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紙上講座:FPD 技術 - 21 - 富士フイルム社製 X線撮影用フラットパネルデテクタ技術 富士フイルムメディカル株式会社 販売統括本部 MS東日本センター 畔柳 宏之 1. はじめに 1981 年に一般撮影検査のデジタル化を実現した富士 Computed Radiography (以下 FCR)が登場 して、 30 年の年月が経過している(図 1)。当時の一般X線撮影用 FCR は高額で、また横幅 8000mm 以上と大型であったため、導入は大学 病院、研究機関向けに限られていたが、 今では小型化、低価格化、高性能化が 進み、多くの病院、診療所、動物関連 施設に導入されるようになっている。 また、デジタル化が遅れていたマン モグラフィの分野では富士フイルムは 高解像度技術(読取サンプリングピッ チの 50μ化)と両面集光技術による粒状性向上技術を開発し、2001 年に FCR 5000MA、続いて FCR PROFECT を市場導入した。現在では国内での販売台数は 1600 台を越えている。 このように長年の間、CR がX線画像のデジタル化を牽引してきた。ところが近年 Flat Panel Detector(以下 FPD)システムの普及が進んできている。当面、CR との共存が保たれると思われる ものの、 FPD 化は検査時間の短縮、低線量化等の利点を有しており、導入数が加速してゆくことは明 らかである。 今回、富士フイルム社の FPD 技術の概要、最新機種の紹介とそれに伴う診断アプリケーション技 術を一部解説する。 2. デジタルX線撮影方式の種類 X線撮影のデジタル化の分類を表 1 に示す。 FPD は、大 きく間接変換方式と直接変換方式に分けられ、富士フイル ム社は現在、一般撮影用間接変換方式 FPD CALNEO シリーズ、一般撮影用直接変換方式 FPD BENEO シリ ーズ、乳房撮影用直接変換型光スイッチング方式を採用し AMULET シリーズを発売している。 3 富士フイルム社製 一般撮影用 間接変換方式 FPD の高画質化のポイント 間接変換方式型 FPD は、X線検出システムであるシンチレータと受光素子が一体化されている。 この仕組みにより CR に比べて即時性が優れ、一般的にはCR方式に比べ DQE が高い。また間接変 換方式で使用されるシンチレータは、GOSGd2O2:Tb)と CsICsI:TI)が良く知られている。 1 1981 年に発売した FCR 101 1 デジタル化の種類

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紙上講座:FPD技術

- 21 -

富士フイルム社製

X線撮影用フラットパネルデテクタ技術

富士フイルムメディカル株式会社

販売統括本部 MS東日本センター 畔柳 宏之

1. はじめに

1981 年に一般撮影検査のデジタル化を実現した富士 Computed Radiography(以下 FCR))が登場

して、30 年の年月が経過している(図 1)。当時の一般X線撮影用 FCR は高額で、また横幅 8000mm

以上と大型であったため、導入は大学

病院、研究機関向けに限られていたが、

今では小型化、低価格化、高性能化が

進み、多くの病院、診療所、動物関連

施設に導入されるようになっている。

また、デジタル化が遅れていたマン

モグラフィの分野では富士フイルムは

高解像度技術(読取サンプリングピッ

チの 50μ化)と両面集光技術による粒状性向上技術を開発し、2001 年に FCR 5000MA、続いて

FCR PROFECT を市場導入した。現在では国内での販売台数は 1600 台を越えている。

このように長年の間、CR がX線画像のデジタル化を牽引してきた。ところが近年 Flat Panel

Detector(以下 FPD)システムの普及が進んできている。当面、CR との共存が保たれると思われる

ものの、FPD 化は検査時間の短縮、低線量化等の利点を有しており、導入数が加速してゆくことは明

らかである。

今回、富士フイルム社の FPD 技術の概要、最新機種の紹介とそれに伴う診断アプリケーション技

術を一部解説する。

2. デジタルX線撮影方式の種類

X線撮影のデジタル化の分類を表 1 に示す。FPD は、大

きく間接変換方式と直接変換方式に分けられ、富士フイル

ム社は現在、一般撮影用間接変換方式 FPD の CALNEO

シリーズ、一般撮影用直接変換方式 FPD の BENEO シリ

ーズ、乳房撮影用直接変換型光スイッチング方式を採用し

た AMULET シリーズを発売している。

3 富士フイルム社製 一般撮影用 間接変換方式 FPD の高画質化のポイント

間接変換方式型 FPD は、X線検出システムであるシンチレータと受光素子が一体化されている。

この仕組みにより CR に比べて即時性が優れ、一般的にはCR方式に比べ DQE が高い。また間接変

換方式で使用されるシンチレータは、GOS(Gd2O2:Tb)と CsI(CsI:TI)が良く知られている。

紙 上 講 座

図 1 1981 年に発売した FCR 101

表 1 デジタル化の種類

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全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013

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以下、富士フイルムが独自に開発した間接変

換方式の高画質化技術について解説する。従来

の間接変換方式 FPD は図 2 に示す通り、X線

入射側(被写体側)にシンチレータ、出射側(裏

側)に受光素子を配置している。そのため発光

強度はX線入射側のほうが強くなるが、受光素

子が出射側にあるため、光が到達するまでに減

衰、散乱しやすいという課題が残る。また DQE

を向上させるために蛍光体層の厚みを増やすと、

MTF が劣化する原理的なトレードオフの関係

も存在する。以下この CSS(Conventional Side

Sampling)と表現する。

そこで富士フイルムはそれら課題を解決する

べく、X線入射側に受光素子基板、出射側にシンチレータを配置する新型 FPD を開発した(図 3)。

富士フイルム製 FPD・CALNEO シリーズに搭載されており、以下この方式を ISS 方式(Irradiation

Side Sampling)と表現する。

シンチレータの膜厚に対する相対感度値を図 4 に、MTF の変化を図 5 に示す。ISS 方式は、入射

側の強度の高いシンチレータの発光と受光素子までの距離が短く、発光があまり散乱されずに効率よ

く検出できるという特長がある。膜厚を増加させても感度、MTF とも ISS 方式のほうが良好な結果

になっていることが分かる。

3. カセッテタイプ FPD CALNEO C の特長

図 6 に CALNEO シリーズのランナップを示す。

富士フイルムは間接変換方式 FPD CALNEO シリーズとして、立位

専用 FPD CALNEOU、臥位専用 FPD CALNEO MT、カセッテタ

イプ CALNEO C を市場に展開している。CALNEO C のカセッテサイ

ズは、14×17 インチ、17×17 インチに加え、小サイズタイプ(24×30cm)

をランナップしている。本稿では汎用性の高い CALNEO C について解

説する。

CALONE C の外観サイズは、従来の CR カセッテと同じ規格で設計されているため、既存の立位

テーブル、臥位テーブルを流用することが可能である。またテーブルトップでの撮影切り替えも簡便

で、胸部、腹部撮影から整形領域まで各種一般撮影手技に対応することが出来る。特にテーブルトッ

プでの撮影時には、点滴チューブ等との干渉を防止するために無線方式が有効である。CALNEO C は

無線・有線の切り替えを瞬時に行なうことが出来て、無線使用時には、取外し可能なバッテリー運用

により連続且つ長時間撮影を可能としている。

カセッテ型の FPD の市場導入により、一般撮影室だけでなく、救急撮影、病棟撮影、術場撮影等

への活用が期待される。ところが従来、回診用X線装置と FPD システム間でX線ショット信号の連

図 2 従来の間接変換式 FPD の原理

図 3 富士フイルム社製 間接変換式 FPD の原理

図 5 シンチレータの膜厚と相対感度の関係 図 4 シンチレータの膜厚と鮮鋭度の関係

図 6 CALNEO

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紙上講座:FPD技術

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図 11 CR 方式 図 12 FPD 方式

動が必要であるため、その普及が難しかった。その課題を解決すべく、富士

フイルムではX線自動検出機能『Smart Switch』を新開発し、ほとんどの

回診用X線装置を用いたポータブル撮影の FPD 化を可能とし市場に展開し

ている。図 7 に富士フイルム社製 ポータブル撮影用 FPD システム

CALNEO flex の概観を示す。FPD 運用では複数部位の撮影時にもカセッ

テの入れ替えを伴わないため被験者への負担が軽減される。また、撮影後す

ぐにコンソールモニターで画像確認が出来るので、撮影者にとってのメリッ

トも大きい。また、院内無線 LAN が構築できれば、その場で患者情報取得(MWM)や画像送信も

可能であり、撮影から院内配信まで大幅な時間短縮が期待できる。

4.一般X線撮影用 直接変換 FPD BENEO シリーズの高画質の特長

次に直接変換方式FPD の原理を示す。図 8 に直接変換FPD

の概念を示す。シンチレータとして使用する a-Se はX線を吸収

し、直接電荷量(電子-正孔ペア)に変換する性質を持っている。

a-Seによって電荷に変換されたX線画像情報は、画素毎のコン

デンサに蓄積されTFT のスイッチング回路によって読み出され

デジタル画像に変換される。間接変換方式と異なり、シンチレー

タの発光を介さないため、X線変換効率がよく、鮮鋭度が高いと

いう特長を持つ。

富士フイルムから発売している直接変換穂方式 BENEO シリーズは、X線装

置とFPD をシステム化し、多機能なX線撮影環境を提供している(図 9)。メ

ニュ毎のオートポジショニング、長尺撮影、エネルギー・サブトラクション機

能等、一体型システムとしての特長を持っている。本稿では、その中でも富士

独自の機能を備えたエネルギー・サブトラクションについて解説する。

エネルギー・サブトラクションは、高圧画像と低圧画像の 2 枚の画像から軟

部・骨部を生成する技術を指す(図 10)。一般的に、肺や咽頭口頭の観察に有

用とされ、利用されることが多い。

撮影手技は、一回の撮影で行なう CR 方式

(図 11)と、二回の撮影で行なうFPD 方式

(図 12)がある。CR方式は、2 枚のイメー

ジングプレート間にCu を挟み、低圧画像と

高圧画像を得る方法である。一方FPD 方式

では、条件の異なる撮影を 2 回連続で行ない、

低圧画像と高圧画像を得る方法である。図 13

に軟部画像の生成原理を示す。まず高圧画像

の骨部コントラストを低圧画像に合わせ、高

圧調整画像を生成する。次に高圧調整画像か

ら低圧画像を減算することにより軟部画像が生成される。一方、

骨部画像は軟部コントラストを合わせることで生成される。

FPD 方式では、二回の撮影が必要であるため、間隔は

0.5msec 以下であるものの、体動が起こると生成画像に障害陰

影が発生する。そこで富士フイルムは、独自の画像位置合わせ

技術を開発し、それらの低減を図っている。図 14 にその効果

を示す。位置合わせをした場合、肺野内の腫瘤が描出されるが、位置合わせをしない場合には、障害陰影が

発生し、描出能が低下している。

図 7 CALNEO Flex

図 8 直接変換方式 FPD の原理

図 9 直接変換方式

FPD BENEO

図 10 エネルギーサブトラクション法による画像生成例

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全国循環器撮影研究会誌 Vol.25 2013

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5.乳房X線撮影用 直接変換型光スイッチング方式 AMULET の特長

乳房撮影用デジタルX線撮影装置には、高鮮鋭度と高分解能

が求められる。直接変換方式は、一般撮影用 BENEO で解説

した通り、高い鮮鋭性が特長であるが、高分解能を求めると電

気信号線間の距離が小さくなり、電気のノイズが発生しやすい

しという課題を有していた。そこで富士フイルムはその課題を

克服するため直接変換方式と光スイッチング方式を組合せる

方式を新たに開発し、乳房X線撮影装置AMULET シリーズ

を市場に展開している。以下、その原理を示す。

構造的な特徴として、上部の電極の下に 2 層の a-Se層を配

置し、その間に電荷潜像を一時的に保存する蓄積層を配置して

いる。図 15 に示すとおり、第一層は従来型と同様のセンサ層

に相当する。従来型では発生した電荷を画層毎に収集し、TFT

で読み出しているが、本方式では一旦電荷を電荷蓄積層に一次

保存する。図 16 に示すとおり、第二層は一次保存されたデー

タを読み出すためのスイッチング層の働きをする。読み出しラ

イン光源から照射された光の光誘起放電効果により、電荷が 1

画素毎に収集され、検出回路によって検出される。その後、順

次同様に電荷を読み出すことで、2次元の画像データを得るこ

とが出来る。

図 17 に本方式と従来のCR方式の描出能の違いを示す。こ

のようにTFTスイッチを使わないことで高解像度化により電

気ノイズの増大を抑え、画像サイズ 50μと高いDQE 性能を

両立することが出来た。

6.おわりに

今回、富士フイルム製 一般撮影用間接変換方式 FPD の CALNEO シリーズ、一般撮影用直接変

換方式 FPD の BENEO シリーズ、乳房撮影用直接変換型光スイッチング方式を採用した AMULET

シリーズの技術的な特長について解説した。今後、富士フイルムは、X線撮影用 FPD の特長である

検査の効率化、被験者の負荷低減や低線量化と従来の FCR との親和性を生かしたX線撮影の環境に

最適なソリューションを提供してゆきたいと思う。

図 13 エネルギーサブトラクション

の原理(軟部画像の生成方法) 図 14 位置合わせ技術の効果

図 15 第一層の原理

図 16 第二層の原理

図 17 描出能の違い