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デジタルマクロ波通信入門Ⅰ
[要素技術編]
版 1.0
2008/10/30
目次
1. ベースバンド伝送
2. 信号の表現<時間軸と周波数軸>
3. 線形変換と非線形変換
4. フーリエ変換
5. 周波数スペクトラム
6. ろ波(Filtering)
7. 雑音
8. BER(Bit Error Rate) <ビット誤り率、符号誤り率>
9. ナキスト定理と等価帯域幅
10. 最適伝送系
11. 変調と復調
12. 多値系
13. 変調波スペクトラム
14. 等価ベースバンド系の導出
15. 等価ベースバンド系の直交振幅変調信号への応用
16. 狭帯域雑音(Narrow Band Noise)
17. キャリゕ同期、:GC回路
18. クロック抽出と再生回路(Sampling)
19. 位相同期回路(Phase-locked loop)
20. 差動変換(differential coding)
21. 時分割多重処理
22. クロックタミングと多重々分離
23. フレーム同期回路
24. 疑似ランダム信号(Pseudo Random Sequence)
25. 誤り訂正符号
26. 直交周波数分割多重方式(OFDM)
27. 計算機シミュレーション
28. 主要関係文献
1〄ベースバンド伝送
デジタルマクロ波通信で利用される通信方式の伝送解析は、基本的にベースバンド
伝送における伝送解析に帰着します。したがって、ベースバンド伝送に関する理解が必須
です。
ベースバンド伝送におけるもっとも基本的な構成は、図1〓1で示されます。
送信信号としては、特にNRZ波形信号の場合が重要です。
T(ω)は送信側 FILTER 特性、
H(ω)は伝送路の周波数特性、
R(ω)は受信側 FILTER 特性です。
R(ω)の出力信号は、再生回路によって識別判定されてNRZ波形信号に復元されます。
この基本構成において、受信端はC点で表され、そのC点に付加雑音が印加されます。
T(ω) R(ω) 再生H(ω)
A B C D E
付加雑音
+
NRZ NRZ
図1〓1 ベースバンド伝送の基本構成
ベースバンド伝送における基本的な要素としてクロック信号があります。クロック信号
は NRZ のパルス繰り返しタミング情報であり、クロック周波数は伝送速度になります。
当然、再生回路では受信信号 D はクロック信号のタミングで再生されます。
デジタルマクロ波通信で利用されるクロック信号には、さまざまな体系があります。
世界的に同期された信号が用いられた場合には、NRZ 信号の複数の信号列の多重化々分離
化を容易にします。
2.信号の表現<時間軸と周波数軸>
信号についての2種類の表現について理解が必要です。即ち、時間軸表現と周波数軸表
現です。図 2-1 に時間軸表現により、各点の信号が示されています。また、図 2-2 に周波
数軸表現による、各点の信号が示されています。
A
B~D
E
図 2-1 各点における信号の時間軸表現
AB~D
E
0 00ω ω ω1/T 1/T 1/T
図 2-2 各点における信号の周波数軸表現
時間軸は、波形、波形応答、波形歪、符号間干渉、符号誤り率などの解析に有効であり、
測定に関して、シンクロスコープが用いられます。
周波数軸は、周波数応答、周波数帯域幅(占有帯域幅)、周波数帯域制限などの解析に有
効であり、測定に関して伝送特性測定器、スペクトラムゕナラザーが用いられます。
3.線形変換と非線形変換
デジタルマクロ波通信における主信号は、基本的にはすべて線形変換で操作されます。
線形変換操作に属する具体的な信号処理には、
① ろ波(Filtering)、
②増幅、加算、減算、
③直交振幅変調、
④直交振幅復調、
などが挙げられます。
このような線形処理であるが故に、デジタルマクロ波通信の解析では、
② IF 系と Baseband 系を同一視できること、
② ーリエ変換が非常に重要な役割を担うこと、
などの特徴があります。
一方、デジタルマクロ波通信においても非線形操作があります。それらには、
① 搬送波抽出、クロック信号抽出などの信号成分抽出、
② FSK などの非線形変調、
③ 増幅器など実際の回路で発生する振幅飽和(saturation)特性、
などです。
留意点は、次のようになります。すなわち、デジタルマクロ波通信では、基本的な伝
送特性分析の場合、線形系であることを利用した分析を多く適用することになります。一
方、多くの非線形操作が使われますが、その都度適した分析を工夫して適用する必要があ
ります。
搬送波抽出とクロック抽出の非線形処理の必要性について説明します[3-1]。デジタルマ
クロ波通信で一般に用いられる信号は、NRZ 信号です。この信号の周波数スペクトラムは、
連続スペクトラムしか含まれていません。すなわち、如何に搬送波周波数やクロック周波
数成分を得ようとして狭帯域ろ波器を適用しても狭帯域にすれば次第に出力電力は 0 とな
り何も得られません。帯域制限を狭くしても必要な電力を得るのは搬送波やクロック成分
が輝線スペクトラムとして抽出される必要があります。それを生み出す手段が非線形操作
です。輝線スペクトラムに狭帯域のろ波器を適用することによって、純粋な成分を取り出
すことができます[3-1]。
関連情報〆
[3-1] 4~6章までの知識を必要とします。
4.フーリエ変換[4-1]
信号の時間軸上表現と周波数軸上表現を結びつける方法として、フーリエ変換がありま
す。フーリエ変換には各種定義がありますが、デジタルマクロ波通信で扱うフーリエ変
換は、次式で与えられる式で記憶しておく必要があります。
1)フーリエ変換(時間軸表現 f(t)を周波数軸表現 F(ω)へ変換する)
F(ω)= f t e−jωt∞
−∞dt 々々々々(4-1)
2)フーリエ逆変換(周波数軸表現 F(ω)を時間軸表現 f(t)へ変換する)
f(t)=(1/2π) F ω ejωt∞
−∞dω 々々々々(4-2)
ここで留意すべきことは、これらの式(4-1)(4-2)を記憶することの必要性とともに、こ
れらの積分計算を実際に実行する機会はほとんどないということです。次の表にまとめら
れた基本的な各種関係は、積分計算を行わなくても、式の変形のみにより容易に導くこと
ができる。これらの関係の多くは、記憶する必要もありません。なぜなら必要となったと
きに導けば良いからです。
時間軸における性質々操作 周波数軸における性質々操作
1 実時間関数 F(-ω)=F*(ω)〆対称性
2 虚数時間関数 F(-ω)=-F*(ω)〆奇対称
3 f(t-τ) F(ω)e-jωτ
4 2つの時間関数の掛け算 2つの周波数関数の畳み込み積分
5 ejω0t f(t) F(ω-ω0)
6 Impulse δ(t) 1 :flat スペクトラム
7 ejω0t Impulse δ(ω −ω0)
なお、4項で取り上げている畳み込み積分に関しては、多くの場合で比較的容易に実際に
求める事が出来ることも覚えておくべきことです。
式(4-1)(4-2)を実際に計算する機会は少ないと言いましたが、逆に、この計算が、多く
の場合において極めて難しいことも事実です。たとえば、非常に基本的な信号である
f(t)=cosω0t の場合でも、そのフーリエ変換(4-1)の計算は困難です。これは、厳密には超
関数、または汎関数という分野に属する取り扱いになります。もっとも結果は、自明であ
り F(ω)=δ(ω±ω0)という輝線スペクトラムになります。
文献〆
[4-1]A.Papoulis, ’ The Fourier Integral and Its applications’
5〄周波数スペクトラム[5-1][5-2]
周波数スペクトラムは、周波数軸上での信号表現に関する論議になります。周波数
スペクトラムに関しては、2つの種類があることを十分に意識して取り扱う必要がありま
す。その一つは、電力密度スペクトラムであり、今一つは振幅スペクトラムです。
5-1 電力密度スペクトラム(power density spectrum) 𝒮(ω)
電力密度スペクトラムは、ランダム信号列のように無限に継続する信号列の周波数軸
表現です。電力密度スペクトラムの単位は、power/Hz となります。Power はより具体的
には Joule(ジュール)などです。ランダム信号列は、そのエネルギーは無限になり、その
電力は一定値になります。厳密には、この電力密度スペクトラムは、信号列の自己相関関
数のフーリエ変換で求めることができます。ここでも重要なことは、このような事実を覚
えておくことと実際のフーリエ変換計算はあまり実行される必要性がないことです。そし
て、次のような簡単な事例を覚えておくことが有効です。また、3項でしめされた各種関
係は、フーリエ変換であるので、ここでも成立します。
時間軸上表現 電力密度スペクトラム
1 NRZ 信号列
(2値でも多値でも同じ)
(sinx/x)2 の形である。
[連続スペクトラム]
2 RZ 信号列
(1/fs の繰り返し)
(sinx/x)2 〒 δ(f-mfs) の形である。
[連続スペクトラム] [輝線スペクトラム]
3 無相関である s1(t),s2(t)の和信号 𝒮1(ω) + 𝒮2(ω)
4 s1(t)と s2(t)の2信号による
ランダム信号列
文献[5-1]による。これは非常に有効な事例
であり、応用範囲が広い。
5-2 振幅スペクトラム S(ω)
振幅スペクトラムは、孤立パルスなどのように、そのエネルギーが有限な信号の周波数
軸表現です。振幅スペクトラムの単位は、energy/Hz となります。energy はより具体的に
は erg( エルグ)などです。孤立パルス信号の電力は0になります。振幅スペクトラムは、
信号のフーリエ変換で求めることができます。なお、孤立パルスには、ンパルス応答の
ようなものも含まれます。
文献〆[5-1] Davey and Benett,’ Data transmission’
[5-2] A.Papoulis,’ The Fourier Integral and Its applications’
6. ろ波(Filering)[6-1][6-2][6-3]
ろ波(Filering)は、周波数軸上での信号処理に関するもっとも基本的な処理です。電力
密度スペクトラムと振幅スペクトラムにおける違いを理解する必要があります。
6-1 電力密度スペクトラム
図 6-1 で示されるろ波器における入力信号と出力信号において、重要な関係は、
𝒮y(ω) =|H(ω)|2𝒮x(ω) 々々々々々(6-1)
で与えられます。
こ の 関 係 式 の 証 明 は 、 文 献
[6-1][6-2][6-3]を参照ください。
重要なことは、結果としての関係
式(6-1)です。この関係式は、実
用上においても非常に重要であ
り、覚えておく必要があります。
x ω y ω H ω
入力信号 出力信号
ろ波器
Power spectrumPower spectrum
transfer function
図 6-1 ろ波器による信号処理
6-2 振幅スペクトラム
図 6-1 において、信号の波形応答として入力信号 Sx(ω)と出力信号 Sy(ω)の関係は、
Sy(ω)=H(ω)Sx(ω) 々々々々々(6-2)
で与えられます。
(具体例)ろ波器が、次のような矩形型の特性 H(ω)であるとすると、式(4-2)と(6-2)によ
り、比較的容易に t=0 におけるンパルス応答が(sint/t)型になることが分かります。
H(ω)= 1 ∶ −ω0 ≤ ω ≤ ω0
0 〆上記以外
々々々々々(6-3)
このことは、t=0 でンパルスを印加したにも関わらず、t<0 においても波形が発生する
という問題が生じます(因果律が成立しないと言います)。この原因は、式(6-3)で表され
るろ波器が実際には存在しない為です。実際のろ波器を製作すると、遅延特性がフラット
になりません。遅延等化してフラットにすると、絶対遅延が生じて(sint/t)型に近づきます。
理想的には、完全に遅延等化すると無限の遅延が生じて完全な(sint/t)型になります。
文献〆
[6-1]Golomb,’ Digital communication’,
[6-2]L.E.Franks,’Signal Theory’,
[6-3]A.J.Viterbi,’Principle of Coherent Communication’
7〄雑音
デジタルマクロ波通信においては、図 1-1 に示されたように、伝送路で様々な雑音
が付加されます。特に重要な雑音は、熱雑音と干渉雑音です。
7-1 熱雑音
熱雑音は、特に重要な雑音です。送信信号は、伝送路を通過するとき伝搬損失のため
減衰し非常に微弱な信号として受信機に到達します。その時、受信器の入力段で増幅され
ますが、その増幅器には熱雑音が含まれておりこれが信号に重畳します。このような熱雑
音は非常に低レベルですが、受信信号のレベルも同等の低レベルにまで減衰し(伝送路を
そのレベルになるまでできるだけ長くとるとう回線設計を行います)、信号に影響すること
になります。熱雑音に関しては、メカニズムを含めて詳細な解析がなされています[6-1]。熱
雑音の要点は、white 性と gaussian 性です。この2つを良く理解し覚える必要があります。
周波数スペクトラム−−−→ white flat である。
振幅分布 −−−→ gaussian 分布である。
々々々々々(7-1)
ここで、flat な周波数スペクトラム特性を定義するため、一般的に noise densityとし
て N0/2 が使われます。熱雑音自体は、周波数特性の広がりが無限であるため、仮想的です
がその総電力は無限になると考えます。しかし、実際の応用では受信帯域ろ波器による帯
域制限され、その出力では有限の電力(N)になります。なお、受信帯域制限によっても振幅
分布 p(x)は変化せず gaussian 性は維持されます。そして、次の関係が成り立ちます。
P(x)=(1/ 2πN)exp(-x2/2N) (N と N0 の関係は9章参照) 々々々々(7-2)
7-2 干渉雑音
干渉雑音源には、さまざまなものがあります。レーダー干渉、ゕナログ通信システム
からの干渉、とくにFM干渉、デジタルマクロ波通信システムにおける周波数多重の隣
接チャンネル間の干渉などが主要です。これらを一般的に扱うことはできず、その事例ご
とに取り扱いを決定する必要があります。すなわち、
周波数スペクトラム−−−→ I(ω)
振幅分布 −−−→ gaussian 分布、三角分布など
々 々々々々(7-3)
周波数多重における隣接間干渉では、I(ω)=S(ω)となるため、詳しい分析が可能です。
文献〆
[7-1] S. O. Rice, ``Mathematical analysis of random noise,'' Bell Syst. Tech. J., vol. 23, pp. 282-332, July 1944; vol.
24, pp. 46-156, Jan. 1945.
[7-2] Schwarty, ‘Communication System’ [7-3] Viterbi, ‘Principle of coherent communication’
8〄BER(Bit Error Rate)<ビット誤り率、符号誤り率>
BER(Bit Error Rate)〆ビット誤り率は、デジタルマクロ波通信方式の評価で使われ
る最も基本となる指数です。それは、受信再生された信号が、送信された信号に対して、
どの程度誤っているかによって示されます。符号誤り率との違いは第12章で説明されます。
図 1-1 に示されたように、送信信号は伝送路を経て雑音が印加され受信ろ波器を通った
あと、D点において再生回路によって符号判定されて、再生信号となります。一番重要な
事例は、雑音として熱雑音が印加された場合です。
D点における信号
D点における雑音
図 8-1 再生点における信号
ここでは、簡単のために送信信号は振幅 A の NRZ 信号とし、送信及び伝送路での帯域制
限がないとします。一方、印加された熱雑音はその平均値が 0 でありその振幅分布が
Gaussian 分布、電力は N であるとします。これらの信号は、図 8-1 に示された信号であ
り、これらの相加によってもたらされます。
再生回路が、送信信号とは異なる信号を再生するのは、標本化点における信号の振幅が、
本来の信号振幅とは異なる極性となった場合です。これは一般性を失うことなく、雑音の
振幅が A 以上となる確率に等しくなります。したがって、式(7-2)を用いて、次で与えられ
ます。 Pb= (1/ 2πN)exp(−x2 /2N)∞
Adx 々々々々々(8-1)
t=x/ 2Nと変数変換すればわかるように、Pb は、A と Nの比(信号電力対雑音電力比
(SNR))で決定されます。この計算は簡単ではなく計算機によります。簡単化の試みも多く
なされていますが、SNR に対するヒストグラフを用いることも十分実用的です。
なお、ビット誤りを生させるのは熱雑音だけではありません。干渉雑音やハードウエゕ
の障害によっても生じます。1 ビットでも検出できるので、非常に感度の高い検出器になっ
ています。
文献
[8-1]Schwartz, ‘Communication system’
[8-2] Davey and Bennett, ‘Data Transmission’
9〄ナキスト定理と等価帯域幅
8章までは、時間軸上表現と周波数軸上表現の何れか一方だけに関係した事項を扱っ
てきました。ここでは、時間軸上と周波数軸上の関係を中心に取り上げます。
図 1-1 を簡単化して、改めて書き直したものが、図 9-1 です。
T(ω) R(ω)+
熱雑音
Si(ω) So(ω)
図 9-1 デジタルマクロ波通信の伝送路における要素
9-1 ナキスト定理(Nyquist Theory)
一般に T 秒毎の繰り返し波形が伝送路を通過した場合、波形歪を受けます。波形歪は、
時間軸上のパルス間干渉となります(符号間干渉と言います)。これに対して、Nyquist は、
標本化点(sampling point)において符号間干渉がない条件を明らかにしました。
A
1
0
0.5
1/2T
(1-α)(1/2T)
(1+α)(1/2T)
f
図 9-2 NYquist 条件の説明図
Nyquist 条件〆「信号の振幅周波数スペクトラムが、図 9-2 で示されたように、f=1/2T に
おいて、0.5 であり、その点に対して折り返した時矩形スペクトラムとなること(橙部分と
濃青部分が対称であること)」、
nyquist 定理〆Nyquist 条件を満たすとき、対応する波形は、t=0 を除いて、T 秒毎に値が
0 となる。」すなわち、この条件が成り立つと、同一信号を T 秒毎に伝送した場合、符号間
干渉がありません。(なお、図 9-2 で示されたαは、スペクトラムが raised-off cosine 型の
時に利用されロールオフフゔクターと呼びます)。
したがって、図 9-1 において、S0(ω)=Si(ω)T(ω)R(ω)が、Nyquist 条件を満足すること
が、出力信号 S0(t)に符号間干渉がない条件になります。
9-2 等価雑音帯域幅
受信ろ波器の出力における雑音電力は、次式(9-1)で与えられます。
N= (N0
2)
∞
−∞|R(ω)|2df=N0 |R(ω)|2df
∞
0 =N0Be 々々々々々(9-1)
ここで、Be をろ波器 R(ω)の等価雑音帯域幅と呼びます。ろ波器に対して、等価雑音帯域幅
を求めておけば、雑音電力密度を掛けることで容易に出力雑音電力が分かります。
10〄最適伝送系[10-1]
ここでは、図 9-1 で与えられた伝送系におけるろ波器の最適化を取り扱います。
T(ω) R(ω)+
熱雑音
Si(ω) So(ω)
図 9-1 デジタルマクロ波通信の伝送路における要素
ここで言う最適化とは、
『【10-1】「受信ろ波器出力信号 So(ω)が、Nyquist 条件を満たす(即ち符号間干渉がない)」
という条件の元で、
【10-2】「出力信号 So(ω)に対する再生信号のビット誤り率が最少とすること」 』
として与えられます。
ここで、【条件〆10-2】のビット誤り率を最小とすることは、送信信号 Si(ω)が一定の場合、
【10-3】「受信ろ波器の出力における雑音電力を最小とすること」
と一致します。
即ち、最適化は、
『 【10-1】の元で、式(9-1)で与えられた N の最小化、すなわち、
【10-4】「N= (N0
2)
∞
−∞|R(ω)|2df の最小化」 』
となります。
この解は、次のようにまとめられます。すなわち、
【10-5】最適解は、次の条件となります(証明は文献[10-1]による)。
R(ω) ∝ So(ω)
Si(ω)T(ω) ∝ So(ω)
この【10-5】で与えられる伝送系を最適系と呼びます。この結果は覚えておくことが必要
です。良く「ルートルート」あるいは「 」特性と呼ばれます。
文献〆
[10-1]Lucy, Saltz and Weldon, ‘Principle of data communication’
11〄変調々復調
ここまでの説明は、主としてベースバンド信号に対して行ってきました。ここでは変
調と復調について説明します。デジタルマクロ波通信におけるもっとも重要な変調方式
は、直交振幅変調方式です。その基本的な構成を図 11-1 に示した。
i(t)cosωct
T(ω)
sinωct
T(ω)
q(t)
H(ω)
R(ω)
R(ω)
cosωct
sinωct
ir(t)
qr (t)
図 11-1 直交振幅変調方式の基本構成
直交振幅変調方式は、図 11-2 に示された
ように、同相成分 ak(I 相成分)と直交成
分 bk(Q 相成分)の2つの信号の組み合わ
せで表示することができます。図 11-1 に
おいて、i(t)=信号列{ak}、q(t)=信号列
{bk}と対応させることになります。これに
は、もちろん直交振幅変調(Q:M)方式
が該当しますが、いわゆる位相シフトキー
ング(PSK)変調方式も同じ扱いをす
ることができます。
I相
Q相
(ak,bk)
ak
bk
図 11-2 直交振幅変調方式の信号成分
また、同相成分 ak(I 相成分)と直交成分 bk(Q 相成分)に多値振幅信号を用いること
によって多値直交振幅変調(Q:M)方式を得ることができます。K=2,4,8,16 に対して、
それぞれ 4QAM,16QAM,64QAM,256QAM が対応します。その他適当に組み合わせること
により、32QAM,128QAM なども利用することができます。
なお、多値振幅変調信号は、多値ベースバンド信号と等価であり多値ベースバンド信号
の解析を利用できます。
12〄多値系
ここで、多値信号によるシステムを説明します。デジタルマクロ波通信方式では、
デジタル信号を伝送します。このデジタル信号の基本は2値信号でありその情報単位はビ
ット(bit)です。それに対して、複数列の2値デジタル信号をデジタル多値振幅信号とし
て、このデジタル多値振幅信号をデジタル信号として利用することができます。
多値振幅信号
d1
d2
dn
ak or bk
2値信号
D/A
(2n値)
伝送路
d1
d2
dn
A/D
2値信号
図 12-1 多値振幅信号の伝送
図 12-1 に多値振幅信号による伝送を示しました。入力信号である2値信号は、D/A(デ
ジタルーゕナログ変換機)により多値信号に変換されます。この多値振幅信号を2つ使っ
て図 11-2 で示された ak または bk に対応させ、それぞれの信号列を図 11-1 の i(t),q(t)に
対応させることにより、直交多値振幅変調方式を得られます。2 値 QAM の場合には、ak=bk
となります。今、2値信号である d1,d2,々々々,dn が信号列としてそれぞれ B bits/s とする
と、直交多値振幅変調方式による伝送信号は、(ak,bk)の信号列として B symbol/s となり
ます(通常、多値信号の伝送速度は、多値信号を符号(symbol)と見なしてシンボルレート
と呼びます)。また、多値振幅信号である ak または bk は基本的に矩形パルスでありその必
要伝送帯域はその伝送速度と等しくなります。直交多値振幅変調方式では、情報伝送速度
は 2nB bits/s である2つの「n 列の B bits/s のデジタル信号」を B symbol/s で伝送でき
ることになります。必要伝送帯域幅で言えば、1/2n倍の帯域で伝送できることになります。
もちろん、2 値 QAM の場合には 1/n となります。
受信側では、A/D(ゕナログーデジタル変換器)により、多値信号は元の2値信号に戻
されます。ここで利用される A/D 変換器は、瞬時サンプリングによる再生回路としての役
割があります。このため市販されている A/D 変換器を利用する場合特性には注意が必要で
す。とくに瞬時サンプルであることと不確定幅が十分に小さいことが要点です。
なお、多値伝送方式は、2値伝送方式に比して必要帯域幅は軽減されますが、その代償
として熱雑音や波形歪に対する耐性は劣化します。このため、最適な方式の選択には十分
な検討が必要となります。また、符号に関する誤り率を符号誤り率と言います。
13〄変調波スペクトラム
すでにベースバンド伝送における周波数スペクトラムに関しては議論してきました。
ここでは、図 11-1 で示された直交多値振幅変調による変調信号の周波数スペクトラムにつ
いて議論します。
i(t)cosωct
T(ω)
sinωct
T(ω)
q(t)
H(ω)
R(ω)
R(ω)
cosωct
sinωct
ir(t)
qr (t)
図 11-1 直交振幅変調方式の基本構成
図 11-1 におけるベースバンド信号 i(t)と q(t)に関して、それぞれの周波数スペクトラム
を𝒮i(ω) 、𝒮q(ω)としたとき、
i(t) ⟺ 𝒮i(ω) q(t) ⟺ 𝒮q(ω)
々々々々々々(13-1)
変調信号の周波数スペクトラム𝒮IF(ω)は、もし、i(t)と q(t)に相関がない場合には、
次式で与えられます。
𝒮IF(ω) =𝒮i(ω+ωc) + 𝒮i(ω-ωc) + 𝒮q(ω+ωc) + 𝒮q(ω-ωc) 々々(13-2)
すなわち、単にベースバンドにおける周波数スペクトラムを搬送波周波数ωc を中心として
移した周波数スペクトラムになります。
ここで、「i(t)と q(t)に相関がない」という条件には留意が必要です。すなわち、i(t)と
q(t)に相関がある」場合には、式(13-2)は必ずしも成立しません。たとえば、q(t)=i(t-τ)
の場合(時間差のある同一信号の場合)、変調信号の周波数スペクトラム𝒮IF(ω)は、次のよ
うになります。
𝒮IF(ω)=1
2 1 + sin ω − ωc τ 𝒮i ω − ωc
+{1 − sin ω + ωc τ}𝒮q(ω + ωc) 々々(13-2)
この事例は、実際にも良く発生します。すなわち、試験信号を利用した直交多値振幅変調
方式検査の場合、必要な2つの信号に対して同一の信号に時間差を与えて利用することが
多いためです。この場合変調信号の周波数スペクトラムが、ωc に対して対称にならないこ
とがあります。
14〄等価ベースバンド系の導出
変調信号の伝送特性を分析する際、ベースバンド信号として解析する手法があります。
これは、等価ベースバンドによる分析です。ここでは等価ベースバンドについて説明しま
す。まず、等価ベースバンドの導出を説明します。まず、現実の信号 f(t)に関する周波数電
力密度スペクトラム F(ω)は、図 14-1 に示すようになり、
F(ω)=F+(ω)+F-(ω) 々々々々々(14-1)
とあらわせます。
ω0
電力周波数密度
F-(ω) F+(ω)
図 14-1 変調信号の周波数電力密度関数
ここで、周波数軸上で正の周波数上にあるスペクトラム成分 F+(ω)のみからなる信号を取
り出します。
ω0
電力周波数密度
F+(ω)
ωc
図 14-2 正の周波数成分のみからなる周波数電力密度関数
そして、この取り出されたスペクトラムをその中心周波数ωc 分左へ移動させます。かく
して図 14-3 で示されるスペクトラムを有する信号が得られます。これが図 14-1 で示され
た変調信号 f(ω)に対する等価ベースバンド信号 fL(ω)です。
ω0
電力周波数密度
F+(ω+ωc)FL(ω)=
図 14-3 低域にシフトされた周波数電力密度関数
15〄等価ベースバンド系の直交振幅変調信号への応用[15-1]
ここでは具体的に変調信号と帯域通過ろ波器の取り扱いについて説明します。まず、
変調信号です。直交振幅変調信号は、次のように表されます。
s(t)=i(t)cosωct-q(t)sinωct 々々々々々(15-1)
これは、次のように変形できます。
s(t)=i(t) e jω c t +e−jω c t
2 - q(t)
e jω c t−e−jω c t
2j 々々々々々(15-2)
=1
2( i(t) + jq(t) )ejωc t +
1
2( i(t) - jq(t) )ejωc t 々々々々々(15-3)
すなわち、第一項は S+(ω), 第二項は S-(ω)に対応します。よって、
S+(ω) ⟺ ( i(t) + jq(t) )ejωc t 々々々々々(15-4)
これから等価ベースバンド SL(ω)は、次で与えられえます。
SL(ω)= S+(ω+ωc) ⟺ i(t) + jq(t) 々々々々々(15-5)
式(15-5)は、非常に有効な結果です。すなわち、直交振幅変調信号は2つの変調信号 i(t) と
q(t)を、それぞれ実数部と虚数部に対応させた複素数として表したものが、等価ベースバン
ド信号となるのです。
次に、帯域通過ろ波器について検討します。帯域通過ろ波器の伝送特性 H(ω)を次のよ
うに正と負の周波数成分に分割します。
H(ω)=H+(ω)+H-(ω) 々々々々々(15-6)
今 H(ω)の等価ベースバンド特性を HL(ω)とし、
HL(ω) ⟺ m(t) + jn(t) 々々々々々(15-7)
さらに、 M(ω) ⟺ m(t)、 N(ω) ⟺ n(t) 々々々々々(15-8)
とします。このとき、帯域通過ろ波器の出力信号 So(ω)は、次のように与えられます。
So(ω)= S+(ω) H+(ω) + S-(ω) H-(ω) 々々々々々(15-9)
これより、出力信号の等価ベースバンド SoL(ω)は次のように与えられる。
SoL(ω)= S+(ω+ωc)H+(ω+ωc)= SL(ω) HL(ω) 々々々々々(15-10)
=(I(ω)+jQ(ω))(M(ω)+jN(ω)) 々々々々々(15-11)
=(I(ω)M(ω)-Q(ω)N(ω))+j(I(ω)N(ω)+Q(ω)M(ω)) 々々々々々(15-12)
式(15-12)において、第一項は同相成分と第二項は直交成分を示しています。
したがって、N(ω)=0 は、直交間の干渉がないことを意味し、それは HL(ω)が対称である
ことに対応しています。また、M(ω)=0 は、I(ω)と Q(ω)が入れ替わることを意味し、それ
は、HL(ω)が奇対称であることと対応しています。
文献: [15-1] L.E.Franks, “Signal Theory”
16〄狭帯域雑音(Narrow Band Noise)[16-1][16-2][16-3]
熱雑音に関しては、第 7-1 章で説明しました。ここでは、その重要な性質について取
り上げます。
搬送波帯で発生する熱雑音を帯域制限して得られれる狭帯域熱雑音(Narrow Band
Noise)は、搬送波に対して次のように表すことができます。
n(t)=nc(t)cosωct - ns(t)sinωct 々々々々々(16-1)
ここで、n(t)、nc(t)、 ns(t)には、次の性質があります。
(1) n(t)が gaussian であれば、nc(t)もns(t)も gaussian である。
2 n2 t = ns2 t = nc
2 t
3 nc t もns t は、独立である。
々々々々々(16-2)
この熱雑音の性質により、変調波に対して印加された狭帯域熱雑音についても、等価ベー
スバンドにおいて各種解析を適用することができます。
この導出に関しては、各種文献によりますが、結果については、重要ですので理解し覚
えておく必要があります。あるいは、この性質を理解した上で各種解析を行う必要があり
ます。
文献〆
[16-1] Gardner, “Phase-locked loop”(Appendix)
[16-2] Davenport and Root, “An introduction to the theory of random signals and noise”
[16-3] Schwartz, “Communication system”
17〄キャリゕ同期、:GC回路
直交振幅変調信号の復調処理における基本的な操作であるキャリゕ同期回路と:GC
回路につき説明します。図 17-1 にキャリゕ同期回路と:GC回路の原理図を示しました。
X
C
Y R
E
図 17-1 キャリゕ同期回路と:GC回路の原理図
ここで、X は入力信号、Y は制御を受けた
信号、R は基準となる信号、C は制御信号、
E は制御を受けた信号 Y と基準信号 R との
差異信号です。制御は、E2 が最小となるよ
うに C を動かすことになります。
すなわち、E=Y-R=CX-R 々々 々々 (17-1)
であり、E2=(CX-R)2 々々々々 (17-2)
の最小化となります。
E2
CCopt
図 17-2 制御原理図
ここで、∂𝐄2
∂𝐂 =2(CX-R)X* =2E・X* 々々々々々々々(17-3)
よって、Ci+1=Ci - αE々X* すなわち C= 𝐄々𝐗∗ dt となります。々 々々々々々々(17-4)
ここで、C=rejθ=rcosθ+jrsinθと置くと、
(1) θ ≪ 1 ⇒ r≅ Re 𝐄々𝐗∗ dt ≅ Re 𝐄々𝐑∗ dt 々々々々々々々(17-5)
(2) r≅ 1 ⇒ θ ≅ Im 𝐄々𝐗∗ dt ≅ Im 𝐄々𝐑∗ dt = Im 𝐘々𝐑∗ dt 々々々(17-6)
ここで(1)は AGC 同期回路、(2)はキャリゕ同期回路の制御を表します。それぞれの回路図
は、図 17-3 と図 17-4 に示されます。式(17-6)の最後の関係によって図 17-4 をさらに簡
略化できますが、これはCostasループと言われます。
∫( )
(Re)
( )*
X Y R
E
R*
図 17-3 AGC 回路
VCO
(Im)
( )*
X Y R
E
R*
図 17-4 キャリゕ再生回路
18〄クロック抽出回路と再生回路(sampling)
第 1 章で説明したように、再生回路にはクロック旬号が必要です。このクロック信号
を受信機側では、受信信号から抽出する必要があります。
クロック同期回路
瞬時検出回路
復調信号
再生データ
図 18-1 再生回路の構成
ここで NRZ 信号を伝送した場合、復調信号の周波数スペクトラムは連続スペクトラムで
あり、クロック周波数成分に輝線スペクトラムを有していません。クロック同期回路の実
現には、次のような方法があります。
(1) クロック抽出回路と狭帯域ろ波器の組み合わせ
クロック抽出回路は、復調信号を NRZ 形から RZ 形に変換して、クロック周波数に輝
線スペクトラムを有する信号にします。この変換は、復調信号を微分回路を通すことに
よって実現されます。また、変調信号に対して半ビット遅延復調を用いても同じ結果が
得られます。一方、狭帯域ろ波器としては、単純なタンク回路(単一同調回路)や位相
同期回路(Phase-locked loop)などが用いられます。
(2) E々d𝐘
dt による制御
ここで微分回路は、再生信号 R によって
実現することが可能です。この場合の回路を
図 18-2 に示しました。なお、この微分回路
は、より具体的には前後のタムスロットの
パルス間の大きさの比較で実現できます。
VCO
Y R
Ed/dt
図 18-2 クロック同期回路の実現
19〄位相同期回路(Phase-locked loop)[19-1][19-2]
位相同期回路(Phase-locked loop)は、非常に重要な要素であり、十分な理解が必要で
す。位相同期回路(Phase-locked loop)の説明は、簡単ではありません。さまざまな優れた
解説書が出されているので、いずれかによって学習することが必須です。
ここでは、基本的な性質について触れることにします。 まず、位相同期回路
(Phase-locked loop)の基本的な構成は、図 19-1 に示されます。
VCOLPF
入力信号
出力信号
図 19-1 位相同期回路(Phase-locked loop)の基本的構成
位相同期回路(Phase-locked loop)は、図 19-2 に示したように位相面において2次の帰
還ループとして解析でき、その設計に Bode 線図などの適用も可能です。また、定常位相誤
差、dumping factor、位相マージン、ゲンマージンなどの要素も活用されます。
∫( )LPF
入力信号位相
出力信号位相
図 19-2 位相同期回路(Phase-locked loop)の位相面表現
図 19-2 において位相同期回路(Phase-locked loop)は入力信号に対して帯域ろ波回路の
働きをすると解釈できます。そして伝達特性(loop transfer function)を得ることができ、
帯域ろ波器として等価帯域幅(noise bandwidth)もえることができます。その上でループ信
号対雑音比(loop SNR)も定義されます。位相同期回路(Phase-locked loop)によって非常に
高いQフゔクターのろ波器をえることができます。入力信号に対して追従可能は周波数範
囲を Hold-in range、初期ループ確立可能周波数範囲を Lock-in range などと呼びます。
文献〆
[19-1] Gardner, “Phase-locked loop”
[19-2] Viterbi, “Coherent communication”
20〄差動変換方式 differential coding
直交振幅変調方式で利用される差動変換方式について説明します。直交振幅変調方式の
受信方式として搬送波同期検波方式を用いた場合、受信側では搬送波の位相の絶対値を知
ることができません。すなわち、受信される直交振幅変調信号には、送信側で割り当てた
位相と符号との対応に関する情報が含まれていないため、それらを特定できません。たと
えば、送信側で4つの相(0, π
2, π, −π/2)と4つの符号(たとえば、0〃1〃2〃3)を
対応させたとしても、受信側では、受信した4つの相のどれが、0, π
2, π, −π/2 のどれ
に対応するかの判定できません。この不確定性(ambiguity)を解決する手段として、連続す
るタムスロット間の位相差に情報を対応させる方法である差動変換方式 (differential
coding) があります。差動変換は、送信側では変調前のデジタル処理として行われ、受信
側では復調再生後のデジタル処理として行われます。
直交振幅変調方式では、図 11-2 に示されたように、情報(信号)は位相と振幅の組み
合わせた点に対応されます。この時、情報とバナリ信号との対応を適切に選ぶことによ
り、不確定(ambiguity)は4種類の一つに限定できます。位相象限で表現すると、象限の不
確定による4つの不確定があります。言い換えると、象限を決定するビットにだけ、差動
変換を行えば必要十分になります。 象限を決定するビットは 2 ビットになります。
送信側変換
受信側変換
再生回路より
変調器へ
入力データ
出力データ
1ビット遅延
1ビット遅延
2ビット 2ビット
2ビット 2ビット
(N-2)ビット
(N-2)ビット
Nビット
Nビット
Nビット
Nビット
図 20-1 直交振幅変調方式における差動変換器
留意すべき点が2つあります。第一は、差動変換方式を用いた場合、伝送路で誤りが確
率 p で生じると受信側で前後のビットにも誤りが生じることです。この誤り伝搬を最小と
するには、grey code 対応が必要です。このとき誤り率は 2p(1-p)となります。第二の留
意点は、もし何らかの手段で受信側でも位相確定ができ位相不確定がない場合には差動変
換方式を採用する必要がないことです。
21〄時分割多重処理
デジタルマクロ波通信方式で用いられるデジタル処理の一つとして時分割多重処理
に関して説明します。デジタルマクロ波通信方式で伝送すべき主信号としては、ネット
ワークや独自システムとしてのデジタルデータ信号列などがあります。これに対して、デ
ジタルマクロ波通信方式自身自らのシステム管理に関するシステム制御信号もあります。
これらは、時分割多重処理により多重化されて伝送されます。自身のシステム管理情報で
ある制御信号としては、多重化するためのフレーム同期信号、システム制御信号、誤り制
御信号、同期用 stuff 信号と stuff 制御信号、などです。フレーム同期信号は、時間多重化
するためのフレーム構造を決めるための信号です。フレーム構造は、単純な構造化やさら
に階層化された構造(super frame)も利用されます。システム制御信号は、基本的なシステ
ム内での打ち合わせ信号などを含みます。用語としては、DSC(Digital Signaling Channel )
などと呼ばれます。誤り制御信号は、通常偶奇 parity 信号が用いられます。受信側で偶奇
の規則を調べて区間内での誤り発生を検出することができ、回線のビット誤り率の状況を
監視することができます。同期用 stuff 信号と stuff 制御信号は、ネットワークから受ける
本来の伝送すべき信号を多重する場合に利用されます。デジタルマクロ波通信方式自体
が、そのネッットワークのクロック体系に対して同期系として、あるいは非同期系として
構成できます。このときクロック信号の差異を吸収するために利用される信号が stuff 信号
です。 図 21-1 に基本的な構成とフレーム構成事例を示しました。
合成回路
分離回路
伝送路
フレーム同期回路
制御信号 制御信号
デジタルマクロ波システム
ネットワ|ク
ネットワ|ク
Dn:ネットワーク信号、Fn:フレーム同期信号、DSC:システム制御信号、P:誤り制御信号、STF:同期用stuff信号とstuff制御信号
F1
DSCD1
D2
D3
F2
STFD1
D2
D3
F3
PD1
D2
D3
フレーム フレーム フレーム
スーパーフレーム
図 21-1 多重分離回路とフレーム構成例
22〄クロックタミングと多重々分離[22-1]
多重化するためには、ネットワークや独自システムとしてのデジタルデータ信号に
対して各種信号を付加するため出力信号を入力信号に対してそのクロック周波数を高く設
定する必要があります。このとき、入力信号のクロックに従属同期させる方法と非同期で
行う方法があります。
まず、従属同期系の場合図 22-1 に示し
たような構成となります。ここでは入力クロ
ック周波数に対して出力周波数は m/n 倍の
周波数となります。受信側における分離回路
においても同様の方法で低速化を行います。
このような方式は、入力信号がネットワーク
から、45MBPS, 34MBPS, 140MBPS な
どの 1 列信号の場合などに有効です。
n/m VCO
LPF
DiDo
fi W R fo=(m/n)fi
メモリー
図 22-1 従属同期系多重化回路構成
一方、非同期系の場合図 22-2 に示したような構成となります。ここでは入力クロッ
ク周波数に対して出力周波数はおおよそ m/n 倍の周波数となります。
このとき生じる位相誤差がある程度大きく
なるとそれを修正するための「うるうビット」
(これを stuff ビットと言います)を挿入し、
それとともに挿入したことを情報(これを
stuff 情報ビットと言います)として挿入し
ます。受信側では、この「stuff 情報ビット」
により「stuff ビット」を除いて、速度調整
し、その上で低速化を行います。このような
方式は、入力信号がネットワークから、たが
いに非同期である45MBPS,34MBPSなどの
信号を複数受ける場合などに有効です。
n/m
DiDo
fi W R fo=(m/n)fi
メモリー
図 22-1 非同期系多重化回路構成
従来1980年代までは、各国でそれぞれ作り上げたネットワークがあり、それらが
互い非同期で存在したため、複雑なクロックタミング体系(PDH 系)になっていました。
その後、国際的にクロックタミングは互いに同期化したネットワーク(SDH 系)が利用さ
れています。
文献〆
[22-1] Owen, “PCM and Digital Transmission System”
23〄フレーム同期回路
図 21-1 に示されたフレーム構成は、フレーム信号 Fn によって識別されます。すなわ
ち、フレーム同期回路は、受信側でフレーム信号 Fn を検出し、Fn に同期したフレームを
再構築します。図 23-1 に具体的なフレーム同期回路の構成例を示しました。
MM
counter
PG
D
clk
yes,nocounter
yes
no
入力データ列
クロック
同期情報
PG:Fn信号発生器、counter:フレーム信号周期発生器MM:モノパルス発生器、F/F:フリップフロップ
F/F
図 23-1 フレーム同期回路の構成例
フレーム同期回路の動作解析は、状態遷移図によって行われます。図 23-2 には、各種状態
図の関係を示しています。大きくは入力データ信号列の有無で分けられます。
図より、設計条件は次のようになります。
1)同期保持の安定性〆PS はなるべき小さ
く、PN はなるべく大きく設計
2)同期引き込み特性〆QS はなるべく大き
く、QN はなるべく小さく設計
同期表示
2)入力信号無(ランダム信号)
Normal状態
Normal状態
Hunting状態
Hunting状態
PS
QS
1-QS1-PS
1-PN
PN
QN
1-QN
1)入力信号有
非同期表示
図 23-2 フレーム同期回路の状態図
具体的な事例として、「yes-no-counter」を次のように設定した場合を説明します。すなわ
ち、15 ビット(あるいは 15 フレームということになります)をチェックして、その結果,
① 15 ビット全て一致する場合には yes を出力、②12~14 ビットが一致する場合に
は、カウントをやり直す、③0~11 ビットが一致する場合には no を出力。
このとき、図 23-3 を参照して、それぞれの確率は、
次のようになります。
PS= 15i pb
i (1 − pb)15−i15i=4 ≅
154 pb
4(1 − pb)11
1 − PN= 15i (
1
2)1515
i=12
qs= 15i (
1
2)1511
i=0 → Qs
QN= 1515
(1
2)15
p
1-q
q q q q
1-p 1-q 1-q 1-q 1-p
同期状態
同期状態ハンテゖング状態
図 23-3 ハンテゖング遷移図
24〄疑似ランダム信号(Pseudo Random Sequence)[24-1][24-2][24-3]
Pseudo Random Sequence(疑似ランダム信号)は、PRS 符号と呼ばれる。また、
その性質から疑似雑音信号 Pseudo Noise, PN 符号とも呼ばれます。PRS 符号に関しては、
文献[24-1] Golomb, “Digital Communication”に詳しく書かれている。ここでは、その要
点のみ説明します。
PRS 符号は、最大周期シフトレジスターシーケンスであり、基本的には、図 24-1 の構成
です。ここで、帰還回路の構成は、文献[24-1][24-2][24-3]のいずれにも掲載されていま
す。段数の非常に大きい場合は、文献[24-3]によってください。
1 2 3 i j N
図 24-1 Pseudo Random Sequence(疑似ランダム信号)発生器
PRS 符号には、次のような性質があります。
(1)Nビットの全ての組み合わせ(all 0 を除きます)を発生する。
(2)さまざまな便利な性質を有している。
① ”1”と”0”の発生確率がほぼ一致するバランス。
②同じ PRS と PRS を代数和(EXOR)した場合の結果が、同じ PRS であること。
これらから、
(3) ランダム信号の代わりとしてさまざまな場合に利用される。
①Scrambling 信号として利用される。
②各種測定系における信号源として利用される。
文献〆
[24-1] Golomb, “Digital Communication”
[24-2]Peterson, ”Error Correcting Code”
[24-3]“疑似ランダム系列(4)”, bit vol7,No2 P121 表4
25〄誤り訂正符号[25-1][25-2][25-3]
デジタルマクロ波通信において多値直交振幅変調方式を用いた場合、多値レベルが
高くなると、さまざまな不完全性のため信号対雑音電力比の良い場合においても良いビッ
ト誤り率を確保することは非常に厳しくなります。実用上では、10-2~10-3 より良い誤り率
を改善することは非常に有効な手段となります。このような目的から誤り訂正符号が導入
されました。すなわちある程度の誤り率が確保されている場合に、それを改善する手段と
して導入されました。したがって、改善効果としては、元の誤り率を2乗~3乗できれば
十分な場合が多いことになります。すなわち、誤り訂正能力は、それほど大きいことが求
められていません。これに対して、デジタルマクロ波通信固有の厳しい条件があります。
それは、デジタルマクロ波通信では、与えられた帯域幅への制限が厳しいため、冗長度
がきわめて少ない誤り訂正符号を選ぶ必要があるということです。その意味で非常な高効
率符号である必要があります。この目的からブロック符号が一般に適用されます。誤り訂
正符号に関する基礎知識や cyclic code に関しては、文献[25-1]が優れています。Binary
符号に限定した場合は、文献[25-2]があります。一方、多値符号に関しては、文献[25-3]
に記載された Lee 符号を参照してください。
ここでは、ブロック符号に関す非常に基本的なこと符号の領域表示にしたがって、説明
します。非常に概念的な説明ですが、是非有効ですので、理解してください。
図 25-1 に具体的事例として、正しい
信号が、s1,s2,s3 で与えられた場合、それ
ぞれの信号が誤りを生じた場合の広がりを
領域で示しています。S1, S2, S3 は、それぞ
れ信号 s1,s2,s3 が i ビットの誤りを生じた
領域とします。すなわち、 sk + ei =Sk と
なります。これより、t ビット誤りの訂正が
可能な条件は、sk + et ∈ Sk となります。
S1S2
S3s1
s2
s3
図 25-1 符号の領域表示
図 25-2 に符号間距離を示しました。
ここで、sk と sl の間の距離をハミング距離
と言います。図より明らかに、t ビット誤り
訂正可能な条件は、min(d) ≥2t+1 とな
ります。
d
t t
sk sl
図 25-2 符号間距離の表示
26. 直交周波数分割多重方式(OFDM: Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)
デジタル TV 放送の伝送方式として採用されている OFDM 方式は、伝搬歪に強く有効な
伝送方式の一つです。ここでは、その基本的な考えについて説明します。
矩形パルス信号列(時間軸)
矩形パルス周波数列(周波数軸)
OFDM信号(時間軸)
逆フーリエ変換
フーリエ変換
a)
b)
c)
図 26-1 OFDM の基本的な考え方
図 26-1 において、信号 a は、送信すべき信号を時間軸上で表現したものです。OFDM
では、この信号 a に対して、「逆フーリエ変換」を施した信号 b を得ます。この信号 b が目
的とする OFDM 信号です。信号 b は時間軸上では複雑な波形となります。その周波数スペ
クトラムは、信号 b にフーリエ変換を施すことにより得られます。このフーリエ変換結果 c
は、容易に分かるように実は信号 a と同形になっています。すなわち、OFDM の周波数ス
ペクトラムは、周波数軸上で隣接した周波数成分の並びになっています(これが直交周波
数多重になっています)。このような微細な周波数成分の並びによって構成された周波数ス
ペクトラムは、選択性フェーデゖングのような周波数軸上での歪に対して大きな耐性を示
します。 かくして OFDM は、伝搬歪に強い有効な伝送方式です。
最近では、送信信号 a 自体に対して多値直交振幅変調を施します。すなわち、信号 a
に対して図 11-2 で示された信号点を対応させ、各種 QAM に変換します。その上で逆フー
リエ変換の処理を行います。
実際には、全ての処理がデジタル処理となります。送信側の逆フーリエ変換は、高速
逆フーリエ変換(IFFT)処理によって行われます。
受信側では全て逆の変換を行いますので、受信信号に対して、フーリエ変換(実際に
は、高速フーリエ変換 FFT)の処理を行った上で、復調します。
27〄計算機シミュレーション
直交振幅変調方式の解析には、計算機シミュレーションが有効です。その大きな理由
には、直交振幅変調信号が等価ベースバンドによって表現できることがあります。計算機
シミュレーションでは、信号および処理はすべて複素数列と複素数処理として取り扱われ
ます。 また、計算機シミュレーションでは、信号は周期信号を取り扱います。図 27-1 に
計算機シミュレーションにおける信号表現(複素数列)を示しています。
123 N123
123 N123
N
N
1周期T 1周期1周期
1周期F1周期 1周期
1/F
1/T
信号(時間軸)
信号(周波数軸)
図 27-1 計算機シミューレーションにおける信号表現(複素数列)
計算機シミュレーションにおける主要な信号とその要素数は、次のようになります。
時間軸上〆(全てのサンプルは複素数で表現されています)
1 周期における総サンプル数(信号点数) N 個(たとえば 1024)
1 シンボルにおけるサンプル数 M 個(たとえば 8)
1 周期における総シンボル数 N/M(たとえば 128)
周波数軸上〆(全てのサンプルは複素数で表現されています)
1 周期における総サンプル数(信号点数) N 個(たとえば 1024)
時間軸上における1周期を T(s)とすると周波数軸上での最小間隔は 1/T(Hz),
周波数軸上における1周期をF(Hz)とすると時間軸上での最小間隔は1/F(s)となります。
各種処理は、時間軸上の処理(増幅、加算々減算など)は、時間軸上表現の信号である
複素数列に対しての四則演算によって行われます。一方周波数軸上の処理(ろ波、周波数
上の歪など)は、周波数軸上表現の信号である複素数列に対しての四則演算によって行わ
れます。これらの時間軸上表現と周波数軸上表現は、互いに高速フーリエ変換処理によっ
て結びつけられます。
また、波形応答や eye pattern は、時間軸のサンプル点を図形化し、周波数スペクトラ
ムは、周波数軸のサンプル点を図形化することにより、容易に表せます。
29. 主要関係文献
引用した文献のうち、とくに重要と思う文献リストです。いずれも発行年日が古いため、
現時点での入手は困難であると思われます。図書館には保管されているかもしれません。
“Data Transmission”, William Ralph Bennett & J.R. Davey
McGraw-Hill Education, 1965/04, 356p
ISBN-10: 0070046778,ISBN-13: 978-0070046771
“Error-Correcting Codes”, W. Wesley Peterson
M.I.T. Press and John Wiley,New York,1961,285 pp.
“Digital Communications with Space Applications”, Solomon W. Golomb
Prentice Hall (1964) ,ASIN: B001ECWQSM,(Prentice Hall EE Series)
“The Fourier Integral and Its Applications”, A. Papoulis
McGraw-Hill Companies, June 1, 1962, 320 pages
ISBN-10: 0070484473, ISBN-13: 978-0070484474
“Mathematical Analysis of Random Noise”, Authors: Rice, SO.
Publication: Bell Systems Tech. J., 1944, Volume 23, p. 282-332.
“Principles of Coherent Communications”, A. Viterbi
McGraw-Hill Inc., US, February 1967, 321 pages
ISBN-10: 0070675155 , ISBN-13: 978-0070675155
"Load Rating Theory for MultiChannel Amplifiers", B. D. Holbrook and J. T.
Dixon, Bell System Technical J.18 (October 1939), pp. 624-644.
“Phaselock Techniques”, Floyd M. Gardner
Wiley-Interscience; 2edition, April 1979, 304 pages
ISBN-10: 0471042943, ISBN-13: 978-0471042945
“An Introduction in the Theory of Random Signals and Noise”, Wilbur B., Jr
and Root, William L Davenport, McGraw-Hill, January 1, 1958, ASIN:
B001F4ORAO
次の文献には、BELL 研究所の主要文献が整理されています。
“A History of Computing Research* at Bell Laboratories (1937-1975) “
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/summary;jsessionid=ADA30680ED8BD
50B356AB31E82828A8?doi=10.1.1.92.985, Bernard D. Holbrook, W. Stanley
Brown http://www.cs.bell-labs.com/cm/cs/cstr/cstr99.pdf 以上
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