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Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
1. はじめに
当社がライセンスを取得している Winterthur Gas & Diesel(WinGD)社は,その前身の Wärtsilä Switzerland 時代の 1981 年から燃料噴射システムの
電子制御を含んだ,エンジン全体を電子制御するシス
テムの開発を進め,RT-flex機関としてリリースした.
当社としてこの RT-flex システムを搭載した初めての
機関は DU-6RT-flex58T-B 型機関であり,2003 年 3月に陸上運転を終え,同年 8 月に就航した.2019 年 9月現在で,アップデートされた同社の電子制御システ
ムUNICを搭載したものを含め185台の出荷を数えて
いる.WinGD 社としての実績は約 1500 台に達しよう
としている.
2. RT-flexシステム 商用の初代電子制御システム RT-flex は,コモンレ
ール技術を採用し,シンプルで信頼性が高く,柔軟性
の高い燃料噴射及び排気弁開閉コントロールを有しつ
つ,従来の機械駆動式の燃料噴射・排気弁駆動 RTA機関との間では各種部品に互換性を有するよう開発さ
表 1 RT-flex 機関主要目
機関型式 - RT-flex58T-B
シリンダ径 mm 580
行程 mm 2416
出力(R1) kW/cyl. 2125
定格回転速度(R1) min-1 105 シリンダ内最高圧 MPa 15.0
正味平均圧力 MPa 1.95(R1)
燃料レール内圧 MPa 100
サーボレール内圧 MPa 20
れ,低負荷における燃料消費率やエミッション及び燃
焼改善を実現した.自動車エンジンでは採用が進んで
いたが,船舶用の大型 2 ストローク低速エンジンに対
しては世界で初めて搭載された画期的なシステムであ
った.表 1 にRT-flex58T-B 型機関の主要目を示す. RT-flex システムは,燃料及びサーボ油供給ポンプ
(サプライユニット),コモンレール,起動用電磁弁及
びWECS-9500と呼ばれる電子制御システムで構成さ
れた.またコモンレールシステムは図1に示すように,
燃料用コモンレール,サーボ油用コモンレール及び起
動空気の 3 系統からなる.
図 1 flex システム概要図
2.1 燃料供給系 燃料は機関駆動のサプライユニット(図 2)内の燃
料加圧ポンプにより約 100MPa に昇圧され,燃料用の
コモンレールに供給された後,高速電磁弁(レールバ
ルブ,後述)で制御される容積型噴射コントロールユ
ニットを通して燃料噴射弁に供給される.コントロー
ルユニットは各シリンダに一つあり,WECS9500 制
御システムで制御され,燃料噴射タイミング,燃料噴
射量及び燃料噴射パターンを各燃料弁に対して個別に
調整している.
電子制御機関における燃料噴射システム*
- WinGD電子制御コモンレール式低速機関
野村 守**
*原稿受付 令和 元年 10月 27日. **正会員 IHI原動機(兵庫県相生市5292).
電子制御機関における燃料噴射システム*
- WinGD電子制御コモンレール式低速機関
野 村 守**
Journal of the JIME Vol. 55, No. 1(2020) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第55巻 第 1 号(2020)― 81 ―
電子制御機関における燃料噴射システム
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
図 2 サプライユニット断面
2.2 燃料噴射制御 レールバルブは RT-flex システムの最も重要な部品
で,燃料噴射および排気弁をコントロールするために
開発された(図 3).非常に短い弁切換時間(1ms)の実
現により最適な燃料噴射および排気弁タイミングを実
現している.
図 3 レールバルブ
また,大型舶用機関では一回当たり一つの燃料弁か
ら噴射される燃料の量も多く,また使用される燃料が
低質の残渣油であり高温であることから電磁弁のみで
直接燃料噴射を制御することは困難であったため,コ
ントロールオイルを容積型燃料噴射装置(ICU)の作
動油として用い,その作動タイミングをレールバルブ
で制御する方式を採用している(図 4).
2.3 制御システム
WECS-9500 制御システムは,機能の点から見れば,
機械駆動機関のガバナー,ガバナーアクチュエータ,
燃料連桿及び起動空気管制弁と置き換わることになる.
クランク軸端部に取付けられたセンサーの回転角度信
号を検出し噴射タイミング,排気弁開閉,起動空気の
図 4 ICU
投入順序など全ての制御を司っている.
WECS9500 システムのインターフェースがパソコ
ンを内蔵した WECS アシスタントと呼ばれるもので,
機関のリモートコントロールシステムとは独立してお
り,コモンレールに装備されたWECS-9500 のメイン
コントロールモジュールに接続され,CAN-BUS によ
りデータ通信が行われている.WECS アシスタントは
機関の各種パラメーターの設定,変更時に使用される.
3. UNICシステム WinGD 社から,4st エンジンで採用されていたシス
テムを展開する形で,新たに適用が始まった新型の電
子制御システムである.当社では 2015 年に DF エン
ジン試験機に搭載される形で採用が始まっている.現
在はX 型のディーゼルエンジンにも搭載されている. UNICの基本コンセプトはRT-flexと同じだが,ICU
のレールバルブに相当する電磁弁を各燃料弁に装備し,
燃料弁個別に噴射時期及び噴射量を制御している.こ
のためRT-flexにあった独立したICUは廃止されてい
る.また RT-flex では燃料の噴射量制御が容積制御だ
ったのに対し,UNIC からは電磁弁のON・OFF で制
御する時間制御になり,シンプル化された.電磁弁の
ON 時間で燃料流量を,ON を行うタイミングで燃料
図 5 燃料弁動作の模式図
電磁弁
オリフィス
燃料入
針弁
Journal of the JIME Vol. 55, No. 1(2020) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第55巻 第 1 号(2020)― 82 ―
電子制御機関における燃料噴射システム - WinGD 電子制御コモンレール式低速機関82
電子制御機関における燃料噴射システム
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
噴射時期の制御を行う(図 5). ノズルにはサックボリュームを減らしたFASTタイ
プを採用し,サック内の燃料残油がなくなることで,
噴射後の後だれ減少による燃費率の改善及び汚れの少
ない燃焼室の実現を狙っている.(図 6)
図 6 燃料弁とノズル(FASTタイプ)
制御装置の構成は,CCM-20 制御装置によるシリン
ダ毎の分散制御である等は RT-flex と同じであるが,
制御装置のパラメーターをモニターするための
flexView のパソコンが不要となり,専用のモニター
(LDU-20)が装備された.(図 7) またガバナー機能が UNIC 内に取り込まれ
MCM-11 となるとともに,前出の通り燃料弁に噴射制
御機能が装備された.
図 7 UNIC制御装置の構成
各 CCM-20 が,各シリンダの燃料噴射・排気弁開
閉・始動弁・シリンダ注油の制御を行うと共にフィー
ドバック信号を監視し,経年劣化などによるタイミン
グのずれなど検知すれば,自動的に補正して性能低下
を最小限に抑えている(図 8).ディーゼルエンジンで
はオプションではあるが,燃焼監視装置(ICC)を装
備することにより,燃焼最高圧力(Pmax)を自動で
調整することで大気条件による燃料消費の悪化を防止
することが可能である.
図 8 CCM-20のシリンダ制御
UNICの基本コンセプトは従来型の電子制御システ
ム RT-flex と同じくコモンレール方式であり,油圧生
成部(サプライユニット)が同じく装備される.サプ
ライユニットの燃料ポンプは,インライン型を採用し,
構成部品を簡素化している(図 9).
図 9 サプライポンプ
4. 電子制御機関の性能
機械駆動式燃料ポンプを装備するディーゼル機関に
はクランク軸の回転に同期して歯車を介し駆動される
燃料ポンプがシリンダ毎に装備されていたため,機関
回転速度や機関負荷が下がれば燃料噴射圧は下がる特
性を持っていた.flex やUNIC のようなコモンレール
システムを持った電子制御機関は,全シリンダに共通
な高圧一定のコモンレールから負荷に応じた燃料を各
シリンダに噴射するので,低負荷でも噴射圧力を高く
保持することができる. 同時に図 10 に示すように,従来機関では低負荷で
UNIC 用燃料弁
LDU-20
MCM-11 CCM-20
CCM-20
サーボオイルポンプ
燃料ポンプ
Cylinder Lubrication unit
Cylinder Press. Sensor Power supply (2x24VDC)
3 Fuel Injectors Start Pilot Valve VCU Exhaust Valve Position Feedback
Journal of the JIME Vol. 55, No. 1(2020) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第55巻 第 1 号(2020)― 83 ―
電子制御機関における燃料噴射システム - WinGD 電子制御コモンレール式低速機関 83
電子制御機関における燃料噴射システム
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
のスモークが著しく増加するのに対し,本機関では全
負荷域において非常に低いスモークレベルとなってい
る.今後規制が強化されていくと予想される,微粒子
(PM)やブラックスモークには優位点となるだろう.
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110Engine Load (%)
Filte
r Sm
oke
Num
ber [
FSN
]
6RT-flex58T-B
6RTA58T Conventional
Smoke Visibility Limit = 0.15
Diesel Oil operation
図 10 スモークレベル
従来の燃料噴射システムは燃料の昇圧と燃料の噴射
量及びタイミング制御の3つの機能を一つの燃料ポン
プにより行っていたが,これらの機能を分離し,コモ
ンレールと電子制御を組合せることにより,噴射量及
び噴射率パターンの制御に対してより自由度が広がり,
各シリンダにある3つの燃料噴射弁はプログラムによ
り必要に応じて任意の噴射モード(シーケンシャルイ
ンジェクション)で作動をさせることができる.
7RT-flex84TD (R1) 100%L [ 0°/6°/2°(#1 / #2 / #3) ]
40
50
60
70
80
90
100
110
120
130
140
150
160
Pcyl
. ( b
ar )
Tier 1 spec
Tier 2 Pre-test
0
50
100
150
200
250
300
-20 -10 0 10 20 30 40 50 60
Crank Angle (deg.)
H. R
. [ d
Q/dθ
] ( k
J/C
.A )
図 11 シーケンシャルインジェクション
による熱発生率の抑制例
例えば,シーケンシャルインジェクションにより高
圧噴射による良好な燃焼を維持したまま,熱発生率を
抑制することができる.低 NOx 排出率はもとより,
シリンダ内燃焼最高圧力が維持できることから低燃費
ともに両立する.(図 11). 高圧噴射は,燃料噴霧を微細化し,噴射後の燃焼期
間が短縮され,燃料消費率の低減に寄与する.一方で
NOx 排出率の増加も考えられる.このような状況に於
いて上述のシーケンシャルインジェクションは有効で
あると言える. 噴射圧力を低く設定し,燃料噴射率を低下させ,熱
発生率を抑制する方法でも同様の効果が期待できるが,
粗悪燃料使用時などは,後燃え期間がより長くなるな
どによる燃焼室の損傷リスクが増加すると考えられる. その他に,低負荷時には作動する燃料弁数を減じて,
1 本の燃料弁からのみ噴射し,1 シリンダ分の全量を 1つの燃料弁から噴射することで1弁あたりの燃料の量
を増加させる,スモークレスオペレーションも行って
いる. 1 弁当たりの噴射レートを一定以上に維持できるこ
とから,燃料噴霧を良好に保つことができる.低負荷
でも安定した運転が可能であると共に,ブラックスモ
ークや微粒子(PM)の抑制に寄与している(図 12).
図 12 スモークレスオペレーション
電子制御システムを採用した場,上述の高圧燃料噴
射や燃料噴射時期コントロールだけでなく,燃料レー
ル圧力・排気弁開閉タイミングといったパラメーター
も運転中に変えることができる.このため燃焼改善以
外に,部分負荷燃費を重視するもの,常用負荷全体を
改善するものなど,機械駆動式の場合にはできなかっ
たようなエンジンのチューニングパターンをフレキシ
ブルに設定でき,お客様のニーズにきめ細かく対応す
ることが可能になった.(図 13)
熱熱発発生生率率
シシリリンンダダ燃燃焼焼圧圧力力
従従来来型型噴噴射射
シシーーケケンンシシャャルル
ななだだららかかなな
燃燃焼焼圧圧力力上上昇昇
熱熱発発生生率率ピピーーククのの低低下下
Journal of the JIME Vol. 55, No. 1(2020) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第55巻 第 1 号(2020)― 84 ―
電子制御機関における燃料噴射システム - WinGD 電子制御コモンレール式低速機関84
電子制御機関における燃料噴射システム
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
Standard Tuning Normal(90%負荷以上)を重視した運航 Delta Tuning Normal(90%より低い負荷)を重視した運航 Delta Bypass Tuning 50%以上ではDelta Tuning の燃費率を維持しつつ,高い排気温度で排熱回収を行う運航 Low-Load Tuning 低速運転重視で場合により増速が可能な運航
図 13 様々なチューニングのパターン
5.状態診断
RT-flex や UNIC と言った電子制御システムは,多
くのセンサーが装備され,制御パラメーターがほぼす
べて電子化されていることから,エンジンの各種情報
を細かく把握することができる.従って当社で進めて
いる機関の状態診断を行う上で親和性が高い(図 14). 今後予想される船舶主機を取り巻く環境の変化を考
えると,親和性の高さは重要度を増していくものと思
われる.
図 14 状態診断装置(LC-A)とのデータやり取り
6.終わりに
初めて当社としてRT-flex機関を製造して17年近く
が過ぎ,今では当たり前となってしまっているが,今
後増えていくであろうデュアルフューエル機関に於い
て,電子制御技術は更に重要さを増しており,エンジ
ンの性能改善のみならず信頼性の維持,更には状態診
断に基づいたCBM へと広がって行くものと考えられ
る.
著者紹介
野村 守 日本マリンエンジニアリング学会 正会員 1967 年生. 株式会社 IHI 原動機 九州大学工学部
WECS
Alarm Monitoring
System LC-A
flexView
Et
Data from AMS and WECS
Journal of the JIME Vol. 55, No. 1(2020) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第55巻 第 1 号(2020)― 85 ―
電子制御機関における燃料噴射システム - WinGD 電子制御コモンレール式低速機関 85