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平成 27 年度 海岸防災林グランドデザイン調査委託事業 報 告 書 (概要版) 平成 28 3 国土防災技術株式会社

報 告 書 (概要版) - maff.go.jp...----11688** - 中間範囲 40-100m ヒメユズリハ ヤブニッケイ など 低~亜高木層 樹高2~14m 6.0 10.0

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平成 27 年度

海岸防災林グランドデザイン調査委託事業

報 告 書

(概要版)

平成 28 年 3 月

林 野 庁

国土防災技術株式会社

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目 次

1. 業務概要 ....................................................................................................................... 2

1.1. 業務目的 ............................................................................................................... 2

1.2. 業務数量 ............................................................................................................... 3

1.3. 業務フロー ........................................................................................................... 4

2. 海岸防災林グランドデザイン検討におけるモデル地区の設定 ............................ 5

2.1. 調査の目的と実施地区 ....................................................................................... 5

2.2. 広葉樹林等で構成された海岸防災林の植生調査 ........................................... 5

2.3. 広葉樹林等が持つ平常時の防災機能の定量評価 ........................................... 7

2.4. 広葉樹林等が持つ津波等に対する防災機能の定量評価.............................. 12

3. 海岸防災林に対する地域住民のニーズの収集・分析 .......................................... 15

3.1. アンケート設問の見直し ................................................................................. 15

3.2. アンケート分析方法の検討 ............................................................................. 16

4. グランドデザインの作成方法の検討 ..................................................................... 17

4.1. モデル地区の選定 ............................................................................................. 17

4.2. 高知県における検討 ......................................................................................... 18

4.3. 秋田県における検討 ......................................................................................... 19

5. ガイドライン案の作成 ............................................................................................. 20

5.1. ガイドライン案の目次検討 ............................................................................. 20

5.2. モデル地区での検討結果による整理 ............................................................. 21

5.3. ガイドライン案の作成 ..................................................................................... 25

6. 生育基盤盛土工の事例調査 ..................................................................................... 26

6.1. 調査目的 ............................................................................................................. 26

6.2. 現地調査箇所選定 ............................................................................................. 26

6.3. 調査方法 ............................................................................................................. 26

6.4. 現地調査結果 ..................................................................................................... 27

6.5. 現地調査結果のまとめ ..................................................................................... 29

6.6. ヒアリング調査 ................................................................................................. 30

7. 検討委員会の開催 ..................................................................................................... 31

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1. 業務概要

1.1. 業務目的

本事業は、南海トラフ巨大地震による津波が懸念される中、津波にも強い海岸防災林の整備推進

に資するよう地域の自然条件やニーズ等を踏まえ、海岸防災林の機能強化のため、樹種の配置や人

工盛土等の整備手法を確立し、海岸防災林の整備事業を実施する者による地域に応じたグランドデ

ザインの作成に資するガイドライン案を作成することを目的とする。

平成25、26年度の調査では、津波に対する前砂丘や盛土の効果等についてシミュレーションによ

る評価、現地調査やシミュレーション等による海岸防災林の樹木が持つ防風、飛砂の防備、高潮や

津波のエネルギー減衰等の潮害の防備等の機能の定量的な検証、海岸防災林に対する地域住民のニ

ーズの収集・分析方法及びグランドデザインの作成に必要な基本コンセプトの構築等の考え方につ

いて整理された。

本業務は、平成25、26年度の調査結果を踏まえ、広葉樹林又はマツ及び広葉樹の混交林(以下、

「広葉樹林等」という。)の持つ防災面での機能を定量的に検証するとともに、津波等に強い海岸

防災林の整備に必要な項目等の検討を行い、海岸防災林グランドデザイン策定に資するガイドライ

ン案を作成する。

業 務 名:平成 27 年度海岸防災林グランドデザイン調査

契約期間:平成 27 年 9 月 15 日より平成 28 年 3 月 18 日まで

発 注 者:林野庁森林整備部治山課施設実行班

〒100-8952 東京都千代田区霞が関 1-2-1

TEL:03-3502-8208 FAX:03-3503-6499

担当職員:加藤 正治 係長

受 注 者:国土防災技術株式会社(代表)・国立研究開発法人森林総合研究所

〒336-0923 埼玉県さいたま市北浦和 2-12-11(代表)

TEL:048-833-0422 FAX:048-833-0424(代表)

管理技術者:大野 亮一(国土防災技術株式会社)

:鈴木 覚 (国立研究開発法人 森林総合研究所)

照査技術者:広瀬 伸二(国土防災技術株式会社)

:後藤 義明(国立研究開発法人 森林総合研究所)

担当技術者:佐藤 亜貴夫 田中 三郎

大西 克明 杉本 知広

竹村 文 加藤 昭広

萩野 裕章 大谷 達也

野口 宏典 南光 一樹

勝島 隆史

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1.2. 業務数量

業務数量一覧を表 1.1 に示す。

表 1.1 業務数量一覧

項目 数量 仕様書の対

応項目番号 備考

広葉樹林等が持つ

防災面での機能に

ついての定量的な

検証

広葉樹林等の定量的な検証を行うため

の調査箇所を 1 箇所以上設定 1 地区 (1) 高知県

標準調査地を設定し、樹種、樹高、胸

高直径、枝下高、枝張、樹冠長及び下

層植生の被覆率等についての植生調査 1 地区 (1)① 高知県

飛砂量、風速及び塩分濃度等の計測を

行い、既存の科学的知見を踏まえ、広

葉樹林等における防風、飛砂防備等の

機能について定量的に評価

1 地区 (1)② 高知県

広葉樹林等における津波等の波高の低

減量及び内陸部への到達の遅延時間な

どをシミュレーション等の手法を用い

定量的に評価

1 式 (1)③ 高知県

地域意見の聴取方

法等の検討 平成 26 年度調査のアンケート結果を

踏まえ、地域意見の聴取方法及び聴取

結果の分析方法について検討 1 式 (2)

グランドデザイン

の作成方法の検討 静岡県を除くモデル地区からグランド

デザインを検討する上で有用かつ特徴

的な地区を 2 地区以上選定し、既存の

土地利用や林帯の状況等を踏まえ、津

波等に強い海岸防災林の整備に必要な

項目等(現況林分の評価、整備タイプ

の決定等)について検討

2 地区 (3) 高知県 秋田県

生育基盤盛土工等

の事例調査 透水性が悪化している生育基盤盛土工

等の施工地において、その原因を解明

し透水性を確保する方策について検討 1 式 (4) 東北地方

ガイドライン案の

作成 森林管理局及び都道府県治山事業担当

者向けに、様々なタイプの海岸防災林

のグランドデザイン作成に適用しうる

ガイドライン案を作成する

1 式 (5)

検討委員会の開催 3 名以上の有識者(海岸植生の専門家、

施設構造物の専門家等)及びオブザー

バー若干名(南海トラフ巨大震災等の

影響が想定される都道府県の職員)か

らなる検討委員会の設置

3 回 (6)

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1.3. 業務フロー

本業務における業務フローを図 1.1 に示す。

図 1.1 業務フロー

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2. 広葉樹林等が持つ防災機能の定量的な検証

2.1. 調査の目的と実施地区

広葉樹林等が持つ防災機能の定量評価は、次の2点をおもな目的として高知県土佐清水市の「大

岐の浜」で実施した。

① 広葉樹林の防災機能に関するデータを取得する。

② クロマツ海岸防災林との比較として広葉樹海岸林の防災機能を評価する。

2.2. 広葉樹林等で構成された海岸防災林の植生調査

防災機能評価のための測器を配置す

る測線1および前線部の植生撹乱が少

ないと考えられた測線 2 を設定した。

(1)樹高分布および断面

測線 1 と測線 2 とでは林冠高、最大

樹高の分布に大きな差は見られなかっ

た。(図 2.1)

汀線側林縁からの距離で、3つのゾ

-ンに区分される。

・0-40m は林冠高がほぼ一定でヤブ

状の範囲。

・40-100m は樹高が急激に大きくな

る範囲。

・100m よりも内陸側は樹高 20m 以

上で一定となる範囲。

図 2.1 地面高さと樹冠高・最大樹高の水平方向の分布

0

5

10

15

20

25

30

35

40

-100 -50 0 50 100 150 200

高さ

(m)

距離(m)

地面高さ(測線1) 林冠高・最大樹高(測線1)

地面高さ(測線2) 林冠高・最大樹高(測線2)

測線 2

測線 1

(a)

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(2)樹種構成

測線 1 で観察された樹種数は 32 種、測線 2 は 29 種であった。測線 2 にヤブツバキが出現する

ことを除いて出現種の違いはわずかであった。

図 2.2 測線 1 の樹種構成(a)と測線 2 の樹種構成(b)

(3)林帯諸元

林帯の三つのゾ-ン区分毎に、樹高、胸高直径、胸高断面積合計などの諸元を表 2.1 に整理した。

表 2.1 林帯ゾ-ン区分別諸元一覧表

樹高 胸高直径 樹冠幅* 枝下高

樹高範囲 m cm m m 本/ha m2/ha

ヤブ範囲0-40m

シャリンバイトベラ

ナワシログミヒメユズリハなど

低木層2~6m

- - - - 11688** -

中間範囲40-100m

ヒメユズリハヤブニッケイ

など

低~亜高木層樹高2~14m

6.0 10.0 3.2 3.8 3,050 32.7

高木層樹高14~24m

18.3 38.1 11.7 9.0

亜高木層樹高4~14m

7.1 9.2 3.9 3.9

低木層樹高2~4m

3.3 4.9 - 1.8

** 根元直径2cm以上を測定対象とした

高木範囲100-180m

ヤブニッケイタブノキホルトノキ

クスノキなど

* y=0.69x-0.96 (y:樹冠幅(m)、x:樹高(m))の計算式で算定。

   クスノキ、タブノキ、ヒメユズリハ、ホルトノキ、イヌビワ、ヤブニッケイの合計33サンプルで求めた関係式(r2=0.89)

1,522 51.3

常緑広葉樹林(測線1)

ゾ-ン測線名立木密度 胸高断面積合計

要素別平均値階層区分

樹種

(a) (b)

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2.3. 広葉樹林等が持つ平常時の防災機能の定量評価

調査方法 2.3.1.

この調査では、海岸防災林が持つ日常的な防災機能のうち、防風機能、飛砂防備機能および防潮

機能(飛塩防止)の3項目について実測した。

観測計器の配置 (1)

図 2.3 測線 1 の観測計器配置模式図

気象条件 (2)

測定期間における風速は平成 26 年度に観測を実施したクロマツ林(秋田)に比べ、広葉樹海岸

林は遥かに小さかった。

表 2.2 大岐と秋田の観測期間における風の平均的状況

観測地 平均風速 標準偏差 測定期間

大岐(広葉樹海岸林) 2.3 1.8 2015.10.26-201512.22

秋田(クロマツ海岸林) 7.9 4.5 2014.12.20-2015.2.18

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調査結果 2.3.2.

防風機能 (1)

林縁直後の防風効果が最も高く、距離が離れるにしたがって風速が回復する。

回帰式から風速が汀線側基準風速に回復するのは440Hの距離と計算された。クロマツ林(秋田)

では 35H であったので、それよりも防風範囲が広かった。また、林縁直後の相対風速はクロマツ

林(秋田)よりも小さかった。広葉樹(大岐の浜)はクロマツ林(秋田)の 2.3 倍程度の林帯幅を

もつため粗度が大きく、クロマツ林(秋田)よりも風のエネルギーの減衰が大きかった可能性があ

る。

図 2.4 内陸側林縁からの距離と風速の関係図(広葉樹林:(a)、クロマツ林(秋田):(b))

(a)

(b)

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飛砂防備機能 (2)

跳躍転動形態で林内を移動する飛砂量は、林縁から 15m の範囲でほぼすべての飛砂が捕捉され

ており、クロマツ林(秋田)と傾向は同じであった(図 2.5)。しかし、飛砂量はクロマツ林(秋

田)より少なく、風が弱く吹き寄せる飛砂量が少なかったことが原因と考えられる。

図 2.5 転動・跳躍移動形態の飛砂量分布図(2015.10.28~11.26)

(広葉樹林:(a)、クロマツ林(秋田):(b))

0

1

2

3

4

5

-5 0 5 10 15 20 25

通過

飛砂

量(g

/m/日

)

林帯前縁からの距離 (m)

10.28-11.26

11.28-12.23

0

20

40

60

-10 10 30

通過

飛砂量

(g/m

/日)

林帯前縁からの距離 (m)

クロマツ

純林

クロマツ

-カシワ

二段林

(a)

(b)

林帯範囲

林帯範囲

単層林

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防潮機能・飛塩防止機能の調査結果 (3)

林帯より内陸側の空中塩分量は、林帯内陸側に近い観測点で最低値を示し、それより内陸側の空

中塩分量(地上約 3m 高)は林帯から離れるに従って増加するものが多かった(図 2.6a)。このよ

うな変化の傾向はクロマツ林(秋田)と同様であった(図 2.6b)。

図 2.6 林帯後方の水平方向空中塩分濃度分布(広葉樹林:(a)、クロマツ林(秋田):(b))

(b)

(a)

林帯範囲

林帯範囲

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調査結果のまとめ 2.3.3.

広葉樹海岸防災林の樹木が持つ日常的な防災機能の定量評価に関する現地調査結果はつぎのよう

にまとまられる。

① 汀線側林縁から 50m 程度までの前縁部の飛砂捕捉機能が高く(萩野1)、砂草帯も飛砂を捕

捉する機能を有する(萩野2)ことがこれまでに明らかとされており、広葉樹(大岐の浜)

においても概ねこれまでの研究事例を追認する調査結果を得た。

② 広葉樹林(大岐の浜)はクロマツ林(秋田)に遜色のない防災機能を持つ可能性が示唆さ

れた。一方で、対象地はクロマツ林(秋田)と比較して汀線側の基準風速がはるかに小さ

い環境にあった。したがって、個別の海岸林に対して造成、改良を行う際は、広葉樹林が

維持できる環境条件にあるかどうかが広葉樹海岸林を防災林として活用するにあたっての

注意点となる。

③ 広葉樹海岸林または針広混交の海岸林を目指した取り組みがみられるようになってきたが、

文献数は限られる。既存クロマツ林帯を補完する形で植栽されることが多く、内陸クロマ

ツ林の後継樹として広葉樹を導入する場合は耐陰性の高い樹種を、汀線側の低木帯には塩

分・乾燥等に強い樹種を導入する必要性が指摘されている(鈴木3)。しかし、それら物理

環境に対する広葉樹の耐性は十分明らかにされておらず、今後の課題である。

1 萩野裕章・野口宏典・坂本知己(2007):村松海岸林に落下した飛砂量の減少過程 、日本森

林学会誌、89(4), p.288-291. 2 萩野裕章(2010):ハマニンニクの飛砂捕捉量測定、平成 22 年度日本海岸林学会鹿児島大会研究発表会講演要旨

集、p.29-30 3 鈴木清(1992):植生導入技術、「日本の海岸林」村井宏・石川政幸・遠藤治郎・只木良也編集、ソフトサイエン

ス社、 p.377-394

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2.4. 広葉樹林等が持つ津波等に対する防災機能の定量評価

平成 26 年度にクロマツ林の検討を行ったが、本年度は高知県大岐の浜で測定された葉量データ

に基づいたシミュレーションを実施した。

津波シミュレーション 2.4.1.

津波シミュレーションは、H26 と同等である。林分条件のみ、大岐の浜データとする。津波高さ

と樹高は表 2.3 に示す組み合わせである。津波と林帯の位置関係は図 4.1 のようになる。また、幹、

枝、葉の抗力係数はクロマツと同様で、順に 0.80, 0.80, 0.02 である。クロマツとの違いは幹量、

枝量、葉量の違いとなる。

表 2.3 外力津波最大高さの設定

樹高 5m 林帯前縁での津波高さ 3.5m ※林帯がない状態での津波計算を基に、林帯前縁

位置での津波高と流速がぎりぎりクロマツ・中

の倒伏に至らないレベルを設定 樹高 10m 林帯前縁での津波高さ 6.0m 樹高 15m 林帯前縁での津波高さ 8.5m

図 2.7 津波シミュレーションでの津波生成法

広葉樹の林分条件 2.4.2.

本年度の現地調査地である高知県大岐の浜で実施した植生調査データを基に設定する。

図 2.8 植生調査測線周辺の立木位置(高知県・大岐の浜)

表 2.4 葉面積量

陸側← No.2 No.3 No.4 →汀線側 ⾼⽊樹⾼ [m] 17.5 12.0 9.5

⽴⽊密度 [本/ha] 1,422 2,250 3,155

葉⾯積量 [m2/m2] 4.45 5.82 5.93

1/200 勾配

20,000m 20,000m 5,000m

汀線

5,000m

地震による水塊の上昇 林帯

陸上部は水平

正弦波の半波長形状

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水深と流速の変化 2.4.3.

履歴最大水深と最大水深形成時の流速を図化した。

・林帯内では、林帯がない場合に比べて水深が増加し、流速が大幅に低下する。

・林帯幅が長いほど水深は増加するが、林帯幅 200~300m あたりで頭打ち傾向があらわれる。

・林帯を抜けると、林帯がない場合に比べて水深が低下し、かつ流速も低下する。

林帯前縁位置(x=45100)

最⼤⽔深 [m] ⽔深最⼤時の流速 [m/s]

樹⾼ 5m 津波⾼さ 3.5m

樹⾼ 10m 津波⾼さ 6.0m

樹⾼ 15m 津波⾼さ 8.5m

図 2.9 林帯前縁位置(x=45100)での最大水深と流速

3

3.5

4

4.5

5

5.5

6

25m 50m 100m 200m 300m 500m

最大

水深

[m]

林帯幅

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

25m 50m 100m 200m 300m 500m

水深

最大

時の

流速

[m/s]

林帯幅

林帯なし

広葉樹

5

6

7

8

9

10

11

25m 50m 100m 200m 300m 500m

最大

水深

[m]

林帯幅

0

1

2

3

4

5

6

7

25m 50m 100m 200m 300m 500m

水深

最大

時の

流速

[m/s]

林帯幅

林帯なし

広葉樹

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

25m 50m 100m 200m 300m 500m

最大

水深

[m]

林帯幅

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

25m 50m 100m 200m 300m 500m

水深

最大

時の

流速

[m/s]

林帯幅

林帯なし

広葉樹

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参考検討・葉がない場合の津波シミュレーション 2.4.4.

落葉樹は冬季に葉を落とし、津波に対する抵抗体が夏季に比べ少ない状態となる。津波シミュレ

ーションで葉がない状態(幹、枝のみを考慮)を計算した。大岐の浜は中低木~高木の多様な樹種

から構成され、冬季に完全落葉することはないが、ここではすべての葉がないものとした。

葉の有無による最大水深形成時の履歴最大水深とそのときの流速を比較した。

樹高 5m(津波高さ 3.5m)では、最大水深および流速の低減率が、葉がない場合に3割減とな

る。

樹高 15m(津波高さ 8.5m)では、葉の有無による違いはほとんどみられなかった。

上記の差異は、津波規模に対して林帯が与えている影響度合いの違いと考えられる。

図 2.10 葉の有無による最大水深と流速の変化

まとめ 2.4.5.

津波シミュレーションの結果、広葉樹海岸林が存在することで、津波流速が大幅に低下すること

が確認された。また、林帯幅が長いほど水深は増加するが林帯幅 200~300m 程度で頭打ち傾向が

みられた。これらはクロマツ林と同様の傾向だが、大岐の浜の葉量はクロマツ単層林よりも多いた

め、クロマツ林よりも大きな効果が得られている。

樹木の抗力係数(幹 0.80、枝 0.80、葉 0.02)は、クロマツと広葉樹で同じ値を用いている。し

たがって、クロマツと広葉樹で幹、枝、葉の量が同じであれば、計算結果は同じとなる。なお、今

回の検討では津波による広葉樹の倒伏検討は実施していない。広葉樹林は複数樹種が複層に存在し、

倒伏強度が一意に定められずその定量評価が難しいためである。

以上みてきたように、広葉樹林は基本的に津波に対してクロマツ林と遜色ない機能を発揮する。

十分に成林し葉量の多い広葉樹林は津波への抵抗が大きく、高い波力減衰機能を発揮するが、葉量

が多いと倒伏外力が相対的に大きくなり、倒伏の危険度が高まる点には留意が必要である。

3

3.5

4

4.5

5

5.5

6

25m 50m 100m 200m 300m 500m

最大

水深

[m]

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

25m 50m 100m 200m 300m 500m

水深

最大

時の

流速

[m/s]

林帯なし

広葉樹・葉あり

広葉樹・葉なし

0

20

40

60

80

100

120

140

160

25m 50m 100m 200m 300m 500m

到達

遅延

時間

[秒]

林帯幅

0

50

100

150

200

250

25m 50m 100m 200m 300m 500m

到達

遅延

時間

[秒]

林帯幅

樹⾼ 5m 津波⾼さ 3.5m

樹⾼ 15m 津波⾼さ 8.5m

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3. 海岸防災林に対する地域住民のニーズの収集・分析

3.1. アンケート設問の見直し

グランドデザイン作成に特化した効果的なアンケートを検討するため、昨年度業務において実施

されたアンケート結果を再分析した。設問を見直すため、グランドデザインの作成において地域意

見の聴取が必要となる項目を下記のとおり整理した。

地域住民等が望む海岸防災林の姿(イメージ)

地域住民等が求めている海岸防災林の機能及び水準

地域住民等が感じている海岸防災林があることによるデメリット又は問題点

維持管理体制を構築する上での協力体制など

上記に示した 4 項目について①効率的に意見を集約するため、②被験者の回答負担を軽減するた

めの 2点を目的に、昨年度業務において作成されたアンケートの質問項目を絞り込んだ。絞込みは、

昨年度結果を分析した上で相関が高い項目に着目し、内容的に統合しても良いと判断された項目を

統合した。また、グランドデザインの検討にあたって特に必要ないと判断された設問を削除した。

その結果、表 3.1 に示すとおり設問項目を 5 つに絞り込み、アンケート用紙の枚数を 5 枚から 3

枚へ軽減した。ただし、地域により把握すべき項目は変化すると考えられることからに示した設問

を基本とし必要項目を適宜追加することが必要となる。

表 3.1 アンケートの設問項目

質問

項目 目的 内容

① 属性把握 地域住民だけでなく、他地域からの利用者等の意見を収集した場合、相反

する意見が出る可能性もあるため、回答者の属性を把握する。 事業者として海岸域とその他の地域における海岸防災林に対する考え方の

違いなどを把握するための一方策としても活用することが可能。

② イメージ

把握 地域住民等が求める海岸防災林の姿(位置づけやイメージ)を把握する。 地域配慮書や基本構想を検討する上で重要な把握項目となる。

③ 求める機

能把握 地域住民等が海岸防災林に求める機能や水準について把握する。 「感じること=現状の評価」と「期待すること=将来への期待」を比較で

きるように設定することで、求める機能の水準も把握可能となる。

④ デメリッ

ト把握 地域住民等が海岸防災林に対してどのようなデメリットを感じているかを

把握する。 グランドデザインでは、海岸防災林に求める姿や解決すべき課題を明らか

にし、維持管理を見据えた計画づくりが求められるため、地域住民等が海

岸防災林のどのような点や箇所にデメリットを感じているかを把握する。

⑤ 維持管理

把握 海岸防災林の保全活動について地域住民等がどのよう点に着目しているか

を把握する。 グランドデザインでは計画段階から維持管理を見据えておくことが計画を

検討する上で重要となるため、地域住民が保全活動として期待する作業お

よび協働の意思を示す作業がどのようなものかを把握する。

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3.2. アンケート分析方法の検討

アンケート調査によって得られるデータは、集計することによりある程度の定量的な評価が可能

となる。また、統計ソフト等を用いることによりさらに高度な分析が可能となり、各質問項目にま

たがる詳細な傾向を把握することができる。以下に、それぞれの分析方法の考え方を整理した。

単純分析手法 3.2.1.

単純分析による解析は、簡易に地域住民等の意向を把握するために活用できる。各設問の活用例

を表 3.2 に整理した。

表 3.2 単純分析による各設問の活用例

質問 項目

活用例

① 地域に住む住民か海岸域を活用する住民か等を区分し解析する。

例えば、「多様な・単純な」の項目によりマツ単層林の好みなどが判断できるなど、地域

住民等が望む海岸防災林の姿の検討に用いる。 地域住民が海岸防災林に何を求めているかを整理し、地域における位置づけを明確にす

る。

地域に求められる海岸防災林の機能の検討に用いる。 実感値と期待値を比較することで、機能強化が必要となる項目を抽出することが可能と

なる。 現況林分の健全度評価を補完することも可能となる。

海岸防災林を計画する上での留意点の検討に用いる。 デメリットが少なくなる林型の検討や計画段階で共通認識が必要な内容の検討が可能と

なる。 現況林分がある場合は、現在の問題点を把握することが可能となる。

維持管理を計画する上での留意点の検討に用いる。 地域住民等がどの保全活動に着目しているか、協働の意志があるか等により目標林型や

設定する機能・水準が検討できる。 地域との共有の際に、どの維持管理項目に着目して重点的に説明が必要か等を判断する。

統計分析手法 3.2.2.

統計手法とその評価例について表 3.3 に整理した。ただし、高度な統計分析を行うためには、あ

る程度の統計学の知識を必要とするため、専門家の意見を聞きながら実施することが重要である。

表 3.3 統計分析による評価例

統計分析名 今回のアンケートにおいてわかることの一例

相関分析 ・どの機能の評価値が変化すると、どのイメージが変化するか

t検定 ・男女間における評価値の差 ・「感じること」と「期待すること」の評価値(平均値)に差があるのか

分散分析 ・年代別における評価値に違いがあるのか

多重比較検定 ・年代別における評価値に分散分析で違いがあることが確認された場合、どの

年代とどの年代との間に差があるのか

因子分析 ・質問項目③における機能評価の潜在評価尺度を探り出す

重回帰分析 ・質問項目②のイメージの評価値の変化と、質問項目④の感じる点(複数)と

の関係をみる

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4. グランドデザインの作成方法の検討

4.1. モデル地区の選定

グランドデザインを検討するためのモデル地区は、昨年度までに 7 地区(北海道、秋田県、茨城

県、静岡県、和歌山県、高知県、宮崎県)選定され基礎的な現地調査が実施されている。また、昨

年度は静岡県のモデル地区を対象に、グランドデザインの作成方法について検討された。本業務で

は、昨年度業務で静岡県と共に調査候補となった高知県黒潮町とモデル地区で唯一の日本海側とな

る秋田県を選定しグランドデザインの作成を行った。

表 4.1 モデル地区選定箇所一覧表

モデル地区 地域 対象津波 樹種 健全

度 浸水 備考

選定

対象

北海道 浦幌

北海道 太平洋側

日本海溝・千島海

溝周辺海溝型地

グイマツ カシワ等

〇 全面 全国的には特殊な林

帯 △

秋田県 八峰町

東北 日本海側

秋田沖地震の 影響

クロマツ 〇 一部 唯一の日本海側 ◎

茨城県 伊師川

関東 太平洋側

東日本大震災 被災地

クロマツ × 一部 現状で林帯なし ×

静岡県 御前崎

関東 太平洋側

南海トラフ 巨大地震津波

クロマツ △ 一部 平成 26年度検討箇所 ―

和歌山県 煙樹海岸

関西 太平洋側

南海トラフ 巨大地震津波

クロマツ 広葉樹

〇 全面 保健休養林が主体 △

高知県 黒潮町

四国 太平洋側

南海トラフ 巨大地震津波

クロマツ 広葉樹

〇 全面 平成 26年度候補箇所 地域意見聴取済

宮崎県 一ッ葉海岸

九州 太平洋側

南海トラフ 巨大地震津波

クロマツ 広葉樹

△ 一部 九州森林管理局検討

済 ×

秋田県のモデル地区は、昨年度業務において日常的な防災機能定量評価のための気象観測等が実

施できるかどうかを中心に候補を挙げたため、グランドデザインを試行的に作成する要件としては

不十分だと考えられた。そのため、秋田県内において 5 箇所を抽出し再検討した結果、八峰町をモ

デル地区として選定した。

図 4.1 モデル地区候補箇所

由利本荘市

(子吉川右岸・左

秋田市

飯島

潟上市出戸浜

能代市

風の松原

八峰町

峰浜

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4.2. 高知県における検討

現況林分が、基本構想で設定した機能等の発揮が可能かを判断し、整備方針を検討した。

表 4.2 機能発揮度の評価

機能 基本構想での設定 現況評価・整備方針

平常時 防災機能

台風時の高度な機能発

揮 平時の塩害・飛砂防備 特に防風機能を期待

最大 300m、全体的に 100~200mの林帯幅が確保されて

おり、太平洋側であること等を考慮すると平常時防災機能

の発揮に十分な林帯幅であると判断できる。 林帯後縁部が樹種を問わず大径木で構成されており、汀線

から内陸部にかけての風衝林型を考慮しても当該地区に

おいて十分な林冠高が確保されており、平常時防災機能を

高度に発揮している状況にあると判断される。 地域住民のアンケートからも防風機能をはじめ平常時防

災機能の発揮効果の実感値が高いため、十分な平常時防災

機能を発揮しているものと判断される。 ただし、林帯の中央部の土地利用を考慮すると、前線部(町

有林)箇所の林帯幅は十分でなく加えて密度が極端に低い

箇所が分布しているため機能回復・強化が必要と考えられ

る。 また、一部で松くい虫被害による林帯衰退箇所が確認され

るため補植等による機能回復が必要と考えられる(既実

施)。

津波被害

軽減機能 遅延効果の補完的発揮 砂丘の維持 後部への被災抑制

砂丘による地形的な高まりがあり、高標高部は樹木で覆わ

れているため砂丘維持の機能は十分発揮されると判断で

きる。 林帯中央に避難タワーを含む避難所が設置されており、当

該箇所に対する津波の遅延効果の発揮が求められるため、

下層木導入などの機能強化の検討が必要と考えられる。 根系の生育空間は全体的に確保されており根返りの心配

は低いものと考えられる。 林帯後縁部は大径木で構成されており、林帯前線から中央

で幹折れ倒木した場合も林帯内により流木を捕捉できる

可能性は高い。ただし、樹冠長率が高く枝下が低いため倒

伏の危険性が高いと判断されることから、枝下管理等によ

る機能強化が望ましいと考えられる。

保健休養

機能 日常的な利活用(散策

等) イベント等による活用 景観の保全

自然砂浜、砂丘が広がっており、海との連続性も保たれて

いるため機能を十分発揮していると判断される。逆に砂

浜、砂丘の保全が求められる。 松くい被害により常緑広葉樹に遷移し、従来の松原の景観

は損なわれているものの、全体的に管理が行き届いたきれ

いな状況となっており、車道を含む散策路も整備されてい

ることからある程度の機能を発揮していると判断される。 ただし、一部で下層木の茂りにより林内に侵入しにくい様

相を呈している箇所もあるためゾーニングによる管理箇

所の徹底等の機能強化が必要であると判断される。

その他 管理上の問題の軽減 ゴミの不法投棄が問題となっており、地元住民等による清

掃活動が実施されているが、不法投棄が少なくなる林型を

模索する等、根源的な問題解決を検討する必要がある。 日照問題が問題となっており、一部で大径木が伐採されて

いる。日照問題を解決する林型の検討が必要である。

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4.3. 秋田県における検討

現況林分が、基本構想で設定した機能等の発揮が可能かを判断し、整備方針を検討した。

表 4.3 機能別現況評価一覧表

機能 基本構想での設定 現況評価・整備方針

平常時 防災機能

防風、飛砂防備機能の高

度発揮

最大 500m 以上、最低でも 200m程度の林帯幅が保安林

として確保されており、平常時防災機能の発揮に十分な

林帯幅であると判断できる。 防風機能に関しては、住区などの保全対象に接する部分

で保安林指定がされていない場合があり制度上の担保

がない。 マツ枯れ被害が近年顕在化し、林帯の一部を失ったり、

立木密度の低下がおきている。 マツ枯れに対しては、林冠が現存する箇所に対しては防

除対策が、ギャップを生じた箇所には補植が必要。

津波被害

軽減機能 防潮機能の弱部解消 全体的には砂丘高が 15m前後あり、中小規模の津波で

あれば砂丘を越える浸水はない。ただし、想定される最

大規模の津波では現砂丘を越波する。 流入する河川の数が多く、そこが弱部となって遡上し浸

水する。海岸林で対応できない部分。 砂丘高さが他よりも低いエリアに弱者施設(養老施設)

が作られている。 根系の生育空間は全体的には確保されているが、河川近

くの弱部周辺では不足しており、そこで林帯を確保する

ときには生育基盤の高さを確保することを検討したい。 海岸林で対応できない部分は避難施設など別な対策と

の多重防御の考え方が必要。

保健休養

機能 防災機能を発揮する森

林に付帯して機能発揮 現況の利用実態、住民の意向を考慮すると、上記 2 つの

防災機能を確保するために整備する健全な森林をめざ

せば良いという考え。 現況でも生活環境保全林としての整備、公園、自然散策

道などの施設が配置されており、一定の水準を確保され

ている。 マツ枯れ被害による林帯の衰退は保健休養機能におい

てもマイナス。ただし、防災機能維持の観点から広葉樹

林化をめざすならば多様性の面でプラス。

その他 管理上の問題の軽減 海岸域防災機能

本地区では、住民が参画した林帯維持活動などはおこな

われていない。今後、そのような体制を検討する必要が

ある。 津波が河川から遡上して人命にかかわる被害を引き起

こしてきた。これに対しては林帯の整備だけでは問題を

解消出来ない。

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5. ガイドライン案の作成

5.1. ガイドライン案の目次検討

ガイドライン案は、各地域の治山事業担当者が容易に使用できるよう、グランドデザインを作成す

るための手法を「本編」に、機能評価に関する参考資料や計画する際の留意事項を「資料編」とす

る 2 部構成とした。

表 5.1 本編の目次構成

表 5.2 資料編の目次構成

記載内容

ガイドラインの位置づけ,構成等

2.1 グランドデザインの定義 グランドデザインを作成する意図や検討範囲

2.2 グランドデザインの基本方針 グランドデザインを検討するための基本方針

2.3 グランドデザイン作成の流れ グランドデザイン検討のためのフロー

3.1 海岸域の特性把握 自然環境・社会環境特性の収集・把握項目

3.2 地域意見の聴取 地域意見聴取の方法

3.3 地域配慮書の作成 地域配慮書の位置づけ,作成内容など

3.4 基本構想の構築 基本構想で検討すべき事項の整理など

3.5 各林分の評価 現地林分の把握方法や健全度評価手法について整理

3.6 整備タイプの検討 整備タイプを検討するための機能評価手法の整理

3.7 整備方法・ゾーニングの検討 整備タイプを踏まえた整備方法,ゾーニングの考え方

3.8 基本計画の構築 基本計画構築時の留意点など

4.1 グランドデザインの公開 グランドデザインを公開する目的

4.2 維持管理計画 維持管理計画の留意点

 4章 その他

本編目次構成

 1章 はじめに

 2章 グランドデザインとは

 3章 グランドデザインの作成

記載内容

1.1 平常時防災機能を考慮した林帯幅 既往資料による平常時防災機能の林帯幅の提示

1.2 海岸防災林における樹種構成 広葉樹林の取扱いや留意点

1.3 平常時防災機能発揮の観測事例 秋田県,高知県での観測事例結果

2.1 津波を考慮した林帯幅 津波シミュレーションにおける林帯幅の影響

2.2 林帯配置 津波被害軽減機能を考慮した林帯配置の考え方

2.3 二段林化 津波被害軽減機能を強化するための二段林化の留意点

2.4 生育基盤 津波被害軽減機能を強化するための生育基盤の留意点

2.5 砂丘造成盛土 津波被害軽減機能を強化するための砂丘造成盛土の留意点

3.1 密度管理 密度管理の必要性と管理手法の提示

3.2 病虫害防除 病虫害防除における留意点

3.3 保育に必要な施設整備 保育に必要な施設整備における留意点

3.4 維持管理体制の構築 維持管理体制構築における考え方

4.1 聞き取り調査 聞き取り調査内容例の提示

4.2 アンケート設問例 アンケート設問例の提示

4.3 アンケートの解析方法 アンケート解析手法例の提示

本編目次構成

 2章 海岸防災林の津波被害軽減機能

 3章 海岸防災林の維持管理

 4章 地域意見の聴取

 1章 海岸防災林の平常時防災機能

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5.2. モデル地区での検討結果による整理

グランドデザインの定義 5.2.1.

東日本大震災を契機とした多重防御での役割や自然環境・社会環境の変化等により、今までより

広い視点で海岸防災林を取り扱う必要性がでてきたこと、モデル地区調査結果から地域により海岸

防災林の位置づけが異なっていたことを踏まえ、計画検討の基礎部分である理念の構築も含めた「基

本構想+基本計画」をグランドデザインの定義とした。

図 5.1 基本構想から実施設計の流れとグランドデザインの定義

グランドデザインの基本方針 5.2.2.

海岸防災林が有する機能は樹木の生長と共に変化することが多いため、理想とする姿に到達する

には数十年から百年以上の時間が必要となる場合がある等、「時間軸」について考慮することが重要

となる。また、津波被害軽減機能等を考慮した場合、機能により相反する姿が必要になる場合も考

えられることから、発揮する機能やその水準を定めておくことも重要である。特に、海岸防災林は

健全でこそ機能を発揮し、機能を維持するための維持管理にも十分な考慮が必要となる。

以上から、グランドデザインの基本方針は下記のとおりとした。

グランドデザインは、健全な海岸防災林の維持・造成を前提とし、発揮を期待する機能

やその水準を実現するために要する時間も踏まえ検討する。また、機能発揮を維持するた

めの維持管理手法も含め検討する。

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グランドデザイン作成の流れ 5.2.3.

昨年度の検討により整理されたフロー図を基本とし、本業務で検討した 2 地区での検討結果を加

え、タイトルの文言なども含めフロー図の見直しを行った。

図 5.2 海岸防災林グランドデザイン作成のフロー図

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その他の検討結果 5.2.4.

グランドデザイン作成において、従来の基本計画と異なる点は以下のとおりとなる。

基本構想は、地域における海岸防災林の位置づけや理念を設定したもので、基本計画

の上位に位置する。

計画段階から、地域住民等の意見を取り入れ、地域環境や実情に応じた「地域配慮書」

の作成を検討する。

基本構想、基本計画を検討した段階で地域住民等と情報を共有するなど、地域との積

極的な関係を形成しながら事業を進める。

既存林帯がある場合は、海岸防災林の健全性を評価し、基本構想で設定した機能ごと

に機能強化の必要性を検討する。

海岸防災林が機能を発揮するまでの期間や機能を発揮し続けるために必要な維持管理

手法について計画段階から検討する。

上記について、3 つのモデル地区において検討を行い整理した点を以下に示す。

地域配慮書の作成 (1)

グランドデザインでは、地域の実情に応じた基本構想を構築することとなる。そのため、海岸域

の特性や地域住民等の意見を基に、海岸防災林の計画段階で地域において配慮すべき事項を整理し

た「地域配慮書」を作成することが望ましい。ただし、ここで示した「地域配慮書」とは、環境影

響評価法のように事前に影響を分析・評価するものではなく、海岸防災林のグランドデザインを作

成する上で、地域において求められる機能や計画段階で特に配慮しておくべき事情、また保全すべ

き環境や歴史背景等を整理したものを意味する。

図 5.3 地域配慮書のイメージ

海岸域の特性

・自然環境特性 ・社会環境特性

【地域配慮書】 地域が海岸防災林に求めるイメージや姿を整理する。

基本構想を検討する上での地域における海岸防災林の位置づけを整理する。

地域で,どのような機能の発揮がどの水準で求められているかを整理する。

地域において特に保全すべきものを整理(現海岸防災林を含めた確認)する。

地域において計画時から特に配慮が必要な事項を整理(課題等)する。

地域意見の聴取

・聞き取り調査結果 ・アンケート調査結果

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基本構想の検討方法 (2)

基本構想は地域に適した理念を検討する項目であるため、具体的な施設配置計画などは実施しな

いものの、地域配慮書で整理した内容を基に、少なくとも下記に示す内容について検討し設定する

必要がある。

地域における海岸防災林の位置づけ,求める機能と水準,最終的に目指す姿

地域に特化した保全すべき景観や環境の明確化,維持管理の方針

健全度評価 (3)

各モデル地区において、林分の健全度を評価するにあたり、作業者がどのような視点で林分の健

全度を判断しているかについて検討した。検討結果に偏りが出ないよう複数の作業者により検討し

た。その結果、林分の健全度の評価は、表 5.3 に示したチェック項目を確認しながら総合的に判断

する形とした。

表 5.3 林分健全度評価チェック表

チェック項目 チェック内容 現況林分の評価

病虫害

松くい虫被害の発生・進行状況

現地調査結果、地域特性な

どの把握から確認した事

項を総合的に検討し評価 (被害箇所、範囲、個体数、

経年変化等から総合的に

判断する)

その他病虫害の発生

下層林分の種構成・生長

本数密度

健全な個体による形成

樹冠長の確保

林帯全体の密度

種構成

地区に適した種での構成

構成種による病虫害リスク

人為的管理の必要性

汀線の侵食状況

前縁部の塩害状況

前浜の侵食による林帯消失

汀線の変動状況

管理体制 松くい虫防除体制の整備

林帯の管理体制の確保

砂丘被覆 砂丘の健全な被覆

防災機能

後縁部の林冠高

後縁部林帯の健全度

林帯前縁部の生育障害

リスク管理

林帯の多様性

根系生育空間の確保

局所的な不健全箇所の有無

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整備タイプの検討方法 (4)

整備タイプの検討は、基本構想で設定した機能に対し、現況林分で十分な機能が発揮されている

か、機能の強化が必要かを判断する。機能強化を判断するためには、現況林分の健全度評価のほか

に、現在発揮している機能を評価する必要がある。

機能評価の方法としては、表 5.4 に示すとおり評価する機能毎に確認すべき着目点を整理し、現

況林分や求められる機能水準などを勘案しながら総合的に評価する方法とした。評価のために必要

な既往文献や参考値等といった資料は、ガイドラインの資料編として整理した。

表 5.4 各機能における機能評価のための着目点

機能 着目点

平常時防災機能 林帯幅,種構成(樹種構成や配置等),地域住民等の実感値,土地利用状況(保

全対象)と林帯の位置関係,松くい虫被害などの脆弱性の有無,地形(標高や

人工砂丘等),林帯後縁部の状況,林帯後縁部の林冠高 など 津波被害軽減機能 林帯幅,本数密度・枝下高(林帯全体や汀線から内陸に向けての推移を把握),

地形(砂丘の高さや前砂丘の有無,地形の高まり等),林帯後縁部の構成個体

(大径木で構成されているか等),根系の生育空間の有無,防潮堤などの施設

の有無 など 保健休養機能 種構成(樹種構成や配置等),林内の見通し,下層の状況,活用しやすい本数

密度,散策路(管理路)等の配置,海,海浜,海岸林との連続性等,地域住民

等の実感値 など

その他 基本構想において地域で課題,問題となっている点についての現況評価 地区の課題解決を図る林型の構築が可能か等の検討 など

5.3. ガイドライン案の作成

本章での検討結果を基に、「津波にも強い海岸防災林グランドデザイン策定の考え方(案)」とし

て、ガイドライン案を作成した。

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6. 生育基盤盛土工の事例調査

6.1. 調査目的

東日本大震災で被災した海岸防災林の復旧事業では、多くの箇所で生育基盤盛土工が施工されて

いるが、透水性の悪化等により植栽木の生育不良等が散見されている。そこで、透水性が悪化して

いる生育基盤盛土工の施工地において、その原因を解明し透水性を確保する方策について検討した。

6.2. 現地調査箇所選定

現地調査箇所は、つぎの2点に注目して選定した。

① 透水性が悪い。かつ枯死木が発生している地区。

② 盛土材料の粒度組成調査の結果が良好な地区。

その結果、つぎの2箇所を対象地とした。いずれも仙台湾沿岸に位置する。

■宮城県 仙台8地区 ■宮城県 名取地区

6.3. 調査方法

下の模式図に示すように、不撹乱、表層撹乱、10cm 耕起の3つの試験区を設定した。各試験区

に 2 つの測定ポイントを設定し、植穴透水試験、土壌硬度試験、円筒式浸透能試験などを実施した。

不撹乱試験区 表層撹乱試験区 10cm 耕起試験区

(孔隙が埋められた状態) (レーキ処理し孔隙を復活) (スコップで造成面を耕起)

GL-0cm GL-2cm

GL-10cm

1回⽬の円筒試験 3試験区で実施

孔隙組成試験サンプル (100cc 採土円筒)

(不撹乱区のみ実施)

室内透水試験サンプル (撹乱試料)

(不撹乱区のみ実施)

GL-20cm

2 回⽬の円筒試験 不撹乱区、表層撹乱区で実施

3 回⽬の円筒試験 不撹乱区のみで実施

⼭中式⼟壌硬度試験 3 試験区で実施

掘込み

掘込み

掘込み

植穴透水試験も別途実施している

:断面配置イメージ 1箇所の配置

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6.4. 現地調査結果

最終減水能(植穴透水試験) (1)

① 名取地区 NO.3 を除く3箇所では、平成 26 年と平成 27 年でほぼ同じ傾向を示す。

② 名取地区 NO.3 は礫の混入量が多く、地表付近の透水性が不均一だったと想定される。ほぼ同

一箇所であっても、場所がずれるだけで植穴透水試験は大きな差が出る可能性を示しており、

試験結果の取扱いに関する留意点となる。

③ 名取 NO.1 については、平成 26 年および平成 27 年ともに、最終減水能の値が 30mm/hr 以下

であり、植栽木の生育環境としては透水性不良の判定となる。

図 6.1 植穴透水試験結果

土壌硬度(山中式土壌硬度計) (2)

① 仙台 8 地区は、深度 20cm における土壌硬度が平成 26 年よりも平成 27 年で若干の軟化傾向

が得られた。また、平成 27 年データでは 10 回計測による標準偏差を付したが、データのバラ

ツキを評価しても有意な軟化である。土壌硬度が小さくなる要因としては、シルト岩質の小片

の風化や冬期間における地表付近の凍結融解などが考えられる。

② 名取地区では、仙台地区のような土壌硬度の軟化はみられなかった。標準偏差をみてもバラつ

きが仙台より大きく、礫の混入量が多いためと想定される。名取 NO.1 は、深度 20cm の面を

スコップ掘削時においても土層の硬さを感じたことから、測定結果は概ね妥当と考える。

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図 6.2 山中式土壌硬度試験結果

浸透能(円筒式浸透能試験) (3)

円筒式浸透能試験結果の代表的な例として、名取工区NO3の鉛直分布を図 6.3 に示した。

① 当初、地表面の孔隙が細粒分で目詰りして透水性低下を引き起こす、と仮説したが今回の試験

結果により否定された。

② 不撹乱区では、地表面(深度 0cm)の浸透能よりも深度 2cm および深度 10cm の浸透能が小

さい場合が多い。特に深度 2cm は顕著に浸透能が低い。

③ 今回の試験結果から、地表から深度 10cm までの表層土は、一様に透水性が小さいと判断され

る。

④ 仙台 8 地区 NO3 は植栽木の生育状況が思わしくなく、枯死木も発生している。深度 0cm~深

度 10cm までいずれの深度でも浸透能が 10mm/hr よりも小さく透水性が悪い。

⑤ 地表撹乱の効果は名取地区で認められた。仙台 8 地区では、むしろ撹乱により浸透能が低下す

るデータを得た。撹乱が常に透水性の向上をもたらすわけではない結果となった。

⑥ 耕起による透水性の向上効果は認められる。しかし、耕起後の浸透能は 50mm/hr 程度、最大

でも 100mm/hr である。したがって、もともと浸透能が高い場合は逆に浸透能を低下させる

危険性がある。

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図 6.3 層位別円筒式浸透能試験結果

6.5. 現地調査結果のまとめ

① 地表面目詰りが湛水の主たる原因という当初の仮説は当たらないことが判明した。

今回の調査結果では、深度 10cm まで地表面と同様の透水能低下がみられた。

②耕起は一定の効果を有し、浸透能を 50~100mm/hr 程度まで回復させた。なお、もともと浸透

能が高い箇所で耕起しても、上記程度の浸透能が得られるので逆効果とならないよう注意が

必要である。

③ ①と②を踏まえると、一定深さまで耕起する方法は有効だが、どの深さまでの耕起が適切か

現時点で判断できない(少なくとも 10cm 以上)。また、耕起は浸透能の向上とあわせて土壌

硬度の改善効果を有する。

④ 粗孔隙量が透水能の向上に影響している傾向が得られた。締固めを抑え、土壌中の空隙を確

保することが重要である。

⑤ 仙台 8地区の材料は、粒度分析による土質区分は極めて優秀だが、調査対象の NO1 と NO3 で

は浸透性に大きな差が生じた。これが施工品質によるものか現時点で不明だが、材料品質の

みの確保では透水能を良い状態に保てないことの証左である。

⑥ 地表排水の方法を工夫し、造成面での湛水を防止した上で、経年変化(草本や植生の侵入な

ど)に伴う土壌構造の発達を待つことも一つの方策である。

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6.6. ヒアリング調査

現地調査を実施した2つの工区について、造成面の透水性および硬さに関連する発注仕様や施工

実態に関して、発注官署と施行請負業者にヒアリング調査を実施した。

表 6.1 現地施工に関するヒアリング結果一覧表

項目区分 発注者 施工請負業者 現地調査実

施箇所の施

工状況

・仕様書に記載した透水性確保に関す

る内容 〈材料の品質〉

透水係数 1×10-4cm/s 礫含有量 200g/kg 以下 EC 0.5dS/m(砂質土)

1.0 dS/m(その他土壌) pH 5.6~6.8 良

4.5~8.0 可 〈施工方法〉 締固めをせず、敷均しのみとする ・仕様書以外で透水性確保のために施

工者に指示した内容 なし ・施工者が独自に提案した透水性確保

に関する工夫 なし

・施工方法 〈使用機械〉 通常の土工機械・湿地 BD 〈走行回数などの実態〉 高さ 50cm ごとに仕上げた。 仕上げ高ごとの施工管理無し。 走向回数は記録無し。 ブルトーザでの最大運土距離は 100m。

・透水性確保のために工夫した内容 〈材料の品質〉 当時は材料の品質を選ぶ状況ではな

かった。 〈施工方法〉 なし ・その他 当時は、ダンプトラックの確保が最大

の課題であり、材料の品質確保などが充

分におこなえる状況でなかった。 現在の工事

における施

工状況

・材料の品質 上記と同じ ・施設配置 〈必須〉 1.防風柵の下の素堀水路(20m ピ

ッチ) 2.法面排水路(30m ピッチ) 〈選択〉 1.掻き起こし 2.表面水路の追加 3.法面保護シートをマット(肥

料袋付)に変更 ・施工方法 下層から上層まで、同一の土場(同

じ土質)で仕上げる。 ・その他 盛土造成時に木チップを敷設なし 植栽段階でチップを厚さ薄くした

・材料の品質 良質の材料を選択できる余地ができ

た ・施設配置(発注仕様のほか) 素堀水路の追加 法面タテ排水の追加 地山不良箇所の置換 ・施工方法 上層から下層まで一層仕上げ 防風柵設置ラインを重機走向路に活

用 ブルドーザを GPS 活用オペレーション 施工管理を中間と最終の 2 回に集約 ・その他 透水試験(植え穴式→長谷川式) 土壌硬度(山中式)

今後の可能

なし

1.造成高さが低い場合には、素堀水路

の水路底まで現地砂で盛り上げる。 2.法面勾配を緩くして法面にも植栽。 3.造成面に水匂配をつける。 4.植栽木がマツであれば礫質土の活

用。

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7. 検討委員会の開催

本業務では、専門的な見地から検討を行うため、表 7.1 に示したとおり学識経験者 3 名を委員と

し、また南海トラフ巨大震災等の影響が想定される県の担当者をオブザーバーとした検討委員会を

表 7.2 に示す日程で実施した。

表 7.1 検討委員会の委員およびオブザーバー

氏名 区分 所属 出欠 第 1 回 第 2 回 第 3 回

委員長 吉よし

﨑ざき

真司しんじ

学識経験者 東京都市大学 副学長 兼 環境学部長 教授

○ ○ ○

委 員 林

はやし

建けん

二郎じろう

学識経験者 防衛大学校 建設環境工学科 教授

○ ○ ○

林田はやしだ

光みつ

祐ひろ

学識経験者 山形大学 農学部 食料生命環

境学科 教授 ○ ○ ○

オブザ

ーバー

中山なかやま

淳也じゅんや

県担当者 静岡県 交通基盤部 森林局 森林保全課班長

○ ― ○

中島なかじま

和宏かずひろ

県担当者 高知県 林業振興・環境部 治山林道課 チーフ(治山担当)

○ ○ ○

表 7.2 検討委員会実施日程

検討委員会 実施日 検討内容

第 1 回 H27.10.8

~ H27.10.9

本調査の目的,調査計画等の説明及び検討, 調査・検討に当たってのアドバイス, 広葉樹林等が持つ防災面での機能についての定量的検証を行

う現地調査箇所の確認及び留意事項等の検討 グランドデザイン検討実施モデル地区の現地確認 他

第 2 回 H28.1.25 各調査の結果分析について審議 グランドデザイン作成方法及びガイドライン(案)素案につい

て審議

第 3 回 H28.3.14

ガイドライン案,報告書の内容について審議・承認