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適応度とは何か?

進化生態学の基本概念を紹介

生態学 I 第2回

2008年10月21日

前回の質問から(1)

• 哺乳類が多くの植物種を利用できるのは腸内に微生物を養っているからということだが、微生物なら昆虫でも養えるのではないか?

• 昆虫が体内にバクテリアを飼わないのはなぜですか? 体が小さいから? それともバクテリアを飼っている昆虫もいるんですか?

前回の質問から(2)

• 単独性昆虫がおとずれる花が皿状になるのはなぜで、どんな利点があるのか?

• 皿状花には少ないコストでハナアブなどが集まるということであったが、マルハナバチ媒介される花にはより多く集まるのではないか? それらの昆虫をブロックする仕組みはあるのか?

• 皿状花は花自体にミツバチとコハナバチを分ける機能がないのに、なぜコハナバチを選択的に訪れさせることができるのか?

生物の表現型の特徴

• 「適応」・・・ある生育環境の下で生活していくうえで、非常に良くできている

• 「良くできている」状態を客観的に定義するにはどうすれば良いか?

屋久島を特徴づける渓流環境

渓流の岩上に着生するホソバハグマ

ホソバハグマに近縁なキッコウハグマ

ホソバハグマ・キッコウハグマの葉形

ダーウィンフィンチの適応放散

http://www.pbs.org/wgbh/evolution/library/01/6/images/l_016_02_l.gif

シクリッドフィッシュの適応放散

マラウィ湖

http://evolution.berkeley.edu/evosite/evo101/images/cichlids.gif

ニッチ niche

資源の状態(たとえば餌の大きさ)

適応の程度

種1 種2 種3

生態学的地位

問題

• 「適応の程度」を測るにはどうすれば良いか?

• 個体数が多い種ほど適応度が高いと考えて良いだろうか?

種間の比較

• ヒトはチンパンジーより個体数が多い

– ヒトの方が適応している?

• ゴキブリはチンパンジーより個体数が多い

– ゴキブリの方が適応している??

• 大腸菌はヒトより個体数が多い

– 大腸菌の方が適応している???

個体間の比較

• 渓流環境では・・・

– 葉が細い個体の方が生存力が高い

• 林内環境では・・・

– 葉が広い個体の方が生存力が高い

• ミツバチもマルハナバチもいる環境では・・・

– マルハナバチをより多く訪花させる個体の方が繁殖力が高い

• ミツバチしかいない環境では・・・

– ミツバチをより多く訪花させる個体の方が繁殖力が高い

適応度 fitness• ある形質を持つ1個体が生涯に残す子供の

数の期待値

• 個体の値であり、種の値ではないことに注意

∑=x

xxmlW

xlxm

x令までの生残率(survivorship)

x令での産卵(産仔)数(fecundity)

生涯繁殖成功度Lifetime reproductive success

生物の表現型の特徴

• 「適応」・・・ある生育環境の下で生活していくうえで、非常に良くできている

• 「良くできている」状態とは?→最適化モデル

形質値

個体の適応度

ニッチ niche

資源の状態(たとえば餌の大きさ)

平均適応度

種1の平均的個体

生態学的地位

種2の平均的個体

種3の平均的個体

ダーウィンフィンチにおける自然淘汰

教科書第3章

問題

• ホモ・サピエンスは地球全体に広がり、ネアンデルタール人は滅んだ– ネアンデルタール人の祖先(ホモ・ハイデルベルゲンシス)は、約50万年前にアフリカから北上して、ヨーロッパに分布を広げた。ヨーロッパ入植後約30万年経って、寒冷気候に適応したネアンデルタール人へと進化した。一方、現代人の祖先(ホモ・サピエンス)は、約5万年前にアフリカから北上してヨーロッパに分布を広げた。このヨーロッパ集団は、クロマニョン人の名で知られている。やがてネアンデルタール人は滅び、ホモ・サピエンスがアジアから新大陸へと分布を広げた。

• ホモ・サピエンスの方がネアンデルタール人より平均適応度が高いと言えるか?

指数増加

rNdtdN

=

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

1 6 11 16 21 26 31 36 41 46

個体

数例:N(0)=2, r=1.2

ロジスチック成長

)1(KNrN

dtdN

−=

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

1 6 11 16 21 26 31 36 41 46

個体

数K:環境収容力Carrying capacity

密度効果

競争方程式

)1(1

212111

1

KNNNr

dtdN α+

−=

)1(2

121222

2

KNNNr

dtdN α+

−=

競争方程式の平衡点

0)1(1

212111

1 =+

−=K

NNNrdt

dN α

0)1(2

121222

2 =+

−=K

NNNrdt

dN α12

1

12

12 αα

NKN −=

12122 NKN α−=

>

>

<

<

・・・ ①

・・・ ②

種1が増える条件

種2が増える条件

4つの場合

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK 1K

2K

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK 1K

2K

2種が共存する

1N

2N

12

1

αK

21

2

αK

1K

2K

種1の個体数

種2の個体数

種1が増える

種2が増える

種1が減る

種2が減る

2種間の競争係数が

ともに小さい

多種共存の基本原理

• 種間競争よりも種内競争の効果が十分に大きいとき、2種は共存できる。

レバントの化石人骨現代人とネアンデルタール人の交代

現代人

寒冷化

ネアンデルタール人

Shea (2003) Neanderthals, competition, and the origin of modern human behaviour in the Levant.

より温暖

Early migration of modern humans

ネアンデルタール人が分布していないアジアでは急速に広がったヨーロッパへの分布拡大はより遅い・・・おそらく種間競争があったFoster (2004)

↓Mellers et al (2006) Science

ヒトの個体群増加の歴史

Hawks et al. (2007) Recent acceleration of human adaptive evolution. PNAS 104.

今日のキーポイント

• 適応度 fitness– ある形質を持つ1個体が生涯に残す子供の数の期待値

– 個体の値であり、種の値ではない

• 生態学的地位 ecological niche– 同種個体の平均的な資源利用分布

– 種間ではニッチが異なることが多い(すみ分け)

• 競争排除則 competitive exclusion principle– ニッチが類似した種は共存できない

問題

• 2種が安定して共存するとき、平衡個体数は

• 競争係数や環境収容力が進化的に増加した場合、共存条件はどのように変化するだろうか?

)1

,1

(),(2112

1212

2112

212121 αα

ααα

α−−

−−

=KKKKNN

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