒸気の比エンタルピh''から飽和水の比エンタルピh'を差引い

    た値で、これが蒸気の有効熱エネルギーとして利用できる熱量となる。100℃の場合、飽和水のh'=419.10kJ/kgに対して、飽和蒸気のh''=2675.57kJ/kgと大幅に増加し、利用可能な有効熱エネルギーは潜熱量r=h''-h'=2256.47kJ/kgとなる。熱交換した場合、飽和水1kgが1℃低下して得られる熱量は顕熱量4.2 kJ(≒419.10÷100)なのに対して、飽和蒸気1kgが飽和水に凝縮して得られる熱量は、潜熱2256.47kJとなり、これが蒸気利用最大のメリットといえる。蒸気表から実際に利用する飽和蒸気の温度又は圧力が分かれば、有効利用できる潜熱量rを求めることが出来る。

    表-1 飽和蒸気表⒜

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    蒸気・還水配管特集

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  • 3.蒸気・還水配管システム蒸気は圧力によって、低圧(0.1MPa(G)未満)と高圧(0.1MPa(G)以上)に大別され、その圧力に応じて図-3に示すような蒸気・還水配管システムを形成する。一般に低圧蒸気の場合、トラップ以降の背圧が低いため、小規模で実揚程差がある場合は重力還水方式を採用するが、還水タンクまで戻す背圧が得られない場合は真空給水ポンプを設置して強制的に返送する。ボイラから蒸気給気後、還水として戻って来るまで時間を要し、真空給水ポンプの保有水量では間に合わない場合は、還水タンク・ボイラ給水ポンプを併設する必要があ

    る。高圧蒸気の場合は、蒸気の背圧を利用して、還水タンクに戻す方式が一般的である。高圧・低圧併用方式の場合は、高圧系統と低圧系統で蒸気・還水ともに圧力が異なることから、蒸気・還水配管とも高圧・低圧別系統にする。高圧・低圧系統の還水配管を合流させる場合は、高圧蒸気の凝縮水を直接、低圧還水に送ると、凝縮水の一部が再蒸発し、低圧還水の流れを阻害することから、高圧蒸気の凝縮水を再蒸発蒸気と低圧還水に分離し、再蒸発した蒸気は低圧蒸気系統に接続して熱回収し、低圧還水は低圧系統の還水

    図-2 飽和水・飽和蒸気

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  • に接続する。この再蒸発蒸気と低圧還水に分離する装置をフラッシュタンクという(図-4参照)。

    4.配管口径の選定4.1 蒸気配管蒸気配管の口径を決定する場合、始めに許容圧力降下と制限流速の基準を設定する。標準的な配管系の全圧力降下と単位摩擦損失の許容値を表-2に示す。配管系の全圧力降下がボイラ初期圧力(G)の1/3以下で、単位長さ当たりの摩擦損失が許容値以下になるように口径を決める。標準的な制限流速を表-3に示す。蒸気と凝縮水の流れが逆になる逆勾配の場合や立て管の場合はスチームハンマを起こさないよう制限流速を抑えている。騒音を発生せずに管内に蒸気を流す場合の蒸気流速は40〜60m/s、最大75m/s程度である。配管用炭素鋼鋼管(SGP)の蒸気流量線

    図-4 フラッシュタンク⒝-1

    図-3 蒸気・還水配管システムの基本フロー

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    蒸気・還水配管特集

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  • 図を図-5に示す。この線図を用いれば、蒸気の圧力、流量、許容単位摩擦損失から、口径を選定できる。例として図中、Ⓐ蒸気流量=400kg/h、Ⓑ飽和蒸気圧(絶対圧)=300kPa(ボイラ

    圧力(G)=200kPa)、配管長L=300m、弁、エルボ等の局部抵抗相当係数k'=2の場合の口径を求める。許容圧力降下ΔPをボイラ圧力(G)の30%とすると、

    表-2 蒸気配管の許容圧力降下⒞

    図-5 蒸気流量線図⒞

    表-3 蒸気配管の制限流速⒟

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  • 許容単位摩擦損失R=ΔP/k'L=200kPa×0.3/(2×300m)=0.1kPa/m図中、Ⓐ、Ⓑの交点からⒸ(100kPa換算流量)を求め,Ⓓ単位摩擦損失R=0.1kPa/mとの交点Ⓔを求める。Ⓔから口径=65Aが選定される。流速は32m/sであるが、100kPaの飽和蒸気の場合であり、Ⓕ蒸気流速=32m/sとⒼ飽和蒸気圧(絶対圧)300kPaの交点から、Ⓗ300kPaに補正された流速=20m/sを求めることができる。

    表-3から、順勾配の場合、65Aの流速範囲(15〜30m/s)に適合していることが分かる。逆勾配では制限流速の9m/sを超えてい

    る。この場合は逆手順でⒽの補正流速9m/SからⒻ蒸気流速=14m/sを求め、ⒸⒺ間と蒸気流速=14m/sの交点から、口径=100Aになることが分かる。

    4.2 還水配管(1) 低圧還水低圧還水の配管容量に関しては、表-4に示すとおり、ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)で定めた湿式、乾式及び真空式の許容還水容量を利用することが多い。圧力降下は、蒸気配管の選定時と同じ許容単位摩擦損失を用い、口径を選定する。乾式配管は、凝縮水と再蒸発蒸気が混合した気液

    表-4 低圧還水配管容量⒠

    表-5 高圧還水配管容量⒠

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    蒸気・還水配管特集

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  • 二相流の状態である。

    (2) 高圧還水高圧還水配管の場合も、主に扱われているASHRAEの基準(表-5)を紹介する。圧力降下は、蒸気配管の選定時と同じ許容単位摩擦損失を用いて口径を選定するが、蒸気圧力が200kPa(G)の場合は100Pa/m以下、500kPa(G)の場合は200Pa/mで選定することが多い。因みに、4.1蒸気配管の事例(蒸気流量=400kg/h、ボイラ圧力(G)=200kPa)の場合、圧力降下を100Pa/mとして、表-5から還水配管の口径を求めると32Aになる。この場合、順勾配の蒸気配管口径=65Aに対して、還水配管の口径は約1/2になる。

    5.管材・付属品5.1 管材

    表-6に主に使用する管材の種類を示す。蒸気配管及び還水配管として一般には鋼管を使用するが、腐食性を考慮して、配

    管用炭素鋼鋼管SGPは耐溝状腐食電縫鋼管、圧力配管用炭素鋼鋼管STPGは継目無鋼管の使用を推奨する。炭素鋼鋼管に亜鉛めっきを施した白管を蒸気・還水配管に使用した場合、高温のため亜鉛が溶出し、溶接時も溶接の欠陥及び作業環境の悪化の原因となる亜鉛蒸気を発生するため、必ず黒管を使用する。還水配管にはステンレス鋼管を使用する事例もあり、公共建築工事標準仕様書⒢では、還水配管用として一般配管用ステンレス鋼鋼管の使用を認めている。同ステンレス鋼管は肉厚が薄いので、圧力の高い系統には配管用ステンレス鋼鋼管を使用する。STPGの肉厚はスケジュール番号で規定されており、次式により決定する。Sch番号=P(圧力kPa(G))/S(配管許容応力N/mm2)参考として、P=0.6MPa、STPG370(S=370 N/mm2)、安全係数4の場合のSch番号を求める。Sch番号=0.6×1000/(370×(1/4))=6.5

    表-6 蒸気・還水の主な管材

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  • STPGの種類としては、Sch10(350〜650A)、Sch20(50〜650A)、Sch30(200〜600A)、Sch40(6〜550A)、Sch60(6〜500A)及びSch80(6〜500A)があり、Sch番号=6.5、口径=50AならばSTPG-Sch20の配管を採用することになる。ただし、50A 以下では SGP と STPG-Sch40の肉厚差があまり変わらない為、50A以下はSTPG-Sch80、65A以上はSTPG-Sch40を採用する事例が多い。

    5.2 保温材(1) 保温材の物性蒸気配管の保温材には、ケイ酸カルシウム、ロックウール、グラスウールが一般的に使用されている。代表的な保温材の物性値を表-7に示す。なお、蒸気配管にグラスウールを使用した場合、高温で長期間経過すると、収縮、形状保持が困難な状態になるおそれがある。

    (2) 保温厚さJIS A 9501「保温保冷工事施工標準」⒡で

    は、経済的保温厚さという観点から保温仕様を規定している。これは保温工事のイニシャルコストと運用時の熱放出量によるランニングコストを比較し、最も経済的な保温厚さを算出しようというもので、経済的な保温厚さを、「一年間の施工価格と放散熱量相当の熱価格との金額の和が最小となるときの保温厚さ」と規定している。なお、同規格では、冷水配管のように表面結露を生じさせない保温厚さも別途規定している。同規格では、年間使用時間4000時間、8000時間における経済的な保温厚さを掲載しており、代表的な保温材の厚さを表-8に示す。蒸気配管の保温材厚さに関して、SHASE-S010空気調和・衛生設備工事標準仕様書⒤及び公共建築工事標準仕様書⒢で

    表-7 保温材の物性⒡

    ― 10 ― 「空衛」2018年  10月号

    蒸気・還水配管特集

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  • は、共にJIS A 9504「人造鉱物繊維保温材」のロックウール、グラスウールと定めており、保温厚は表-9のとおり規定している。なお、公共建築工事標準仕様書は蒸気

    圧0.1MPa未満の場合の保温厚を規定しており、0.1MPa以上の蒸気に関しては、特記で定めるとして保温厚を明記していない。

    表-9 標準仕様書の保温厚例⒤,⒢

    表-8 経済的な保温厚さ⒡

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  • (3) 保温施工範囲蒸気配管系では、配管は保温するが、弁類、フランジ部は保温しない場合が多い。これは蒸気の通気・膨張に伴い、増締め(ホットボルティング)を行うためである。また、還水配管系は再蒸発防止の観点から保温しないことが多い。ただし、最近は省エネルギー性、作業エリアの高温環境改善を考慮し、保温を行う事例が多い。その際、蒸気トラップ本体は保温することに不向きな製品もあるので、製造者に保温の是非を確認する。弁類、フランジ部は保守メンテナンス性を考慮して、脱着が容易な保温ラッキングを検討する(写真-1、2参照)。

    5.3 ガスケット・ボルトナット(1) ガスケット蒸気系はガスケットが破断すると、大量に蒸気が漏洩し、物的被害だけではなく、人的被害を及ぼすことが懸念される。選定をあたっては、蒸気の最大使用圧力・温度、耐用年数を確認し、適性なガスケットを決めることが求められる。蒸気・還水配管のガスケットを選定する際の参考として、空気調和・衛生工学会のガイドライン⒣の選定例を紹介する(表-10参照)。表では、ガスケット座として、平面座(R.F.)、スタブエンド、つば出し加工及び全面座(F.F)に関して、炭素鋼鋼管及びステンレス鋼鋼管の適合するガスケットを抜粋している。一般に蒸気・還水配管では、全面座フランジ、全面形ガスケットは使用せず、平面座フランジ及び平面形ガスケットの組み合わせを採用する。ガイドラインでは、0.1MPa(G)を超える蒸気は外輪付うず巻形のガスケット、0.3MPa(G)を超える蒸気は内外輪付うず巻ガスケットを選定している。公共建築工事標準仕様書⒢においても、0.1MPa(G)以上の蒸気に対しては、外輪付または内外輪付うず巻形ガスケットの使用を規定している。基本的に、蒸気配管のガスケットには、外輪付き渦巻き(セミメタリック)の使用を推奨する。ステンレス鋼鋼管の還水配管には、つば出し加工の採用例が多く、その際はふっ素

    写真-1 パッチン錠止め

    写真-2 フレキシブル製品

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    蒸気・還水配管特集

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  • 表-10 ガスケットの選定⒣,⒥

    「空衛」2018年  10月号 ― 13 ―

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  • 樹脂(PTFE)系被覆ガスケットを使用する。ただし、100℃以上ではPTFEがクリープを起す可能性があり、実際の使用温度は100℃程度である。また、ガイドラインの資料では、ジョイントシートの使用も可能としている。同ガイドラインでは、各種ガスケットの推奨厚さを表-10に示すとおり記載している。

    (2) ボルト・ナットボルト・ナットは、通常、材質がSS400のものを使用するが、うず巻形ガスケットを使用するときは、必要な最小締付面圧が他のガスケットと比較して高いので、SS400を使用すると破断することがある。従って、必ず高張力(ハイテン)ボルト・ナット(SNB7又は同等品)を使用する。ボルト・ナットには表面処理をしたものもあるが、蒸気・還水配管には、一般に『黒』と呼ばれ、原材に防錆油を塗布したものを使用する。

    5.4 弁類(1) 一般弁蒸気配管に使用する一般弁の適用例として、国土交通省・機械設備工事監理指針⒦

    の規格適用から抜粋・編集したものを表-11に示す。一般にはダクタイル鋳鉄弁などが多用される。

    基本的に、蒸気の手動弁はスチームハンマを起こさないよう、微開による小流量調整が難しい仕切弁、バタフライ弁は使用せず、小流量調整に適した玉形弁を使用する。ただし、低圧蒸気(0.1MPa(G)未満)の場合は、利用差圧が小さいため、玉形弁に比べて圧力損失の小さい仕切弁が使用されることが多い。蒸気系の逆止弁には、リフト式、スイング式が主として使用される。なお、リフト式は水平設置のみ、スイング式は水平及び垂直方向の設置が可能であるが、垂直方向は下から上への流れ方向に限定される(図-6参照)。

    図-6 逆止弁

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    蒸気・還水配管特集

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  • 表-11 一般弁の適用例⒦

    「空衛」2018年  10月号 ― 15 ―

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  • (2) 蒸気減圧弁一般の建築設備では、0.8MPa程度の高圧蒸気を必要とする二重効用吸収冷凍機から0.1MPa以下の低圧蒸気で賄える給湯・加湿用蒸気まで、幅広い圧力の蒸気を利用する。蒸気の使用圧力毎に熱源を設置することは現実的ではなく、通常、最高使用圧力の蒸気を製造し、各使用圧力に応じて蒸気を減圧して使用する。この蒸気の減圧に減圧弁が用いられる。減圧弁は、一次側圧力の変動に左右されず、二次側圧力を一定に保持し、二次側要求流量を供給することが求められる。減圧弁に関しては、SHASE S106 減圧弁⒧で規格化され、表-12に示すように、仕様が規定されている。同規格では減圧弁の作動形式は直動式またはパイロット作動式とし、二次側圧力検出形式は内部検出形または外部検出形としている(図-7参照)。蒸気の最大・最小流量範囲が広く、減圧

    弁1個では選定できない場合は、大小2個の減圧弁を並列に設置する親子弁方式を採用する。また、減圧の差圧が広く、減圧弁1個では選定できない場合は、制御性・騒音の面からも、減圧弁を2個直列に設置する二段減圧方式を採用する。

    (3) 自動制御弁蒸気の自動制御弁は大きく自力式制御弁と他力式制御弁に分けられる。自力式は温度・圧力・流量などの設定変動が少なく、高い制御精度が要求されない場合に使用されることが多い(図-8参照)。他力式は温度・圧力・流量などのプロセス変数をとらえる発信器とコントローラを介して指令信号を受け取り、流体を任意の値に制御することができる。駆動部の形式として電動式と空気式があるが、一般に電動式は作動時間が遅く、空気式は作動時間が速い。ただし、電動式の場合は配線の敷

    表-12 減圧弁の規格⒧

    ― 16 ― 「空衛」2018年  10月号

    蒸気・還水配管特集

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  • 図-7 減圧弁の構造・形状例⒧

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  • 設で済むが、空気式の場合は空気源装置及び圧空配管の敷設が必要になる(図-8参照)。減圧弁と同様、蒸気の最大・最小流量範囲が広く、制御弁1個では選定できない場合は、大小2個の制御弁を並列に設置する親子弁方式を採用する。

    5.5 蒸気トラップ蒸気は放熱することにより気体から液体に凝縮するが、この凝縮水が蒸気配管内に滞留すると、蒸気の流れを閉塞し、スチームハンマの原因となるので、できるだけ速やかに蒸気配管から排出する必要がある。この蒸気から凝縮水のみを分離・排出する役割を蒸気トラップが担う。

    図-8 自動制御弁例⒨

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  • 蒸気トラップは種類が多く、それぞれに特徴がある。トラップの作動原理から次の形式に分類される。

    ① メカニカル式(フロート式、バケット式)   蒸気と凝縮水の密度差による浮力によって作動する。

    ② サーモスタチック式(ダイヤフラム式、ベローズ式、ワックス式、バイメタル式)   凝縮水の温度差によって作動する。

    ③ サーモダイナミック式(ディスク式、オリフィス式)   蒸気と凝縮水の熱力学・流体力学の特性差によって作動する。

    これら蒸気トラップ種類と特長として、国土交通省・機械設備工事監理指針⒦に掲載された一覧表を表-13に示す。排水能力と連続・間欠排水、使用圧力、ウォータハンマの対応性を考慮の上、用途に適合した形式を選出する。一般的にフロート式は排出能力の範囲が広く、連続的に凝縮水を排水でき、機器トラップとして多用されている。バケット式は間欠的に排水するが、凝縮水の滞留は無く、排出能力も範囲が広いため、配管トラップ、機器トラップとして良く使用されている。ダイヤフラム式は蒸気の飽和温度より低

    い温度で弁を開閉するので、蒸気を漏らさない。密閉エレメントのため、高温高圧には不向きで、大容量にも適さない。ベローズ式、ワックス式は低圧向きで排出能力が小さく、真空式の還水配管に使用されることが多い。バイメタル式は排出温度を調整できるため、蒸気を漏らさず、排出音も小さいが、中・大型蒸気機器には不向きである。ディスク式は小型・軽量で、使用圧力範囲が広いが、蒸気損失が大きく、背圧の使用制限があり、主として管末トラップに使用される。オリフィス式は稼動部品がなく、メンテナンスが不要だが、固定オリフィスのため、圧力変動や負荷変動に対応しにくい。なお、バイパス付は、表中、長所として

    「1.バイパス配管が省略でき、配管施工コストが低減できる。」と記載されているが、内蔵されたバイパス回路は立ち上り時の凝縮水排出用であり、トラップの故障・交換時にはバイパス機能が役立たないので、バイパスを設けるよう検討すべきである。

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  • 表-13 蒸気トラップの種類と特長(1/2)⒦

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  • 表-13 蒸気トラップの種類と特長(2/2)⒦

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  • 6.配管施工上のポイント6.1 配管溶接

    (1) 配管の溶接法建築設備関連の配管で用いられる溶接法としては、主として被覆アーク溶接とTIG(Tungsten Inert Gas)溶接があげられる(図-9参照)。被覆アーク溶接は最も良く使われる方法で、被覆アーク溶接棒を溶接棒ホルダに挟

    み、溶接棒の先端と配管との間でアークを発生させ、溶接を行う。TIG溶接はアルゴンなどの不活性ガスをシールドガスとして用い、非消耗のタングステンを電極として、タングステン電極と配管間にアークを発生させ溶接するものである。被覆アーク溶接と比べて、溶接金属の清浄度が高く、一般にじん性、延性、耐食性に優れ、溶接金属の表面が酸化されに

    図-9 溶接法の種類⒩

    (a)被覆アーク溶接 (b)TIG溶接

    図-10 溶接の種類

    (a)突合せ溶接 (b)すみ肉溶接

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  • くいため、スラグが発生しない光沢のあるビートを得ることができる。一般の配管溶接には、図-10に示すよ

    うに突合せ溶接とすみ肉溶接がある。突合せ溶接は配管の肉厚により、表-14に示すように溶接の開先形状が規定されている。配管の突合せ溶接は配管外面からの片側溶接で行われる。この場合、重要なことは、初層(第1層)溶接で裏面まで完全に溶け込む裏波ビートを形成することである。この裏面への溶け込みは、被覆アーク溶接よりTIG溶接の方が深く能率も高いことから、初層TIG溶接、2層目以降被覆アーク溶接という組合せがよく採用される。

    ステンレス鋼管の溶接は、溶接部の酸化を防ぐことが必須であるため、一般にTIG溶接が用いられる。ただし、TIG溶接は配管表面をシールドガスで覆い、溶接部の酸化防止を図るもので、配管内面側の溶接部は空気にさらされる。そこで、配管内にアルゴンガスなどを封入し、配管裏面溶接箇所の酸化を防ぐバックシールドを行う必要がある(図-11参照)。

    図-11 配管のバックシールド

    表-14 開先形状一覧⒪,⒤

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  • なお、ステンレス鋼管の現場溶接は、開先加工、バックシールド、仮設電源による電流値変動、風速・気温など品質管理が難しいため、工場溶接を行うことを推奨する。

    (2) 溶接資格配管の溶接は、原則としてJIS Z 3801 手溶接技術検定における試験方法及び判定基準⒫に規定されたN-2P(150A(Sch80))、N-3P(200A、250A)の試験合格者またはこれと同等以上の有資格者が行う。

    (3) 溶接検査溶接部の欠陥の検査方法として、放射線透過試験、超音波探査試験及び浸透探査試験について紹介する。なお、全溶接箇所の検査を行う場合と全箇所数の5〜10%程度を任意に選択して検査する場合がある。

    ① 放射線透過試験溶接部に放射線を照射し、フィルムに届く強度差により欠陥の種類、位置、大きさを探査することができる(図-12参照)。

    放射線を照射するため、立ち入り禁止措置などの安全対策が必要になる。

    ② 超音波探傷試験溶接部に超音波を発生させる探触子を直接当て、その反射波を探知することで、内部欠陥の位置、大きさを調べる方法である(図-13参照)。放射線透過試験のような安全対策は不要である。

    ③ 浸透探傷試験溶接部の表面の欠陥を短時間で容易に検出できる簡易検査法で、すみ肉溶接部や放射線透過試験が困難な場合によく用いられる。浸透力の強い油に可視塗料や蛍光塗料を含有させた試験液を用いて、溶接部の表面欠陥内に浸透させ、割れ、アンダカットなどを検出する。

    なお、溶接に関しては当機関誌「空衛」2017年12月号の特集「配管溶接接合」⒩を参照されたし。

    図-13 超音波探傷試験⒩

    図-12 放射線透過試験⒩

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  • 6.2 配管ドレン対策(1) 配管ドレンによる障害蒸気配管は放熱ロスによりドレンが発生し、適切に配管トラップが設けられていない場合、ドレン溜まりが発生し、蒸気の流れを阻害する。このドレン溜まりが配管の曲がりや分岐、弁類など障害物に当ると、運動エネルギーが圧力エネルギーに変換され、障害物に圧力衝撃を加え、振動、騒音を発生させ、配管の破損に至ることもある。この障害をスチームハンマと言い、発生させないためには、直管のこう配、トラップ装置の設置間隔を適正に取り、配管局部や制御弁の手前にもトラップ装置を設ける必要がある(図-14、15参照) 。

    次に配管におけるドレン対策を紹介する。

    (2) 蒸気配管分岐部蒸気主管からの分岐管取出しは、主管内の凝縮水が流入しないように、図-16(a)に示すとおり上向き取出しとする。なお、分岐の横走り配管が10m以上になる場合は、先下りこう配とし、トラップ装置を設ける。やむを得ず、下向き取出しにする場合は、図-16(b)に示すとおり立上り管下部に管末トラップを設ける。

    (3) 蒸気配管立て管部蒸気主管の立て管部は、凝縮水を排出で

    図-14 ドレン溜まりの形成⒝-3

    図-15 スチームハンマの発生箇所⒝-3

    図-16 蒸気配管分岐部

    (b)下向き取出し

    (a)上向き取出し

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  • きるよう、図-17(a)に示すとおりドレンポット、トラップ装置を設け、最下部には排泥弁を設ける。蒸気主管を止められない場合はトラップ装置の前に仕切り弁を設ける(図-17(b)参照)。

    (4) 蒸気配管横走り管蒸気主管の横走り管は図-18に示すよ

    うに、30mに一箇所程度トラップ装置を設け、還水配管に接続する。口径の大きく、蒸気主管の立上り管が設けられない場合は、図-19に示すように、横走り管にドレンポットを直接設ける。この場合の蒸気主管の口径D1とドレンポットの口径D2及びトラップ装置への取出し配管の深さHの寸法例を表-15に示す。

    図-18 蒸気配管横走り管トラップ装置設置図⒝-2

    図-19 蒸気配管横走り管ドレンポット設置図

    表-15 ドレンポット標準寸法⒬

    図-17 蒸気配管立て管部

    (b)主管が止められない場合(a)一般

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  • (5) 蒸気配管径縮部蒸気横走り順こう配配管の口径を縮小する場合は、図-20に示すように凝縮水が支障なく流れるよう偏心異径継手を使用し、下面合せとする。

    (6) 蒸気・還水配管こう配配管内の凝縮水が支障なく排出されるよう、表-16に示す配管こう配を遵守する。

    (7) トラップ装置トラップ装置の配管要領を図-21に示す。バイパスも同径とし、ストレーナ、玉形弁は凝縮水が滞留しないよう水平に設ける。終日運転系統の場合は、トラップを並列で設ける。なお、前述したとおり、バイパス回路を

    内蔵したトラップがあるが、立上り時の凝縮水排出用であり、トラップ故障・交換時にはバイパス機能が役立たないので、バイパスを設ける。低圧はバルブ類がGVとなっているが、SVの使用も検討する。ダートポケット・トラップ間は冷却用に1200mm以上の離隔(冷却レッグ)を設ける。初めて蒸気配管に通気すると、配管の昇温に使用された蒸気が凝縮され、多量の凝縮水が発生する。この初期通気はフラッシングを兼ね、ダートポケットの水抜き弁(20AGV)にて、蒸気がある程度出てくるまで排水し、その後、配管トラップ通気に移行する。従って、水抜き弁の排水先は、凝縮水を飲み込め、放出される蒸気が支障

    図-20 蒸気配管径縮部

    表-16 蒸気・還水配管こう配⒤

    図-21 トラップ装置⒪

    (b)高圧トラップ装置(a)低圧トラップ装置

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  • を来たさないよう、ホッパーに蓋を設けるなど考慮する必要がある。

    (8) リフト継手真空還水方式の場合、立ち上り還水配管には、図-22に示すリフト継手を使用する。リフト継手の吸上げ1段当たりの高さは、1500mm以内とし、立て管は横走りの真空還水配管より1サイズ口径を小さくする。

    (9) 還水配管の接続還水枝管を主管に接続する場合は、上部接続とする。蒸気コイル、熱交換器は流量制御弁で減圧されるため、背圧が高い場合や真空還水方式の場合は問題ないが、背圧が十分に得られない場合は、スチームハンマ、蒸気コイルの凍結、腐食の原因となるので、還水配管を立ち上げてはならない。還水接続配管で逆流の可能性がある場合は、トラップの下流側に逆止弁を設ける(図-23参照)。

    (10) 凝縮水量の算出配管トラップの排出能力は、機器の熱交換能力によるものと、配管のドレン量によるものに分けて算出する。それぞれの算出方法を次に示す。

    ① 機器QM=3.6・H・S/γQM :トラップの排出能力(kg/h)H :機器熱交換能力(W)γ :蒸気の潜熱(kJ/kg)S  :安全係数(=3)

    図-22 リフト継手⒝-2

    図-23 還水配管接続部

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  • ② 配管QP=(M(T1-T0)・CS/γ)・(60/τ)・SQP :トラップの排出能力(kg/h)M :配管の総質量(kg)T1 :蒸気温度(℃)T0 :通気前温度(℃)CS : 比熱(kJ/(kg・K))(=0.477 (鋼

    管))τ : 立上り時間(分)(通常15分程度)S  :安全係数(=3)

    参考に、安全係数S=1として、配管STPG Sch40の凝縮水量算出値を表-17に示す。蒸気配管の通気開始時、表-17に示す多量の凝縮水がこの配管トラップに流れる

    が、配管昇温後は定常状態となり、断熱された配管の熱損失分のみが凝縮水としてトラップで処理されるようになる。

    6.3 配管伸縮・伸縮継手(1) 配管の伸縮量配管の長さは温度差にほぼ比例して伸縮する。この係数を線膨張係数といい、膨張量は次式で求めることができる。ΔL=α(T1-T2)LΔL :配管膨張量 (m)α :材料の線膨張係数 (mm/m℃)T1 :配管にかかる最高温度 (℃)T2 :配管にかかる最低温度 (℃)L  :配管長さ (m)参考に配管10mあたりの膨張量を表-18

    表-17 配管の凝縮水量

    表-18 配管膨張量

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  • に示す。炭素鋼鋼管10mを100℃昇温すると、11.5mm伸びることが分かる。実際には、使用温度と取付け時の気温との差になるが、計算時の気温と異なることを考慮し、少なくても20%程度の余裕を見込む。

    (2) 両端固定の配管応力・固定端反力配管の温度が上昇しても、配管の両端が自由であれば、管は膨張するだけで問題ないが、両端を固定すると、配管は拘束され、圧縮応力が発生する。図-24に示すように、配管の両端を固定した場合に生じる配管応力及び固定端に発生する反力は、次式で求めることができる。表-19にはヤング率の例を示す。

    σ =Eα(T1-T2)F =σA/106

    σ :配管応力 (Pa) E  :ヤング率 (Pa)F :固定端反力(N)S  :管肉断面積(mm2)

    炭素鋼鋼管STPG370-Sch40 100A(S=2041 mm2)の場合、E=2.06×1011Pa、α=1.15×10-5mm/mm℃、温度差を100℃として、配管応力σ及び固定端反力Fを求める。σ =2.06×1011×1.15×10-5×100  =2.37×108Pa  =237MPa (=237N/mm2)F =237×2041 =483700Nこの場合、配管応力σは圧力配管用炭素鋼鋼管STPG370の許容引張応力(92.5N/mm2=92.5MPa)の2.5倍以上になり、固定端に働く反力は約48Tonに達する。従って、配管の温度変化に対して、配管が変形・座屈したり、配管支持部が破壊しないよう、配管伸縮を吸収する方策を講じることが必要になる。一般に、配管の熱応力計算は、ANSI/ASME B31.1(Power Piping)⒭に準拠する。配管応力、支持反力が満足しない場合は、配管の振り回し、拘束位置、拘束条件(固定、1軸〜3軸拘束、スプリング支持など)、伸縮継手など条件を変更し、試行錯誤の上、応力、反力を満足する結果を得ることが求められる。単純な配管は簡易な計算手法で検討できるが、複雑な配管は手計算で行うことが困

    表-19 ヤング率

    図-24 両端固定の配管応力・固定端反力

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  • 難であり、以前は、プログラムを自主開発するか、専門業者に依頼するしかなかったが、近年は、配管応力解析ソフトウエアとして開発されたAutoPIPE(ベントレーシステムズ)、CAESARⅡ(日本インターグラフ)、CAEPIPE(エヌ・エス・ティ)などの利用も考えられる。

    (3) 配管熱応力の必要性の判定基準両端が固定点の配管系であっても、エルボが多用され、適度に伸縮に対応し、配管応力が許容応力を満足できれば問題ない。ANSI/ASME B31.1(Power Piping)⒭で

    は、配管熱応力の検討が必要か否かを判定する式として、次のとおり規定している。DY/(L-U)2≦205D:配管径 (mm)Y:配管で吸収すべき全伸縮量 (mm) Y=((Δx+Δx’)2+(Δy+Δy’)2+(Δz+Δz’)2)1/2 Δx、Δy、Δz:x、y、z方向の伸縮量 (mm) Δx’、Δy’、Δz’: x、y、z方向の固定点変位量 (mm)L:配管の全長(m)U:固定点間距離(m)参考に配管100A、伸び量1mm/m、固定点の変位が無い場合として、図-25に示す配管系で計算すると、判定式を満足しており、配管応力の検討は不要となることが分かる。

    D =114.3mmY =(42+32+12)1/2=5.1mm DY/(L-U)2 =114.3×5.1/(8-5.1)2  =69.3≦205

    (4) 配管伸縮の吸収方法ここでは配管伸縮に対する主な吸収方法を紹介する。なお、伸縮対策として伸縮継手の使用が連想されるが、伸縮継手は漏れの可能性があり、設置後のメンテナンスも必要となる。配管の振り回しやループ配管の採用、拘束点の条件変更などで対処するように検討し、それでも対処できない時に、最後の手段として伸縮継手を採用する。

    ① ベンド継手鋼管を図-26に示すように、U形や

    ループ状に曲げ、直管の中間に設置することで直管部の伸縮を吸収する機能を有するもので、エキスパンションループともいう。特にループ状のものをタコベンドという。

    図-25 判定式の参考例

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  • 溶接配管のベンド継手の必要長さLは次式⒝-4より求められる。L=(3EDδ/σC)1/2D :配管外径 (mm)δ :配管膨張量 (mm)σC :配管許容応力 (N/mm2)

    ② 枝配管の取出し主配管から枝管を取り出す場合、よくス

    リークッションと呼ばれるが、国土交通省・機械設備工事監理指針⒦でもエルボを3個以上、できれば4個以上使用することを推奨している(図-27参照)。なお、配管伸縮によって過大な熱応力が集中しないよう、拘束点直近の直管長さをなるべく確保する。長さが短いと曲げに対して応力集中が働き、変形、破損に至ることもある(図-28参照)。

    図-26 ベンド継手⒝-4 図-28 配管応力集中

    図-27 分岐配管施工例⒦

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  • ③ 伸縮管継手伸縮管継手は熱応力を機械的に吸収する継手で表-20に示すとおり、ベローズ形とスリーブ形に大別される。ベローズ形は内部に納められたベローズの伸縮によって配管の収縮を吸収するものである。ベローズは金属疲労による破損や材料の腐食などにより漏れる可能性がある。また、ベローズは一種のばねであり、支持点に伸縮によるばね反力が常時働く。スリーブ形は外筒の内部に伸縮する管と接続した内筒(スリーブ)を納め、管の伸縮に伴い内筒が移動して管の伸縮を吸収するものである。パッキン材で蒸気の漏れを防止しているが、パッキン材の摩擦や疲労

    劣化に対処する必要がある。充てん式はパッキン材を注入して使用耐用年数の延命が図れるタイプである。また、スリーブ形は、伸縮時、内筒の移動に伴い発生する摩擦力が支持点に反力として働くが、伸縮がおさまれば反力は解除される。

    ④ 変位吸収管継手変位吸収管継手は継手の許容回転角を利用し、複数の継手を組み合わせて伸縮量を吸収する継手である。表-21に示すとおり、ボールジョイントとスイベルジョイントがある。ボールジョイントは傾きと回転が可能な

    表-20 伸縮管継手⒮,⒯

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  • 表-21 変位吸収管継手⒰

    図-29 ボールジョイント3個の変位例⒰ 図-30 スイベルジョイント5個の変位例⒰

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  • 構造で、原則単体3個を組み合わせて使用する。スイベルジョイントは回転が可能な構造で、3個以上を組み合わせて使用する。それぞれの利用例を図-29、30に示す。

    6.4 配管支持配管支持には、3軸方向の変位、回転を拘束する固定点と1軸または2軸方向の変位と回転が自由な支持点に分けられる。固定点、支持点の事例を図-31、32に

    示す。固定点は熱応力の反力を受けるので、反力に応じた鋼材、アンカなどの部材選定や接合部の検討をする必要がある。支持点のシュー架台は軸方向・軸直方法

    を自由とし、垂直方向の自重を支持する架台である。配管の伸縮に対応してシュー架台は移動するので、伸縮量を事前に把握し、配管が脱落しないようシュー長さを考慮しておく必要がある。軸直方向にも移動するので、移動量を考慮してシューとガイドの離隔を取らないと、接触し、破断することも考えられる。また、初期状態から昇温・降温を繰り返すと、元の位置に戻らず、徐々に変位し脱落に至ることもあるので、余裕を持つ必要がある。シュー部分は配管に直接溶接されているため、熱伝導による放熱が発生し、熱損失となる。この熱損失を改善するため、配管とシューを切り離し、断熱材とシューを一体にした製品がある。シューの製作、配管との溶接作業も不要となるので、作業の効率化も図れる。吊り支持は、伸縮を吸収できるよう、吊りボルトは使用せず、チェーンを使用する。

    図-32 支持点架台

    断熱一体のシュー架台 吊り架台

    図-31 固定点架台

    シュー架台

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  • 6.5 弁装置回り① 減圧弁減圧弁は水平配管に対し垂直に設け、流れ方法を確認する。ハンチングや振動の原因となる凝縮水が減圧弁に流入しないよう、減圧弁の前にトラップ装置を設ける。減圧弁直後に設ける弁は流れを阻害しないようゲート弁とする。安全弁は減圧弁の下流側に設け、3m以上の離隔を取る(図-33参照)。

    減圧弁は騒音を発することを考慮して設置場所を決める必要がある。減圧弁を2段直列に設置する場合は、製造者指定の減圧弁間離隔距離を確保する。

    ② 自動制御弁自動制御弁も減圧弁と基本的には同じで、制御弁前に凝縮水の流入を防ぐトラップ装置を設ける(図-34参照)。

    図-34 自動制御弁装置

    図-33 減圧弁装置

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  • ③ 圧力計蒸気用圧力計は感圧部の温度が高温にならないよう、凝縮水を溜めることができるサイホン管を取り付ける。圧力計の取替え時、コックを使用するが、蒸気側に玉形弁(15Aまたは20A)を設ける方が望ましい(図-35参照)。通常、使用圧力の1.5倍〜2倍程度の圧力計を選定する。

    ④ 安全弁安全弁と排出管は間接接続とし、排出管内径は安全弁出口径よりできるだけ大きくとり、その長さはなるべく短い距離で、かつ曲がりを避ける。安全弁の吹出し中は排気による反力を受けるので、安全弁取付部や排出管は十分な強度を持たせる必要がある。放出先は蒸気の放出の他、爆音を発す

    ることもあり、屋外や安全な場所を選ぶ必要がある。蒸気放出時は大量のドレンが発生する。また、外部から雨水が流入するおそれもあるため、排出管の立て管下部や横引管にはドレン抜きを設け、排水溝まで導く(図-36参照)。

    6.6 圧力試験配管の圧力試験には、水圧試験と空気圧試験があり、国土交通省・機械設備工事監理指針⒦では、表-22に示すとおり、蒸気配管は水圧試験と規定している。ただし、水圧試験を行うと、炭素鋼鋼管は黒管を使用するので、発錆し、その後の通気・フラッシング時、所定の水質基準を満足するまで長期間を要することになる。これを防ぐためには、水圧試験用の注入水に防錆剤を混入させ、試験後は水を抜かず、配管内に空気を入れないことが鉄則である。従って、試験に使用した水をブローするのは、通気・フラッシングの直前に行う。

    図-35 蒸気圧力計

    図-36 安全弁⒝-4

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  • それでも、配管内の発錆は免れず、蒸気の通気・フラッシングには長期間を要することになるので、基本的には空気圧試験を行うことを推奨する。この場合、塞ぎフランジの吹き飛び事故などを起こさないよう十分注意する必要がある。空気圧試験の試験圧力は最高使用圧力の1.1倍で行うことが多い。空気圧試験終了後、配管末端部で開放すると、配管内の圧縮空気が高速で放出されるため、エアブローによるフラッシングを行うことができる。その際、圧縮空気は危険なので、放出先に注意する。空気圧試験後、通気・フラッシングまで長期間放置する場合は、窒素ガスを封入し、酸化抑制による発錆防止対策を施すとより効果的である。

    6.7 通気・フラッシング蒸気・還水配管の通気・フラッシングは、運用するボイラで発生した蒸気を用いて行う。従って、ボイラ本体の他、薬注装置や軟水・純水装置などの水処理装置、ボイラ給水ポンプを稼働し、通常使用する水処理

    剤を投入する。次に、蒸気・還水の通気・フラッシングの作業工程を説明する。

    ① 事前準備通気・フラッシングの実施前に次の準備・確認を行う。・ボイラ、給水ポンプ、水処理装置などの関連機器の稼働確認・通気・フラッシング系統の閉弁確認・蒸気・ブロー水の排気・排水先の確認(初期通気時、配管昇温に伴い、大量の凝縮水がブローされ、その後蒸気もある程度放出するので、仮設の耐熱ホースなどを設けて排水・排気先を確保する。)・伸縮継手のセットボルトを取外す。

    ② 蒸気配管の通気・フラッシング事前準備の確認を完了した後に、次の手順で蒸気配管の通気・フラッシングを行う(図-37参照)。・ボイラを稼働して昇圧し、所定圧力に達した段階で、ボイラの主蒸気弁を微開し、ボイラ〜ヘッダ間の通気・フラッシ

    表-22 試験方法と試験条件⒦

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    蒸気・還水配管特集

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  • ングを行い、その後、ヘッダの系統別に通気・フラッシングを実施する。   ヘッダの系統別配管径が大きく、微調整が難しい場合は、スチームハンマを起こす可能性があるので、小口径の暖気弁を設け、初期通気・フラッシング時に使用することを推奨する。・ボイラ接続部から徐々に配管が昇温されるので、ボイラ直近から下流に向け、順次、配管トラップ装置の水抜き弁(GV20A)にてブローする。・配管が昇温されると、凝縮水から蒸気混じりの凝縮水、蒸気のみのブローへと変化していくので、水抜き弁を徐々に絞り、ブローを行う。ブローした蒸気はウエスなどで受け、異物が出ないことを確認する。・配管が昇温すると、フランジ、バルブ類のボルト・ナットが膨張し、緩みが生じ

    るので、増締め(ホットッボルティング)を行う。従って、この段階まで、フランジ・バルブ類の保温工事は行わない。・蒸気の通気・フラッシングに伴い、スチームハンマの発生、蒸気の漏洩、配管固定点・支持点の変形、配管伸縮に伴う移動・脱落などの問題が発生していないか確認する。問題が発生した場合は直ちに対処する必要がある。・蒸気配管の通気が完了した後、負荷機器にも通気し、試運転で使用した蒸気は機器トラップ装置の水抜き弁にてブローし、異物が出ないことを確認する。

    ③ 還水配管のフラッシング還水配管のフラッシングは次の手順で実施する (図-37参照) 。・配管トラップ装置の水抜き弁にて、蒸気に異物が混入していないことが確認でき

    図-37 蒸気・還水の通気・フラッシング

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  • たら、直ちにトラップ装置のトラップを生かして、還水配管側に凝縮水を通水し、フラッシングを開始する。・配管のフラッシングは流量が多いほど、流速も増し、短期間で完了するので、負荷機器にも通気し、機器トラップの水抜き弁で異物の混入がないことを確認の上、還水配管側に返水し、フラッシングを行う。・蒸気配管と同様、還水配管も昇温後、増締め(ホットッボルティング)を行う。フランジ・バルブ類の保温工事もこの段階まで行わない。・通常状態では還水は全て還水タンクに戻すが、フラッシング段階では、水質基準を満足しないため、全量仮設系統で放流する。・還水は温度が高いので、下水道の排水基準を満足しない場合は、給水と混合冷却するなど対処する。・蒸気・還水配管の通気・フラッシングは、還水配管の下流末端(仮設放流部)で採水し、分析の結果、還水の水質基準を満足した段階で完了となり、還水槽に戻すことが可能になる。・水質の分析は専門業者や水処理業者などに依頼する。・水質基準は事業主体、設計監理者などの規定値を採用する。参考として、地域冷暖房施設のフラッシング時における還水水質基準例を表-23に示す。

    ・蒸気、還水配管のフラッシングが完了した段階で、トラップ装置、制御弁装置などの水抜き弁、ストレーナのゴミ出し、清掃を行う。

    6.8 腐食・防食一般に腐食反応に影響を与える因子としては、pH、溶存ガス(溶存酸素、二酸化炭素など)、溶解塩類の種類や濃度、温度、流速などの諸因子がある。蒸気・還水配管では、還水系における二酸化炭素及び溶存酸素を起因とする炭酸腐食、給水系における溶存酸素を起因とする腐食が問題になることが多い。これらの腐食に対して、復水処理剤や脱酸素剤を適切に使用することで対処できる。試運転調整時だけでなく、竣工引渡し後、施主の運用管理も含めた対応が重要となる。ここでは、還水系及び給水系の腐食について紹介する。

    ① 還水系の炭酸腐食⒱

    給水中の酸消費量pH4.8(炭酸水素塩)は、ボイラ内で熱分解して二酸化炭素(CO2)を

    表-23 還水水質基準例

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  • 発生させる。2NaHCO3 → Na2CO3+CO2↑+H2ONa2CO3+H2O → 2NaOH+CO2↑この二酸化炭素は蒸気とともに蒸気や還水系に移行し、蒸気が凝縮する際、凝縮水中に溶解し、炭酸(H2CO3)となる。CO2+H2O → H2CO3 ※1H2CO3 → H++HCO3-

    HCO3- → H++CO32-

    還水のように溶解塩類をほとんど含まない水は、 緩衝作用が小さいため炭酸のような弱酸が溶解してもpHは容易に低下する。 図-38には二酸化炭素の濃度とpHとの関係を示す。※1式で生成した炭酸は次式に示す反応で鋼を腐食する。Fe+2H2CO3 → Fe(HCO3)2+H2pH5以上で溶存酸素と炭酸が共存する場合には、次式に示すアノード反応とカソード反応によって腐食が進行する。(アノード)  Fe → Fe2++2e(カソード) 1/2O2+H2O+2e → 2OH-

    この時、炭酸は腐食反応に直接関与するわけでなく、遊離炭酸として存在することによってpHを低く保持し、腐食生成物の溶解度を高めて腐食を間接的に促進している。Fe2++2HCO3- → Fe(HCO3)2二酸化炭素による腐食とpHとの関係を図-39に示す。また、溶存酸素が還水系の腐食に与える影響を図-40に示す。

    図-38 二酸化炭素の濃度とpHの関係⒱

    図-39 二酸化炭素による腐食とpHの関係⒱

    図-40 溶存酸素が還水系の腐食に与える影響⒱

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  • 還水系の腐食を抑制するためには、 次に示すように適切な水処理剤を使用・管理することで対処できる。・pH調節(揮発性アミンなどの使用)・防食皮膜の形成(復水処理剤・皮膜性アミンなどの使用)・給水中の溶存酸素の除去(脱酸素剤などの使用)

    ② 給水系の腐食⒱

    給水のpHは通常、中性またはアルカリ性であるが、水中に溶存酸素が存在すれば、次に示す反応により鉄は溶出する。Fe → Fe2++2e1/2O2+H2O+2e → 2OH-

    Fe2++2OH- → Fe(OH)2ここで生成された水酸化鉄〔Fe(OH)2〕

    は更に溶存酸素と反応して水酸化鉄〔Fe(OH)3〕となる。4Fe(OH)2+O2+2H2O → 4Fe(OH)3給水系は比較的温度も低く、かつ付属設備もないため、 従来腐食はあまり大きな問題とはなっていなかったが、 最近は省エネルギー対策の一環として、給水熱交換型連続ブロー装置やエゴノマイザの設置、更には還水の回収が積極的に行なわれるようになり、給水配管の腐食が問題となっている。鋼の腐食に対する温度の影響を図-41に示す。 給水タンクのような開放系では約80℃までは温度の上昇とともに腐食量は増

    加する。また、給水系のような密閉系において連続ブロー装置やエゴノマイザで給水温度を上昇させると、温度の上昇に比例して激しい腐食が発生する。腐食の抑制には、溶存酸素の除去を目的とした脱酸素剤などの使用により対処できる。

    7.おわりに蒸気・還水配管に関して、概要を理解していただく上で重要と思われる内容を中心に紹介しました。蒸気は高温・高圧で一般の冷温水と比べて扱いにくいというイメージがありますが、蒸気の特性を理解し、適正な設計・施工を行えば、なんら難しいシステムではありません。搬送動力を必要とせず、コンパクトな熱交換器、配管設備で、潜熱という有益な保有エネルギーを享受できます。機会があったら、積極的に挑戦しましょう。なお、実際、蒸気・還水配管の設計・施工

    図-41 溶存酸素を含む水中での鋼材の腐食と温度の影響⒱

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  • を行う際には、各自、専門図書を熟読し、更に理解を深めた上で実施されるよう願います。

    【参考文献】⒜  1999 蒸気表JSME STEAM TABLES⒝-1 空気調和・衛生工学H11.6「蒸気と蒸

    気配管(3)」⒝-2 空気調和・衛生工学H11.5「蒸気と蒸

    気配管(2)」⒝-3 空気調和・衛生工学H11.9「蒸気と蒸

    気配管(6)」⒝-4 空気調和・衛生工学H11.8「蒸気と蒸

    気配管(5)」⒞  建築設備設計計算書作成の手引 平成

    21年版(国土交通省)⒟  空気調和・衛生工学便覧3 第14版⒠  2 0 1 7ASHRAE   Handb o o k -

    Fundamentals⒡  JIS A 9501-2014 保温保冷工事施工標

    準⒢  公共建築工事標準仕様書(機械設備

    工事) 平成28年版⒣  SHASE-G0016-2013建築設備配管に

    使用する管フランジ用ガスケットの選定ガイドライン

    ⒤  SHASE-S010-2013 空気調和・衛生設備工事標準仕様書

    ⒥  日本バルカー工業㈱ カタログ(写真、うず巻形ガスケット詳細図)

    ⒦  機械設備工事監理指針 平成28年版 

    (国土交通省)⒧  SHASE-S106-2005 減圧弁⒨  ㈱テイエルブイ 自力式温調弁TC8、

    蒸気用制御弁MC-COSR-3及び空気式制御弁CV10 各カタログ

    ⒩  空衛2017年12月号 特集「配管溶接接合」

    ⒪  公共建築工事標準図(機械設備工事編)平成28年版(国土交通省)

    ⒫  JIS Z 3801-1997 手溶接技術検定における試験方法及び判定基準

    ⒬  ㈱テイエルブイ-HP もっと知りたい蒸気のお話   「配管からのドレン排除 前編(ドレンの取出し方)」

    ⒭  ANSI/ASME B31.1 Power Piping⒮  JIS B 2352-2013 ベローズ形伸縮管継

    手⒯  SHASE-S003-2012 スリーブ形伸縮管

    継手⒰  SHASE-S007-2008 メカニカル形伸縮

    管継手⒱  栗田工業薬品ハンドブック 第3版

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  • 前号では、1.保護帽の役割、2.保護帽の種類、3.保護帽の構造と衝撃吸収メカニズム、について書きましたが、今号では、4.保護帽の材質、5.保護帽の新しい機能として、特に暑さ対策と蒸れ対策、6.保護帽使用にあたっての注意点を説明します。

    4.保護帽の材質これまで、保護帽の帽体には様々な材料が用いられてきました。太平洋戦争前の初期ヘ

    ルメットは、アルミニウムやバルカナイズドファイバー(植物由来の板紙に薬剤を含浸させて積層したものをプレスして成形)で作られていましたが、戦後、石油化学工業の発展に伴い、合成樹脂で作られた帽体が次々と生まれました。中でも、ポリエステルを用いたFRPは、昭和30年代の半ばから平成の初めまで、帽体の主なる材質でした。現在はABS樹脂が過半を占め、PC 、FRP、PEの順で続きます(一般社団法人日本ヘルメット工業会調べ)。

    金属材料については戦後、アルミニウム合金を用い、成形方法を変えることで強度不足を克服し、一時、保護帽の主流になりかけた時期もありましたが、昭和30年代後半以降、FRPにその座を明け渡し、平成27年に最後の製品が販売を終了しました。

    現在、帽体に用いている合成樹脂は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂に分けられます。材質ごとに長所と短所がありますので、作業環境や作業条件にあった材質を選択しなくてはなりません。(1)熱硬化性樹脂

    ① FRP(繊維強化プラスチック)    流動化した熱硬化性樹脂は熱を加えることで硬化しますが、一度硬化したものは

    熱を加えても、再び液状化することはありません。かつて、フェノール樹脂(ベークライト)で帽体が作られた時期もありますが(欧州の展示会では現在も見受けます)、現在の熱硬化性樹脂の代表は不飽和ポリエステルで、ガラス繊維に含浸させて熱硬

    材質別の長所と短所

    材 質 耐 燃耐熱性 耐候性耐電圧性 能

    耐溶剤薬品性

    熱硬化性樹 脂 FRP ◎ ◎ × ○〜◎

    熱可塑性樹 脂

    ABS △〜○ △〜○ ○〜◎ ×〜△P C ○〜◎ ○〜◎ ◎ ×〜△P E ×〜△ ○ ○〜◎ ○〜◎

    出典:一般社団法人日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱いマニュアル」

    株式会社 谷沢製作所取締役副社長 谷澤直人

    安全衛生保護具(2)保護帽に関する正しい知識(下)

    ― 44 ― 「空衛」2018年 10月号

    安全衛生保護具シリーズ

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  • 化させるFRP(ファイバー・リインフォースト・プラスチック=繊維強化プラスチック)が用いられます。

        ポリエステルは第二次世界大戦中にイギリスで開発され、戦後、アメリカで工業化されましたが、FRPは「鉄より強く、アルミより軽い」と評され、夢の新素材と言われました。そして、昭和20年代後半にはアメリカでFRP製のヘルメットが作られ、時を経ずして我が国でも製品化されました。

        FRP製の保護帽は前号で説明したように、帽体が割れることで衝撃エネルギーを吸収しますので、人体(頸椎など)が受ける衝撃が熱可塑性樹脂製の帽体の場合よりも小さくなります。

        また、熱や溶剤、薬品に対する耐性が強いことや、ガラス繊維の強化材が入っているために経年による性能劣化の進行が比較的遅いという特長があり、保護帽として大変優れた材質であると言えます。

        しかしながら、成形時にガラス繊維と樹脂の間に僅かな隙間ができる可能性があることや、内装体を取り付けるための鋲孔を開ける必要があるために、特殊な成形法を用いた一部の製品を除いて、電気帽としては用いることができません。

    (2)熱可塑性樹脂熱可塑性樹脂は熱を加えることと冷ますことで、液体と固体の状態を行き来する性質を

    持ち、射出成形機を用いて成形します。保護帽の帽体としては、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、PE(ポリエチレン)などが用いられます。また、消防用など特殊用途では、PA(ポリアミド=ナイロン)も用いられることもあります。

    これらの素材には元来、電気絶縁性があるという特性があり、さらに帽体の内側には、内装体を取り付けるためのブラケット等を同時に成形することが可能なので、製品に電気帽として使用するための絶縁性能が期待できます(通気孔のある製品を除く)。

    ① PC(ポリカーボネート)    PCは1956(昭和31)年にドイツで合成された樹脂で、エンジニアリングプラスチッ

    ク(エンプラ)と呼ばれる高機能性プラスチックの代表です。我が国では昭和35年ごろから保護帽の帽体の材料として用いられるようになりました。

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  •     PCは耐衝撃性が高く、汎用樹脂よりは熱に強く、自己消火性があります。さらに低温にも強く、耐候製にも優れています。電気絶縁性も良好なため、電気帽としても適しています。

        一方、PCは有機溶剤や酸、アルカリ、油脂に対して影響を受けやすく、一般的には薬品工業での使用や塗装作業には不向きです。特定の薬品による影響の有無、大小を知りたい場合は、樹脂メーカー作成の資料がありますので、お使い頂いている保護帽のメーカーにお問い合わせください。

    ② ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂    ABS樹脂はアメリカで1954(昭和29)年に生まれ、我が国では昭和35年ごろから保

    護帽の帽体が作られるようになりました。その当時は耐候性などに問題が残り、保護帽としての普及が進みませんでしたが、平成に入った頃から樹脂や添加剤の改良が進んで、安定した性能の保護帽を作ることができるようになり、各社の型式も増えて、現在では保護帽材質のトップを占めています。

        ABS樹脂はポリスチレンにアクリロニトリルとブタジエンを化学的に結合させたもので、その3物質の長所を合わせ持っています。

        耐薬品性(酸、アルカリ、油脂)もある程度はあり、PC製では不適でもABS樹脂製ならば使用できることがあります。但し、反対の場合(PC製では○でも、ABS樹脂製では×)もありますので、特定の物質による影響の有無については、PC同様、保護帽メーカーに問い合わせてください。

        機械的強度も強く、耐衝撃性にも優れていますが、紫外線に対する耐性が弱く、経年劣化がやや進みやすい欠点があります。また、融点が低いことから、熱職場での使用には適していません。さらに、自己消火性に劣り、溶接のノロが付着すると燃え続けることがあるため、特に通気孔をもつ製品は、溶接作業にお勧めできません。

    ③ PE(ポリエチレン)    PEは19世紀末にドイツで作られた合成樹脂ですが、第二次世界大戦後に工業化が

    進み、高性能で安価なPEが作られるようになりました。現在では、汎用樹脂と呼ばれるものの中でも、最も生産量が多くなっています。

    材質別の融点比較材 質 融 点P C 150℃

    ABS樹脂 91〜110℃高密度PE 130〜137℃

    不飽和ポリエステル 熱硬化

    出典:本間精一「プラスチックポケットブック」2009年改訂

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    安全衛生保護具シリーズ

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  •     日本でPE製(低密度PE)の保護帽が作られたのは昭和29(1954)年で、熱可塑性樹脂製帽体の先駆けとなりました。続いて、昭和33年に高密度PEを材料とした保護帽が発売されました。当初は高低温での製品性能が不安定でしたが、現在では樹脂の改良が進み、製品品質に問題はありません。

        PEは他の保護帽材質に比べて軽量で、電気絶縁性も良好です。そして、化学的に不活性なことから、耐薬品性

    (酸、アルカリ、油脂)に優れているのが最大の特長であるため、FRP製とともに塗装作業や油脂の洗浄作業などに最適です。反面、耐熱性に劣る、表面強度が弱いために帽体表面に傷がつき易い、等の欠点があります。

    5.保護帽の暑さ対策、蒸れ対策保護帽は前号で説明したように、「保護帽の規格」や「絶縁用保護具等の規格」に基づい

    て製品化されていますが、メーカー各社により、様々な役に立つ工夫が加えられています。ここでは特に、「保護帽をかぶると暑い」という声に対する、保護帽メーカーの3つの取

    り組みを紹介します。保護帽は毎日用いるものであることと、暑さ対策を施した製品を購入すれば、その保護

    帽を使用している間中、その効果が減損しないことから、大変コストパフォーマンスの良い「防暑用品」であると言えます。(1)通気孔の工夫による通気性向上

    保護帽をかぶって仕事をすると、自分自身の熱と汗により頭が蒸れます。それを軽減するために、通気孔を設けた保護帽があります。

    検定機関が通気孔の位置や大きさ、開口面積等の基準を詳細に定めていますが、通気孔部を防護する特殊な構造をとる場合には、その定めが除外される、という項があります。それを利用して、前頭部や後頭部に基準を超える広い開口部を設け、保護帽内部により効果的な通気がなされる製品をメーカー各社が販売しています。

    材質別の比重比較材 質 比 重P C 1.2

    ABS樹脂 1.01〜1.05高密度PE 0.952〜0.965

    不飽和ポリエステル 1.62〜2.30

    出典:本間精一「プラスチックポケットブック」2009年改訂

    「空衛」2018年 10月号 ― 47 ―

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  • (2)遮熱塗装と遮熱加工地球温暖化は、炎天下で保護帽をかぶって作業をさ

    れる方にとっても、たいへん厳しい状況をもたらしています。

    太陽の赤外線は地上の物体に当たると、熱エネルギーに変化します。遮熱塗料はこの赤外線を効率的に反射して、物体の温度上昇を抑える効果があり、これを帽体表面に塗布した製品が遮熱塗装ヘルメットです。

    さらに、ここ数年来、赤外線遮蔽材を混ぜたPCやABS樹脂で、帽体を射出成形することができるようになりました(遮熱加工品)。保護帽本来の製品性能を維持したまま、効果は遮熱塗装の場合と同等かそれ以上を見込め、製造コストも少し下がりました。いまだ帽体色は限られますが、屋外作業の方にとっては、大変有効な暑さ対策になると思います。(3)内装体による保護帽内部の通気性向上

    ⑴で書いたように、現在は通気効果の高い保護帽がありますが、電気作業に従事される方は通気孔のない保護帽を選ばなければならず、通気孔がなくても通気性のよい保護帽が強く求められていました。

    保護帽の構造上、頭部が蒸れるのは、発泡スチロール製の衝撃吸収ライナーが帽体と内装体の間の狭い空間を塞ぐために、すぐに内部の温・湿度が上昇するのと、それが外部からの空気の流通を阻害して、換気が進まなかったためです。

    その点、発泡スチロールの代わりに衝撃吸収体をハンモックに一体成形した新型内装体が付いた保護帽では、内部の空間が拡がり、空気が流れ易くなりました。通気孔が無くても、微風やゆっくりとした歩行で、短時間で帽体内部の空気が換気されます。

    なお、この保護帽は発泡スチロールが無いため、水切れがよく、じゃぶじゃぶと水洗いができますので、内部の汚れと臭いが抑えられると好評です。

    遮熱なし、遮熱塗装品、遮熱加工品の遮熱性能比較

    熱源(300Wハロゲン灯)を30cmの距離から照射して帽体内部の温度変化を測定試験に用いた型式は、いずれも谷沢製作所のPC製保護帽ST#142型(白色)

    発泡スチロールを用いない衝撃吸収ライナー六角柱の衝撃吸収体をハンモックに一体成形

    ― 48 ― 「空衛」2018年 10月号

    安全衛生保護具シリーズ

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  • 6.保護帽使用にあたっての注意点(1)使用前の点検

     ・ 帽体内部に貼付されている検定ラベルを確かめて、作業に合った種類の保護帽を使用してください。

     ・ 「20のチェックポイント」によって点検し、少しでも異常が認められた場合は、使用しないでください(後掲)。

     ・ 内装部品などに異常が認められた場合は、直ちに新品の部品と交換してください。

    (2)保護帽交換の目安 ・ 保護帽は過酷な条件下で使用されるため、外見に

    異常が認められなくても、劣化が進んでいる場合がありますので、早め早めに交換することが大切です。

     ・ 一般社団法人日本ヘルメット工業会では、熱可塑性樹脂製の保護帽は使用開始後3年、熱硬化性樹脂製は使用開始後5年を交換の目安にしています。

     ・ あご紐やハンモック等の内装品は、衛生上からも1年ごとの交換をお勧めします。なお、内装品交換の際は、従来と同じ種類の部品を使ってください。

    (3)電気用保護帽の定期自主検査 ・ 労働安全衛生規則351条では、電気用保護具等を使用する際に、6ヶ月ごとの絶縁性

    能に関する定期自主検査を義務付けています。労働安全衛生規則で電気用保護具等を用いることが定められている作業で保護帽を用いる場合は、必ず実施してください。

    そして最後に、保護帽は正しく着用してください。そうすれば、いざという時に、保護帽は皆さんの大切な頭を守ります。

    水で落ちない汚れは、薄めた中性洗剤で拭き取って下さい。

    「空衛」2018年 10月号 ― 49 ―

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  • 一般社団法人 日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱いマニュアル」平成24年6月改訂版

    ― 50 ― 「空衛」2018年 10月号

    安全衛生保護具シリーズ

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  • 平成30年9月8日(土)、第10回配管技能コンテストが下記の通り開催されました。参加者数は一般の部が27名、学生の部が21名の計48名と、過去最多となりました。また今年は、学生の部において初めて、女性が優勝者となりました。−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・�