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1 講義ノート 物理化学 III 内容 1. 電気化学 熱力学の応用 化学エネルギーと電気エネルギーの変換 ネルンストの式、電池 2. 反応速度論 熱平衡にない系の取り扱い 素反応と反応速度 定常状態近似 活性化エネルギー (微分方程式) 3. 光化学 (摂動論、光の量子論) 反応速度論の応用としての光化学 蛍光、燐光、量子効率、緩和時間 講義ノートは、以下の研究室ホームページで公開しています。 http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/material/funct_mat1/index-j.html

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1

講義ノート 物理化学 III

内容

1. 電気化学

熱力学の応用 化学エネルギーと電気エネルギーの変換

ネルンストの式、電池

2. 反応速度論

熱平衡にない系の取り扱い

素反応と反応速度

定常状態近似

活性化エネルギー

(微分方程式)

3. 光化学

(摂動論、光の量子論)

反応速度論の応用としての光化学

蛍光、燐光、量子効率、緩和時間

講義ノートは、以下の研究室ホームページで公開しています。

http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/material/funct_mat1/index-j.html

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2

1. 熱力学に関する復習 I (一成分系) 第1回

○熱力学関数の相互関係 (アトキンス 3.5、3.7)

温度(T)、圧力(P)、体積(V)、エントロピー(S)

内部エネルギー (U) PdVTdSdU (1.1)

エンタルピー (H=U+PV) VdPTdSdH (1.2)

Helmholtz自由エネルギー (A=U-TS) PdVSdTdA (1.3)

Gibbs自由エネルギー (G=A+PV=H-TS) VdPSdTdG (1.4)

TdqdS ; TdqdS rev revdq は微小可逆過程で吸収される熱量

理想気体の場合の内部エネルギーは温度のみの関数 TCU v

[統計力学を用いると、単原子の場合 2/3RCv (3:は並進の自由度)]

問1 STG P / ; 2/)/( THTTG P 2/)/( THTTG P を示せ。

上の結果を用いて STG P / を示せ。

は何を示しているか?

問2 関数 yxF , に関して、 yx xFF / 、 xy yFF / とすると、一般に

xxyy yFyxFxF /// 2 が成り立つ。この式を適用して、Maxwellの関係

式を求めよ。

問3 理想気体に関して、等温可逆膨張 [(T, P1, V1)→(T, P2, V2)]の時の内部エネ

ルギー変化(U)、エンタルピー変化(H)、Gibbs自由エネルギー変化(G)、Helmholtz

自由エネルギー変化(A)、エントロピー変化(S)を求めよ。

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3

解答

問1 まず第一に PTG / は、「Pを一定に保った状態(すなわち dP=0)で、dGと dTの比を

求めるといくらになるか?」ということを聞いている。(1.4)を用いれば STG P / である

ことは、明らかである。

次に、高校数学で用いられる基本公式を確実に使えるようにしよう。

dtdYX

dtdXYdtXYd /)( と 2

1/)/1(t

dttd を組み合わせると、

21/)/(

tX

dtdXt

dttXd

同じような式は、偏微分に関しても成り立つので

2221/)/(

TH

TG

TS

TG

dTdG

TTTG

PP

Gと書くとき、これはある状態にある自由エネルギーと別の状態にある自由エネルギーの差とい

う意味がある。dGとの違いは、Gが大きな違い(2つの状態間の自由エネルギー差)を考えて

いるのに対して、dGでは微小の状態変化を考えている点にある。つまり STG P / を示

せという問題は、圧力の等しい 2つの状態に関する、自由エネルギー、エントロピーの差に関し

て聞いている。 STG P / だから状態1および2に関して、 11 / STG P 、

22 / STG P が成り立っている。 21 GGG 、 21 SSS だから STG P /

が成り立っている。同様にして 2/)/( THTTG P も成り立つ。

問2 (1.1)式に関して言えば、Uが F、Sが x、Vが y、Tが xF 、-Pが yF に相当していることに

注意する。このことを考慮するとマックスウェルの関係式

SV VTSP // ; SP PTSV // ; VT TPVS // ;

PT TVPS // が得られる。

問3 VdPdG ; PdVdA (等温なので)

12 /ln2

1

2

1

PPnRTdPPnRTVdPG

P

P

P

P

1212 /ln/ln2

1

2

1

PPnRTVVnRTdVVnRTPdVA

V

V

V

V

等温なので 0U PV=nRT(一定)なので、 0HSTSTHG なので、 )/ln( 12 PPnRS

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4

2. 熱力学に関する復習 II (多成分系:アトキンス 5章) 第2回

○開放系の基本方程式 このときは、Gを使うのが有利

),,,,,,( 21 NnnnPTGG ni : i成分のモル数 (2.1)

ii nPTi

dnnGVdPSdTdG

j

,,

( ij ) (2.2)

jnPTii n

G

,,

化学ポテンシャル(1モルあたりの自由エネルギー) (2.3)

○Gibbs自由エネルギーに関する加法則

i

iinG (2.4)

この式は温度、圧力一定のもとで上記微分式を積分して得られる。

○化学ポテンシャルの意義 (アトキンス 5.1)化学ポテンシャルは、

jjjj nTVinPSinVSinPTii n

AnH

nU

nG

,,,,,,,,

(2.5) と表すことができる。

この性質ゆえ、化学ポテンシャルは化学反応で重要な意味を持つ

問 4 (2.5) 式を示せ。

○標準状態と化学ポテンシャル

成分 iの標準状態の圧力 iP 、分圧 iP、標準状態の化学ポテンシャル i 、分圧 iPの時の化学ポテンシャル i とする。第1回の問 3の結果を使うと

iiii PPRT ln (2.6)○化学平衡 (アトキンス 7.1)温度一定、全圧 P一定の時の化学反応

0i

iiA (2.7)

を考える。ある時間経過後の物質量 niは以下のように書ける。

iii nn 0 はどのくらい反応が進んだかを示す量である。

d に対する自由エネルギー変化は、

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ddndG ii

iii

i

平衡状態では dG=0となるので、

0 ii

i (2.8)

(2.6)式を代入すると

0)ln( ii

iii PPRT (2.9)

これより constPi

ii ln

constPi

ii (2.10)

このようにして平衡定数が導出される。

問5 (2.7)式の各変数は何を意味しているか。2H2+O2=2H2Oの場合の例をとり、i、Aiを具体的に書いてみよ。

問6 Pi

i KP i で、平衡定数である。標準状態として atm 1 PPi をとり、(2.9)

に適用することにより、 PKRTG ln が導かれることを示せ。ただし、 G は化学

反応に伴う自由エネルギー変化である。 PK は無次元になっていることを示せ。

○理想溶液の化学ポテンシャル

理想溶液では化学ポテンシャルは

iii xRT ln

ただし xiは i成分のモル分率 溶媒の場合、標準状態として純液体を考える。すると*

i . ただし、 *i 純液体の化学ポテンシャルである

○活量と活量係数

理想液体からのずれを考慮するときに活量を使う。

iii aRT ln* (2.11)

ia : 活量活量とモル分率の比を活量係数と呼ぶ。

すなわち iii xa

標準状態として、溶液と同温の純液体を選ぶと 1ix の時に 1i となる。

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解答

問 4 U=-PV+TS+G

ii

i

ii

i

dnTdSPdV

dnVdPSdTTdSSdTVdPPdVdU

したがって

jnVSii n

U

,,

同様にして

jnPSii n

H

,,

jnTVii n

A

,,

問 5 数学的には、右辺を移項するか左辺を移項するかの自由度があるが、実際は

2H2O-2H2-O2-=0 となるように書く。つまり、左辺がマイナスになるように書く。こ

れは平衡定数で左辺の成分が分母にくることと対応する。反応として右側に進んだも

のを正としていることに対応する。

したがって 1:-2 A1:H2 2:-1 A2:O2 3:2 A3:H2O

問 6 (2.9)より

iii

i iiiii

ii PPRTPPRT lnln

ここで i

iiG は標準状態での自由エネルギー変化を表す

また atm 1 PPi とすれば, また Pi

ii KPP i は無次元の平衡定数である。

したがって PKRTG ln

標準状態として1気圧のときの化学ポテンシャルをとるゆえに、KPが気圧であらわ

した圧力平衡定数となる。

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3. 電気化学平衡 (アトキンス 7.5) 第3回

○クーロンの法則

電荷に働く力

rr

rQQF

r

221

041

電場

rr

rQE

r

204

1

電位rQ

r

041

電荷 Qに対する電気ポテンシャル Q (3.1)

○ 電気的中性条件 (電解液の各相に関して以下の中性条件が成立する)

0i

ii zn (3.2)

in は電荷 ezi のイオン数

○ 電気化学ポテンシャル

電解質溶液では、自由エネルギーとして電気ポテンシャルを加える必要がある。これ

を考慮すると(2.2)は以下のようになる。

iii

iii

iii

dnVdPSdT

dnzFdnVdPSdTdG

~ (3.3)

iii Fz~ を電気化学ポテンシャルと呼ぶ。実際には、 i ではなく i~ のみが測定

で得られることになる。化学平衡を表す式は(2.8)の代わりに0~ i

ii (3.4)

となる。これが電気化学反応に対する、基本方程式となる。

○化学電池の考え方

PtL|H2(g)|HCl(m)|AgCl(cr)|Ag(cr)|PtR の構造の化学電池を考える。HCl(m)は重量 mol濃度 mの HCl溶液という意味である。crは固体状態、gは気体状態を意味する。電池で起こる化学反応は

H2(g)+2AgCl(cr)=2HCl(m)+2Ag(cr)これを電極での電子移動を含めた、2つの反応式に分解する。

H2(g)=2H+(m)+2e-(PtL)2AgCl(cr)+2e-(PtR)=2Ag(cr)+2Cl-(m)

H2(g)+2AgCl(cr)+2e-(PtR)=2H+(m)+2e-(PtL)+2Ag(cr)+2Cl-(m)

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平衡状態に関しては上記の反応式に対応して、

0))(Cl(~2))cr(Ag(~2))(Pte(~2))(H(~2))(Pte(~2))cr(AgCl(~2))g(H(~ -LR2 mm

))cr(AgCl(~2))g(H(~))(H(~2))(Cl(~2))cr(Ag(~2))(Pte(~2))(Pte(~2 2-

LR mm))cr(AgCl(2))g(H())(H(2))(Cl(2))cr(Ag(22 2

- mmFE

ここで Eは起電力である。また左辺での~がとなっているのは、同じ場所にあり、電位差がないと考えているからである。(つまり電位差は電極で発生していると考え

ている。電流が流れると、溶液中での電位差がないという考えは正しくなくなる。こ

のことが、電池の「内部抵抗」の起源である。)

上の考え方を拡張してゆくと、Nernst(ネルンスト)の式

ii

iii

iiii

iaRT

aRTnFE

)(ln)(

))ln(((3.5)

が得られる。

i

iinFE )( とすれば、 (3.6)

i

iiaRTnFEnFE )(ln (3.7)

この式は電池の起電力と化学反応とを結び付ける電気化学の基本方程式となってい

る。すべての活量が 1のときの電位 E を標準電極電位という。この式は、一見するとわかりにくいが、要は、化学反応における自由エネルギーの差

が電子のエネルギーに対応していることを示す式である。化学平衡の話と類似してい

るが、化学平衡の場合は成分比が大きく偏って、自由エネルギーの和がゼロになるの

に対して、成分比が平衡からずれているときのエネルギー差が、電気エネルギーとし

て観測されている。

○液間電位および化学電池の表記法

(アトキンス 7.6)上で記したネルンストの式を用いるためには、液間

電位がないようにする必要がある。塩橋を用いるこ

とにより、液間電位を事実上ゼロにすることができ

る。

Zn(s)|ZnSO4(aq)||CuSO4(aq)||Cu(s) における ||は液間電位が消去されていることを示す。

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○半反応 (アトキンス 7.5)電池は、2つの半反応の組み合わせによってできている。与えられた電池の式からど

のような半反応が形成されているかを推測するのが、Nernstの式を使うための基本となっている。

たとえば Ag|AgBr|Br-||Ag+|Agの化学反応を以下のように書く。この電池の場合の半反応は以下のとおりである。

右反応 Ag++e- = Ag(右反応は左に電子を書く。これは右極が陽極であることを示している。)

左反応 Br-+Ag = AgBr+e-

(左反応は右に電子を書く。これは左極が陰極であることを示している。)

全反応 Ag++Br- = AgBr

電圧が正のときは、上記の反応が自発的に起こることを示している。すなわちG<0電圧が負のときは、上記の反応が自発的に起こらないこと、すなわちG>0を示している。化学エネルギー -Gと、電気エネルギー nFEがつりあっていることに注意。

(左反応を AgBr+e-=Br-+Ag と書き、差をとるという考え方もあるが上のように書いたほうがわかりやすい )

問題 上の書き方に習って、以下の電池の電極反応を書け

(a) Ag|AgCl|HCl(1M)|H2(1bar)|Pt(b) Pt,H2(g,P)|HCl(aq,0.1m)|Hg2Cl2(s)|Hg(l)(c) Na|Na+||Cl-|Cl2(g),Pt(d) Zn|Zn2+||Fe3+,Fe2+|Pt(e) Pt,H2(1atm)|H+(a(H+))||H+(a=1)|H2(1atm),Pt

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解答

(a) 右反応 H++e- = (1/2)H2

左反応 Cl-+Ag = AgCl+e-

全反応 Ag+Cl- +H+= AgCl+(1/2)H2

(b) 右反応 (1/2)Hg2Cl2(s)+e- = Cl-(0.1m)+Hg(l)左反応 (1/2)H2(g,P) = H++e-

全反応 (1/2)H2(g,P)+(1/2)Hg2Cl2(s)= H+(0.1m)+Cl-(0.1m)+Hg(l)

(c) 右反応 (1/2)Cl2(g)+e- = Cl-

左反応 Na = Na++e-

全反応 Na+(1/2)Cl2(g)= Na++Cl-

(d) 右反応 Fe3++e- = Fe2+

左反応 (1/2)Zn = (1/2)Zn2++e-

全反応 Fe3++(1/2)Zn = (1/2)Zn2++Fe2+

(e) 右反応 H+(a=1)+e-=(1/2)H2(1atm)左反応 (1/2)H2(1atm)=H+(a(H+))+e-

全反応 H+(a=1)= H+(a(H+))

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4. Nernst(ネルンスト)の式の応用 アトキンス 7.5 第4回

○ 起電力測定の意義

Nernst の式より、 0GnFE (4.1)すなわち、起電力測定から標準状態の自由エネルギー変化を求めることができる。ただし、 E は、活量係数が1のときの起電力であり、これを実験的に直接求めることはできない。

○ 溶解度積、イオン積

難溶性の塩 A+B-(s)に対する溶解平衡-、A+B-(S)=+AZ+ + -BZ-、を考える。固相 A+B-(S)の濃度は一定であるから、平衡定数はこの部分を無視して

KSP=[AZ+]+[BZ-]- (4.2)これを溶解度積という。同じように、水溶液中の水の電離の場合は、水の濃度は一定としてよい

ため

Kw=[H+][OH-] (4.3)が一定である。これを水のイオン積と呼ぶ。

○ネルンストの式の練習 1

298 K(25℃)における臭化化銀電池、 AgAgBr),(Br)(AgAg -BrAg aa

を考え、(1)~(3)の手順に

従って、この温度における溶解度積を求めよ。ただし、 Aga , -Bra は Ag+、Br- それぞれの活量で

ある。必要に応じて、下記 i)~iii)の式、データを用いよ。

i) ファラデー定数は F=96494 C/molである。

ii) T = 298 Kのとき、(RT/F)ln(x) 0.0591log(x)である。(lnは自然対数、logは常用対数)

iii) 関連する反応の 298 Kにおける標準電極電位(活量が 1のときの電位、E°で表される)は以下

のとおり

Ag+ + e- = Ag E° = +0.7989 V

AgBr + e- = Ag + Br- E° = +0.0711 V

(1) 臭化銀電池の右極および左極で起こっている反応を書き、電池全体で起こっている化学反応

を示せ。

(2) 298 Kにおける臭化銀電池の標準起電力( Aga = -Bra = 1の時の起電力)を答えよ。

(3) 任意の活量のときの 298 Kにおける臭化銀電池の起電力を答えよ。

(4) (3)を利用すると、298 Kにおける飽和濃度におけるイオン積 Ksp=[Ag+][Br-]を求めることがで

きる。log(Ksp)を答えよ。この計算に当たっては、[Ag+]、[Br-]はいずれも小さいため、活量係数

は 1と近似でき、活量は重量モル濃度と等しいとしてよい。 (0.7278/0.0591=12.31; 100.31 2)

○ネルンストの式の練習 2(類似問題)

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12

AgAgI),0100.0(I)100.0(AgAg cc

この電池の起電力を 298 Kにおいて測定したところ、E=0.753Vであった。(ただし、左側が正極、

右側が負極)これより AgIの溶解度積を求めよ

○ネルンストの式の練習 3下のデータを用いて 298Kでの平衡定数

)Fe(3

2/1)Zn(2)Fe(2 )(

aaaK

を求めよ。

(1) Fe3+ + e- = Fe2+ +0.771V

(2) Zn2+ + 2e-= Zn -0.7626V

○ネルンストの式の練習 4Weston電池は一定の仕様で作られている電池の一例で、一定の起電力を持っており、寿命が長い。電池の一つの電極はカドミウムで飽和した水銀アマルガムだめからなっており、その上には水和

物 OH38CdSO 24 として存在するいくらかの固体硫酸カドミウムが浮かんでいる。もう一つの

電極は水銀だめからなり、その上には水銀と固体の硫酸水銀 Hg2SO4の混合物が浮かんでいる。

この電池は以下のようにあらわされる。

Hg(s)SOHgO(s),H38CdSOCd(Hg) 4224

(1) この電池の電極反応と電池反応を書け

Weston電池の起電力は次の経験式によって温度 t℃の関数としてあらわされる。275 )20)(105.9()20)(1006.4(0186.1)V( ttE

(2) 20℃における電池反応に関する、Gibbs自由エネルギー変化、エントロピー変化、エンタルピー変化を求めよ。

解答

練習 1

(1) 右反応 AgBr+e- = Br- + Ag E° = +0.0711 V

左反応 Ag = Ag++e- E° = -0.7989 V

-----------------------------------------全反応 AgBr = Br- + Ag+

(2) 標準起電力は E = -0.7989+0.0711=-0.7278(V)(3) 全反応に対して、Nernst の式を作る。

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13

i

iia

nFRTEE )(ln

AgBr

ln aaFRTEE

298Kでは

AgBr

log0591.0 aaEE

(4) 飽和溶液は熱平衡状態だから、起電力はゼロである。したがって

AgBr

log0591.07278.00 aa

31.12logAgBr

aa 1331.12AgBr

10510 aa

活量係数は 1だから 2213 kg mol105 spK

練習 2通常は左を負極、右を正極にとる。したがって、通常の書き方に従えば、起電力は-0.753Vである。

-0.753=E=E - 0.0591 log(0.10.01)E = -0.753 - 0.0591 3

一方で E =E - 0.0591 log[Ag+][I-]において、飽和濃度、[Ag+]s、[I-]sに対して、E=0になるから

E = 0.0591 log[Ag+]s[I-]s= 0.0591 logKsp

したがって

logKsp = -0.753/0.0591 - 3=-15.74KSP=1.8*10-16

練習 3(1) Fe3+ + e- = Fe2+ +0.0771V

(2) (1/2)Zn=(1/2)Zn2+ + e- +0.7626V

Fe3++(1/2)Zn=Fe2++(1/2)Zn2+ 全反応

)Fe(3

2/1)Zn(2)Fe(2 )(log0591.0771.07626.0aaaE

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14

平衡では E=0だから、

0591.0771.07626.0)(log )Fe(3

2/1)Zn(2)Fe(2

aaa 25.95

95.250591.0

771.07626.0log)(log )Fe(3

2/1)Zn(2)Fe(2

aaaK

25)Fe(3

2/1)Zn(2)Fe(2

109.8)(

aaaK

練習 4(1) 右反応 Hg2SO4+2e- = SO42- + 2Hg

左反応 Cd+SO42-+(8/3)H2O=CdSO4・(8/3)H2O+2e-

全反応 Hg2SO4+Cd+(8/3)H2O= 2Hg+CdSO4・(8/3)H2O

(2)0GnFE

-1.0186×2×96485=G G=-196.6 kJ/mol

PP TEnF

TGS

したがって1

15

JK3.7VK1006.4)C(964852

S

H=G+TS=-196.6-7.3293/1000=198.7kJ

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15

5. Nernst(ネルンスト)の式の応用 II ,デバイヒュッケルの式 第5回

練習1 (アトキンス 自習問題 7.11)298.15Kにおける塩化水銀(I)の溶解度定数(これは反応 Hg2Cl2=Hg22++2Cl- の平衡定数である)

と溶解度を計算せよ。 [ヒント:水銀(I)イオンは Hg22+である。]

Hg22++2e- =2Hg 0.79 V

Hg2Cl2 + 2e- = 2Hg + 2Cl- 0.27 V

解答

0=-0.52-(0.0591/2)log[Hg22+][Cl-]2 K=[Hg22+][Cl-]2 = 2.510-18

溶解度を aとすると K=a(2a)2 =4a3 これから a=8.710-7 mol kg-1

溶解度の単位が mol l--1となるのは、溶液に関する標準状態、平衡状態をmol kg-1で定義しているからである。

○ 起電力測定の熱力学的意味 (再掲)Nernst の式より、 0GnFE (5.1)すなわち、起電力測定から標準状態の自由エネルギー変化を求めることができる。ただし、 E は、活量係数が1のときの起電力であり、これを実験的に直接求めることはできない。

○ 化学電池の熱力学

E を温度を変えて測定すれば、自由エネルギー変化の温度変化を決めることができる。このことからいろいろな熱力学量が、化学電池の起電力測定を通して、求めることができる。

たとえば、

PTGS

(5.2)

だから

PTEnFS

(5.3)

STGH (5.4)

化学電池は、化学反応に伴う自由エネルギー変化を、電気エネルギーとして、直接観測している

といえる。

○電解質溶液の電気伝導度、抵抗率

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16

)/( AlR ; /1 (5.5)R: 電気抵抗 : 抵抗率; l: 長さ; A: セルの面積; : 電気伝導度

c (5.6):モル伝導度 c: モル濃度

すなわち伝導度はモル濃度に比例する。

無限希釈時には、正負のイオンは独立に電荷を運び、モル伝導率に対して独立な寄与をする。た

とえば A+B-=+AZ+ + -BZ-に対して、正負のイオンに対して独立のモルイオン伝導度、 、 を定義すれば、無限希釈時のモル伝導度は

(5.7)

で表される。無限希釈で、イオンの寄与が独立という考えを用いれば、弱電解質の極限モル伝導

度を推定することができる。例えば酢酸の時

NaClHClNaAcHAc (5.8)

電離度は / (無限希釈では 100%の解離が起こることに注意)

○ 平均活量係数(アトキンス 5.9)

iii aRT ln iii ba ai :活量、bi:モル濃度 i:活量係数

iiideali bRT ln とすると iideal

ii RT ln

MX(M+と X-)の実在溶液に対して

lnlnln RTRTRTG idealidealidealideal

より 2/1 を定義すると

lnln RTRTG idealideal

第1項と第2項を改めて、正負のイオンに対する化学ポテンシャルと定義する(これは本当の化

学ポテンシャルとは異なっている)と、いずれの化学ポテンシャルも等しく lnRT だけずれる

ことになる。

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17

練習2 同じような発想でMpXqの化学ポテンシャルを考えると、 qpqp

/1

ととるの

が都合よいことを示せ

(解答はアトキンスをみよ)

○デバイヒュッケルの極限法則 (アトキンス 5.9)デバイヒュッケルの理論によれば、非常に低い濃度では平均活量は

2/1log AIzz で計算できる。ただし、A=0.509(25℃)、Iは、 bbzI ii

i /21 2 であら

わされるイオン強度である。( mol/kg 1b )

練習3 MpXqのモル濃度を bとしたとき、以下の塩でのイオン強度を例にならってあらわせ。

例)NaCl bbbbbI //)11(21

)/( bbkI

k X- X2- X3- X4-

M+ 1 3 6 10M2+ 3 4 15 12M3+ 6 15 9 42M4+ 10 12 42 16

○標準電位の求め方 (アトキンス 7.8)Pt|H2(g)|HCl(aq)|AgCl(s) |Ag(s)

この電池の式は、(1/2)H2+AgCl=HCl+Ag

ネルンストの式は 2/12H

ClHlnaaa

FRTEE

aH2=1とおく。 (これは何を意味しているか?)

ClHln aaFRTEE

HClの濃度を bとすると bba /H 、bba /Cl

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18

したがって

22ln

bb

FRTEE

ln2ln2

FRTE

bb

FRTE

ここでb を無視して、デバイヒュッケルの式を用いると

2/1ln2 CbEbFRTE

プロットして切片を取ることにより標準起電力 E°を得る。

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19

6. 反応速度論 I (アトキンス 22章) 第6回

反応速度論

反応速度論では、非平衡の現象を直接扱う。利用範囲は非常に広い。

○化学反応論の基礎

反応速度論の基本的な考え方は、化学反応を2つの方向に分けることにある。例えば

ZYBA (6.1)

という平衡反応があった時は、

ZYBA (6.2) という化学反応の速度と

BAZY (6.3) という逆反応の速度が釣り合っていると考える。

反応速度は、反応式の左側にある成分で決まると考える。例えば(6.2)では、反応速度は[A]と[B]で決まり、(6.3)では[Y]と[Z]で決まる。

○反応次数

ZYBA という化学反応を考える。このときの反応速度は

]B[]A[]A[ kdtd

となるが、を反応次数と呼ぶ。がの時は次反応、の時は次反応、の時は次反応と呼

ぶ。は必ずしも整数ではなく、実験的に決められる量である。また、化学量論係数(化学反

応式に出てくる係数)と必ずしも関連を持たない。kを速度定数と呼ぶ。反応次数は、一般的に、

化学反応機構と密接な関連がある。

○Arrheniusの式

Arrheniusは、反応速度論における速度定数が

)/exp( RTEAk a (6.4)

で表されることを見出した。この式を Arrheniusの式と呼ぶ。また Eaを活性化エネルギーと呼ぶ。

○素反応

素反応は、もっとも単純な反応である。反応式における化学量論係数は反応次数と一般には関係

を持たないことを上で述べたが、素反応の場合は、素反応に含まれる分子数を通して関連を持つ。

たとえば、高濃度の不活性気体Mのもとでのオゾンの分解は、以下の 1、2の素反応で起こると

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20

されている。

1. MOOMO 231-

1

k

k

(6.5)

2. 23 O2OO 2 k(6.6)

総反応 23 3O2O (6.7)

このときの反応速度式は、

]O][[O]M][O][[O]M][[O]d[O3221-31 kkk

dt (6.8)

]O][[O]M][O][[O]M][[O]d[O

3221-313 kkk

dt (6.9)

と書くことができる。素反応においては、速度式が一意的に書くことができるのに注意する。化

学反応の研究においては、素反応を探し当てるのが重要である。

○定常状態近似

反応速度を計算するのは、微分方程式を解く必要がある。例えば、単純な一次反応

YA 1k(6.10)

の場合、

][]d[A1 Ak

dt だから )exp(][ 1tkCA (6.11)

と即座に求めることができる。しかし一般には多段の化学方程式においては、複雑な微分方程式

を解く必要があり、数学的に多大な労を要する。このような場合に、化学的知見に基づいて行う

近似が定常状態近似である。この近似においては、中間生成体等の濃度が、生成物濃度と異なり、

(化学反応の開始時等を除けば)大きく時間変化をしないことを利用して、反応速度を計算する。

たとえば(6.8)、(6.9)の時、(6.7)の総反応に Oがないことを考慮して、[O]が一定濃度(すなわち

0]d[O

dt)と仮定する。すると(6.8)式より、

]O][[O]M][O][[O]M][[O0 3221-31 kkk (6.12)

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21

]O[]M][[O/]M][[O]O[ 3221-31 kkk (6.13)

この式を(6.9)に代入することにより

]O[]M][[O]M[][O2

]O[]M][[O])O[]M][[O]O[]M][[O](M][[O

]O[]M][[O/]M][[O])O[]M][[O(]M][[O]d[O

3221-

2321

3221-

3221-3221-31

3221-313221-313

kkkk

kkkkkkk

kkkkkkdt

(6.14)

この式は実験式と一致することがわかっている。

総反応の式(6.7)を素反応としてみなすと、 32

23

3 ]O['2]O[2]O[ kkdt

d という式ができそう

だが、6.14はこれとはまったく異なっている。これは総反応の式は素反応を表していないからである。実験的には、O2, O3, M の濃度しかわからないことが多いので、素反応は実験式から推定

されるものとなる。

○律速段階(rate determing step)ある素反応の速度定数が小さいと、その反応が、全反応の速度を決める。このように、全体の反

応を決定してしまうような、素反応を律速段階と呼ぶ。たとえば、 (6.14)式において、]O[]M][[O 3221- kk とすると

]M][[O2]d[O

313 k

dt となる。この場合は第1段(遅い反応)が律速段階になる。

また ]O[]M][[O 3221- kk (第2段が律速段階)とすると

][O][O2

][O][O2]d[O

2

232

21-

23213 Kk

kkk

dt

となる。ただし1-

1kkK は第1段の平衡定数である。

問 1)正反応と逆反応の関係式素反応では、化学反応式と反応速度式の間に厳密な関係式がある。これを用いて、平衡定数を以

下の速度定数から表せ。活性化エネルギーと Gibbsエネルギーの変化はどのような関係にあるか

ABBA1-

1

k

k

1

1

]B][A[AB

kk

問 2) 平行反応

BA 1k ; CA 2'k

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22

という2つの素反応が並行してあるときの、[A]、[B]、[C]を初期条件(t=0 において、[A]=[A]0, [B] = [C] = 0)の条件のもとで求めよ。

解答

問1)

0]AB[]B][A[]A[11 kk

dtd

より、 B]][A[]AB[

1

1 kk

したがって平衡定数は、1

1A][B][[AB]

kkK

活性化エネルギーを考える。

)/exp(1 RTEAk a ; )/exp(1 RTEBk b

とすると、)/)(exp{

)/exp()/exp(

A][B][[AB]

1

1 RTEEBA

RTEBRTEA

kkK ba

b

a

この式は化学平衡に関する式

KRTG lnと対応している。(反応速度論の速度定数は、化学平衡の理論と矛盾してはいけない。)

問 2)

]A[]A[]A[21 kk

dtd

したがって tkk )(exp]A[]A[ 210

]A[]B[1kdt

d より

tkkkk

k)(exp1

]A[]B[ 21

21

01

同様にして

tkkkk

k)(exp1

]A[]C[ 21

21

02

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23

7. 反応速度論 II (アトキンス 22章) (続) 第7回

○ 昨年度の経験に基づけばと、速度論の基本となる速度式が書けない人が意外と多いようであ

る。矢印一本ごとに考えるとわかりやすい。例えば

ABBA1-

1

k

k

と書かれているときに、左に行く上の矢印は [AB]が k1[A][B]の速度で増えることと、[A]および

[B]が k1[A][B]の速度で減ることを意味している。また右に行く下の矢印は [AB]が k-1[AB]の

速度で減ることと、[A]および[B]が k-1[AB]の速度で増えることを意味している。これは確率論

を考えれば理解できる。

現実には、この両方が起こるわけであるから、2つの矢印が示すことを足し合わせる必要がある。

すなわち k1[A][B] - k-1[AB]が[AB]の増加速度、k1[A][B] - k-1[AB]が[A]および[B]の減少速度で

ある。矢印がいくつもあるときは、上の例に習ってそれぞれを足し合わせればよい。

○ 微分方程式に関して

微分方程式の解き方が分からないという人がいた。高校の時に習った正式な解き方とは別に、

以下のことを覚えておくとよいと思う。

0dtdx

→ Ax 02

2

dtxd

→ Adtdx

→ BAtx

<基本1> すなわち1階の微分方程式(の一般解)には1つの不定数が、2階の微分方程式(の一般解)には2つの不定数が必ず現れる。逆に1階の微分方程式(の一般解)に2つ以上の不定

数が現れることはない。

<基本2> xdtdx この微分方程式の一般解は )exp( tAx である。

expでの微分を行うと expが出てくることは誰でも知っているであろう。また係数が不定であることも、微分計算をすればすぐわかるであろう。基本1で言ったように、1階の微分方程式では、不定数は一つしか出てこないから、この式が一般解であることは、明らかである。

<基本3> )( axdtdx

この微分方程式の一般解は )exp( tAax である。

x-aを新しい変数と考えればよい。

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24

<基本4> ついでにもう一つ、重要な数学的基礎を一つ。

xxfxfxxf )(')()( ( 1x の時) x を dxとすれば、これは微分そのものの

式である。

より正確には ....!

)(....!2

)('')(')()()(

2 nn

xnxfxxfxxfxfxxf

(テイラー展開)

この式を用いると、 1x の時

xe x 1 ; xx )sin( ; 2

1)cos(2xx など

展開式を作るときは、xに関する最低次の項が出てくればよい。

○演習問題の続き

問 1(化学緩和)外部変数を急に変化させて、それによる平衡濃度の変化を追跡し、反応速度を求める方法を緩和

法という。t=0の時、温度 T0で平衡

BA1-

1

k

k

(素反応)

にある系(その濃度を Ac 、 Bc とする)を急に温度 Tにすると、充分時間がたった時、新しい平衡濃度 Ac 、 Bc になる。この反応に対して、 Ac 、 Bc の時間変化を与える式時間 tの関数として求めよ。

ヒント 以下の考え方にしたがって求めよ。

(1) AA ccc と定義した時、 BB cc

を c で表せ。

(2) 速度論を用いて、dtdcA 、

dtdcB に関する式を Ac 、 Bc を用いて書け。

(3) (1)を(2)に適用して、 c に関する微分方程式を導け。

(4) (3)を解き、 Ac 、 Bc の時間変化を求めよ。

最終的な答えは、 ))(exp()( 11AAAA kktcccc 、類似の式が Bc に関しても得られ

るはず。

問 2(連鎖反応)

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25

臭素と水素が反応して、臭化水素を生成する反応は、以下の素反応による連鎖反応として知られ

ている。

1) 2BrBr 1'2 k

2) HHBrHBr 2'2 k

3) BrHBrBrH 3'2 k

4) BrHHBrH 24' k

5) 2Br2Br 5'k

Brおよび Hの濃度が極めて小さく、これらに関して、定常状態近似が使えると仮定して、HBrの生成速度を、[Br2]、[H2]、[HBr]を用いた式として示せ。

ヒント

(1) 定常状態近似を用いて、 2/1251 ]Br)[(Br][ kk を示せ。

(2) 定常状態近似を用いて、HBr][]Br[

]Br][H[)(H][

423

2/122

2/1512

kkkkk

を示せ。

最終的な答えは

12

143

2/122

2/15

1432

2/11

]Br[HBr][]Br][H[2HBr][

kkkkkkk

dtd

になるはず。

<解答まとめ>

問 1 (1) BABABA cccccc が成り立つ。(反応式から、和は時間に依存しな

い。)このことを利用すると ccc BB

(2) B1A1A ckckdtdc

; B1A1B ckckdtdc

(3) )()( A1B111

B1A1

ckckckk

cckcckdtcd

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26

第2項は、平衡状態でゼロになるから、 ckkdtcd

)( 11

(4) tkkcctkkcc )(exp)(exp 11AA110

したがって tkkcccccc )(exp 11AAAAA

類似の式が Bc に関しても得られる。

問 2. (1) 定常状態近似により 2

54232221 ]Br[2HBrHBrHHBr]Br[2Br0 kkkkkdtd

HBrHBrHHBrH0 42322 kkkdtd

①と②の和をとると

2521 ]Br[2]Br[20 kk したがって、

2/1

25

1 ]Br[]Br[

kk

(2) ②を用いると

HBrBr

HBrH

423

22kk

k

これに③を代入すると

HBrBr

]Br[HH423

2/122

2/1512

kkkkk

(3) HBrHBrHHBrHrBr42322 kkk

dtd

これに、④、③を代入する。

1

21

43

2/122

2/151423

423

232/122

2/1512

423

4232/122

2/1512

423

2/122

2/1512

4232/1

222/1

512

BrHBr]Br[H2

HBrBrBr2]Br[H

HBrBrHBrBr1]Br[H

HBrBr]Br[HHBrBr]Br[HHrBr

kkkkkkk

kkkkkk

kkkkkkk

kkkkkkkkkk

dtd

8. 反応速度論 III (アトキンス 22章) (続続) 第8回

問1 自習問題 22.5 (化学緩和の類似問題:アトキンス)

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27

反応 DCBA'

k

k

が双方向に2次であるときに、濃度の緩和時間の式を導け

eqeq kk ]D[]C[']B[]A[/1 になるはず

問2 逐次反応 PIAkbka に関して、t=0の

ときに, [A]=[A]0, [I]=[P]=0としたときの[P]の速度式を作れ.

0]A[1]P[

ab

katb

kbta

kkekek

となるはず

この問題は、Iに関する定常状態近似を適用してもとくことができる。右図は、定常状態近似による結

果と厳密解の結果を数値的に比較した場合である。

このように時間が十分経過した後は、定常状態近似

は厳密解に近い結果を与える。

定常状態近似を使うためには、中間体が何かを見極

めて、正味の濃度変化がないようにすることが重要

である。

問3 自習問題 22.8 アトキンス

反応 )(O3)(2O 23 gg におけるオゾンの分解速度式を次の機構から導け

OOO 23 ka

32 OOO ka'

223 OOOO kb

]O[]O[']O[2]O[

32

233

ba

ba

kkkk

dtd

となるはず。

問 4 Michaelis-Mentenの式 (アトキンス 23.6)酵素-基質 反応においては、Michaelis-Mentenの式という有名な速度式が知られている。以下の手順に従ってこの式を導け。

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28

以下の反応機構を考える

1) XSE 1' k

2) SEX 2' k

3) PEX 3' k

(1) Xと Pに対して、速度式を導け。(2) 初期条件:[E]=[E]0、[X]=0を考慮し、[E]を[X]と[E]0で表せ。(3) Xに対して、定常状態近似を用いて解け。

(4) (2)の結果を用いて、321

01S][

[S][E][X]

kkkk

を示せ。

(5) S])[(1[E]

S][[S][E][P]

132

03

321

031kkk

kkkk

kkdtd

を示せ。

この式をMichaelis-Mentenの式という。

解答

問 1 [A]=[A]eq-x; [B]=[B]eq-x; [C]=[C]eq+x; [D]=[D]eq+x (eqは平衡時の濃度を表す)とする。

k[A]eq[B]eq=k'[C]eq[D]eq

xkkkkxkkkk

xxkxxk

kkdtdx

eqeqeqeqeqeqeqeq

eqeqeqeq

)]D[']C[']A[]B[()'(]D[]C[']B[]A[

]D[]C[']B[]A[

]D][C[']B][A[

2

第一項はゼロとなる。また x2の項を無視する。すると

xkkxkkdtdx

eqeqeqeqeqeq ])D[]C(['])A[]B([)]D[]C([')]A[]B([

したがって緩和時間は eqeq kk ]D[]C[']B[]A[/1 となる。

問2

]A[]A[akdt

d ①

]I[]A[]I[ba kk

dtd

]I[]P[bkdt

d ③

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29

①より、 )exp(]A[]A[ 0 tka 、これを②に代入すると

]I[)exp(]A[]I[0 baa ktkk

dtd

)exp(]I[)exp(]I[ tkXk

dttkXd

aba

④と⑤が同じ式になるように、Xを決める。⑤を式変形すると

]I[)exp()(]I[baba ktkXkk

dtd

したがって Xkkk baa )(]A[ 0 、 Xkk

k

ba

a

0]A[

⑤より )exp()exp(]I[)exp(]I[ 0 tktkXtkX baa [I]0=0だから )exp()exp(]I[ tkXtkX ba

)exp()exp(]A[

)exp()exp(]I[ 0 tktkkk

ktktkX abba

aab

③を用いると

ba

tkb

tka

ba

baabba

ba

aabbba

ba

kkekek

kkkktkktkk

kk

Ctkktkkkk

kk

ab

1]A[

)(]A[)exp()exp(

]A[

)exp()exp(]A[

]P[

0

00

110

問3

]O[]O][O[]O][O[']O[

3323

aba kkkdt

d

]O[]O][O[2]O][O[']O[

3322

aba kkkdt

d

]O[]O][O[]O][O[']O[332 aba kkk

dtd

Oに関して、定常状態近似を用いると]O[]O][O[]O][O['0 332 aba kkk

したがって]O[]O['

]O[]O[

32

3

ba

a

kkk

この式を用いると

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30

]O[]O[']O[2

]O[]O[']O[]O[']O[]O[]O[']O[

]O[]O[]O[]O[']O[

32

23

32

323323

3323

ba

ba

ba

baabaa

aba

kkkk

kkkkkkkk

kkkdt

d

問 4

(1) X][-X][-S][E][X][321 kkk

dtd

; X][P][3kdt

d

(2) 初期条件 [X]=0 、[E]=[E]0 [E]+[X]=一定(時間変化なし)=[E]0を用いると

[E]=[E]0-[X]

(3) X][-X][-S][E][0 321 kkk

したがって32

1 S][E][X][

kkk

(4) (3)に(2)を代入すると

32

01 S][X][E][X][

kkk

この式を解くと

S][S][E][

X][132

01kkk

k

(5)したがって

S][1E][P][

132

03kkk

kdtd

<第9回、第10回 中間試験およびその解答 (省略)>

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31

光化学の基礎 I(量子力学の復習) 第10回

○ 時間に依存しない摂動論 (アトキンス 9章 補遺)

tiVeHH 0 nnn EH 0

10 HHH ; ...)2(2

)1()0( EEEE ; ...)2(2

)1()0(

これらの式をシュレディンガー方程式に代入すると、

........... )2(2

)1()0()2(2

)1(0)2(2

)1()0(10 EEEHH

)()(

....)()(

)0()2()1()1()2()0(2

)1()0()0()1()0(0

)1(1)2(02

)0(1)1(0)0(0

EEEEEE

HHHHH

λのべきを比較すると

)0()0()0(0 EH

)1()0()0()1()0(1)1(0 EEHH

)0()2()1()1()2()0()1(1)2(0 EEEHH

非摂動系の波動関数 ,....,......,,, 210 i

i )0( とする。E(0) =Ei

)1()1(1)1(0 iii EEHH

nn

nc )1( 無摂動系の波動関数で展開して代入する。

)()( )1(10 nn

niiinn

n cEEHcH

左辺から*i をかけて積分する。

iiii cEEiHiEc )1(1

)1(1 EiHi

左辺から*j (j i)をかけて積分する。

jijj cEiHjcE 1

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32

jij EE

iHjc

1

)0()2()1()1()2()0()1(1)2(0 EEEHH

**)0( i を左からかけて積分する

)2()1()0()1()2()0()0()1(1)0()2(0)0( EEEHH

)2()1()1()2()1(1)2( EEEHE iiiiii

)2()1()1()1(1 EEH ii

jij

jj

jij cEHcE )1(1)2( cjを代入

ij ji

iiij ji

iiiiij

jiji

EEiHj

cEEcjHiEEiHj

cEHcHEEiHj

E

21

)1()1(11

)1(111

)2(

○ 時間に依存する摂動論と光吸収 (アトキンス 9章 補遺)

tiVeHH 0 nnn EH 0

)(tHt

i

n

nnn tiEtct )/exp()()(

1)0( ic 0)0( nc (i ≠ n) i, n, f 量子状態を表すサフィックス

fi

fif

titiiVftc

)exp(1)( (i ≠ f)

iffi

EE

22

2

2

22

222 2

sin4exp1

)(

fi

fi

fi

fif

t

iVfti

iVftc

遷移確率

fif iVfttc

2

222)(

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33

これを Fermiの黄金率と呼ぶ。光による遷移を考える場合は、 EV ここでは電気双極子である。これを用いると

fif Eifttc

2

2222)(

つまり、遷移確率は電場の 2乗に比例し、遷移双極子モーメント if の 2乗に比例する。またデルタ関数は、遷移に必要な光のエネルギーが、2つの量子状態のエネルギー差に比例することを示している。光強度は E2に比例するので、光の吸収率は、遷移双極子モーメント if の

2乗に比例する。以下遷移双極子モーメントについて詳しく述べる。

○遷移双極子モーメント (アトキンス 9.10)ボルンオッペンハイマー近似のもとでは、波動関数は、一般に IS と書くことができ

る。ここで、はスピンを除いた電子軌道波動関数(電子座標のみの関数)、 は核軌道波動関数(核座標のみの関数)、Sは電子スピン波動関数、Iは核スピン波動関数である。電子双極子モー

メントをあらわす演算子は、電子座標のみを含むので、これを用いると

ififififiiiiffff IISSISISif

上の項が値を持つためには、電子遷移による吸収が存在すること、すなわち

0if および 0if 、 0if SS 、 0if II が必要である。

一電子の波動関数の場合、 ex (電場の方向を xとする)

問題) x方向に並んだ 2原子分子を考える。4つの波動関数、 )(1 r 、 )(2 r 、 )(3 r 、 )(4 r が

以下のようにあらわされるとき

zyxapzyxapr zz ,,

2,,

221)(1

zyxapzyxapr zz ,,

2,,

221)(2

zyxapzyxapr xx ,,

2,,

221)(3

zyxapzyxapr xx ,,

2,,

221)(4

0 ifif xe となるのは、どの組み合わせか?

答 1、2と 3、4○スピンの軌道関数に関しては、一電子の場合はすぐにわかる。問題は多電子の場合である。2電子系のスピンの関数

)2()1(1 S

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34

)2()1(2 S

)1()2()2()1(2

13 S

)1()2()2()1(2

14 S

S1~S3はスピン 3重項と呼ばれる状態で、S4はスピン 1重項と呼ばれる状態である。

スピン演算子

2,1j

jzz sS 、

2,1j

jsS 、

2,1j

jsS

S3が一重項で S4が三重項になるのは、上向き三重項波動関数のスレーター行列表示に対して、S-

をかけるとわかる

2121122211

221112222111

222221

112111

))()()()((2

1

)()()()(2

1)()()()(

21

rrrr

rrrr

rrrr

1,, )1()1( mlml mmllS 1,, )1()1( mlml mmllS

l=1, m=1のだから 0,11,1 2 S スピンに関しては l=1/2 , m=1/2 だから s

212121122211

2121211221212211

221112222111221112222111

222221

112111

222221

112111

222221

1121111,10,1

21)()()()(

21

)()(21)()(

21

))()()()((21))()()()((

21

)()()()(

21

)()()()(

21

)()()()(

21

22

rrrr

rrrr

rrrrrrrr

rrrr

rrrr

rrrrSS

3重項どうし、あるいは一重項どうしに関しては、 0if SS 。一重項と三重項どうしに関して

は 0if SS となる。これに対して、スピン軌道相互作用が作用すると、S1と S2、S2と S3、S3

と S1あるいは一重項と三重項に関して、 0if SS が起こるようになる。このようなスピン多

重項の間の交差を光化学では扱う。

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35

光化学の基礎 II 第11回

○ 光の吸収、蛍光と燐光

Fermiの Golden ruleは、光吸収、発光のいずれに関しても用いることができる。Golden ruleの教

えることの一つは、スピン状態が1重項の電子状態と、3重項の電子状態の間では、光の吸収・

発光は起こらないということである。このようなことをスピン状態に関する選択則という。

現実には、スピン軌道相互作用のため、純粋なスピン一重項とスピン3重項は存在しない。こ

のため、スピン選択則は厳密な意味では成り立っておらず(特に励起状態のスピン3重項)、遷移

モーメントは2つの状態(スピン1重項とスピン3重項[と思われる状態])の間で非常に小さい値

を持つ。

この値は非常に小さいため、吸収スペクトルではあらわには見えない。一方で、いったん励起

3重項ができたときは、基底状態への電子遷移が起こる可能性がある。(基底状態の分子は通常一

重項である。)このような励起3重項から基底状態への電子遷移を”燐光”という。これに対して、

励起1重項から基底状態への遷移を”蛍光”という。燐光は蛍光と比べると非常に小さな遷移確率

しか持たない。そのため、格子緩和などの別のプロセスと競合しやすい。

○ Franck-Condonの原理と振電相互作用

局在した電子系では、運動量保存則が成り立たなくなるので、電子遷移は振動モードと結合し

やすくなる。Born-Oppenheimer近似によれば、核の運動と電子の運動を分離することができ、励

起状態と基底状態の核ポテンシャルは、曲率は同じだが極小値の場所が異なる 2つの曲面として

表すことができる。Franck-Condonの原理によれば、電子遷移は、これらの曲面で、配位座標に関

する変化なしに起こる(垂直遷移、図 1(a))。

吸収スペクトル A()は遷移確率 gnem の2乗に比例する。ここで g,eは基底電子状態、

励起電子状態を示す。また n, mはそれぞれ基底電子状態と結合した振動モード、励起電子状態と

結合した振動モードを表す。 em 、 gn を電子部分の波動関数 e 、 g と分子振動に関する波動

関数 em 、 gn を用いて分離し、また電子部分の遷移双極子モーメントが核座標に依存しない

一重項-三重項の交差項は、特に区別して、

intersystem crossing (系間交差)と呼ばれることが多い。

蛍光: Fluorescence燐光: Phosphorescence

は英語も覚えておくと良い

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36

(Condon近似)とすると、

dqqq

dqqqrdqrqr

gnemeg

gnemgegnem

)()(*

)()(*),(),(*

(14)

吸収スペクトルの場合、T = 0 Kでは始状態として n=0の振動モードだけを考慮すればよい。また.

図 1(a)の配位座標モデルを考慮すれば、励起状態の振動モードの波動関数は基底状態の波動関数

を用いて、 )()( 0qqq gmem と表されるから、

20

220 )()(* dqqqq nmeggem (15)

ただし、ここで基底状態の振動に関する波動関数から gを省いた。上の式中の積分項は、調和振

動子の波動関数を用いることにより計算でき

)exp(!

220 S

mS m

eggem (16)

スペクトルは、これらをすべて足し合わせればよいので

0

0 )()exp(!

)(m

gem

mUUS

mSA (17)

図 1 (a)Frank-Condonの原理を示す配位座標モデル。光励起において、配位座標は変化しない。

また基底状態と励起状態では、極小値をとる配位座標が異なる。Aは吸収、Fは発光を表す。そ

れぞれ基底状態および励起状態の振動量子数が 0となることに注意。(b).15、.17式を用いた、吸

収スペクトル(A())、発光スペクトル(F())の計算値。0はゼロフォノン線の位置、gは調和振動

子の量子化エネルギーを示す。グラフはゼロフォノン線での重なりを避けるため、吸収スペクト

ルと発光スペクトルでバーの位置をわざとずらしてあることに注意。

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37

となる。ただし、 gWS である。(Wは緩和エネルギー、gは調和振動子の量子化エネル

ギー;図 1(a)参照)上記は吸収スペクトルについて議論したが、発光スペクトル F()の場合は Kasha

の法則を考えると m=0、n0になるから

0

0 )()exp(!

)(n

gne

nUUS

nSF (18)

蛍光スペクトルの場合、対応する吸収スペクトルは禁制遷移ではないため、2つのスペクトルで

共通する電子遷移が観測されることになる。m=0の蛍光スペクトルおよび n=0の吸収スペクトル

は、純粋な電子遷移のエネルギー(0)となり重なる。この遷移をゼロフォノン線と呼ぶ。

式(17)および(18)より、ゼロフォノン線を中心に、蛍光スペクトルと吸収スペクトルは、振動構

造に関して対称的になることが予想される(図 1(b)参照)。このような対称性は、実際に多くの物

質で観測されている。

○光化学への速度論の応用

蛍光、燐光等の光吸収プロセスを反応速度論を使って議論することがある。本講義では、以下

この現象に関して詳しく述べる(図 23.1参照)。光吸収は高エネルギー状態からのプロセスなので、室温では熱平衡にならない。しかしながら

反応速度論では、平衡状態になることを必要としないので、光化学に適用することができる。

<寿命の定義>

ある物性量が )/exp( t という形で、時間に対して減衰するとき、を寿命という。

<量子効率(量子収率)の定義>

現象によって異なるが、たとえば発光の場合は、波長の光を吸収して波長の光()を放

出する。このような場合、光子吸収して光子放出する場合に、量子効率が%であると定義す

る。光のエネルギーはに比例し、であるから、量子効率が%であってもエネルギ-が

保存されるわけではない。量子効率は、いろいろな場合で定義される。たとえば太陽電池の場合、

一光子が電子-正孔対に変わるときに、量子効率がと定義する。また電界発光の場合、一電

子-正孔対が一光子に変わるときに、量子効率が%と定義する。

問題 1 一定の光強度で照射し続けると定常状態に到達する。その時の[S1]、[T1]を定常状態近

似を用いて求めよ。ただし、光吸収によって単位時間当たり励起される分子数を Iaとする。

問題2 蛍光量子収率と燐光量子収率を求めよ

問題 3 光照射がないときの一重項の速度式を作り、一重項寿命を求めよ。

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38

解答 1 一定の光強度で照射し続けると定常状態に到達する。その時の定常状態近似は

]S[]S[]S[][111

1ISCFICa kkkI

dtSd

ただし、ここで Iaは光吸収によって単位時間当たり励起される分子数である。

ISCFICa kkkI /]S[ 1

1T に対する定常状態速度式は

]T[']T[]S[T

0 1111

ISCPISC kkkdtd

したがって ISCFICISCP

aISC

ISCP

ISC

kkkkkIk

kkk

'']S[T 1

1

解答 2

蛍光量子収率は ISCFICFa

FF kkkk

Ik

/]S[ 1

燐光量子収率は ISCFICISCP

ISCP

a

PP kkkkk

kkI

k

'

]T[ 1

解答3

光照射がないときの一重項に関する速度式は

]S[]S[

11

ISCFIC kkkdtd

なので一重項寿命は ISCFICS kkk /1

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39

光化学の続き 第12回

励起状態のモデル図(再掲)

問題1 光照射がないときの三重項の速度式を作り、三重項寿命を求めよ。

問題2 強い蛍光を観測するためには、速度定数がどのような条件を物質がもっている必要が

あるか。強い燐光の場合はどうか。

問題3 蛍光を示す物質に関して、光吸収によって単位時間当たり励起される分子数を Iaとなる

ように一定の光量で分子を励起し続け、その後光をきった。どのような時間依存性を蛍光 IFが示

すかを答えよ。この問題を解くにあたって、一定の光量で分子を励起子し続けているときは定常

状態近似であつかってよいとする。

○ 消光

励起状態にある分子は溶液あるいは気体中の分子によって不活性化することがある。このような

分子を消光剤(quencher: Q)と呼ぶ。

*QSQT 01Q' k (1)

上の式が示すように、T1励起状態が基底状態に変わると同時に、消光剤自体が励起されている。

(消光剤が発光するかどうかという問題が生じるが、発光するためには無輻射遷移[以前の図で

波線で描いた遷移]の速度定数が、発光の速度定数よりも小さい必要がある。これが大きいと発

光は観測されない。) 燐光の消光によって、三重項分子と消光剤の速度定数を決定することができる。

問題4 (1)のプロセスの消光剤が存在するとき、 Q'

ST 1

1QISCP

ISCkkk

k

となることを示

せ。また消光剤があるときの燐光収率は

Q''

QISCP

ISCP

P

Pkkk

kk

すなわち

]Q[1'

Q'1T

Q

ISCP

QISCP

P

P kkkkkk

となることを示

せ。ただし1T は燐光寿命。この式は Stern-Volmerの式とよばれる。

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40

問題の解答

解答1 光照射がないときの三重項に関する速度式は

]T[']T[1

1ISCP kk

dtd

なので、 tkk ISCP 'exp]T[]T[ 011

すなわち三重項寿命は ISCPP kk '/1

解答2 蛍光量子収率は 1

1/]S[ 1

FISCFICISCFICF

a

FF kkkk

kkkkI

k

燐光量子収率は 1'11

'

ISCFISCICPISCISCFICISCP

ISCPP kkkkkkkkkkk

kk

この式が解答の根拠となる。すなわち強い蛍光を観測するためには、kIC<<kF , kISC<<kFが必要であ

る。また強い燐光を観測するためには、k'ISC<<kP , kIC<<kISC , kF<<kISC すなわち T1がたくさんで

きて、かつ燐光が無輻射プロセスに勝つことが必要である。

解答3 ]S[]S[]S[0 111 ISCFICa kkkI

ISCFICa kkkI /]S[ 01 ISCFICaFFF kkkIkkI /]S[ 010

]S[]S[]S[]S[111

1ISCFIC kkk

dtd

だから tkkk ISCFIC )(exp]S[]S[ 011

]S[ 1FF kI だから tkkkkkk

IkI ISCFICISCFIC

aFF )(exp

ただし t=0を定常光を切ったときにしている。

解答4 1T に対する定常状態速度式は ]Q][T[]T[']T[]S[T0 1111

1QISCPISC kkkk

dtd

したがって]Q['

]S[]T[ 11

QISCP

ISC

kkkk

消光剤がないときは

ISCP

ISC

kkk

']S[]T[ 1

1 であり、燐光強度

は ]T[ 1PP kI だから Q''

QISCP

ISCP

P

P

kkkkk

]Q[1]Q[

'1

'Q'

1T

QISCP

Q

ISCP

QISCP

P

P kkkk

kkkkk

となる。

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41

光化学続き 第13回

○分子間エネルギー移動

光化学の特徴として、分子間エネルギー移動がある。消光剤はその一種である。エネルギー移動

には3つのタイプがある。

すなわち a)輻射エネルギー移動、b)短距離移動、c)長距離移動 である。

a)は電磁波の放出吸収を通したエネルギー移動である。すなわちh D*D ; *AA h

b)は Dexter transferと呼ばれるもので、全角運動量が保存されるという特徴がある。例えば S0、S1、T1を考えれば、

)S(*A)S(D)S(A)S(*D 1001

)T(*A)S(D)S(A)T(*D 1001

といったエネルギー移動が起こる。

c)は Förster transferと呼ばれる、双極子-双極子相互作用によるものである。エネルギー移動の効

率は、 D*D と *AA のスペクトルの重なりに依存する。

○ 有機太陽電池

有機太陽電池は、光化学反応の非常によい応用になっている。有機太陽電池と知られているもの

には、C60と導電性高分子、C60とポルフィリン化合物、といったいくつかの組み合わせが知られている。エネルギー効率は、シリコン太陽電池の 1/2~1/3程度にとどまっているが、インクジェットプリンタ-あるいは印刷法で、回路が作れる可能性があるため、研究が盛んにおこなわれ

ている。

たとえば PCBM(C60の誘導体)と P3HT(導電性高分子の一種))の場合

*P3HTPCBMP3HTPCBM 1 h

P3HTPCBM*P3HTPCBM -

P3HT*PCBMP3HTPCBM 2 h

P3HTPCBMP3HT*PCBM -

という電子移動を伴う光化学反応が起こる。これによってできたキャリアが電子を運び、電流を

流すことが知られている。

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42

○ 光化学の連鎖反応

以前問題に出した、連鎖化学反応は光化学反応としても起こる。

熱化学反応の場合

1) M2BrMBr 1'2 k

2) HHBrHBr 2'2 k

3) BrHBrBrH 3'2 k

4) BrHHBrH 24' k

5) MBrM2Br 25' k

[問 1] 1)、5)にM(担体気体)を含むが、[HBr]に関する速度式は以前の解と同じになることを確かめよ。([H]、[Br]に関して定常状態近似を仮定せよ)

参考1

21

43

2/122

2/15

1432

2/11

]Br[HBr][]Br][H[2HBr][

kkkkkkk

dtd

となるはず

光化学反応の場合(熱反応は 200℃以下では起こらない)

1) M2BrMBr2 h

2) HHBrHBr 2'2 k

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43

3) BrHBrBrH 3'2 k

4) BrHHBrH 24' k

5) MBrM2Br 25' k

[問2] 1)に対する速度式が、 aIdtd 2[Br]

であることを考慮して、光化学反応の時の HBrの

速度式を求めよ。(H, Brに対する定常状態近似を仮定せよ)

12

143

2/12

2/15

1432

2/1

]Br[HBr][]M][H[2HBr][

kkkkkkI

dtd a となるはず

[M]が全圧 Pに比例すれば

12

143

2/12

2/15

1432

2/1

]Br[HBr][]H[2HBr][

kkPkkkkI

dtd a

となる。同等の実験式が得られている。

○光電荷移動に関するマーカス理論

マーカス理論は、化学反応の広い分野で使われている理論である。以下光化学反応に関して応用

した例を示す。

BA*BA 1k

という化学反応を考える。右辺の状態は左辺よりエネルギーが低いとする。この場合、左辺の状

態が常に実現するように思われるが、この反応の活性化エネルギーが高いと、 B*B の基

底状低への遷移が起こるために、光電荷分離は観測できなくなる。

A、Bの周りの分子の分極を表す座標を Qとして表す。分極が起こっている状態の自由エネルギ

ー曲線を G2、いない状態の自由エネルギー曲線を G1とする。

すると左辺および右辺の自由エネルギーは以下のように表される。

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44

201 )( aQGQG ; 202 )( QQaQG (

0G <0)

20aQ

分極が起こらない状態よりも起こった状態の方が安定であるから- 0G >0(すなわち 0G は負)

である。左辺と右辺の状態の移り変わりは、G1=G2の時に起こる。このときの Qを Qxとすると

0002

00 2/2/ aQGaQaQGQx

したがって活性化エネルギーは

444)0()(

20

20

20

20

2

202

11

GaQG

QaG

aaQGQGG xx

kTG

kTVk exp

42 2

0G で、この速度定数は最大になり、それよりも小さな 0G および大きな 0G の両方

で速度定数は小さくなる。

0G : 正常領域

この状態では0G が大きくなるほど(つまりイオン化状態が安定化されるほど)速度定数は大き

くなる。

0G : (Marcusの)逆転領域この領域では、イオン化状態が安定化されると、逆に活性化エネルギーが大きくなり、イオン化

状態が実現されないことになる。エネルギーだけを考えるとこの状態は逆であることに注意

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前回の解答と講義の復習 第14回

問 1

]M[]Br[2]HBr][H[]Br][H[]M][Br[2]H][Br[]Br[0 254232122 kkkkk

dtd

]HBr][H[]Br][H[]H][Br[]H[0 42322 kkkdtd

]HBr][H[]Br][H[]H][Br[]HBr[42322 kkk

dtd

①+②より

]M[]Br[2]M][Br[20 2521 kk

したがって

2521 ]Br[]Br[ kk ∴

2/1

5

21 ]Br[]Br[

kk

②より

]H][Br[]HBr][H[]Br][H[ 22423 kkk ④を利用すると

∴ ]Br[]HBr[]Br[

]H[]HBr[]Br[

]H[]H[

423

22

423

22

kkk

kkk

③-②より

]Br][H[2]HBr[23kdt

d ⑥

⑤を利用すると

12

143

2/122

2/15

1432

2/11

2/1

5

21

423

2223

423

2223

]Br][HBr[]Br][H[2

]Br[]HBr[]Br[

]H[]Br[2

]Br[]HBr[]Br[

]H[]Br[2]HBr[

kkkkkkk

kk

kkkk

kkkk

dtd

問2 ]M[]Br[2]HBr][H[]Br][H[2]H][Br[]Br[0 2542322 kkkIk

dtd

a ⑧

②、③は同じ

②と⑧を足すと

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46

]M[]Br[220 25kI a ⑨

したがって

2/1

5 ]M[]Br[

kI a ⑩

②-⑤は同じだから、⑦の途中までは同じである。したがって

12

143

2/12

2/15

1432

2/1

2/1

5423

2223

423

2223

]Br][HBr[]M][H[2

]M[]HBr[]Br[]H[

]Br[2

]Br[]HBr[]Br[

]H[]Br[2]HBr[

kkkkkkI

kI

kkkk

kkkk

dtd

a

a ⑪

[M]が全圧 Pとすれば

12

143

2/12

2/15

1432

2/1

]Br[HBr][]H[2HBr][

kkPkkkkI

dtd a

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熱力学の復習

(-1) PdVTdSdU を参考にして、エンタルピー(H)、Helmholtz自由エネルギー(A)、Gibbs

自由エネルギー(G)、相互の関係を S, T, P, Vを用いて表せ。

(0) STG P / 、 2/)/( THTTG P を示せ。

電離平衡とネルンストの式

(1)ネルンストの式を書け。

(2)ネルンストの式における-nFEは何を反映しているか?

(3)化学反応における、Gibbsエネルギーの重要性はどこから来るか

(4)AgAgBrBr-Ag+Agの化学反応を以下のように書く。

右反応 Ag++e- = Ag

左反応 Br-+Ag = AgBr+e-

全反応 Ag++Br- = AgBr

この書き方に習って、以下の電池の電極反応を書け

(a) AgAgClHCl(1M)H2(1bar)Pt

(b) Pt,H2(g,P)HCl(aq,0.1m)Hg2Cl2(s)Hg(l)

(c) NaNa+Cl-Cl2(g),Pt

(d) ZnZn2+Fe3+,Fe2+Pt

(e) Pt,H2(1atm)H+(a(H+))H+(a=1)H2(1atm),Pt

(5) (e)に関して、起電力を求めよ。

(6)AgAgBrBr-(a1)Ag+(a2)Agの電池の起電力と、イオン積 K=[Ag+][Br-]の関係を求め

よ。

反応速度論

(7)素反応とは何か?

(8)定常状態近似とは何か?定常状態と見なしやすいのは、どのようなパラメータか?

(9)反応速度論で出てくる、Arrheniusの式に関して説明せよ。

(10) ABBA1-

1

k

k

左の 2つの素反応に関して、d[A]/dt、d[B]/dt、d[AB]/dtを表す式を

書け。平衡定数を k1, k-1を用いて表せ。

光化学

(11) 基底状態で一重項にある分子が、光によって励起された後に、再び基底状態に戻る道

筋を書け。

<発光しないプロセスは一般に無輻射遷移とよぶ。>

(12)(11)のそれぞれのプロセスに関して、適当に速度定数を割り振り、一重項寿命、三重

項寿命がどのようになるか求めよ。

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(13)一重項量子効率、三重項量子効率を求めよ。

(14)(13)の結果に基づき、三重項からの発光を観測するための条件を考えよ。ただし、消

光剤(quencher)の存在は考えなくてよい。