CiRA Newsletter Vol.1 (Japanese)

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CiRAサ イ ラ

Contents[特集]インタビュー 山中伸弥所長・・・・ 1iPS細胞研究所を解剖する・・・・ 2新研究棟を探検する・・・・・・・・・・ 4

ランドスケープ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6CiRAで働く人々 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6iPS細胞 何でもQ&A ・・・・・・・・・・ 7CiRAアップデート ・・・・・・・・・・・・・・ 8iPS細胞研究基金ご支援のお願い 8編集後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Vol.12010年4月22日号

研究所長として抱負をお聞かせください。 世界で初めてiPS細胞研究に特化したこの研究所の使命は、一日も早くiPS細胞を臨床応用につなげ、患者さんの役に立つこと、そして世界最高のiPS細胞研究拠点を形成することだと考えています。そのために、所属するすべての研究グループが心を合わせて一つになって、国内外の研究機関と連携しながら、研究を推進して行きたいと思います。また、国内でiPS細胞を使ったことのない研究者がこの技術を使えるように、技術指導も含めたインフラ整備をすることも私たちの課題の一つです。

新しい研究棟が完成しましたが特徴は何ですか? 従来の大学の実験室は、各研究室毎に実験室が分かれていて閉塞感がありました。この新棟では、横と縦の壁を取り払ったオープンラボを採用しています。これにより、研究に関する情報や成果を共有でき、研究者同士の意見交換も行われ易くなり、効率的に研究が進むことが期待できます。また、同じ建物に動物実験施設や細胞調製施設があるので、基礎から前臨床、臨床研究までシームレスな研究が可能になる構造になっています。

今後、国際協力と連携はどのように進めていきますか? 今までも海外の大学や企業と連携してきたので、これからもしっかり進めたいと思います。ただ、全て協力というわけにはいかないので、日本独自で知的財産もしっかり確保していきます。

研究所になり、患者さんのiPS細胞研究の進展や技術の実用化への期待も高まります。 iPS細胞技術を用いた画期的な治療法の実現に向かって、現在CiRAで約120人の研究者や研究支援スタッフが努力しています。ただ、まだまだ多くの課題があり、いつ頃実現するかは予想できません。早くなる可能性もあるし、予期せぬ問題が出て遅れるかもしれませんが、

大勢の研究者が頑張っていますので、希望を持っています。

iPS細胞研究基金にも多数の方々からご支援をいただいています。 これから日本でどんどん研究を進め、知的財産をしっかり確保していくには、十分な研究費が不可欠です。文部科学省を始め、国からたくさんのご支援をいただいていますが、米国と比べると、まだまだ十分でないというのが現状です。ですから、民間の方々からのご寄附は本当に貴重な資金ですので、有効に活用したいと思います。また、ご寄附をいただくことが、それほど期待していただいているという証でもありますので、それに応えるように頑張りたいと思っています。

CiRAには、中高生からの問い合わせもありますが、科学の面白さとは何でしょうか? 科学、研究というのは、真っ白なキャンバスに絵を描くような作業です。非常に自由で、絵具とキャンバスさえあればできます。iPS細胞もそうでしたが、思いもよらない技術が生まれることもあります。日本のように天然資源の少ない国でも、知的財産という素晴らしい資源をどんどん作り出すことができます。自由に何度でもトライできる仕事であると同時に、その成果が人の役に立つことも多いですので、たくさんの人々に研究者を目指してもらいたいと思います。

「世界最高のiPS細胞研究拠点」を目指して

ニュースレター

京都大学 iPS細胞研究所Center for iPS Cell Research and Application [CiRA]

iPS細胞研究所の初代所長に就任した山中教授が抱負や新棟などについて語りました。P.2-P.5まで研究所特集ですので合わせてお読みください。

iPS細胞研究には、国から多大なご支援をいただいており、教職員一同心より感謝申し上げます。日本発の画期的な技術であるiPS細胞に関する研究を推進し、一日も早い医療応用を実現するためには、優秀な人材の確保と共に、研究所の安定的な運営が必要です。みなさまのご支援をお願い申し上げます。ご寄附のお申し込みは、下記にご連絡をいただくか、ホームページをご覧ください。

iPS細胞研究基金事務局 TEL.(075)366-7000  FAX.(075)366-7023 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53

京都大学ホームページ http://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/forwhat.htmlCiRAホームページ http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/about/fund.html

編 集 後 記

 CiRA(サイラ)が発行する初めてのニュースレターはいかがでしたか?インターネットから情報を得るより紙媒体が好きという方々もおられるのではないかと思い、一般の方々を対象として企画しました。 今後は3カ月に1回のペースで発行します。ご意見、ご感想をお聞かせいただければ幸いです。

iPS細胞研究基金へのご支援のお願い

発 行

2010年4月22日発行 第1号発行・編集 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)  〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53 TEL.(075)366-7005 FAX.(075)366-7024 Eメール cira-pr@cira.kyoto-u.ac.jp http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/

Printed in Japan本誌の記事・写真・イラストの転載を禁じます

山中伸弥所長インタビュー

©

2010/4/1新たに主任研究者1名、客員教授 1名が加わりました。木村貴文前大阪府赤十字血液センター研究部副部長が規制科学部門の主任研究者として教授に着任し、細胞調製施設長に任命されました。また、鳥居隆三滋賀医科大学教授が客員教授に就任しました。

2010/3/12 日本学士院が山中所長に恩賜賞・日本学士院賞を贈ると発表しました。この賞は、学術上特に優れた論文、著者その他の研究業績に対して贈られます。授賞理由は、iPS細胞の作製に成功し、再生医療のみでなく、今後の医学の発展に大きく貢献したことが評価されました。

2010/3/5 iPS細胞研究所の設立決定に関する記者会見が開催されました。

松本紘総長や山中所長らが記者やカメラマンら、約30名に研究所について説明しました。

2010/3/1堀田秋津前オンタリオ・ヒトiPS細胞研究所研究員が、CiRAの特定拠点助教に就任しました。初期化機構研究部門の主任研究者として、安全なiPS細胞の選別法の開発などを目指した研究を行います。

2010/1/26英国エジンバラ大学医学研究評議会(MRC)再生医療センター(CRM)

のイアン・ウィルマット教授らが京大を訪れ、山中教授らと情報交換を行いました。ウィルマット教授らのグループは、世界で初めてクローン羊を誕生させることに成功し、1997年に報告しました。

2010/1/26CiRAホームページの動画コーナーに、昨年10月17日に開催した一般の方対象シンポジウム「iPS細胞のいま-その可能性と研究活動」の講演ビデオと質疑応答の要約テキストを掲載しました。

CiRAアップデ-ト

山中伸弥所長

CiRAホームページ

会見に出席する松本紘総長(左)と山中伸弥所長

 世界初のiPS細胞(人工多能性幹細胞:P.7参照)に特化した研究機関として、iPS細胞研究所が4月1日付けで京都大学に設立されました。研究所長は、世界に先駆けてiPS細胞の作製に成功した山中伸弥教授です。若手からベテランまでの研究者が4つの研究部門(P.3参照)に分かれて、この画期的な技術を医療として患者さんに届けるべく、iPS細胞を用いて病気の原因を探る、新しい治療法を開発する、細胞移植に関する研究を行うなどの目標に向かって研究を進めています。

 研究所が設立される前は、物質-

細胞統合システム拠点(iCeMS)という京大の1つの研究機関内の組織、iPS細胞研究センターとして、2008年1月22日から研究活動を始めていました。当時は少規模でスタートしましたが、現在では、主任研究者、研究員、技術者、研究を支援する事務部門(研究戦略本部と事務部)の職員合わせて約120人の大所帯です。今年2月には、新しい研究棟が吉田キャンパスの病院構内に完成し、教職員一同がこの研究棟で働いています。

 研究所の2010年度の年間予算は、20億円以上を予定しています。この予算は、運営費交付金、競争的資

金という公的資金や個人や企業からの寄附金により確保されます。競争的資金には、内閣府「最先端研究開発支援プログラム」から配分される今後4年間で合計50億円という資金も含まれます。研究が進む2012年度頃には約200人の構成員が必要で、予算規模も拡大すると予想しています。

 iPS細胞研究所の通称は、CiRA(サイラ)です。これは、研究所の英語表記であるCenter for iPS Cell Research and Applicationの頭文字を合わせたものです。

研究者と研究部門紹介

02 京都大学 iPS細胞研究所 03京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

iPS細胞研究所を解剖する

部門長 山中伸弥教授

研究内容iPS細胞は、人間の皮膚などの体細胞に遺伝子、タンパク質あるいは化合物を導入して作製する多能性幹細胞です。さまざまな種類の細胞に分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力を持っています。分化した体細胞が未分化の多能性幹細胞に戻る現象は、「初期化」と呼ばれます。この部門では、細胞が初期化される仕組みを遺伝子レベルで解明し、安全で有効なiPS細胞を作製する方法の開発を目指します。

規制科学部門

初期化機構研究部門 増殖分化機構研究部門

臨床応用研究部門

部門長 中畑龍俊教授

研究内容さまざまな遺伝的疾患を持つ患者さんから体細胞を提供していただきiPS細胞を作製し、さらにそれを患部の細胞へと分化させ、病気の原因やメカニズムを解明する研究を行います。また患者さん由来のiPS細胞を用いて、新しい治療薬の探索や治療法の開発を目指します。

研究所の理念●世界初のiPS細胞に特化した先駆的な中核研究機関としての役割を果たす。●iPS細胞の可能性を追求し、基礎研究に留まらず応用研究まで推進することにより、再生医療の実現に貢献する。●再生医科学研究所、物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)、医学研究科、医学部附属病院と密接に連携しながら、共同研究の奨励と若手研究者の交流・育成に努める。

山中伸弥教授

中畑龍俊教授 井上治久准教授 櫻井英俊講師 木村貴文教授 青井貴之教授 浅香勲准教授

戸口田淳也教授

山下潤准教授

高橋淳准教授

長船健二准教授

山田泰広教授 吉田善紀講師 中川誠人講師

沖田圭介講師 高橋和利講師 山本拓也助教 堀田秋津助教

部門長 戸口田淳也教授

研究内容iPS細胞やES細胞から、骨など間葉系の細胞、心臓や血管に関係する細胞、神経細胞、肝臓や腎臓の細胞へと分化誘導する方法の確立を目指します。さらに、実験動物を使って、iPS細胞から分化した様 な々組織の細胞を用いた移植療法の安全性の確認や、治療効果を評価することを目的とする研究を推進します。

部門長 山中伸弥教授

研究内容将来のiPS細胞研究を用いた臨床応用を見据えた研究規制に関する課題について研究します。臨床研究に供給可能な細胞の調製を行う施設(FiT: Facility for iPS Cell Therapy)の運営や管理を行い、実用化に向けて、品質の保証された細胞の培養方法等の確立を目指します。また、iPS細胞研究の推進に必要な設備や技術の面でCiRA研究者をサポートします。安定的なiPS細胞作製技術の確立に取り組みながら、京都大学だけでなく国内外の研究者への培養技術の指導を行います。

所 長

副所長

副所長

CiRAの研究者は、下記のような4つの研究部門に分かれて、さまざまな研究を進めています。(4月1日現在)

 世界初のiPS細胞(人工多能性幹細胞:P.7参照)に特化した研究機関として、iPS細胞研究所が4月1日付けで京都大学に設立されました。研究所長は、世界に先駆けてiPS細胞の作製に成功した山中伸弥教授です。若手からベテランまでの研究者が4つの研究部門(P.3参照)に分かれて、この画期的な技術を医療として患者さんに届けるべく、iPS細胞を用いて病気の原因を探る、新しい治療法を開発する、細胞移植に関する研究を行うなどの目標に向かって研究を進めています。

 研究所が設立される前は、物質-

細胞統合システム拠点(iCeMS)という京大の1つの研究機関内の組織、iPS細胞研究センターとして、2008年1月22日から研究活動を始めていました。当時は少規模でスタートしましたが、現在では、主任研究者、研究員、技術者、研究を支援する事務部門(研究戦略本部と事務部)の職員合わせて約120人の大所帯です。今年2月には、新しい研究棟が吉田キャンパスの病院構内に完成し、教職員一同がこの研究棟で働いています。

 研究所の2010年度の年間予算は、20億円以上を予定しています。この予算は、運営費交付金、競争的資

金という公的資金や個人や企業からの寄附金により確保されます。競争的資金には、内閣府「最先端研究開発支援プログラム」から配分される今後4年間で合計50億円という資金も含まれます。研究が進む2012年度頃には約200人の構成員が必要で、予算規模も拡大すると予想しています。

 iPS細胞研究所の通称は、CiRA(サイラ)です。これは、研究所の英語表記であるCenter for iPS Cell Research and Applicationの頭文字を合わせたものです。

研究者と研究部門紹介

02 京都大学 iPS細胞研究所 03京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

iPS細胞研究所を解剖する

部門長 山中伸弥教授

研究内容iPS細胞は、人間の皮膚などの体細胞に遺伝子、タンパク質あるいは化合物を導入して作製する多能性幹細胞です。さまざまな種類の細胞に分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力を持っています。分化した体細胞が未分化の多能性幹細胞に戻る現象は、「初期化」と呼ばれます。この部門では、細胞が初期化される仕組みを遺伝子レベルで解明し、安全で有効なiPS細胞を作製する方法の開発を目指します。

規制科学部門

初期化機構研究部門 増殖分化機構研究部門

臨床応用研究部門

部門長 中畑龍俊教授

研究内容さまざまな遺伝的疾患を持つ患者さんから体細胞を提供していただきiPS細胞を作製し、さらにそれを患部の細胞へと分化させ、病気の原因やメカニズムを解明する研究を行います。また患者さん由来のiPS細胞を用いて、新しい治療薬の探索や治療法の開発を目指します。

研究所の理念●世界初のiPS細胞に特化した先駆的な中核研究機関としての役割を果たす。●iPS細胞の可能性を追求し、基礎研究に留まらず応用研究まで推進することにより、再生医療の実現に貢献する。●再生医科学研究所、物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)、医学研究科、医学部附属病院と密接に連携しながら、共同研究の奨励と若手研究者の交流・育成に努める。

山中伸弥教授

中畑龍俊教授 井上治久准教授 櫻井英俊講師 木村貴文教授 青井貴之教授 浅香勲准教授

戸口田淳也教授

山下潤准教授

高橋淳准教授

長船健二准教授

山田泰広教授 吉田善紀講師 中川誠人講師

沖田圭介講師 高橋和利講師 山本拓也助教 堀田秋津助教

部門長 戸口田淳也教授

研究内容iPS細胞やES細胞から、骨など間葉系の細胞、心臓や血管に関係する細胞、神経細胞、肝臓や腎臓の細胞へと分化誘導する方法の確立を目指します。さらに、実験動物を使って、iPS細胞から分化した様 な々組織の細胞を用いた移植療法の安全性の確認や、治療効果を評価することを目的とする研究を推進します。

部門長 山中伸弥教授

研究内容将来のiPS細胞研究を用いた臨床応用を見据えた研究規制に関する課題について研究します。臨床研究に供給可能な細胞の調製を行う施設(FiT: Facility for iPS Cell Therapy)の運営や管理を行い、実用化に向けて、品質の保証された細胞の培養方法等の確立を目指します。また、iPS細胞研究の推進に必要な設備や技術の面でCiRA研究者をサポートします。安定的なiPS細胞作製技術の確立に取り組みながら、京都大学だけでなく国内外の研究者への培養技術の指導を行います。

所 長

副所長

副所長

CiRAの研究者は、下記のような4つの研究部門に分かれて、さまざまな研究を進めています。(4月1日現在)

 新研究棟は京都大学吉田キャンパスの南部にあたる病院構内に位置しており、一見するとマンションのように見える建物です。1階正面玄関を入ると、左手にインフォメーション窓口、右手にギャラリーがあります。ギャラリーには、展示パネルやタッチパネルディスプレイを使って、研究所やiPS細胞研究に関する情報を提供しています。また、テーブルとイス、それに本棚が置かれていて、CiRAの刊行物を読むことができます。エントランスホールを進むと右手に100人程度収容できる講堂の扉があり、突き当たりのガラス壁のドアから、外の駐車場に出ることができます。このスペースは、一般の方 も々平日の午前8時30分から午後5時15分まではご覧いただけます。(イベントを開催している場合など、ご覧いただけない場合もあります。) 残念ながら、上記以外のスペースは、セキュリティの問題上、関係者しか立ち入れませんが、紙面上でご紹介します。 3階、4階、5階は、研究者のオフィ

スや実験スペースになっています。個別の実験室や培養室のほかに、十数台の実験台がずらっと並べられた「オープンラボ」と呼ばれる実験スペースが各階にあります。4階と5階はらせん階段で行き来ができ、研究室の枠を超えて研究者同士が活発に交流できる構造になっているのです。各階には談話スペースや会議室も設けられています。 地下1階と地上2階は、生体内での細胞の働きや効果を検証するための動物実験施設や品質の保証された細胞を作製、培養するための細胞調製施設(通称FiT : Facility for iPS Cell Therapy)があります。いずれの施設も、消毒をしてクリーンな環境を維持する必要があるため、限られた人しか入れませんが、iPS細胞の実用化を目指した研究に必要不可欠な設備です。

キーカラーは青 この新棟の最大の特徴的なスペースであるオープンラボに入り、上を見上げると、青い天井が広がっています。そして、床は薄いブルー。「ここは、新しい未来をつくるための部屋なので、天井は白で床は黒じゃなく、天井に色をもっていくことにしたんですね。」新棟のカラー・サインデザインを担当したグラフィックデザイナー・奥村昭夫 京都大学学術情報メディアセンター客員教授は、天井を青色にした理由をこう説明します。そして、「床を薄いブルーにすることで、スペースの広がりを感じるようにした」と語るのは、元木環 学術情報メディアセンター助教。奥村教授と一緒に、「明るくて、透明感があり未来的」というCiRAが提示したコンセプトに基づいて、天井や壁や床の色のデザイン、それにオフィスや実験室などに掲げられているサイン(表札)のデザインを考案しました。 サインの字体(フォント)は、CiRAのシンボルマークから創られました。シンボルマークは、中川誠人 CiRA講師による原案をもとに、奥村教授が完成させました。「CiRA」という文字から人を形作り、「人の役に立つ研究と理想的な再生医療を実現する」ことを表現しています。シンボルマークの「C」「i」「R」「A」のアルファベットから奥村教授が字体を創作し、トイレや給湯室などの記号(ピクトグラム)を作りました。そして、サイン・プレートにデザインされた赤、青、緑、黒の模様も、シンボルマークを元にデザインされました。サイン一つ一つにCiRAのスピリットが刻みこまれているのです。 このようなカラーやサインのデザインを決定するに当たり、二人はCiRA教職員の代表者数名と何度も協議を重ねました。元木助教は、建物の使い手がどのように使いたいのか、どのようなコンセプトにしたいのかを明確にし、それを反映させることが、より良い仕事をするための環境作りには大切と言います。「研究では、問題を設定し、それを解決することを考えているように、建物だけではないですが、(私たちは)デザイ

ンの分野でもそうやって設計していく方法をとっています。新棟もどうしてこの色なのか、この形なのか、とちょっと考えて見ると面白いと思います。」

04 京都大学 iPS細胞研究所 05京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

新研究棟を探検する

新研究棟のデータ延床面積 11,942.93平方メートル構  造 地上5階、地下1階高  さ 19.90メートル施  工 大木建設株式会社、新菱・朝日・三建特定建設工事共同企

業体、港振興業株式会社設計・監理 京都大学施設環境部総建設費 46.8億円(文部科学省 43億円、京大 3.8億円を拠出)

新棟へようこそ 去る2月26日に、CiRAの新しい研究棟が京都大学吉田キャンパスに完成しました。これまで研究者や職員は、京大内外の別々の場所で仕事をしていましたが、3月中旬から4月にかけて新棟に引っ越し、ようやく一か所に集まって研究活動を開始しました。

実験室

らせん階段

5F 談話室

1F 正面玄関元木環助教(左)と奥村昭夫客員教授

1F ギャラリー

1F 講堂

1F エントランスホール

5F オープンラボ

1F

B1F

2F

3F

4F

5F

事務室事務室

事務室事務室

講 堂講 堂

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

動物実験施設細胞調製施設(FiT)動物実験施設

細胞調製施設(FiT)

動物実験施設動物実験施設

オフィスオフィス

オフィスオフィス

オフィスオフィス

談話室談話室

談話室談話室

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

実験室・培養室など実験室・培養室など

実験室・培養室など実験室・培養室など

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

実験室実験室

ギャラリー

エントランスホール

玄関玄関

 新研究棟は京都大学吉田キャンパスの南部にあたる病院構内に位置しており、一見するとマンションのように見える建物です。1階正面玄関を入ると、左手にインフォメーション窓口、右手にギャラリーがあります。ギャラリーには、展示パネルやタッチパネルディスプレイを使って、研究所やiPS細胞研究に関する情報を提供しています。また、テーブルとイス、それに本棚が置かれていて、CiRAの刊行物を読むことができます。エントランスホールを進むと右手に100人程度収容できる講堂の扉があり、突き当たりのガラス壁のドアから、外の駐車場に出ることができます。このスペースは、一般の方 も々平日の午前8時30分から午後5時15分まではご覧いただけます。(イベントを開催している場合など、ご覧いただけない場合もあります。) 残念ながら、上記以外のスペースは、セキュリティの問題上、関係者しか立ち入れませんが、紙面上でご紹介します。 3階、4階、5階は、研究者のオフィ

スや実験スペースになっています。個別の実験室や培養室のほかに、十数台の実験台がずらっと並べられた「オープンラボ」と呼ばれる実験スペースが各階にあります。4階と5階はらせん階段で行き来ができ、研究室の枠を超えて研究者同士が活発に交流できる構造になっているのです。各階には談話スペースや会議室も設けられています。 地下1階と地上2階は、生体内での細胞の働きや効果を検証するための動物実験施設や品質の保証された細胞を作製、培養するための細胞調製施設(通称FiT : Facility for iPS Cell Therapy)があります。いずれの施設も、消毒をしてクリーンな環境を維持する必要があるため、限られた人しか入れませんが、iPS細胞の実用化を目指した研究に必要不可欠な設備です。

キーカラーは青 この新棟の最大の特徴的なスペースであるオープンラボに入り、上を見上げると、青い天井が広がっています。そして、床は薄いブルー。「ここは、新しい未来をつくるための部屋なので、天井は白で床は黒じゃなく、天井に色をもっていくことにしたんですね。」新棟のカラー・サインデザインを担当したグラフィックデザイナー・奥村昭夫 京都大学学術情報メディアセンター客員教授は、天井を青色にした理由をこう説明します。そして、「床を薄いブルーにすることで、スペースの広がりを感じるようにした」と語るのは、元木環 学術情報メディアセンター助教。奥村教授と一緒に、「明るくて、透明感があり未来的」というCiRAが提示したコンセプトに基づいて、天井や壁や床の色のデザイン、それにオフィスや実験室などに掲げられているサイン(表札)のデザインを考案しました。 サインの字体(フォント)は、CiRAのシンボルマークから創られました。シンボルマークは、中川誠人 CiRA講師による原案をもとに、奥村教授が完成させました。「CiRA」という文字から人を形作り、「人の役に立つ研究と理想的な再生医療を実現する」ことを表現しています。シンボルマークの「C」「i」「R」「A」のアルファベットから奥村教授が字体を創作し、トイレや給湯室などの記号(ピクトグラム)を作りました。そして、サイン・プレートにデザインされた赤、青、緑、黒の模様も、シンボルマークを元にデザインされました。サイン一つ一つにCiRAのスピリットが刻みこまれているのです。 このようなカラーやサインのデザインを決定するに当たり、二人はCiRA教職員の代表者数名と何度も協議を重ねました。元木助教は、建物の使い手がどのように使いたいのか、どのようなコンセプトにしたいのかを明確にし、それを反映させることが、より良い仕事をするための環境作りには大切と言います。「研究では、問題を設定し、それを解決することを考えているように、建物だけではないですが、(私たちは)デザイ

ンの分野でもそうやって設計していく方法をとっています。新棟もどうしてこの色なのか、この形なのか、とちょっと考えて見ると面白いと思います。」

04 京都大学 iPS細胞研究所 05京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

新研究棟を探検する

新研究棟のデータ延床面積 11,942.93平方メートル構  造 地上5階、地下1階高  さ 19.90メートル施  工 大木建設株式会社、新菱・朝日・三建特定建設工事共同企

業体、港振興業株式会社設計・監理 京都大学施設環境部総建設費 46.8億円(文部科学省 43億円、京大 3.8億円を拠出)

新棟へようこそ 去る2月26日に、CiRAの新しい研究棟が京都大学吉田キャンパスに完成しました。これまで研究者や職員は、京大内外の別々の場所で仕事をしていましたが、3月中旬から4月にかけて新棟に引っ越し、ようやく一か所に集まって研究活動を開始しました。

実験室

らせん階段

5F 談話室

1F 正面玄関元木環助教(左)と奥村昭夫客員教授

1F ギャラリー

1F 講堂

1F エントランスホール

5F オープンラボ

1F

B1F

2F

3F

4F

5F

事務室事務室

事務室事務室

講 堂講 堂

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

動物実験施設細胞調製施設(FiT)動物実験施設

細胞調製施設(FiT)

動物実験施設動物実験施設

オフィスオフィス

オフィスオフィス

オフィスオフィス

談話室談話室

談話室談話室

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

実験室・培養室など実験室・培養室など

実験室・培養室など実験室・培養室など

実験室(オープンラボ)

実験室(オープンラボ)

実験室実験室

ギャラリー

エントランスホール

玄関玄関

永田さんの仕事場は、解析機器やクリーンベンチ(写真参照)、細胞を保管する培養器が並べられた実験室です。一般的に、テクニカルスタッフの仕事は、研究者が立てた実験プランに沿って実験を行い、データを出すことです。CiRAのテクニカルスタッフは、iPS細胞の培養、

細胞の解析、時にはマウスを扱った実験を行います。加えて、試薬の調整、実験器具の管理等、実験室の環境維持も担当し、仕事は多岐に渡ります。細胞は培養皿で増殖するのですが、iPS細胞の場合は培養皿に入れている栄養成分を含む液体をほぼ毎日入れ替えなければなりません。毎日細胞を培養していると、その輪郭や雰囲気などから「細胞の顔」が見分けられるようになってくる、と永田さんは言います。永田さんは、大学時代に生物学を専攻し、実験が好きだったのでこの仕事を選びました。「研究は仮説をたてて実験を行うのですが、その過程はパズルを解くような感覚があり面白いです。その頃から実験に関

わる仕事をしたいと思っていました。」過去には、「研究の現場は、研究成果が実際に役に立っている現場から少し遠い感覚があり、実際に人の役に立っているという実感を得にくい」と思った瞬間もあったそうです。今は、浅香研究室のミッションの一つ、iPS細胞をより簡単で安定的に培養する手法の確立を目指して、充実の日 を々過ごしています。「自分達の実験によって確立されたiPS細胞の培養法や保存方法がスタンダードになって、それを基準に世界中で広く実験が行われていくことを想像すると、すごくやりがいがあります。」

?iPS細胞は山中伸弥京都大学教授が2006年に世界で初めて報告しました。その年の関連論文数は1件でしたが、2009年には国際科学誌に127件の論文が掲載されました。それらの論文は米国の研究機関によるものが多いですが、我が国も23件の論文を発表しており、健闘しています。また、2009年、米科学誌ネイチャー・メソッズが、その年最も注目される生物学分野の研究手法に贈られる「メソッド・オブ・ザ・イヤー」にiPS細胞を選出しました。その前年には、米科学誌サ

イエンスで「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー2008」にも選出されています。このようにiPS細胞は世界の科学界で、一つの潮流を形成したといえます。米国国立衛生研究所(NIH)やカリフォルニア州、英国にはiPS細胞の研究費を支援するプログラムがあり、さまざまな国で研究振興が進められています。また、NIHは2010年9月までにiPS細胞センターを設立する計画を発表しました。多くの製薬企業が細胞株や実験動物の代わりに、患者さん自身から作製したiPS細胞を創薬の

初期に活用して効果的に新薬の探索を進めようと関心を寄せています。米国のiPierian社はiPS細胞の創薬応用を基軸とした企業活動で知られています。ライフサイエンスの解析技術の高度化を支えにして、iPS細胞の研究は今後、さらに発展するでしょう。iPS細胞の樹立の秘密が解き明かされる日はそう遠くないかもしれません。

06 京都大学 iPS細胞研究所 07京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

海外のiPS細胞研究の概況

ランドスケープ

iPS細胞の培養を支えるスペシャリスト

CiRAで働く人々

CiRAには、研究者、技術員、研究員、学生、研究を支援する事務スタッフなどさまざまな人々が働いています。このコラムでは、彼ら、彼女らの仕事を紹介します。第1回目は、浅香勲研究室テクニカルスタッフの永田恵子さんにお話を伺いました。

iPS細胞 何でもQ&AiPS細胞に関して、いろいろな疑問に回答するコーナーです。読者の方々からのご質問をお待ちしています。連絡先はP.8をご覧ください。

iPS細胞とは何ですか?

iPS細胞は、「induced Pluripotent Stem cell」の略称で、日本語では「人工多能性幹細胞」と呼ばれます。「多能性」と言っても聞きなれない言葉ですが、さまざまな性質に変化できる能力のことをこのように呼びます。「幹細胞」は、他の細胞に変化する能力とともに、自分自身を無限に作る能力をあわせもった細胞です。また、iPS細胞は皮膚などの体細胞から作ることができます。つまりiPS細胞とは、皮膚などの「体細胞に人為的な操作を加えて作る、さまざまな性質に変化可能な幹細胞」です。2006年に山中教授の研究グループが、マウスの皮膚細胞に、4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することによりマウスiPS細胞の作製に成功したと、世界で初めて報告しました。

iPS細胞とES細胞の違いは何ですか?

ES細胞は、「Embryonic Stem cell」の略称で、日本語では「胚性幹細胞」と呼ばれます。「胚」とは、少し成長した段階にある受精卵の名称です。ES細胞は、胚盤胞という段階の受精卵に含まれる細胞を取り出して作る幹細胞です。受精卵を材料とすることから、生命倫理の問題にも関わるとして議論の対象になりました。ES細胞は、iPS細胞と同様に、からだ中の全ての細胞に変化できる能力と無限に増殖する能力を備えています。しかし、ES細胞は着床直前の胚から作るのに対して、iPS細胞は皮膚などの体細胞から作られます。つまり、iPS細胞とES細胞は、性質はとても似ていますが、由来や作製方法が異なった「多能性幹細胞」なのです。

iPS細胞研究が進むと、どのようなことが可能になるのでしょうか?

人間のからだは、1個の受精卵が細胞分裂を繰り返してできた約200種類、60兆個の細胞から構成されています。これまで人の細胞を使ってからだの仕組みを研究することは、研究材料の入手が制限されることもあり、簡単ではありませんでした。iPS細胞からさまざまな細胞を作ることができれば、人間のからだができる仕組みの研究を進めやすくなります。また、病気の患者さんの細胞からiPS細胞を作り、体外で病気の性質をもった細胞を作ることができれば、病気が発症する仕組みや病気の原因を調べることができます。さらには、iPS細胞から作った細胞や組織を使ってさまざまな薬剤の反応を調べることで、新しい薬の探索や毒性試験ができると考えられます。そして、すぐにということではありませんが、さらに研究が進めば、病気やケガの治療にiPS細胞から作った細胞を用いて治療する再生医療に利用することも期待されています。

自分の細胞をiPS細胞研究に役立ててもらいたいのですが、どのようにすればいいですか?

現在、京都大学では、研究者が研究に必要と思われる患者さんに、細胞の提供をお願いし、その患者さんの体細胞から樹立したiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)を作製して研究を進めています。多くの方々から、細胞提供のお申し出をいただいておりますが、お申し出いただいたすべての方からご協力をいただいているわけではありません。折角のご厚意に対して大変申し訳ありませんが、どうぞご理解いただきますようお願い申し上げます。

ネイチャー・メソッズ 2010年1月号メソッド・オブ・ザ・イヤー2009特集

永田恵子さん

クリーンベンチ

ヒトiPS細胞(提供:京大 山中伸弥教授)

iPS細胞から分化誘導された神経細胞(提供:京大 高橋和利講師)

永田さんの仕事場は、解析機器やクリーンベンチ(写真参照)、細胞を保管する培養器が並べられた実験室です。一般的に、テクニカルスタッフの仕事は、研究者が立てた実験プランに沿って実験を行い、データを出すことです。CiRAのテクニカルスタッフは、iPS細胞の培養、

細胞の解析、時にはマウスを扱った実験を行います。加えて、試薬の調整、実験器具の管理等、実験室の環境維持も担当し、仕事は多岐に渡ります。細胞は培養皿で増殖するのですが、iPS細胞の場合は培養皿に入れている栄養成分を含む液体をほぼ毎日入れ替えなければなりません。毎日細胞を培養していると、その輪郭や雰囲気などから「細胞の顔」が見分けられるようになってくる、と永田さんは言います。永田さんは、大学時代に生物学を専攻し、実験が好きだったのでこの仕事を選びました。「研究は仮説をたてて実験を行うのですが、その過程はパズルを解くような感覚があり面白いです。その頃から実験に関

わる仕事をしたいと思っていました。」過去には、「研究の現場は、研究成果が実際に役に立っている現場から少し遠い感覚があり、実際に人の役に立っているという実感を得にくい」と思った瞬間もあったそうです。今は、浅香研究室のミッションの一つ、iPS細胞をより簡単で安定的に培養する手法の確立を目指して、充実の日 を々過ごしています。「自分達の実験によって確立されたiPS細胞の培養法や保存方法がスタンダードになって、それを基準に世界中で広く実験が行われていくことを想像すると、すごくやりがいがあります。」

?iPS細胞は山中伸弥京都大学教授が2006年に世界で初めて報告しました。その年の関連論文数は1件でしたが、2009年には国際科学誌に127件の論文が掲載されました。それらの論文は米国の研究機関によるものが多いですが、我が国も23件の論文を発表しており、健闘しています。また、2009年、米科学誌ネイチャー・メソッズが、その年最も注目される生物学分野の研究手法に贈られる「メソッド・オブ・ザ・イヤー」にiPS細胞を選出しました。その前年には、米科学誌サ

イエンスで「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー2008」にも選出されています。このようにiPS細胞は世界の科学界で、一つの潮流を形成したといえます。米国国立衛生研究所(NIH)やカリフォルニア州、英国にはiPS細胞の研究費を支援するプログラムがあり、さまざまな国で研究振興が進められています。また、NIHは2010年9月までにiPS細胞センターを設立する計画を発表しました。多くの製薬企業が細胞株や実験動物の代わりに、患者さん自身から作製したiPS細胞を創薬の

初期に活用して効果的に新薬の探索を進めようと関心を寄せています。米国のiPierian社はiPS細胞の創薬応用を基軸とした企業活動で知られています。ライフサイエンスの解析技術の高度化を支えにして、iPS細胞の研究は今後、さらに発展するでしょう。iPS細胞の樹立の秘密が解き明かされる日はそう遠くないかもしれません。

06 京都大学 iPS細胞研究所 07京都大学 iPS細胞研究所2010年4月22日号2010年4月22日号

海外のiPS細胞研究の概況

ランドスケープ

iPS細胞の培養を支えるスペシャリスト

CiRAで働く人々

CiRAには、研究者、技術員、研究員、学生、研究を支援する事務スタッフなどさまざまな人々が働いています。このコラムでは、彼ら、彼女らの仕事を紹介します。第1回目は、浅香勲研究室テクニカルスタッフの永田恵子さんにお話を伺いました。

iPS細胞 何でもQ&AiPS細胞に関して、いろいろな疑問に回答するコーナーです。読者の方々からのご質問をお待ちしています。連絡先はP.8をご覧ください。

iPS細胞とは何ですか?

iPS細胞は、「induced Pluripotent Stem cell」の略称で、日本語では「人工多能性幹細胞」と呼ばれます。「多能性」と言っても聞きなれない言葉ですが、さまざまな性質に変化できる能力のことをこのように呼びます。「幹細胞」は、他の細胞に変化する能力とともに、自分自身を無限に作る能力をあわせもった細胞です。また、iPS細胞は皮膚などの体細胞から作ることができます。つまりiPS細胞とは、皮膚などの「体細胞に人為的な操作を加えて作る、さまざまな性質に変化可能な幹細胞」です。2006年に山中教授の研究グループが、マウスの皮膚細胞に、4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を導入することによりマウスiPS細胞の作製に成功したと、世界で初めて報告しました。

iPS細胞とES細胞の違いは何ですか?

ES細胞は、「Embryonic Stem cell」の略称で、日本語では「胚性幹細胞」と呼ばれます。「胚」とは、少し成長した段階にある受精卵の名称です。ES細胞は、胚盤胞という段階の受精卵に含まれる細胞を取り出して作る幹細胞です。受精卵を材料とすることから、生命倫理の問題にも関わるとして議論の対象になりました。ES細胞は、iPS細胞と同様に、からだ中の全ての細胞に変化できる能力と無限に増殖する能力を備えています。しかし、ES細胞は着床直前の胚から作るのに対して、iPS細胞は皮膚などの体細胞から作られます。つまり、iPS細胞とES細胞は、性質はとても似ていますが、由来や作製方法が異なった「多能性幹細胞」なのです。

iPS細胞研究が進むと、どのようなことが可能になるのでしょうか?

人間のからだは、1個の受精卵が細胞分裂を繰り返してできた約200種類、60兆個の細胞から構成されています。これまで人の細胞を使ってからだの仕組みを研究することは、研究材料の入手が制限されることもあり、簡単ではありませんでした。iPS細胞からさまざまな細胞を作ることができれば、人間のからだができる仕組みの研究を進めやすくなります。また、病気の患者さんの細胞からiPS細胞を作り、体外で病気の性質をもった細胞を作ることができれば、病気が発症する仕組みや病気の原因を調べることができます。さらには、iPS細胞から作った細胞や組織を使ってさまざまな薬剤の反応を調べることで、新しい薬の探索や毒性試験ができると考えられます。そして、すぐにということではありませんが、さらに研究が進めば、病気やケガの治療にiPS細胞から作った細胞を用いて治療する再生医療に利用することも期待されています。

自分の細胞をiPS細胞研究に役立ててもらいたいのですが、どのようにすればいいですか?

現在、京都大学では、研究者が研究に必要と思われる患者さんに、細胞の提供をお願いし、その患者さんの体細胞から樹立したiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)を作製して研究を進めています。多くの方々から、細胞提供のお申し出をいただいておりますが、お申し出いただいたすべての方からご協力をいただいているわけではありません。折角のご厚意に対して大変申し訳ありませんが、どうぞご理解いただきますようお願い申し上げます。

ネイチャー・メソッズ 2010年1月号メソッド・オブ・ザ・イヤー2009特集

永田恵子さん

クリーンベンチ

ヒトiPS細胞(提供:京大 山中伸弥教授)

iPS細胞から分化誘導された神経細胞(提供:京大 高橋和利講師)

CiRAサ イ ラ

Contents[特集]インタビュー 山中伸弥所長・・・・ 1iPS細胞研究所を解剖する・・・・ 2新研究棟を探検する・・・・・・・・・・ 4

ランドスケープ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6CiRAで働く人々 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6iPS細胞 何でもQ&A ・・・・・・・・・・ 7CiRAアップデート ・・・・・・・・・・・・・・ 8iPS細胞研究基金ご支援のお願い 8編集後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Vol.12010年4月22日号

研究所長として抱負をお聞かせください。 世界で初めてiPS細胞研究に特化したこの研究所の使命は、一日も早くiPS細胞を臨床応用につなげ、患者さんの役に立つこと、そして世界最高のiPS細胞研究拠点を形成することだと考えています。そのために、所属するすべての研究グループが心を合わせて一つになって、国内外の研究機関と連携しながら、研究を推進して行きたいと思います。また、国内でiPS細胞を使ったことのない研究者がこの技術を使えるように、技術指導も含めたインフラ整備をすることも私たちの課題の一つです。

新しい研究棟が完成しましたが特徴は何ですか? 従来の大学の実験室は、各研究室毎に実験室が分かれていて閉塞感がありました。この新棟では、横と縦の壁を取り払ったオープンラボを採用しています。これにより、研究に関する情報や成果を共有でき、研究者同士の意見交換も行われ易くなり、効率的に研究が進むことが期待できます。また、同じ建物に動物実験施設や細胞調製施設があるので、基礎から前臨床、臨床研究までシームレスな研究が可能になる構造になっています。

今後、国際協力と連携はどのように進めていきますか? 今までも海外の大学や企業と連携してきたので、これからもしっかり進めたいと思います。ただ、全て協力というわけにはいかないので、日本独自で知的財産もしっかり確保していきます。

研究所になり、患者さんのiPS細胞研究の進展や技術の実用化への期待も高まります。 iPS細胞技術を用いた画期的な治療法の実現に向かって、現在CiRAで約120人の研究者や研究支援スタッフが努力しています。ただ、まだまだ多くの課題があり、いつ頃実現するかは予想できません。早くなる可能性もあるし、予期せぬ問題が出て遅れるかもしれませんが、

大勢の研究者が頑張っていますので、希望を持っています。

iPS細胞研究基金にも多数の方々からご支援をいただいています。 これから日本でどんどん研究を進め、知的財産をしっかり確保していくには、十分な研究費が不可欠です。文部科学省を始め、国からたくさんのご支援をいただいていますが、米国と比べると、まだまだ十分でないというのが現状です。ですから、民間の方々からのご寄附は本当に貴重な資金ですので、有効に活用したいと思います。また、ご寄附をいただくことが、それほど期待していただいているという証でもありますので、それに応えるように頑張りたいと思っています。

CiRAには、中高生からの問い合わせもありますが、科学の面白さとは何でしょうか? 科学、研究というのは、真っ白なキャンバスに絵を描くような作業です。非常に自由で、絵具とキャンバスさえあればできます。iPS細胞もそうでしたが、思いもよらない技術が生まれることもあります。日本のように天然資源の少ない国でも、知的財産という素晴らしい資源をどんどん作り出すことができます。自由に何度でもトライできる仕事であると同時に、その成果が人の役に立つことも多いですので、たくさんの人々に研究者を目指してもらいたいと思います。

「世界最高のiPS細胞研究拠点」を目指して

ニュースレター

京都大学 iPS細胞研究所Center for iPS Cell Research and Application [CiRA]

iPS細胞研究所の初代所長に就任した山中教授が抱負や新棟などについて語りました。P.2-P.5まで研究所特集ですので合わせてお読みください。

iPS細胞研究には、国から多大なご支援をいただいており、教職員一同心より感謝申し上げます。日本発の画期的な技術であるiPS細胞に関する研究を推進し、一日も早い医療応用を実現するためには、優秀な人材の確保と共に、研究所の安定的な運営が必要です。みなさまのご支援をお願い申し上げます。ご寄附のお申し込みは、下記にご連絡をいただくか、ホームページをご覧ください。

iPS細胞研究基金事務局 TEL.(075)366-7000  FAX.(075)366-7023 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53

京都大学ホームページ http://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/forwhat.htmlCiRAホームページ http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/about/fund.html

編 集 後 記

 CiRA(サイラ)が発行する初めてのニュースレターはいかがでしたか?インターネットから情報を得るより紙媒体が好きという方々もおられるのではないかと思い、一般の方々を対象として企画しました。 今後は3カ月に1回のペースで発行します。ご意見、ご感想をお聞かせいただければ幸いです。

iPS細胞研究基金へのご支援のお願い

発 行

2010年4月22日発行 第1号発行・編集 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)  〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53 TEL.(075)366-7005 FAX.(075)366-7024 Eメール cira-pr@cira.kyoto-u.ac.jp http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/

Printed in Japan本誌の記事・写真・イラストの転載を禁じます

山中伸弥所長インタビュー

©

2010/4/1新たに主任研究者1名、客員教授 1名が加わりました。木村貴文前大阪府赤十字血液センター研究部副部長が規制科学部門の主任研究者として教授に着任し、細胞調製施設長に任命されました。また、鳥居隆三滋賀医科大学教授が客員教授に就任しました。

2010/3/12 日本学士院が山中所長に恩賜賞・日本学士院賞を贈ると発表しました。この賞は、学術上特に優れた論文、著者その他の研究業績に対して贈られます。授賞理由は、iPS細胞の作製に成功し、再生医療のみでなく、今後の医学の発展に大きく貢献したことが評価されました。

2010/3/5 iPS細胞研究所の設立決定に関する記者会見が開催されました。

松本紘総長や山中所長らが記者やカメラマンら、約30名に研究所について説明しました。

2010/3/1堀田秋津前オンタリオ・ヒトiPS細胞研究所研究員が、CiRAの特定拠点助教に就任しました。初期化機構研究部門の主任研究者として、安全なiPS細胞の選別法の開発などを目指した研究を行います。

2010/1/26英国エジンバラ大学医学研究評議会(MRC)再生医療センター(CRM)

のイアン・ウィルマット教授らが京大を訪れ、山中教授らと情報交換を行いました。ウィルマット教授らのグループは、世界で初めてクローン羊を誕生させることに成功し、1997年に報告しました。

2010/1/26CiRAホームページの動画コーナーに、昨年10月17日に開催した一般の方対象シンポジウム「iPS細胞のいま-その可能性と研究活動」の講演ビデオと質疑応答の要約テキストを掲載しました。

CiRAアップデ-ト

山中伸弥所長

CiRAホームページ

会見に出席する松本紘総長(左)と山中伸弥所長

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